カンデルは「あめふらし」の神経細胞の研究で、2000年のノーベル賞を受賞した人物。記憶がシナプスの接合という形で形成されることを明らかにした。

当時の新聞報道ではこうなっている。

ウミウシを用いて、シナプスにおける信号伝達の制御メカニズムを明らかにした。
そしてシナプス部位におけるタンパク質のリン酸化が学習や短期記憶で中心的な機能を果たしていることを証明した。
そして長期記憶の形成にもシナプス部位にあるタンパク質の変化が必要であると示唆した。

リン酸化の問題は、エピジェネティクスにおけるDNAヒストンのリン酸化にも関連して興味深い。

ところが、エリック・カンデル(Eric Richard Kandel)に関するウィキペディアの記載は相当辛辣である。

あめふらしについてウィキペディアは触れず、「CREB分子のブロックにより長期記憶の形成に関連する一連のイベントが起きない事実を発見した」という、かなり末梢的な事実のみを記載している。

CREBはcAMP応答配列結合タンパク(cAMP response element binding protein) の略。神経細胞ニューロン間の恒久的接続を確立するタンパク質を、転写・翻訳するのに必要な因子

さらに「還元主義者としても知られる」とかなり侮辱的な評価を浴びせている。あめふらしの観察を記憶一般のモデルとして提起しているからなのか、筆者の意図が不明である。

彼の行った一連の実験は現在様々な意味で話題を振りまいている。…カンデルは実際に(記憶の)抑圧を可能にする神経メカニズムも存在することを実験で証明し、フロイトの概念を神経学が補完できる可能性を示した。

こういった記憶の操作に関する実験により開発され始めた、記憶強化薬や忘れ薬といったものが議論の的になっている。

これだけ読むと、「何だ、こいつは」ということになる。

実はこれには理由があって、カンデル先生、アメフラシに飽きたらず臨床の場に首を突っ込み始めているのである。

この研究をNHKが取り上げたらしいが、それはもう閲覧不能で、その内容が散策とグルメの記録というブログで紹介されている。

米国コロンビア大学のグループが記憶力低下の原因物質がRbAp48であることを証明 認知症や物忘れに朗報  (2013-8-29放映)

カンデルとコロンビア大学の研究グループが、33歳から89歳までの男女18人の脳の“海馬”に注目、調査しました。その結果「記憶力低下の原因となる脳のたんぱく質を特定」しました。

それがRbAp48という物質で、老齢マウスにこの物質を投与すると記憶力が回復したというものだ。確かにキワモノ的な研究だ。

ほかのサイトではもう少し詳しく研究のプロシーデュアが紹介されている。

コロンビア大学のPavlopoulosらは、8名の脳(33歳~85歳)で遺伝子発現を比較した。その結果、17種類の遺伝子が老化に伴い変化していることを発見した。 

このなかでRbAp48が記憶力低下に関与していると推定された。RbAp48は別名NURF55とも呼ばれるヒストン結合タンパクで、脳内に大量に存在する。

RbAp48を作ることが出来ないマウスでは、若い時から記憶力が4分1しか無く、一方RbAp48を大量に生成するマウスでは、老化に伴う記憶力の低下が起こらなかった。

ということで、ウィキペディア氏は、RbAp48で人間の記憶をいじる可能性について警告しているものと思われる。

ただそれをカンデルの業績の評価と結びつけるのは、いささか短絡的ではないか、とも感じる。