ハゲワシ激減の原因はボルタレン

「世界こぼれ話」というコラムに載っていたが、こぼれ話で済む話ではなさそうだ。

話そのものは、インドの拝火教(ゾロアスター)の信者がハゲワシの激減を憂慮しているというもの。拝火教には鳥葬の風習がある。森のなかに鳥葬施設があり、遺体はそこでハゲワシの餌となる。

ところが、ハゲワシが激減してしまったため遺体処理が追いつかないそうだ。以前に比べて20分の1に減ってしまったそうだ。うなぎの比ではない。

原因は思わぬところにあった。ハゲワシは肉食で、牛の死肉を食べる。ところが牛にはボルタレンというクスリが汎用されていた。これが悪さをしたらしいのである。

このクスリは、理由は分からないが、1990年代になって牛に大量使用されるようになったらしい。そしてその死肉を食べたハゲタカが急性腎不全になってバタバタと死んでいったのである。


ボルタレンは一般名をジクロフェナックという。消炎鎮痛剤としてきわめてポピュラーなクスリである。実は我が老健施設でも熱冷ましの座薬として使用している。

ボルタレンは私が研修医の頃登場した。それまでは熱さましといえばスルピリン、アミノピリンだった。よく効くがアレルギーも多かった。

アスピリンは解熱鎮痛というよりは抗炎症剤としてよく用いられていた。若年性関節リウマチの人に1日12グラムも飲ませた記憶がある。いまでは考えられない話だ。

ボルタレンは劇的によく効いた。アレルギーもなかった。やがてピリンは消えていった。

飲み薬や座薬のほかにシップや軟膏にもなっている。一般医薬品になっているので、マツモトキヨシに行けばズラッと並んでいる。

もちろん腎機能障害の危険があることは医者ならだれでも知っている。高齢者には要注意だ。わたしも高熱時の頓用としてしか使わない。

しかし副作用でバッタバッタと死ぬようなクスリではない。どちらかと言えばもっとも安全なクスリに属するものだ。それはこのクスリが、世界中で多くの人に、長期にわたって使い続けられてきたことからも分かる。

現に牛だって、飲んでいて何かあったというわけではない。ではハゲタカに限って何故そんなにやばいのか、それは鳥類に共通するのかというのが疑問だ。

もうひとつはインドという油断ならない国だということ。ここの連中は何をするかわからない。90年代に入って増えたということは、ノバ社の特許が切れたからだ。変な作り方をしているかもしれないし、第一、どうして牛にそんなに飲まさなくちゃいけないのだ。


ボルタレンは薬理学的にはプロスタグランディン合成阻害薬に属する。プロスタグランディンはなかなか面倒な経路で、炎症を惹起する側にも抑える側にも回るが、ボルタレンの場合は炎症を惹起する側(シクロオキシゲナーゼ)に作用してそれを抑制する働きを持っている。

ただこれはボルタレンにかぎらず、アスピリンや非アスピリン系の消炎剤(NSAIDS)にも共通しており、ボルタレンがなぜ良く効くのかの説明にはなっていない。

プロスタグランディン系の他の経路(リポキシゲナーゼ系、ホスホリパーゼ系)への影響が考えられているようだが、あまり詳しくは知らない。


まずはウィキペディアから。(ここではハゲタカではなくハゲワシとなっている)

動物へのジクロフェナクの使用により、インド亜大陸で10年間に数千万羽のハゲワシが死亡した。

ハゲワシは、ジクロフェナクが投与された家畜の死体を食べ、腎不全によって死亡したと見られる。

2005年3月、インド政府はハゲワシを絶滅危惧種に指定する一方、ジクロフェナクを段階的に排除すると発表した。パンジャーブ州ではジクロフェナクの使用が禁止されたため個体数が回復しつつあるという。

ということで、「なぜハゲタカが?」という疑問には答えていない。なにか遺伝子レベルの問題もありそうだが…


2015年11月30日

何故かこんなページがアクセス数トップになってしまい戸惑っています。

とりあえず、このシリーズの記事をリンクしておきます。