09年の3月に中国の周小川人民銀行総裁が発表した「国際通貨体制改革に関する考察」という論文は、中国の経済進出の突出を印象付けるものとして注目されたが、その主要な論点である「SDR基軸通貨」構想にも関心が寄せられている。

周総裁はまず提案の理由を以下のように説明する。

「特定の国の通貨(ドルのこと)が準備通貨として使われる場合、それを発行する国(アメリカのこと)は常に自国の利益を優先させ、その政策により世界経済が不安定化する恐れがある」

つまり、ドルを機軸とする現行のIMFシステムは、アメリカの一国支配のシステムであるから、変更しなくてはならないということである。

主権国家の枠を超えた準備通貨の創出を提案している。具体的に、ドルの代わりに、IMFのSDRを準備通貨にすべきだと主張。

そして以下の項目を提案する

①IMFが構成国の外貨準備(の一部)をSDR建てにして集中管理する

②SDRとその他の通貨との(ドルを介さない)決済の枠組みを確立する。

③SDRの機能を政府間の決済機能に留まらず、国際貿易や金融取引に広げる。

④SDRの価値決定を通貨バスケット方式で決め、その構成通貨に新興国の通貨も加える。

これだけの手立てを踏めば、SDRという抽象的な概念がドルと同じような通貨としての機能を持つようになるというのである。

そもそもSDRという概念が理解できないと、この話はちんぷんかんぷんだが、とりあえず簡単な用語解説を載せておく。


SDR(特別引出し権)とは http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/090430world.htm

SDRとは、加盟国の既存の準備資産を補完するために1969年にIMFが創設した国際準備資産であり、IMFのクォータ(出資金)に 比例して加盟国に配分される。SDRはIMFや一部の国際機関における計算単位として使われており、その価値は主要な国際通貨のバスケット(加重平均)に 基づいて決められる。バスケットの構成は、世界の貿易及び金融取引における各通貨の相対的重要性を反映させるよう、5年ごとに見直されるが、2006年以 降、各構成通貨のウェイトは、ドルが44%、ユーロが34%、円とポンドがそれぞれ11%となっている。


70年のニクソンショックの後は、このSDRがドルに代わる国際通貨になるのではないかともてはやされたが、その後トンと噂を聞かなかった。とどのつまり金の裏づけのなくなったドルが相変わらず国際基軸通貨として大手を振っているのが現状だ。最初に聞いたときは「何をいまさら…」という感じがぬぐえなかった。売れ残った商品を倉庫の奥から引っ張り出して、厚化粧を施してもたぶん売れないだろうと思う。

第一に、SDRは拠出金方式だから拠出できない国には無縁の衆生である。中国が世界の金融システムに割り込むためのトゥールとしては便利かもしれないが。

第二に、IMFそのものが賞味期限が切れかかっている。97年の世界金融危機以来、途上国は短期資金の導入にはきわめて慎重になっている。そしてIMFは先進国の債権保障機関でしかないと見通している。

第三に、信用創出機能がない調整機関では、金融危機には根本的に対処できない、というIMF(世銀もふくめて)の抱える本質的な問題がある。SDRが貨幣であるためには、量的調整や長期信用とのスワップをふくむ発行権の独占が必要である。それが出来ない限りは補助貨幣の位置づけに留まらざるを得ない。


かつて、中国外交の軌跡を辿ったときに感じたのは、中国の国際路線は多極化論と多国間主義のあいだを揺れ動いているということである。90年代まではソ連崩壊後の一極構造から多極化へということで、みずからもその極のひとつとなることを目指した。これが江沢民時代になって、進歩と発展の陣営の一員として集団的に行動する方向を打ち出した。そして非同盟運動の打ち出した多国間主義にかなり接近した。

しかし湖錦湯時代になって明らかに多極化論への回帰が強まっている。そして経済発展を背景に大国の一つとしてのプレゼンスを増し、それを国際社会にも求めている。とくにリーマンショック以降はその傾向が顕著になった印象がある。

09年7月の在外使節会議(大使会議)での胡主席の演説が、この転換を規定している(10月13日付記事とされるが、この周総裁の発言もそういう流れで読むべきかもしれない。