本日初めてウラニア盤のエロイカというのを全曲通しで聞いた。
思い出すと、高校生の頃に「レコード芸術」でそういう海賊盤があって、すごいんだという記事は目にしたことがあった。あの頃からフルトベングラー・フリークというのはいたのだ。
この演奏の特徴は、フルトベングラーらしくないということだ。だからいいのだ、と私は思う。
「デモーニッシュ」と呼ばれる独特の雰囲気がない。あのドロドロティンパニーが聞こえてこない。弦楽器が団子になってぶつかってくる感じもないし、管楽器の咆哮もない。テンポも長いルバートなど、こまかく動かしているが曲全体としては比較的中庸だ。
1ヶ 月後のベルリン・フィルとのブラームス第一番(終楽章)と比べると別人の感がある。フルトベングラーはウィーンフィルにベルリンとは別のものを求めていた ようだ。第一バイオリンのパートが良く鳴ることがウィーンの音なのだろうと思うが、この演奏では見事にそれが実現されていると思う。
そういう点で、フルトベングラーらしくない。フルトベングラー・フリークが何故この演奏に熱狂するのかがよく分からない。


そういうことでグーグルで「エロイカ ウラニア」で検索してみる。

けっこう出てくる。海賊盤の出自らしく20種類くらいの「作品」が作られているようだ。

まず、この演奏がどのようにして世に出てきたかということだが、おおよそ以下のような経過だ。

1944年12月19日、戦争も末期の頃、フルトヴェングラーがウィーンに行ってムジークフェラインでこの曲を録音した。オーストリア放送協会の製作で、観客を入れない放送用の収録だった。

スタジオ録音ではない、一発撮りだということでは、ライブ録音だが、コンサート・ライブではないということだ。

そのテープが戦後に接収されたあと、どこからか漏出して、それを米国の海賊盤専門会社(?)のウラニアが発売した。フルトヴェングラーは販売禁止を訴え、認められた。

以来この演奏・録音は海賊盤としてのみ流通してきた。

それが、60年代に入ってソ連から音源が流出した。これはソ連政府が公式に認めたもので「メロディア」レーベルで発売されている。

これはオーストリア放送協会のテープの複製がベルリンにあって、それをソ連軍が接収したものらしい。

なれば、と、ウラニア盤の音源の方も公表され、もうフルトヴェングラーも亡くなっていることから60年代の後半に、各種のレコードが市販されるようになった。

こんな感じだが、間違っているかもしれないので、専門のページをあたってください。

話はここでは終わらない。

なにせ1944年の録音だから音質の方はかなり悪い。それは覚悟して聞いていたのだが、色々聞いてみると中にはけっこう音質がいいものもある。

そうなると人間もっと良い音質で聞きたいと思うようになる。

ここからが第二幕で、いかに雑音を取り除いて、いかに化粧をして、いかに「あったはずの音」を復元するかという勝負の世界が始まった。

ここからが第二幕である。それはいまも続いている。

むしろDSDの時代になってより加熱しているとさえ言える。

流れは三つあって、西側に流れたテープ音源、ソ連のメロディア音源、そして最近ではウラニアからの「盤起こし」といういささかマニアックな流れである。

音源のなかではBAYER社が制作した「作品」が一番評価が高いようで、これに各社が色々味付けをして、その味の良さを競っている。

ただしこれは私の感想であり、みな編集哲学と一家言を持っているから、うかつなことは言えない。


youtubeフアンに音源を紹介しておこう。

いま私が聞いたのは、

Furtwängler Beethoven Symphony No.3 "Eroica" URANIA ULP-7095, ULP-7095B - before correction

というもの。

Junpei Yakushiji さんがアップしたもので、ウラニア版からの「盤起こし」である。「修正」の前と後の二種がアップされている。音はMP4で360pだが、元の音が音だけにこれでも支障はない。

当然のことながら、良くも悪しくもLPの音である。しかも50年代に制作され、何回も通針された音源である。

furtwängler urania eroica 1944 with the highest resolution

というファイルもあって、こちらはonofrioscribaさんという人が3年前にアップしたものだが、同じくウラニアの盤起こしである。

ディスクの状態は前のものより悪く、また3年前のアップだから、youtube側の限界もある。Junpei Yakushiji さんのファイルがアップされた今ではすでに過去のものだろう。

Beethoven / Symphony No. 3 in E-flat major, Op. 55 "Eroica": 1st mvt (Furtwängler)

Beethoven / Symphony No. 3 in E-flat major, Op. 55 "Eroica": 2nd mvt (Furtwängler)

Beethoven / Symphony No. 3 in E-flat major, Op. 55 "Eroica": 3rd mvt (Furtwängler)

Beethoven / Symphony No. 3 in E-flat major, Op. 44 "Eroica": 4th mvt (Furtwängler)

は明らかに違う音源で、針音がまったくない。録音テープから作られたものであろう。コメントがなく詳細は不明であるが、素人が聞くには一番聞きやすいのかもしれない。

Wilhelm Furtwängler "Symphony No 3" Beethoven (2. Mov.) 1944

Wilhelm Furtwängler "Symphony No 3" Beethoven (4. Mov.) 1944

Wilhelm Furtwängler "Symphony No 3" Beethoven (3. Mov.) 1944

Wilhelm Furtwängler "Symphony No 3" Beethoven (1. Mov.) 1944

もある。Addiobelpassatoさんのサイトで、2013年のアップロード、MP4で720p規格だ。上とどちらが良いかはわからない、同じか違うかもわからない。

Beethoven - Symphony n°3 "Eroica" - Vienna / Furtwängler 1944

音源は上のものと多分同じだろう。上は720p で聞けるがこちらは360p止まり。


そういえば、今月はこの録音から、ちょうど70年目だ。何かの縁かもしれない。