大脳辺縁系をふくむ「三位一体脳」(マクリーン)のセントラル・ドグマは以下のとおりだ。

このモデルは,ヒトの脳の構造を,反射脳,情動脳,理性脳の3つの階層モデルで理解しようというものである.

脳は進化的に、反射脳,情動脳,理性脳の順に出現し,反射脳は爬虫類脳,情動脳は下等哺乳類脳,理性脳は高等哺乳類脳に対応する。

理性脳は大脳新皮質,情動脳は辺縁系,反射脳は大脳基底核に相当する。

これは1952年に提起された、不確かな知見に基づく古い学説だ。そのことは内山さんも指摘していて、現在の脳科学の到達段階から言えばとうてい受け入れられないものである。

ただ内山さんの反論が、若干取りとめがなく、独自のセオリーを打ち出さないところに不満がある。

マクリーンの思いは、脳を解剖学的に分類するだけではなく、生理学的にも分類しようということであり、さらにそれを発生学的に理由付けようということだ。

その思いは間違ってはいないと思う。ただ、特定の生理機能に着目する分類は、往々にして恣意的なものとなり、独断を招く。それはマクリーン自らが証明してみせた。

おそらく脳科学の最終目標は生理学的諸表象を局在し、一連の過程として説明することにある。

しかしそのための観測手段は凄まじい勢いで発展しつつあり、それに基づく知見もおびただしく集積しつつある。少なくとも当分は叙述的理解のレベルに留まらざるをえないと思う。

だから大脳辺縁系などという括りは、当分はやめておいた方が良いということになる。

ではどうするか。発生学的理解をもっと詰めていくこと、発生学的分類をまずは基本に据え、解剖学とつきあわせて行くことが重要だろうと、私は思う。


ここで脳の個体発生をおさらいしておく。

1.無脊椎動物: 神経網が形成され、ついでいくつかの結節点(神経節)が形成される。体軸が定まると、梯子状に左右の神経節が連なるようになる。

2.原索動物(ホヤ, ナメクジウオ):  管状脳が形成される。はしご状神経節はそのまま保存される。

3.個体発生(4週初期): 神経管が形成。神経板から 神経管と神経堤 が形成される。神経堤から脊髄神経節, 自律神経節後ニューロンが形成される。

4.神経管は頭方の「脳管」と尾方の「脊髄管」に分かれる。

5.個体発生(5週): 脳管に脳胞が形成される。脳胞は, 前脳胞、 中脳胞、菱脳胞に分かれる。

6.両生類: 神経管の内側表皮の増殖により脳管が膨らみ嚢胞を形成。

7.前脳胞の背側左右に終脳が発生する。これにより前脳胞は終脳と間脳に分かれる。菱脳胞は後脳と髄脳に分かれる。後脳は膨大し橋となる一方、背側から小脳が発生する(このあたりから少々面倒)

nouhou


以上を踏まえ、少しはっきり言っとこう。(間違っているかもしれないが)

1.基本的な脳組織(中枢神経系)は脊椎動物(脊索動物)に固有のものである。

2.初期の段階から前脳・中脳・後脳は存在する。したがってこの3つについて階層性はほとんど存在しない。この3つは中枢機能を分担している。

3.前脳・中脳・後脳という脳幹を中心に脊椎動物は進化してきた。そして,その時々の要請により、特定の部位を発展させてきた。だからだいじなのは前脳・中脳・後脳がどう機能分担しているかを明確にすることである

4.それは各部位の膨大という形をとることもあり、終脳と小脳のように「別館」の形成という形をとることもあった。網膜・視神経のように「出張所」の形をとることもあった。

5.発生学的には脳の本体は前脳・中脳・後脳であり、大脳・小脳は(高次であるにせよ)その付属物である。付属物をいくら研究しても、脳の発生学的本質(何故という問題)は分からない。

5.中枢神経系とは別個に、より古いものとしてのはしご型神経節システムも残存しており、独自の役割を担っているだけでなく、中枢神経系と連携して生体を動かしている。なぜか? に答えた研究はない。