コロンビアの枯葉剤作戦をレポートしたとき、ある意味で科学の進歩に驚いた記憶がある。
種のなかに枯葉剤に耐える遺伝子を組み込んでおいて、その種が生育したときに畑に枯葉剤をドカンと撒いてほかの雑草を皆殺しにしようというのだ。
だから遺伝子組み換えが怖いというより、皆殺しの枯葉剤をたっぷりと吸い込んだ作物が市場に登場してくることが怖いのだ。

しかし最近の科学の発展を見ると、そればかりでなく、組み替えられた遺伝子そのものも恐ろしいのではないかと思えるようになって来た。

それが「自殺する種子」だ。モンサント社は遺伝子組み換え種子を販売して儲けている会社だが、一度は種子が売れても、次からは農家がそこから種子をとって植えていけば儲けはなくなってしまう。
そこで、“種子自らが、次世代の発芽を抹殺するようプログラムされた” 種子を開発したという。そうすれば、モンサントは未来永劫、儲け続けることになる。

もし、世界がモンサントの組み換え作物を生産するようになって、もしモンサントの種子生産に支障が出たら、たちまち世界はアウトである。

この発明の怖いところは、それまでは、とにかく人類の食糧確保のためとかいいわけが出来たが、そういう倫理的な合理性は一かけらもないということである。

SFもどきの話にも聞こえるが、話はもっと現実的で切羽詰っている。今でもモンサントとの契約農家は種子の採取を許されていない。必ず毎年モンサントから種子を購入しなければならない。だから契約農家にとっては目の前の現実そのものである。

さらに非契約農家であっても、隣の農家で育てた遺伝子組み換え作物の花粉や種子が飛んできて生えてしまったら、罰せられるのである。

「えっ!?」と驚くかもしれないが、「特許権を侵害」したことになるのだそうで、モンサント社はこれまで144件の訴えを起こし、勝訴しているそうだ。

我々の常識から言うと「すみません、変な種子飛ばせてしまって…」と菓子折りの一つも持って誤りに来るべきだろうと思うが。話があべこべだ。

これがアメリカの常識なので、これを押し付けようというのがTPPの毒素条項に他ならない。

ゲルマン的合理性は、ときにひどい不条理にまで突き進むらしい。とくに昨今のアメリカにその傾向が目立つ。この民族は集団自殺への道を突っ走っているのではないかと疑いたくなることがある。