とりあえず、この発言に関連した記事を収集することにした。


まず経産省小委、板根委員長 というのを、明らかにする。

板根小委員長

長期エネルギー需給見通し小委員会と坂根正弘委員長

赤旗には経済産業省の「長期エネルギー見通し」小委員会となっている。報道によっては「有識者委員会」とされている。

ただし小委員会というからには大委員会があるはずで、これは「総合資源エネルギー調査会」という。この調査会の「基本政策分科会」(これも坂根氏が会長)というセッションのなかの小委員会だ。いかにもお役所です。

板根委員長というのは板根正弘氏である。この人は小松製作所の相談役という肩書を持っている。ウィキペディアで調べたのが下記の略歴である。

開戦の年、昭和16年の広島生まれ。島根に疎開していて原爆を免れた。多分親族の中には被爆者も少なくないと思われる。

大阪市立大の工学部を卒業して小松製作所に入った。ノンキャリのエンジニアだ。それが、どういうわけか1989年から突如出世の階段を駆け登り始めた。2001年に社長、2007年に会長となり、押しも押されぬコマツの顔となったわけだ。

ウィキペディアによると、2001年にコマツは800億円の赤字を計上し危機に陥った。それを2年後に黒字回復させ、世界第2位の建設機械メーカーに押し上げたというから、ただ者ではない。

こうした実績から週1回はどこかで講演をこなすという人気だそうだ。ただし発言の中身は「オレがオレが」というもので、あくまで「乱世の雄」なのではないだろうか。
 

この小委員会は「東洋経済」が系統的に追いかけている。

一連の記事は経産省の狙いを浮き彫りにしており、さらにその背景にも迫っている。これらの記事を中心に経過を追ってみたい。

1月 総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会の下に、長期エネルギー需給見通し小委員会を設置。委員は14人、分科会会長の坂根氏が委員長を兼任。原子力発電のウェート付けが議論の焦点となる。

大震災の前、2010年6月に、民主党政権の下で第3次エネルギー基本計画が策定された。この計画では2030年に、原子力が全電力の約50%、再生可能エネルギーが20%とされた。
しかし大震災を機に、民主党政権は30年代に原発ゼロを目指す方向を打ち出した。
12年末に政権に復帰した自民党は、原発ゼロを覆した。
14年4月の第4次エネルギー基本計画では、原子力を「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けた。ただ、脱原発依存をどこまで進めるかは不透明のままだった。


1月30日 小委員会の第1回会合。経産省の事務局がブリーフィングを行う。
 

ブリーフィングの概要: ①エネルギー自給率の低さは重大、②震災以降、化石燃料への依存度が増大し、様々な悪影響、③原発停止に伴い電気料金が高騰、の三点をあげる。
さらに、ドイツでCO排出量が増えている、イタリアでは電気料が高いなどと余分なコメント。

1月30日 議長の坂根氏が締めの発言。「原発ゼロ、化石燃料90%という現状を国際社会は認めない。まずは省エネと再エネがどこまで実現できるのか、ここを議論の出発点にしてはどうか」と提案。(この人はこういう小手先のダマシが得意な人らしい。化石燃料9割は認められないが、原発ゼロが認められないはずはない)

2010年度には火力61%、原子力29%、再生可能エネルギー10%(うち水力9%)だった。大震災後の13年には、火力88%、原子力1%、再エネ11%(うち水力9%)となった。

3月10日 小委員会第4回会合。電力会社の接続可能量を機械的に計算して、発電量700億kWh、設備容量61GWという数値を提示。これによる不足分を原発に上乗せする。

3月30日 小委員会第5回会合。経産省が「各電源の特性と電源構成を考える上での視点」と題した資料を提出。「ベースロード電源」論を打ち出す。

「ベースロード電源比率6割を維持するには、原子力の比率を少なくとも25%前後にしなければならない」というもの。しかしこの発想は逆立ちしている。
ベースロード電源というのは、24時間連続稼働する「融通のきかない電源」のこと。コストを無視すれば、基本的には少なければ少ないほど良い。もしベースロード理論を用いるなら、その本来の適応対象は風力・太陽光である。
なお、経産省は地熱、水力、原子力、石炭火力を対象にしているが、地熱と水力は止められる。

3月30日 橘川武郎委員(一橋大教授)、「こんなことは言いたくないが、この委員会(の議論)を聞いていると、どうしても原子力の比率を上げたい、上げたいという雰囲気が伝わってくる」と発言。(橘川氏は反原発ではない)

3月30日 高村ゆかり委員(名大教授)は、「原発は3E+Sの原則に一致しない。そのことを明記すべき」と主張。

3E+S: 3Eは安定供給、経済効率性、環境適合、Sは安全性のこと。原発は事故が発生すると、出力が急速に低下し、長期停止してしまうため、安定の原則に背馳する。

4月28日、経産省、各電源の発電コストの試算結果を公表。原発が1キロワット時当たり 10.1円なのに対し、石炭火力12.9円、LNG火力13.4円、石油火力30~40円とされる。再エネは陸上風力15~20円、洋上風 力30円、地熱20円、一般水力11円、バイオマス(混焼)13円、太陽光(メガソーラー)15円、太陽光(住宅)14円などとされた。

4月28日、有識者委員会が開かれた。経済産業省が2030年の電源構成(エネルギーミックス)の案を提示した。原子力発電は20~22%、再生可能エネルギーは22~24%、火力発電は56%程度とした。委員会のメンバー14人のうち大半がこの案を妥当と評価。

5.01 吉岡斉・九州大学大学院教授(経産省の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会の委員)が経産省案を批判。(東洋経済オンライン

1.「可能な限り原発比率を低減させる」という政府公約にも反する

2.原発比率20~22%は、稼働可能な43基と建設中の3基のすべてを稼働させ、運転期間を原則40年から60年に延長しなければ不可能。案には新増設、リプレースは書かれていないが、実現を狙っているとしか考えられない。

3.電力需要量を決める際の経済成長率の前提(年率1.7%)も過大評価だ。

4.データ自体の信頼性が低い。バックエンド費用(廃炉や廃棄物処理の費用)があんなに安く済むとは考えられない。

5.「ベースロード電源」は一昔前の概念である。それで、実質的に原子力と石炭火力を保護しようとする。これは時代遅れの発想であり、結論ありきの、為にする議論だ。

5月26日、第9回目の小委員会会合。「長期エネルギー需給見通し」の「たたき台」が示される。3委員が連盟で、「原発比率が過大で、再エネ比率が不十分」との意見書を提出。

3委員とは、橘川武郎委員(東京理科大学イノベーション研究科教授)、河野康子委員(全国消費者団体連絡会事務局長)、高村ゆかり委員(名古屋大学大学院環境学研究科教授)の3人。

6月1日、第10回目の小委員会会合。経産省が「たたき台」の文言の一部が修正された「長期エネルギー需給見通し」(案)を提出する。4月28日公表された電源構成案が、概ね了承された。

6月1日 構成案では太陽光の導入量に30年「64GW」という天井を設けた(現在は21GW)。事実上のFIT(固定価格買取制度)の変更。