すみません。知らなかった。

昨年9月24日に千葉県銚子で起きた、女性の子殺し事件。いまさらながら少し経過を調べておく。かなりの情報はすでに消えてしまっているとは思うが、システムのエアポケットを明らかにしておく必要はあると思う。

まずは2014年10月26日の東京新聞記事。

県営住宅退去で母娘心中未遂

「家失えば生きていけない」

家賃滞納続き 明け渡し当日

と3本見出しが並ぶ

記事は「心は青春」というブログにそのままコピーされているのでそちらを参照のこと。

次に26日の千葉日報の伊藤記者の署名記事。市側の対応について丁寧に取材している。

困窮情報共有できず 千葉県、市 縦割り弊害?支援逃す 銚子の長女殺害

24日に母親(43)が中学2年生の長女(13)の首を絞めて殺害した。

この母親は銚子市の県営住宅に住んでいたが、家賃滞納で立ち退きを迫られ、24日が強制執行日だった

行政は、母子2人の困窮した生活状況について情報を把握していた。しかし千葉県と市、部署間で十分な情報共有がなかった。この状況が見殺しをもたらした。

就学援助と生活保護

母親は長女が小学校に入学した時から毎年度、市の就学援助を受けていた。

市の就学援助制度は、低収入世帯や児童扶養手当の受給世帯などが学用品費や修学旅行費の補助を受けることができるもの。

生活保護世帯であれば、市教委は社会福祉課と情報を共有する。しかし就学援助だけ受けている場合は、社会福祉課には情報は行かない。

生活保護の相談はあった

母親は事件の1年余前に、「生活保護の制度を知りたい」と社会福祉課を訪れている。

この時は、ケースワーカー2人から説明を受け資料をもらって帰った。その後の申請はなかった。

対応に落ち度がなかったかどうかではなく、この時点で救済する可能性はなかったのかという観点から見なおしてみたい。

(取材に対し)同課は当時の対応に「母親の生活が逼迫している認識はなかった」としている。

(同時に)今回の事件を受け「初めて生活保護の相談に来た時の面接を重視し、深く話を聞くようにしたい。より丁寧な生活状況の把握を徹底していく」という。

たしかにそのとおりだが、向こうが「ただ話を聞きに来ただけ」という場合、「より丁寧な生活状況の把握」までどの程度踏み込めるか、個人情報なだけにケースワーカーの裁量だけでは難しいだろう。

県の追い立て

母親は2012年7月から家賃(月額1万2800円)を滞納していた。県は裁判を経て県営住宅から退去を求めていた。

ここがどう見ても常識外の行動だ。基本的に公営住宅は低所得者が優先して入居することになっており、そもそも貧困対策の一環だ。家賃滞納のほとんどは生活困窮のためと予測される。それを裁判に訴えてまで追い出すという態度は想像を絶する。
判事も何を見ていたのか。司法の大目的は市民生活を守ることにあるのではないか。

この件について県から市への連絡はなかった。社会福祉課、市議会、市教委はいずれも県の対応に不満の意を表明している。

ただこの記事は県への取材を行っていないので、当事者である県側の言い分は不明である。これでは記事としては周辺的事実に留まってしまう。


次が共産党の丸山真一県議のブログ。

グーグルで2番めにヒットする。中身が濃いからだろう。

9月30日付で「銚子市内の県営住宅での母子無理心中事件の聞き取りをしました」と題されている

千葉日報と重複する情報は省略する。

事件に至る経過

その日は、強制的に追い出すために執行官が県営住宅を訪れた日で、発見したのは執行官たちでした。

ということで義憤を感じた丸山さんは、県営住宅を管理している県住宅課と生活保護を所管している健康福祉指導課から経過を聞いた。

強制執行に至る経過

2007年に二人は県営住宅に入居した。2012年ころから滞納が始まり、嘱託職員が訪問して、小額づつ支払いを受けていた。

2013年3月に明け渡し請求を送付、31日に入居許可が取り消された。これ以降は不法入居ということになる。

7月に明け渡し訴訟が提訴され、10月に判決が出された。

今年になって、5月に県は現地調査を行った上、強制執行の事前通知。

8月には千葉地裁八日市場支部が強制執行の催告を行い、24日の強制執行に至った。

犯行はその直前に行われ、部屋の明け渡しを求めるために訪れた千葉地裁八日市場支部の執行官が見つけ110番通報した。

というのが経過。

主犯は県の住宅課のようだ

母親の収入は働いて得た月額7万円と、児童扶養手当が月に約5万円しかありません。

これに市の就学援助制度が加わるが、内容を見ても分かるように、生活費の足しになるようなものではない。

県営住宅の家賃は国が決めているようだ。これは4段階制になっており、最低クラスが月額1万2800円となっている

しかし、

千葉県は、国が決めている4段階の家賃にたいして最低額の家賃でもまだ高いので、独自の家賃減免制度を作っています。

それは、所得に応じて家賃の2割から8割を減免するものですが、この家庭の場合、母親の収入が少ないので、申請していれば確実に8割減免を受けられていました。

受けていれば、家賃は月に2560円で済んでいたはずです。

ということで、県の担当者はこの制度を知らなかったのか、知っていて無視したのかが大問題にる。もし後者であれば、この担当者はほぼ業務上過失致死と認定される。
強制執行に関する知識がこれだけ豊富であることを考えると、あるいは未必の故意も考えられる。

県は、少ない収入だとわかっているのに家賃を取り立て、減免の制度があることさえまともに知らせようとしない。こんなひどい話はありません。

次がその千葉県県土整備部都市整備局住宅課 県営住宅管理班 のホームページ「県営住宅についてのご案内」が掲載されている。平成26(2014)年12月5日に更新されていて、それ以前の案内は閲覧できない。

少し下の方には「県営住宅の家賃について」という項目がある

家賃を納入していくうえで、失業等のため収入が著しく少なくなったり、病気やケガによる長期療養、災害により多額の出費を必要とする場合等の理由で、家賃の支払いが困難となったときは、期間を定めて家賃の減額・免除をする制度があります。

これが丸山真一県議の言っていた減免制度だ。リンク先を辿って、減免制度の項目に移動する。

千葉県では、県営住宅の入居者の世帯収入が著しく低い場合や、…などの理由で、家賃の支払いが困難と認められる場合に、期間を定めて家賃を減額する制度を設けています。

ということで、下記がその基準。

収入月額

減額率

50,001円~67,000円

20%

37,001円~50,000円

40%

25,001円~37,000円

60%

0円~25,000円

80%

ひどい基準である。最高ランクの月収6万7千円ですら生保基準を大幅に下回っている。月収2万5千以下というランクに至っては、存在自体がそもそも信じられない。しかもこのランクの人からさえ家賃を取るのである。もし滞納すれば追い出すのだろうか。

「それは福祉の方の仕事ですから」と澄ましているのだろうか。

法的には瑕疵はないが、「血も涙もない」というのはこういうことを言うのだろう。こうすればどうなるのかという想像力はまったく欠如している。


とは言うものの、丸山県議の言うところとこの表は食い違っている。どちらが正しいのだろうか。

丸山県議はもうひとつ記事を書いている。

このなかで月収の算定の仕方について触れている。

すなわち「政令月収」という概念があって、これは「実際の収入から各種控除を差し引いて算出したもので家賃額算定のもとになるのだそうです。

この家庭の政令月収は計算上0円になるのだそうだ。

なんとなくモヤモヤしているが、市、県と来て次は国の責任。

本日付の東京新聞、「公営住宅滞納家賃 困窮者減免徹底を 国交省が通知」という記事が掲載された。

家賃滞納で強制退去となった母親が無理心中を図り長女を殺害した事件を受け、国土交通省が、都道府県に通知を出した。

内容は以下のとおり、

1.困窮のため家賃を支払えない状況にある入居者については、収入などの事情を十分に把握するよう要請。
2.著しく所得が低かったり、病気で多額の支出が必要だったりして やむを得ない場合は家賃減免を適用するなどの負担軽減措置を講じる。
3.同時に、市町村と連携し、生活保護申請の助言も行うよう求めている。

背景について、記事は

国民健康保険料も滞納するほど困窮し、千葉県の家賃減額制度を活用できた可能性が高かったが、県は母親に制度について直接説明していなかった。

と記載している。

記事の文末にはさりげなく、次の段落が付け加えられている。

同省は1989年にも通知を出していたが、家賃滞納には「厳正な措置」もあわせて要請していた。

要するに、住宅課は国交省の指示に従って「厳正な措置」を行った可能性があるということだ。


政令月収額の算定方法を説明したサイトが幾つもある。いかに分かりにくいかということの証明でもある。

政令月収額は基準収入とも言い、公営住宅等の入居資格に関連する。

単純に言えば世帯の所得から各種控除を差し引いたものなのだが、これが複雑な上に自治体によっても運用が違う。

この家の場合、本人が寡婦控除(27万円)、娘が扶養控除(38万円)の対象となる。

月収7万で年額84万、これから控除を引くと19万円。これを12で割れば15,800円となる。

これだと80%減額の対象にはならない。もう少し細工が必要なようだ。


最後に全生連が中心となった現地調査団の千葉県と銚子市あての要望書をコピーしておく。



県営住宅での強制退去に伴う母子心中事件の対応についての要望書

    千葉県銚子市の県営住宅追い出し母子心中事件の現地調査団


自由法曹団/全国生活と健康を守る会連合会/中央社会保障推進協議会/住まいの貧困に取り組むネットワーク

 2014年9月、千葉県銚子市内に所在する千葉県営住宅の入居者(母子世帯)が、家賃滞納を理由に明渡訴訟を提起され、その判決に基づき強制退去を求められた日に、中学生の娘を殺害し自分も死のうとする痛ましい事件(無理心中未遂事件)が起こりました。
 この事件の経緯について千葉県、および銚子市の対応は、後記のように問題があると考えられるので、緊急に以下の対応をおこなうよう要望します。

1.県は、県営住宅の入居者に対し、家賃の減額制度があることを、十分に周知させること。

2. 県は、家賃の滞納者に対し、入居者の置かれた状況を確認し、家賃の減額制度や他の社会福祉制度が利用できる場合には、その制度を丁寧に滞納者に対して説明 すること。また、この説明は手紙や文書だけでなく、民生委員などと協力してできるだけ訪問することより、対面で説明を行うこと。

3.県は、民間賃貸住宅よりも低額な県営住宅を家賃滞納で退去させられた入居者の多くは、ホームレス状態にならざるを得ない ことを認識し、退去後の生活ができることを十分に確認するべきであり、明渡訴訟は最後の手段とし、安易にこれを提訴しないこと。

4. 市は、保険証を失効する、水道料金を長期間滞納するなど生活困窮の様子が見られる市民に対し、利用できる社会福祉制度を丁寧に説明し、申請意思があるかど うかを確認すること。仮に申請意思が認められない場合でも、長期間の家賃の滞納や保険証の失効など職権保護が妥当と判断される場合には本人からの申請がな くとも生活保護を利用させること。なお、誤った説明により、生活保護が利用できないと思わせる言動は間違っても行わないこと。
5.県と市は、県営住宅の入居者が生活に困窮していることを認識した場合、互いに情報を伝え、市からも県営住宅の家賃の減額制度の説明をしたり、県からも利用できる社会福祉制度を説明をすること。

6.県と市は、今回の事件の事実経過を明らかにし、再発防止のためにいかなる措置を採るべきか検討し、その防止策を県民、市民に公表すること。

 2015年1月19日