投機資本による金融市場の撹乱が、バブルを招きリーマン・ショックを招いた。深刻な反省が生まれているが、商業銀行の自己勘定取引が額から言っても大きい、これに次いで投資銀行(日本で言う証券会社)、さらに取引保険をあつかうヘッジファンドと並べて議論していかなければならないということが分かった。

90年代の末にソロス対イングランド銀行の仕手戦、さらにアジアやロシアの金融危機とヘッジファンドの「活躍」が大々的に報道されたが、今世紀に入ってからは本家の金融機関そのものがマネーゲームの主役となっている感がある。

しかしヘッジファンドそのものが斜陽化したわけではなく、その影響力も依然として強大なままである。とくに08年の大規模な信用収縮においてヘッジファンドの動きは深刻な影響を与えた。

このことから、ヘッジファンドの規制の動きが急速に高まっている。今回は下記の論文を勉強したので、その摘要を紹介する。


ヘッジファンド規制強化

岩谷 賢伸 (野村資本市場研究所副主任研究員)

この論文はリーマンショック後のヘッジファンド規制の動きをレビューしながら、そのなかで最終・最強(09年央現在で)の規制案である、欧州委員会のヘッジファンド規制案に焦点を当てている。このプランは正式には「オルタナティブ投資ファンド運用者指令(案)」(Directive on Alternative Investment Fund Managers (AIFM))と呼ばれるようである。


概 要

これまでは銀行などの規制・監督を通して間接的にヘッジファンドを規制する方法が主流であった。

しかしグローバル金融危機の勃発により、間接規制では金融システムの安定性を担保できないことが明らかになった。

このため、ファンド運用者又はヘッジファンド自体の直接規制を強化する方向が打ち出されている。

直接規制の方式

サミットをはじめ、各国・地域の金融規制当局や国際機関から提言や規制案が発表されている。

主要国の間の合意事項として、①登録の義務付け、②レバレッジなどの情報開示が固まりつつある。

特に欧州主要国では、自己資本、流動性、リスクマネジメントの三つの指標で健全性を監督する流れにある。

主な規制案

08年1月

ッジファンド作業G(業界団体)

ヘッジファンド規定・最終報告

09年1月

大統領作業部会

ヘッジファンド企業の最善形態

09年2月

州委員会高官G

De Larosiere Report

09年3月

財務省

システム・リスク対応の規制枠組み

09年4月

20 ロンドン・サミット

金融システム強化宣言

09年6月

券監督者国際機構(IOSCO)

ヘッジファンドの規制最終報告

規制強化の背景

グローバル金融危機を引き起こした主犯はヘッジファンドではない。金融機関の破綻が主因であり、ヘッジファンドはその「被害者」である。

にもかかわらず、ヘッジファンド規制の強化が必要な理由は、

①ヘッジファンドが金融危機を促進した。流動性不足に陥ったヘッジファンドは急速なポジション清算をおこない、信用収縮を促進した。

②ヘッジファンドはそもそも潜在的にシステミック・リスクを増幅し得る特性を備えている。

その特性とは①取引が不透明であること、②レバレッジ比率が高いこと、③銀行など顧客との間の利益相反が生じることなどである。

各プランの説明

大統領作業部会(30人委員会)報告

議長がボルカー元FRB議長、メンバーにはガイトナー財務長官、サマーズ元財務長官がくわわる。

ヘッジファンド規制については、

①ヘッジファンドやPEファンドの登録制と、規制当局に対する定期的な報告義務。

②影響力が大きいファンドについては、自己資本、流動性、リスクマネジメントの基準を設ける。

③ファンド規制のフレームワークに国際的一貫性を持たせる


財務省の「システミック・リスクへの対応」に関する規制フレームワーク案

①システム上重要な金融機関に対する資本・リスクマネジメント基準の高度化

②デリバティブ市場に対する監督・保護・開示の包括的フレームワークの構築

③全てのヘッジファンド(PEファンドなどの私募資本プールを含む)に対する登録制の導入

④システミック・リスク・レギュレーター(システミック・リスクの規制・監督機関)の設置。その後米国連邦準備制度理事会(FRB)が受け皿となることが決まった。

⑤全ての投資ファンドに対して、投資家、債権者、カウンターパーティー、規制当局への情報開示義務を課すことも検討されている。


 欧州委員会によるド・ラロジェール・レポート

社会一般向け業務を行っているかどうかは関係なく、ヘッジファンド業務を銀行類似業務の一つと位置づけ、規制の抜け穴を埋める。

システミック・リスクの高いものについては、金融市場の透明性を高めるための規制・監督を強化する。具体的には登録制と情報開示の強化。

また、ヘッジファンドを所有する銀行、自己売買業務(ディーリング業務)を行う銀行に対する自己資本規制の強化。


IOSCOのファイナル・レポート

ヘッジファンド又はその運用者に加えて、ブローカーや資金供出者へも登録制を課す方針をうちだす。

規制当局がヘッジファンドに提出を求める情報例や、事業継続の要件例を提示する。

①キー・パーソンのバックグラウンド、組織形態、オーナーシップ 

②第三者評価の上での運用資産残高と自己資本 顧客資産の分離と保護

③ターゲットとする投資家と提供するサービス

④使用するリスク管理ツール、利益相反の管理と開示 など11項目に及ぶ


ここからが本番

 欧州委員会のヘッジファンド規制強化指令案

規制の対象

運用資産額が1億ユーロ未満の小規模な運用者は、金融システムの安定性を脅かす可能性が低いことと、高い規制コストに比して得られるベネフィットが小さいことから、規制の対象外とされた。

この結果、EU域内で活動する約30%のヘッジファンドが規制の対象となり、運用資産総額ベースでは90%がカバーされる。

情報開示

個々のファンドについて年次報告書を作成し、投資家と監督当局が縦覧できるようにする。投資家に対しては、投資対象資産、レバレッジの活用、解約に関する方針、フィー体系などを開示しなければならない。

特定の業者への追加規制

高いレバレッジをかけたファンドを運用する業者は、投資家に対して活用する可能性のあるレバレッジの最大レベルと実際に活用しているレバレッジの程度などを開示しなければならない。また、大口の借入先の身元を報告しなければならない。

欧州委員会にはレバレッジに制限を定める権限が付与される。

登録制から認可制へ

認可制の導入は、ヘッジファンドの登録制から一歩踏み込んだものである。フランスやドイツの意向がより強く反映されたといえる。

一方、ヘッジファンドやPEファンドの業界団体は、指令が施行されると多くのAIFMがEU域内からより規制の緩い地域に拠点を移し、EUの競争力が削がれるという懸念も表明されている。


ここからは全体の結論

ヘッジファンド規制の行方

グローバル金融危機を経て、世界のヘッジファンド規制のトレンドは、間接規制中心から間接規制と直接規制の併用へと移った。

また、金融システム上重要なヘッジファンドについては、登録を義務付け、システミック・リスクに関連するレバレッジなどの情報を開示・報告させることが主要国の間の合意事項となった。

加えて、特に欧州では、金融システム上重要なヘッジファンドに対し、自己資本規制、流動性規制、リスクマネジメント規制といった健全性に関する規制を強化しようという流れが固まりつつある。