大脳辺縁系

脳科学を勉強するときにきわめて厄介な言葉である。

第一に、名が体を表わしていない。解剖学的には決して大脳の縁にあるわけではない。そもそも“limbic system”という言葉を、どうして大脳辺縁系と訳したのかが理解できない。

大脳辺縁系

http://www.akira3132.info/index.html より転載

大脳をキャベツとすると、キャベツの芯に相当するのが脳梁だ。最初に使い始めたブローカは脳梁に近い所(したがって大脳半球の内側面下部)を辺縁系といったようだ。それならそれで分かる。

そこは、解剖学的には帯状回と海馬傍回で形成されている。

しかしその後に出てきた学者が定義をねじ曲げて拡大解釈して、訳の分からないものにしてしまった。自民党政権が憲法をねじ曲げて、戦争でもなんでもできるようにしてしまったのと似ている。

だから、使う人によって範囲も意味も異なっている。一般には発生学的に原皮質(旧皮質)や古皮質に由来する「古い大脳」を指すようだが、それならそうといえばよいだろう。

ということで、今では中脳より上のすべて、扁桃体、中隔核、視床下部、視床前核まで、すなわち間脳のすべてがふくまれてしまっている。

大脳辺縁系にふくまれる各部位の機能を一覧表にしたのが、下の絵。

辺縁系の役割

本能と自律神経と記憶を、「感覚的思考」として一絡げにするのは、どだい無理だ。公序良俗に反する。

どちらかと言うと、情動を研究する大脳生理学者によって好まれる概念のようであるから、情動生理学者の主たる研究領域を大脳辺縁系と呼ぶ という定義が一番現状にかなっているのではないかと思う。


多くの人が「大脳辺縁系」という言葉を無批判に使っているが、どうなんだろう。それは解剖学的なエンタイティではないし、発生学的なエンタイティでもない。「情動」という生理学的機能に関連した部位をひとっからげにした、かなり恣意的な枠組みではないか。


例えば視覚に関わる脳部位はたくさんある。網膜から外側膝状体、一次視覚野、さらに側頭葉、頭頂葉の連合野までが絡む。これを大脳視覚系と呼んでも良い。しかし解剖学的に一体とするような言い方は絶対に間違いであろう。