頭頂葉 視覚と運動のインタラクション」  泰羅 雅登

という論文が見つかった。V5(MT野)まできて、頭頂連合野まであと一歩というところで、ミッシングリングを解き明かす鍵になってくれるのではないかと期待して読む。

1.視覚と認知

視覚によって外界の情報を取り込んでその情報をもとに外界に対する運動を組み立てるという意味で,頭頂葉は「視覚と運動のインタラクション」を演出する領域といってよい。

脳内の視覚情報処理経路は大きく2つに分けられる。

A 腹側視覚経路(Ventral pathway)

視覚前野を経て側頭連合野にいたる。

主として色や形の情報を処理し,形や色の二次元情報からその物体を同定する「物体視(What)」の経路である

B 背側視覚経路(Dorsal pathway)

視覚前野を経て頭頂連合野に至る。

物体の位置,奥行き,動きの情報などを処理する「空間視(Where)」の経路

頭頂連合野は静的な認知だけではなく、動的な認知を司っている。これは認知より行為と密接に結びついている。それは行動しながらの連続的な認知である。それはとくに手先の巧緻操作において決定的な役割を果たす。

C AIP野

1990年、サル頭頂連合野ニューロンの解析によって,AIP野操作運動関連ニューロンが見つかった(Taira ら)

その後、頭頂葉が「運動のための視覚情報処理(How)」を行っていることが知られるようになった。つまり,頭頂葉は,処理した視覚情報を運動の企画・実行のために運動関連領域に送る役割を果たしている。

2.背側経路の障害

まず背側視覚経路の障害での臨床症状を簡単にまとめておく。

①半側空間無視

②傾きの認知障害

③立体視の障害

④三次元構成失行

⑤手の運動障害

⑥オリエンテーション障害

これらは失書・失算のないゲルストマン症候群とも言える。

3.MT野から頭頂葉へ

parietal

頭頂間溝(intra parietal sulcus : IPS)領域はいくつかの小領域に区分されている。

LIP(lateral intra parietal):前頭眼野と強い線維連絡があり髄鞘染色で濃く染まる領域である。

CIP(caudal intra parietal):LIP後方の野。奥行き知覚に関連。

AIP(anterior intraparietal):LIP前方の野。操作運動の視覚的コントロールにかかわる。

4.頭頂葉の認知機能

a. 立体視の脳内メカニズム(CIP関連)

b. 操作運動の視覚的制御

AIP 野の操作運動関連ニューロンは運動前野腹側部(F5)との間に密な線維連絡がある。

これらの操作運動関連ニューロンは活動を視覚性の成分と運動性の成分に分離できる。

“視覚優位型”ニューロンは操作対象の形状の識別に関係し,“視覚・運動型”ニューロンは運動情報と視覚情報を統合している。



泰羅論文の感想

泰羅さんは東京医科歯科大学の先生でお医者さんのようである。根本のところの問題意識が共通しているから話がわかりやすい。

1.視覚と認知

What とかWhere とか使わずに腹側と背側とあっさりまとめているところもよい。

動的な認知という言葉もよい。私の言う「時間軸の導入」に近いと思う。

ただ前にも言ったのだが、たとえば指先の巧緻運動などは、動物が動くことの一部であり、のちになって発達してきたことである。「動く」ことの本質は移動することにあるのであり、そちらがより根源的である。

それをとりあえず察知能力としておく。ついでに腹側経路→V4の方は認識能力と名づけておこう。資格情報は片や認識能力の土台となり、他方において察知能力の土台となるのである。これについては稿を改めて考察したい。

2.背側経路の障害

これはゲルストマン症候群のうち、失行・失認に関する症状だ。

以前失書・失算のみを主徴とするゲルストマンの不全型があるのではないかと書いたが、逆に純粋に背側経路の障害のみを主徴とする病態もあるらしい。

①から⑥の徴候のうち①、③を除けばいずれも時間感覚がらみだ。これも背側経路が時間軸の導入という働きを持つことの証明となる。

4.頭頂葉の認知機能

三つのフィールドのうち、CIPはV4からの流れのようだ。LIPの機能は良く分からない。目下は知見を集積するのが先行しており、まだ概念づくりには手が回っていないような感じだ。

とりあえずわかっているなかでは、AIPが「運動のための視覚情報処理(How)」を行っているとされ、視覚と運動を結ぶ結節点になっているようだ。もちろん視覚と言っても動的視覚であろうし、それは基本的にはMT野由来のものであろう。

「AIP野操作運動関連ニューロンが見つかった」のが、1990年というのには驚いた。まだたかだか20年余である。それなら知らなくても恥ではない。発見したのが日本人らしいということも初めて知った。

 

ナビゲーションの話は非常に面白いので、別の話にしようと思う。