バンコールで検索していて下記の論説にヒットした。

ケインズの忘れられた貿易機関構想」 ルモンド国際版の記事でスーザン・ジョージという人が書いている。この人の肩書きはトランスナショナル研究所(アムステルダム)理事長となっている。

この論文は、通貨問題を世界貿易のあり方と結び付けて論じているところに特徴がある。そしてケインズの思いを新しい国際経済秩序の創造ととらえて、その視点から評価しようとしている。ここが日本のエコノミストには見られない姿勢である。

少し論立てを追ってみる。

①ケインズは、1940年代はじめに世界貿易のルールを全面的に作り替える構想を打ち出していた。

②そのために提唱したのが国際貿易機関(ITO)の創設である。

③さらにITOをささえる国際中央銀行として国際清算同盟(ICU)を設ける。

④そしてICUの管理の下に国際貿易の決済通貨となる 「バンコール」を発行する。

スーザン・ジョージはこのようにケインズの計画の全体像を整理する。そして「多少の修正は必要にしても、基本的な部分は今でも十分通用する」との判断を下している。

ついで著者はこの構想にかけたケインズの「思い」に踏み込んでいく。

①戦争勃発の原因は、他の国を出し抜こうとする諸国の貿易政策であり、それによって引き起こされた市場の争奪戦だった。

②いかなる国であっても、市場を独占して膨大な貿易黒字を累積させる行為は許されない。

そしてそのための保障として国際清算同盟(ICU)の仕組みを考えた。だからICUは「理想」を持つ国際機関なのである。ここがIMFとの根本的な違いである。

①ICUは諸国の中央銀行にとっての中央銀行である。三菱UFJやリソナにとって日銀が中央銀行であるように、日銀や連銀にとってICUは中央銀行なのである。

②ICUは各国に当座貸越枠を設定する。ICUの発行する「バンコール」は輸出によって増え、輸入によって減る。

ここまでは中銀対市中銀行の関係と同じだ。ここからが違う。

③各国の当座貸越枠はプラスマイナスがゼロに近い状態になることが目標とされる。一方的な貿易不均衡は争いの元となるからである。

④限度額を超えた場合、超えた分に対して利子を支払わなければならない。すなわち過大な貿易黒字もペナルティーの対象となるのである。

⑤逆に赤字国は平価の切り下げを求められ、輸出品の価格を下げることを義務づけられることとなっている。(しかしこれは変動相場制の下ですでに実施されている)

スーザン・ジョージは、「もしこれが実現されていれば、国際貿易は拡大し、労働者の生活も保障され、より多 くの富がより公平に分配され、国際関係はより平和になり、途上国の発展に向けられる資金も増えていたはずだ」と述べている。

しかし、いまの私にはその結論を素直に飲み込めるほどの素養はない。むしろ「他の国を出し抜こうとする諸国の貿易政策や、それによって引き起こされた市場の争奪戦」という状況がいまだに続いている限り、金融政策だけいじってみても無力ではないか、という思いが強い。

世界貿易のルールを全面的に作り替え、平等・互恵の貿易を保障する国際貿易機関(ITO)を創設する課題が先行し、その制度的保障として基軸通貨問題が浮かび上がってくるという関係なのではないか。

おりしもTPP問題が緊急課題として浮かび上がってきていることもあり、ICUやバンコールよりは、「国際貿易機関」(ITO)の歴史的再評価を行うほうが重要と思われる。(ハバナ宣言というのがあるようでこれから探してみる)