余談だが、死の恐怖というのは天地の別が分からなくなった時に生じる。当別に勤務していたとき、夜車で帰る途中に猛烈な地吹雪に巻き込まれた。最初、それは白い壁だった。壁というのは天地はある。は脇に落ちないように走っていたが、そのうち天地の感覚がなくなってしまった。

雪も雨も基本的には上から下に降る。しかし地吹雪というのは下から上に流れていく。だから雪を見ていると沈み込んでいくような感覚に襲われる。地上感覚が喪失してしまうのである。これは怖かった。

もう一つ、これは静岡での子供時代だが、台風の後の大波に波乗りしようと泳ぎ出た。引き潮に乗ってうまく波をくぐって沖に出た。さてと波を待っているのだが、うまく乗れないでいるうちにどんどん沖に流されていく。これで少し焦った。

波頭の近くで泳ぎだしたのでは乗り切れない。もっと前のところで体を投げ出さないと分かり、これは当然波が最後に砕けるときには巻き込まれる危険が強いのだが、今や他に選択肢はない。

ということで乗った。素晴らしいスピードで、どんどん陸が近づいてくる。助かったと思った瞬間、波頭が砕けた。突然、体が海底へと引きずり込まれる。それからきりもみ状態だ。この時も天地感覚が完全になくなって、ひたすら奥へ奥へと一直線に引っ張られていくような感じになる。

おもいっきり海水を飲んだが、どういうことか体に砂地を感じた。見上げると空が見えた。そして立てた。そして次の波が体を砂浜へと押し流した。

再チャレンジはさすがに遠慮した。それ以来、波乗りはしないことにしている。