バットがボールにヒットする瞬間、腕とバットは真っ直ぐではない。必ず手首はバットより下、前にあるはずだ。手首はそった状態で、この固められた反りがボールを受け止める。そうでないと手首の返しは効いてこない。
この反りの程度は選手によってさまざまで、これがフォームを規定する。さらに内角球を払うときには外角を流し打ちにするよりもっと立てなければならない。その分は腕力と腰の回転でカバーするのである。
反りの強いのが「神主打法」と言って、昔は阪神の藤村富美男選手が有名だった。今なら稲葉の打ち方がまさに神主打法である。
この打ち方だと、バットはタマに対してこするようにヒットする。いわゆる大根切りである。したがってタマはラインドライブがかかって伸びていく。平凡なセンターフライと思ったのが意外に伸びていってスタンドまで届いてしまう。
陽岱鋼の2打席連続ホームランがまさにこれだった。
神主打法は内角に強い代わりに外角には手が届かない。だから届く限界が外角いっぱいになるように打席に立たなければならない。陽岱鋼は手首の反りの感覚が狂っているから、外角の感覚が崩れている。いわゆるドア・スイングだから、届かない球が届くように見えてしまうのだろう。


間違いがないかと思って、ウィキペディアをあたってみた。
間違っていた。神主打法の最初は藤村ではなく岩本義行だった。
神主打法という名称はバッターボックスでの構えの問題で、バットを逆傾斜に構えて投球を待つスタイルのことのようだ。
私の言っているのはインパクトの瞬間に、ボールに対して手首の位置が低くなるような打撃法のことなので、「拝み打ち」という方が正確なようだ。バットの生み出す遠心力は多少犠牲にしても、その分ボールに回転を与えることで飛距離を生み出す技術だ。
中田ならレフトスタンド上段に飛んで行くが、この打ち方ならセンターから左中間にライナーが飛んで行く。
ダウンスイングや、大根切りとは違う。ダウンスイングではボールをバットの短軸方向でこすってドライブをかけるが、拝み打ちでは長軸方向にこすることになる。