テレサ・シュティヒ=ランダル(ソプラノ)
イーラ・マラニウク(アルト)
ヴァルデマール・クメント(テノール)
クルト・ベーメ(バス)
録音:1956年11月 ウィーンでのライブ録音(モノラルだが擬似ステ化)
このモーツァルトのレクイエムには度肝を抜かれた。キリエは壮大にして悲劇的なフーガ。激しく咆哮するレクイエムなのだ。
モーツァルトの最晩年がシュトルム・ウント・ドランクと重なったとしてもなんの不思議もない。フランス革命の2年後であれば、こうあるべきかもしれない。ベートーヴェンの獅子吼とは違う。それはモーツァルトの獅子吼なのだ。
ベームの演奏は、古楽器の連中があれこれと解釈するよりは、はるかに説得力がある。
音は1956年らしく貧弱だ。高音はひしゃげ、強音は潰れている。ライブだというからさらに条件は悪い。しかしsれを乗り越えて迫ってくるデモーニッシュな迫力がある。
これまではコリン・デイヴィスとドレスデンのライブ盤を愛聴してきた。多分それは変わらないだろうが、なにか疲れた時に、がーんとこれで一発かましたい感じにさせる演奏である。
それにしても、久しぶりに聴くとデイヴィス盤はいいなぁ。小さな音で再生すると、音が遠くで鳴っているようなくぐもった感じだが、音量を上げると部屋中が音で満たされる。
大編成で、残響が多い環境での演奏なのに、リズムがしっかりしていて崩れがない。だから濁りが最小限に抑えられてクリアーである。