ファイル名が完全に日本語だから、youtubeではなくニコニコからのダウンロードかも知れない。昔は「ローマの泉」といったが、今ではこちらのほうが通例なのか。

 レスピーギの交響詩「ローマの噴水」で、女性アナウンサーの前口上が入るから、BBC放送のエアーチェックであることは間違いないが、NHKの平べったいライブ録音より良いみたいだ。

オーケストラの音というのは強くなるときに、ただ振幅が上がるだけではなく、厚くなるのである。もちろん人間の耳には限りがあるから全奏のときに一つ一つの楽器が聞こえるわけではない。しかし実際には一つ一つの楽器がそれぞれにフォルテッシモの音を出しているのである。

MP3など圧縮ソフトでは人間の耳には聞こえない音を切っている。そのことについて文句をいう人がいるが、それはあまり意味がないと思う。むしろ強奏の際に音が団子になってしまうことのほうがはるかに問題である。128kb以下では必発だ。

それを聞くほうの側で、「これはフルートの音とオーボエの音のハモったところに第一バイオリンがかぶさって出来た音だな」、などと想像しながら聞き分けていく努力がもとめられる。

音が団子になってしまってから、それがやたらと大音量で聞こえても、ただの雑音に過ぎない。ひたすらやかましいのだ。だから思わずボリュームを絞ってしまう。はなはだ興ざめである。

このローマの噴水は最強音でもうるさくない。dBがΣ(=A+B+C)で来るのではなくA+B+Cでそのまま来るのだ。これには感激する。

むかしフルトベングラーのバイロイト盤の第九を聞いた時、第4楽章で合唱が一段落してからトルコ行進曲が聞こえてくるまでのところがまったく聞こえなかった。そこを一生懸命に聴こうとするとスピーカーのコーンが壊れるくらいの大音量が発生し、台所のお袋がその瞬間に金切り声を上げたものだ。

はじめてCDを買ったのはこの演奏だった。1枚3900円だったと憶えている。とにかく音が聴こえるのだ! それにはつくづく感心した。それを聴いた瞬間に、「あぁ、LPの時代は終わったのだ」と一人ごちた思い出がある。

だからダイナミックレンジには落とし穴があるのである。