ベートーヴェンのチェロ・ソナタを聞くともなく聞いていたが、あまりにつまらないので「ねんやねん、これ」と、画面と見ると、ロストロポービッチとリヒテルの演奏だ。ソナタというのはピアノがつまらないと、ほんとうにつまらなくなる。
ずいぶんとリヒテルを聞いてきた上で、あえて言う。「ほんとうにリヒテルはつまらない」
しかたがないのでビルスマを聞いたが、これもピアノフォルテの伴奏で、少しも綺麗でない。ヨーヨーマとアックスの演奏も聞いたが、結局これは原曲がつまらないのかもしれない、と思うに至った。
そこで今度はバイオリンソナタに移る。
デュメイとピレシュの演奏が良い。ピレシュはそれほどの人とは思わないが、デュメイと組むと精彩を発揮する。やはりデュメイがいいのだ。デュメイという人は関西フィルの指揮者で、たまたまバイオリンを弾いて飯森繁次郎がオケ伴をやったのをテレビで見た。いかつい男でバイオリンが子供用に見えるほどだ。
しかし、ツィガーヌからショーソンの詩曲と進むに従って、思わず耳が引っ張られた。「こいつ、只者ではないな」という感じだ。
それで名前は覚えていたのだが、まさかベートーヴェンでこんな演奏をするとは思わなかった。
YouTubeではこの演奏が最高だ。あとはクレーメルとアルゲリッチ、メニューヒン、グリュミオー、オイストラフなどたくさんあるが、この演奏にかなうものはない。とにかく1番から通しで聞いて飽きないのはこれくらいだ。
ただしデュメイもかなわない演奏がひとつある。それはギレリスとコーガンの演奏だ。ただし「春」だけ。
クロイツェルは実況録音で音はかなりひどい(しかし中身はいい。だんだん聴衆が乗って来るのが分かる)。
これはバイオリン伴奏付きのピアノソナタだ。コーガンがギレリスの義理の弟だから当然といえば当然だが、役者が一枚違う。「ワルトシュタインの聴き比べ」でも書いたが、ギレリスは天下一品のベートーヴェン弾きである。誰かが「鋼鉄」と評していたが、ギレリスは鋼鉄ではない。男性的ではあるがやさしい。構成力はあるが、細部にもソノリティーにも気を使ってる。合わせもうまい。
この人の演奏はセル・クリーヴランドとのブラームス、アマデウスとの「鱒」などみんな良い。かと思うとグリークの抒情小曲集なども他人の追随を許さない。
ギレリスのサポートを受けてコーガンの演奏ものびのびとしている。おそらくこの曲の最高の演奏であろう。もう少しこのコンビの演奏を探してみるとするか。
ところで、ギレリスはオデッサの出身でオデッサの音楽院を出て、すでに一家をなしてからモスクワに出たのだそうだ。そこでネイガウスにつくがまったくスタイルがあわず、口もきかないほどの仲だったそうだ。要するにモスクワの主流派とはかなりスタイルが違ったのだろう。
ギレリスの流れをくむのがグレゴリ・ソコロフなんだそうだ。さもありなんと思う。音楽に対する考えが違うのだろうと思うし、それはモスクワだとかウクライナだとかという問題ではないと思う。