最近では多系統萎縮症はGCI蓄積病として総括されるようだ。これが大別するとP型(パーキンソンなど)とC型(脊髄小脳変性症など)になる。

つまり、多系統萎縮症はパーキンソン病と脊髄小脳変性症の中間に位置する、ということになる。

長年、神経学の果てしなく続く病名に悩まされてきた私としては、まことに同慶の至りである。

これに代わり、遺伝子屋さんがまたジャングルを形成しつつあるが、根っこさえしっかりしておけば、あとはそれぞれの持場でしっかりやってくれればよい。

ただ遺伝子学そのものは、未だ星雲状態で、そこには現象的認識の果てしない空間が広がっている。

脊髄小脳変性症という病気は、気の遠くなるほどの亜種を含んでいる。

1969年、Graham らは脊髄小脳変性症のうちオリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、Shy-Drager症候群を包括して「多系統萎縮症」と称するよう提唱した。その理由は省略する(正直のところ良くわからない)。

ところが、1989年 Papp ら、多系統萎縮症では例外なく オリゴデンドログリアに嗜銀性封入体が出現すると報告した。これは異常フィラメントが集簇した構造物である。なぜ今ごろになって見つかったのかというと、通常のHE染色では染まりにくかったからである。これに銀の入った特殊な染色液をかけると、「透明人間」が見えるようになった。

GCI

       IGAKUKEN [Neuropathology Database]より

その後、この染色法で調べていくとグリア細胞の核内にもGNIと呼ばれる封入体が発見された。さらに本体の神経細胞を調べていくと、細胞質内にNCI封入体、細胞核内にNNI封入体、神経突起内にneuropil threads という封入体が発見された。実は多系統萎縮症の脳は封入体だらけだったのだ。

研究者たちは色めき立った。アルツハイマーにおけるアミロイドやタウのように、これら5種類の封入体がが神経細胞脱落をもたらすかも知れないと考えられるからである。

「多系統萎縮症」と無理やりまとめたが、もともと3つの疾患を強引にまとめた病名で、どこかの政党並みに出身派閥がある。ところが病理学所見が一致すると、これらは実の兄弟だと分かったことになる。それだけなら、めでたしめでたしだが、どうもこの封入体が病気の原因になっているのではないかということになって、話はそれではすまなくなった。彼らが実の兄弟なら父親は誰かということになる。

その後の研究で、GCI封入体の本態がα-シヌクレインであることが分かった。アルツハイマーでアミロイド小体からAβ(アミロイドβタンパク)が同定されたのと同様である。これは衝撃の事実だ。パーキンソン病で蓄積されるレビー小体もα-シヌクレインである。MSA、パーキンソン病、レビー小体病は“αシヌクレイン症”という新たな疾患概念を形成することになる。

ただし、パーキンソン病ではグリア内蓄積はあるが核内蓄積は認められない。逆にMSAではレビー小体は形成されないなどかなりの違いはある。また他に封入体探しも進んでいて、ALSのブニナ小体、前頭側頭葉変性症のユビキチン陽性封入体、ピック病のピック小体などが報告されている。“αシヌクレイン”という苗字が同じでも血がつながっているとは限らないのである。

というわけで、いまや封入体の本態であるαシヌクレインをどの遺伝子がどういうふうに作っているのかに関心が集中しているようだ。アミロイドβタンパクに対するカスケード戦略がここでも再現されていると見てよい。

しかし、一足飛びに遺伝子に行くにはちょっと早すぎるような気もする。まず、αシヌクレインが本当に犯人なのか、どういうふうに犯行を行なっているのかがまだはっきりしない。遺伝子を検索するなら、多系統萎縮プローンの動物(あるとすれば)で、αシヌクレイン産生遺伝子をノックダウンして、多系統萎縮症が抑制できるかどうかも示して欲しい。