PRD、存続の危機に

ゲレーロの学生拉致・失踪事件の経過を見る中で、かなりはっきりしていたのだが、直接の表現がなかったので、とりあえず控えていた。

11月末になって創設者クアウテモク・カルデナスが離党したことで、やっと確認された。

事実はこうだ。イグアラの市長はPRDの党員だった。ゲレロ州の知事もPRDだった。

PRDは88年にPRIを飛び出したカルデナスが作った政党が母体となっている。この党はPRIの反主流派が主体となった。彼らは必ずしも左翼とは呼べず、PRI的な風習を色濃く残していた。

その後、この党と統一左翼が合併してPRDが作られた。以来、対外的には左翼政党として活動してきたが、党内右派の地域ボス的な傾向が改められることはなかった。

いろいろな矛盾を抱えたまま、前回と前々回の選挙では元メキシコ市長のアムロを押し立てて、それなりに健闘し、地方のいくつかの知事ポストを獲得した。その一つがゲレロ州である。

現在、党の執行部を握っているのはこういう右派党員であり、それが今回の事件を通じて暴露されたことになる。

カルデナスは、メキシコ革命の英雄ラサロ・カルデナスの息子で、現在も高い人気を誇り、PRDの「顔」だった。今回の事件で執行部の引責辞任をもとめたが、容れられなかった。

すでにアムロは離党している(その理由は色々ある)。今度カルデナスが離党することでPRDは決定的な分裂を迎えることになるだろう。

ボリビアでエボ・モラレスが圧勝

まさに圧勝というほかない。10月の総選挙で、エボ・モラレスは61%という驚異的な得票率で大統領に三選された。

与党のMAS(社会主義運動党)は上下両院でいずれも2/3以上の議席を獲得した。法律は全てフリーパスとなる。

この驚くべき支持率は、経済の好調さとともに、貧困層への対策の成功にある。数年前までサンタ・クルス州を中心とする平原部では、ボリビアからの分離をふくむかなり強力な反モラレスの動きがあったが、すっかり影を潜めた。

少し分析してみる必要がありそうだ。

ブラジルのジルマ・ルセウは辛勝

ブラジルの選挙はメディアの影響が大きく、浮動票の行方が大きく左右する。去年のワールドカップ反対運動で、それまで盤石と言われたジルマの基盤は大きく揺らいだ。

だいたい大規模な公共事業が増えれば、その筋の人々には相当の恩恵がもたらされる。労働党とてもその例外ではない。一方で物価は騰貴するから、多くの貧困者にはしわ寄せが行くことになる。

ところがワールドカップでブラジルが連勝していくと、ジルマ人気も挙がる。してやったりとほくそ笑んでいると、「世紀の惨敗」があってジルマ人気もふたたび地に落ちる。

とは言うものの、まさか選挙に負けるとは思っていなかったが、ペトロブラスを舞台にした大規模な疑獄事件が明らかになると、野党との差はみるみる縮まり、一時は世論調査で逆転された。

大企業はここぞとばかりメディアを動員して、おそましいほどのジルマ攻撃を展開した。それでも最終盤になって跳ね返した労働党の地力も大したものだと思う。

決選投票(10月)ではジルマが51.5%、対立候補が48.5%という際どいものだった。

ところで、ブラジルの対立の構図だが、必ずしも保守対革新とは言いがたい。ルーラ以降の労働党の基本路線は「新自由主義」そのものである。労働党の掲げる経済政策は「改良型新自由主義」であり、新自由主義を基本に据えながら、それによって生じる社会の歪みを各種社会政策によって取り繕っていこうとするものだ。

これに対する野党の主張は、社会政策などという面倒なものは止めてしまい、本来の弱肉強食の世界に戻せということになる。

危機感を募らせた知識人、大学教授、芸術家、社会運動家ら2000人が共同声明を発表した。

ルセフ政権継続を阻もうとする一種のクーデターが進行しつつある。大企業、銀行家、マスメディア、右翼、在外勢力(米国など)が結託してルセフ再選を阻止しようとしている。

彼らは<腐敗>、<経済停滞>、<超インフレ>などを誇張し、労働党政権に不利な世論づくりの運動を展開している。

今回の決選は、ルセフの「ポスト新自由主義」(社会政策を大幅に加えた改良型新自由主義)と、ネヴェスの「野蛮な新自由主義」との戦いだ。

ルセフ打倒運動の中心にいるマリーナ・シルヴァや、元大統領フェルナンド=エンリケ・カルドーゾらは、1982年に結成された新自由主義者の組織「米州対話」の会員だ。

90年代のカルドーゾPSDB政権期のように、ブラジルを金融資本と米国の意思に支配させてはならない。米国の介入からブラジルとラ米を守るにはルセフ政権を継続させねばならない。(伊高浩昭氏の紹介)

そして、勝利した。ブラジルの民衆は辛くも、地獄の口の一歩手前で立ち止まったことになるのだろう。