以下は泰羅さんの論文の最後の部分である。

5.“ナビゲーションの脳内メカニズム

目的を持った移動のことをナビゲーションという。

我々は普段から通い慣れた道を,特に意識することなく,目的地に到達することができる。このような移動を,ナビゲーションという。

(1)ナビゲーションの脳内プロセス

目的地に行こうとすると,まず,脳の中に認知地図が形成される。

しかし正確なナビゲーションのためにはこの認知地図だけでは不十分であり,その下の階層に,ルート地図(道順)がセットされる。この地図は具体的で,場所の情報とそこでの行動が関連づけられ,順番にリストとして記載された地図である。

このルート地図は視覚情報に基づく運動制御という点で,頭頂葉が関与している。

(2)道順の障害

高橋ら(Takahashi ら, 1997)は頭頂葉内側面,特に脳梁膨大後部が損傷された患者が道順障害を起こすこと報告した。

これらの患者は風景を見て,どこであるかはわかるが,どちらの方向に行ってよいのかわからず,道に迷ってしまっている。

この症例では,ルート地図が失われ,場所と行動の関連づけができなくなり,道に迷ってしまったと解釈できる。

(3)ナビゲーションニューロン

サルにナビゲーションのトレーニングを行うと、頭頂葉内側面には課題遂行中に活動するニューロンが証明された。これらのニューロンは,場所関連ニューロン,運動関連ニューロン,ルート選択性ニューロンに分類された。

この内のルート選択性ニューロンがルート地図に相当すると思われる。


これが話しのあらすじである。

注目すべきなのは、対象とする行動が「見る、捕まえる、逃げる」という即時的な行動ではなく、目的を持った行動であり、太古の昔からの、動物の動物たる根源的な所以にかかわる行動だということである。

この場合、目的地を示す脳内地図が認知され、その下位にルート地図が作成されるのだそうだ。このルート地図は二つの特徴がある。

ひとつは、「順番にリストとして記載された地図」だということである。この場合「地図」は1枚でなく数枚から数十枚のセット、すなわち動画のコマの集合だということだ。これは普通「地図」とは言わない。

もう一つは「視覚情報に基づく運動制御」ということで、地図のような俯瞰情報でなく、目の前に広がる「見たまんま」の情報だということだ。歩きならとった連続写真に吹き出しで注釈がついている、漫画みたいなものだ。

ルート地図というが、「見たまんま」の絵柄は地図ではない。むしろグーグルのストリートビューの方がピッタリだ。


正直のところ、まずもって目的地を示す「認知地図」が形成されるということには、実感が伴わない。だいたい私などは当てずっぽうで歩くことが多い。

それに、ナビゲーションというのはどこかに行く方法ではない。航海の最中にこういう状況になったらこうせよという経験と知識の積み重ね、航海術の体系だ。

車のナビは両者を折衷したようなもので、進行方向を真上にセットすることで人工的に前後感を出している。これはGPSという「磁石」があるから出来る芸当である。

方向音痴の女性に目的地に行かせようと思ったら、地図をもたせるよりはストリートビューの要所要所の写真を綴りにして持たせて、それをめくりながら歩かせるのが良いのかもしれない。


道順の障害、ナビゲーションニューロンについては、いまのところなんともコメントのしようがない。どちらかと言えば記憶力の問題が大きいように思う。大事なことは視覚情報がまずもって動画として記憶され、要所要所だけが選択的に記憶されているということではないだろうか。