むかし、デートというのは歩くことだった。
思えばすさまじい距離を歩いたものだ。
とにかく行くところなどないから、ただひたすらに歩いたのだった。

新幹線で京都まで行った。彼女は同志社に行っていた。駅からバスに乗って、彼女が好きだという大徳寺に行った。
門を入ると広い砂利道がどこまでも続いていた。大徳寺というのはお寺の集合体らしい。道の両側は白壁がどこまでも続いていた。
1月末の境内に客の居ようわけがない。どこまでも二人だけだった。
手などつないだ憶えはない。なにか喋った記憶もない。ただ黙々と歩いたように思う。
時々、ちらっと彼女の横顔を覗いた気はする。彼女がこちらを見やる視線も感じた憶えもある。
寒かった。まだ昼下がりというのに、日差しは弱々しく、風が少し出始めた。その風にウエイブした髪が揺れて乱れて、時々掻き上げる指が眼に残っている。
来た道をもどって、停留所でバスを待った。「もう帰る時間だね」と言って、また無言になった。
バスは空いていた。彼女と並んで腰掛けた。そのときバスの暖気に乗って、彼女の耳元からかすかにジャスミンの香りがした。私は髪がかかるほどに耳元に鼻を寄せ、二度、三度と吸い込んだ。
彼女が石のように身をこわばらせているのを私は感じた。

なんちゃって、最後はウソ。昭和41年のこと。香水はホント。
ここだけにしておいてください。