次は

日本藻類学会創立50 周年記念出版という本の中の「酸素発生型光合成の起源」という文章。三室守さんという方が書いたものだ。

主として酸素発生のメカニズムについてのレビューなので、当面の関心領域とは少し外れるが、面白い論文である。

* 地球上のほぼ全ての生命は、太陽からの光エネルギーに依存しており、光合成はその根幹を支えている。

* 酸素発生型光合成生物の誕生は、地球とそこに生息する生物にとって重大な事件であった。

* それは酸素発生型光合成をおこなうシアノバクテリアの誕生という事件に集約される。

* 酸素が地球の大気に蓄積することで、生物は酸素呼吸を始め、エネルギー収支が飛躍的に増加した。これにより細胞は大型化・多細胞化し、今日の生物の隆盛につながった。

ここらへんまでが序論で、以下本論に入っていく。

1.紅色光合成細菌

紅色光合成細菌は、発生史的にシアノバクテリアに先行していたとみられる。光合成を行っているのに酸素を発生しないのは、電子獲得の材料に水を使わないからである。

紅色光合成細菌とシアノバクテリアのPⅡ反応センターの蛋白は相同であるが、アミノ酸配列を比べるとシアノバクテリアの分子量が若干増えている。

2.何が増えたか

結果としてみれば、水を分解して電子を取り出すための酸化力、反応を安定して持続させるための保持力が獲得されている。

ではそれはなにか。酸化力はクロロフィルaによるものであり、安定性を担保するのがマンガン原子だとされる。

3.クロロフィルaとマンガンの役割

           光エネルギー
                   ↓
 H2O → チロシンz → P680 → Pheo a 

ここで、前項で尻切れトンボになっていたP680からフェオフィチンの過程が初めて説明されている。

A) 水分子は PSII RC に取り込まれ、そこで「マンガン・クラスター」と結合する。これは4つのマンガン分子で構成されている。(触媒のことか)

B) 水分子はマンガンの存在のもとで分解され電子を産生する。電子を発生した水は酸素となり離脱し、新たな水分子が結合する。

C) RC内にはあらかじめクロロフィルaが存在する。光エネルギーを受けるとクロロフィルa はP680 という「特殊な状態」に転化する。

D) P680 は一種の電子ポンプとなりチロシンzから電子を受け取りフェオフィチンaに電子を渡す。

ということだが、これらのプロセスが自動的に進むわけではない。右に行くほど電位(酸化電位)が高くなくてはならない。

そのために他の色素ではなく葉緑素(クロロフィルa)が必要であり、それもP680 という「特殊な状態」に置かれなければならないのだそうだ。

4.いくつかの仮説

光合成細菌からシアノバクテリアが誕生した時、すぐに完成品であったとは考えにくい。幾つもの不連続な変化が起こったであろう。

最初は水を分解するのではなく、二酸化炭素が水に溶けてできる重炭酸塩(HCO3-) を分解していた可能性がある。

シアノバクテリアというのは一種のベンチャー企業であり、生物界の壮大な発展をもたらすには、大企業とくっつかなければならない。それが藻類だったということかもしれない。

藻類はシアノバクテリアを取り込むことで植物となった。そして大爆発的に増加した。葉緑体のエネルギー供給量が有り余るほど潤沢になれば、単細胞生物は他細胞となり、インテグレートされていく。

インテグレートされた細胞の中には、もはや直接的生産過程にかかわらない特殊な細胞、組織、器官というものも登場するだろう。

「量が質を規定し、さらに量から質への転換が起きる」という歴史の弁証法が動き始めた。


三室守さんの他の文献を探そうとグーグル検索したら、お悔やみニュースにあたった。

2011年2月、盲腸がんのため京都市内で死去、61歳。私より3つ下ということになる。現職死だ。惜しい。

 1949年6月   福岡市に生まれる。
 1973年3月   東京大学理学部生物学科植物学課程卒業(まさにあの時代だ)
 1978年3月   東京大学大学院理学系研究科植物学専攻博士課程修了
           学位取得(理学博士)
 1978年4月   日本学術振興会奨励研究員 (東京大学海洋研究所)
 1980年4月   岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 助手
 1997年1月   山口大学理学部自然情報科学科 教授(20年助手でやっと山口大学と目立たない)
 2002年4月   京都大学大学院人間・環境学研究科、大学院地球環境学堂教授(やっと本領発揮)
三室さんのいいところは、歴史を意識し歴史に戻るところだ。「歴史の中に答えがある」との確信はロングスパンでは必ず力になると思う。それが色素とマンガンだ。

あとはクロロフィルa がP680 という「特殊な状態」になるということで、何がどう特殊なのか、それはどういう意味があるのか、どのようにしてそれが形成されたのか、というのがポイントになるのだろうと思う。