Malena Burke という歌手がいる。キューバ人歌手だった。現在はキューバ系アメリカ人歌手というべきか。
素晴らしい声の持ち主である。とくに低音の響きがすごい。母親がエレナ・ブルケ。この人は黒人系の強い混血だった。これは実物を見ているから間違いない。マレナも母親とのデュエットの画像を見ると黒人の混じった容貌だ。深みのある低音は白人には出ない声質だろう。
歌は母親よりはるかにうまい。母親はドスを利かせた歌い方が売りの人で、テンポもけっこう美空ひばり並みに崩して歌う人だった。「センティミエントの女王」と言えば聞こえはよいが、センティミエントしか歌えない人だったかもしれない。率直に言ってオマーラ・ポルトゥオンドよりは一段格下の歌手である。95年にグルポ・ライソンと来たときはまったくさえなかったが、帰って間もなく亡くなった。
マレーナはディーバである。2千人入るコンサートホールで隅々まで歌声を響き渡らせ、聴衆を感動させる力を持っている。歌唱にも微塵の狂いもない。
それはベネズエラのテレビ局の録画が見事に示している。これは面白い録画で2000年のミスベネズエラ・コンテストのエギジビションの模様らしい。観客のほとんどが十代の白人姉ちゃんばかりというのも異様である。(余談だが、10年余り前に病院でサルサ教室を開いたときの講師はベネズエラ人、ミスコンに出れば入賞間違いなしという美人だった。しかしミスではなかった。手を合わせるだけで胸が痛いほどに高鳴ったが、懐にも痛かった)
マレーナはマイアミに亡命したあとマイケル・ジャクソン並みの美容整形をやったらしく、鼻筋が異様にすっきりしている。ライザミネリ張りのバリバリ化粧で登場するが、歌のほうはライザミネリも真っ青のできばえである。容貌・スタイルは比較以前の問題だが、こちらは画面は消して聴くだけだからどうでもよい。
YOUTUBEで聴けるのは次の三つ。

Opening Miss Venezuela 2000.

De Ti Depende

Yo Soy

この動画をアップしてくれた人は、なかなかのマレーナ・フリークらしく、母エレナとのデュエットなど貴重な映像も含まれている。この絵では、エレナがテンポを崩して歌うのに少々もてあまし気味のマレナも映されていてほほえましい。
ほかにもYOUTUBEにはいくつかの映像がある。「絵」的に面白いのはワイドニュースに刺身のツマ的に出て来て、最初はおざなりに聞いていたキャスターが途中から表情が変わっていくのが見ものの1本。
当たり前だろう、世が世なればキューバを代表する最高の歌手なので、ワイドショーの時間つなぎに使うような玉じゃないぞ、と叫びたくなる。
しかしYOUTUBEで見る限りは、テレビでは色物扱い、ライブではフィーリン歌いとして枠嵌めされてしまっているようだ。資本主義の世界の独特の厳しさだろう。これでセリア・クルスのように反共・反カストロの旗でも振ればもうちょっとしっかりした仕事が回ってくるのだろうが。
ライブスポットでの隠し撮り的映像がいくつかアップされている。そのなかに、母エレナの絶唱とも言うべき「ノスタルヒア」のカバーがある。正直がっかりだ。
この曲はもともとアルゼンチンタンゴの定番曲だ。エレナはCDでこの曲を、彼女としては珍しいほど「端正」に歌いきっている。
しかしエレナよりはるかに「端正」なはずのマレーナがこの曲をド演歌にしてしまった。マイアミという町がそうさせてしまったのだろうと思うが、こちらとしてはかなり複雑な思いである。
80年代にアメリカに渡ったミルトン・ナシメントも、ジャヴァンもずたずたになって故国へと戻っていった。マレナの素質が摘み取られないように祈るばかりだ。(余談だが、30年代にハリウッドに行ったガルデルは、そこで彼の最高の仕事を成し遂げた。その頃のアメリカはよかったのだ)