言語は技術
言葉・言語は知的生産のための最大の技術です。
言葉というのは聞いてしゃべることで発達してきました。
動物が叫び声や鳴き声でもって情報伝達するのと同じです。
しかし人間は母音と子音の組み合わせを用いて多くの種類の音を作りました。日本語で言えば五十音がそれに相当します。
これによってさまざまの事物が名称を持つようになりました。これにより人間の知識は飛躍的に発展するのです。
それに対応して脳も大きく進化しました。音声の弁別能力と発声・発音の運動能力です。
言葉と脳
ここまでなら、それでめでたしめでたしです。
聴神経を経由して入力された信号が、頭頂葉のウェルニッケと呼ばれる区域で言葉として認識され、それが海馬に蓄えられた記憶と突き合わせながら整理され、前頭葉で判断され、最後には側頭葉のブローカというところで言語に変換され、口や喉の関係する筋肉に伝えられます。
古事記やユーカラやポポル・ブフなどの口承文学はこのようにして作られてきました。
文字は言葉から言語への飛躍
ところが文字が発明されると、話は俄然難しくなります。
文字(これには数字や記号もふくまれますが)は言葉というより言語というべきでしょう。
そこには飛躍があります。量から質への転換です。
まず入力と出力の経路がまったく異なります。言語情報は眼から入ってきて、後頭葉で視覚化されたあと、おそらく頭頂葉の何処かで情報として処理されます。そしてどこかで耳からの情報と合流し、一体化し前頭葉に送られます。
もう一つは情報の素材的形態がまったく異なることです。むかしは音源を収録するのには音を流しながら録音するしかりませんでした。いまはデジタルですから、演奏時間60分の音源を4,5分でダウンロードできてしまいます。その代わりDAコンバータが必須です。
“内言語”の発展とデジタル化
文字情報を受け入れる際に、情報は脳の中で“内言語”化されています。
文字情報はデジタル情報であるために、内言語化されないとアナログ情報である聴覚情報と統合できないからです。
おそらく前頭葉の中でも、直接に話し言葉を判断・操作する区域と、デジタル化された内言語を操作する区域は異なるものと思われます。
そして判断を受けた思考が命令となって頭頂葉に戻ってきた時、ふたたびしゃべり言葉への転換・伝達系と書字系(キーボード入力を含む)の転換・伝達系にそれが分配されることになります。
書字障害は失語症とはまったく別だ
その際、書字系への出力は外言語(しゃべり言葉)にいったん変えられてから手指へと伝達されていることは、経験上明らかです。ゲルストマン症候群で書字障害が出てくるのは、まさにこの転換の障害であろうと思われます。
以上のような作業仮説に基づいて、最新の脳科学の成果をあたってみたいと思います。