セルとウィーン・フィルの運命というのがあったので聞いてみた。

ウィーン・フィルというのは指揮者の棒の通り弾かない。忘れた頃に音が出てくる。だいたい、ろくに指揮者の棒など見ていない。セルにとってはたまらない苦痛だったと思う。

オーボエはセルの一番嫌いな音を出す。ホルンは盛大な音外しもなんのその、みずからの音色に酔いしれる。

セルは癇癪を起こした。あるいは計算していたかもしれない、第一楽章の終わり、コーダに入る手前、オーボエのソロで思い切りルバートをかけた。さすがにオーボエはひっくり返った。

セルの分厚いメガネの底でめんたまがぎらりと光ったろう。それからの演奏は俄然変わってくる。アメリカの楽団みたいだ。

ホロヴィッツのオケ伴をやってニューヨークフィルにムチを入れて、死闘を演じたチャイコフスキーが思い起こされる。

死ぬ1年前の演奏だが、血の気の多さは最後まで変わらなかったようだ。そういう眼から見ると、ウィーンフィルをブイブイ云わせたきわめて痛快な演奏である。