低体温障害

どうも冬眠に関するネット文献は貧弱だ。そもそもクマの冬眠についての医学的分析は殆どなされていないようだ。

とりあえずこちらの方面の文献検索はいったん断念する。

今度は、「不食」の入所者に何が起きているかを探るために、低体温症のメカニズムを探ってみる。

作業仮説としては、

1.クマの冬眠は低体温症への一種の適応かもしれないということ、

2.そのような過程は人間にも起こりうるかもしれないということ、

3.そしてそのような適応過程はさまざまなかたちで、さまざまな部分に起こりうるし、

4.その引き金は低体温ばかりではなく、さまざまなバイオハザード要因で起こるかもしれない

ということだ。

まずはウィキペディアの「低体温症」の項目

恒温動物の深部体温(中核体温)が、正常な生体活動の維持に必要な水準を下回ったときに生じる様々な症状の総称。ヒトでは、直腸温が35°C以下に低下した場合

きわめてスッキリした定義だ。高血圧の定義と似ている。

機序

主要には2つ

1.酵素の反応低下

2.解糖系の反応低下

直接的には2.だが、慢性経過を取る場合はかなり1.が効いてきそうだ。

グレーディング

症状
直腸温 意識 震え 心拍数 心電図 消化管
35 - 33°C(軽度) 正常 (+) 正常 正常 正常
33 - 30°C(中度) 無関心 (-) 軽度低下 波形延長 イレウス
30 - 25°C(重度) 錯乱・幻覚 (-) 著明低下 Osborn-J波 イレウス
25 - 20°C(重篤) 昏睡・仮死 筋硬直 著明低下 心房細動 イレウス
20°C以下(非常に重篤) ほぼ死亡状態 筋硬直 消失 心室細動 イレウス

ということで、「中度」というのが対象になりそうだ。この場合、意識が「無関心」になるのが特徴で、早い段階からイレウスが出現するので、ここらへんが鑑別手段になりそうだ。徐脈とブロックは割と高齢者には多いので、重なりが多いだろう。

二次性低体温症

注目すべき記述がある

内科疾患、薬物作用、栄養失調などの副次的結果として発生した低体温症を、二次性低体温症と呼ぶ

さまざまな素因を有する者が、単独では低体温症を起こさない程度の寒冷曝露で、複合原因的に発症することがある。

あとは対処法の記述が延々と続くが、当面関係ないので省略する。

低体温症の救命例

ただ、低体温症の救命例がいくつか掲載されているので紹介しておく。

1.長野県で雪崩に巻き込まれた20代男性が、発見からは約4時間・心肺停止確認後からは2時間45分後に蘇生・後遺症もなく回復した

2.兵庫県在住の男性(35歳)が兵庫県六甲山中にて遭難、その後24日後の10月31日意識不明の状態で発見された。

いったん心肺停止状態に陥ったが、4時間後には心拍が戻り、その後ほとんど後遺症もなく退院した。

証言によれば、遭難後2日目に意識を喪失し、その後の3週間、一切の食物及び水分の摂取を行わなかった。

本当だとすれば、クマの冬眠とまったく同じ状況である。

3.山口県岩国市で、83歳独居男性が自宅で倒れているのを発見。救急隊員は死亡と判断し現場を引き揚げた。検視に来た警察署員の指摘で生存が判明した。男性は意識不明のまま翌日死亡した。