2011年のAFP電で、アラスカ州立大学の研究が紹介されている。
冬眠するクマは、5~7か月間にわたり新陳代謝率を低く維持できる仕組みを持っている。冬眠という手段がいかにして代謝要求を退けているのかを検討した。アメリカクロクマ5頭の冬眠を観察した結果、冬眠中の新陳代謝率は75%減少していた。しかし体温の低下は5、6度程度に抑えられていた。
呼吸は1分間に1、2回程度で、心拍数も大幅に減り、心拍が20秒間隔というクマもいた。ここのところは日経記事のほうが詳しい。
クロクマの通常の体温は37~38度。冬眠中は30度を下回ることはなく、数日間隔で30~36度の範囲を上下していた。冬眠から覚める前には36~37度に上昇した。
一方、代謝活動は大幅に低下したまま推移。心拍数も、通常時の1分間55回程度から14回程度に減っていた。冬眠から覚めて2~3週間は、体温が上がっても代謝活動レベルは半分ほどだった。
「サイエンス」誌への掲載だからそれなりの信頼度はあると思うが、代謝率の低下と体温との乖離はウンとは飲み込めない。代謝率の測定法がどのようなものなのかが文章からははっきりしない。
なお
以上から研究チームは「クマは冬眠中、組織や骨、筋肉に対し、何らかの方法で、体が活動中だと思いこませているのではないか」と推論している。
そうだが、これは蛇足だ。
代謝率に影響を与えるものは、体温の他にホルモン(とくに甲状腺)、神経興奮、タンパク質の摂取などがある。
これらの要素の合計が辻褄が合うかどうかを見ておかないと、測定した数字そのものについては何もものは言えない。
おまけのニュース。ただし2010年のもの。
シベリアで、サーカスのクマ4頭がトラックで移動中にもかかわらず冬眠に入ってしまった。サーカスは巨大なトラックでシベリア地方のイルクーツクからウラジオストクまで約4500キロの長旅に出た。
途中でトラックが故障したこともあって旅は8日間におよび、しかも、シベリアは厳冬期。
トレーナーはクマが眠らないようにカフェインがたっぷり入っている濃い紅茶やチョコレートキャンデーを大量に与えた。しかし、効果はなく、4頭は次々に冬眠に入ってしまったという。
同じクマでも登別のクマ牧場のクマは冬眠しないというから、クマにとって冬眠はできればしたくない選択肢で、「死ぬよりはマシ」という感じのようだ。
カムチャッカのクマにとってはもっと過酷で、次のようなニュース(これは去年のもの)があった。
カムチャツカでは今年、冬眠しないクマが急増。地元の研究者や狩猟者は、クマが空腹で冬眠できないと考えている。シマリスが冬眠にあたって、心筋の細胞膜のカルシウム・チャンネルを自ら閉ざしてしまうというのは、きわめてドラマチックな話で、いわば「死中に活を求める」ような悲壮感も漂う。
ロシアのサーカスの熊が極寒の中で、団員の必死の努力にもかかわらず冬眠状態に入ってしまうという話も印象的だ。
冬眠というのは決してぬくぬくと寝て過ごすような話ではない。ノーテンキな年中行事というわけではないのだ。死ぬよりはマシ程度で、出来ることならやらないですましたい話なのだ。
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