バフェット発言について勉強すると書いたが、その結果を以下に記しておく。

バフェットの発言というのは、そもそも「ニューヨーク・タイムズ」紙への寄稿であり、それは8月15日の紙上に掲載されている。

題名は Stop Coddling the Rich  (金持ちを甘やかすのはやめろ)

各紙の報道を総合すると、バフェットは以下のように語っている。


 

私や私の友人は、億万長者に優しい議会によって、もう十分に甘やかされてきた。貧困層と中間層がアフガニスタンで我々のために戦い、大半の米国人がやりくりに苦しんでいるというのに、われわれ超富裕層には桁外れの税優遇が続けられている。

政治家たちは『痛みを分かち合うこと』を求めてきた。だが、そのなかに私は含まれていなかった。大富豪の友人らにも「どの程度の痛みを覚悟しているのか」と聞いてみたが、分かったのは、彼らも対象外だということだ。

わたし自身が昨年支払った所得税、給与税などの連邦税は693万8744ドルである。額だけなら高額に聞こえるかもしれないが、所得との比率で言えば課税所得の17.4%にすぎない。いっぽう、わたしの職場にいるスタッフ20人の税率は33~41%だ。平均で36%にも達する。私の税金は一番低い。

金持ちの中には、私よりもっと税率が低い人もいる。ある投資マネジャーは、何十億ドルも所得があるのに、その15%しか税金を払っていない。1992年には、トップ400人の高額所得者がIRSに対し、支払う税金の比率は、29.2%だった。2008年時、この比率は、21.5%まで落ち込んでしまっている。その一方で、中間層には最大25%の所得税が課されている。

収入に対する定率性が復活されなければならない。人口の99.7%は100万ドル以下の収入の人々である。その課税率は現状維持とすべきだ。その一方で、配当やキャピタルゲインなどで100万ドルを超える課税所得者24万人については、直ちに増税をすべきだ。さらに年収1000万ドルを超える8千人には、より高い税率を適用すべきだ。

増税が投資や雇用創出に影響することはない。富裕層に重税を課すと、投資意欲を削ぎ雇用にマイナスに働くと叫ぶ人がいる。しかしそれは嘘だ。20世紀末の20年間、私に対する課税率は、もっとずっと高かった。1976年にはキャピタルゲイン税率は39.9%だった。それでも4千万件の雇用が創出されている。

しかし富裕層減税の導入後には、雇用創出数は減少している。人々が投資するのはお金を増やすためだった。投資熱は、増税があるかもしれないというだけで冷え込むことはなかった。私や私の周囲の投資家は、意味のある投資に着手することをやめたことなどない。

議会は経済危機に対処する能力を持っているのか、米国人は議会に疑問を抱き、信頼を失いつつある。政治家は今こそ、犠牲の分かち合いについて真剣に考える時だ。

いま非常に多くの国民がほんとうに苦しんでいる。迅速かつ現実的で実のある内容を伴った行動が必要だ。そういうときなら、なおさら、富裕層の多くも増税をいとわないだろう。そうではないか。


ウォーレン・バフェットは今年80歳。いまも投資持株会社「バークシャー・ハサウェイ」(Berkshire Hathaway)最高経営責任者の地位にある。フォーブスによる世界長者番付で3位に入る大富豪である。

いっぽうでネブラスカ州オマハに住んでいることから、「オマハの賢人」とも称され、神託(Oracle)とも称される独特の発言によりカリスマ的人気を博している。日本でもほとんど信者と呼べるほどの熱狂的な支持者が大勢いる。たしかにスターウォーズのヨーダの風貌に似ていなくもない。

ロイターによれば、バフェットが富裕層への増税を訴えかけるのは今回が初めてではない。昨年11月にもABCニュースのインタビューで、高額所得者は「相当多く」の税金を負担する義務があると語っていた。そういう意味では新味はない。

したがって語った中身が問題ではなく、そのタイミングが問題なのだという。米連邦債務上限の引き上げなどで米国の財政問題に関心が集まっており、2012年の米大統領選挙でも財政問題や税制が大きな争点になるとみられていることが、この発言の意義だととらえる。

連邦債務上限引き上げ問題は民主、共和党双方の議員を巻き込んだ泥沼の攻防を招いた。8月2日の期限直前で債務不履行は回避されたが、議会への国民の信頼は大きく揺らいだ。

オバマ政権は財政難打開のため、ブッシュ前政権が導入した富裕層減税措置の停止を求めているが、共和党は財政赤字削減は歳出の削減を通じて行うべきだと主張し、富裕層減税を頑なに拒否している。

このロイターの記事のニュアンスは、バフェットの発言を時局がらみのエピソードとして描き出すことにより、その衝撃をできるだけ軽く見せたいという心理が働いているように思える。

 


さすがに日経はフォローした。バフェットの発言は無視できないからだろう。朝日、読売、毎日はロイター電を一度載せただけでおしまい。産経は記事をネットから削除した。一体改革を推進するのには都合が悪いと考えたのだろう。

長者番付3位バフェット氏「甘えた富裕層に増税」(産経新聞) - goo ニュース という9月6日付のニュースが閲覧不能になっている。未だ10日も経っていないから、抹消されたようだ。

ということで、「バフェット増税発言の波紋」(NY特急便) と題された藤田和明記者(米州総局編集委員)の署名記事が8月25日付で報道された。以下に紹介する。

米国内ではバフェットへの反論が噴出している。

アメリカン・エキスプレスの元経営トップは「既に毎年2兆ドル強集めている税金をまず賢く使 うべきだ」と主張した。「俺は出すつもりはないよ」ということだろう。一部にはバフェットを偽善者扱いする論調もある。「俺は慈善もしないが偽善もしないよ」との開き直りだ。「連邦政府への寄付制度があるのだから、難しいこと言わないでそうしたら」と忠告する向きもある。

ということで藤田記者の取材の範囲ではあまり好意的な意見はなさそうだ。これでは実も蓋もないと見たのか、藤田記者は「フランスでは、産業界の16人が連名で富裕層への一時課税を提案。財政赤字の削減へ貢献する意思を表明した」と付け加える。

これが「波紋」のすべてだ。藤田記者はバフェットに好意的なポジションはとっているが、その発言は軽い。

「バフェット発言は、自分たち富裕者の責任表明と同時に、税金を使うワシントンの政治家にも覚悟を求める意味で、重い問いかけとなっている」

こんな紋切り型の結論では、まったく発言の「重さ」が伝わらない。


過去20年の特別減税で、富裕層の税率は低下し続けてきた。 NYタイムズによれば、米国人トップ400人の税率は29.2%が21.5%へと低下した。いっぽう課税所得は169億ドルから909億ドルに急増している。しかも88人は労務所得がない。つまりなんにも働いていないのである。

ウォール・ストリート・ジャーナル(8月19日)には肥田美佐子さんがかなり長い文章を載せている。日本語で読める文章としては最も詳しく背景を説明している。そこには恐るべき数字が連打されている。

 

 政府債務上限引き上げ問題では共和党が増税阻止を死守した。その直後の8月2日、ムーディーズは米国債格付けに際して「金持ち減税」をマイナス材料と判断。減税継続なら格下げ判断の基準のひとつにすると警告した。

とにかく米国の「格差大国」度に拍車がかかっていることは確かである。米国トップ0.1%の超富裕層が約46兆ドルの富を抱えている。これだけでも驚嘆する額だが、一説ではこの富が2020年までにさらに225%アップし、87.11兆ドルに達すると言われている。オフショア資金のほ うは、今後10年間で100兆ドルを超える見込みだ。

ちなみにこの調査結果では、日本の富裕層が米国に続いており、現在、10兆ドルの資産は 2020年までに約19兆ドルに膨らむものと予想される。

経済誌『フォーブス』によると、米国の富豪トップ400人は、15年前に年収の30%を納税していたが、今では平均18%にダウンしている。主な理由は、03年のブッシュ減税導入によるものだ。長期キャピタルゲイ ン税率が20%から15%に、配当税率が35%から15%にカットされた。

1955年に連邦政府の歳入の27%以上を占めていた法人税は、昨年には9%以下に激減した。米会計検査院(GAO)によれば、米企業の3分の2が、1998年から2005年にかけて連邦所得税を納めていない。タックスヘイブンへの資本移転 や生産拠点の海外への移動などのせいである。

 翻って、米国の中流層や低所得層の苦境ぶりは鮮明だ。米民間世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが7月26日に発表した調査結果では、米国の全世帯 の2割に当たる約6200万人が、資産ゼロか負債を抱えている。

米誌『ワークフォース』によれば、伸び悩む年収と物価高を乗り切るために「必要な物しか買わなくなった」米国人が70.5%、食費を抑える人も42%という高率に達している。

フードスタンプ(低所得者層向けの食料配給券)受給者は全米で約4580万人。これは今年5月の数字だが、前年同月比で 12.1%増となっている。6年前には2570万人だったから、2倍近くに増えたことになる。貧困化が急ピッチで進んでいることが分かる。

ニューヨーク州では、約302万人が、政府の援助なしには食事にも事欠く状況だ。8月2日に成立した財政赤字削減策の下で社会保障費がカットされる と、貧困率(09年時点で14.3%)が倍になるという調査結果も出ている。


下記のページにドイツの資産家の増税を求める動きが記録されている。2011年8月24日にドイツにて放映されたテレビ番組を起こしたものである。

Maskenfall ★Real Democracy Now★

ただし数字には信頼性が欠ける。