ブラジル、ボリビアに続きウルグアイでも革新勝利の勢い
投票日は11月30日なので、結果はまだ出ていないが、世論調査では拡大戦線が圧倒的優勢を示している。今度の勝利により、革新政権の支配がウルグアイでは定着するだろう。
この国は伝統的にコロラド党とブランコ党が政権を握ってきた。それが70年代前半に社会党・共産党を中軸とする拡大戦線が登場して、政権を脅かすほどの勢いを示した。危機感を感じた支配層は軍事クーデターを敢行し、独裁政権が樹立された。
しかし軍事政権は長くは続かず、80年代の前半に民政に移行した。しかしこの間の弾圧で拡大戦線はボロボロにされた。
それから長い間の試練を経てタバレ・バスケスが勝利し拡大戦線が政権を握ったのは2004年のことであった。最初は少数与党として中道的政策を強いられたが、徐々に議会でも勢力を伸ばし、政権基盤は安定してきた。
かつては南米のスイスと呼ばれるほど手厚い社会保障と労働者保護を行ってきたが、現在はそれほどの経済的余裕はない。政策選択の幅は限られているが、その中で地道に精一杯やっている。
もっと注目されて良い政権であろう。
野党ブランコ党は農牧業を背景とする伝統政党である。かつて圧倒的勢力を誇ったコロラド党は、新自由主義政策が裏目に出て現在は第三党に転落、存在意義を失いつつある。
ベネズエラがガソリン値上げに
ベネズエラは世界で一番ガソリンが安い国である。もちろん石油が産出されるからでもあるが、何よりも大きいのは莫大な政府の補助金である。
年間なんと150億ドルの補助金が国庫から支出されている。日本円で言うと2兆円に近い金額だ。ベネズエラの国家予算が年間400億ドル強だから、これだけで1/3になる。誰が考えてもこれはやり過ぎだ。
ベネズエラでガソリンを入れると、40リットル満タンで50円だそうだ。リッターじゃないよ! サウジでもその7倍はとっているそうだ。
どうなるか、麻薬よりも金になる。密売が商売になる。1日の総消費量80万バレルのうち、10万バレルがコロンビア、ブラジルに密輸され、その損失額は年80億ドルにも及ぶ。それでガソリンが不足して米国から輸入している。
もっともこれはチャベスが始めたわけではなく、それ以前からの“悪しき風習”だ。ラテンアメリカは公共料金値上げには殊の外敏感で、バス代が10円上がるだけでも全国ゼネストが起きる。
私が大統領なら有無をいわさず10%にするところだ。強い政権の時にこそ断行すべきだし、原油価格の値下がりという外圧のもとで絶好のチャンスだと思う。
これでインフレに拍車がかかると危惧する向きもあるが、この国の基礎生活資料は圧倒的に輸入に頼っているので、直接物価に反映するとは考えにくい。もしやばいと考えれば公共運輸機関への選別補助を維持すればよい。
この国の社会保障費は上がったとはいえまだ低い。税金は所得の再分配に回すべきだろう。そういう意味では、今回の補助金を減らして社会保障に回そうというスローガンは正しい。
ベネズエラ経済が急速に悪化
ベネズエラ経済が急速に悪化している。①インフレは去年が56%、今年はさらに上回り100%超えが予想されている。②一方でGDPは4%後退する見込み。③この結果、財政赤字はGDPの20%に達する見込み。
要するにスタグフレーションと双子の赤字が膨れ上がるということだ。
ただ次の記載は要注意である。
一家四人の標準家庭の食費は今年、月790ドルだった。2012年には290ドルだった。これだと2年間で2.7倍に跳ね上がっていることになり、物価上昇率をはるかに上回っている計算になる。
行けばずれにしても、主要な原因は国際原油価格の低下。米国の原油生産の増大、中国経済の伸び悩みによる需要減少の重なりで、これまでのバレル100ドル台から93~94ドルに低下した。
このまま行けば来年度は80ドル台に下落することも考えなければならない。
政府は、当然これは予想していて、そのための備えもしている。とはいうものの、やはり高い原油価格を当てにした政策もやってはいるわけで、それが今後3年間に100億ドルに達する債務の支払だ。とくに対中国の借款が厳しい状況を迎えている。
政府は、これにCITGOの売却金で対応しようとしていた。CITGOは国営石油会社(PDVSA)が所有しており、年間8億ドルの純益を上げている。これを80億で売ればとりあえずの債務支払は可能である。ところが買い手は現れなかった。

ニューヨーク州ベルゲンのCITGOスタンド
以上のように状況は大変厳しいが、これを機にベネズエラ経済が奈落の底に沈むというのは、反政府勢力の宣伝のたぐいであろう。
むしろこれを機に、あまりにも政治的な意図で膨らませすぎた国庫財政を思い切り整理するチャンスが来たと見るべきではないか(例えばガソリン補助金)。
あの時のキューバを考えれば、できないことなどひとつもない。FARCはタガが外れている
陸軍対ゲリラ戦特殊部隊の司令官アルサテ少将がFARCに捕らえられた。これまでFARCに拉致・誘拐された軍人の中で最高位だそうだ。捕まえた方も驚いたろう。FARCの本体のほうは、とうに武装解除の方向を出しているのだが、話は一向に進まない。ある意味でFARCに対する攻撃が強まり指導者の多くが逮捕されたり死んでしまったことから、統制がきかなくなっている可能性が高い。
チョコ州の州都キブドは、麻薬カルテルの拠点メデジンからアンデスを越えた太平洋側。パンナム・ハイウエイを北上すればパナマにつながる麻薬密輸ルートとなり、海岸山脈を越えれば太平洋である。犯罪者が集まっている物騒なところである。
今度の誘拐犯も、FARCというよりFARCの一派を名乗る犯罪者集団と見たほうが良いだろう。
サントス大統領は、和平会談を中止することでFARCを通じて圧力をかけせせようとしているのだろうと思うが、FARCにそれだけの力があるだろうか。
またもペトロブラスの重大疑獄
再選を狙うヂウマ・ルセフ大統領が大いに苦しめられたのがペトロブラスの裏金疑惑だった。ルセウの前のルーラ大統領も、これで危うくクビが飛ぶところだった。
今回の疑惑は、計39億ドル(4千億円)にのぼる政治資金がペトロブラス(国営石油会社)から労働党に流れていたというもの。悪名高い日本の政党助成金は13年度で354億円。ラテンのやることは半端じゃない。
その仕掛けは、企業との契約金に「礼金」を上乗せし、それを闇資金として流したというもの。
ペトロブラスは国営で、儲けは国の金だ。何に使ってもいいというものではない。私企業ならなんでもいいというわけではないが。
これを踏まえてルセフ大統領は粛清を公約した。おそらくもともとルセフはやりたかったんじゃないか。11月14日にペトロブラスの重役18人を一斉逮捕した。
ブラジルの労組のだら幹が政府を食い物にしているのは、歯ぎしりするほど悔しかったろう。このあいだ来たブラジリア本願寺の佐藤和尚さんは、労働党政権の幹部も務めた人だが、ルーラ以下労組幹部の腐敗ぶりに頭にきてやめてしまった。
ルセフは学生時代に反軍政の闘いでゲリラに参加し、秘密警察に捕らえられて拷問された経歴を持つ。組合活動家の成り上がりとはレベルが違うのである。
こういうとき、やはり野党との緊張関係は必要だ。間違ったら容赦なく叩かれることも民主主義に必要な試練である。
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