ラテンアメリカの転換の年となった2002年、ブラジルでどういうことが起きたかを振り返ってみたい。

この頃ベネズエラではチャベス政権打倒の運動が激しさを増していた。アルゼンチンではキルチネルが債権者を相手に丁丁発止のチャンバラを演じていた。

アメリカではブッシュがアフガンを襲い、さらにイラクに侵攻すべくキャンペーンを繰り広げていた。それらを念頭に置きながら見ていただきたい。

9月の大統領選挙を控え、革新候補として労働党のルーラが出馬した。前回も惜敗だったが、今度は序盤から圧倒的な優勢。6月の世論調査ではルーラの勝利はゆるぎないものとなったかのように見えた。

7月に入ってから海外資金の流出が急加速した。この結果、通貨レアルが2割近く急落し1ドル=3レアルの壁を越えた。官民あわせ2千億ドルの対外債務はその分ふくらむ。ふくらめば国債格付けは下がる。借り入れ金利は30%に達した.

素人計算だが、5年借りると1万円が3.7万円になる。しかもレアルは2割下がっているから、ブラジルの返済額はレアル換算で4万6千円となる計算だ。サラ金でもこれだけえげつない貸し出しはしないだろう。

8月、IMFは融資要請を受諾。その条件として従来の経済政策の維持を要求.カルドーゾ大統領がルーラに経済政策の維持を迫る.ルーラは基本的に要請を受諾する.

アルゼンチンのときも本当に腹が立ったのだが、IMFの融資というのは金利の支払い分だけだ。つまり支払猶予だ。払わなくてもいいとは言っていない。自分の腹はまったく痛んでいないのだ。それどころか、貸した金はとうの昔に取り返している。

同月末の世論調査では、ルーラ候補の支持率が下降。中道左派のシロ・ゴメス候補(労働者戦線党)とほぼ同率で並ぶ。

これら一連の経過は、すべてアメリカのやらせと見れば、つじつまがあう。しかしこれだけえげつないマッチ・ポンプ作戦を行えば、結局は自分の首を絞めることになる。それがこの10年の動きで実証されている。

ルーラは結局勝利した。カルドーゾ大統領は自党の候補の敗北を代償にして、ブラジルの国家の尊厳と民主主義を守り抜いたことになる。

カルドーゾは01年9.11のあと、以下のように語っている。骨のある政治家である。

我々は世界決定を管理する機構に関して未だ規則を決めていない.しかしそこでは,恐怖に頼らず,非対称でなく、平等かつ貧困の少ない,世界の誰もが望むグローバルな秩序を実現しなければならない.
いっぽうでは,文化、経済、技術、軍事に関して傑出した国が存在し、何かと注意を促し、従わない場合は更に強力なG7に持ち出し、自説を全世界の世論のように強要する。一国のみが世界に命令するのは避けるべきである.野蛮なのは卑怯なテロリストばかりでなく、地球規模で一方的な不寛容を課す側にもある。
一方的に言い分を押し付け、是非を強制するのは交渉ではない。富裕国の利害を先に決定した後で、我々に必要な事項を伝えるのではなく、同時に双方の言い分を聞き交渉することが必要である.