石井久子「アメリカにおける労働者派遣の拡大:その実態と展望」(高崎経済大学論集という論文が、ネットで読める。

その最初の部分が面白い。


1990年代のアメリカ経済には、今までとは異なる傾向が出現した。これらは一括して「ニューエコノミー」と呼ばれる。
この時期に、グローバル化とIT(情報技術)化が急速に進行し、これが経済を牽引した。
グローバル化とIT化は企業をとりまく経営環境を激変させた。経済変化や新技術の導入の影響は、労働市場にも及んだ。
その変化は主に次の二点に要約できる。

第一に、国際競争の激化が挙げられる。

情報技術や輸送技術の進歩が、マーケットの規模拡大を可能にする。これまで保護されていたマーケットに、市場原理の波が押し寄せた。
一物一価の原則が、今までの距離を超えてグローバルに浸透し始めた。企業は組織を再編成して、フラット化したり、スリム化する。
さらに雇用ポートフォリオの見直しを行い、正社員・非正社員の組み合わせを考えて、グローバルに雇用ポートフォリオの最適化を図る。

第二に、IT革命が挙げられる。

情報技術の発達は、スピードの経済的価値をもたらす。変化する消費者のニーズを迅速にとらえ、スピーディな生産方式を選択する。
この変化に迅速に対応するため、企業は雇用ポートフォリオを容易に組み替えできるような戦略を構築する。
ITの普及はスキルの二極化をもたらす。
コンピュータ・ソフトの普及は、スキルを標準化し、特殊なスキルの必要度を低下させる。一方で、より高度なスキルが必要となる場合もある。
スキルの基準がより一般的になれば、その外部化(アウトソーシング)が可能となる。このスキルの外部化に対して、労働需要が派生する。


と、ここまでが「ニューエコノミー」が労働環境の変化をもたらしたメカニズムの説明だ。

簡潔で要を得ているように思える。

しかし企業側の都合だけが強調され、負の面の分析がやや不足しているようにも思える。

最大の問題は、グローバルな規模での雇用の空洞化だ。

「これまで保護されていたマーケット」と呼ばれる途上国、中進国では雇用のみならず産業の空洞化が生まれる。他方で「グローバルな雇用ポートフォリオの最適化」により先進国でも雇用が失われる。

さらに「一物一価の原則」は当然“労働力の価格である賃金にも、需給バランスを通じて貫徹される。したがって、おしなべて賃金の全般的低下をもたらす。

このグローバル化がもたらす負の影響に、IT化が拍車をかける構造になっている。

IT化は事務・技能労働の従来型スキルを陳旧化させる。その過程において多くの失業者が生まれる。

またIT化は事務・技能労働の単純肉体労働化をもたらす。これにより多くの事務・技能労働が代替可能となり、「労働力流動化」への抵抗力を失わせる。

これにより正規労働者の大幅な減少と、それに比べればはるかに安上がりな非正規労働者のいくぶんかの増加がもたらされた。


この正と負の両面から見るならば、かなりこの分析は本質を捉えていると言えるのではないだろうか。

すなわち、グローバリズムと情報化革命が、労働者(なかんずくホワイトカラー)の貧困化・不安定化をもたらし、一方において富裕層にさらなる富の恩恵をもたらしている という分析である。