講演レジメ
2016年09月15日
「介護ビジネス」の現状
あるサイトの見出し
来る2025年、高齢者向けの市場規模は100兆円超え!介護産業は15兆円規模に!果たして介護ビジネスに“儲かる”土壌はあるのか!?
という文字が踊る。
この見出しには少し説明が必要だ。
①2025年というのは団塊の世代がすっぽり70歳超えの老人となる年を指す
②高齢者向け市場とは、医療・医薬品産業、介護産業、生活産業の三分野を指す。そのトータルが100兆円ということだ。現在は65兆円程度らしい。もちろん生活産業の比率が最も高く5~6割を占める。
③その3分野の中の介護産業が15兆円となる見通しということになる。15年では10兆円だそうだから10年で1.5倍化する予想だ。
これはみずほコーポレート銀行の調査によるものだそうだ。
高齢者市場というのは当然あって、富裕とまでは行かなくてもいささかの預金もあり、豊かに老後を送りたいという要求があるなら、商売は成り立つ。
しかし介護産業は他の2つの分野とは明らかに異なる。そもそも儲かるわけがない事業だからである。(医療も医薬品を除けば同断だ)
いくら市場規模が大きくても、それは「擬似市場」であり、本来的に儲けが出るような性質のものではない。高齢者介護というのは半ば公的な事業であり、全資源を注ぎ込むべき非営利事業だからだ。
しからば、介護事業を営利対象として見る人々はどこに注目しているのか。少し勉強してみよう。
1.利益率は8.4%
総務省の平成24年度経済センサス「産業分野別の売上高営業利益率」(いわゆる粗利益率)によると、社会福祉・介護事業は8.4%。これは専門技術サービス、不動産、飲食サービス、医療、複合サービスについて高い。建設、製造業が4%台だから倍以上になる。(逆に言えば、この種の統計は実情をまったく反映していないともいえる)
1.介護各分野の利益率介護事業の収支差率: 全サービス加重平均では8%
サービスの種類別にみると下表の通り
2.国と厚労省のやり放題
ただし、これらの数字は厚労省の胸先三寸、さじ加減でどうにでも変わる。下のグラフを見れば一目瞭然である。
引用元文献によれば、
国の施策の方向性と連動して、拡大したい分野の報酬を上げて、減らしたい分野の報酬を下げる。「施設から在宅へ」という流れがあるため、現在の方向は一層強化されるだろう。また、介護経営実態調査等によって、「財政的に余力がある」と判断された分野は、もぐらたたきに会う。
以下は
全産業平均のH25年度の年収は414万円となっている(国税庁「平成25年民間給与実態統計調査」)
これに対し福祉施設介護員の年収は「22万円x12プラスボーナス」で306万円程度と推定される(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)
2.周辺産業の発展
最初にも述べたように介護事業は決して営利でやれるものではない。しかしその周辺には利益を生み出す構造はある。
高齢者向けのメニューである宅配、見守りサービス、家事代行などのサービスなどがこれに相当する。3.ハード面はさらに厳しくなる
下の図は厚労省の「施設・事業所調査の概況」からのグラフである。
このグラフを見れば、全体的傾向ははっきりする。
全体を特徴づけているのは、高齢者の増加による全体的増加傾向ではない。介護療養型医療施設、いわゆる老人病院の激減である。
これは決して自然的傾向ではない。政府・厚生省による狙い撃ちの結果であることは明らかだ。
そこで行き場を失った老人が老健施設・介護福祉施設に押し出されている、というのがこの間の経過だ。
しかも後者は前者を吸収しきれていない。それが在宅にあふれ始めているのが実態だ。
なぜそうなったのか、それは高齢化社会だからではなく、国の責任放棄の結果なのだ。
実は「高齢化社会」はまだ始まっていない。高齢化は始まっているが。まだ「お達者高齢社会」なのだ。
政府は「高齢化社会」を口実に国民から消費税をふんだくり、自己負担を重くし、介護の中身を劣悪化し、それを大企業と大金持ちのために注ぎ込んでいる。それがこの間の実態だろう。
これから「病弱高齢化社会」が進行していけば、この矛盾は耐えられないほどに激化するだろう。
メディアによる国民だましと小選挙区制のからくりがいつまで通用するだろうか。
4.通所介護事業は絶対に持たない
介護報酬改定で小規模の通所事業がほとんど致命的な打撃を受けたことは、前に記事に書いた。
これに代わりチェーン型の通所が増える可能性がある。
しかしこれら通所サービスは、根本的に利用者のニーズに適合していない。
第一に通所サービスは一定の家庭介護の能力を前提にしているが、それが崩れ去りつつあるからだ。
団塊の世代は親に子供を預け共稼ぎをして生活を向上させてきた。親が倒れると、老人病院に入れてでも仕事を続けた。
そういう生き方を見て育った子供が、親たる団塊の世代を世話するとは思えない。そのつもりがあっても、彼らにはそのような余裕はないのである。
だからこれからの利用者ニーズは、半端な通所系よりも入所系サービスに集中するしかないのである。
第二に利用者の貧困化がある。
利用者の自己負担なり一部負担に依拠して経営しようと思っても、そのような金銭的余裕のある利用者などそうざらにはいない。
だから否応なしに介護報酬に頼らざるをえない。まさに政府・厚労省の思惑によって翻弄されざるをえないのだ。
帝国データバンク「医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査」からの引用である。
やや古い資料だが、肝心なことは介護報酬の改定がもろに倒産へとつながっていることだ。
結論を言おう。老人福祉事業は決して“儲かる”経営ではない。しかも生殺与奪の権利を握る政府・厚労省は何時でも潰す気でいる。投資しようと思っている方には思い直すよう忠告する。もちろん社会貢献であれば大歓迎だが。
小規模デイサービスは、もういらない
「小規模デイサービスは、もういらない」というのが政府・財務相・厚労相の考えだ。
週刊朝日 14年11月
国は潰したい?小規模デイサービス
1.主導は財務省介護報酬の「現行からの6%程度引き下げ」を主張。6%削ったとしても、「運営に必要な資金は確保できる」とする。
2.株式会社・フランチャイズで乱立
企業は全国800カ所以上でFC展開している。「月に100万円の収入は確実」と宣伝。FC加盟料300万円、毎月、ロイヤルティーなどの名目で20万円をとる。設置者がリスクを背負う。
競争激化で採算が悪化。人手不足が拍車。
3.行政からの締め付け
人員体制や介護内容などの届け出が義務化された。サービスの質を維持するためのガイドラインも策定した。(これは当たり前だ)介護分野の昨年の求人倍率は2倍、介護福祉士養成校の入学者も減って、定員80人に対しわずか20人だ。
赤旗 15年3月
介護報酬を4月から大幅に削減上乗せの「加算」を除けばマイナス4・48%と過去最大規模の削減となる。
特別養護老人ホームで6%弱、小規模のデイサービス(通所介護)では9%以上も減額された。グループホームの基本料も6%弱の切り下げとなっている。
「出る釘は打たれる」結果となった。政府のやることは要するにモグラ叩き、カンナで削るだけの減点方式だ。
特別養護老人ホームは、巨額な内部留保(1施設3億円、全体で2兆円)のため、収益性の高さから注目された小規模デイサービスは、急増したことがあだとなって介護報酬上の抑制措置が取られた。廃業する事業者が続出、介護基盤崩壊の危機となっている。
北海道で89事業所を対象としたアンケート: 77%が報酬改定で「経営は後退せざるを得ない」と回答。対応は「賃金・労働条件の引き下げ」31%、「人員配置数の引き下げ」42%。「事業所廃止」19%。
小規模デイサービスを狙い撃ち
小規模型デイサービスでは要介護者は約9~10%の報酬削減、要支援者は市町村の事業となり、さらに報酬が下げられる(推計25%)。現場の試算では年間200~300万円ほどの減益となる。これでやっていけるところは殆どないだろう。
これで終わらない小規模デイサービス
小規模デイサービスへの風当たりの強さはまだまだ続く。小規模デイサービスは1年の経過措置を経て、地域密着型デイサービスに移行する。定員10名の小規模デイサービスは、もういらないということだ。こんな調子で毎年いじられたのでは、介護事業は到底長期の方針など立てられない。かくしてますますブラック産業化していくのである。問題は二つある。
まず一つは、小規模デイサービスはいらないのかということだ。
答えは、はっきりしている。必要だ。
ただ、量と質の問題はある。とくにフランチャイズ制で儲けを至上目的とするようなデイは有害かもしれない。
ただそれは、運営基準を厳しくしていけば良いので、それがクリアできるような施設なら大いに奨励されるべきだ。
逆に、そのへんのおじさん、おばさんが預かるような「託老サービス」の形態は、共助の観点からも、介護難民を生じさせないためにも、限界集落の崩壊を防ぐためにも、柔軟に取り組むべきだと思う。
もう一つの問題は、財務省主導で、目先のそろばんだけで動いて良いのかどうかということだ。
結局そこで浮かせた金は、法人税減税とか公共事業とかに回ることになる。それから見れば、どんな欠陥があろうとも、はるかに生きた金の使い方だ。
少なくとも、その金は老人福祉の分野で使うべき金であって、富裕層のための金ではない。
介護業界栄えて、介護滅ぶ
「
」というサイトに介護業界「勝ち組」の法則と課題
というレポートが掲載されている。2012年の記事なので少々古いが、紹介する。
1.大手企業の特殊性
介護事業における厳しい経営状況や従事者の低待遇が問題になっている。しかし有名大手企業の売上高は軒並み「右肩上がり」となっている。
営業利益率については2006年度に一時的な停滞があったが、10年度には総じてプラスに転化した。2.利益を上げる2つのポイント
第一に、利用者を囲い込み、介護保険外サービスを提供することで利益を上げる。介護保険サービスはあくまで顧客確保をにらんだ「販売促進」的な位置づけとなる。
第二に、パートタイマーもふくめ臨時雇用者等の比率が高いことだ。
3.大手企業が業界を制圧したらどうなるか
第一に、介護保険サービスのみに頼らざるを得ない低所得者層の利用者は行き場を失う。
第二に、低所得者層も視野に入れつつ、地域のセーフティネットを担おうという事業所は淘汰される。
第三に、「介護を一生の仕事としたい」という労働ニーズは拒絶され、介護という労働分野全体がブラック化する。
4.著者(福祉ジャーナリスト 田中 元さん)のまとめ
介護報酬の大幅な伸びが期待できないまま、上記のような事業所が淘汰され、介護士が駆逐されていった場合、それは「国民の安心」を担う介護事業のあり方として正しい姿なのでしょうか。
2013年07月17日 もご参照ください。まったく事情は同じです。
ブラック保育園 IN 横浜
少しづつ数字が出てきている。
まず驚くのが人件費比率。保育所の人件費比率は全国平均で71%となっている。まずまず妥当な数字だ。
これが「横浜市内で株式会社が運営するある保育園」では約40%ということだ。我が目を疑う数字だ。
差額でもとらない限り、収入はどこも大差ないはず。ということは一人あたり給与が40÷71=56%に抑えられていることになる。
申し訳ないが、正直、保育所の保母さんの給料はお世辞にも高いとはいえない。ぎりぎり一人暮らしが可能な程度だ。
その半分ということになると、想像を絶する額だ。まさにブラック保育園だ。
そうやって浮かせた100-56=46%の金を、“利益”として計上することになる。なぜなら株式会社であり、営利企業であるからだ。
横浜市では株式会社の比率が25%に達している。全国平均は2%だから、この間の横浜市での保育所増設分の殆どを株式会社が占めることになる。
人件費比率40%は決して突出した数字ではないことが分かる。
さらに困るのは、このような給与でスタッフを確保するのは無理があるということだ。たぶん保母さんが7人やめたら、この保育園は潰れるだろう。現に2ヶ所がすでに潰れているという。
赤旗ではあるケースが報告されている。
この保育所では保育士7人が一斉退職した。給与は手取りで14万円、賞与は年2回1万円ちょっとだった。
給食も粗末で、から揚げなら子供は1個、保育士は3個だけ、子供も保育士もお腹をすかせていました。
これがブラックでなくて何なのか。
営利企業は逃げ足が早い。
しかしママさんパワーは強い。舐めてはいけない。
「市が認可したのだから市が後始末しなければならない」、ということになる可能性がある。そうなれば、市は結局高いものを掴まされたことになる。