電機メーカー8社の決算は、日本企業のアジアシフト、新興国シフトが怒涛の勢いで進んでいることをはっきりと示している。たとえば日立が営業利益を前期比2.2倍というとんでもない数字をたたき出した。主要な要因は「資材費低減」であり、ブラジル、インド、ベトナムなどからの資材調達の強化である。次年度には50%にまで増加させるという。
それ自体は結構なことであるが、海外調達が諸刃の刃であることも踏まえておかなければならない。長期的には企業の裾野を狭め、技術水準の低下につながる可能性があるからだ。
パナソニックはもっと露骨だ。強い競争力を追求するとして、国内外の従業員を1年で1万7千人に減らすとしている。
日本は貿易立国を国是としてきた。電機産業もそのフラッグシップとして活動してきた。しかし肝心なことを忘れてはならない。貿易立国は技術立国を前提として始めて成立しうるということだ。単純なコスト勝負ではない。
革新的な技術が生まれる母体は、ひとつは生産現場にあり、ひとつは旺盛かつ多彩で高レベルの国内需要、国内市場での熾烈な企業間競争にある。技術革新は海外工場からは生まれない。国内の拠点からのみそれは生まれるのだ。
生産現場の人材を失うということは、競争力の強化ではなく弱体化を意味する。それは本質的に守りの経営であり、いわばたこが自分の足を食っているようなものである。一時のソニーの沈滞の理由は、まさに「品質のソニー」が「ソニータイマー」と評されるまでに「粗悪なソニー」になったからだ。
生産企業は金貸しではない。総務畑の連中が肩で風を切って歩いているようではいけない。強い競争力は最大限利益からではなく、適正な利潤、豊富な人材から生まれる。「守銭奴」よろしく、ひたすらもうけてひたすら溜め込んでいるなら、いずれ札束の山に埋もれて窒息死してしまうことになるだろう。