ということで、毎度のごとく日本語サイトにはこれ以上の情報はない。日本人は「なぜ」と考える人が少ないのだろうか。

まず、Wikipedia “Indian vulture crisis” の項

インドにはハゲワシ(vulture)の9つの種が生息している。今日、そのほとんどは絶滅の危険にさらされている、

それは前からそうだっというわけではない。1980年代には、インドに8千万羽「白尻ハゲワシ」(white-rumped vulture:正式名はGyps bengalensis)がいた

それは世界の猛禽のなかで最も多数の種であった。しかし今日その数は数千となっている。

中略

最初はウィルス感染が考えられた。

しかし多くの研究の後、2003年に、Dr. Lindsay Oaks らがボルタレンが原因であると突き止めた。

シミュレーション・モデルでは、死体の1%がdiclofenacによって汚染されれば、インドのハゲワシの1割が生命を奪われると想定された。死体の検討ではその10%が汚染されていた。

その後の研究で、メロキシカム(商品名モービック)なら牛にボルタレンと同等の効果を示すが、ハゲワシには毒性がないことが確認された。

その後は社会生態学的なConsequences が長々述べられているが、腎不全の病態/病理には触れられていない。


あっ、見つけた。

 Journal of Wildlife Diseases という雑誌の2005年の論文

PATHOLOGY AND PROPOSED PATHOPHYSIOLOGY OF DICLOFENAC POISONING IN FREE-LIVING AND EXPERIMENTALLY EXPOSED ORIENTAL WHITE-BACKED VULTURES

訳しにくいが、「白背ハゲワシのボルタレン中毒―病理像と予想される病態生理」みたいな感じか。

おそらく、日付から見てリンゼー・オークスらの原著であろう。

Absutract のみ訳出しておく。

白背ハゲワシがボルタレンを摂取した後、腎不全で死んだ。ボルタレンは家畜の組織内に沈着したものだった。

病理所見: 近位尿細管曲部の重篤な急性壊死が見られた。

糸球体、遠位尿細管、集合管は比較的早期変化の段階に保たれていた。

大部分のハゲワシで広範に尿酸結晶の凝塊があり、このため腎臓本来の構造が分かり難くなっていた。炎症はほとんど認められなかった。

腎表面及び臓器の実質内に広範に尿酸の沈着を認めた。これは「内臓痛風」の所見と一致する。これは腎不全のハゲワシで必ず認められた。

鳥類におけるNSAIDSの生理学的効果についてはほとんどまったくわかっていない。

哺乳類の研究では、ボルタレンがプロスタグランジンの合成を阻害することがわかっている。

我々はボルタレンがハゲワシに腎不全を起こすメカニズムについて次のように提案する。

ボルタレンは、プロスタグランジンがアンギオテンシンⅡを介してアドレナリン刺激を調整する効果を阻害するのではないか。

腎臓の portal valves はアドレナリン刺激に応じて開く。そして portal blood を caudal vena cava に向かわせることによって、腎臓をバイパスさせる。

もし、ボルタレンがプロスタグランディンの腎 portal valves の調整機能を取り去ってしまえば、これらの弁の度外れの活性化が生じ、それは本来の栄養をふくむ血流すらも止めてしまう。そして腎皮質は血流が遮断されてしまう。

近位尿細管曲部に近接した腎皮質の虚血性壊死は、我々が観察したハゲワシの組織学的検討結果と一致する。