永田鉄山を勉強するのにネットにあたってみたが、どうもピンぼけの説ばかりだ。
むかし読んだ「失敗の本質」に迫るような分析はない。
ただ「失敗の本質」は軍事戦略の分析だ。外交戦略の分析ではない。
ところが外交戦略となると、松岡洋右や広田弘毅の話に行ってしまう。
外交戦略の本質は、そういうたぐいの話ではない。
中国とどう付き合うか、東アジア全体とどう向き合うのか、そこにどのような世界を形成していくのかというビジョンが鍵を握っている。
その際に、念頭に置かなければならないのは日本の主権の及ぶのは対馬海峡までだということだ。それより以遠には別の民族があり主権がある。それを侵害することには大義がない。ましてや軍事行動などもってのほかだ。それはソ連も同じである。
このような発想は永田はもちろん、軍部の誰も持ち合わせていない。
しかしこのことは、さて置いていこう。
軍事戦略の基本は誰を敵とするかだ。この対抗関係において中間地点の陣取りを決めていくことになる。
どうも色々読んでいくと、陸軍がソ連なのは良いとして、海軍の仮想敵がアメリカと書かれている。ホントかいな。
もしそうだとすると、問題は二つある。ひとつはどうしてこれをすりあわせないのかということだ。これでは最悪の二正面作戦になる。
もう一つは、もし海軍がアメリカを仮想敵としていたなら、それだけでキチガイじみた戦略だということになる。もしそれが脅威であるならば、それを現実の敵にしないことが最大の戦略ではないか。
もっとも、アメリカを仮想敵としていたかどうかは目下のところ定かではないから、これ以上の言及は保留する。
それで、日本軍が全体としてはソ連を仮想敵としていたと仮定しよう。ここからが軍事戦略の本論だ。
中国東北部(旧満州、以下満州と記す)が最前線であることは疑いない。
1.外交もふくめた戦略としてまず挙げなければならないのは、ソ連の政治的包囲だ。ソ連が武力を用いて南下しないように国際環境を整備する必要がある。
それには中国、朝鮮をふくめて東アジアの国々を味方につける必要がある。より軍事的な観点からは戦略上の要衝に硬い楔を打ち込む必要がある。
2.率直にいって当時の現実的状況からは、朝鮮と中国の国境を隔てる鴨緑江、豆満江のラインは生命線と想定されるであろう。さらに攻勢的に戦略を想定するなら、関東州からハルビンに至る満鉄は守るべき権益であろう。ただし後者は「権益」であって領土であってはならない。
列強との協調体制を守るには、それは越えてはならない一線だったはずである。
3.当時のソ連は間違いなく国際的に包囲されていた。したがって、日本は日英同盟を守り、米国との親善を強化する限り、ソ連の脅威など問題にならなかったはずだ。
もちろんソ連はシベリア鉄道を通じての東方進出は国是に近いものがあった。またスターリン以降、東方戦略は飛躍的に強化された。したがって満州の権益をめぐり、さまざまな小競り合いが発生することは容易に予想される。
ただそれは、主要にはソ連対中国の問題として発生するだろうし(日本対中国の問題と同じように)、日本としては蒋介石なり東北軍閥なりを支援すれば良いだけの話である。
したがってソ連脅威論は、机上の空論とまでは行かないが、現実のものではなかったといえる。
であれば、軍のソ連脅威論はむしろためにするための議論ではなかったか、という感じがしてならない。