アジア通貨危機 いくつかの感想

1.アジア通貨基金ではなく、アジア通貨危機がだいじだ

アジア通貨危機を学ばないと、AIIBの位置づけは見えてこない。このことははっきりしている。

アジア経済に何が求められているか、それは二つある。一つは発展能力を活かす効果的な投資だ。もう一つは、投機資本に足元を掬われないための強靭な足腰だ。

アメリカが量的緩和をとり続けたために、カネ余り現象が生じている。それは目下は株価バブルとして現象しているが、それはいずれ発展途上国に還流せざるを得ない。なぜなら実体経済以外に物質的富を生む手段はないからだ。

したがって、目下は依然として投機資本に対する抵抗力をどう形成するかが主要な課題である。

2.タイ政府は良くやった

5月に投機資本によるバーツの売り浴びせが始まった。それからわずか2ヶ月後にタイは白旗を掲げた。

その間何もしなかったように言われるが、実体を見ると、少なくともタイ政府は全力を尽くしたといえる。

反応はかなり素早い。5月13日だけで63億ドルの介入を行った。外貨準備高の20%近くを使ったことになる。翌日には「4カ国の通貨同盟」が、100億ドルに上る介入を行っている。

数日の内にタイの外貨準備高は約350億ドルから25億ドルにまで落ち込んだ。それでもなんとか第一撃を持ちこたえた。

そして通貨バーツの民間による扱いを凍結する措置をとった。バーツの借入金利を3千%とし、バーツの国外持ち出しを禁止し、非居住者のバーツへのアクセスを統制した。

これらの行動は、後に見るインドネシアの底抜け規制に比べればはるかに積極果断である。あたかも映画「七人の侍」を観ているような緊張感だ。

しかしまったく余力はない。次の攻撃までの貴重な時間を稼いだに過ぎない。その間に活路を求めて日本をはじめとする各国を訪れるが、結局次の手を引き出すことはできなかった。

3.タイの通貨危機は実体経済の危機の表現だった

理由は二つある。一つは金融、財政の透明性が確保できていなかったからだ。これは政府の責任とはいえない。長年、軍部が政治・経済を縦にした結果、政治・行政が完全に二重化し、闇の世界があまりにも広く深かったからだ。これはIMFの指摘するとおりだ。

もうひとつは、実体経済がすでに危機状態にあったからだ。主要投資国である日本の関心が、すでに一定の発展を遂げたタイよりも、無限の可能性を秘めた中国へ向かっており、投資に陰りが見えていたからだ。

それにもかかわらず、高度成長時の感覚が抜けないままに経済運営を続けていたから、貿易実体に見合わない投資が続き、脆弱性が蓄積していたと見るべきであろう。

どちらが主要な問題か。それは当然後者だろう。しかしIMFはそこが全然見えていなかった。(日本の大蔵省が見えていたかというと、これもかなり疑問ではあるが)