東南アジア金融危機が経済マクロに与えた衝撃についてはかなり詳細な報告があるが、それが民衆の生活に及ぼした被害についてはあまり知られていない。

北沢洋子氏の報告は,金融危機の実相を良く伝えている.長くなるが引用する.
1)  失業の増大
 金融危機の発生と、その後のIMFの引き締め政策押し付けによって、企業倒産と失業が急増した。ILOによると1,000万人が新たに失業した。インドネシアでは,靴などの非繊維製品部門の失業率は50%,建設部門では75%に上っている(アジア開銀)。
 タイでは
200万人が失業した。建設部門での失業は34%増となった。さらに半失業者の数が増加しており、740万人に達した。タイの繊維、エレクトロニクス産業の労働者の90%は女性であり、危機は女性により多くの打撃を与えた。
 韓国では17,613社が破産した。失業者数は178万人に及んだ。労働者20人中1人が失業したことになる。失業は、女性に、若年層に、未熟練労働者に集中している。解雇されなかった労働者も収入が激減した。労働権は侵害され、労組の組織率は著しく低下した。
2) インフレ
 インフレの昴進は貧困層の家計に打撃を与えた。インドネシアにおいては年率77.6%のインフレを記録した。インフレが貧困化の最大の要因であった。これはIMFのコンディショナリティによって、燃料、電気、大豆、砂糖、小麦粉などへの政府補助金が撤廃されたためである。食料品の価格が250%から500%も値上がりした。インドネシアの全所帯の4分の1が、肉、卵、魚といった重要な蛋白源の食料品への支出を減らしたというデータがある。
 インドネシアにおいては、農村部の世帯の収入は5%上昇したという記録があるが、一方都市部の世帯は
40%も激減している。労働者の賃金は30%減少し、世帯平均の支出は24%減となっている。
3) 貧 困
 1998年、世銀はこの地域の絶対的貧困者の数は倍増し、9,000万人に達したと述べた。そのうちインドネシアでは 1,700万人に達した.インドネシアでは、学生の就学率は25%下落した。子供の予防ワクチンの接種も有料となり、貧困家庭には負担できなくなった。5歳以下の子供に対する検診回数は、50%も減ってしまった。幼児死亡率は、30%上昇すると見込まれている。医薬品の不足から、多くの診療所が閉鎖に追い込まれている。
 タイでは、人口の
15%~20%に上る800万人が,1日2ドル以下の貧困状態にある。タイの失業者数の64%が、農村部に集中している。タイでは、農民が人口の60%を占めているのにもかかわらず、その収入はGNPの11%にすぎない。
 農村では都市の労働者からの送金が途絶え、都市から失業者が帰村した。さらに肥料・農薬・農機具などの値上がりと高金利によって農民の貧困化が進んだ。負債を抱えている農民は、
500万人に達すると見られる。
 韓国の貧困層は
550万人に上った。人々の収入は20%も減少した。一方、食料品の価格は20%、燃料は25%も上昇した。韓国の自殺者の数は月平均900人に上っている。離婚、家庭内暴力、犯罪の件数も増えている。