2月頃に書いた文章です。とりあえず載せておきます。

事務局からチュニジア・エジプト・リビアの情勢を書けといわれましたが、私には分かりません。チュニジアは海外旅行通の穴場的存在となっており、会員の中にはチュニジアで暮らした方もおられるので、下手に触れると怒られそうです。

とりあえずネットで情報を漁って見ました。 とりあえず分かったいくつかのこと。

1.なぜチュニジアだったのか?

リビアからモロッコに至るアフリカ大陸北岸、地中海沿いの諸国はマグレブと呼ばれます。歴史的にヨーロッパ諸国の植民地支配を受け、独立を勝ち取った今も深い影響下にあります。なかでもチュニジアはヨーロッパ資本を積極的に受け入れ、マグレブの優等生と呼ばれてきました。

なぜその優等生のチュニジアで革命が起きたのか、それは優等生だったからこそ起きたと考えられます。 チュニジアにしがらみを持たない私のような人間にとっては、今度の革命はきわめて分かりやすい革命です。

外資依存の経済開発を進めてゆけば、GDPは増加しても一般国民の窮乏化は進み、対外債務は増え続けます。輸出型産業だけが特権を謳歌し、それに群がる利権集団が政治を牛耳ることになります。

20世紀初頭のメキシコ革命から87年の韓国民主化運動、その他もろもろの革命はすべてこのパターンです。

2.なぜ民衆革命だったのか

アラブを知る人にとって、これまでの政治闘争の枠組みはアラブ民族主義かイスラム主義でした。今回の民衆革命はその目標とする価値観がまったく異なっています。

経済的不平等に対する怒りと、人間が人間らしく生き、働く権利をもとめる要求がその基礎となっています。これらは一言で言って民主主義の要求です。

考えてみると、これまでアラブ世界で民主主義という概念がどうして成立しなかったのか不思議なことです。「異なる文明」論で済ますわけにはいかない検討課題です。

それが今回の革命によって、民主主義の価値の全世界における共通性が証明されたのだろうと思います。

3.なぜ国民革命だったのか?

前の項の発展形になりますが、今回の革命はチュニジア国民が一体となって闘われた点に大きな特徴があります。宗派もなく人種や部族もありません。逆に言えばアラブの大義もイスラムの原理もありません。

民族国家としてのチュニジアという枠組みが統一の基礎となっています。 これは政府の権威が強大化し、その統制の下に国民統合が遂行されたことの裏返しです。そうなると政府も国民の支持がなければ維持することが不可能になります。

国民統合が完成しているチュニジアやエジプトでは、基本的には流血を見ることなく革命が成功しました。これに対し、イエーメンやリビアで難航しているのは国民統合の水準がまだ低いためではないでしょうか。

4、アラブ民族主義とイスラム主義の行方

これらの国はかつてアラブ民族主義の旗頭でした。独立闘争の流れを汲む支配政党は、欧州列強の支配に反対しアラブ民族の結束を訴えました。それは同時にイスラムによる宗派支配の否定と国家の近代化、富国強兵主義でした。

それまでの伝統社会は近代化という名の収奪強化と労働力の流動化による社会の崩壊に直面し、昔ながらの価値観であるイスラムの教えを盾に抵抗しました。

この流れが決定的に転換したのは第三次中東戦争の惨敗、アラブ民族主義の旗頭であったエジプトのナセル大統領の死、そして1980年のキャンプ・デービッド会談におけるエジプトとイスラエルの「和解」でした。

国と民族を守るためだったはずの「富国強兵策」が、大量に流れ込む外資の中で権力者の致富の手段に変わり、その外資がやがて債務となって首を締め上げるようになります。

かつての愛国者たちは国民の犠牲を省みることのない「売国者」へと変質していくのです。 そのために強圧的な手段がとられるようになり、民主主義的な制度は骨抜きにされ、共産党などの革新政党は非合法化され、労働運動も抑圧されました。シュタージ(秘密警察)国家への変質です。

一時、アラブ民族主義に代わるものとしてイスラム主義が注目されましたが、イランの原理主義政府の抱える矛盾を見ても、その先に未来が期待できないことは明らかです。チュニジアでの新しい変革の波が、民族主義の伝統を踏まえながらどのような形に発展していくのか、これからが注目されます。

蛇足: 「チュニジアの夜」は、youtubeの 「Art Blakey & the Jazz Messengers - A Night in Tunisia」 がお勧めです。URLは http://www.youtube.com/watch?v=FHKyVJ5YfNU&playnext=1&list=PL5E2BF0D93DB4A4B0 です。騒々しいのがお嫌いに人には「Jim Brock - A Night In Tunisia」がよろしいかと思います。URLは http://www.youtube.com/watch?v=MlUTRhNBD4w です。