「産経ビジネス」で「なぜ日本の天然ガス価格はアメリカの9倍も高いのか」という特集記事を出している。
一橋大学の橘川武郎という先生の書いたものだ。
読んでいくと、情報はそれなりにためになるが、結局LNG購入価格が高いことの言い訳を書き連ねている感じだ。(ただし最後にサプライズがある)
理由その①
全体として脱原子力依存の方向性が打ち出されることは間違いないが、代替エネルギーをいかに確保するかについてはコンセンサスが形成されていない。これは9倍の値段で買う理由にはならない。ただ電力会社が価格引下げにまじめに取り組もうとしない理由にはなる。
理由その②
日本に輸入するには、現地で冷却して液化し、LNG専用船で運搬したうえで、わが国に着いたのち再び気化しなければならないため、コストがかかる。した がって、mmBTUあたり2ドルでシェールガスを購入しても、日本ではmmBTUあたり10ドル程度になるといわれている。これはウソとは言わないが相当の過大評価だ。3.11の前、日本の購入価格は10ドル前後、この頃アメリカやヨーロッパの購入価格は5ドル前後だから、その差額がすべて輸送コストと見ても、mmBTUあたり5ドル前後だ。
なお、ヨーロッパの購入価格が3.11前後に大幅上昇しているのはロシアの値上げ攻勢によるものである。日本も今後の購入先選定の際に、近いからといってロシアものに手を出すのには慎重でなければならない。
理由その③
天然ガス・パイプライン網の整備という点でわが国は、国際水準に比べて、「2周遅れ」の状況にある。韓国では国内の天然ガス・パイプライン網が整備されている。
長期的に見るとその通り、原発頼みのエネルギー政策を続けてきたツケである。
ただ海外のLNG生産基地と直接パイプラインをつなぐわけではないから、高い購入価格の説明にはならない。
理由その④
安定供給確保を第一義的に追求し長期契約方式をとったこともあって、LNG価格の原油価格リンク(油価リンク)を外せないことにある。油価リンクを解除できない限り、わが国の天然ガス調達価格は高くならざるをえない。
これが一番もっともらしい理由だが、そのウソは簡単にばれる。まず基礎的なことだが、日本だけが油価連動方式をとっているように表現されているが、ヨーロッパとロシアの契約も油価連動方式だ。もちろんこれを変更しようという動きは出ているが。
第二に、LNG購入価格が上がったのは油価リンクとは関係のないスポット買いのためである。もともと日本のLNG購入価格は10ドル前後だった。たしかに原油価格は乱高下しているが、3.11以前にすでに原油価格は高騰しており、それ以降1.5倍には上がっていない。
第三に、日本の主要なLNG購入先は中東産油国ではない。マレーシア、インドネシア、オーストラリアが御三家であり、インドネシアを除いて非産油国である。ロシアからも輸入されているが、サハリン天然ガスでのロシアの強引な態度は嫌われている。
第四に、これは商売のイロハだが、いかに油価リンクしようと、同じものを売るのに、他国に販売する価格の9倍を吹っかけるなどありえない話である。
理由その⑤
日本の電力会社やガス会社が、韓国や中国のライバルたちに比べて、LNGを「まとめ買い」する点で立ち遅れており、それが調達価格の差となって表れているということで、韓国と中国の購入価格を比較している。このグラフはけっこう衝撃的である。率直に言って「まとめ買いでお得」のレベルではない。日本の購入価格が実勢レベル以上に吊り上げられているとしか取れない。
なお、「まとめ買い」云々は、スケール・メリットという観点からは事実に反する。財務省のホームページで見る限り、日本の購入規模は段違いである。
理由その⑥
わが国の総合商社は総じて、今世紀に入ってからビジネスモデルを改め、コミッション・マーチャントから資源の産地等に対する投資者へと姿を変えつつある。産地(ガス田)に利権を持つようになった者にとって、天然ガスを安価で売買することは利害に反する側面があるだろう。
橘川先生、最後にそっと本当のことを書いた。これが9倍の真のカラクリだ。当然東電の子会社へのキックバックはあるのだろう。つまり三菱商事と東電がグルになって価格を引き上げて、濡れ手に粟のぼろもうけをしているということだ。
世間ではふつう、こういうのを「火事場泥棒」という。泥棒のなかでもとりわけ卑劣で許せない奴だ。しかもその泥棒が放火犯でもあるとすれば、八つ裂きにしても足りない。
一体どこが守秘義務だ!