先日、外来に可愛いおばさんが来た。
頭が重い、肩こりがする、宙に浮いているようだというので血圧を測ったら180もある。さぁ、こちらは脳外科に送るかどうか判断しなければならない。
とりあえず、メイロンの点滴で時間を稼ぎながら話を聞いてみる。
彼女が話すことには、近いうち内地に行かなくてはならない。それまでになんとか治したいのだけれど…
どこに行くのかと聞いたら、群馬の館林だという。
「あそこは日本一暑いところなんです」
「そうみたいだね。それで、なんで館林に行かなくちゃならないの」
「じつは、そこが亭主の実家なんです」
と、後は堰を切ったようにしゃべり始める。どうやら私の目に好奇心が浮かんだのを見逃さなかったようだ。
こちらはお盆は旧でやるが、館林では新でやるらしい。
「去年に実家のお父さんとお母さんが次々に死んだんです。それで今度はまとめて三回忌をやるので、どうしても来てくれって言われたんです。『お父さんだけ行ったら』と言おうと思ったんですけど、さすがにそうも言えなくて…」
「うむ、そうだろうね」
「それで、『どこかホテルでもとって、法事の方は顔を出すだけにしましょう』って言ったら、お父さんも、『そうだね』ということになったんです。でも実家の方では、『たまにしかこないのにそういう訳にはいかない』と言いはるんです」
「それで、お父さんが負けてしまった?」
「そうなんです。うちの人は気が弱いんです」
原因はこれだ。
この暑いさなかに、館林まで行かなくてはならない。しかも実家に泊まらなければならない。これだけでも大変なストレスなのに、「気弱な旦那が向こうの言いなりになって、私を二の次にして」というちょっと理不尽な怒りがアドレナリンを噴出させる。
「それで、多分大丈夫だとは思うんだけど、もし血圧が上がったり、具合が悪くなったりしたら、どこかにかかるんだよ。どこか当てはあるのかい」
「えぇ、近くに獨協医大があるから」
ちょっと待てよ、獨協医大といえば栃木ではないか。だいぶ距離があるぞ。
「いえ、近いんです。館林と言っても栃木よりですから」
良く聞くと、館林というのは本人なりにわかりやすく言ったので、本当は佐野市らしい。それって、栃木よりじゃなくって、栃木じゃんか。
「館林から私鉄に乗って、いくつか行くと佐野なんです。佐野の駅からはそう遠くないんです」
たしかに北海道の人にとっては、群馬県だろうが栃木県だろうがどうでもいいことなんだけど。
というような具合で、点滴が終わる頃には血圧も下がって、なんとなしスッキリした表情で帰っていった。
よくテレビで刑事が言うでしょう。「白状しろ、はいたら楽になるぞ」って。

ついでに、こんな記事があった。館林の“ズル林”疑惑
日本一暑い街というのは嘘だ、細工をしている、という疑惑に対して、「そんなことはない。しっかり暑いぞ」という中身。いかにも暑っ苦しい話だ。