小説的にはきわめて多白い題材だろう。
性格はきわめて対照的であり、しかも、そのどちらも尊敬に値する実績を持っている。
話として面白いのは最上徳内だろう。
この人は豪傑だ。つねに行動を欲し、しゃべりまくる。だから獄に繋がれたかと思えばどんどん出世していく。周りにどんどん友達の輪ができていく。
間宮は学者肌の人だ。堅忍不抜で、つねに目標を持って行動する。シーボルトを密告したという噂がついて回るので過小評価され気味だが、業績としてはすごいものがある。
間宮の最大の仕事は間宮海峡の発見ではない。彼は樺太探検の以前の10年、以後の10年を北海道地図の作成に当てた。それは伊能忠敬の日本地図に合体されている。しかしそこには出来合いのものは一切なかった。そういう点では伊能の功績に匹敵すると思う。
ただ四半世紀における蝦夷地での行動に際し、彼にはアイヌに心寄せる機微は見られない。彼はアイヌを他者として観察するだけであった。その善し悪しは別の話として、彼は豪傑ではなかった。
しかし豪傑は何人も必要ではない。本当に必要なのは数多くの間宮の如き人間であろう。
この二人を持ち上げたのも時代の波だったし、割とつまらない後半生にしてしまったのも時代の波だった。その「時代の波」の不合理性に、本格的に手入れしなければならなくなったのが明治維新であったのだろうと思う。