鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

文藝春秋 1980年7月号 94~121ページ
新「新軍備計画論」
ー故海軍大将井上成美氏に捧ぐー

はじめに

「新軍備計画論」というのは、太平洋戦争直前に井上海軍大将が提出した意見書に賛同し、その新版となることを意識して作られた原稿だということである。
森嶋が井上意見書から引き出した最大の教訓は、「日本にできることは戦争を抑止することではなく、回避することだけである」ということだ。
敷衍すると戦争抑止は不可能であり、したがって自衛論は(国家秩序維持機構を除いて)無意味である。やるべきはひたすら開戦を回避し、最悪の場合は開戦することなく降伏する(国家秩序維持機構を保持しつつ)ことである、ということだ。
無条件降伏がけしからんというのは、論理のすり替えであって、無条件降伏しかないときに無条件降伏しないことは、国民にとってこれほどけしからんことはないのである。無条件降伏しかないところまで国家を追い込んだ指導部こそがけしからんのである。
森嶋論文は学徒動員で情報部に配属され、毎日玉砕の報告を暗号解読していた青年が、10歳上ですでに奏任官として軍のトップ機構の一員に潜り込んでいた関に対する、一種の義憤を含んでいると思えてならない。
日本の歴史には二度の有名な無条件降伏がある。一度は勝海舟と西郷との談判による江戸城の無血開城である。そしてもう一度は天皇によるポツダム宣言受諾である。
戦後日本の仮想敵は90年まではソ連であり、今世紀に入っては中国である。どちらもまともに戦っては勝ち目のない相手である。もし攻めてくれば降参する以外にない。しかしその前に、攻めてこないようにあの手この手の外交術を駆使することこそが常道である。


左翼と平和主義者の自衛論

最初は相互の立ち位置を確認した上で、自らの立場を下記のごとく端的に表現する。
私の国防論は学問よりも私の体験ー特攻隊が飛び立っていく基地で、絶望的な物量さと技術差に直面しながら、日本をどうしたら守れるか、国を守るとはどういうことかを考えた34年前ーと不可分に関係している。
次に論争を挑むきっかけになった関氏の論文についてさまざまな事情を書き記しているが、これらにはあまり興味はないので省略する。

続いて森嶋は各界の議論を紹介する。この中で左翼への言及は注目に値する。スローガン的には類似しているため、内容的な違いを際立たせようとしている。端的に言えば一刀両断である。(一面で共産党をこの国で唯一の近代政党と評価もする)

(伝統左翼は)終戦直後に習い覚えたマルクス・レーニン主義の眼鏡を惰性としてかけ続けて、国際政治の現実と関係なく合言葉として国家独占資本とか帝国主義を繰り返しているにすぎないと思う。

これとは別に、歴史の教訓に「無知」な平和主義者の平和論がある。私はこの議論について心配である。なぜならそれは平和憲法を信じ、「日本を侵略する国などあるはずがない」とか「海に取り囲まれた日本に対する奇襲攻撃などあるはずがない」といった希望的観測に立脚しているからである。

善意のみで国際関係を処理できるとい う考えは、水と安全とをただだと考える日本人の俗耳に入り易い。私は、いま戦争の危険があるとか、日本に侵略の脅威がさしせまっているなどとい うつもりはない。しかし、例えば地震などに対応するだけででなく、人為的災害である侵略などの有事に備えるべきである。そのために法律改正の必要があれば行わなくてはならない。

ということで、このあたり森嶋の論理はかなり右に揺れるようにも見える。しかしこれは統治権力・執行権力の問題であり、具体的には警察、海上保安庁、消防庁、公安調査庁などの範囲の問題なので区別して論じるべきであろう。


虎の尾を踏んだヒトラー

当初の議論が欧州の第二次大戦の対応問題にあったため、ナチスとの対応がかなり詳しく触れられているが、ここでは省略する。

一つだけウクライナとのからみで取り上げておきたいのは、ポーランド侵攻を期にイギリスが開戦やむなしの方向にカジを切ったことが、第二次大戦開始の決定的原因となったことである。
ヒトラーはイギリスの弱腰が続くと考え、ポーランド侵攻もズデーデン併合に続くブラフの内と高をくくっていたが、それはイギリスの決意、姿勢、戦争遂行能力の読み違えであった。チャーチルはフランスをいざない、アメリカに事実上の参戦を促し、フランコに中立を強制し、スターリンにさえ秋波を送った。イギリスが開戦を決意した時点で、すでにイギリスと連合勢力の勝利は決していたのである。
というのが森嶋氏の読みである。
日本の再軍備を論じるときも、それが引き金になって、強烈なソ連の カウンター・ブロウを喰らう可能性がある。その場合、責任はソ連になく、国際政治の機微に疎い日本の愚かな冒険心にある。

以下は私見である。
これを今回のウクライナ侵攻に当てはめると、去年の2月、ロシア侵攻開始の時点でロシアの勝利は方向づけられていることになる。米国とNATOを前に譲歩を重ねてきたロシアの不満と不安は沸点に達した。米国のカラー革命という名のブラフはついに拒否された。NATOはウクライナ軍事支援と対ロ経済制裁で乗り切れると踏んだが、ウクライナの基礎的体力はあまりに弱く、ぎゃくに中国と新興国のロリアへの支持は予想以上に強かった。
ロシアの勝利はアメリカとNATOの敗北ということになるが、その最大の原因はアメリカのロシアの勝利への意図と経済的体力の評価の読み違えであり、ヨーロッパの体力の過大評価である。つまり戦いが始まってしまったときに、それに勝てるだけの準備がなされていなかったのである。


「必要最小限の防衛力」とはなにか

この定義は「意味不明で不気味な」命題だ。そもそもの意味は「最小であっても足りている」ということだ。足りていないんじゃ、最小限もへったくれもない。厳密な理論としては、「ソ連が攻めてきたときに防衛するとして、どのくらいあれば足りるのか」という話になる。

関氏は「必要最小限の戦力」の中身をもう少し具体的に例示している。それは安保条約が発動し、アメリカが安保の規定に従って救援に来るまでに(具体的には2週間程度)持ちこたえるだけの戦力ということである。
関氏は「最小限」という言葉を、米軍がやってくるまでの時間つなぎだの意味だというが、だとすればソ連が全力で攻めてきたときにも、最初の一発のパンチで卒倒してしまうのではダメなのだ。

私見だが、去年の2月にベラルーシから国境を超えて入ってきたロシア軍は凄まじい勢力だった。その進撃を押し留めるためには、少なくとも同等の兵力が必要だ。
敵は十分に準備して、訓練もした上で突撃ラッパを鳴らして入ってくる。それに対抗するには同等の戦力でも足りないかも知れないが、とりあえず形式論理的に同等の戦力というのが、「必要最小限」に相当するだろう。

したがって関氏が「必要最小限の戦力は用意しなければならない」というのは、そもそも不可能な要求だ。

アメリカは助けてくれるだろうか

この議論に入る前に、右翼のナイーブな対米信頼を剔抉しなければならない。これは左翼の見解よりたちが悪い。左翼が信頼するのは国際的な正義の世論一般だが、右翼の信頼するのはアメリカ帝国主義の「良心」である。仮にアメリカ帝国主義が正義の味方であったとしても、そう簡単に駆けつけてくれるものではない。
ベトナム戦争とウォーターゲート事件の後、国民のアメリカ政府への信頼は地に落ちている。今後しばらくはアメリカの青年が日本を救うために銃を取ることは絶対にないと信じる。彼らは断固拒否するであろう。

アメリカでは参戦のためには議会での承認が必要となっている、2週間というのは率直に言って不可能だ。

現代に惹きつけて考えると、第二次大戦でイギリスがドイツに宣戦布告したのは1939年9月、しかし一衣帯水の同盟国アメリカが議会の賛成を得て参戦したのは1941年12月だ。ウクライナが侵攻を受けてからはや1年になろうとしてるが、いまだアメリカは参戦の兆しすら見せていない。

つまり「必要最小限」というのは、ソ連の本土侵攻を受けてこれを跳ね返し、1年にわたり戦線を維持できるだけの勢力を指すのである。
それが準備できないのなら武力抵抗はすべきではない。


それは「必要最小限」ではなく「可能な最大限」だ

アメリカだのみでなく、独力で日本を守るという防衛計画をたてることにしよう。
それは日本が「最小限の」核武装をするという前提に立つことを意味する。有核の防衛は、日本自身が冷戦の一つの眼になってしまうことを意味する。米国にすら警戒され、世界の孤児となる危険がある。

したがって現実的な武装は、関氏のいうよ うに無核で、アメリカが日本にして「最小限ここまでして呉れ」という武装をすることである。それはアメリカが「最大限ここまでして良いよ」という範囲になる。
ようするに最小限という曖昧な表現は、その範囲を決めるのが日本ではなくアメリカだということを物語っているのである。


玉砕と降伏 2つの経験

以下に沖縄の海軍部隊司令官太田実少将が、昭和20年6月11日に発信した戦闘概報を再掲する。これは当時森嶋が大村の海軍航空隊大村基地で暗号士として受信・翻訳したものである。沖縄の海軍部隊は、この日午後十一時三十分に玉砕 した。
本土戦(沖縄戦)は海外占領地での戦いとは、その意義も戦い方も違っている。住民がすべて日本人だということだ。
日本固有の領土で、 将兵が全員玉砕することは、正しい処置の仕方とはいえない。首脳部 以外の者は、軍服を脱いで一般市民の中にまぎれこんで、将来を期すべきである。
沖縄戦以後も日本が戦いつづけたことは、かえすがえすも残念だが、ひとたびポツダム 宣言を受諾した後は、日本は立ちなおって、 素晴らしい模範的な対応をした。軍も全体としては秩序整然として降伏したとおもう。

万が一、ソ連が攻めて来た時には同様に毅然として、秩序整然と降伏するより他ない。徹底抗戦して玉砕すれば、その後に猛り狂うたソ連軍が殺到して惨憺たる状況を迎える可能性がある。秩序ある威厳に満ちた降伏を して、その代り政治的自決権を獲得する方が、ずっと賢明だ。

ソ連兵の暴行の記憶

多くの日本人は、ソ連兵が満州で掠奪暴行の限りをつくしたとし、ソ連には降伏すべきでないと考えている。

「しかし」と森嶋は続ける。
この二つの事実は、全く対照的な状況の下で生じた。内地では、戦闘ではなく統治を目的として米軍が進駐した。政府と市民は冷静に秩序整然と米軍を迎えた。しかし満州では満を持していたソ連軍が、宣戦と同時に堰を切ってなだれこんで来た。彼らにとって周りはすべて敵国民である。
日本軍も同じ状況の下では、ソ連兵と変わらぬことを数多く行っている。悲しいことながら、それが戦争の現実だ。(南京事件、シンガポールの華僑虐殺を想起せよ)

武装自衛論は時代錯誤の大艦巨砲主義

第二次大戦 中、戦艦大和や武蔵は主力艦といわれ、潜水艦や海防艦や魚雷艇は補助艦艇でしかなかった。しかし大和も武蔵も何らの戦果をあげることもなく沈没してしまった。彼女たちは沈められるために建造されたようなものであった。
現在ではタンクやミサイルのようなハード・ウェアでなく、外交や経済協力や文化交流のようなソフトウェアが国を守っている。軍隊を増強することにより国を守れると信じるのは時代錯誤だ。もはや中途半端な軍備は国防の力にはならないと心得なければならない。

読後感

私の見るところ、森嶋の所論は「非武装・中立」として括られているが、そのような建付けではない。それは「非戦の哲学」と名付けられるべきものだ。森嶋の世代においては「不戦」と呼ぶ方がふさわしいかも知れない。そして「非戦の哲学」に基づく「戦争回避のすすめ」が展開される。森嶋の文章には日本国憲法の文字はほぼ皆無である。にもかかわらずそこには日本国憲法の精神、8月15日に青空を見上げた人々の万感の思いが満ち満ちている。
長文の論攷であり、そのすべてを紹介することは不可能である。およその骨組みと強調点の紹介のみ行った。またVoiceに掲載された「要約」の一部意味不明なところについて、突き合せしておいた。

1月1日付 北海道新聞
森嶋通夫氏の主張
戦争回避がすべて
ー 戦争準備は日本経済に重荷ー

森嶋_道新記事

多分、これだけ読んでおけば十分ではないか、と思う。非武装の論理や降伏論についてはもっと詳しく書いてある論文(とくに文言春秋の7月号論文)もあるが、端的にその情念を表出し、自衛派の詐欺的論法を一刀両断した文章はあるまい。
この文章を通読すれば「白旗・赤旗」をことさらに取り上げる論者こそが、まさに森嶋氏のぶった斬りたかった相手だということがわかる。本土防衛を呼号して一億玉砕を煽った連中が、自らはノオノオと生きながらえただけでなく、再び歴史の舞台に登場して来たことに、森嶋氏は身悶えするほどの怒りを感じている。
「お前らの言うことを聞くくらいなら、アメリカだろうがソ連だろうが降伏したほうがマシだ」という感情が非戦論の根底にはある、それは権力者の欺瞞と裏切りに対する階級的な怒りなのだ。

以下本文
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私の小論「なにをなすべきでないか… 安全保障論議で考える」に 対し、関氏は「最小限の自衛力は 「必要」と答えられ、この点につい 私の答弁を求められた。

こういう問題を抽象的に論じたり、関氏と異なる想定の下で論争しても無意味だから、なるべく関氏と同じ想定の下で議論したいと思う。関氏の最初の論文 (サンケイ新聞 昨年九月十五日号)には「核戦争に備えたシェルターなど用意すべ きである」と書いているので、以下ではそれにならって、核攻撃を受ける公算もあるものとして論じ ることにする。

歯止めない核武装

まず自衛隊を強化するとして、 無核のままで強化するか、それとも有核にするかだが、無核のままなら、いくら強化しても現状と大した違いはない。

なるほど小紛争の場合には無核の軍隊でも強いほど有効だといえるかも知れないが、その程度の事件は政治的に解決可能だし、軍隊が出動すると事態はかえって悪化する。

また軍隊を戦力としてでなく、政治交渉の際の圧力として用いるとしても、有核の国には無核の軍隊は通用しない。さらに死活の重大事件の際には、その国は核攻撃をすると脅迫してくるに違いない。
いずれにせよ、核時代に無核で戦えというのは、新版「竹やり戦術のすすめ」以外の何ものでもない

当然、核武装せよということになる。しかしその程度はどの程度か。
いまソ連の各兵力を100とすれば、日本は1でよいのか、それとも10か、あるいは50も必要か。明らかに1では0と変わりはない。10でもダメだということになれば、いったいどれくらい必要なのか。

むかし、ワシントン会議で帝国海軍は対米7割の線を、譲歩しうる最後の線だと主張した。このことから、私は自衛隊の将軍たちは、最初、ソ連の4割か5割が戦争技術的に必要最小限だと主張すると思っているが、いよいよ戦争する段になると、必ずこれでは勝ち目はないといいだすに違いないと考えている。

いまこのことを歴史で例証すると、ワシントン会議のあと、日本海軍は対米6割の線で再建されたが、このような戦力では大平洋の中央で米海軍と四つに組んで戦うことは困難である。勝つためには日本海海戦のように、米艦隊を日本近海に引きつけて、地の利を得て撃破するしかない。

こういう考えに基づいて、日本海軍は近海作戦用の強力な防衛艦隊ー航続距離や居住性を犠牲にしてその分だけ重武装した艦隊ーを整備したのだが、いよいよ実際に太平洋戦争をする段になると、海軍の考えはすっかり変わってしまった。

彼らは次のように考えた。対米6割の海軍ではアメリカに勝てない。勝つ唯一の方法は、先制攻撃をして開戦と同時に、対等の戦力にアメリカをしてしまうことである。攻撃こそが最大の防御だ。

こうして真珠湾攻撃が実行されたのだが、その結果、海軍は、近海用の艦隊で大平洋全域で戦うという矛盾を冒すことになり、無残に負けてしまったのである。

同様に、いまソ連と戦うとして、対ソ4割の力では勝ち目はないから、いよいよとなると、自衛隊の将軍は先制攻撃を唱えだすだろう。
彼らの先制攻撃案を封じるには、彼らにソ連と同等の核兵器を与えなければならない。それのみでない。日本がソ連の4割に達する核兵力を持つようになれば、アメリカも日本に対して警戒し始めるだろう。日本には前科があるから、アメリカは神経質になるに違いない。

一億玉砕か降伏か

このような時代になると、日本もまた昔のことを考え始めるだろう。太平洋戦争末期のように、米ソが連合して攻めてくる可能性はないとは言い切れない。そうすると、最小限必要な核兵器は、一挙にして米ソの総量の4割の線まで飛躍する。

しかもこのような破局的状態に達するまでに、すでに軍備は日本経済の大変な重荷になっている。大砲かバターかの問題に、大砲を選んでしまったために、日本人はまた深刻な貧困にあえぐことになるのだ。

以上のような推理に対し、読者の中には、日米安保条約があるから、日本はソ連の4割もの核兵器を持つ必要はないという人もいるだろう。しかしソ連に対して不信感を持つのなら、アメリカに対しても、日本は、南ベトナムや台湾同様、見殺しにされるかもされないという不信感を持つべきだ。

いずれにせよ最悪の事態が起これば、残念ながら日本には一億玉砕か一億降伏かの手しかない。玉砕が無意味なら降参ということになるが、降参するのなら軍備はゼロで十分だ

現在のように核兵器が発達してしまった段階では、戦争が起こればお仕舞だ。我々に残されている唯一の自衛法は戦争を起こさないことであり、そのためには戦争が起こってから活躍する人でなく、開戦前に活躍する人を…する能力をもっと持っていたなら、満州問題は平和的に解決し得たはずである)。

廃墟の中での誓い

不幸にして最悪の事態が起これば、白旗と赤旗をもって、平静にソ連軍を迎えるよりほかない。34年前に米軍を迎えたように、である。

そしてソ連の支配下でも、私たちさえしっかりしていれば、日本に適合した社会主義経済を建設することは可能である。アメリカに従属した戦後が、あのとき、徹底抗戦していたよりもずっと幸福であったように、ソ連に従属した新生活も、また核戦争をするよりもずっとよいに決まっている。私達があの廃墟の中で「あやまちは二度と繰り返しません」と死者に誓ったのは、このような絶対的無抵抗ではなかったのか。

私は人間を信じるがゆえに、アメリカ人とともにソ連人を信じるから、核攻撃の心配はしないが、関氏がそれでも、もし攻めてきたらどうするかと問うなら、私は以上のような形でソ連軍を迎えよ、と主張する。若い人にそう教えることは戦中派の務めである

Global Times
 Jan 18, 2023

ウクライナ紛争、さらに激化の様相
米国/NATOは調停よりも武器供給強化を選択

Russia-Ukraine conflict eyes more intensity
as US-led NATO meeting focuses on supplying weapons rather than mediation


By Yang Sheng


米国/NATOの指導者会議

米国/NATOの指導者は11、12日に直接会談を行った。これに先立ち米国とウクライナの軍司令部がポーランドで会談を行った。

これは、ロシアが「ウクライナ特別軍事作戦」の新司令官を任命したこと、またウクライナ東部のソレダーの戦で軍事的勝利を上げたと宣言したことを受けてのものである。

1.ラブロフ外相の年明け定例記者会見

ロシアのラブロフ外相は、11日に行われた定例の記者会見で次のように語った。

ウクライナにおけるモスクワの「特別軍事作戦」の目標は「ロシアの核となる正当な利益によって決定され」るだろう。そしてその目標は達成されることになるだろう。

中核的利益とは、ウクライナはわが国を直接脅かすような軍事能力があってはならないということ、またウクライナに在住するロシア系民族の権利が守られなければならないということだ。


「もはやゼレンスキーとの会談はありえない」

ラブロフ外相は、ウクライナのゼレンスキー大統領が言及した、ロシアのウクライナからの完全撤退の要求を退けた。
また戦争損害賠償の支払いや戦争犯罪人の訴追についても協議しないとの姿勢を明らかにした。

そして「もはやゼレンスキーとの会談はありえない」と述べた。

ラブロフは西側諸国についても言及した。

NATO加盟国はウクライナに多額の軍事援助を提供し続けている。西側諸国は、ロシアを疲弊させるために紛争を利用しようとしている。それがウクライナ政策のすべての判断基準となっている。

そして次のように付け加えた。

ロシアは紛争終結に向けた西側のいかなる構想も「真剣に検討する」用意がある。しかし我々はまだ真剣な提案を目にしていない。

ロシアと中国の「封じ込め」は成功しないだろう

ラブロフはさらにロシアと中国を「封じ込め」(contain)ようとする米国の戦略にも言及した。

アメリカは他の国の助けを借りてロシアと中国を「封じ込め」ようとしている。さらにロシアと中国の関係に不和をもたらそうとしている。しかし我々にはすべてわかっている。モスクワと北京の関係は未だかつてないほど強固になっている。

2.NATO最高司令部の構想

専門家の見るところ、今年、さらに戦闘は激化するだろうとされる。

ロシアは軍事的、外交的に2023年までに紛争を終わらせようと考え、一方、西側諸国は調停よりも武器供給に力を入れ、長期戦に持ちこむ構えだからだ。

NATOの軍事最高機関である軍事委員会は、11,12日にベルギーのブリュッセルで直接会合を開く。NATOのウェブサイトによると、軍事委員会の議長であるロブ・バウアー提督が会議を主宰し、加盟国国防相と招待国であるフィンランド・スウェーデンの国防相も出席する予定となっている。

会議では、NATO加盟国によるウクライナへの継続的な軍事支援について話し合われる予定である。

NATO会議に先立ち、米軍トップのマーク・ミリー陸軍大将は、ウクライナとポーランドの国境付近を訪れ、ウクライナ側と初めて直接対話を行った。

AP通信によると、この会談は、ロシアとウクライナの戦争が1年になろうとしている重要な時期に行われ、両軍の絆が深まったと強調している。

統合参謀本部議長のミレー大将は、ポーランド南東部の非公開の場所で、ウクライナ軍最高司令官のヴァレリー・ザルジニ将軍と数時間会談した。

両首脳はこれまでの1年間、ウクライナの軍事的要請や戦況について頻繁に話し合ってきたが、直接会談は初めてだった。

欧米社会がウクライナへの軍事支援を強化する中、今回の会談が行われた。

米国によるウクライナ軍への訓練拡大、米国と欧州諸国によるパトリオットミサイル、戦車、防空システムなどの提供などの軍事支援が強化されている。

ロシア側のあらたな動き

ロシア側では、参謀総長のヴァレリー・ゲラシモフ陸軍大将が11日、ウクライナでの特別軍事作戦の統合部隊の司令官に就任した。

中国の軍事専門家は、この人事はモスクワが "特別軍事作戦 "を "戦争 "に格上げしようとしていることを意味すると指摘した。

ロシア国軍、チェチェン軍、民間軍事請負会社ワグナーグループが行う共同作戦を調整するためには、国の最高軍事司令官が統制する必要があるからだ。


ウクライナの消耗が鮮明に

華東師範大学ロシア研究センターの崔恒研究員補は2日、環球時報に次のように語った。

2022年12月以降、ウクライナは戦場において、自軍の損失が拡大し、欧州諸国は高価な兵器や装備を送り続けることにますます消極的になっており、戦闘は困難に直面している。

戦場の困難な状況に加え、ウクライナは高官を失い、ヘリコプターの墜落による民間人の犠牲者にも悩まされている。

ロイター通信によると、水曜日の朝、キエフ郊外の保育園の近くにヘリコプターが墜落し、ウクライナ内相を始め政府高官多数が死亡した、犠牲者の中には保育園児3人もふくまれていた。

現在、キエフは外交的にも厳しい状況に直面している。西側諸国のイメージを強化するために一刻も早い軍事的勝利が必要である。

特にNATOが将来の軍事支援を議論する会議を開催している今がその時期だ。

対するロシア側は、ゲラシモフの指揮の下でロシア軍のパフォーマンスが向上し、火力も強化された。

このままでは年内停戦は困難

ロシアでの2024年の大統領選挙は、国の将来にとって非常に重要なものとなっている。政府は、2023年までに軍事作戦を終了させたいと考えている。

外交で停戦を求める試みが続けられるだろうが、それがウクライナや欧米にはねつけられたときには戦場で勝利するという選択肢が浮上する。

中国の軍事専門家でテレビ解説者の宋中平氏は次のように総括した。

ロシアとウクライナの紛争が勃発して以来、NATOの加盟国の中で調停に力を入れているのはトルコだけだ。

他のNATO加盟国はみな軍事物資の供給に力を入れている。双方が外交てき駆け引きに熱中し、とにかくまずは軍事的勝利をと願っている以上は停戦の可能性はない。


またもやロシア非難の大合唱だ。
ウクライナ迎撃ミサイルによるポーランド誤爆事件からまだ1ヶ月も経っていなのに、メディアには何の反省もない。まかり間違えれば大戦突入という危うい誤報であったにもかかわらず、メディア側の誤爆報道についての総括は聞いたことがない。

赤旗の主要見出しはこうなっている。
ウクライナ集合住宅攻撃: 戦争犯罪として裁け
国連各国から非難相次ぐ
死者40人に 住人 依然30人不明

この悪罵満載の記事で唯一確からしい記事は最後の行のみ。
ロシアのペスコフ大統領報道官は「ウクライナ軍に迎撃されたミサイルが落下したことによる被害だ」と主張しました。
ロシアが直接攻撃を否定してるというのは確かなようだ。ロシアは「ポーランド誤爆事件と同じく戦闘に伴う偶発事態だ」と主張していることになる。こういう場合はまずは裏取りを経た正確な評価が大事であろう。
戦争災害の悲惨さを訴えるのはとても大事だが、それは「このような戦争は一刻も早くやめよう」という方向で報道されるべきであり、何でもかんでもロシア非難に結びつけて、和解の方向を閉ざすような報道は容易に首肯できるものではない。
とりわけBBCとロイターは非欧米勢力を攻撃する姿勢が目立ち、中立性と正確性が疑われている報道機関である。今度の事件がまたもロシア側の言い分通りの経過だとすれば、今度はBBC、ロイターを無批判に受け入れる各国メディアも報道責任を問われることになる。
私は親ロ派でもなく、金をもらっているわけでもない。平和を愛し、戦火の拡大を心から憂慮する一人の市民である。憎しみの炎が燃え広がり、世界大戦の瀬戸際にある現在、軽率な一方的報道だけは避けていただきたいと心から願わずにはいられない。

日本における「有事」の地政学的理解
ウクライナの教訓を下敷きにして

東アジアは裏返しのウクライナ

地図を重ねてみよう。そうするとどうなるだろうか。
ロシアが中国で、アメリカは変わらない。
日本が西欧で韓国は東欧、台湾がバルト三国になる。
かつてソ連と西欧のあいだには中欧・東欧という緩衝地帯があった。
それが次々とNATOの同盟下に入り、NATOとロシアが踵を接する厳しい環境となった。
東アジアでは一点の緩みもなく全境界線がにらみ合いの前線となっている。
そんな中で例えば香港が独立を宣言し、中国がこれを許さないとして干渉し、
香港の独立派勢力が断固として領土を守り抜くと宣言し、
米国が独立派を支持して直接参戦以外のあらゆる支援をすると宣言し、
中国が国境付近に兵力を結集して、いつでも侵攻できる体制を整えたとして、
「あなたならどうします?」ということだ。

非同盟・中立のモデル

米国と同盟関係を結ぶのは、日本の身近に敵と仮想される国が存在するということだ。もし仮想敵が存在しないのなら、同盟関係は不要だし、近隣国にとっては脅威以外の何物でもないのだから、止めるに越したことはない。結果として非同盟・中立のモデル国家が登場する。

私が「歴史的に考えてほしい」と願うのは、中国は日本の仮想敵ではないということだ。旧ソ連は北方領土を奪い、島民の資産を奪い、島民を追放した。兵士をシベリアに送り強制労働に使役した。
だから日本は日米安保に調印し、旧ソ連を仮想敵とした軍事同盟を結成した。
それはNATOが旧ソ連を仮想敵とした米欧同盟であるのと同じだ。
旧ソ連の崩壊後、NATOには欧州を防衛すべき根拠となる新たな敵が必要になった。そこで無理やりロシアを仮想敵に仕立て上げた。「資本主義国ロシア」は白旗を掲げ自国とウクライナ・ベラルーシ以外のすべての覇権を放棄したにもかかわらず、仮想敵にされた。

日米安保は自らの存続のために仮想敵そのものを変えてしまった。文化大革命の傷も癒えぬ間に、天安門事件で存立の瀬戸際に立たされていた中国が、仮想敵に仕立て上げられたのである。これはそもそも安全保障の意味を問われる選択である。

中国は、1949年の建国以来一度として日本と敵対関係をとったことはない。
唯一、尖閣諸島が公的な紛争となっているが、これは日中平和条約で帰属は保留となっていたものである。韓国に対してあれだけ条約の原理性を強調するなら、日本側が(自由航行権等で)決着をつけるしかない。

かくのごとく敵対関係のない相手を、いきなり何の理由もなく仮想敵にするのは理に合わない。中国国内でのあれこれの揉め事を理由にして敵国扱いにするのは、最悪の内政干渉である。

もし中国を仮想敵にすることをを止めるなら、日米安保条約は無意味となる。アメリカのために本土防衛とは関係のない軍事作戦に参加する(参加させられる)ための「同盟」という名の軛(くびき)でしかない。
もし北朝鮮を仮想敵にしようというのなら、それよりも平和条約を締結して国交を回復し、過ぐる日帝時代の植民地支配に対する賠償を行うことが先決である。そうなれば、日米安保はむしろ有害なものとなるだろう。


非戦・平和の原則

こうしてまず非同盟・中立のモデルが打ち立てられる。次が非戦・平和の課題である。
国と国の間で紛争が発生することは避けられない。それを徹底して平和的に、交渉を通じて解決することである。
例えばどこか沖合の小島で領土権をめぐる争いが発生する場合、あるいは島を島として認めずにその周囲の領海権を拒否する場合などが挙げられる。明らかに日本の側に領土としての実体がある場合は、警察権(海保をふくめ)の行使は当然であるが、それを越えるような大規模な干渉があった場合は国際機関の審判を仰ぐことになる。

一番の問題は、北海道から先島諸島に至る固有の領土に侵攻があった場合であるが、これはその場での力関係により判断するしかない。いずれにせよ施政権は実効的に及ばなくなり、一時的に放棄せざるを得ない。
非軍事的な範囲であらゆる可能な手段を取って領土の回復をもとめるほかない。国民全員で戦うにはそれ以外ない。もし現地に武力抵抗をもとめるなら、それは現地の切り捨てという結果を招かざるを得ない。
沖縄では武力抵抗を行い、皇国の防衛のための捨て石となることを求めた。このため島民の1割以上が犠牲となった。千島、樺太では皇軍はすでに半ば崩壊しており、島民はソ連軍の支配下に入ったが、まもなく島民のすべて(1万7千人)が北海道に「強制送還」された。

沖縄戦犠牲者

いまウクライナでは、極右政府と欧米好戦勢力の圧力により、圧倒的な力関係を無視した戦闘が続けられている。多数の犠牲者が生まれ、隣りあい、一部は混住する双方の憎しみがつのらされている。
いま日本人が自らをウクライナの場において考えるなら、いずれの立場を取るべきかは明らかである。
40年前に森嶋通夫が「白旗・赤旗をあげて降参すべし」と毒々しい表現で謳ったのがこの非戦・平和の対応である。それは救急現場におけるトリアージ(救うか救わざるかの選択)のごとく、きわめてリアルで冷徹な発想である。

それは非戦・平和の原則であり、武装・抑止の考えの対極にある。そして抑止はしばしば抑止にとどまらず、抑止力の行使に繋がる。非戦・平和は理想論ではなく、度重なる戦争の惨禍の中から生まれた、民衆にとっての最大の教訓なのである。


武装も自衛もしないという選択

次が武装・自衛、いわゆる「備え」の問題である。
これは非戦平和の原理でほぼ全て片付いている。専守防衛を前提とする限り、戦闘は当初より内地決戦だ。
第一撃で相当なエリアが敵の支配区となるから、少なくともそこの地区の住民は捨て駒にカウントして戦闘を開始しなければならない。境界地域の住民は「人間の盾」にされ、「撃つのも味方、撃たれるのも味方」の世界が広がる。

もちろん、民族には自衛の権利がある。それは断固として主張しなければならない。しかし自衛行動に出ることは、相手によっては莫大な生命の代償を支払わされることを覚悟しなければならない。しかもそれが無駄死にになることも覚悟しなければならない。

皇国の不滅を訴え本土決戦を叫んだ人々は生き延び、親米派の驥尾に付した。彼らの命令で死を選ばされた兵士は犬死と言ってよい。本土決戦=一億玉砕は絶対にいけない。それを前提とするような軍備をあおる人を信じてはならない。敵前逃亡した関東軍幹部を思い起こせ。せせら笑って戦後を生き延びた牟田口を思い起こせ。

日本の未来には “武装も自衛もしない” という選択以外にない。もし中国を仮想敵にしたとしても、「武装も自衛力もない」という前提に立って外交を進めなければならない。「アメリカが来てくれる」という人はウクライナを見よ。もし戦争になればアメリカは参戦せずに経済制裁と軍事援助で応じるだろう。両国民の血は彼らにとっては蜜の味がするだろう。
勝負事においては1対100は0対∞ということだ。「本土決戦」は日本と中国にますます多くの墓石を立てるだけの結果になるだろう。



2003年2月号「科学」
「次の50年も主役はDNA?」

中村桂子
(JT生命誌研究館)

「巻頭言」として、DNAモデル発見50周年を記念して50年の研究の進歩をまとめた文章である。要点を個条書きしてあるが、DNA時代を迎え「分子生物学」が一気に発展した。これが一段落するのが1970年ころだ。ところがこの後ゲノム時代に突入するのだが、意外とこの辺の変化をどう跡付けるかについてはっきりしたメルクマールがない。

中村さんはまさにこの「混沌」の時期を研究の第一線で過ごされただけに、ゲノム時代とは何なのか、それはどのように実現したのかがわかっておられる。その移行過程をスケッチしたのがこの小文であろう。

中村さんのいわれる「2つの壁」を丹念に追っていくことが大事だろうと思われる。以下はこの少文の骨組みを箇条書きにしたものである。

ついでに私見を書き込んでおく。
DNAというのはものである。ゲノムというのはそこに書き込まれた情報である。パソコンで言うとDNAは大容量のメモリー・スティックであり、ゲノムというのはそこに書き込まれた情報だ。中村さんが一方で「これからはゲノムがすべての根源だ」と言ったり、「DNAは不滅です」というのはそういう意味だ。
情報は2つある。一つはメモリー・スティックなどというものが、どうして出来上がってきたのかという歴史であり、もう一つはそこに書き込まれた情報がどのように作成されてきたのかという歴史である。
技術が飛躍的に発展する時期には情報量がメガ、ギガになりテラになる。そういう「量の時代」には両者が混同してわかりにくくなる。そのあたりを念頭に置きながら読んでいただきたい。
なお、流れを理解するためには下記の年表を参照されたい。

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1953年のDNA二重らせん構造の発見により,生物学はDNA研究を中心に動くことになった.

分子生物学の第一期である1970年までの間に,DNAの複製,コドン,タンパク合成など生命現象の基本が解明された。

DNAは,遺伝子という親から子に形質を伝える因子という意味を越えて,生命を支える基本物質となった.

この後、研究者は第一の壁を体験した.(70年の壁?)

突破口は「組換えDNA」と「塩基配列解析技術」という意外なところにあり,これでDNA研究は大展開した.詳述の余裕がないので項目だけあげよう.

(1) 免疫,発生,神経系,進化など複雑な生命現象の解明.
(2)いわゆる遺伝病だけでなくがん,高血圧など遺伝子が関わる病気の研究,つまり生物医学の確立.
(3)ヒトという生物の研究.
(4)バイオテクノロジーの誕生.
(5)生物科学・技術の安全性など社会・法・倫理に関わる問題への関心.
(ここはたんなる羅列に過ぎず不満)

これらの研究分野が飛躍的に発展する中で、それらを整序するためのインターバルが必要となった。

遺伝子病研究の発展と停滞

再び研究のスピードが上がったのは「生命現象を遺伝子で説明し,その成果を技術開発につなげる生物学」としての分子生物学の新展開だ.
これは今も続いている。

がん遺伝子が発見された時,研究者は10年ほどでがんは解明され,治療法も確立すると期待した.しかし,予想以上に手強かった.免疫も然り.いずれも研究は進みながらも複雑な現象の解明の難しさを感じてきた.これが第二の壁である。

第二の壁を突破するきっかけがゲノム解読である.

経緯は省くが,二重らせん発見から50年の2002年はヒトゲノム配列解析解読の年でもある.

「生物の持つDNAのすべて」を基盤にする生物学では,DNAを基本にすることは変わりないが、生命の情報単位は遺伝子ではなく,ゲノムとなった。それは生命の単位である「細胞」と結びつく。

細胞とはなにかを知る「情報生物学」が始まっている.大量の情報を提供する解析機器とそれを処理するコンピュータが活躍し,生命系情報を解読する.

この解明に期待するが,次々に発見される知見の山に埋もれ、まだ真の方法論が見えているとは思えない.

第一,第二の壁の時は,生物学はマイナーな学問であり,研究者が生物の本質を考える余裕があったが,今は,大量の資金を投じて大量情報を処理せよとの要求が強い。

経済ではなく生命に優先順位をおいた学問を進めることが重要だ.

ゲノムや細胞を通して,生命・人間・自然という複雑なものに向き合うことになった今,従来の科学を越え,総合的な視点と方法を持つ必要がある。

それには,まず,生きものをみつめ,愛するという原点からの出発が必要だ.そこからは真に豊かな食・健康・環境につながる技術が生まれるだろう.次の50年が正念場だ.


2000 年ニッセイ基礎研シンポジウム 
森嶋通夫の非戦論関連の記事





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日時 2000 年 10 月 19 日(木)午後 2:00~5:00
場所 帝国ホテル「富士の間」

パネルディスカッション
パネリスト
 森嶋 通夫 氏(ロンドン大学名誉教授・大阪大学名誉教授)
 奥村 宏  氏(中央大学商学部教授)
 細見 卓   (ニッセイ基礎研究所特別顧問)
モデレーター
 嶌  信彦 氏(ジャーナリスト)

このPDFファイルは、森島の基調講演「未来日本への警鐘」というのがあって、講演終了後のディスカッションが記録されている。

司会: 森嶋先生は去年、『なぜ日本は没落するか』という本を書かれておられ、この本
の前書きの中で、このままだと 2050 年までだめなのではないかと述べておられます。
日本はある意味で戦後、高度成長までは成功
モデルのようにいわれてきた。それは政治というよりも、官庁を中心とした官僚主導モデルだった。

森島: 政治というのは政治家の活動であり、官僚が良い悪いは関係ない。日本で一番具合が悪いのは、意志をともにし一緒に行動する党派というものがないことだ。

戦後教育と世代論

森嶋: 「戦争に行った人と戦争に行かなかった人との間に大きい差があるのではないか」ということを思うようになりました。
考えなければいけないのは、「この日本の戦争はいったい何だったのだろうか。あれだけ大勢の人が死んで戦争をしたにもかかわらず、精神的にどんな収穫があったのだろうか」ということです。
この点に関して、我々も含めて日本人は、もっと積極的に自己主張をすべきであったと思います。

森嶋: 日本経済と社会が没落しないための唯一の救済策は「東北アジア共同体」です。
東北アジア共同体とは何かというと、マーケット共同体ではなく、建設共同体なのです。
1つは中国の奥地開発、朱首相の言葉では西部開発です。それは建設共同体であって、マーケットの共同体ではない。しかし日本の財界が見ているのは海岸線あるいは北京・上海間で、ヨーロッパのようなマーケット共同体です。

森嶋: 中国から見た日本歴史の問題は控えた方がいい。中国にとっては共同体案が一番重要な問題だ。日本もそういう中国事情を読み取る必要がある。ところが、日本人のもっている国際感覚は大いにずれていると思います。

大東亜共栄圏など歴史問題

森嶋: 大東亜共栄圏は歴史問題であり、アジア共同体ができれば、自然に解決するでしょう。私の友達でもう死にましたが、韓国人なのです。その人が言ったのは「大東亜共営圏を復活しろ。ただ、栄えるという字ではない。共に営むという字だ。そういう共営圏は私は賛成だ」と言ったのです。

アメリカの介入

森嶋: 今日本は東アジア諸国に対して、積極的なことは何一つしていません。もしアメリカと中国と朝鮮半島が組んで、日本が仲間はずれになれば、日本はものすごく右傾化するでしょう。そういうことを避けるためにも、もっともっと積極的に出ていかなければなりません。

「うちは捨てられた。今まで共同防衛を考えた仲である国が日本を捨てた」と日本人が反応すれば、アメリカを逆に憎むようになるでしょう。

この人は割と口が滑る人で、つまらない思いつきも多いが、そこは実行力で乗り切っていく、いかにも関西人である。


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それにしてもネットの世界には驚くほど森島流世界観のスペースがない。
関・森島論争についてもまともな論考はほとんどなく、そもそも系統だった紹介さえなされていない。
森島の意見は「非武装中立」という怪しげな言葉に束ねられ、倉庫の奥に放り投げられてしまったようだ。とくにサヨクからの黙殺に近い扱いが気がかりだ。
たしかにワルラス経済学が専攻で、近経的手法を駆使した研究というのは、とてもじゃないが歯が立つものではない。しかし例えばチョムスキーがわけのわからない言語学の専門学者であったとしても、そんなことは知らなくても彼の社会的発言は十分に理解できるし傾聴に値する。
そういう意味からは、彼の社会的発言をあとづけながら彼の政治や社会、倫理などについて整理することは可能なのだろうと思う。チョムスキー学、柳田学などと並んで森島学みたいな研究分野ができても良いのではないかと思う。
その森島学の二本柱をなすのが平和学と東アジア共同体理論であり、後者はさらに統一市場論と脱安保論に分かれる。
それを狩猟するには、恐ろしげな全集や学会誌ではなく、小文や座談会の記事などを拾いながらのほうが生産的な気がする。まぁぼちぼちと始めてみたい。

森嶋通夫の非戦論関連の記事





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昭和55(1980)年。戦争と平和の関・森嶋論争
https://nisikiyama2-14.hatenablog.com/entry/2020/12/27/180242
より引用

このブログは全体として右翼的色調が強いが、関・森嶋論争については客観的に詳しく紹介してくれる。この部分はブログ主個人のものではなく、全体としてVoice誌からの引用と思われるが、詳細は不明である。もちろん本来は原文にあたった上で考察すべきだが、入手には時間がかかりそうなのでブログを利用させていただく。

私はこの論争は「非武装中立」論にとどまるものではないと思う。もっとラジカルな「非戦、絶対平和」論だ。それは未だ十分になされているとは思えない、過ぐる12年戦争をどう総括するか、「もう二度と闘わない」という非戦の決意をどう形に表わし、どのように後世に伝えていくかという問題だ。少なくとも森島の議論にはその切っ先が潜まれている。関は戦中派の気迫に安易に反論ができない。「白旗、赤旗」の表現をことさらに取り上げて騒ぎ立てる外野の観客は縁なき衆生だ。

このブログでは、2021年1月号 Voice 誌「紳士の決闘ー歴史のなかの関・森嶋論争」より、長文を引用している。
この文章から引用させていただく。ご承知の通り Voice は右翼系の雑誌であり、それなりのバイアスがかかっていることを承知の上読んでいただきたい。

河合栄治郎門下の政治学者で東京都立大学名誉教授、早稲田大学客員教授の関と、経済学者でロンドン大学教授であった森嶋通夫のあいだで行われた論争である。
この論争は『大論争──戦争と平和』と題し、1980年1月から、『文藝春秋』誌上で三号にわたって展開された。

Voice編集部がつけたキャッチコピーは下記の通り
歴史のなかの関・森嶋論争
平時の備えを説く関嘉彦と、非無抵抗降伏を説く森嶋通夫。1980年代の防衛論争の劈頭を飾る二人の『決闘』を紐解く。

論争の背景には国際的な対立構造がある。米ソはデタントから一転して、『新冷戦』と呼ばれる状況へと突入しつつあった。
アメリカの力は相対的に衰退し、ソ連が通常戦力のみならず核戦力においても追いあげていた。78年に日中平和友好条約が締結されると、ソ連が強く反発した。このため日本でのソ連脅威論が一層高まっていた。
当時の日本の国内政治では、『地域の不安定要因とならないよう、独立国として必要最小限の防衛力を保有する』との基盤的防衛力構想が浮上していた。
この中で保守層のあいだでは、清水幾太郎の『核の選択』(1980年)、戦後体制をめぐる佐藤誠三郎と片岡鉄哉の対決(1982年)、永井陽之助と岡崎久彦のあいだで行われた戦略的リアリズム論争(1984年)などが行われた。

序幕──『北海道新聞』での緒戦

始まりは、関が『サンケイ新聞』に寄せたコラムに、森嶋が批判を加えたことである。

これに先立ち、関は1978年9月15日の『正論』で、武装自衛論を展開した。
以下はブログ主のまとめたもの。

①イギリスは平和思想の虜となり、軍備に立ち遅れた。このためナチスドイツの台頭を許した。それが第二次世界大戦を防ぐことができなかった理由である。
②戦後日本の一部知識人、マスコミ、政治家の言論のなかには、当時のイギリスに通じる危険性がある。それは歴史の教訓に「無知」な平和主義者の主張する平和論である。
③日本は軍備を行い、危機に備えるべきである。有事のために必要なら法改正を行なうべきである。
④スイスは外国の侵略に対してあくまで戦う決意を示し、民兵組織を整えた。このためヒトラーは侵略を断念した。

森嶋は、『なにをなすべきか』と題して、1979年1月1日の『北海道新聞』で、関(紙面では『S氏』)を『国防主義者』として批判した。以下はブログ主による要約。

①イギリスが軍備を整えていたとしても、戦争はヒトラーがいる限り起こらざるをえなかった。
②もしイギリスが軍備を整え、ヒトラーに勝って、生き延びたとしても、それは『軍備主義者』の勝利でしかない。
イギリスもまた軍備主義者のはびこる国になるから、ナチスが勝った場合と大差がない。
(この項は論旨が通らないので、本文にあたる必要あり)
③歴史の教訓とすべきは、イギリスの政治力である。チャーチルは緒戦で敗退しながら、頑張り抜いて、その間にナチス討伐の連合軍をまとめあげた。
④スイスを守ったのは民兵ではなく中立国という政治的地位である。ヒトラーはスイスの民兵を恐れたのではなく、敵国との交渉の窓口とするために攻撃しなかったのである。
⑤コラムの結び。軍備は果たして国を守るだろうか。われわれの皇軍も、国土を焼け野が原にしてしまったことを忘れてはならない

関の北海道新聞への投稿(1月29日)
①イギリスは軍備を強化するだけでなく、それを背景にして強い対応をとっておけば戦争を防ぎ得ただろう。
②イギリスが軍事的に持ちこたえたから、チャーチルはその政治力を発揮できた。一国の安全は軍事力のみでは守れないが、しかし軍事力なしには同じく守れない。
③スイスと同じ中立国ベルギーは侵略されている。(これは注意喚起ではあるが、反論にはなっていない)
④その意味で国を守る最小限の自衛力をもつべきである。


森嶋のコラム(3月9日)
ブログ主の要約が要約になっていないのだが、読み解きうる範囲でまとまると、
①他国の意図が信じられないなら「抑止力の保持」はやむを得ない。ソ連が信じられなければ、アメリカも日米安保も信じられないからだ。
(この項、いまいち正確とは言えない)
②ソ連の軍備は強大であり、抑止を有効にするための装備は「最小限の防衛力」というには程遠いものとなる。
核兵器を保持して先制攻撃するとしても、ソ連の4割の所持が必要であろう。
③すでに核の時代にいるのだから、唯一の自衛法は戦争を起こさないことである。
④平時に行うべきは平和のために活躍する人を充実させることである。
⑤不幸にして最悪の事態が起これば、白旗と赤旗をもって平静にソ連軍を迎えるほかない(34年前に米軍を迎えたように)

関のコラム(3月10日)
①森嶋氏は最悪の事態も想定しており、論理は明快である。
②日本の防衛の基本は日米安保である。
③「最小限の防衛力」は侵略者の撃退ではなく、日米安保に基づいてアメリカが支援に入るまでの時間つなぎである。核兵器についてもアメリカの抑止力に依拠するほかない。
④通常兵器による小規模な侵略は「最小限の防衛力」で撃退する。
⑤アメリカが信頼できるかどうかは、日本が誠意を示し続けるかどうかに依存する。ソ連は独裁者をいただく全体主義国であり、まったく信用することはできない。

この後論戦の場は「文芸春秋」に移動する。

森嶋の論文『新「新軍備計画論」』
①冒頭の姿勢表明:国防は、ミクロには自分の命の問題である。したがって宗教や哲学まで含んで十人十色の議論となる。決めつける議論をしてはならない。
②私の国防論は学問よりも私の体験──特攻隊が飛び立って行く基地で、絶望的な物量と技術差に直面しながら、日本をどうしたら守れるか、国を守るとはどういうことかを考えた34年前──と不可分に関係している。
③敵が日本を攻撃する確率は低くはない。なぜならそれは、日本攻略によって得られる戦略的利益と、攻略に要する費用(犠牲)に依存するからであり、戦略的利益はきわめて高いからである。
④この攻撃を抑止するために武装するなら、ソ連やアメリカの四割程度の重装備を支えるだけで、全経済力を注ぎこまざるを得なくなる。
⑤アメリカを頼りにする場合、2つの弱点がある。ひとつは援軍が間に合わない可能性、もう一つはアメリカにとって日本は最優先国ではないことである。
⑥軍事による国防は不条理である。これに代え、非軍事的行動で抑止を図ることが生産的である。総生産の2.5%を文化交流、経済援助、共産主義諸国との関係改善などに用いれば、日本はそれだけ安全になる。
⑦それでもソ連が攻めてくるなら、という仮定のもとに、森島は下記のごとく締めくくる。

(日本は過ぐる大戦で)後世に誇るに足る、品位ある見事な降伏をした。
それと同様に、秩序ある威厳に満ちた降伏をして、その代わり政治的自決権を獲得する方が、じっと賢明だと私は考える。

(以下は私見。…白旗、赤旗のような過激なレトリックは止め、負け方を具体的に提示した。また日本人の共通の記憶として、敗戦後日本の原点として、8月15日の無条件降伏を想起せよと呼びかけた)

関の論文『非武装で平和は守れない』

(Voice の評価によれば)これまでの議論に新しい論点はほとんど加えていない。ただし森嶋の『秩序ある威厳に満ちた降伏』へは批判が加えられる。その際、ソ連のような全体主義国家は信頼できないという点が、とくに強調されている。(以下は私見。…鬼畜米英にすら無条件降伏した私たちの経験はどう総括されるのか)

以上

いずれ本文に当たり正確を期すつもりだが、とりあえずこのままアップロードする。
ブログ主の丁寧な紹介に感謝する。明らかにVoiceからの転載と思われる箇所は、Voice誌からと記させていただいた。

赤旗の日曜恒例の読書欄。下の記事が載った。驚いた。なんとゲノムでおなじみの中村桂子さんの随想だ。しかも何の断りもなくサラサラと子供の頃の読書の思い出、新明解辞典にまつわる思い出が綴られている。肩書きはなく、ただ紹介欄に理学博士であることが記されている。
まさか党員ではあるまいが、引用符もなしに平文で載っちゃっていいものだろうか。それにしても赤旗も随分ぞんざいだ、とぶつぶつ言いながら(一人暮らしだとつい口に出てしまう)読んだ。
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これがその記事。そのままでは見にくいから、画面上を左クリックしてください。
JT科学研究所のサイトには生命科学に関する良質の記事がぎっしり詰まっている。
そのうち必ず、サイトの検索窓に中村桂子と入れて集中的に読んでみたい。
私の染色体→遺伝子・DNA→ゲノムの二階建て構造を確かめてみたいと思う。
それにしても戦時下とはいえ優雅なお姫様ぐらしで、まことに羨ましい限り。時代は親子ほどに違うが中條百合子の生活を彷彿とさせる。こういう人々に受け入れられ支持されてこそ、日本の左翼は発展するのだろうと改めて実感した。

最近は毎日日曜日、創部痛と息切れのため外出もままならず、自宅にて無聊をかこっている。夜昼逆転と言うより、寝ているときが夜、起きているときが昼、という具合で、なんとなしそれなりに生活リズムが出来上がりつつある。
先程(4am)目が覚めてTVをつけたら、BSでイギリスのロック番組をやっていた。ときどき見ているがほとんど見たことも聞いたこともない世界が広がる。大抵はつまらない。イギリス人の若者のロックグループは悲しいくらい日向く退屈だ。しかし有色系のバンドがでてくると面白い。さすがにBritish Commonwealth だ。
本日の発見はKool & the GangのCelebration、85年のライブだ。スタイリッシュでブラスの音が厚い。これはぽっと出のバンドではない。しかし聞いたことはない。
ネットで調べたら、これはアメリカの人気グループで70年前後の結成。この演奏の時点ですでに15年の歴史を持つメジャー中のメジャーだ。Earth, Wind & Fire みたいな流れだがもっとノリがいい。いづれにしてもこんな番組に、ごたまぜの一つになって出るようなグループではない。
You Tubeにこの曲の演奏があるので、URLを紹介しておく。一杯めはカンパリ・ソーダで…
https://www.youtube.com/watch?v=3GwjfUFyY6M

You Tubeで調べたら、初期のほうが塩味が効いている。ブガルーを感じさせる。ニュージャージーの出身というから、ブラックと言うよりプエルトリカンの系統ではないだろうか。(追記 24Jan)
Kool _ the Gang - Celebration
KOOL _ THE GANG-funky stuffmore funky stuff 1973
Kool And The Gang - Take My Heart
Kool And The Gang - Too Hot (Live)



AALAニューズ「ウクライナ戦争の12弾」

ライナーノート

鈴木頌

 

私儀、しばらく病気療養中ですが、編集担当時に読ませてもらった多くの論文が記憶に残っており、これをまとめてみたくなりました。
2022年2月、「
AALAニュース」が100号になり、記念号を考えていた矢先、「ウクライナ戦争」が勃発しました。最初は2、3号の特集のつもりでいたのですが、問題の重要性、複雑性に鑑みて、「ウクライナ特集」は第1弾(ニュース第100号)から第12弾(ニュース第111号)まで連続発行されました。全体として非常に充実したニュースが作れたと自負しています。

新年を迎えるに当たり、自分を振り返るために、私家版の解説集を編集しました。「お気に入り論文」の自分流紹介と感想集です。レコードのジャケットの曲紹介(ライナーノーツ)みたいなものだと思ってください。「意見」というほどのものではなく、「これ、すごいぜ!」みたいな雑文です。気楽にお読みいただければ有り難いと思います。

 

 

AALAニューズウクライナ特集概要

 

32日第1弾(ニュース第100号)

 

38日第2弾(ニュース第101号)

 

319日第3弾(ニュース第102号)

 

327日第4弾(ニュース第103号)

 

47日第5弾(ニュース第104号)

 

426日第6弾(ニュース第105号)

 

51日第7弾(ニュース第106号)

 

511日第8弾(ニュース第107号)

 

526日第9弾(ニュース第108号)

 

69日第10弾(ニュース第109号)

 

624日第11弾(ニュース第110号)

 

76日第12弾(ニュース第111号)

 

このあともニュースは発行され続け、最近のニュースは1223日発行の122号です。特集号とは銘打っていませんが、ウクライナ関連ニュースもたくさん流されています。
AALAニューズに変わらぬご贔屓賜りますようよろしくお願いいたします。

 

 

   99号以前のAALAニューズを読む方法

99号以前のAALAニューズはかなり難度の高い手法でしか接触できません。以下にその方法を記載するので、リンク先のhttpを「旧サイト」と名付けてデスクトップに付箋保存し、さらにグーグルの「お気に入り」に登録しておくことをお勧めします。

画像1

まず、日本AALAのトップページ(https://www.japan-aala.org/)に行く。

画面を下方にスクロールし「旧サイトはこちら」のアイコンを探す。

「旧サイトはこちら」のアイコンを押すと、2月まで使っていた旧トップページ(https://www.japan-aala.org/old/)が出てくる。

画面がパソコンからはみ出しているので、画面下のスライド・バーを右端まで引っ張る。

それから画面右端のスライドバーを最後までスクロールすると、「AALAニューズ」のアイコンが出てくる。これを押すと99号以前のニューズが見られます。バブルの頃の鬼怒川温泉ホテル第一別館みたいです。

直接サイトに直行したいときは下記のURLを入力してください。

 https://www.japan-aala.org/old/aala-news/

 

 

以下本文


 32

ウクライナ特集第1弾

AALA ニューズ 100号

 

 

最初の号には9本の記事が掲載されていますが、その前の99号にすでに2本のウクライナ関連記事が掲載されているので、攻撃開始から数日の間に10本以上の記事をアップしたことになります。ここではそのうちのいくつかをピックアップして紹介します。

 


1.⽇本AALA連帯委員会声明(3月1日)

 

読み直してみて、とても深い意味を持った文章だと思います。まず声明は単純に国連憲章違反だからだめという立場はとりません。ここ10年間のロシアとウクライナ、NATOとの対立を踏まえて、問題の真の解決を願う立場から、下記のごとく指摘しています。

*ロシアの軍事力行使はウクライナ問題の解決につながらないだけでなく、事態を一層複雑にして危機を深めるだけです。

また日本にとっての意味、非同盟運動にとっての意味を問い直し、非核・平和への道を指し示しています。

*危機の背景となった軍事同盟・ブロックの解消を求めます。そして日本が一日も早く日米軍事同盟のくびきから脱し、自主的な立場にたって非核・非同盟・中立の日本となるよう、その実現を目指し奮闘するものです。

 


2.ウクライナ平和主義運動「ウクライナからの平和メッセージ」

 

最初はウクライナの市⺠勢⼒からの発信です。ウクライナ「平和主義運動」のユリ・シェリアジェンコ事務局⻑のインタビューです。現地で良識を保っている⼈々の証⾔です。

 

*ウクライナ政府は⻄欧の側につきましたが、これは無謀です。私たちは中⽴であるべきだと思っています。

*世界の指導者たちが責任を他になすりつけ、ウクライナでの権⼒争いを暴⼒的に解決させようとしています。

 

これがシュリアジェンコの侵攻直前の意見です。国内が「本土決戦」で固まっていたと考えるのはあまりに短絡的です。

 

3.インド共産党M「ウクライナ_優先すべきは平和」

 

インド共産党(M)の主張は、個別のウクライナ問題だけではなく、NATOなど「軍事同盟で世界を支配する」という制度設計への問題提起を含んでいます。

 

ロシアは我が⾝の安全を懸念している。そして、ウクライナが NATOに加盟しないことをもとめている。軍事⾏動をとったのは残念なことだが、その要求は正当である。

 

編集部は下記の注釈をつけて掲載しました。

NATO 日米安保 リオ条約 は戦後の三大軍事同盟であり、非同盟運動が真正面から向き合わなければならないシステムです。

 

4.⽶国共産党(CPUSA)「戦争という時代” はいらない

 

非同盟諸国の声明ではありませんが、迫りくる「戦争という時代」への拒否が、左翼の基本的なスタンスだ、という呼びかけが新鮮でした。

ウクライナの戦争をやめよ、ロシアは戦争するな、戦争という時代” はいらない

 

 

5.南アフリカ外務省「ウクライナの事態に関する声明」

 

この時期、南アの言論の基調は一貫しています。その一貫ぶりは驚くほどです。

 

紛争が勃発してしまってからでも遅くはない。 外交の扉は決して閉ざされてはならない。

南アは異なる勢⼒の話し合いによって成⽴した国家だ。だから南アは、危機を回避し紛争を緩和するために対話がだいじだと信じている。そして対話が持つ偉⼤な可能性を常に信じている。

 

このような当たり前の主張すら、当時はロシアを利するものだと警戒されていました。

 

次の2本の論文は外交専門雑誌に掲載されたものです。いずれも侵攻の1~2ヶ月前に発表されたものです。とくに侵攻の背景としてNATOと欧米諸国の政治圧力と軍事挑発に言及しています。

 

ある意味で、NATOとウクライナがこれらの警告に耳を貸そうとしなかったのが侵攻の原因だという主張です。もちろん侵攻してしまったらもうそのような理屈は成り立ちません。

 

ただ、私には、「ロシアのウクライナ侵攻の要因が、プーチンの覇権主義の野望にあった」という一部の議論は不正確だとの認識を持ちました。

さすがに「植民地主義的侵略」論は最近はありませんが、「ソ連は情勢が不利になれば引き揚げるだろう」という楽観論として、底流に根強く存在していると思います。

 

6.エイブリー「NATO の違法性を検証する」

 

ジョン・スケイルズ・エイブリーの論⽂です。

今回の事態の影の主役は NATO であり、NATO なしにこの事件はなかったことを論証しています。

 

1999年にユーゴスラビアを崩壊させたNATOは、新ドクトリンを採用し、①発動は国連憲章に規定されない、②地域は欧州西部に限定されない、と変質した。その時から旧東欧のみならず、旧ソ連領も念頭にあった。

 

すなわちNATOのユーゴ解体以来、今回の事態は既定の路線であったということになります。

 

 

7.サックス「ウクライナの主権をどう守るか」

 

著者は⽶コロンビア⼤学教授のジェフリー・D・サックスです。彼もエイブリー同様、NATOの変質が今回の事態の出発点だと主張します。彼はジョージ・ケナンが98年に語った「予言」を紹介します。

 

「私はこれ(NATO の拡⼤)が新しい冷戦の始まりだと思う。最終的にはロシ ア⼈がかなり反発して、その政策に影響を与えると思う。痛恨の極みだ」

 

サックスの提起した着地点は大事なポイントです。

 

今⽇、私たちが最も関⼼を持つべきことは、ウクライナの主権とヨーロッパおよび世界の平和である。

NATOがウクライナに駐留するかどうかではない。もちろん、新たな(ベルリンの)壁を建設することでもない。

 

 


38

ウクライナ特集第2弾

AALA ニューズ 101号

 

 

前号に続いてウクライナ特集号となります。ウクライナの事態は、ロシアが武⼒によりウクライナに侵攻し、制圧を図っていることが核⼼的事実です。

同時に背景的事実として、NATOの変質とロシアに対するろこつな覇権主義があります。

また攻撃の過程で、ロシアが核兵器のボタンに⼿を伸ばそうとしていること も極めて危険です。ウクライナの⼈々に⼼寄せ、⼀刻も早い「平和と安全の 確保」をもとめて⾏きましょう。

 

事態の報道に偏りが目立ち始めました。最近ではBBCCNN・ロイターを一次情報として使用せず(当然日本のマスメディア情報は排除)、それ以外の多彩な情報源を駆使することで、読者の期待に答えられるようになったかと考えています。

 

このメディア御三家の一方的報道については、既に数年前、ベネズエラ非難報道のころから感じていました。それは偏りというレベルではなく、ネガフィルムのように白黒を反転させるほどの情報操作です。

この号では権威ある外交誌「フォーリン・アフェアーズ」の記事を紹介することで、情報の客観性保持に努力しました。それがトレニン論文です。

 

 

1.ICAN ロシアの核脅迫についての共同声明

 

2017 年にノーベル平和賞を受賞した国際反核組織「ICAN」が 5 ⽇に発表したアピールです。

ICAN のサイトから直接ダウンロードしたので間違いないとは思いますが、今読み返してみると、その反応はかなり単純なものです。当初のメディア・ストームに翻弄されています。例えば下記の一文など読むと、そこには「事実」に対する慎重さがありません。

 

いまや核をめぐる緊張はもっとも危険な水準にまで高まっています。 ウラジーミル・プーチンは、核攻撃を開始するぞと脅迫し、「攻撃・防御における核兵器動員警報」をソ連解体以来の最高レベルに引き上げました。…それは国連憲章を含む国際法に違反した決定です。

 

 

2.ヘルファンド「ウクライナと核戦争のリスク」

 

これは1.より古い、開戦前の記事です。ヘルファンド(Ira Helfand)は国際反核医師の会の前会⻑です。

プーチンがヨーロッパに核脅迫をかけていると非難されましたが。ヘルファンドは、その非難が必ずしもあたっ

ていない、むしろ核の脅威を煽っているのはNATO側ではないかとし、プーチンの記者会見での言葉を正確に引用しています。

 

...もう1度だけ強調したいことがあります。何度も言っていることだが、最後に私の言葉を聞いてほしい。私の話を聞いて、紙面、テレビ、オンラインの視聴者に伝えてほしい。

ウクライナがNATOに加盟し、軍事的手段でクリミアを奪還すると決めたら、欧州諸国は自動的にロシアとの軍事衝突に巻き込まれる。つまり欧州諸国との戦争が始まってしまう。そうしたら勝者など存在しないのです。

 

 

3.国連緊急総会でのキューバ演説

 

この演説からは裂帛の気合が伝わってきます。明白に火中の栗を拾いに行っています。

キューバはまず、今回の事態が「武⼒⾏使や法の諸原則・国際規範の不遵守」であることを認めます。そのうえでその要因を慎重に評価するよう求めます。なぜならその慎重さは、「特に⼩国にとって、覇権主義、権⼒の乱⽤、不正義と戦うために不可⽋な基準となる」からです。ここがキューバの主張のキモです。

今回の事態において、時系列的にも地政学的にも追い込まれているのは、“相対的な小国”としてのロシアなのだ、そういう国が「国際規範の不遵守」を犯した場合は、その理由を十分に吟味しなくてはならない、というのがキューバの言い分です。

 

 

4.トレニン「ウクライナにおけるプーチンの真の狙い」

 

ちょっと古いのですが、昨年末の「フォーリン・アフェアーズ」に掲載され た記事で、副題には「もとめているのは NATO の拡⼤阻⽌で、領⼟の拡張で はない」というものです。

もう一つ、プーチン(というよりロシア)の抱く危機感は深刻なものであり、それは西欧とのあいだに⼤きな⾮対称性があることです。

 

プーチンは 4 度にわたる NATO 拡⼤ を耐え忍び、ABM や中距離核戦⼒、⾮武装偵察機などを規制する条約から⽶国 が脱退するのを受け⼊れなければならなかったことを忘れてはならない。彼にとってウクライナは最後の砦なのだ。

 

今回の事態をプーチンの個人的資質に帰す論者は、それだけでも無知をさらけ出していると言えます。

 

 

5.ウクライナ侵攻に思う_会員からのメール

 

会員の影⼭さん(映像作家・AALA全国理事)から寄せられたメッセージを紹介します。

 

戦争を始めた責任はロシアにあります。同時に、「アメリカやヨーロッパは戦争を本当に終わらせるつもりがあるのかと感じています。

侵攻前に外交努⼒が尽くされたとは思えず、その後も「ウクライナの皆さん、頑張ってください」と欧⽶諸国が武器や軍事費を注ぎ込み続けています。

「戦争・戦闘を煽るな ⼀刻も早く戦闘を終わらせる外交努⼒を尽くせ」と アメリカや EU にもいう必要があるのではないでしょうか。

 

私の意見を付け足すと、影山さんの意見はごく普通の日本人の感想だと思います。これが普通に感じられない日本の状況に危なさを感じてしまいます。

 

 


319

ウクライナ特集 第3弾

AALAニュース 第102号

 

一方的に手を出したのはプーチンであり、最初から徹頭徹尾悪いのはプーチンです。それは間違いないのですが、ウクライナ政府に問題はないのでしょうか。国⺠にこれだけの犠牲が出ているのに、なぜ戦闘を続けるのか、これも問題ではないでしょうか。

彼我の⼒の差を⾒れば、「出てこいニミッツ、マッカーサー」という挑発は指導者としてあるまじき⾔動です。第⼀、いますぐNATOに加盟しようと⾔っているのはウクライナ政府だけなのだから、そんなことにこだわるのは無責任でしょう。

前号のトレニン論文の中ではゼレンスキーに対して厳しい評価がくだされています。

 

和平候補として出⾺して地滑り的に⼤統領の座を獲得したゼレンスキーは、きわめて⼀貫性のないリーダーである。

 

ニュース記事ではないのでブログに書き込んでおいたのですが、この頃の私の気持ちはこんな感じでした。

 

愚かなゼレンスキーよ
お前には国のトップを担う資格はない。
闘う正義がウクライナにあろうとも、だからといって、
国民に竹槍突撃を命令して良いわけがない。
耐えられないのなら、お前から真っ先切って突っ込め、
そして「バンザイ攻撃」が無意味であることを 身を以って国民に示せ。


少しづつ落とし所が⾒えてきました。これは「武装自爆」であって、断じて「武装自衛」ではありません。不満が残るにしても、いま⼤事なのは⼈間の命です。後に防衛費倍増論と絡んで問題になるのですが、このような「本土決戦」は専守防衛の議論とは相容れません。専守防衛論は本土決戦型オプションを本質的に排除するということを肝に銘じるべきです。

 

 

1. 浅井基⽂「ロシアのウクライナ侵攻_問題の所在と解決の道筋」

 

はそのためのツールになると考えました。浅井さんは以下の点が死活的に重要だとします。

 

1999 年イスタンブール⾸脳宣⾔での「不可分の安全保障原則」

すなわち、「⾃国の安全と他国の安全は不可分に結びついていることを認め、他国の安全を犠牲にする形で⾃国の安全を追求してはならない」という原則。

②条約等で成文化した合意。すなわちウクライナの NATO 加盟を認めず、軍事⼒を駐留させず、攻撃型のミサイルを配備せず。

 

もう一つの交渉の柱がクリミアと東部地区の扱いです。浅井さんは、これは「中⽴化」確約を取り付けるための、交渉開始時の「掛け値」だとみます。

その上で浅井さんは以下の点を強調します。

 

私たちとしてはロシア糾弾に終始するのは本末転倒だ。⻄側論調に振り回されることなく、ロシアがウクライナ軍事侵攻を余儀なくされた原因をしっかり⾒てとる必要がある。

 

これは開戦後1ヶ月の時点での評価ですが、すでにグローバルな視点を持つ内外の識者の間では、このような「NATO主犯説」が広がっていたことがわかります。

 

 

2.シリル・ラマポーザ 南アは平和の側にしっかりと⽴つ

 

ラマポーザ南ア⼤統領のインタビュー記事です。特集第一弾で掲載した南ア外務省声明の説明となるものです。

 

ウクライナでのロシアの軍事作戦を⾮難する投票を棄権することで、「南アフリカは歴史の間違った側に⾝を置いた」と⾔う⼈もいます。それは違います。

…紛争の勃発以来、私たちは、戦争は紛争の解決策ではないと信じてきました。私たちが⼀貫して懸念を表明し続けてきた理由は、戦争が⼈間の深い苦しみにつながっていると信じるからです

 

説得的で感動的な言葉が連ねられます。ぜひ全文をお読みください。

 

 

3. 環球時報「カラー⾰命と⽶帝国主義」

 

環球時報の編集部が特別チームを作って書いた記事です。前世紀末からのNATOの東方進出ぶりをわかりやすく解説しています。バラ⾰命、オレンジ⾰命、チューリップ⾰命、世界に広がった「カラー⾰命」を⼀覧できる、いま格好の読み物です。

私たちがウクライナへの侵攻に驚いているのは、これまでアメリカが仕組んできたクーデターの流れを知らなかっただけということがわかります。流行りの言葉で言えば「違った景色」が見えてきます。

 

この数⼗年、アメリカは「カラー⾰命」という名の、「⽕薬を使わない戦争 を世界各地で計画・実⾏してきた。直接軍事⾏動を起こすのではなく、他国の内政に介⼊して政府を転覆させてきた。それが世界⽀配を強化するための⼿段とし て、より効率的かつ経済的だと判断し、カラー⾰命を好んで使うようになった。

…⾰命が残したものは、平和でも⻄欧⾵の⺠主主義でもなく、対象国の⼤混乱、破壊、カオスであった。それが今⽇の世界の不安定の原点である。ユーラシアの国々はカラー⾰命の最悪のターゲットとなっている。

 

4.キエフから⻄側左翼の⼈びとへの⼿紙

 

ウクライナ左翼内の「祖国防衛派」の意見です。次の論文、平和主義者シェリアシェンコの声と対比して聞くべきでしょう。とても考えさせられる文章だ。筆者のタラス・ビルスはウクライナの歴史家で社会主義者。

 

私は NATO の熱烈な⽀持者ではない。冷戦終結後、NATO が攻撃的な政策をとっていることは知っている。NATO の東⽅拡⼤が、核軍縮や共同安全保障システムの形成に向けた努⼒を台無しにしたことも知っている。

もはや妥協はありえない。この闘いは、ロシアがウクライナから撤退し、すべての犠牲者とすべての破壊の代償を払うまで続くだろう。

 

今では逆の言い方をするほかない。もはや徹底抗戦はありえない。これ以上の犠牲者を出し続けてはならない。戦いの代償を戦う相手に求めてはならない。お互いに被害者なのだから。加害者は他にいるのだから。

 

 

5. Truth Out「ウクライナ_戦時下の左派の⼈々」

 

シェリアジェンコは平和主義者というより⾼僧の雰囲気を漂わせています。反戦活動が厳しくなったとき、最後の選択として⾮戦を貫くという覚悟はズシンと⼼に響きます。 私は、この⼈はドゥホボール教の⾮戦思想を引き継いでいるのではないかと、密かに思っています。これについては「ドゥホボール教の⾮戦思想」を御覧ください。

 

ドゥホボール教は、18世紀にウクライナ地方に起こった。原始キリスト教を思わせるような素朴な信仰である。教会も聖書も儀式も一切認めない。原罪を否定しイエスの神性までも否定する。

ただ、汝殺すなかれ、己を愛するように隣人を愛せよ、暴力に対するに暴力でもって抵抗するな、この三か条だけ伝えてきた。トルストイが感動し支援したことで有名になった。

 

 

327
      ウクライナ特集 第4弾
     AALAニュース第103号

不抜の「平和派」であるべき

 

今回もウクライナ特集(第4弾)です。過⽇の国連総会決議では、圧倒的多数でロシアへの糾弾・⾮難決議が採択されました。

決議は当然ですが、棄権票を投じた国に⾮難が集中したことについては、よく考えてみるべきです。

逆に強硬派に⽀持が集中していますが、強硬であるがゆえに指示されるという傾向は健康的ではありません。

暴⼒の応酬は不⽑かつ危険です。なぜならロシアとウクライナは、そもそも戦うべき相⼿ではないからです。なにも戦う理由などないのです。どこかにボタンの掛け違えがあるような気がします。私たちは国際社会の⼀員として、不抜の「平和派」であるべきだと思い ます。

 

1.ミャシアイマー「ウクライナ危機の責任は NATO にある」

侵攻開始の10日前、2月15日に行われたインタビュー(YouTube)からの⽂字起こしです。奇跡の80分というか、中⾝てんこ盛りの話です。記事に起こしたら 6600 字、A4 で9ページになりました。アメリカだけでなく世界中で評判になったスピーチです。

 

⼀応、編集部で⼩⾒出しを付けましたが、それでもなお難しい。⼩⾒出しを 並べて⽬次もどきを作りました。こんな流れで話しているということを頭に おいてから読み始めてください。

はじめに

 危機の起源と歴史

ウクライナを⻄側の防壁に

NATO は⼀線を越えた

反撃を開始したロシア

2014 年のウクライナ危機

 ロシア政治の基本_「リアルポリティーク」

「今後はもう許さない」

⽶国はロシアの善良な隣⼈であったのか

 2021 年に起こったこと

「ウクライナは味⽅」はただのレトリック

危機を鎮静化させるべき希望とは

 

 

シェリアジェンコ「紛争激化阻⽌へ⾮暴⼒の抵抗を」

 

これは3月1日のデモクラシー・ナウのインタビュー記事です。「ウクライナからの平和メッセージ」(AALA ニューズ 100 号)、前号の「戦時下の左派の人々」に続くものとなっています。あわせてお読みいただけると、侵攻開始によって「平和主義運動」の⽴場がどう変わったかが明らかになります。

 

名⽂句が珠⽟のごとく散りばめられていて、⼈を感動させる不思議な⼒を持 っています。

 

この紛争は東⻄間の軍事化、政治化が⾏き過ぎたための現象です。それはプーチンを外交から戦争へと追い込んでいます。

とても残念なことは、⻄側諸国でのウクライナ⽀援が、主に軍事⽀援とロシアへの痛みを伴う経済制裁の発動に偏っていることです。また紛争に関する報道は戦闘に焦点があてられていて、戦争への⾮暴⼒的抵抗がほとんど無視されていることです。

組織的な暴⼒や戦争が神業のような万能薬で、すべての社会問題を解決するという考えは、独りよがりな誤りです。怒りにまかせて⼈類の最後の絆を断ち切るのではなく、地球上のすべての⼈々のコミュニケーションと協⼒の場を維持しなければなりません。

 

 

. Daily Maveric「南ア決議案のてん末」

 

 “Daily Maveric” という南アフリカのネットニュースの記事(25 Mar 2022 )です。南アが独⾃の決議案を国連総会に提出し、否決されるに⾄った経過を詳 らかにしています。

 

異例のことに、国連総会はウクライナの提出した決議を採択した後、南ア案を採決した。それはウクライナ案からロシアへの言及を一切排除して独自の決議案として提出された。総会は南ア案にも採決をおこない、賛成 50、反対 67 で否決された。

 

これは、内容的には修正動議です。投票数が少ないのは、多くの国が知らずに退席してしまったためです。(ウクライナ決議採択への参加国が183カ国であるのに、南ア決議案採択時の参加国は117カ国)

ウクライナ案をゴリ押しした先進国は、さぞや肝を冷やしたことでしょう。経過を知って改めて、南アの提案は今後の交渉を占う上で⼤事な提案だと思われます。

 

. D・アドラー「なぜ南の世界はどちらの側にもつかないのか」

 

英ガーディアン紙に掲載された評論。アドラーはバーニー・サンダースの外 交政策顧問をつとめた政治経済学者です。

 

ここ数⽇、先進国メディアは国連決議の世界地図を見せて、プーチン政権に対する世界の結束を示している。

しかしこれらの地図は、これ以上ないほど先進国とそれ以外の国の差を映し出している。

制裁についての地図は、本当の⻲裂は右と左の間でも、東と⻄の間でもなく、先進国と発展途上国との間にあることを示している。

 

しかしアドラーが真に問うているのは南に対してではなく、「西側の左翼」です。

 

多くの記事、ツイッターが「⻄側の左翼」を取り上げ、プーチン政権に対抗する気がないように⾒える といっている。そして、⻄側の努⼒を⼒と信念を持って⽀持することができないのは「疑似左翼」であると非難している。

 

「そうなのだろうか?」と、アドラーは先進国の左翼に問いかけています。

私たちの選択は南と同じく「中立」という選択ではないか。

アドラーは、その中立というのは「中道」(中間)という形では実現せず、「非同盟主義」とカップリングしなければならないと訴えています。

今世界で最も選択を迫られているのは、先進国の左翼だと言えるのかも知れません。

 

 

 

202247

ウクライナ特集 第5弾

AALA ニューズ 104号

 

今号はウクライナ特集第5弾として、10本の記事が掲載されます。ミアシャイマーの記事に続き、国務省高級官僚出身者の主張する、いわゆる「リアル・ポリティーク」の視点を考えてみたいと思います。諸論文からは中身の濃さがグイグイと伝わってきます。

トルコの調停のもとに和平交渉が進み、停戦に向けてかすかな灯りが見えてきたようにも見えます。とにかく因縁浅からぬ隣人同士の殺し合いはやりきれません。一日も早く収まるよう祈るばかりです。

 

1. キッシンジャーの予言「ウクライナ危機を解決するために」

このところキッシンジャーのウクライナ関連発言がしばしば伝えられています。

ここで少し経過を個条書きしておきたい。

2016年 トランプが大統領に就任。キッシンジャーは過去の人脈により非公式の外交顧問になった。
20176月 ロシアを訪問しプーチンと会談。その後米ロ関係の修復を図った。北朝鮮との関係改善についても影で動いたとされる。

2022523日、世界経済フォーラム(ダボス会議)にオンラインで参加。ウクライナ情勢について「東部は分割すべし。今後2カ月以内に和平交渉を再開」との見解を示す。

ご承知のようにキッシンジャーは決して善人ではなく、勢力均衡論に立って実現可能な妥協形態を考えようというのが持論です。そして欧米が考えるウクライナ構想は非現実的だから、いつか(かなり近いうちに)破たんするということです。

今回紹介する記事は、2014 のマイダン政変の時、ワシントン・ポストに寄稿したものです。

 

2. トマス・グラハム他「プーチンと和解する方法」

 

「フォーリン・アフェアーズ」の3月21日号に掲載されたものです。シニカルなタッチで「リアル・ポリティーク」 の世界の論理を展開しています。

 

ロシアの不当な戦争を終わらせるために、ウクライナはどのような条件を受け 入れるべきなのだろうか。不謹慎な質問だと思う人もいるかもしれないが、現実には、今のところ、満足のいく勝利は手の届かないところにある。

死者の数、破壊 の規模、そして紛争拡大のリスクが高まる中、優先されるべきは苦しみを終わらせることであろう。これは、政治的解決をもたらす外交的関与によってのみ達成 されうる。

まず、最も緊急な課題は、停戦を仲介し、ウクライナ内外の難民に人道支援を提供することである。次に、戦争の終結を交渉することである。

 

ゲーム感覚で外交的解決の道すじを切り開いていくところは、ある種の小気味よさを感じます。

「正義派」にとってはしゃくにさわるかも知れないが、必要な議論です。

 

. ウェス・ミッチェル「ウクライナ中立化の条件」

 

「フォーリン・アフェアーズ」の3月17日号に掲載された論文です。ウクライナは NATO 非加盟で行くしかないことを、「ロシアとプーチンが信用出来ない」ことを根拠にして主張しています。

 

この文章はあくまで3月中旬の政治的・軍事的状況を背景にして書かれたもので、現在ではもう少し突き放して読むべきかも知れません。

 

ウクライナにとって中立化が死刑宣告になるわけではない。むしろそれが最善の成果かもしれない。このような成果が可能になるのは、ウクライナの頑強な軍事⼒がゼレンスキー に交渉のテーブルで与える影響⼒のおかげである。

 

開戦当初の「意外な」健闘によりウクライナの生き残りの可能性は大きく開きました。「ここで手を打ったら?」というのがミッチェルの提案です。

それにしてもキッシンジャーやグラハムも指摘した「最後のチャンス」を、西側メディアは「ブチャの虐殺」で潰してしまいました。ここから先は「CNNの戦争」になっていくのです。愚かなことだと思います。

 

4.環球時報「ウクライナ危機と悪役アンクルサム」

 

環球時報は、時々変化球を投げてきます。この記事はキッシンジャーから始まり、ミアシャイマーへと続き、最後はジョージ・ケナンの予言で締めてい ます。

米国のリアル・ポリティークの系譜を知る上では格好の材料でしょう。

 

. 吉川顯麿「戦争を泥沼化する武器供与の拡大」

会員の紹介を得て掲載された論文です。ロシアの側にも気配りしており、事態の安定的解決のためにはNATOのウクライナ進出を止めることで欧米諸国とロシアが合意することが必要だと強調しています。

 

6.鈴木頌「ウクライナ:緊急課題と長期課題」

この特集には私の発言も潜り込ませてあります。それについては私のブログの方でご参照願います。その最後に書いた「中長期の課題」の要旨のみ再掲します。

ウクライナ紛争はロシアと NATO の対立がもたらした代理戦争でもあります。この2つの軍事ブロックの対立が解消しない限り、ロシアの不安と苛立ちは残り、第二の紛争(たとえばベラルーシやジョージア)が起きる危険はつのります。したがって、軍事的中立化を軸とする平和構築の課題は必須です。

1.国際間の「ウクライナ協約」を

ロシア、NATO のみならず、周辺諸国でウクライナの平和を保証する協約を結ぶことが必要です。ウクライナはその保証の下で中立・自衛・非同盟の国造りを行うことになるで しょう。

2.周辺諸国が互いに安全を保証する

ロシアと NATO は相互に敵視することを止め、相互不可侵とパートナーシップ の関係を確定することが必要です。

さらに長期課題としてはNATOの改組・廃止、一切の軍事同盟の廃止を射程に置くべきです。

 

 

4月26日

AALA ニューズ105
ウクライナ特集第6弾

 


105号内容紹介の出だしにこう書きました。

「ブチャの虐殺」以来、すっかり時計の針が逆戻りしたようです。ロシアは⾃分がしていることが無法だということをすっかり忘れてしまったようです。ロシア軍が発射したすべての砲弾がウクライナの地に落ちていることについて⾃覚しなければなりません。

ただ⼀連の経過の中で、「ロシアが悪いとしても、それでもやはり和解以外の道なし」の実感も強まっているように思えます。

今考えると、この号は精一杯という所です。明らかにこの事件を回転軸として、ウクライナ戦争の性格はガラッと変わってしまったようです。これ以後、戦争の残虐化、欧州市民の熱狂的支援、AALA諸国の“興ざめ”が同時に急速に展開されていきます。

「何があったのか」は今もって闇の中ですが、それより「どう報道されたのか」の方は明らかです。度を越えた幾多の情緒的表現を確認しておきます。

①西側メディアの報道によると、キエフ近郊のブチャから、ロシア軍撤退後に数百⼈の⺠間⼈が路上や集団墓地で遺体で発⾒された。何⼈かは、両⼿を縛られたまま頭を撃たれたようだ。

②ウクライナ政府の国連大使はこう語った。

ブチャをはじめとする数⼗のウクライナの都市や村では、平和に暮らす数千の住⺠がロシア軍によって殺され、拷問され、レイプされ、拉致され、強奪された。

 

「第6弾」は4⽉7⽇に⾏われた3回⽬の国連総会の動きに焦点を合わせて紹介しています。

 

1. シンガポールはウクライナ⼈権侵害の精査をもとめる

東南アジア諸国はブチャの虐殺を機に明らかに欧米諸国と距離を取り始めました。おそらく上記の如き報道に不実の匂いを嗅ぎ取ったのでしょう。

シンガポールはASEAN 加盟国の中でロシアに直接制裁を課している唯⼀の国です。このことを考えると今回棄権に回った決断の重みを感じます。

このほか、ASEAN ではマレーシア、インドネシア、カンボジアが棄権しました。ベトナムは反対票を投じました。

マレーシアの国連代表団は、投票に棄権した理由について、次のように説明しています。

 

⼈権理事会メンバーの資格停⽌のような重要な決定は、性急に⾏われるべきではありません。また、そのようなかたちで、調査の結果に予断を与えるべきではありません。 このような重要な問題は、決議 60/251(⼈権理事会の設⽴に関する)の完全な精神と⽂⾔の下で、過去と同様の平等な扱いと正当な⼿続きを踏んだうえで、 決定されなければなりません。

 

2. 国連総会でのベネズエラとキューバの発⾔(4 7 ⽇)

新藤さんの紹介を得て掲載します。ベネズエラは過去数年間、米国による経済封鎖と反政府宣伝で苦しめられてきましたから、その手口は見抜いています。
ベネズエラは煽りで政治を動かしてはならない、煽りの手段として人権を弄ぶようなことはするな、と先進国を批判します。

⼈権の促進と擁護は、公平性、客観性、透明性、⾮選択性、⾮政治化、 ⾮対⽴の原則に従い、対話と協⼒を基礎として、公正かつ建設的に議論されるべきであると考えます。⼈権は主権国家を攻撃するための道具とされてはなりませ ん。そのような議論は、⼈権の普遍的体系の本質を損ないます。

キューバは発⾔の最後で「あなた⽅は⽶国の⼈権侵害を告発できるだろうか」と厳しく切り替えしています。

 

3.南ア 「対話と調停が紛争を終わらせる唯⼀の道」

 前回の国連総会で独⾃案を提出して話題を呼んだ南アフリカの、ブチャ問題に関する報道です。よりいっそう提案の趣旨が鮮明となっています。

 

4.G20の議長国、インドネシアが調停に積極的

 

今年の G20 サミットの開催国インドネシアがウクライナ停戦へと動いていることの論評です。驚くのは次のごとき記載です。あらためてASEANにおけるインドネシアの重みについて実感しました。

1988 年から 1991 年にかけて、カンボジアの武⼒紛争を停⽌させ、 ベトナムのカンボジア占領を終わらせた。

1993 年、インドネシアはイスラム会議機構の議⻑を務め、フィリピン政府のイスラム武装集団との和解に乗り出した。これが1996 のフィリピン政府とモロ⺠族解放戦線との和平協定に結びついた。

 

5.⽇経「ロシア追放で⻲裂露呈」を読む

いまやフィナンシャル・タイムズと並んで、貴重な報道機関となった日経新聞。その49⽇三⾯のトップ記事。国連総会で「ロシアの⼈権理事会からの排除をもとめる決議」が行われました。国連総会の前回決議(324⽇)と対⽐されています。

キーウ周辺での⺠間⼈殺害を受け、ロシアの⼈権理事会理事国の資格停⽌をもとめる決議が、国連総会に提出された。投票参加国は 175 カ国、うち「⾮賛成国」は 100 カ国・過半数に達した。

この記事は事実報道あけでなく反対理由を分析しています。少し長めに引用します。

 

国連の役割を問う

ロシアが悪いのはわかるが、国連は裁判所ではない。1 ヶ⽉の間に 3 回も採決を⾏い、そのたびに加盟国に政治的踏み絵をふませることが、事態の解決に結びつくとは思えない。

事実は未解明処分は急ぎすぎ

独⾃調査を⾏い真相を明らかにすべきだ。当事者が責任を否定している以上、事件の解明を先行すべきだ。

⼈権侵害の疑いがあれば理事国になれないのか

⼈権侵害の疑いをかけられている国は日本をふくめ相当数ある。⼈権問題をことさらに強調するのはNATO諸国のご都合主義だ。

と、その切っ先には鋭いものがあります。

 

この号には、ブチャの虐殺とマリウポリ劇場爆破事件についても掲載していますが、体裁上この号では重すぎるので、次号分に回します。

5月1日 

ウクライナ特集 第7
AALAニューズ106


今号は大幅ページ増で、通常号の2倍以上あります。

この頃は、総じて言えば「鬼畜ロシア、断じて許すまじ」の主戦論が欧米・日本を席巻している時代でした。

今考えると、「ブチャの虐殺」が全面戦争へのノロシでした。それまでの和平ムードは吹き飛び、主戦論がウクライナを含む西側の主流となりました。ウクライナ当局の情報が無批判に事実認定され、BBCなど西側メディアを通じて垂れ流されるようになりました。
ロシア側の言い分は無視され、プーチンとロシアは人類の敵とみなされるようになりました。「国連憲章に基づく解決以外なし」との主張が広がり、停戦と話し合いによる和平を望む人までロシアの味方だと非難されるようになりました。

このとき、ブチャからマリウポリへと続く西側キャンペーンに対し、基礎事実の曖昧さを指摘することは大変困難でしたが、あえて「非人道的な行い」について何点か言及しました。

 

以下の2本の記事は前回号(105号)所収のものですが、文章の体裁上、こちらで紹介させていただきます。

 後半のいくつかの論文は、いずれも「困難なときだからこそ頭を上げて、世界史の発展方向を見据えて進もう」という論調になっています。

 

1.ブルメンソール「BBC マリウポリ劇場の爆撃報道はでっち上げ

“ブチャの虐殺” のあと、ロシア軍の非道を非難する報道が相次ぎました。その中でマリウポリ劇場の爆撃報道は、本来なら誰が見ても“危うい”ニュースでした。巨大な建物が押しつぶされるように崩壊する画面が繰り返し流されましたが、住民の避難場所だったにしては、いつまでも死傷者の数が発表されません。

これについてネットマガジン「グレイゾーン」を主宰するブリュメンソールがレビューしています。

報告は二部に分かれ、A4で17ページとなっています。原題は「BBC のウクライナ戦争報道を担当する通信員・フィクサーは、" 戦争情報組織 "に関わる宣伝⼯作員だ」と、これも長い。

題名でもわかるように、この記事はマリウポリだけを取り出しているのではなく、BBCが英国情報組織に従って系統的にニセ情報を流しているという、かなりどぎついものです。

かなり躊躇しましたが、商業メディアがこのまま偏向報道を続けるのなら、一石を投じなければならないと決意しました。

内容紹介はしませんが、とりあえず見出しだけでも追ってみてください。

 

2.ブチャの虐殺は偽旗作戦

グローバルリサーチというネットマガジンの署名入り記事でJens Bernert記者が投稿しています。

まずは「偽旗(False Flags)とは何か」から

"偽旗 "とは、相⼿のせいにする⽬的で⾏われる政治的・軍事的でっち上げのことである。 ⾃国に対する攻撃シミュレーションを⾏い、敵がそれを⾏ったと主張することで戦争に突⼊するための⼝実とすること。「ブチャの悲劇」は "偽旗" 作戦の可能性がある。

 

これより少し前、ロシアとの第1回停戦交渉がはじまったとき、ウクライナ交渉団のトップであったデニス・キレフ氏が、キエフで白昼堂々殺害されました。キレフ氏はその後、"反逆罪"と非難されました。ゼレンスキー大統領の「分裂を目的とした政治活動は許されず、対ロ協力者は厳しい対応を受けることになるだろう」と発言しました。ゼレンスキー個人に強い圧力がかかったことは容易に見て取れます。

虐殺事件の発覚後現地を訪れたゼレンスキーはこう宣言しました。「もし我々が文明的な方法を見つけなければ、結果は自明だ。国民は非文明的な方法を見つけるだろう」(ブルメンソール論文)

ネオナチの記者ジュリアン・レプケのツィッターは、(本当だとしたら)恐ろしい内容を含んでいます。

3.グレイゾーン「ウクライナ政府とネオナチ」

こちらは106号所収の記事です。「マリウポリ」の記事と同じくA4で18ページの大作です。我ながら、よくもこれだけ翻訳したものだと感心します。

内容はブルメンソールをアンカーとする調査報道で、原題はもっと毒々しい。

"裏切り者を一人でも減らす" ゼレンスキーは 暗殺、誘拐、拷問を監視する」

ウクライナ軍の中でネオナチが幅を利かせているのは周知の事実ですが、その名に恥じず悪辣な行為を働いていることも、徐々に明らかになってきました。

彼らはSNS等を通じて残虐ぶりを誇り、「成果」を吹聴しているようです。閲覧にはご注意ください。

以上の3本を読むと、信じようと信じまいと「違った景色」が見えてくるでしょう。こんなことで第三次世界大戦、世界核戦争に巻き込まれるのはまっぴらです。

 

4.バチカン・ニュース「復活祭のローマ法王、平和の呼びかけ」

この間、ローマ法王が和平を呼びかけました。法王の呼びかけは明快で鮮烈です。平和は可能である。平和は義務である。平和はすべての人の第一の責任である!
それは煽られた主戦論とは一線を画し、グテイレス国連事務総長の思いとも共通するようです。

 

5.英モーニングスター「今こそ非同盟と平和のために」

文章はこういう書き出しで始まります。

私たちは最近ますます現実離れしていくものに確実に圧倒されている。それはロシアによるウクライナ戦争が続く限りは交渉は無駄という不可解な見方である。

そして“圧倒されている私たち”に、もう一つの見方が提示されます。

ウクライナ戦争を北の世界と南の世界という構図から見ていくと、まったく違ったものになる。そこに非同盟と平和という思想が浮かび上がってくる。

鮮烈な印象を与える文章です。乱暴にならずに丹念に議論をしていくと、大きな方向が見えてきそうです。

 

6.ALAI「世界の周縁へ回帰するヨーロッパ」

ALAIThe Latin American Information Agencyの略。国連の外郭団体で、日刊で情報を提供しています。
この論文は定期寄稿者のドス・サントスの筆になるもの。欧州近代史を踏まえた重厚な論理構築は、読むものをうならせる力があります。実にスッキリした読後感で、「正義派」の人にも受け入れられるだけの説得力を持っていると思います。

…欧州のレンズを通して見ると、ヨーロッパ人はかつてなく強固で親密になっていると感じ、歴史の正しい側にたっていると確信する。 地球全体が「自由主義秩序」の世界によって運営されており、世界はようやく、中国の主要パートナーであるロシアを破壊し、その後、近いうちに出かけて行って中国を征服するか、少なくとも無力化するだけの力があると感じている。

しかし一方、ヨーロッパ以外のレンズを通して見ると、ヨーロッパとアメリカはごう慢になって孤立同然となっており、おそらく一つの戦には勝つことができても、歴史の戦争では確実に敗北する途上にある。

 

7.ワシントン・ポスト「ウクライナと、勢力圏をめぐる米国の偽善」

ブリンケン国務長官はロシアのウクライナ侵攻は、もはや古臭くなった「勢力圏構想」に基づくものだと批判した。しかしアメリカも西半球を死活的勢力圏としているではないか…

という問いかけです。

そして勢力圏の枠組みを設定しているのは、米国民全体ではなく、ブリンケンを先頭とするネオコンの人々だと、指摘しています。

 

ワシントン・ポストの記事というのが面白い。ただこれはコラムであり、その著者は筋金入りのリベラルであるカトリーナ・ヒューベル(ネーション誌の編集長)だから、社の意見を代表しているとは言い難い。だからワシントンポストも安心して彼女の記事を載せるのでしょう。

 

8.テレスール「ウクライナ紛争とアフリカ経済」

「アフリカの角」地帯では、すでにウクライナ紛争の影響で食料不足が出現している。それは小麦輸入の減少もあるが、むしろ肥料供給大国であるロシアからの供給不足の影響が深刻だというもの。この肥料不足問題は米国の農家にも影響しているようです。

 

 

510 

ウクライナ特集 第8
AALAニューズ No.107


 内容紹介

戦いが憎しみの応酬へと変質させられる中で、ウクライナの「正義」だけが強調され、解決への道すじが失われてしまいました。

私たちの行動は、残念ながらこの(でっち上げられた)憎しみの回路を断ち切ることに集中するほかなくなりました。そのなかで真っ当な意見も出されるようになってきました。


1.
チョムスキー「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」:要約

https://www.youtube.com/watch?v=yw5DvUgJlZA

 

田中靖宏さんが翻訳・要約しています。まず出だしが良い。言うべきことを言い尽くしている。チョムスキーさん、すでに相当の高齢だが、やる気が伝わってきます。

ウクライナの自衛努力への支援は正当なものだと思いますが、支援の規模は慎重に決めなければなりません。でないと実際にウクライナの状況の改善にならないし、いたずらに紛争をエスカレートさせて、ウクライナの破壊につながりかねません。

これは次のような質問に対する答えであり、いまでも正当だと思います。

アメリカの左派の反戦活動家たちの間で、プーチンによるウクライナ侵攻と大量殺戮にどう対応するかで議論が行われています。…あなたが賛成する点はありますか。

正義はわかりやすいが、真理はにがくて飲み込みにくいということでしょうか

 

 

2. Stop The War「戦争が変質しつつある_早く終わらさなくては」

 

原題はちょっと長い。「ウクライナの戦争はすごいスピードでNATOとロシアの直接戦争になりつつある。その先は地獄だ!」というもの。

Stop The War は英国コード・ピンクを中心にイギリスの女性団体が立ち上げた、ウクライナ戦争終結を目指すネットワークです。
codepink
メインスローガンが「ウクライナの戦争をやめろ」

サブスローガンが2つ。「ロシア軍は出てゆけ」と「NATOはこれ以上拡大するな!」です。

いかにも婦人団体らしくおしゃれなポスター。平易な表現で、非常に筋の通ったスローガンを提起しています。いまでも十分通用します。

逆に言うと、いまでも通用してしまうところに、主体形成の厳しさを感じてしまうのですが、今後の教訓とするためにも学んでいく必要があるでしょう。

 

3. ウクライナ平和主義運動「戦争継続に反対する声明422日」

この写真(略)は「ウクライナ平和主義運動」が16日に行った集会の模様です。フェースブックからの転載です。これはある意味で祈りの集会です。

残虐行為の結果が憎悪を煽り、新たに残虐行為を正当化するために用いられてはなりません。私たちの行動は恐怖心ではなく、平和と幸福への希望によってもたらされるべきものです。
主よ、暴力に終止符を打ってください。主よ、私たちをお赦しください。ウクライナ人のイリーナとロシア人のアルビナが、なぜ一緒に十字架を背負って平和を祈っているのかを理解しようとせず、怒っている人たちを許してあげてください。


 

4. ヴォリネン「フィンランドのNATO加盟問題を問う」

 

フィンランドでウクライナ紛争を機にNATO加盟の是非が取り沙汰されています。またこれと裏表の関係でウクライナへの人道援助・武器援助も検討され、すでに一部では実施されています。

政権は中道左派系ですが、左派同盟は政権の一翼を担っていて、基本的に同調姿勢をとっています。これらの政治状況について「左翼青年」(左派同盟)の青年組織代表がインタビューに答えています。

最大の問題は、ウクライナをきっかけとした国民の国防への熱狂で、左翼は今のところこれに対応しきれていません。長い間、国民のほとんどが NATO 加盟を拒否してきましたが、ウクライナ戦争が始まるとわずか数週間のうちに、国民の大半がNATO を支持するようになりました。
安全保障問題には無関心だった「緑の党」も、NATO 支持を明確にしています。それは戦争に対するショック的な反応なのかとも考えられますが、まだ答えは出せません。


一方でフィンランドはウクライナへの軍事援助を開始しました。左翼同盟も連立政権の一員としてこれに合意しています。左翼同盟はNATO 加盟に反対の立場をとっています。そのためロシア贔 屓とみなされて不条理な扱いを受けています。(大要)

 

欧州の左翼が、市民のショック反応の大きさに耐えきれず大揺れしている状況が見て取れます。他人事ではありませんが、ここはどっしり構えていくほかないでしょう。

 

 

 

 

526
AALAニューズ  No.108

ウクライナ特集 第9


「ロシア、断じて許すまじ」の主戦論が欧米・日本を席巻しています。しかし「血を流せと煽るのは、なにかおかしい」という声も広がってきているようです。

この間LNGや原油の国際価格は暴騰し、物価をお仕上げ、世界経済の悪化をもたらしています。それは国際企業のボロ儲けの手段としてウクライナ戦争が利用されていることを示唆しています。ウクライナ戦争のこのような側面も見逃してはなりません。階級闘争が必要です。

 


1.
ルーラ「なぜ各国は平和構築の支援をしないのか」

 

ルーラ元ブラジル大統領は、この秋に予定される大統領選挙の最有力候補です。タイムズ紙とのインタビュー Lula Talks to TIME About Ukraine, Bolsonaro, and Brazil's Fragile Democracy”で、さまざまな問題について語っていますが、この内ウクライナ問題について抜粋しています。


悪いのはプーチンだけではありません。アメリカや
EU も悪い。ウクライナ侵攻の理由は何だったのでしょうか。NATO でしょう。 それなら、アメリかと欧州は「ウクライナは NATO に加盟しない」というべきでした。

対話はほとんどありませんでした。平和を望むなら、忍耐が必要です。

このインタビューで面白いのは質問者が途中で突然怒りだすのです。


(質問)ゼレンスキーにむかってそんなことが言えるのですか。彼は戦争を望んでいたわけではない、仕掛けられたのです。国境に
10 万人ものロシア軍が迫っていても、プーチンと話すべきだったというのですか。


これにたいしてルーラはさらに煽ります。


この男(ゼレンスキー)は嬉しいオマケをもらったといい気になっています。私たちは真剣にいうべきです。「わかった。確かに君は素敵なコメディアンだが、テレビに出るために戦争をするのはやめましょう」とね。

このケンカがどうなるかは、本文をご参照ください。


さらに、最後の一言はなぜルーラが人気なのかがわかる決め台詞です。


もし私がブラジ
ルの大統領で、「ブラジルは NATO に加盟できる」と言われたとしても、 断ると思います。 (質問)なぜですか。 (答え)理由は、私が戦争ではなく、平和のことしか考えていない男だか らです。

 


2.
CAP
「ウクライナ紛争とビッグ・オイルのボロ儲け」


「アメリカ進歩センター」(
CAP)は米国内 NGO で、国内の暮らしと経済問題を主要イシューとしています。

原題はThese Top 5 Oil Companies Just Raked In $35 Billion While Americans Pay More at the Pump

 

意訳すると、「石油会社上位5社は350億ドルを稼いだ。その一方で、産油国アメリカの市民は割増料金を支払わされている」

 

トップ5社が、コロナでボロ儲けした上に、ウクライナでまた溜め込むという悪辣な稼ぎを行ってい ることを告発しています。

2021年、企業はすでにガス価格の高騰による利益を得ている。COVID-19 の大流行による操業停止から経済が回復したことで、上位 25 社は 2050 億ドル以上の利益を上げている。だが、最近発表された 2022 年の第 1 四半期の利益はさらに驚異的である。

上位 5 社(シェル、エクソンモービル、BP、シェブロン、コノコ フィリップス)だけで、2021 年の第 1 四半期と比べて 300%以上の利益がもたらされた。

ウクライナ戦争とそれによる経済的痛手は、石油会社の経営者にとってはどれほど有益であったことか

 

 

3.環球時報「ウクライナは米軍産複合体の新たな稼ぎ先」

 

 環球時報は、中国共産党系の国際情報誌。記事は、ウクライナ戦争の本質を 米軍産複合体のマーケット拡大活動と見ています。

多分、かなりわかっている人を対象に書かれたのでしょう。流麗かつ大変格調の高い文章ですが、言葉を詰め込みすぎていて歯が立ちません。もう少し的を絞って論証に注力してもらえれば、と思います。

 


.
PeoplesWorld「スエーデン、フィンランドの NATO 加盟反対」

 

ピープルズ・ワールドはアメリカ共産党の準機関紙で、スエーデン、フィンラ ンドのNATO 加盟決定を批判しています。

原題は「スエーデンでもフィンランドでも、 共産党は NATO 加盟に反対している」というもので、スウェーデン共産党(SKP)と「フィンランドの平和と社会主義のための共産主義労働者党」(KTP)の主張を紹介しています。

 

5.大西廣「気になって仕方がないウクライナ報道」

会員による投稿です。ウクライナ報道の盲点について論及したものです。

それは本文をご覧いただくとして、「ところで」論として以下の問題が提起されています。


この事態に及んで日本で出されている議論に「日本が攻め
られたらどうするのか?」というものがある。多くの平和 人士に対して私が言いたいのは、これは今回の事態の理解を深めるうえで非常 に良い、絶好の機会を提供してくれているということである。

日本がロシアや中国に攻められ、ゼレンスキーのような人物に「戦え」と 命令されたらどうするかということである。

これは、未消化に終わったかつての「森島vs関」論争を再開すべきだという議論へと繋がります。

根本的には憲法の思想として非戦平和をとるか、専守防衛をとるかの選択かも知れません。(日本の現政権はそのいずれでもありませんが)

ウクライナ侵攻については、とくに西側主張に多くのフェイクがふくまれ、そのままでは論じられないのですが、それはそれとして、いわば「平和学のミクロ理論」のモデルとして語るべきかと思われます。

  

6月09日 

AALA ニューズ 109号

ウクライナ特集 10

 

引き続きウクライナ危機が中心の情報提供です。さすがの欧州にもウクライナ対応で亀裂が入り始めた感があります。

ロシアの無条件撤退を和平の前提とするのは、事実上無限の戦いを進めることになります。それまでウクライナ国民はバタバタと倒れていくことになります。彼我の力関係はそうなっています。

また西側諸国の国民も無限の犠牲を求められることになります。世界経済にとっても良いことは一つもありません。

これはたんなる算盤勘定ではありません。「それでも、それが正義なのか」という問い掛けです。

 


1.クレステス
FT
「欧州に迫る平和党と正義党の選択」

 

英フィナンシャル・タイムズに掲載された論文です。原題は「ロシアを孤立させることは、西側のためにならない」となっています。

平和等と正義党という政治的立場の分類は揺れ動く西欧の市民のあいだでかなりの話題になりました。

 

ひとつは、「平和の党」だ。平和党は西側が優先すべきは、できるだけ早く 敵対行為を停止することだ」と考える。 そして「ウクライナの大幅な譲歩を代償にしてでも、一刻も早く敵対行為を 止めるべきであり、それを西側の優先事項とするべきだ」と主張する。

もう一つは「正義の党」だ。こちらは「たとえ戦争が長期化したとしても、 ウクライナ領内からロシア軍を追い出すことが大事だ」とかんがえる。 そして「戦いと勝利」を優先事項だと主張する。 これから、この二者択一を欧州世論は迫られることになる。

 

. ボーテス 「南アフリカの立場は中立ではなく非同盟」

 

アルヴィン・ボーテス(南ア共和国、国際関係・協力担当副大臣)が南アの 新聞デイリーマーベリック紙へ寄稿したものです。

冒頭につけられたリードにすべてが表わされています。

戦争を防ぐことができるのは無条件の対話のみであり、いったん戦争が始まれば、それを終わらせるには交渉しかないという明確な立場を私たちは維持してきた。

 

もう一つ、欧米(の好戦派)を抑え込み、この戦争を終らせるイニシアチブは彼らにはなく、新興国にあると予測しています。だから南の諸国の標榜するのはたんなる中立ではなく、非同盟主義なのだと主張しています。

 

3.安斎育郞「ウクライナ戦争論集」

 

3月から5月にかけて書かれたウクライナ危機の背景についての論考です。A4で20ページ、そのまま本にしてよいほどの膨大な分量です。筆者の了解を得て転載します。

 

一読して、安斎さんの博覧強記ぶりに唖然とします。開戦当初から周囲のチャンネルと交信する中で、「プーチン憎しで固まってはだめだ、それで終わってはだめだ」という認識に達していること感服です。

 

 

. 木村知義「ウクライナから吹く逆風に抗して」

 

他誌に掲載されたものを、会員の紹介を得て転載します。

冒頭に「ウクライナでの戦火に向き合う際の原則」というものが提示されています。

 

(一)戦火を一刻も早く止めることが、何よりも優先されなければならない。 (二)そのためには軍事衝突の起源について誤りなく捉えることが不可欠。 (三)他国を武力によって侵し、支配することは許されるものではない。 (四)何よりも命が大切にされなければならない。
最低限これだけのことは前提として確認しておく必要があると思います。

 

5.大西広「アメリカの冷戦型覇権戦略と中国の経済的覇権戦略…ウクライナ問題の性格規定とも関わって…」

 

会員の大西広先生からの投稿です。

難しい論文ですが、アメリカの目指す新冷戦体制は、虚構に過ぎなくなる。第3世界は、つねに誰かを敵視し排除する欧米中心システムから離れ、早晩、相互に包摂する別の世界体制(中国をも含む)を形成し始めるだろうということかと思います。

 

624

AALA ニューズ 110号

ウクライナ特集 第11弾

 

引き続きウクライナ特集です。日本人論者の著作が3本、一気掲載です。心の襞まで分け入って「正義論」者の心を解きほぐそうと試みています。

 

1. 吉原功「ウクライナ̲日本メディアは何を見ていないか」

原題は「ロシアのウクライナ侵攻――日本メディアは何を見ていないか」です。「放送レポート」(大月書店)297号に掲載されたものを、著者のご承 諾を得て転載しています。

吉原さんは、明治学院大学社会学部名誉教授で、同大学国際平和研究所の客員研究員を兼任されています。日本ジャーナリスト会議(JCJ)代表委員で、日本 AALA 国際部員としてもご協力いただいています。

本論はジャック・ボーの「ウクライナの軍事情勢」にも触れながら、マイダン以降の経過と開戦に至る背景を丹念に解明していきます

 

2. Anatol Lieven「ウクライナ戦争を終らせる方法」その1

 

ネット雑誌 Current Affairs に掲載されたインタビュー記事です。Anatol Lieven は英国人政治ジャーナリストで、長年ロシアで現地取材をしてきた人です。

ウクライナ戦争を終わらせるには話し合いしかありません。問題はどのような態度で交渉に臨むかです。リーベンの冒頭発言は教訓的です。

モーゲンソーは、「政治家の基本的な任務の 1 つは、研究を通じて相手の立場に立つ能力を養うことである」と言いました。つまり「それが彼らの死活的利益であるなら、わが国の死活的利益は何か、どこで妥協できるのか」ということを考えることです。

このあと、かなり専門的な話が続くがちょっと我慢して読み進んでください。次号の続編を読むとき大事になります。

 

3. 安斎育郞「ウクライナ問題について」 その2

 

前号の続きです。

記事の中で面白い情報がありました。 

アメリカの保守系ウェブサイトが、「アメリカはウクライナ戦争の停戦を邪魔している。ワシントンはウクライナ人が最後の一人になるまでロシアと戦わせる」という見出しで、バイデン政権の好戦性を批判しています。

副題には「キーウは選択を迫られている。国民のために平和をつくり出すのか、それとも仮想の友人のために戦い続けるのか?」とありますが、アメリカを指すことはいうまでもありません。

 

4. 山崎洋「セルビアからみたウクライナ戦争」

山崎さんは、ベオグラードに在住する翻訳家、ユーゴスラビア研究者です。ご尊父はユーゴスラビアのジャーナリストであるヴケリッチさん。田中代表理事の紹介で、筆者の了解を得て掲載させていただきました。

これまであまり書かれてこなかった経過がしるされています。

問題の平和的解決のため、彼らの安全と自治を定めたミンスク議定書が成立したが、その取り決めは準軍事組織の妨害と、交渉から除け者にされて憤慨したアメリカの反対によって、実現しなかった。

ゼレンスキー大統領は和平を公約として立候補し、ロシア系住民の票も集めて当選した。就任後すぐドンバス視察に赴いたが、過激派の武装集団に追い返され、対話は実現できなかった。

 

5. 海老坂武「ウクライナの戦争に思うこと」

 

海老坂さんは昭和九年生まれで、フランス文学者・評論家。サルトル、フランツ・ファノンなどの研究者です。ここでは戦争体験に基づいた鋭い指摘がされています。アフリカ研究者の福田邦夫さん(明大)から中南米研究者の新藤さんを経て紹介があり、掲載します。

一言一言が叫びのように響きます。

NHKはそのゼレンスキーを英雄に仕立て上げた番組を流し た。国外亡命は拒否し「国民と一丸となって最後まで戦う」と語る「勇気」を称えている。しかし、「国民」を戦わせているのは大統領ではないのか。

自分は安全地帯に身を置きながら、戦えと命ずる政治指導者には吐き気を覚える。

こういう狂信的指導者に武器を供与する 欧米の指導者をどう考えるか。送り込んだ武器の効力が検証できる、ロシア軍の実力が測定できる、うまくいけばロシア軍の戦力を弱体化できると、さらには兵器ビジネスのチャンスだと 目論んでいるのかもしれぬが、それは戦争を長期化させるだけだ。

海老坂さんは返す刀で “情けない護憲派” をも鋭く批判する。中身は読んでのお楽しみ。

 


6.
「インドネシアはなぜ非同盟を選択するのか」

シンガポールで 6 1013 日に開催された第 19 回アジア安全保障会議に おける、インドネシアのプラボウォ国防相の発言全文です。

大国も参加する会議の性格上、かなり抑えられた表現ですが、

インドネシアは非同盟を選択しました。いかなる軍事同盟にも加わらないことを選択したのです。私たちは防衛を強化することを決意しています。私たちの展望は防衛的なものです。

と断言しています。

 

 

7月6日

AALA ニューズ  111

ウクライナ特集 第12弾

 


ウクライナ特集と名付けた最後のナンバーになります。もちろんこの後もウクライナ関連ニュースは続発していきますが、本来の
AALA地域関連のニュースをそろそろとりあげるべきだと判断しました。

今号のトップ記事はファイナンシャルタイムの記事(JUNE 23 2022)です。
欧米の対ロシア強攻策を煽っているのは英米メディアですが、それをヨーロッパ民衆の対ウクライナ連帯精神、言葉を変えれば果てしない対ロ憎悪が心情的に支えているという構図が続いています。それでは西欧民衆の対ロ憎悪がいつまで続くのかというのが、戦争の今後を占う上での一つのポイントとなっています。

 

1.FTEU は団結を保ち続けられるのだろうか」

ウルリケ・フランケ氏 が情報を提供しています。 原題は「ヨーロッパのウクライナ連帯は依然強力だが、果たして民衆は それを支え続けられるのだろうか?」 European solidarity with Ukraine has been impressive but can public support last となっています。

ヨー ロッパの 10 カ国で世論調査をしたのですが、そのデータは興味深い。

「戦争の主な原因は誰ですか?」という質問です。もちろん、大多 数のヨーロッパ人は、ロシアに責任があると答えます。しかし、イタリアや ルーマニアではほぼ 3 分の 1(イタリアは 27%、ルーマニアは 21%)が、 「戦争の責任は EU やアメリカ、ウクライナにある」と答えている。平和への最大の障害も、イタリアやフランスなどの国々では、「平和への最大の障害は実は西側だ」と答える人がかなりいるのです。だから、 もともとそんなに統一されていない。

ご承知の通りFT社は基本的にはもっとたたかえという立場だから、このような結果を憂慮しています。しかしメディアが金や太鼓で戦争を煽る割には市民の間には冷めた目があり、そのために各国政府は、今後板挟みになる可能性があることを示しています。

 

2.アナトール・リーヴェン「ウクライナ戦争を終らせる方法 2

前回の続きです。後半では具体的な提案が行われています。リーヴェンは、イギリスの著作家、ジャーナリスト、政策アナ リスト。ニュー・アメリカ財団上級研究員、キングス・カレッジ・ロンドン の国際関係論・テロリズム研究担当研究員です。(ウィキによる)

戦闘の今後として、最も危険な状況を予想しています。

もしウクライナが攻勢に出れば、ロシアは既存の陣地を守ることになり、ウクライナ人ははるかに大量の死傷者を出すだろう。

ウクライナがクリミアの奪還に乗り出せば、それは核兵器が使われるときだ。

ウクライナ港湾が封鎖されれば、エネルギー価格と世界的な食糧価格の上昇により、米国と世界は深刻な危機に見舞われる。

 

そのあと、質問者とのあいだに一問一答がかわされますが、主戦論者をねじり伏せるような論理が次々に展開されています。

そして最後が次のようなセリフです。

要は、ウクライナ国内に極度の政治的分裂があり、ゼレンスキーの裁量がきわめて限られていることであり、もう一つはヨーロッパ諸国は正直言ってもはや耐用年数が過ぎており、アメリカの召使いとして生きていくしかないと いう事実です。

そして、アメリカは、ウクライナでのロシアとの戦いにのめり込むことで、世界経済 の後退をもたらし、アメリカの同盟国の食糧価格高騰をもたらし、それに対 する国民の反乱をもたらし、世界中の地域を危険にさらしているのです。

ここにウクライナ戦争の本質があります、ここだけでもぜひ読んでほしいです。

 

 

3.浅井基文「ロシア・ウクライナ問題を見る視点」

「市民の意見」191 号からの転載です。会員からの紹介により掲載します。 PDF ファイルからの起こしのため、体裁の崩れが残っているかも知れませんが、ご容赦願います。

浅井先生からは転載のご承諾頂きましたが、“6 1 日発行の文章のため、多少、情勢に遅れているかも知れない” とのコメントを頂いております。おふくみ置きください。

 

ただし、“情勢に対する遅れ” というのは謙遜で、これまでの経過が簡潔に総括されていますが、まことに的確で、奇しくも最後の結論は前記の リーヴェン論文と軌を一にしています。

ロシア・ウクライナ戦争は泥沼化の様相を呈している。しかし、今も事態打 開・問題解決の可能性・道筋は存在する。ゼレンスキー政権が国民・国家の 安全と平和を最優先すること、アメリカ・NATO諸国がロシアの弱体化に 執着せず、ウクライナの中立性(NATO非加盟)を保障すること、この二 つを最優先する方針に切り替えてロシアとの外交的問題解決に本腰を入れれ ば、ウクライナ侵攻に伴う重い負担にあえぐロシアは必ずや積極的に呼応す る。問題の平和的解決のカギはアメリカが握っている。

 

. K.Hudson「平和・非武装が非同盟運動の核心」

The Bullet からの紹介です。もともとはイギリスの左翼紙「モーニングスター」Web 版に掲載されたもののようです。 核兵器禁止条約(TPNW)の成立への道すじが簡潔に描かれています。そし て非同盟運動がその推進力だと強調されています。

著者 Kate Hudson は、核軍縮キャンペーン(CND)の事務局長で、反核・ 反戦キャンペーンの第一人者です。

 

この論文の注目されるのは、今後このような戦争を起こさないようにする条件として、非同盟・中立に加え、非戦・非武装の考えを打ち出していることです。これは憲法9条をいだく日本国民にとっても真剣に考えなければならない課題だろうと思います。

ここでは、軍備一般ではなく核兵器保持問題に絞ってろんじられますが、当然その論理は軍備一般にも拡張できるものでしょう。

非武装運動は具体的な動きとしてはまだ見られませんが、論理としては非核地帯運動が相当します。それは互いの信頼と国際法遵守の立場にのみ依拠して地域の非核化を実現していっています。

それは非核運動の一環であると同時に非同盟運動の実践でもあります。さらに言えば日本国憲法前文の精神でもあります。

これらの運動の相互関係、発展様式についてはこれから議論が必要でしょうが、ぜひ定式化していきたいものです。それについては今回の12号にわたるウクライナ特集の記事が貴重な材料を提供してくれるのではないでしょうか。

ウクライナ紛争は未だ続いており、AALAニューズにも引き続き多くの論考が発表されています。以上のことを考えつつ、これからもご愛読をお願いいたします。

 

 


LNG、ウクライナ侵攻後に5割アップ
毎日新聞1月2日号


白川裕(エネルギー・金属鉱物資源機構)調査役とのインタビュー

1.LNG 輸入価格の動向

日本のLNGの平均輸入価格は、侵攻直前の13.8ドル(MBTU)に対し、最近で20.8ドルとなっている。LPG価格は21年3月には7.5ドルだったので、2年間で3倍化したことになる。

長期契約が主体を占めるため価格高騰は抑えられているが、スポット価格はさらに高騰している。
スポットの国際価格は、侵攻前の数年間は5ドル、侵攻直後に84ドルに跳ね上がり、現在は38ドル前後、侵攻前の7,8倍になっている。

この後ひそかに白川さんは“日本よくやった”論を差し込む。それはウクライナ侵攻開始に前後してカタールとの長期契約を破棄したことで、各界から批判を浴びたことに対する弁論である。まあ、そういうことは相場の世界ではよくあることなので、全体としてはたしかによくやっていると見ても良いのではないか。
東北大震災+原発停止でLNG需要が一気に高まったとき、日本はスポットLNGに頼らざるを得ず、20ドル近い金額で購入しながら急場をしのいできた。その一番苦しいときにアメリカでシェール・ガスが噴き出した。当時は無尽蔵といわれ、供給過剰が国際価格を押し下げた。日本にとっては幸いだった。原発再稼働への圧力も弱まった。その後長期契約を主体とするサプライ構造ができ、当時私が一番心配したロシア=サハリンLNGへの過度の依存も避けられた。これは「エネルギー・金属鉱物資源機構」の功績と言って良いと思う。
このことに関して私は2013年04月03日  でこう書いている。米国での天然ガスの販売価格は1年前より52%低下した。価格は現在、100万BTU当たり3.07ドルで、08年ピーク時の4分の1にも満たない。さらにヘンリーハブ価格指標での購入という点で、それまでの原油価格リンケージからは解放された。
2019年10月16日の記事 でこう書いている。
現在では日本のLNG調達先は随分と多様化している。大まかに言うと豪州4割、東南アジア3割、中東2割、これにロシアとアメリカが合わせて1割という構成になっている。大変覚えやすい。


2.LNG価格の今後の見通し

欧州は、ロシアから買っていた天然ガスをLNGに切り替えていくため、LNGの価格に反映される。欧州のスポット価格は直近で40ドルまで上がっている。

9~11月は、欧州は非常に暖かかったので使う量が減って、備蓄が進んだ。貯蔵在庫の充塡率は95.5%で、この冬は乗り切れるだろう。

しかし今年からは厳しくなる。ロシアからの天然ガスはほぼゼロ、LNGは受け入れ能力がほぼ上限に達している。

ヨーロッパ諸国は天然ガスについて買い手優位と考え、制裁の一環として天然ガスの輸入停止でロシアを脅しました。しかし話は逆なので、天然ガスこそはヨーロッパを釘づけにするロシア側の武器だったのです。しかも天然ガスのバイヤーとして中国が登場しました。このため今後、ヨーロッパはロシアにすがっても天然ガスを分けてもらえない時代、エネルギーのサプライチェーンの中の孤児的な存在に陥っていくかも知れません。

問題は、液体のLNGを気体に戻す受け入れ基地の増設で、輸出する側も液化施設を増設しなければならず、10年はかかるであろう。

付け足しコメント

LNGは、生産から最終目的地でガスとして使えるようにするまで一連の設備が必要です。ガス生産、液化、輸送、再ガス化、パイプラインなど各事業者がみな利益を出せるようにしなければ、サプライチェーンを維持できません。
天然ガス、LNGの輸出入は常に難しい問題を抱えているのです。


白川さんは「欧州の選択」に厳しい目を向けている。今シーズンはうまく行っても早晩破たんする。最も基本となるエネルギーの、最大の供給元を一気に切断するというのが如何に危険なことか。
日本も10年前の大震災でひどい目にあっている。だから欧州各国の国民がウクライナ侵攻に際して示したアレルギー発作的な風潮と、それのもたらす結末を大変危惧している。私にはそう思える。



「2017年の真実?」

集英社文庫から落合信彦「決定版 2039年の真実」という本が発売されている。
私も忘れっぽいほうだが、この著者がむかし「2018 年 歴史の真実」という本を出して、私も買ったことを覚えている。
あの頃からトッぽいことを書き散らす人だったが、それにしてもアコギなことをするなと思っていて、流石に買う気もせずそのままになっている。

この間、NHKでケネディ暗殺事件の「その後」報道をやっていたが、オズワルドの奇矯な行動ばかりが取り上げられ、単独犯行説の方向で印象操作しているように見える。
なまじ「再現フィルム」などを挿入するので、この事件で一文をモノした私としてはイラッと来る。

NHKの報道はどうもアメリカでの資料解禁の動きに合わせて組まれた企画らしく、ネットを見るとトランプ政権からバイデン政権へとかなりの動きが出ているようだ。
この中からいくつかを取り上げて検討してみる。

まず最初はBBC日本語版で「米ケネディ大統領暗殺の記録、1万3000点を公開 編集なしで」という記事。2022年12月16日のアップとなっている。(英語記事 Thousands of JFK assassination records released)


報道事実

バイデン大統領は15日、1963年に起きたジョン・F・ケネディ大統領(当時)暗殺事件に関する文書について、初めて「全文」(黒塗りなし)の公開を命じる大統領令を出した。
これを受け、1万3173点のファイルがオンラインで公開された。ただ、新たに公開された文書には、大きな新事実はないものとみられている。
米国立公文書館は、文書515点が完全に、別の2545点は部分的に、非公開のままになるとした。


これまでの経過について

連邦政府「ウォーレン委員会」は1964年、ソヴィエト連邦で暮らしたことがあった米国人リー・ハーヴィー・オズワルド容疑者の単独犯行だったと断定した。

ケネディ氏の暗殺をめぐっては、多くの記録が作成された。1992年に成立した法律は、すべての関連文書を2017年10月までに公開するよう政府に義務付けた。
これが「2017年、歴史の真実」の根拠である。

しかし2017年、当時の大統領トランプは数千ページを公開したが、他は非公開とした。
4年後の2021年10月、バイデン大統領が約1500点の文書を公開。しかし、それ以外は封印したままとなった。

オズワルドとCIAの関係が調査の焦点

ここから先は、私の主張も混じるのでご容赦を。

現在ウォーレン委員会のオズワルド単独犯行説を信じるものはほとんどいない。その多くはCIA主犯説をとっている。しかしその明らかな証拠はない。
CIAはオズワルド容疑者と「一切関わりがなかった」とし、連邦政府による調査に対して彼の情報を隠したことはなかったと主張している。
調査資料の公表が遅れたのも、歴代大統領が全面公開に失敗してきたのも、すべてCIA絡みの資料が隠蔽されていることに絡んでいる。端的に言えばオズワルドなどどうでも良いのである。

注目すべき新事実

新たに公開された文書の1つにはこういうものがある。
…メキシコのソ連大使館に米当局が盗聴器を設置した。メキシコ大統領はこれを知りながら、自国の政府関係者に知らせなかった。

CBSニュースは、これまでの文書では、この情報は編集されて隠されていたと報じている。

たしかに重大な情報ではあるが、これでは泰山鳴動して鼠一匹である。


私のケネディ暗殺関連文書は下記のとおりです。

1.ケネディと暗殺者たちの年表

2.キューバ革命史 第7章
http://www10.plala.or.jp/shosuzki/history/cuba/307.htm#%E7%AC%AC%E4%B8%83%E7%AB%A0%E3%80%80%E3%82%A8%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B0

呼吸器疾患に関しては素人だが、我が病に関しては結構詳しくなった。
新年を迎えるに際して占ってみよう。

*実は、もう5年位は行けるのではないかと、ひそかに踏んでいる。そうでなきゃ手術なんかしません。間質性肺炎について書いた文献をすこし探してみたが、いい加減いやになってくる。ろくなことは書いていない。嫁さんが多系統萎縮症になったときも、文献上は持っても5年と書いてあったが、その倍は生きた。私は病態としては脊髄小脳変性の重症型ではなかったかと思っている。

*私の守備範囲の病気としては拡張型心筋症(DCM)に近いようだ。結構ピンからキリまである。なんとなくバランスが取れていて、長生きしそうなDCMから、「こりゃだめだ!」というのまで幅がある。結局は病気の個性が決めるのだろうと思う。治療もある。水を絞りたがる医者もいるが、あれは命を縮める。
私はむかしからβ遮断薬の単独療法だった。HRを低く維持することで心仕事量を減らしβ受容体の温存につとめた。当時の教科書にはなかったが、実感としては効いていると思った。長い病気なので、患者さんはDCMが良くならないと他の医者のところに行くのだが、たいてい悪くなって帰ってきた。

*私の病にもなにかあるのではないかと思うが、とりあえず私はワソランを併用している。さすがにベータ遮断剤は使えない。労作時の頻脈が辛いのだが、これは一般的な生理反応ではなく交感神経反射のオーバーシュートではないかと思う。とにかく過剰反応だから止めたほうが良い、しかしこの病気の解説書には書かれていない。むかしから循環器と呼吸器は割と互いにそっぽを向いているのだ。

*発症はかなり明確だ。COVIDかと思ったくらいだ。7月末、夜間に両上肺の灼熱感で目覚めた。これに胸痛が続発した。第一感は嚥下性肺炎。逆流した胃液がさらに両気管支へ流入したとの印象だった。
副症状として粘着性の痰と咳こみ。最後には激しい嘔吐を持って終了する。
これが2晩程続いたあと強い呼吸困難が出現した。思い当たる誘因としてはかなり多量の飲酒、左右の側臥位ないし腹臥位があった。PPIの内服は症状改善に有効であった。

*タバコをやめて5年になる。やめる前後にはかなり咳痰が増えていた。CT写真では舌区の慢性肺炎を指摘されていた。鼻腔のアレルギーを指摘されたことがあった。やめてからはほぼ症状は消失していた。

*7月後半の症状増悪時のCTおよび肺機能検査では、典型的な間質性肺炎の所見であった。さらに右上葉末梢側に1センチあまりの淡い結節影あり、肺がんが強く疑われた。この影はこれまでの職員検診では指摘されていない。

*その後、プレドニン服薬により症状はかなり劇的に改善した。しかし血液検査、肺機能の上での回復は遅れ気味であった。その間に腫瘍影は明らかな拡大をしめした。間質肺炎には可逆性があるものと自己判断し、データの改善を待って肺がん摘出術を施行というコースを考えた。主治医の了承も得て年内手術の運びとなった。

間質性肺炎に合併した肺がんであり、後療法はなし、後は運次第ということで自宅での経過観察は続けている。幸いなことに術後のサイトカイン・ストームもなく経過している。
理屈で言うと、間質性肺炎の予後が5年、肺がんを放置した場合、おそらく1年なので、手術による利得はほとんどないのだが、問題リストから肺がんがなくなったことは、精神衛生上はきわめてよろしい。
自分で疾病管理できるという感覚は、なかなかに得がたいものである。
年の功で、随分わがままもいわせてもらっている。

とりとめない文章になってしまったが、とりあえずご報告まで。

ウクライナ紛争が泥沼化しようとしている。これを今年の早いうちに停戦に持っていくことが、世界中の人々の望みである。それは私たちにとって歴史から与えられた試練である。

停戦実現をめぐって最大の難関はどこにあるか、これまでの経過から見てはっきりしているのは、ロシアの側には停戦の障害はないということである。商業メディアは口を揃えて反ロシアの大合唱を続けているが、「ロシアが停戦を望んでいない」とは言っていない。「停戦はありえない。最後まで戦う」と言っているのはウクライナ側だ。
だからまず停戦の努力はウクライナ側に向けて行われるべきだ。
欧米諸国はウクライナの戦う姿勢を断固尊重し、武器を与えているが、戦闘をやめて和平に向かわせる努力をしているようには見えない。彼らの眼差しはウクライナと戦うロシアに向けられ、むしろ戦闘を煽っているようにしか見えない。
だから停戦の努力は、NATO側に停戦の方向へと転換させることに向けられるべきだ。
第三の難関は欧米主要メディアが戦闘継続とロシアの弱体化を煽っていることだ。この煽り行為はすでに相当の破たんぶりを示しているが、破れ傘を振り回す度外れた興奮はいまだ収まらない。次々に繰り出される非合理的で情緒的な情報提供に、毅然として対応しなければならない。

メディア報道については、「親ロシア」との批判を覚悟の上で、いくつかの状況証拠を挙げておかなければならない。
2022年3月末、トルコの調停のもとで、ロシアとウクライナとのあいだに休戦が成立した。これを、「ブチャの虐殺」を理由に破棄したのはウクライナ側である。虐殺があったかどうか、誰がやったのかは、この際は問わない。ただ “戦場のリアリズム” から見て、それが停戦合意を破棄するほどに、数万の過剰死を生み出すほどに重大な事件であったとは思えない。
その後の「ロシアによる劇場、病院、工場の破壊攻撃」は、ウクライナと西欧マスコミの報道の信憑性にさらなる疑問を投げかけるものであった。
私たちがこれらの報道から徐々に察知したのは、「要するにウクライナもその背後の欧米諸国も、停戦を望んでいない」ということだ。彼らが望むのはロシアの弱体化と、何をされてもうめき声一つ立てない「負け犬」ロシアだ。
それを裏付ける情報が次々に漏れ出している。アムネスティの報告は、ウクライナ軍が市民を人間の盾として使っていることを明らかにした。マリウポリの工場立て篭り闘争は、市民がアゾフ軍団により人質にされたことを示唆している。ザポリージャの原発攻撃はウクライナ軍によるものだ。それはIAEAが現地入りし、無言のまま活動を続けていることで間接的に証明される。ポーランドへのミサイル攻撃もウクライナ軍によるものだ。この「攻撃」に関して、我々が忘れてはならないことがある。それは西側メディアが崖っぷちの人類を突き落としかねない、きわめて危険な勇み足報道をしたことである。

ウクライナと背後の勢力のロシア攻撃には歴史がある。それはキッシンジャーでさえ眉をひそめる程のえげつないものだった。
そもそも2014年に発生した「マイダン革命」も、米国国務省の高級官僚の指揮したクーデター事件だった。米国はウクライナの反ロシア系勢力を煽って親ロ派をドンバスに追い込み、反民主主義的に抑圧した。

戦争を続けたいのは米国(国務省内ネオコン)とその手下のウクライナ政府(ネオナチが牛耳る)であり、彼らの手を縛らない限り停戦への道は見えてこない。少なくとも無条件に「ロシアは直ちにウクライナから撤退せよ」のスローガンを叫ぶのは無用なばかりか、事実上、戦闘と流血を継続し、米国の後押しをする結果にしかならない。

「戦争するなどの国も」、「とにかく平和を、とにかく停戦を」ともとめる草の根の人、そして「とりわけ欧米の支配勢力に向かって声を上げる人々を一人でも多く作り出す以外にない」
それがコード・ピンクのミディアさんの訴えである。
これはおそらく第一次世界大戦のときのツィンメルワルド派の動きに相当すると思う。当時、西欧の社会民主党は最後まで「祖国防衛」の軛から逃れることはできなかった。
しかし100年後の今、インターネットを通じてたしかに平和へのうねりは姿を見せ始めている。このうねりを年内に「非戦・平和のツナミ」にまで持っていきたいものである。

以前、 という記事を書いた。
この記事の中で下記論文を紹介し、リンクを張った。こんな記事を
書いたことすら忘れていたが、ある方からコメントを頂いた。
イェスナー「北太平洋における海洋適応の動物考古学的展望」(国立民族学博物館 2009年)
このリンクが無効だと指摘された。オリジナルのファイルへのリンクではなく、私が自分のコンピュータにダウンロードしたファイルにリンクされていたようだ。これでは読者がリンクを辿ろうとしても不可能だ。
 ..
デーヴィド R. イェスナー


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ピープルズワールド
December 19, 2022 
BY JACOB BUCKNER

Anti-war leader and CODEPINK co-founder
Medea Benjamin 
discusses new book on Ukraine


Medea-Benjamin-New-Book

リード 

2022年12月18日、フェミニスト反戦団体CODEPINKの共同創設者であるメデア・ベンジャミン(以下MB)はピープルズワールドと会談した。

会談ではニコラス・デイヴィスと共著の新刊『ウクライナ戦争: 争いは無意味だと気づくこと』について議論しました。

彼女は、平和のためにさまざまな闘いをつなげ、米国で市民自身の反戦運動を構築することが不可欠であると語りました。

本文

司会:

ウクライナ戦争: 争いは無意味だと気づくこと」の発行はどのような流れのか。
「Making Sense of a Senseless Conflict」のプロジェクトはどのように始まったのでしょうか。
この悲惨な戦争に対するあなたの見解を、述べようと思ったのはなぜでしょう。
それは、主流メディアの言い分、「ウクライナの主権を守るために米国の資金がもっと必要だ」というのとは違っていますか?

MB:

ニコラス・デイヴィスは私の同志です。彼と私は、ロシアが侵攻する前からウクライナについて書いてきました。2014年のマイダン蜂起、その後のNATOの拡大や米国の関与などの背景は知っていましたが、ロシアの侵攻を予測できたわけではありません。

ロシアが侵攻した後、なぜこのような事態になったのかを改めて考えてみました。ロシアが2021年12月に出した提案が、なぜ西側諸国によってあっさり無視され、退けられたのかを理解するためです。

戦争が始まってしまってからの叙述になってしまうと、主要メディアで語られるように、そのシナリオはとりとめのないものになってしまうからです。

私たちは、過去の戦争から学んできて、いったん戦争が始まると情報合戦が始まり、プロパガンダ戦争になってしまうことを知っています。その結果、白か黒かの大本営発表になってしまうのです。

この本は、まずロシアによる侵略を非難しています。その一方で、ウクライナ問題が全面的な戦争に発展してしまったのかを考えています。そして、米・NATOが戦争を挑発し政治的対処を拒否するというシナリオがあったことに気づきました。
その上で、戦争のほんとうの背景を明らかにすることが重要であると考えたのです。

司会:

この出版物のための2022年のブックツアーを終えたところですが、反響はいかがでしたか?
このツアーによって、壊された戦争についての対話が再開されたとお感じになりましたか?

MB:

毎回、場所や観客によって異なるイベントが開催されています。集会だけでなく国会議員の事務所訪問、新聞の論説委員会訪問など、議論を喚起するための行動もあります。

戦争は、確かに非常に論争的な問題であり続けています。
私が感じたのは、人々は議論に飢えていて、新しい視点を得て帰っていくことが多いということです。

しかし、私にとって最も重要なことは、正義派と平和派が分かりあうことではありません。それだけではなく、停戦と交渉の呼びかけをもっと目に見える形にすることであり、そのための組織化の課題です。そのためにさまざまなグループと話し合っているのです。

本の売れ行きがすごいこともわかりました。

出版会の主流に認めてもらったわけでもなく、買ったままゴミ箱送りになったわけでもありません。それでも、売れ行きはとてもいいんです。

きっと友人や親戚のために買ってくれているのでしょう。そして話し合うときに、自分の主張を補強してくれるからでしょう。

18分間のビデオも作成され、大学のキャンパスでたくさん使われています。ハウスパーティーや教会でも上映されています。

司会:

この本がさまざまな団体を結びつけているというお話もありましたね。
 そのひとつに、全米長老評議会が、信仰に基づくコミュニティのリーダーたちに "クリスマス休戦 "を呼びかけるキャンペーンを行いました。このキャンペーンはどのようにして実現したのでしょうか。なぜこのような団体の支援を受けることがだいじなのでしょうか。

MB:

「ウィスコンシン対話推進部隊」というグループと共催したことがあります。

彼らは、第一次世界大戦中の1914年に起こった「クリスマス休戦」について、話の材料を提供してくれました。そして背景説明のために追加資料を作ってくれました。

その後、私たちは「和解の友」というグループと話し合い、一致しました。コードピンクと「和解の友」とのイニシアティブに全米長老評議会が加わりました。

私たちは、「戦争を道徳的な観点でとらえることが重要だ」と考えていました。つまり「共通善」というものに関心を集中させることです。「共通善」を抱く人々の義務は、戦争を終わらせることであって、戦争を煽ることではないのです。

当初は、信仰に基づくリーダーを100人集めることができれば、大きな成果だと考えていました。しかし、今では1,000人を超えました。

私たちはこれからも前進し続け、より多くの信仰指導者に「停戦交渉の呼びかけ」に署名してもらうつもりです。

ホワイトハウスへの働きかけも考えています。彼らの多くはホワイトハウスに出入りしており、ホワイトハウスの人々と接触しています。そこで祈りの朝食に参加したこともあります。
そこで彼らはホワイトハウスの様々な機関と会合を持ち、嘆願書を持参し、戦争について話すようお願いしています。

私たちはそのことに興奮していますが、他の有権者にも手を差し伸べる同様の取り組みが必要です。それは環境保護団体、労働運動、女性団体、青年団などです。

司会:

そうですね、結局はこれらの問題はつながっているのですね。
生活共同体の資金が不足しているのに、戦争のための予算が際限なく増えていくのはなぜでしょうか。考えなければなりません。
そのためにも考えなければならないのですが、どうすれば米国で本物の大規模な反戦運動を構築できるのでしょうか?

MB:

CodePink-Demonstration-866x504

私たちの動きは目に見えるようにしなければなりません。集会が必要です。1月14日にニューヨークや他の場所でデモが招集されています。

この戦争にますます多くの資金を投入することに賛成している国会議員の事務所の前で、集会を開くべきです。
公共の場で「ウクライナの話をしよう」と看板を掲げて、人と会話を交わすことが必要です。

いろいろな組織に対して、ウクライナ問題に対する立場を表明し、署名してもらう必要があります。そのために「決議案」のひな形を提出すべきです。

主要なメディアにも戦争一本槍でなく、平和と和解の視点を提供するよう働きかけるキャンペーンも必要です。

これらはすべて、もやもやをふっきり、意識をたかめるための行動です。そして米国の政策について決定を下すことのできる人々に圧力をかけるための行動なのです。

現在すでに、集会や行動が提起され、動員の呼びかけがなされています。
CODEPINKを始めとする女性グループは、3月8日の国際女性デーにむけて動員をかけ、ヨーロッパ、日本、中国、韓国、台湾の仲間たちと協力し合いたいと考えています。
そして、ロシアを含むヨーロッパの仲間たちと一緒に、この戦争に対する国際的な反対運動を盛り上げようとしています。  

司会:

2023年に向けて、この運動を地域的、全国的に構築するために、どのような取り組みを考えていますか?

MB:

ウクライナの戦争と関連して、気候問題や環境破壊とに取り組んでいます。これらはとても深いつながりがあると思います。
戦争そのものが環境を破壊するのか、核戦争の危険、原子力発電所による核汚染の可能性などが考えられます。

私たちは、全国規模だけでなく、地域でもつながりを構築する機会がたくさんあると思うのです。たとえば、私はちょうどサンディエゴで本の講演をしたのですが、講演の前に環境保護団体がコーナーを設けて、関連する資料を配布していました。

講演では、環境問題との関連や、環境保護団体にもっと参加してもらうために何ができるかが話題になりました。
環境保護団体では、多くの有色の活動家がいました。これは来年の私たちの新たな活動の焦点になりそうです。

司会:

異なるグループが共通の利益を見出し、集団で戦うということですね。

MB:
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       議会への要請行動(よく見えないけどイエレン議員?)

そう、一緒に行動を起こし、一緒に議会事務所を訪問するのです。
また、大規模な環境保護の連絡会議を立ち上げて、手紙や論説を普及することです。
私たちが繋がりを求める活動を行うことで、できることがたくさんあります。

この戦争は、世界中の好戦思想と軍国主義に拍車をかけています。米国内だけでなく、ヨーロッパ諸国も国の富を武器に費やすようになり、その分だけ資金が吸い上げられています。

社会的セーフティネット、国民医療制度、大学教育の無償化などを維持するのが非常に難しくなっています。

ヨーロッパ諸国はますます私たちのようになっています。毎年1兆円近くを軍国主義につぎ込んでいる米国のように。

この戦争はウクライナの人々に影響を与え、多くの死と苦しみをもたらしただけではありません。それは、私たち全員を間違った方向に導いています。彼らは、資源をどこに投入するかという点で、明らかに間違っています。
そのことで私たちに迷惑をかけています。

この戦争は、世界中の貧しい人々に影響を与えています。

ウクライナやロシアから入ってくる穀物の値段が上がっているため、飢餓線が大きく持ち上げられています。

そしてエネルギー市場の混乱からインフレのレベルも引き上げられています。

つまり、ウクライナ人とロシア人、双方の兵士を別にすれば、ウクライナ戦争で最も傷つくのは、世界中のはたらく人々と貧しい人々なのです。



このミディアおばさまについては、2021年07月22日 
もご覧ください。
イギリスのコードピンクについては下記もご参照ください


ミディアさん、一度日本にも来てもらいたいですね。

7月下旬に間質性肺炎の急性増悪を経験し、ステロイド治療を受け寛解に至った。
プレドニン治療の経過は良くも悪しくも劇的であった。またプレドニン内服時の薬理学的効果は複層的であり構造的・時相的整理を要する。
この経過につき私見を記しておく。主観に偏し、エビデンスに乏しいが、いささかでも参考になれば幸甚である。

超急性期効果

服用後5分から10分で、まずふるえにも似た交感神経刺激症状が襲う。頻脈効果はあまりない。というよりもともとサイトカイン発動状態では息切れ感と同時に動悸が出現し、脈は80代後半から100前後の頻脈性不整脈となる。おそらくは上室性期外収縮が多発しているのだろうが、心電図や心エコーで現場を捉えることには成功していない。
パルスオキシメーターは95から96を前後するが、ときに一過性に87くらいまで低下する。このときは脈の強弱不動が出現するので、このために飽和度の測定値が不正確になるのであろうと思っている。
これに一致して高調の持続性の耳鳴が襲来する。潜水時にポーンとくる難聴と同様だ。あまり血圧測定したことはないが、140/90くらいに上昇することもあるようだ。ちなみにカジュアルのBPは110/70程度である。

服用後5分から10分で、まずふるえにも似た交感神経刺激症状が襲う。頻脈効果はあまりない。というよりもともとサイトカイン発動状態では息切れ感と同時に動悸が出現し、脈は80代後半から100前後の頻脈性不整脈となる。おそらくは上室性期外収縮が多発しているのだろうが、心電図や心エコーで現場を捉えることには成功していない。
パルスオキシメーターは95から96を前後するが、ときに一過性に87くらいまで低下する。このときは脈の強弱不動が出現するので、このために飽和度の測定値が不正確になるのであろうと思っている。
これに一致して高調の持続性の耳鳴が襲来する。潜水時にポーンとくる難聴と同様だ。あまり血圧測定したことはないが、140/90くらいに上昇することもあるようだ。ちなみにカジュアルのBPは110/70程度である。
この頓服効果(トリップ現象)は30分で峠を越え、2時間後にはほぼ消失する。
トリップ現象の出現と併時してサイトカイン・ストームは軽快し、2時間後にはほぼ消失する。
このプレドニンによるサイトカイン中和現象は6~7時間は持続する。必要な容量は1回あたり5ミリ程度である。
中和に必要な用量は、急速な漸減が可能で、投与間隔も10時間から24時間と長くなる。
ただし長期投与についての感覚は未だ不要領である。
このように、まず交感神経刺激作用が出現し、ついで呼吸困難と動悸の寛解(サイトカイン放出症状との拮抗)がもたらされる。サイトカイン症状の抑制には若干の時間差があり、併存期を伴うことから、レセプターを介しての作用というよりはサイトカインの放出抑制が主たる機序ではないか。したがってプレドニンの効果には用量依存性がありそうだ。また治療開始は即時性が求められ、いち早い決断が望まれる。

プレドニンの向精神作用

プレドニンには交感神経刺激作用、サイトカインの放出抑制作用とならび、向精神作用が認められ、独立した機序によるものであると思われる。

一種のトリップ体験が出現する。私には過去に3回トリップ体験がある。最初は大学入学時にコンパでアルコールを大量摂取したときの体験である。最初の2,3年はほとんど飲めなくて、お銚子1本飲んだら目が回って猛烈な嘔気・嘔吐へと続いた。それがある夜に突然、ぐるぐる回る感じが、そのままタケコプターのように舞い上がったのである。浮遊感が続くが吐き気は襲来せず、快感もなければ恐怖感もなく、目はおそらくはランランとしていたに違いない。まさにこの日、アルコール解毒酵素が誘導され発言したのである。その日を境に下戸が飲兵衛に大変身した。初めてタバコを吸い込んだときも頭はサンドストーム状態、よだれが果てしなく流出した。
もう一回は医者になってから、当直の夜中に歯が痛くなりペンタジンを注射してもらった。これはもう完全にトランスと言うかトリップになり、当直を交代してもらって布団にくるまっていた。
そこまでひどくはないが、プレドニン服用時にも同じような気分になる。目の奥に線香花火の火の玉がバシバシ火花をちらしている感じだ。今度は取り乱すようなことはなく、「ほう、そうきたか」という感じで我慢しているうちに、これも交感神経刺激作用と同様の経過で消失していった。ただ取止めのない興奮と何事が手につかない錯綜感はしばらく残った。
おそらくは視床下部からのアミン放出であろう。この頓服効果(トリップ現象)は30分で峠を越え、2時間後にはほぼ消失する。


交感神経刺激作用およびトリップ現象の出現と併時してサイトカイン・ストームは軽快し、2時間後にはほぼ消失する。
このプレドニンによるサイトカイン中和現象は6~7時間は持続する。必要な容量は1回あたり5ミリ程度である。

中和に必要な用量は、急速な漸減が可能で、投与間隔も10時間から24時間と長くなる。
ただし長期投与についての感覚は未だ不要領である。

プレドニンの内分泌作用

こちらは、主にプレドンの副作用として出現する。思ったより高率に出現し、その程度も決して軽いとは言えない。
私の場合、プレドニン導入時15ミリ/日で開始し、1ヶ月で血糖が300アップ、AIcが8.3まで上昇した。服薬開始前もDMではあったが、A1cは6代だったからかなり急速に上昇したことになる。食欲亢進、体重増加、筋力低下、高脂血症、高尿酸血症と一通り揃った。ただこれらはプレドニンを2.5ミリまで減量したことにより改善した。肌のツヤとハリは改善したが見た目の割に体力の低下が伴った。精神活動は少しハイになった印象はある。ブログ更新に拍車がかかり、理論誌1冊を1ヶ月で英訳した。副鼻腔気管支症候群が完全寛解し、体調が改善したのと、「これがヤリおさめか?」という感慨もあったかも知れない。
「1日量2.5ミリ位なら、いっそ補充療法的に長期服用しても良いかな」と思ったほどだ。

プレドニンの長期決算

プレドニンはたんに薬物服用というにとどまらない、さまざまな影響をもたらした。大きく言って下記のごとく分類できる。

1.神経伝導物質としての作用
これは1a)交感神経刺激作用と 1b) 神経伝達物質に分けて考えて見る必要がある。いずれもある意味ではプレドニンの副作用であるが、喘息・気道過敏に対する治療、うつ状態への治療という側面もある。
2.免疫抑制剤としての作用
病気の首座が間質性肺炎である以上、これが主作用となる。したがって薬物治療のデザインにあたっては最も基本となるだろう。私は早期大量投与、早期減量が原則と思う。減量の目処だが、IL6が適当かどうかはコスト面も含め問題がある。現在のところLDHの十分な改善を確認した上で、再上昇がないこをと、症状再燃のないことを確認しながらテイパリングすることになりそうだ。
3.内分泌薬としての作用
これは、言い古されてきたことの繰り返しになろうが、デキサメサゾンなど比較的副作用の少ない薬の選択、投与経路の工夫などがかんがえられる。ただ肝心なことは、これを理由に使用開始を遅らせたり不十分だったりしてはならないことだ。私なぞはメチルプレドニゾロン点滴を真剣に考えたくらいだ。寛解に入れば持続投与量は意外と少ないのではないかと思う。


22nd International Meeting
of
Communist & Workers Parties


先月、ハバナで世界共産党会議が開かれた。こういう形での左翼勢力の結集にどれほどの意味があるかどうかは不明だが、 指導党思想がない会議であればそれなりに歓迎すべきであろう。
会議の模様を報道するHPがあって、そこに参加した各国共産党のHPがリンクされており、情報源としては貴重だろうと思う。
今では「左右の日和見主義」とか「2つの戦線での闘い」などというのは死語のようだ。名簿を見ていると、「えっ?」「えっ!」の連続である。母校の同窓会名簿をもらったときの感情にも似ている。
ここに転写しておく。

Contribution of the Communist & Workers' Parties

Host Party

ウクライナ問題をめぐる左翼の分裂をなんとかしよう

カナダのネットマガジン「The Bullet」に掲載されたエッセーです。日本ばかりでなく世界各国で、商業メディアの報道にも影響されて、左翼陣営の態度が分裂していますが、ここではその原因を分析し、解決の方向を探っています。非常に大事な論文なのでぜひ拡散をお願いします。

The Bullet
December 6, 2022

Next To Starting a War
The Worst Thing Is To Keep It Going

「一番悪いのは戦争を始めること、次に悪いのは戦争を止めないこと」

https://socialistproject.ca/2022/12/next-to-starting-war-worst-keep-it-going/

1.反対運動の、筋書きを変えてみてはどうだろう

ウクライナ戦争は複雑な性質を持っています。とりわけ、いろいろな当事者がいて、責任をなすりつけていることは、強力な反戦運動の動員を困難にしています。

左翼の一部はロシアの謝罪と撤退が先決だと訴え、「即時停戦」や和解に耳を貸さず、打ち切られた交渉の再開にも反対しています。

この論文の目的は、帝国主義に反対する人々が賢明な立場を取るのを助けるために、この戦争の隠された部分に新たな光を当てることです。

左派の分裂に鑑み、まず私自身(マンデル)について少し述べておきます。

労働活動家として、社会主義者として、私は「社会主義思想とは一貫したヒューマニズムの主張」と定義しました。私は長年にわたり、ソ連と社会主義国家について考えてきました。
そのような立場から、ロシアとウクライナの両政権にたいしては、労働者階級と相容れない社会体制だと考え、批判してきました。


2.ウクライナとロシアの市民・労働者は、どのような状況に置かれているのか

ウクライナの政治状況は、自由選挙が行われている分だけ、ロシアよりマシと思っている人がいるかも知れません。しかしそうとは言えません。ある側面では、さらに悪いのです。

ウクライナは厳密な意味では、91年の独立以来、初めて独立国家として歩み始めた国です。その点で法体系や行政機構など未熟な生まれたて国家です。もともとはソ連邦の中でも豊かな地方でしたが、過去30年間に強欲な権益集団の腐敗政権によって、めちゃめちゃになってしまいました。人口は5,200万人から4,400万人に減少しました。それは現在の戦争で大量の移民が発生する前の話です。現在ウクライナで暮らす4400万人のうち、かなりの人数がロシアで仕事をしています。

ウクライナでは選挙で政権を変えることができるのは事実です。それはロシアとは対照的です。しかし選挙が自由に行われたとしても、そのことによって国家政策の反国民的な性質を変えることはできません。

2014年2月、ウクライナでネオ・ファシスト勢力によってクーデターが実行されました。それはアメリカ政府が積極的に支援した暴力的な事件でした。
たしかに倒された政権はロシア寄りで腐敗していましたが、自由な選挙で選ばれたものでした。
FY7RbNyakAAumky

実はクーデターの前日、フランス、ドイツ、ポーランドの支援のもとに、連立政権樹立と新たな選挙を進めるという合意が野党と出来上がっていたのですが。その合意はクーデターによって流産してしまいました。

ukuraina
「世界を操る闇の支配者2.0」宝島社より

クーデターにより登場した新政権は、最初の措置としてロシア語を2つの公用語のうちの1つから排除しました。ロシア語は人口の少なくとも半分が日常的に使っており、とくに東部地域では深刻な問題を引き起こしました。

これが引き金となって抵抗を引き起こしました。それは、2014年5月にオデッサ市で起こったように、時には暴力的な手段で鎮圧されていきました。
そして最後はロシアが反政府勢力側に、NATOがキエフ側に介入し、内戦が勃発したのです。


3.内戦の発端は2月だったのか?

この戦争にはもう一つの重要な側面があります。それは2014年の時点ですでに「ロシアの侵略」を好んで語っていたNATOやウクライナ政府、西側主要メディアが提示した物語には含まれていません。

しかし、クーデターに対する市民の抗議運動を武装反乱に変えたのは、新政権がドンバスの反体制派と話すことさえ拒否したことでした。

キエフは交渉する代わりに、これらの地域の抗議活動をテロ活動と断定し、「反テロ作戦」を直ちに開始したのです。

当時ウクライナにはまともな軍隊はありませんでした。「正規軍」が信頼できないことが判明したため、新政府は新たに編成された国家警備隊のネオ・ファシスト部隊を派遣しました。

当時ロシアはウクライナを掌握しようと思えば、簡単にできたはずです。なぜならウクライナには軍隊がなかったからです。

東部の抗議者はキエフに侵略者と宣言されました。ロシアが直接武力介入したのは数カ月後のことで、反乱軍の敗走を防ぐためでした。

この戦争をどう分析し評価するかは、その出発点によって異なってきます。

 ウクライナ政府、NATOの報道官、西側の主流メディア、さらには社会主義者を自認する一部の人々も、通常は今年2月のロシアの侵攻から出発します。

そこで浮かび上がってくるのは、勇気をもって主権を守っている罪のない小国を侵略した、強力な武器を持つ巨大国家という図式です。


4.ロシアの攻撃は「いわれのない」ものではなかった?

NATO諸国の国民は、ロシアの侵略の動機について、これだけを告げられました。すなわち「侵略がいわれのない(unprovoked)ものである」ということだけです。

 このプロパガンダキャンペーンは最近の記憶では前例のないものでした。侵攻に関する報道には、必ず「いわれのない」という修飾語を被せることが義務づけられたのです。

思い出してください。米国とNATOがベトナム、イラク、アフガニスタン、セルビア、リビアなどに侵略した際の報道には、この修飾語がついていたでしょうか?私達はそのことに注意する必要があります。
「いわれのない」という言葉は、攻撃する側の動機について、野蛮で一方的な欲望以外の真剣な議論を封じる役割を果たしたのです。

挑発の問題を提起した者は、それだけで侵略者の擁護者であるという非難を浴びることになりました。

左翼の一部もそれに加担しました。彼らはプーチンの演説の一部を抜粋して、侵略の説明をするのがきまり文句になっていました。例えば、「ソ連の崩壊は "今世紀最大の地政学的大惨事 "であった」という発言が繰り返し引用されました。
しかしその後に続く文章は、ほとんど言及されていません。プーチンはこう言っているのです。「この期に及んでソ連を取り戻そうとする連中は、脳なし(no brain)だ」

NATO側がウクライナ紛争を描き出すにあたっては、侵略に先立つ30年間のロシアとウクライナの関係、いわば侵略の「いわれ」を真剣に検討するのは避けたい話でした。

もしそれがNATO側の言ったとおり「いわれがないもの」だったなら、プーチンの思惑がロシアの帝国主義的進出にあることになるでしょう。しかしいわれはあったのです。


5.NATOと欧州安保のあり方

反プーチン派はこう言うかも知れません。
「すべてがすでに明らかになっているのに、なぜ無駄なエネルギーを使うのか。
明らかなのは、核兵器を持つ大国が、核兵器を持たない小国を侵略したことだ。ウクライナ政権を無条件に支持するには、それで十分ではないか。
なぜわざわざゼレンスキー政権の階級的性質や、そのバックのNATOが対立を煽って武器や訓練を供給する動機は何なのか、などについて分析する必要があるのか」

「ロシアは独裁的な国である。長い国境を共有するウクライナの民主主義が、ロシアの人々にとって魅力的に映るに違いない。そのことをロシアは恐れている」という主張も時々聞かれます。

実際には、ウクライナの労働者が「搾取される自由」に触れた悲惨な経験が、自由主義や社会主義に反対するプーチンの強い主張の一つになっています。

プーチンは実際、侵攻を開始する際に、ウクライナの地政学的中立、非軍事化、「脱ナチス」化という目標を提示しました。

「脱ナチス」化は、軍隊、政治警察、正規警察におけるネオナチ排除と、言語・文化政策の非ナチス化を意味しています。彼らのイデオロギーの本質は、ロシアとロシア的なものすべてに対する憎悪です。

特に2014年のクーデター以降、国家権力内における彼らの影響力が増大し続けていることを深刻に受け止めています。

先程述べた「いわれのない侵略」という非難は、アメリカに戦争を回避できる可能性があったことを隠すのにも役立っています。

その「隠したかったいわれ」とは、度重なるロシアの要請にも関わらず米国大統領がウクライナをNATOに加盟させないという明確な宣言をしなかったことです。

そういう明確な宣言をしていれば、この戦争は回避された可能性が高かったでしょう。

NATOがウクライナへ進出するかどうかは、侵攻に先立つ数カ月間、モスクワが提起した主要な問題でした。プーチンは定期的にNATOのウクライナへの不拡大に関する交渉を始めるようもとめていました。

2021年12月、侵攻のわずか数週間前に、モスクワは再び米国とNATOに、欧州安全保障条約の締結を視野に入れた交渉を直ちに開始するよう正式に提案しました。しかしこの提案は、以前と同様に無視されたのです。

もちろん、プーチンが協定締結を望んでいるというのは煙幕で、ウクライナを飲み込むための口実を求めていただけという可能性もあります。
しかしその仮説を裏付ける根拠、すなわち米国が何らかの妥協案を持っていた可能性は今に至るも提出されていません。

そのことは、逆に、米国側が交渉開始の意思を示せば戦争は回避できたであろうことを示唆しています。


6.なぜ米国は欧州の平和を拒否したか?

2月侵攻前の数年間、米国はモスクワが安全保障上の懸念を表明しても対応しようとしませんでした。ロシア外交の専門家(たとえば元駐モスクワ大使で現CIA長官のウィリアン・バーンズ)が一連の明確な警告を行ったにもかかわらず、ワシントンは危険を無視したのです。
それは、米国政府の少なくとも一部が、実際にこの戦争を望んでいたことを示唆しているのかも知れません。

結果として、米国は、恐ろしい戦争と破壊に至る危険を回避しようとはしなかったことになります。
それはほぼ完璧な不作為です。それは英国の熱心な支持とNATOの他の加盟国の沈黙の同意にも支えられていました。むしろ逆にワシントンは、戦争の火種が交渉によって消されないように、その終結を妨害してきたと言えるでしょう。

もう一つの政策は、ヨーロッパにおけるアメリカの支配を強化するための一連の行動です。NATOはそもそも欧米諸国とソ連との冷戦から生まれた同盟です。ソ連が崩壊したあとは、NATOに変わる新たな欧州の安全保障の枠組みが制定されるべきでした。

ロシアもそういう姿勢で関わってきました。その証拠に、プーチン政権が登場する前から米国のアドバイザーがロシア政権の要職に就いていたのです。

しかし米国は、NATOをそのまま維持しただけではなく、欧州の安全保障機構からロシアを排除し続けました。このような米国の行動がロシアの反感を買うことになりました。
ロシアはこのような排除の仕組みに反発したのですが、その反発は、NATOが拡張を続けるための都合のよい正当化要因として利用されました。

NATOがロシアを加盟国の安全保障に対する存立危機事態であると宣言するのに時間はかかりませんでした。こうして新たな欧州安保の枠組みは永遠に閉ざされてしまったのです。


7.ロシア、「自衛権の発動」がもたらしたもの

この話を続ける前に、1つだけはっきりさせておきたいことがあります。

①ロシアが安全保障上の懸念をいだき、それに対応することと、
②現在の戦争を誘発し長引かせたワシントンの役割を認識し、これに対応することは、
国家として当然の行為といえなくありません。
③しかしその事によって引き起こされた現在の戦争と
④これによる人命損失・物質的破壊に対する責任は発生します。
モスクワはこの責任を免れることはできません。

国連憲章は、ある国家が他国に対して軍事力を行使することを禁止しています。それには2つの例外があります。
それは、安全保障理事会が武力行使を承認した場合と、自衛の要件に応じて自衛を合法的に主張できる場合です。

2022年2月のロシアがこの例外規定に該当するかどうかの判断ですが、
①NATO諸国の境界がロシア国境まで進出したこと、
②2014年のクーデター以降のウクライナ軍の武装と訓練、
③ワシントンが一連の核兵器制限条約を破棄したこと、
④モスクワから飛行機でわずか5~7分のポーランドとルーマニアへのミサイルの配備、
などはすべて、モスクワが安全保障に対する深刻な脅威であると考えたとしても、私は正当だと考えています。
しかし、その脅威は差し迫ったものではなく、侵攻を正当化できるものではありません。


7.プーチンの選択は良いものではなかった

ところでモスクワは、すべての選択肢を使い果たしたわけではありませんでした。

彼ら自身の観点からでさえ、侵攻は決して第一選択ではありません。それは米国主導のもとでNATOを強化し、ロシアの安全保障環境を悪化させました。

NATOはロシアに対する攻撃的な姿勢を強め、そのことに関してフランスとドイツの支持を固めることができたのです。

もともとこの2つのNATO加盟国は、2月以前はNATOの侵略的拡大に最も反対していました。

また、スウェーデンとフィンランドが同盟に参加することを決定しました。これらの国は以前は「中立」でした。(とは言っても事実上NATO統合の道を歩んでいた)

侵攻までの数日間、ロシアはウクライナが東部の反体制派地域への侵攻を計画していると主張しました。

モスクワは、8年間の内戦のあいだじゅう東部諸州への介入を自粛していました。侵攻前夜にようやくドンバス2州の独立を認め、2州との間に相互防衛条約を締結しました。
これはモスクワが同盟国の要請に応え、合法的に侵攻したのだと主張するための段取りでした。


8.キエフはドンバス攻撃を準備していたか

ロシアの戦闘開始が一方的なものだったがどうかについて、ロシア側は反論を発しています。プーチンはウクライナのドンバス攻撃が迫っており、それが侵攻を促したと訴えました。

その主張の妥当性は厳密な意味で明らかになっているとは言い難いが、キエフはロシアの侵攻に先立つ数カ月間、クリミアを含む全領土を武力によって奪還する意図を公然と表明していました。
そして、ドンバス地方との国境に国軍の半分にあたる12万人の兵力を集中させていました。

侵攻前の4日間、700人の欧州安全保障協力機構(OSCE)の監視員が、境界線のキエフ側、つまりウクライナ軍からの砲撃が非常に激化していることを記録しています。

少し遡って検討します。侵攻前の8年間に1万8000人(うち民間人1304人)の命が失われましたが、その大半は反乱軍、すなわち親モスクワ側でした。

前述のように、CIAは侵攻の決定が2月にモスクワで行われたことを確認しています。それは侵攻のわずか数日前のことでした。
これは、米政権が数ヶ月前から繰り返し主張していた「侵攻が迫っている」という言葉とは矛盾しています。

こうして、モスクワ・キーウ・ワシントンの間に評価の違いと判断のズレが溜まっていたことがわかります。
私の考えでは、最も重大なのはモスクワの判断の拙速です。侵攻前のキエフの意図がどうであれ、モスクワは軍隊を放つ前に、その時期を慎重に待機すべきだったと思います。

モスクワはキエフが動くまでのあいだに、NATOの拡大に最も反対しているフランスとドイツに安全保障への明確な支持を求めることができたはずです。
今回の侵攻は、それまでロシアに好意的だったウクライナの人々の少なくとも一部を、超国家主義者の手に委ねる結果になりました。


9.政治の行き詰まりと、残酷な戦闘

いったん戦争が始まったら、人命と社会経済的基盤の損失を最小限に抑えるために、迅速かつ交渉による終結を求めるのがヒューマニズムの精神です。

戦争を始めた後、最も非難されるべき行為は、戦闘を続けても結果が変わる見込みがないのに、それを継続させることです。しかし、それこそまさにキエフとNATOの政策であります。彼らの目標は戦争の勝敗や決着ではありません。バイデンの言葉を借りれば、戦闘の長い経過を通じて「ロシアが消耗し弱体化すること」です。

信じられないことに、このような停戦を設定しないで外交交渉を拒否する方針は、社会主義左派を自認する一部の人々によってさえ支持されています。

NATOの広報担当者や奴隷的メディアは、ロシアが崩壊寸前で民主派の勝利は目前だなどと、戦争の経過に関する偽りのバラ色の絵を描き続けています。それにもかかわらず、現実は悲惨そのものです。
現実は次のとおりであることを理解すべきでしょう。

戦闘の継続は、ウクライナの国民すべての苦しみを増大させるだけで、彼らのために何らかの肯定的結果を期待することはできません。


JBプレス 12月25日号 より

本格攻勢に出始めたロシア軍と崩壊寸前のウクライナ軍

開戦以来の損耗は約44万人となり、宇軍の開戦時の正規地上軍14.5万人と予備役90万人の計104.5万人の約42%に上る。現在前線で主力となり戦っているのは、約4万人のポーランド軍、3万人のルーマニア軍など計約9万人のNATO軍であり、彼らは宇軍の戦闘服で戦闘に参加している。電力需要の約50%が止まり、給水も15の地区で止まっている。2022.12.252022.12.25


NATOの支持を受けるキエフ政府はウクライナの領土保全の回復を宣言しています。それは、ウクライナ人以外の民族・言語集団の文化的・領土的自決権を否定しない限り、確かに正当なものです。

しかし、キエフが宣言したその到達目標は、幻想にすぎません。したがって、停戦のために妥協は避けられないのです。

失われた領土をすべて回復するまで戦争を続けるという主張は、実は、侵略そのものと同じくらい、いやそれ以上に犯罪的です。

さらに、そのような空想的な目標を頑なに追求することは、NATOとの直接対決と核戦争の危険をさらに増すことにしかなりません。


10.当初交渉の順調な滑り出し

ロシアとウクライナの間の交渉は、実際、戦争の最初の数週間に行われ、うまくいっているように見えました。
しかしそれは、資本の奴隷的なメディアによってほとんど無視されました。
諸報告によれば、ウクライナは中立、非同盟、非核の立場を受け入れました。その代わり攻撃された場合には、国連安保理の常任理事国がその安全を保証する事となりました。

2つの懸案が取引されました。ロシアは非ナチ化の要求を放棄し、ウクライナはロシア語の公用を回復すると約束しました。

ドンバスの地位という最大の難問についても妥協の動きがありました。ロシアが絶対に返還しないことが明らかなクリミアについては、最終的な解決を15年先延ばしにすることで合意しました。

5週間にわたる戦争の後、キエフとモスクワは共に交渉による停戦について楽観的な見方を示していた。


11.ブチャの「虐殺」と英米首脳の干渉

しかし、その時欧州訪問中のバイデン大統領は最後に驚くべき演説を行いました。
プーチンはロシア帝国の再興を望んでいると主張した後、こう宣言したのです。
「お願いだから、この男は権力の座に留まらないでほしい」と。
(For God’s sake, this man cannot remain in power)
その数日後、今度はイギリスのボリス・ジョンソン首相(当時)が突然キエフに姿を現しました。
ゼレンスキー側近がメディアに語ったところによれば、ジョンソンは「プーチンと協定を結んではいけない。彼は戦争犯罪人だ」とゼレンスキーに告げたそうです。

それはロシア軍がキエフ周辺から撤退した直後の出来事だった。まるで偶然のようにみえます。
このあと西側メディアは、「ウクライナが戦争に勝てる」という間違ったサインを送り続けました。

そして同じ頃、偶然にもキエフはブチャ村でロシア軍による戦争犯罪が発見されたと発表したのです。それで交渉が打ち切られ、今日に至っているのです。


12.初期ゼレンスキー外交の展開

モスクワが定期的に外交再開の希望を繰り返す一方で、キエフは戦争終結の条件をこう主張しています。すなわち、クリミアを含む自国の全領土の返還です。

キエフはさらに、キッシンジャーをウクライナの敵として、ブラックリストに載せています。
彼が「いったん侵略前の領土に戻し、ウクライナの中立化を保つ前提で交渉し、解決するよう求めた」からです。
ゼレンスキーの側近は、このキッシンジャー発言を「ウクライナの背中を刺した」と非難しています。
「あのヘンリー・キッシンジャーが“理性の声”と呼ばれるほどに、事態は深刻なのだ」と発言した人がいました。そのとおりです。

思い起こすべきは、ゼレンスキーが2019年に平和を掲げて大統領に当選し、73.2%の得票率を獲得したときのことです。
彼は当選後すぐにミンスク合意の再開を宣言しました。そのために人気を失墜するという代償を払う覚悟もあると宣言しました。
このときネオファシストはゼレンスキーの勝手な言動を許しませんでした。陸軍参謀本部顧問に就任したドミトリー・ヤロシュは、テレビのインタビューに答えて、ゼレンスキーが失うのは、ただの人気ではない」と言い切ったのです。
「彼は命を失うだろう。もし彼がウクライナ革命と戦争で死んだ人々を裏切るなら、彼はKhreshchatyk(キエフの中央通り)のどこかの木にぶら下がることになるだろう」

しかし、2019年10月、ゼレンスキーはそれにもかかわらず、ロシアとドンバスの反体制派との間で、接触線からの重火器の撤去、囚人交換、同地域への一定の自治権の付与という、ミンスクII合意にあるすべての事柄について新たな協定に署名したのです。

そして、新ファシストのアゾフ連隊の兵士が退去を拒否すると、ゼレンスキーはドンバスに赴き、兵士に命令を出しました。しかし、極右団体は退却を拒否しました。

2019年10月14日、黒装束に松明を持った1万人の覆面デモ隊がキエフの街を行進しました。
「ウクライナに栄光あれ! 降伏は許さない!」と叫びながら。

ゼレンスキーはついにアメリカのメッセージを理解しました。すでに2014年のクーデター以降、ネオ・ファシストたちは、国家のさまざまな武装組織(特に軍隊、文民警察、政治警察)やその他の組織への浸透を完了していたのです。

ロシアとロシア的なものすべてに対する深い憎悪を核とする彼らのイデオロギーは、すでにネオ・ファシストのテリトリーを越えて、それ以外の政界にも浸透していました。
そこには自らをリベラル派とみなす人々も含まれていました。

このように、ロシアを弱体化させ、「戦略的敗北」をもたらすという目標を隠さない勢力、まさにアメリカの中の「深層国家」が主導し、ウクライナの超国家主義的ネオナチがこれと同盟関係を構築していたのです。
いまやウクライナの超国家主義者ネオナチは、政府に対してきわめて重要な、おそらく決定的ともいうべき影響力を行使しています。

昨年10月、ゼレンスキーは「もはやプーチンとの交渉は不可能だ」と宣言する法令に署名しました。それはウクライナ国民、そして世界全体にとって悲惨な結末です。


13.「即時停戦」こそ私たちの合言葉!

カナダの左派は、即時停戦を求めて行動を起こすべきです。カナダ政府は、モスクワの要求に応じて停戦交渉の再開を働きかけるべきです。

大手メディアはウクライナ軍の「大勝利」についての偏向報道を繰り返しています。
しかし「ロシア軍の劣勢」報道は、実際は、ロシア軍が秩序正しく最小限の損失で実施した戦略的配置転換でしかありえません。

基本的な事実は何も変わっていません。
キエフは、NATOの軍事援助と、それに伴う核脅威を用いた西欧諸国への威嚇がなければ、戦争に勝つことも、その地位を持ち直すことさえできないはできません。

長期的には、カナダの左翼は、20年前にイラク戦争への参戦を阻止したときのような、広範な運動を構築しなければならない。

あるいは、1980年代にアメリカの中距離核ミサイルをヨーロッパに配備することを阻止したような広範な運動を構築しなければなりません。
そしてカナダがNATOから脱退することをもとめて、引き続き闘わなければなりません、なぜならNATOこそは、全人類を脅かす世界一危険な帝国主義組織だからです。



このところひとしきり、ウクライナ各地の廃墟の壁に描かれたバンクシーの絵が話題になっている。
決してバンクシーを否定するわけでもないし、その意図も理解できないわけではないが、それにしても被災者にとっては過酷な励ましだ。柔道ではなく剛道だ。

バンクシー

家を失い、寒風の中路頭に迷う市民に、「もっとたたかえ」と鼓舞するこの絵は、もし善意の表れだとするなら、かなり残酷な善意だ。これを見た一般市民はやりきれない気持ちになるに違いない。
若者が壁を剥ぎ取って絵を持ち去ろうとして捕まった。若者たちは、この絵を売って軍に寄付しようと思ったと語っているという。たしかにそういう絵だよね。
バンクシー自身は、併せて絵画の販売も行い、その売上を救急車の購入に当てると語っているが、どの窓口を経由しても、結局は武器・弾薬の購入に当てられることになりそうな気がする。
昨今の欧米社会では、自由と人権と正義が中間層市民のスローガンとなり、平和や希望や平等やヒューマニズムという包摂的テーマは二の次にされがちだ。そのような現状をどう評価するか、超寡占層とやせ細った中間層市民が作り出す、ギスギスとした価値体系を問いかえして見る必要があるのではないか。







三大陸誌「米国と新冷戦: その社会主義的評価 紹介」

 

三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第一論文」

 

三大陸誌「米国と新冷戦: その社会主義的評価 第二論文」

 

三大陸誌「米国と新冷戦: その社会主義的評価 第三論文」

Politico
11/14/2022
(政治に特化した米国のWebMagazine. 政治姿勢は中道右派。ウクライナ問題では「親ウクライナ・反ロ」で一貫)

ミレー統参議長のウクライナ発言後、
政府はウクライナを安心させるために奔走する

U.S. scrambles to reassure Ukraine after Milley comments on negotiations


By ALEXANDER WARD, LARA SELIGMAN and ERIN BANCO


リード

マーク・ミレー統合参謀本部議長は、ウクライナによる勝利は軍事的には達成できないかもしれず、冬はロシアとの交渉を開始する機会になるかもしれないと述べた。
交渉のための「窓口」についての統参議長の発言は、ウクライナ政府関係者を怒らせた。政府関係者は事態の収拾に大わらわである。

milley


本文

バイデン政権は、ミレー統参議長がキエフとモスクワの和平交渉の窓口がこの冬にも開かれる可能性があると述べたことを受け、事態収拾に入っている。
高官たちは、ロシア人を追い出すという目標をウクライナに保証しようとしている。

具体的には、「予想される冬の戦闘の一時停止は、即、協議を行うことを意味するわけではない。米国は、戦闘が次の段階へ進むまでは、ウクライナを軍事的に支援し続ける」とウクライナ側に伝えた。

ミレー発言

このゴタゴタは、先週行われた統合参謀本部議長のマーク・ミリー将軍の発言に絡むものである。

同将軍はニューヨークの経済クラブに出席した際、次のように述べた。
「ウクライナによる勝利は軍事的には達成できないかもしれない。この冬は、ロシアとの交渉を開始すべき時期になるかもしれない」

米国政府関係者(匿名)によれば、ミレー議長は、ウクライナ側のヴァレリー・ザルジニー将軍と定期協議している。
その際、ザルジニー氏は一度も懸念を表明せず、ミレー氏の発言にも触れなかった。

それでも、ミレー発言後にウクライナ人との電話や会談が相次いだことは、政権がウクライナとの関係をどの程度懸念しているのかを浮き彫りにしている。

和平交渉の可能性について見解を示すことは、それだけ微妙な問題だと考えられる。
米政府高官の間で分裂が長引けば、戦争の重要な局面ですでに微妙な関係にあるワシントンとキエフの関係を脅かすことになりかねない。

バイデン政権は、こうした緊張を緩和する必要に迫られている。
それはまずウクライナへの支援継続、ついで欧米の軍備備蓄の補充、そして共和党が下院を支配する状況とのバランスをとりながら対応することである。
そうなれば、キエフへの支援は削減されウクライナ側は不満を募らせるだろう。ヨーロッパの指導者たちは、この地域のエネルギー危機について不安を募らせるだろう。

この数日、一部の首脳は戦闘継続に伴う諸コスト上昇を懸念している。ウクライナとも、どの程度圧縮が可能かについて質問を投げかけている。

以下は記者による解説

停戦への模索

政権は、和平交渉が現在のところ予定にないことを示している。しかし水面下の動きは否定し得ない。
 ロシアのメディアは、「月曜日にトルコで、CIA長官ウィリアム・バーンズがロシア側と会談した」と報じた。
その直後、ホワイトハウスの報道官は、次のように語った。
会談はあったが、外交目的ではなかった。彼はいかなる交渉も行っていない。ウクライナ戦争の解決のしかたについても議論していない。
彼は、ロシアが核兵器を使用した場合にもたらされる結果と、戦術エスカレーションが戦略的安定性に与えるリスクについて、ある種のメッセージを伝えているだけだ。
さらにバーンズ長官は、不当に勾留された米国市民のケースも提起した。
報道官によると、ウクライナ当局はバーンズ長官の出張について事前に説明を受けたという。

米国政府高官複数の発言によると、政権内部では米ロの和平交渉について、ウクライナともっと真剣に話す時期が来ていると考えられている。交渉を始めるべきかどうかについて、公私入り混じってメッセージが飛び交っている。それはワシントンとキエフの関係に緊張を与えている。

先週キエフが戦略的に重要な都市を奪還した今、交渉の議論を始める時期ではないと断言する強硬派の安全保障専門家もいるが、冬に入れば戦線が膠着する可能性があり、そうなれば外交的な会話をする余地が発生されるだろうと考える者もいる。
後者の人々は、ワシントンの関係者に対し、“戦闘の中断” を外交上の切り札としてより真剣に考慮するよう働きかけている。しかし彼らの提言は、バイデン大統領や最高幹部の見解をまだ変えるに至ってはいない。

強硬派は「いまこそペダルを踏め」と主張

これとは反対に、軍事専門家の中には、ミレーの評価に同意しない者もいる。
例えば元米軍ヨーロッパ司令官のベン・ホッジスはこういう。
「たしかに冬の天候は戦闘を減速させるが、停止させることはないだろう。ウクライナ軍は装備の整わないロシア軍への圧力を強めるだろう」

ホッジスは以下のように戦いの行方を占う。
「1月までにウクライナ軍はクリミアへの進攻を開始できるようになるだろう。そして夏までには領土からすべてのロシア軍を追い出すことができるだろう。
ウクライナは戦場で、昔ながらの方法でロシアを打ち負かす事ができる。そのことを多くの人が理解すべきだ。
彼らは不可逆的な勢いを持っている。今こそペダルを踏み込むべき時だ」

先週、Milleyが「ウクライナもロシアも軍事的には勝てない」という見解を示したことで、政権内の議論が活発化した。
彼には前政権でもホワイトハウスの方針から外れた経歴がある。

彼は、「軍事的勝利は軍事的手段では達成できないかもしれない。それゆえ、他の手段に切り替える必要がある。
もし戦線が膠着状態に陥るなら、それは交渉の機会を提供することになる」とも述べた。

これについて他の高官はこう述べた。
「ミレーの発言は、ウクライナがロシアに降伏したり、主権国家の一部を譲り渡すべきだと考えているわけではない」

国防総省内部での広範な感覚

しかし、このコメントは、来る冬は政治的解決を探るチャンスであるという、国防総省内部での広範な感覚を反映したものである。

キエフの最終目標は全占領地域からロシア軍を追放することであるが、多くの軍幹部は全土解放は困難であると考えている。特に、2014年からずっとロシアに押さえられているクリミア半島についてはそうだ。

なぜいまロシアが苦労しているのか。それは、防衛体制をとっている軍隊を撃破するのは非常に困難だからだ。
ロシアをクリミアやドンバスから追い出すためには、資源的にも人命の面からも非常にコストがかかり、困難なものになるだろう。そもそも、実現できるかどうかもわからない。

サブリナ・シン国防総省広報担当者は、ミレー氏の危惧する材料は「自ずと明らかになるだろう」と発言した。
「大統領も長官もこの戦争の終結は 外交的対話によるものだと言っています。しかし、繰り返すが、今のところロシアが攻撃の手を緩めることはなく、率直に言って、外交交渉が始まるまでは、戦場やウクライナ全土の都市でロシアの攻撃が続くのを見守ることになるだろう」と述べた。

キエフは、黒海の重要な港でありクリミアへの玄関口である南部の都市ケルソンを先週奪還したことで、自軍に勢いが出てきたと考えている。ロシア軍は木曜日にドニプロ川を渡って退却し、対岸に固まった。

しかし、国防総省の担当者は、ケルソン地域は今後待ち受ける厳しい戦いの一例になると言う。
川を渡って対岸の領土を奪還しようとする戦いは、軍事的に困難な作戦である。

「さらに10万人の命を奈落の底に突き落とす前に、なぜ(和平交渉について)話し始めないのか」と、別の米政府高官は言った。


国務省と国家安全保障会議(NSC)の内情

一方、国務省は、ウクライナとロシア間の最終的な和平交渉のための土台作りを行っていると、別の米政府関係者が詳細を明かさずに語った。米国政府は、キエフ政府の担当者と十分な協議を行っているとし、きわめて限定的な関与であることを強調している。

国家安全保障会議(NSC) は、政権内で、会談・交渉という選択肢に最も抵抗しているパートである。
ウクライナとロシアを話し合いのテーブルにつかせるよう促すスタッフも存在するが、にも関わらず、NSC主流は軍事的解決に固執している。

国家安全保障顧問のジェイク・サリバンは、ウクライナとロシアの協議を優先させるという見解に時折興味を示している。しかしそのことは、直接ウクライナ側には伝えていない。
サリバンは、ロシアのプーチン大統領は現時点では交渉を真剣に受け止めていないと主張している。
またウクライナの国民は、いかなる交渉への努力をも拒否するだろうと考えている。

サリバン氏は先週土曜日、記者団にそう語った。
「ロシアが、武力で好きなだけ領土を手に入れるというつもりなら、誠意ある交渉相手と見なすのは難しい」
ある政権高官は、「部屋にいる全員が(サリバンと)同じ気持ちでいる」と述べた。

しかし、必ずしもそうとは言えない。NSCが和平交渉に抵抗しているのは、ミレーの発言がキエフでひと悶着を起こした後からで、その経過を見て固まって来たからではないかとの憶測もある。

ホワイトハウスの内幕

ある政府関係者はいう。
「ホワイトハウス関係者が公言することと、内心で考えていることは、必ずしも同じではない。ミレーは、思ったことをそのまま口にするところがある。周りの人はいつも、彼がひそかに口にすべきことを声高に言わないよう望んでいる」

事情に詳しい別の人物は、この件が "ホワイトハウスで生臭い議論になっている "と述べた。
彼は言う。
「今のところ会談を組織するための具体的な外交的努力が進行しているとは言えない。そのための場も、文書も、交渉戦略も存在しない」
彼は、将来的な会談のために何らかの根回しがされつつあるという観測には否定的である。


それでも戦争は継続しなければならない

ワシントンからの複雑なメッセージは、厳しい冬が近づいているウクライナにとって愉快なものではない。

西側軍当局は、ウクライナが必要とする武器が少なくなっているため、補給を急いでいる。
米国は移動式の短距離兵器アベンジャー4台を提供し、ホークミサイルとソ連時代の戦車を改修する費用を支払うと発表した。
DoDはまた、韓国の防衛産業から弾薬を購入し、ウクライナに譲渡する予定である。
米国はすでにウクライナに数十億ドルの支援を行っているが、今後数カ月から数年間は、より多くの資金が復興努力に不可欠となる。

バイデン氏は先週、共和党が下院多数を制しても援助は継続されるとの見通しを示した。
しかし、米国内でウクライナとロシアの協議を求める声が高まることで、ウクライナ人は不安になるだろう。

People's Dispatch
December 08, 2022 

https://peoplesdispatch.org/2022/12/08/perus-oligarchy-overthrows-president-castillo/

by Manolo De Los Santos

ペルー: 寡占勢力がカスティーリョ大統領を打倒


2021年6月6日は、ペルーの寡頭政治の多くに衝撃を与えた日であった。

これまで一度も選挙に出馬したことのない田舎の学校教師、ペドロ・カスティージョ・テロネスが、大統領選の第2ラウンドで50.13%強の得票率で勝利を収めたのだ。

彼は根本的な社会改革と新憲法制定を約束して立候補し、極右のケイコ・フジモリ候補と対決した。
その結果、カスティーリョに880万人以上の人々が票を投じたのである。

変革の大きなうねりの中で、元独裁者アルベルト・フジモリが娘のケイコに受け継いだ新自由主義と弾圧の政治路線は拒否されたのだ。

カスティーリョが当選したその日から、寡頭政治層は宣戦を布告した。
彼らはその後の18ヶ月を、敵対関係の中で過ごした。法体系を駆使して、多方面からの攻撃で政権の不安定化を図った。
「共産主義を投げ捨てろ」という掛け声のもと、寡頭政治の代表である全国工業会議が、カスティージョ政権の無力化計画を実行した。

2021年10月、その年の6月から全国工業会議が抗議行動やストライキへの資金提供を含む一連の行動を計画していた。
さまざまなエリートたちや右派野党の指導者らと、一緒に計画を立案している録音が公開された。

フジモリら極右政治家と手を組んだ元軍人のグループは、公然とカスティーヨの暴力的打倒を叫び始め、政府高官や左派のジャーナリストを脅し始めた。

議会の右派議員もこうした計画に加わり、就任1年目だけでも2度にわたってカスティージョを弾劾しようとした。

カスティーリョは2022年3月に述べている。
「私が大統領に就任して以来、政界はペルー国民が与えてくれた選挙での勝利を受け入れていない。
そして次の点を協調した。
「私は、監視と政治的統制を行使する議会の力を理解し尊重しているつもりだ。しかし議会の権能は、憲法の規定を無視してむやみに振り回すことはできないはず。それは民意を無視した権利の乱用にあたる」

このうち数人の議員は、ドイツの右派系財団の支援を受けていたことが判明した。
彼らはカスティーリャを速やかに罷免するための憲法改正の方法についても打ち合わせをしていた。

ペルーの寡頭政治家は、農村の学校の先生や農民のリーダーが大統領になることを受け入れることができなかった。
カスティーリャには、貧しい人々、黒人、先住民の何百万という人々が、より良い未来への希望を託していたからだ。

protest Peru
     議会によるクーデターに抗議する左派の人々

しかし、寡占層の攻撃に直面し、カスティーリョはだんだん彼の政治的基盤から距離を置くようになっていった。
カスティーリャは経済界をなだめるために4つの内閣を作り、そのたびに右派の要求に屈して、現状に挑戦する左派の大臣を排除していった。 

彼は、所属政党「ペルー・リブレ」の指導者から公然と批判を受け、同党と決別した。
国内の主要な農民や先住民の運動を動員する代わりに、米国の手先である米州機構に助けを求め、米国の公認のもとでの政治的解決策を探した。
結局、カスティーリョは、大衆からもペルーの左翼政党からも支持されず、孤独な戦いを続けることになった。

2022年12月7日、カスティーリョの最後の危機が勃発した。
数カ月にわたる汚職疑惑、左派の内紛、何度もの刑事告発によって弱体化したカスティーリョ政権は、ついに打倒された。

この解任投票が行われる数時間前に、カスティーリャはテレビ演説を行った。そこで彼は議会を解散すると国民に発表した。
また、カスティーリャは「例外的な緊急政府」を立ち上げ、9ヶ月以内に立憲議会を招集すると発表した。そして、それまでは議会を閉鎖したままにし、勅令によって統治する、と言った。
大統領としての最後のメッセージは、その日の夜10時から夜間外出禁止令であった。

議会は素早く対応した。調査中の汚職疑惑により「永久的な道徳的無能力」を理由に解任する緊急動議が提出された。

議会は投票を行い、賛成101票、反対6票、棄権10票でカスティーリョを弾劾した。副大統領のディナ・ボルアルテがその後任として就任した。

結局カスティーリョの発した夜間外出禁止令も、その他の措置も、実行されることはなかった。

カスティージョには議会を解散させる力は残っていなかった。

ボルアルテ副大統領は議会で宣誓し、大統領に就任した。カスティーヨは警察署に拘束された。

首都リマではいくつかのデモが発生したが、クーデターを覆すほどの規模にはならなかった。

このクーデターは、ラテンアメリカの急進的な変革に対する暴力の長い歴史の中で、ほぼ1年半かけて準備された異例のものであった。

ペドロ・カスティージョに対するクーデターは、ラテンアメリカにおける現在の進歩的な政府の波と、彼らを選出した人々の運動にとって大きな後退となるものである。

このクーデターとカスティーヨの逮捕は、次のことをはっきりと記憶に刻むものである。
すなわちラテンアメリカの支配的エリートは最後まで苦しい戦いを続けることなしには、決して権力を譲らないことである。

そして今、長い準備と闘いの末に、ペルーの寡頭政治家とワシントンの友人たちだけが最終勝利者となったのである。


GRAYZONE
NOVEMBER 18, 2022

ゼレンスキーと御用メディア、最も危険な嘘がバレる
https://thegrayzone.com/2022/11/18/zelensky-media-lie/

by A. RUBINSTEIN


リード
キエフの第三次世界大戦の引き金になりかねない嘘がバレた。これを機会に、西側メディアが過去に撒き散らした多くのフェイクについて検証する。

以下本文

11月15日、ポーランドでミサイルが爆発し、2人の市民が死亡、農機具が破壊された。
ウクライナのゼレンスキー大統領と西側メディアは、この爆発をロシアのせいにしようと躍起になった。
なぜその試みが危険なのか
NATO憲章の第5条は、ある加盟国が敵対勢力から攻撃された場合、他の加盟国は軍事的に相互防衛することを義務付けているからである。
その後、ポーランドとバイデン大統領、およびNATO加盟国は、このミサイルが実際にはウクライナの保持するS-300対空ミサイルであったことを確認している。
しかし、ゼレンスキー氏はロシアを非難する姿勢を崩さず、NATOのストルテンベルグ事務総長も「最終責任はロシアにある」と言い続けている。
このような混乱の中で、当初反射的にロシアに矛先を向けたメディアは、一歩後退下表現を余儀なくされている。


ゼレンスキーがついた嘘

ゼレンスキーは攻撃当日の11月15日にこう主張した。

「ロシアのミサイルが友好国のポーランドを襲った。人が殺された。“NATOの領土” にミサイルを撃ち込むならば、それはロシアのNATOに対する戦争行為だ。これでもロシアが罰せられないのなら、ロシアのミサイルが届く範囲にいる人は、これからもっと脅かされることになる。これは非常に重大な戦闘のエスカレーションである。いまこそ我々は行動しなければならない」

翌日、ゼレンスキーは、自国の防空ミサイルが原因であるという証拠が次々と出てきたにもかかわらず、頑強に主張した。
「私は軍事的な報告に基づいて、これは我が国のミサイルではない、これはロシアのミサイルだと信じている」

しかしすでにこの時点では、ほとんどのアナリストがウクライナ大統領の評価を否定していた。
その中には、アメリカ政府が支援する諜報機関ベリングキャットの創設者も含まれている。
彼はこの時点で、「現在の証拠に基づいてロシアのミサイルがポーランドを攻撃したと言う人は、無責任だと思う」と書いている。

ロシアがNATO加盟国のポーランドを攻撃した場合、北大西洋条約機構の第5条が発動され、加盟国は「ある同盟国に対する攻撃」を「すべての同盟国に対する攻撃」と見なすことを強制される可能性があった。
そのような動員が行われていれば、それは第三次世界大戦に匹敵する規模となっていただろうだろう。

このような破滅的なエスカレーションが起こる危険性は明らかであるにもかかわらず、ーあるいはそうであるがゆえにー 欧米の商業メディアは直ちに、この攻撃の責任をロシアになすりつけた。

ロシアがなぜポーランドの農地を重要な軍事目標とみなしたのか、30カ国からなるNATOとの全面戦争に踏み切ろうとしているのか、という当然の疑問さえも投げかけなかった。

ロシアはポーランドの田舎のただの農地を、30カ国からなるNATOとの全面戦争を覚悟してまで、なぜ重要な軍事目標と考えたのだろうか。


AP通信の勇み足から始まった

当初、AP通信は、"ロシアのミサイルがウクライナへの攻撃中にポーランドまで飛び込んだ "(cross into Poland)という見出しで報道した。
記事は "米国情報機関の高官 "の発言を引用し、その後、"第二の人物 "の見解も求めている。

11月16日、APは元記事へのリンクを抹消し、訂正記事にリダイレクトし始めた。

訂正記事は以下の通り。

"AP通信は米国情報機関の高官からの情報に基づいて、誤って報道した。
AP通信は、米国情報機関の高官が匿名を条件に発言した内容を基に、「ロシアのミサイルがポーランドに侵入し、2名が死亡した」と報道した。
その後の追跡で、ミサイルはロシア製であるが、ウクライナが所有するものであり、ロシアの攻撃に対する防衛のためにウクライナが発射し。誤ってポーランド領内に飛来した可能性が高いことが判明した。


商業メディアがウソを上塗りした

タイム誌は、「ロシアのミサイルが空爆中にポーランドに侵入し、2人を殺害」という見出しで、AP通信の報道を引用して掲載した。
フォックス・ニュースも同様に、「ロシアのミサイルがNATO加盟国のポーランドを横断、2人死亡:米情報当局高官」と発表し、AP通信を引用している。MSNBCも見出しで「ロシアのミサイル」と非難した。
CNNはさらに踏み込んで、"ポーランド、ロシア製ミサイルで2人死亡 NATOが第4条発動を検討 "と報じた。
NATO第4条は、加盟国のいずれかが「脅威」を受けた場合に行われるNATO諸国会議について定めたもので、第5条の発動に先立ち行われることになる。
CNNと同様、ロイターはポーランド外務省を引用して、「ロシアのロケット弾が自国領土に命中、NATOは対応を検討」という見出しを掲げた。


ニューヨークタイムスがウソを塗り固めた

ニューヨークタイムズは、ミサイル攻撃に関する報道の2文目で、"ロシアがウクライナに約90発のミサイルを発射したため、爆発が起きた "と述べている。
そしてその2行後に、"地元メディアはロシアによるミサイル攻撃かと示唆 "と述べている。
この新聞の読者は、ロシア当局が責任を否定したことを読むために、画面を数回スクロールダウンしなければならなかった。

戦争が始まった頃、ニューヨークタイムズは「ウクライナのオンライン・プロパガンダ」という記事を掲載した。その記事は、ウクライナ政府がフェイクニュースを押しつける傾向があることを認めつつもそれを軽視(downplay)しようとした。

記事はいう。キエフの情報戦は、たんに「ウクライナの不屈の精神とロシアの侵略の物語をドラマチックに味付けする」だけであり、あまり深刻に考える必要はない。
ついで記事は、ある無名のTwitterユーザーの発言を引用している。
「なぜ、人々があることを信じようとするのを止めてはいけないのか。もしロシア人がある信念によって行動するなら、それは恐怖をもたらすが、もしウクライナ人が新年に基づいて行動すればそれは希望をもたらすだろう」


それはこれまでのウソの延長線上にあった

米国のメディアはウクライナの宣伝活動を支援し続けた。きわめて疑わしい出来事をつゆほども疑わずに報道した。そしてそのことで、さらにフェイクを助長することになったのだ。

これらの疑わしい事件には、次のようなものがあった。

3月8日、西側メディアはマリウポルの産科病院がロシア軍機によって攻撃されたと報じた。

ゼレンスキーは、この攻撃はロシアのウクライナに対する「大虐殺」の証拠だと主張した。

しかし、重要な目撃者であるAPが撮影した病院の妊婦は、そのような空爆はなかったと述べている。そして近くで起きた爆発はウクライナの砲弾によるものだと証言した。

 3月16日、ウクライナ政府は、マリウポリ演劇劇場を破壊し、300人から600人の死者を出したとして、ロシアの標的型空爆を非難した。しかしミサイル攻撃を示す映像は全く示されなかった。
それにも関わらず西側企業メディアはウクライナの説明を第第的に宣伝した。
今日に至るも、劇場で多数の民間人が死亡した映像や証拠もなく、救助を試みた映像や証拠もない。

マリウポリ住民の証言によると、劇場の敷地を支配していたアゾフ大隊(ネオナチ)の戦闘員がNATOの軍事介入を誘発するために爆発を演出したという。
現場写真からは、爆発の1日前にAzovの戦闘員が劇場の駐車場からすべての車両を撤去したことが明らかである。

下記の記事をご参照ください。
2022年04月04日 BBCの「マリウポリ劇場の爆撃」報道はでっち上げ? 1
http://shosuzki.blog.jp/archives/88022172.html
2022年04月05日 BBCの「マリウポリ劇場の爆撃」報道はでっち上げ? 2
http://shosuzki.blog.jp/archives/88025980.html
2022年04月10日 公安調査庁がアゾフ大隊に謝罪
http://shosuzki.blog.jp/archives/88041794.html

 クラマトルスク駅爆破事件では、ミサイルがウクライナ支配地域から発射されたにもかかわらず、ロシアの責任とされた。
爆破されたトーチカUミサイルは、その製造番号がウクライナの保有する他のミサイルと一致している。

ウクライナのウソは賞味期限を迎えた

戦争が長引くにつれて、バイデン政権の一部は、ウクライナ政府筋の大げさな話にしびれを切らしているようだ。
 NATOのある幹部は、11月16日付のフィナンシャル・タイムズ紙にこう語った。
「段々と話がばかばかしくなってきた。ウクライナ人は公然とウソをついて、我々の信頼を失墜させている。それはある種、ミサイルよりも破壊的だ」

Democracy Now
DECEMBER 06, 2022

A Negotiated End to Fighting in Ukraine Is the Only Real Way to End the Bloodshed

ウクライナ: 戦闘を交渉で停止することが、
流血を終わらせる唯一の道

この文章について
これは「デモクラシーナウ」のテレビ番組を文字起こししたものです。インタビューの形式を取っていて、質問者はレギュラーのエイミー・グッドマン、回答者はジェフリー・サックスです。もうひとりの質問者がフアン・ゴンサレスという人です。
デモクラシー・ナウのサイトからの引用ですが、一部、細かいやり取りは省略しています。

……………………………………………………
テレビ局による事前解説

ウクライナ戦争は10カ月目に入った。フランスやドイツなどの指導者は、これまでも戦闘終結と和平交渉に積極的だったが、最近はプーチンとバイデンも同様の姿勢を示し始めている。

ウクライナの民間インフラに対するロシアの攻撃が続いている。このままでは、何百万人ものウクライナ人が暖房も電気もない冬を迎えることになる。

いま世界はこの苦境から脱しなければならない。

本日のゲスト、ジェフリー・サックス氏は経済学者で外交政策学者である。コロンビア大学の「持続可能な開発センター」所長を勤める。

彼はウクライナ問題を見る視点を語る。「この戦争は誰にとっても災難であり、全世界にとっての脅威である。だから議論はさておいてでも、まず絵戦闘を終わらせる必要がある」

彼は、「戦争を終わらせるためには4つの主要な問題に対処する必要がある」と言う。

すなわち、①ウクライナの主権尊重と住民の安全保障、②NATOの拡大の停止、③クリミア半島の帰属、④ドンバス地域の長期的なあり方、である。

……………………………………………………

以下、アミー・グッロマンが対話の内容を紹介する。最初にニュース映像を混じえた長めのブリーフィングがある。
amy goodman

まず最初に、ロシアによるウクライナ民間インフラへの一斉攻撃の背景について。

ロシアは、ウクライナが無人機を使って攻撃を仕掛けたという。声明によれば、ロシア国内数百マイルにある2つの空軍基地とウクライナ国境近くの石油基地を攻撃した。
基地のうち1つには、ロシアの核弾頭搭載戦略爆撃機が駐機していると報道されている。

ウクライナはこの作戦について公式に明らかにしていないが、あるウクライナ政府高官は、ニューヨーク・タイムズ紙に語っている。

ドローンはウクライナ領内から発射され、少なくとも1つのロシア軍基地の近くにいるウクライナの特殊部隊の助けを借りたという。

ロシアは無人機による攻撃に対抗し、ウクライナ全土にミサイルを発射した。

もしロシアがウクライナの民間インフラに攻撃を加えれば、何百万人ものウクライナ人が暖房も電気もない冬を迎えることを覚悟しなければならない。そのような状況での出来事である。

ロシアのラブロフ外相は最近、米国とそのNATO同盟国を非難した。ラブロフによれば、西側勢力はウクライナ兵を武装させ訓練することを通じて、戦闘に直接関与している。

ついでフランスのマクロン大統領と米国のバイデンの発言に関して。

話を変えて、この壊滅的な戦争を終わらせるための交渉の呼びかけに目を向けよう。

先週、米国を訪問したフランスのマクロン大統領は、戦闘を終わらせる唯一の方法は交渉であると繰り返し述べている。

テレビ番組に出演したマクロンはこう語った。
「解決の糸口を見つけるには交渉しかない。戦場での軍事的な選択肢はないと思う」
ABC放送ではこう語った。
「ロシアのプーチン大統領との交渉はまだ可能だ。彼はヨーロッパ、アメリカなどをよく知っている。彼は国民のことをよく知っている。彼は間違いを犯したと思うが、交渉のテーブルに戻り、何か交渉することはもはや不可能なのだろうか? 私はまだ可能性はあると思う」

先週、マクロンはホワイトハウスでバイデンと共同記者会見を行った。このときバイデンは、戦争を終わらせるためにプーチンとの交渉も考慮に入れると発言した。

バイデン「もし、実際にプーチン氏が戦争を終わらせようと考えているなら、そのための方法を探しているなら、そのように判断する根拠があれば、私はプーチン氏と話をする用意がある。彼はまだそれを行っていない。
もしそうであれば、フランスやNATOの友人たちと相談しながら、プーチンが何を考え、何を望んでいるのか興味がある。その時は喜んでプーチンと話をするつもりだ。彼はまだそれを行っていない」

バイデンが記者会見で語った翌日、ドイツのショルツ首相はプーチン大統領と1時間にわたり電話会談を行った。

……………………………………………………

ここからいよいよ対談が始まる。

グッドマン: 

ウクライナの戦争の現状、さらに交渉の必要性について、ジェフリー・サックス氏にお話を伺います。

コロンビア大学「持続可能な開発センター」所長、および「国連持続可能な開発ソリューションズネットワーク」代表を勤めています。また歴代3人の国連事務総長の顧問を務めています。
最新作は「ウクライナ和平のための調停者の手引き」です。
本日はオーストリアのウィーンからのオンライン参加です。

グッドマン:

サックス教授、デモクラシー・ナウにお帰りなさい。
どうすれば、諸国間の調停を実現できるか、あなたの論文に基づいて提案を発表してください。

私たちは、この間重大な変化があると見ています。
マクロンとホワイトハウスを訪問しました バイデン政権下で世界の指導者が ホワイトハウスを訪問するのは初めてのことです 
マクロン大統領はプーチンの「密使」とみなされています。会談後の記者会見では、バイデン大統領自身もプーチンと話すと発言しています。明らかに米ロ会談が主要なテーマでしょう。では、それについてどう考えればいいのでしょうか?

サックス:

双方とも、軍事的な逃げ道はないと見ているようです。
私は、一方にNATOとウクライナ、他方にロシアという枠組みで話しています。
この戦争は、2世紀前にフォン・クラウゼヴィッツが語ったように、「他の手段による、あるいは他の手段と並行した政治」であります。ここには政治的問題が横たわっており、それこそ政治的交渉の必要があるという意味です。

私の考えですが、マクロン大統領が言ったことは全く正しいです。プーチン大統領は絶対に、交渉の席で政治的成果が実現できることを望んでいます。

マクロン大統領が言ったことは全く正しい。

プーチン大統領は、交渉の席で絶対に実現できる政治的成果を望んでいるということです。

私の考えでは、この戦争の主要部分は、当初から、NATOの拡大に関するものでした。

マクロン大統領が別のインタビューで語ったことを引用します。

「これはプーチンがつねづね語っていることだが、NATOが戸口の前まで来て、そこにロシアを脅かす兵器が配備される、そういう事態への恐怖感は、我々(西側)が配慮すべきもっとも本質的なポイントである」

実際、そのような圧力は、ブッシュ・ジュニア大統領によってテーブルに載せられて以来、ずっと続けられてきた。
過去14年間、アメリカのネオコンがその計画を進めてきた。それは中心課題として提起されてきたのです。

バイデン大統領は1年前、2021年末に、NATO問題をめぐる一切の交渉を拒否しました。
しかし、今こそNATO問題で交渉する時だ。まさにそれが、当面最大の政治問題なのです。

他の問題もありますが、要はこのことを認識することです。この戦争は誰にとっても災難であり、全世界にとっての脅威である。だから今すぐ終わらせる必要があるということです。

先週、欧州連合のフォン・デア・ライエン議長が明らかにしました。10万人のウクライナ人兵士と2万人の民間人が死亡しました。
そして戦争は続いている。そして、これはまったくの災害であり、にもかかわらず、私たちはいまだに政治的な解決策を求めてはいないのです。

興味深いのは、エイミー、私が強調したいのは、米国内でようやく和平の展望が聞かれるようになったということです。

バイデン大統領の声明は非常に重要なものでした。でももう一つ、その前の週にマーク・ミリー米統合参謀本部議長のおこなった発言はとても注目に値します。
彼は”今こそ交渉の時だ "と発言したのです。

政権内部では、ネオコンとネオコンの間で大きな論争が起こっています。
一方はネオコンと呼ばれる狂信的な人々、もう一方は現実を客観的に観察する人たちと言えるでしょう。
ビクトリア・ヌーランド、おそらく米政府内のネオコン派最高責任者です。ヌーランドは最初からこのNATO拡大作戦に首を突っ込んでいました。
彼女は「ロシアが撤退しなければ交渉は無理だ」と言っています。
しかし他の人たちは、「今がまさに交渉の時ではないか」と言っています。
つまり、これは米国内の議論であると同時に、米国とロシアとの関係を睨んだ議論でもあるのです。

nu-land
Assistant_Secretary_Victoria_Nuland_Meeting_with_Georgian_DM_2013
(wikipediaより
ネオコンの系譜に関しては誰が米国を戦争に導くのか?をご参照ください。

JUAN GONZÁLEZ(番組のコメンテーター):

サックスさん、ウクライナへの米国の軍事援助と経済援助の拡大について、毎週のように発表が行われています。
このことについて、簡単にお話しいただけないでしょうか。この武器や支援は戦争を終わらせるのに役立っているのか、それとも戦争を長引かせているのか、教えてください。

JEFFREY SACHS: 

間違いなく長引かせています。そして、双方とも誤算していたと思います。
プーチンは、最初の侵攻によってウクライナを交渉のテーブルに着かせ、これらの政治的問題が解決されるだろうと考えていました。
たしかに2月の侵攻の後、3月には交渉が行われました。文書の交換が行われました。仲介者のトルコ政府は、「合意に近づいている」と言いました。
実際、ロシアとウクライナの双方が、"合意に近づいている "と言ったのです。

その後、ウクライナ側は交渉のテーブルから立ち去った。その全容はわかっていません。
私なりに推測すると、アメリカやイギリスが "そんな妥協はしなくていい "と言ったのではないでしょうか。

米国には10年以上前からNATOを拡大するプロジェクトがあり、政権内にはそのプロジェクトを手放したくない勢力があったと思うんです。
それでウクライナは交渉から手を引き、戦争が続いてしまったのです。

さて、アメリカ側の計算では、NATOの兵器であるHIMARSやその他の兵器と、非常に厳しい経済制裁を組み合わせることでした。
何千億ドルにのぼるロシアの資産を凍結し、ロシアを市場から孤立させようと考えました。それに必要な世界的な合意が得られると米国は期待していました。
これによってロシア経済は崩壊し、ロシアは戦争を続けることができなくなると考えたのです。

これはアメリカ側の大きな誤算でした。 世界のほとんどの国が、西側の制裁案に賛成しなかったのです。
国連でのこの投票でも、関係国の人口で重み付けすると、世界の20%、25%がロシアを糾弾する票を投じたが、世界の大半は糾弾案に賛成しなかったのです。

ロシアと中国、インド、その他多くの国々との経済取引は継続されています。
ロシア経済は崩壊していません。ロシアは軍備を切らしていません。
それどころではありません。最近専門家の確認した情報では、攻撃に用いられたミサイルの一部が、新たに製造されたものとなっています。古い備蓄品を消耗しているだけではないのです。

つまり、西側の計算も間違っていたのです。ロシアは崩壊しなかった。どちらも崩壊しなかったのです。こうして私たちは消耗戦に突入しました。

今、やみくもにウクライナへ資金を投入するのは危険です。

ウクライナ軍はすでに10万人以上の死者を出しています。それに加え、さらに数万人、数十万人が殺されることを意味するだけに終わるでしょう。
戦争が続くことは、世界経済が混乱し続け、世界中で犠牲者が出続けることを意味します。
政治的な行動が必要なのは明らかです。なぜなら、どちらの側も軍事的に圧勝することは望めないでしょう。この戦争の代償は残酷なものです。

この戦争にかかる費用は膨大です。政権は、まともな議論を避けたまま、さらに400億ドルを投入するつもりです。
今年末のオムニバス法案に盛り込み、ウクライナの問題ではなく、政府全体の予算枠内で処理したいからです。

そのため、議会で本当に必要な議論が行われていないのです。
というのも、世論調査によれば、ますます多くのアメリカ人が「何か変だな」と言うようになってきているからです。

何百億ドルもの金が消えていく、人々が次々と死ぬ、経済は各方面で大混乱している…

「交渉は行われているのか、それはどこまで進んでいるのか?」
これこそが議会で必要な議論です。しかし政権はそのような議論をすることもなく、さらに400億ドルをつぎ込もうとしているのです。

AMY GOODMAN: 

サックス教授、はっきりさせておきたいのですが、あなたはロシアのウクライナへの侵攻を暴力的だと糾弾していましたね?

JEFFREY SACHS: 

もちろんです。絶対に、これは悲惨な衝突であり、ロシアの侵略の残酷さは甚大であると思います。
しかし一方で、ここまで突き進んできた米国のネオコンの愚かさ、無謀さもまた犯罪的です。

AMY GOODMAN: 

あと30秒あります。誰と誰が停戦について交渉するのでしょうか? あなたが言っている調停者は誰のことでしょうか?

JEFFREY SACHS: 

明らかに、トルコは調停役として極めて優秀です。それにここは彼らの地域だ。彼らはこれまでも深く関与してきました。

フランシスコ法王、国連事務総長、国連安全保障理事会、もちろんすべての主要なアクターが含まれていますが、これらすべてが応分の役割を果たすことができます。
しかし、私は、すべての参加者を知っている黒海地域のリーダーであるトルコが、交渉を行う上で最もふさわしいと思います。

しかし、これはウクライナとロシアの間で収まる交渉ではありません。①ウクライナの主権尊重と住民の安全保障、②NATOの拡大の停止、③クリミア半島の帰属、④ドンバス地域の長期的なあり方、の包括的な解決が求められています。
NATO問題をめぐる米国とロシア、安全保障問題をめぐるウクライナと欧州の間の交渉との同時進行でなければなりません。それはとても大きな問題であり、もちろんウクライナの中核的な利益でもあります。

AMY GOODMAN: 

それではサックスさん、どうもありがとうございました。


People's World
December 2, 2022

‘Deliberate ambiguity’:
Israel’s nuclear weapons are greatest threat to Middle East

BY RAMZY BAROUD

「故意の曖昧さ」
イスラエルの核兵器は中東の最大の脅威


リード

西側諸国は、ロシアによるウクライナ紛争の核戦争化を報道している。しかしそれらの政府は、イスラエルの核戦力には目をつぶり続けている。幸いなことに、世界の多くの国々は、西側諸国に染み付いた偽善には賛成していない。

以下本文

中東非核地帯構想に関する会議

11月14日から18日にかけて、「核兵器およびその他の大量破壊兵器のない中東地帯の確立に関する会議」が開催された。
その目的は、中東のすべての国に等しく適用される新たな国際責任の基準を作ることである。

中東における核兵器をめぐる議論が、これほど緊急なものだったことはない。

 ロシア・ウクライナ戦争後、世界で核兵器開発競争が加速されている。
また、中東では紛争が絶え間なく続いており、この地域で核の争奪戦が繰り広げられても、おかしくない。

「核兵器の開発・取得に関する説明責任は、イスラエルや欧米諸国を敵視する国家に限定されるものではない」
その意見は、アラブ諸国をはじめとする国々から長年に渡って提起されてきた。

最近では、イスラエルに核兵器を廃棄し、核施設を国際原子力機関(IAEA)の監視下に置くよう求める国連決議が採択された。

エジプトが他のアラブ諸国の支持を得て起草した決議番号A/C.1/77/L.2は、152対5の賛成多数で可決された。
反対票を投じた5カ国には、アメリカ、カナダ、そしてもちろんイスラエル自身がふくまれていた。

米国とカナダのイスラエルへの盲目的な支援はともかくとして、「中東における核拡散のリスク」と題する草案に反対票を投じなければならない理由は何だろうか?

「存立の危機」という言い訳

長年にわたってイスラエルを支配してきた歴代の右派過激派政権を念頭に置くならば、ワシントンは以下の点を理解する必要がある。
極右政府は、「存亡の危機を回避するため」という名目で核兵器を使用するかも知れない。そのリスクは現実的な可能性として存在している。

イスラエルはその建国以来、数え切れないほど「存立の危機」という言葉に頼り、利用してきた。
さまざまなアラブ諸国政府、後にはイラン、さらには個々のパレスチナ人抵抗運動までもが、「イスラエルの存在そのものを危うくしている」と非難された。

2015年にベンジャミン・ネタニヤフ首相は、非暴力のパレスチナ市民が主導する「ボイコット、排除、制裁」(BDS)運動でさえ、「イスラエルに対する存立の脅威である」との表現で非難した。
ネタニヤフは、「ボイコット運動は我々が何をしているかとは関係ない。それは我々が何であるか、すなわち我々の存在そのものに向けられた運動である」と主張した。

このことは、中東だけでなく、世界中が憂慮すべきことである。
想像上の「存亡の危機」に対して過敏に反応するような国が、中東全体を数回にわたって破壊できるほどの兵器を保有するのは、許されるべきことではないだろう。

イスラエル核武装の歴史

イスラエルの核武装は、アラブとの歴史的な対立からくる現実的な恐怖と本質的に結びついている、と言う人もいるかもしれない。
しかし、そうではない。

イスラエルは、パレスチナ人の歴史的故郷からの民族浄化の第1段階を完了するとすぐに、核兵器を確保したのである。
それはアラブ人やパレスチナ人の本格的な抵抗が行われるずっと前のことである。

1949年には早くもイスラエル軍がネゲブ砂漠にウラン鉱脈を発見した。1952年には極秘裏にイスラエル原子力委員会(IAEC)が設立された。

1955年、アメリカ政府はイスラエルに研究用原子炉を売却した。しかし、しかしイスラエルはそれだけでは満足しなかった。完全な核保有国になることを熱望していたのだ。

1957年、イスラエルはフランス政府に核施設の提供を依頼した。
ネゲブ砂漠のディモナ近郊に秘密裏に原子炉が建設され、イスラエルの核開発の主要な担い手になった。

当時のイスラエルの核開発の父といえば、皮肉にも1994年にノーベル平和賞を受賞したシモン・ペレスにほかならない。
ディモナ原子炉は現在、"Shimon Peres Nuclear Research Center-Negev "と名付けられている。

イスラエル核戦力のさらなる強化

国際的な監視を一切受けず、公式な説明もないまま、いまもイスラエルの核開発は続いている。
1963年、イスラエルはアルゼンチンから100トンのウラン鉱石を購入した。
UPIのリチャード・セール記者はこう言う。1973年10月のイスラエル・アラブ戦争では、イスラエルは「核の先制攻撃の準備に入った」と強く考えられる。

元米国陸軍士官のエドウィン・S・コクラン氏は考えている。「現在イスラエルは60〜300個の核兵器を製造するのに十分な核分裂性物質を保有している」と。

Israel-nuclear-site
写真 説明
1971年9月29日、後に米国政府によって機密解除されたスパイ衛星写真。現在、イスラエルのディモナ市近くにあるシモン・ペレス・ネゲブ核研究センターとして知られている。
長い間秘密にされてきたイスラエルの核施設は、近年新たな核兵器プログラム(未公表)を始動した。
AP通信が新しい衛星写真を入手し分析した。これによると、過去数十年で最大の建設プロジェクトが進行しているようだ。
| 米国地球資源観測科学センター/米国地質調査所|via AP

イスラエルの大量破壊兵器(WMD)については、さまざまな推定がなされているが、その存在には疑問の余地がない。

イスラエルは自ら「意図的な曖昧さ」を実践し、国際査察の責任を問われるようなことは一切せずに、敵にその殺傷力をメッセージとして伝えている。

モルデハイ・バヌヌの勇気

イスラエルの核兵器についての知識の一部は、元イスラエルの核技術者モルデハイ・バヌヌの勇気によって入手された。
彼は警鐘を鳴らす役割を引き受けた代償として10年間も独房生活を送ることになった。

Vanunu
https://www.theguardian.com/world/2018/mar/28/mordechai-vanunu-israel-spying-nuclear-1988


「ベギン・ドクトリン」

イスラエルは今も、191カ国が賛同する核兵器不拡散条約(NPT)への署名を拒んでいる。

イスラエルの指導者たちは、「ベギン・ドクトリン」と呼ばれるものを信奉している。
これは、1982年にレバノンに侵攻し、数千人の犠牲者を出した当時の首相、メナケム・ベギンにちなんでいる。
このドクトリンは、イスラエルが自らに核兵器を保有する権利を与える一方で、中東諸国には与えてはならないという考えに基づいている。
その信念は、今日に至るまでイスラエルの行動を方向づけている。

米国はイスラエル支援を続けている。それは、イスラエルが通常兵器において、近隣諸国に対する「軍事的優位」を確保することにとどまらない。それはイスラエルがこの地域の唯一の超大国であることを保証するものである。
たとえそれが大量破壊兵器の開発に関する国際責任を忌避することであったとしてもだ。

国連総会におけるアラブ諸国やその他の国々による「中東非核地帯」創設のための努力は評価に値する。
 ワシントンを含むすべての国々が、イスラエルに核拡散防止条約(NPT)加盟を強制する動きに加わらなければならない。
それは長い間遅れていた国際責任の負担に向けた、最初の、しかし重要な一歩である。

映画を見に行って、上映まで少し時間があるので、本屋で立ち読みして時間を潰した。
そのときに見つけたのが、文春新書のこの本。
エマニュエル・ドッドというフランス人評論家。文藝春秋の御用達学者らしく、背表紙には文春からの出版作品がズラッと並んでいる。
トッド


題名からしてキワモノである。緊急出版とうたっているが文春にとって緊急だということであろう。なにかブログの記事をそのまま本にしたような短文が並んでいる。それが第1章と4章で、真ん中の二章は数年前の記事の貼付けだ。
一言で言えば、ブログのような本だ。パラパラとページをめくると、コラム記事の題名がやたらと面白くて、見出しだけで内容はほぼ想像がつく。そして彼の見通しはズバズバとあたっている。きっとこのブログの愛読者の皆さんになら大受けするだろう。

その9割が世間の一般動向に対する異論であり、その8割に私は同感する。
同感できない2割は、トッドの文春に対する斟酌であり、然るがためのヒューマニズムの不徹底であり、それを「冷酷な歴史家」と韜晦する世渡りである。
いくら緊急と言えども、活字で書籍として発行するからにはどうしてもタイムラグは避けられない。ギリギリまで推敲を重ねたとしても6月初めの時点での情報である。すでに彼の(したがって私たちの)所見は相当受け入れられている。同時に米欧諸国の支配層は追い詰められ凶暴になっている。そして現実的な解決策を模索する私たちの作業は、ますます「緊急」化しつつある。

とりあえず目次をコピーする。1ポイント小さく、私の一言感想。


1.第三次世界大戦はもう始まっている

ア.”冷酷な歴史家"として 
分析の視座。何より一人の市民として、反戦平和主義者として。分析にあたっては感情に揺り動かされないリアリストとして、要するにオキシトシン依存の「正義派」を拒否して…

イ.「戦争の責任は米国とNATOにある」 
ここから数節はミアシャイマーの提起の受け止め。ミアシャイマー発言は平和派のウクライナ論の底流であり必読! AALAニューズに掲載済み。

ウ.ウクライナはNATOの”事実上"の加盟国だった 

エ.ミュンヘン会談よりキューバ危機 
欧米諸国メディアは「ミンスク合意はミュンヘン宥和の二の舞い」とあおった。しかし攻めているのが、かつてはナチであり現在はNATOだという事実には触れなかった。

オ.「NATOは東方に拡大しない」という約束 
2014年の “マイダン革命は、あらゆる面から見てクーデターである。東部諸州は合法政権を支持しクーデターに反対した。

カ.ウクライナを「武装化」した米国と英国 

キ.「手遅れになる前にウクライナ軍を破壊する」が目的だった 
ここはちょっと不正確。「」に括ってあるが、プーチンの発言の直接の引用ではない。しかし戦争目的が、強力な軍事国家の出現を阻止することにあるのは間違いない。初期に言われたように領土的野心や侵略と見るのは当たらない。

ク.ウクライナ軍が抵抗するほど戦争は激化 
侵略戦争であれば、そろばん勘定で引き合わなければ手を引く。死活的利益であれば手は引けないから激化する。そこが見抜けなかった人々はさらに激昂する。
ロシアはアゾフ軍団を第二次大戦におけるナチスの再来と見ている。だからアゾフを中核とするウクライナ軍をナチの手先と見ている。NATO軍をナチのパトロンと見ている。
この構図が続く限りロシアは戦争をやめない。まずネオナチとの関係を精算することが第一歩。

ケ.米国にとっても「死活問題」に 
ミアシャイマーの間違い。「米国にとって対岸の火事であったが、いまはすでにそうではなくなっている」…というのがトッドの見解で、彼は正しいと思う。
各個撃破政策の延長でウクライナ介入を進めたが、ロシアの直接侵攻により、大国同士の戦争となってしまった。
ウクライナ問題はすでにグローバル化してしまった。しかし米国には大国同士の直接対決を回避できるシステムがない。ヨーロッパの動揺を鎮める手段がない。ヨーロッパはそれに気づきつつある。もはや戦場にいないのはアメリカ兵だけだ。

コ.我々はすでに第三次世界大戦に突入した 
どこからウクライナ問題はグローバル化したか。それは2015年以降ウクライナが「NATOの事実上の一員」となったときだ。ウクライナが①ロシアに敵対して武装化し、②NATO装備に切り替えて増強し始めたとき、すでにこの戦争は必然であった
ロシア製武器とアメリカ製武器がウクライナでぶつかっている状況を世界大戦と呼んでも当然ではないか

サ.「二〇世紀最大の地政学的大惨事」
多民族国家において民族自決と国民国家の統一は厄介な課題。西欧はユーゴでは民族自決を国家統一に優先させ、ウクライナでは国家統一を民族自決に優先させた。この二重基準は、結局、西欧の時々の利害が「民族と国家に関する原則」に優先することを意味する。この二重基準を糊塗するのが「人権と民主主義の」呪文である。

 シ.冷戦後の米露関係 
アメリカは新自由主義の押しつけでロシアを苦しめ、対ロ包囲網の形成で軍事的にも追い込んできた。要するにロシアを我慢の限界まで追い込んできた。

ス.戦争前の各国の思惑

セ.超大国は一つだけより二つ以上ある方がいい 

ソ.起きてしまった事態に皆が驚いた 
「皆が驚いた」と書いてあるが、実は驚いたのは西側諸国だ。彼らはロシアにケンカを仕掛けながら、ロシアが逆上してケンカを始めるとは予想していなかった。イジメと同じで相手を殴っても相手は殴り返さないと信じていた。
だからロシアが侵入してきたとき、米英の軍事顧問は脱兎のごとく逃げ出した。その後はウクライナ人民を「人間の盾」にしてイジメを続けている。


タ.米国の誤算 
ロシアは反撃しないだろうという誤算、ロシアにそれだけの力(経済力・軍事力)はないだろうという誤算、米国は西欧を支えきれるだろうという誤算。
特に軍事の面での
超音速ミサイルでのロシア優位、②米軍事力の中心である空母の対ロシア有用性、③最新鋭F35戦闘機の実際の戦闘能力への疑問などが列挙されている。

チ.ロシアにとっても予想外 
最大の誤算はヨーロッパ諸国の対決姿勢と、ウクライナの強力な抵抗

ツ.共同体家族のロシアと核家族のウクライナ 
これは東京人と大阪人の比較みたいな感じで、非本質的な分析だと思う。トッドのえらく断定的な言い方が気に障る。

テ.「国家」として存在していなかったウクライナ 
これについては多くの論者から指摘されており、とくに目新しいものはない。
東部はロシア語を使う
ギリシャ正教のロシア人、中部はギリシャ正教のウクライナ人、西部はカトリック系のウクライナ人という構成。西部はもともとはポーランド人の土地で、第二次大戦後にソ連が獲得した。

ト.「親EU派」とは「ネオナチ」 
トッドに言わせれば、「フランスの国民戦線が中道左派に見えるくらいの極右」である。西部を拠点とし、第二次大戦時にはナチの手先として大虐殺を実行した。

ナ.ネオナチと手を組んだヨーロッパ 
西側メディアは、ネオナチを「親EU派」と好意的に報道し続けた。マウロポリで住民を人間の盾にして工場に立て篭ったのは、「アゾフ旅団」を自称するネオナチ武装組織だった。

ニ.家族構造とイデオロギーの一致 
以下二からハまでは、トッド独特の家族論。コメントはしない。

ヌ.共産主義を生んだロシアの家族構造

ネ.家族構造の違いから生じたホロドモールの惨劇 

ノ.ボリシェヴィズムが初期から定着したラトビアの家族構造 

ハ.「ヨーロッパ最後の独裁者」を擁するベラルーシの家族構造 

ヒ.「近代化の波」は常にロシアからやって来た 
ベラルーシとウクライナはロシア帝国内の後進地域で、19世紀なかば以降、ロシアが帝国主義的発展を開始すると、遅れた封建的社会システムのままロシア帝国に包摂された。後進地域のまま辺境化され、封建地主制が維持され、ロシア国内における反動・反革命勢力の牙城となった。

フ.国家建設に成功したロシアと失敗したウクライナ
ソ連崩壊後、西欧諸国はウクライナの「安価で良質な労働力」を吸い取った。ウクライナは独立以来、700万人、人口の15%を失った。こうしてウクライナはすでに「破綻国家」となっていた。

へ.プーチンの誤算 
国内に残された人々は反ロシアで団結するようになり、西欧諸国は反ロシアにウクライナの存在意義を認めるようになった。
これはトッドの主張ですが、これだけでは一面的な気もします。

ホ.ロシアはすでに実質的に勝利している 
ロシアはすでにウクライナ国土の20~25%を確保した。ロシアの兵力・国力から見れはこれが精一杯であり、その意味ではロシアは勝利したと言える。
これがトッドの判断だが、国際法の常識からしてこのような勝利は承諾し難い。ただ肝心なことは「ロシアは敗退への一路を辿っているという西側報道はもはや信じがたい」ということだ。そのような前提に立っての解決策はナンセンスだということだ。

マ.西欧の誤算 
西欧の誤算というのは、ドイツ・フランスの誤算ということだ。誤算というのはロシアとウクライナをヨーロッパの一員と考えたからだ。
しかしそれらは
ヨーロッパではなく、旧ソ連という「旧国家」のメンバーだ。それらの政治発想はヨーロッパとは違うから、いざとなれば躊躇なく戦争を始めてしまう。トッドが言うヨーロッパ人とは英仏独を中心とする西欧人のことだ。
米国とイギリスはそれを知っていた。それがリアル・ポリティークだ。

このトッドの主張を100%受け入れることはできない。しかし米英両国と独仏領国の間に認識の差があって、それは米英両国の側に責任がありそうだという認識は共有できる。

ミ.欺瞞に満ちた西欧の「道徳的態度」
トッドは言う。
“ロシアの攻撃開始に際してロシアを糾弾するヨーロッパの「道徳的態度」は自然なリアクションだ。しかしその後にヨーロッパが起こしたアクションは無責任で欺瞞に満ちている

これはトッドにしては随分表面的だ。そのリアクションとその後のリアクションは茫然自失とその後の条件反射として理解すべきではないか。それが群集心理を伴って最悪の方向へと流れ込んだのではないか。だから見出しは「欺瞞に満ちた」ではなく「混乱と自己矛盾に満ちた」とすべきだろうと思う。


ム.オリガルヒへの制裁は無意味 
ここでトッドは胸のすくようなセリフを吐いている。
「ロシアの残忍さを糾弾し、プーチンとその取り巻きを戦争犯罪人として非難するのは、ヨーロッパ人の無力感がなせる業です。こうする以外に何もできないゆえに、「ロシアを悪とみなす」ことで、西欧の各国政府は自分たちの無力さと卑劣さを隠そうとしているのです。しかもこのような反応が戦争をさらに深刻化させ、和平を困難にしていることにすら気づいていません」


メ.「ロシア恐怖症」
ヨーロッパは、ヨーロッパという政治的・通貨的まとまりを無理に維持するために、「ロシア」という外敵を必要としている。ロシア人と言うだけで悪とみなされてしまう、反ユダヤ主義の現代版が拡散している。現在フランスでは、ロシア人の若者に対して銀行口座の開設を拒否することまで起きています。
このことをもっとも喜んでいるのはアメリカである。
これは部落民が、日本人であって日本人でない扱いを受けているのと共通する。あるいは在日韓国人が事事に差別されるのと似ている。


モ.暴力の連鎖 
現在、対話を拒否し戦闘継続を煽っているのはウクライナ
西側諸国は総力戦に持ち込めば勝てると思うから、対話を拒否し、消耗戦に引き込もうとしている。
その最大の手段は“鬼畜ロシア”への憎悪を掻き立てる「戦時の情報戦」である
憎しみの応酬により、ロシアの持つ負の側面を引き出してしまう

ヤ.「消耗戦」が始まる 
「西側諸国は総力戦に持ち込めば勝てる」のか
それは中国がどう動くかで変わってくる。しかし西側は中国がどう動くかを見極めていない。

ユ.中国はロシアを支援する 
しかし中国は必ず親ロシアで動く。なぜなら「次は中国だ」は、お互いに自明であるからだ

ヨ.米国と西側の経済は耐えられるのか
欧米と中ロが経済戦争を行えば、勝負は一時的には拮抗するだろう。
しかし西欧(とくに独仏)はその勝負を続ける体力はないだろう。
新興国や途上国はチキンレースを止めるよう、とりわけ欧米諸国にもとめるだろう

戦闘が始まったとき、「ロシアは持たないだろう、経済制裁に耐える力はないだろう」と言われた。
いまは逆の予想が支配的だ。「ヨーロッパは持つのだろうか。ヨーロッパは自己制裁しているだけではないのか」

ラ.経済の真の実力はGDPでは測れない 
西側が戦闘予測を読み間違えた理由はGDP至上主義にある。
この数十年でGDPはサービス経済と金融経済の指標となり、実体経済を反映しなくなった。


リ.ウクライナ相手に貿易赤字だった米国 

ル.経済における「バーチャル」と「リアル」の戦い 

レ.対露制裁で欧州は犠牲者に

対ロ制裁で最終的な犠牲者になるのはヨーロッパ自身である。なぜならヨーロッパはロシアとの相互依存関係の中で発展してきたからだ。
そしてヨーロッパとロシアの依存関係の発展を警戒し妨害してきたのが米国の基本戦略だ。


ロ.米国の戦略目標に二重に合致したウクライナ
アメリカの世界戦略の究極的な目標は、世界を非平和の状態に置き続けること。
アメリカの支配力は実体経済的にはすでに失われた。
世界の経済活動の中心はユーラシアにあり、アメリカはそれに寄生せざるを得ない状況
平和のための必要悪、「用心棒国家」としてのアメリカ
従って世界を軍事的に支配するだけでなく、世界が軍事的な強者の下に存在せざるを得ない仕組みの維持が必要
もし世界が平和的に維持されるようになれば、アメリカは“用済み”になってしまう。
“アメリカ軍が必要とされる状況を無理にでも持続させるために、アメリカはユーラシアにおける軍事的・戦略的緊張を維持する必要がある。「世界の不安定がアメリカ支配の必須の条件」である


ワ.NATOと日米安保の目的は日独の封じ込め 
”極論すればNATOや日米安保は、ドイツや日本という同盟国を守るためのものではない。それはアメリカの支配力を維持し、とくにドイツと日本という重要な保護領を維持するためなのである”
もう少し現実に即して言えば独仏同盟の絆を弱め、それにより米国依存を強めることが戦略目標となる。


ヲ.現実から乖離したゼレンスキー演説 

ン.エストニアとラトビアという例外 
“感情の波が一旦収まった時点で、アメリカと西欧の根本的な利害の違いが現れるだろう”
ドイツが戦争終結のために重要な役割を担うだろう。

あ.予測可能な国と予測不能な国 
ロシアの動きは予測可能だ。ウクライナ(とくに政府)の行動は軍事的合理性を欠いており、予測困難である

い.ポーランドの動きに注意せよ 

う.最も予測不能な米国

え.「ネオコン一家」ケーガン一族 

お.世界を ”戦場"に変える米国 
“世界一の軍事大国であるだけでなく、大きな島国のような存在で、どんな失敗をしても侵攻されるリスクがない”
ミダス王のごとく、触れるものすべてを戦場に変えてしまう。

か.米国の「危うさ」は日本にとって最大のリスク 

き.核を持つとは国家として自律すること 
ここは到底同意し得ない内容である。かつて70年代に日帝自立論と並んで一部で論じられたファッショ的自立論と類似である。
“日本の核保有は、むしろ地域の安定化につながるでしょう”を、ドイツに置き換えたらフランス人としてどう感じるか、伺いたいものである。

く.「核共有」も「核の傘」も幻想にすぎない 

け.米国に対する怒り 
ここで著者は実に率直に本心を吐露している。
“私は今怒っています。アメリカは私のヨーロッパで戦争を始めたからです。これによって、私のアメリカに対する敵意は絶対的なものになりました”


こ.西洋は「世界」の一部でしかない 
“西洋が世界を代表していると西洋自身はうぬぼれていますが、世界の大半の国は西洋の傲慢さにうんざりしています。むしろロシアの勝利を望んでいるようにも見えます。

さ.長期的に見て国益はどこにあるか
最悪の展開は、西側に追い込まれたロシアが中国と接近し、中国に軍事技術を提供することである。


2 「ウクライナ問題」をつくったのはロシアでなくEUだ

3 「ロシア恐怖症」は米国の衰退の現れだ

2と3は埋め草に用いられた旧出論考です。ここでは省略します。第4章は第1章より1ヶ月位後の文章です。そのせいか、かなり議論が深まっています。さすがに日本核武装論は影を潜めています。ファクトの収集傾向はAALAニューズ編集部とほぼ共通しているようです。


4 「ウクライナ戦争」の人類学

ア.第二次世界大戦より第一次世界大戦に似ている 
ドイツの新聞社が「このウクライナ戦争は第二次大戦よりも第一次大戦に似ている」との記事を載せたことに対して、トッドが感想を述べたもの。
トッドも第一次大戦に近いのではないかと言っているが、これは第一次大戦を西部戦線に限定して、しかも軍事的な側面からなぞった話なので、かなり荒っぽい議論になっている。
第一次大戦に似ているという感想は私も持っていて、①祖国防衛戦争と②帝国主義間の戦争という二側面を持った戦争だということ、同時に③軍事同盟間の戦争に諸国が巻き込まれる形で始まった戦争だということ、④我々は非同盟の視点とツィンメルワルド派の階級的視点を貫かなければならないこと、をあげた。(

そして戦いが長期化するにつれ、ますますその視点が重要であると痛感している。

イ.軍事面での予想外の事態 
ここでトッドはロシア軍が弱かったことが予想外だったとしているが、この文章が書かれた4月中旬ころにはそのような見方もあった。しかしそれは戦線膠着の主因ではないことがその後明らかになってきた。この視点からトッドは誤った結論を引き出している。ロシア軍は案外弱いから、西欧にとっても国際社会にとっても脅威ではないという評価である。ロシアはこの時点で国際社会の動きも見ながら、ミンスク合意型の決着に向けて戦略を大転換したのである。

ウ.経済面での予想外の事態 
ロシア経済には意外な耐久力があった。経済制裁を受けたらひとたまりもないという予想は外れた。
その結果、軍事面の意外な弱さと合わせて、戦争は長期化の様相を示し始めた。これも第一次大戦と似ている。


エ.正しかったミアシャイマーの指摘 

オ.ミアシャイマーへの反論 

カ.米国は戦争にさらにコミットする 
なぜなら、もしロシアが制裁に耐えて生き残れば、それはアメリカが世界に対する支配力を失うことを意味する。世界一の軍事力ではあっても、世界を支配する軍事力ではなくなる。
とくに経済制裁の失敗は、即、ドル支配体制の崩壊に導かれることになる。


キ.時代遅れの「戦車」と「空母」

ク.米国の戦略家の ”夢"を実現 

ケ.ポーランドの存在感 

コ.”真のNATO" に独仏は入っていない 
ドイツとフランスは真のNATOから外されている。ロシアの侵攻開始は知らされなかった。だから直前まで「ロシアとの交渉はまだ可能だ」と言っていた。
米英はウクライナ軍の装備増強に直接関わっていたから、ロシアがいつ脅威を感じ、どうすれば介入するかを把握していた。


サ.ウクライナの分割 
ロシアはすでにドンバス、クリミア、ヘルソンを確保した。米英はウクライナに闘い続けさせるが、奪い返すほどの援助は与えないだろう。
従ってウクライナの失地回復は不可能だろう。ウクライナ人の血は無意味に流され続ける。


シ.この戦争の“非道徳的な側面”
ウクライナはローマの剣闘士と同じだ。闘い続けるための援助はもらえるが、勝つほどの援助は与えられない。
ウクライナは独立以来、つねに破綻国家であった。独立以来、国民の8人に一人が国外に流出した。2月からはさらに4人に一人が祖国を離れた。
生きる道がないから雇い兵として生きる道を選んだ。女性が売春婦として生きるのと同じように。もし戦争が終わればこの国に住むウクライナ人はいなくなるだろう。


ス.ウクライナ西部のポーランド編入

セ.ウクライナ侵攻に対する各国の反応

ソ.家族構造における父権性の強度 

タ.人類学から見た世界の“安定性”
ウクライナ戦争以来、世界は無秩序に陥ったとされるが、そうではなく新しい秩序が生まれつつあるのかもしれない。民主主義と人権のみが度外れに強調される西側世界の秩序とは異なるものとなるだろう。

チ.「民主主義陣営VS専制主義陣営」という分類は無意味 
これについてトッドはいろいろ言っているが、あまり説得力はない。(気持は良くわかるが…)
私の考えでは
ロシア・中国を専制主義ということはできない。ただし①立憲主義・法治主義に基づく民主主義システムとは言えず、②それに起因して少数意見の尊重がないために権威主義的なシステムとなっている。
立憲主義の思想は、戦争法反対運動の中で日本の民主運動が獲得した大きな理論的成果である。


ツ.露中の「権威的民主主義」 

テ.ロシアと中国の違い 

ト.ロシアの女性とキリスト教 

ナ.現在の英米は「自由民主主義」とは呼べない 
アングロサクソンの自由民主主義には平等の観念がない。自由のために不平等は甘受すべきものと考えられる。今日のように極端な貧富の差が存在する下では、自由と人権はその反対物に転化する。

ニ.「リベラル寡頭制陣営VS権威的民主主義陣営」 
このような英米の民主主義のあり方はリベラル寡頭制と呼ぶのがふさわしい。ただし抵抗する権利は保障されている。

ヌ.日本・北欧・ドイツ 

ネ.リベラル寡頭制陣営の「民族主義的な傾向」 

ノ.権威的民主主義陣営の「生産力」に依存 

ハ.「高度な軍事技術」よりも「兵器の生産力」 

ヒ.米露の生産力 

フ.ヨーロッパ経済はインフレに耐えられるか
この半年間で明らかになったこと。ロシア経済は予想以上に安定し、西欧経済は予想以上に脆弱だ。

ルーブル変動



ッ.真の経済力は「エンジニア」で測られる 

ホ.本来、この戦争は簡単に避けられた 

マ.西洋社会が虚無から抜け出すための戦争 

ミ.第一次世界大戦は中産階級の集団的狂気 

ム.英国は病んでいる 

メ.「地政 = 精神分析学」が必要だ

 モ.なぜ中国よりもロシアが憎悪の対象になったのか 

ヤ.「反露感情」で経済的に自殺するドイツ? 
ドイツの未来は非常に不明瞭です。ドイツ企業の経営者たちはロシアからのエネルギー供給が途絶えることに不安を感じている。いっぽう、ドイツ国民は強い「反ロシア感情」にどっぷり浸かっている。

ユ.現時点では一歩引いた方がいい 

ヨ.マリウポリから脱出したフランス人の証言 
マリウポリの工場にウクライナ兵士が立て篭り、民間人も巻き添えとなった事件がありました。その時包囲を抜け出したフランス人がいて記者の質問にこう答えました。「私たちはマリウポリから脱出しようとしましたが、ウクライナ軍が私たちを阻止したのです」
これはウクライナ軍が民間人を「人間の盾」として利用したことを示す証言です。しかしその証言はそれ以上追求されませんでした。そのことを指摘するだけで、おそらく私は「親ロシア派」とみなされてしまうでしょう。

ラ.「ウクライナに兵器を送るべきだ」の冷酷さ 
「ウクライナに兵器を送るべきだ!」「ウクライナ人は最後の一人になるまで闘うべきだ!」などと声高に叫ぶことが、どれだけ冷酷なのかにすら気づいていません。
「もうこの戦争は終わらせなければならない!」「交渉するべきだ!」とは誰も言わないのです。
人々に理性を取り戻させることができるとすれば、それはひとえに「兵士の命の価値の高さ」に意識が向けられることによってでしょう。


リ.米国が”参戦国"として前面に 

ル.”軍事支援”でウクライナを破壊している米国
戦争が長期化すればするほど、多数のウクライナ人が犠牲となり、難民として国外に逃れ、ウクライナの建物や橋は破壊されて行きます。侵攻前にすでに「破綻国家」に近かったウクライナが、この戦争によってさらに破壊されていくのです。
要するにアメリカは“支援”することで、実はウクライナを破壊しているわけです。戦争が終わったとき、生き残ったウクライナ人たちはどう感じるのでしょうか。






Truthout
November 29, 2022
イーロン・マスクによって、
ウォーレンとサンダースは10万人のフォロワーを失った

Warren, Sanders Lost Over 100k Twitter Followers Each After Elon Musk Takeover


BY  Sharon Zhang, Truthout


10月下旬に右派の億万長者イーロン・マスクがTwitterを買収した。
それから数週間、最近の報道では、共和党の議員が数十万人のフォロワーをあらたに獲得し、一方で民主党議員のフォロワーがパージされた。

Twitter 右翼が復権し左翼が追放された

ワシントン・ポスト紙がProPublicaのデータを分析したところ、共和党のフォロワー数はほぼすべて増加していた。

@propublica


最大の勝者は白人民族主義者のマージョリー・テイラー・グリーン議員(ジョージア州)、次が極右議員のジム・ジョーダン(オハイオ州)で、ともにそれぞれ30万人以上のフォロワーを増やした。
テッド・クルーズ上院議員(テキサス州)とランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)はともに約20万人のフォロワーを獲得し、マット・ゲッツ下院議員(フロリダ州)は10万人以上のアカウントを獲得している。
一方、民主党のフォロワー数はHakeem Jeffries議員(ニューヨーク州)を除いて、すべて減少した。
最も大きな損失を被ったのは、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)とバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)のアカウントで、両者とも10万人以上のフォロワーを失っている。
「1月6日委員会」のアダム・シフ議員(カリフォルニア州)は、ケビン・マッカーシー下院「少数党」党首(カリフォルニア州選出)や、偽のソーシャルメディア投稿の標的になった。彼も約10万人のフォロワーを失っている。

この変化は、所属党派に沿ったものというより、イデオロギーの色合いに沿ったものだ。
最も右寄りの議員が最もフォロワーを増やし、最も左寄りの議員が最も減らしている。

ポスト紙は、これらは左派やリベラルなユーザー、がマスク時代を迎えて急速に逃げ出したことの象徴と指摘する。
一方、右派のユーザーは新たに参加し、より積極的になっている。

これは、マスクが左派のアカウントを意図的に追放している結果である。
反ファシスト活動家のチャド・ローダーや左派のCrimethInc.など、著名なアカウントを片っ端から禁止しているのも、その一因だろう。


マスクは極右の素顔をさらけ出す

この期間、マスクが右翼の一員であることが明らかになった。
彼は政治的に中立だと主張してきたが、中間選挙を前に共和党に投票するようフォロワーに呼びかけた。共和党への寄付を繰り返した。
また、ナンシー・ペロシ下院議長の夫への極右の襲撃などについて、危険な極右の陰謀論についてツイートしている。
マスクはさらに反労働者、反組合的な経営スタイルを宣伝し、人種差別反対などの運動に対する敵意を幹出しにしている。

マスクは、ドナルド・トランプ前大統領のツィッター復帰も示唆している。
2021年1月6日の国会議事堂襲撃事件前後に暴力を煽ったとして禁止された人物をである。

マスクはすでに他の極右の人物のアカウントを復活させている。
反トランスのヘイトスピーチで禁止されたジョーダン・ピーターソン、COVIDの偽情報と暴力的な言辞で抹消されたグリーンなどである。
他の極右の人物のアカウントも復活させる方向を明らかにしている。

つまりマスクは、Twitterを右翼的な宣伝手段にしようとしていると考えられる。


マスクの狙いはTwitterを極右の武器とすることだった

"マスクがTwitterを極右の強力な武器とするつもりなのは明らかだ。この新たな現実を無視することは、今や不可能だ"
MSNBCのコラムニスト、ジーシャン・アリームは先週の論説でこう書いている。
“彼は地球上で最も裕福な男として、そして高慢で強欲な経営者として、マスクは右翼の力を強めようと狙っている、

”彼は、労働組合への敵意を共和党と共有している。さらに企業や超富裕層への増税、企業に対する規制などに対する敵意を共有している。また、左派が政財界の大物を批判することを不快に思って、自分の権威に挑戦することを嫌っている”


この写真は国立民族歴史博物館のHPに掲載されていたもののコピーです。
1930年(昭和5年)の撮影とありますから、おそらくマンローがイヨマンテを撮影したときに、その合間に撮られたスナップかと思います。ひょっとすると撮影者自身がマンローかもしれません。
むかしの写真というとほとんどが緊張してしゃっちょこばっているのですが、この写真はふっと気が抜けたときの自然な表情が見事に切りとられています。

沙流川アイヌ 1930
とても鮮明な画像なので、画面上を左クリックして原寸で見てください。

染色体・遺伝子・DNA・ゲノム 統合年表
(旧題 ゲノム研究 年表)
は、
2022年11月まで3回の増補を重ねてきたが、結局全部まとめて1本にしてみないと、収まりがつかないようだ。
最大の問題はこれら4つの言葉がすべて多義的に使われ、それが素人を悩ませる原因になっていて、それらは納得して理解するためにはどうしても経時的な事実の把握、それらの意義について見ていかないとだめだということだ。
あまりにもたくさんの事実が提出されるので、つい端折ってしまいがちだが、そこを端折ってしまうと結局わからないままに終わってしまう。忘れてもいいから、一度は通読して流れを掌握して見る他ないと思う。
現在ではゲノムという言葉で一括される4種の概念には、一種の流れがある。それが染色体の時代、遺伝子の時代、DNAの時代、ゲノムの時代という4大区分だ。もちろん境目ははっきりしないし、並走する時期もあるが概念がそのように移ろっている
そんなことを頭に入れながら読み進んでいただきたい。



染色体の時代

1842 ネーゲリ、細胞分裂を初めて光学顕微鏡にて観察。核内に塩基性色素に染まる物質を発見。後にフレミングによりクロマチン(染色質)と呼ばれる。
1855 フィルヒョウ、細胞は既存の細胞の分裂によってのみ生じると主張。
1865
 メンデルがエンドウの交配実験を行い、結果について解釈。各遺伝形質(単位形質)に対応する遺伝因子が存在すると想定した。。
 遺伝を決めるものは、混じり合わない粒子である「遺伝子」概念の確定。
 遺伝子は優性と劣性に分かれ、それぞれが二つづつの対になっている。
 劣性遺伝の表現型は1代目では消失し、2代目で再現することがある。(分離の法則)
これは劣性遺伝子が、「隠されるが混じり合わない」ということを意味する。
メンデルは現チェコスロバキアのアウグスチン修道院の修道士。
1868 チャールズ・ダーウィンが形質遺伝に関する仮説「パンゲネーシス」を提起。細胞には自己増殖性の粒子である「gemmule」が含まれ、血管や道管を通して生殖細胞に集まり、それが遺伝すると考えた。ダーウィンはメンデルを一生知らずに終わった。
1869 スイスのフリードリッヒ・ミーシェル、細胞核中からリン酸塩を含む化学物質(ヌクライン)の抽出に成功。物質としては今日のDNAに相当する。当時彼はリンの貯蔵形態と考えた。
1882 ヴァルター・フレミング、ミトーシス(有糸分裂)の詳細を観察。核内の染色物質をクロマチン(染色質)と名付ける。

1883 ヴァイスマン、体細胞分裂と生殖細胞結合(有糸分裂)の違いを明らかにする。

1883 シンパー、緑色植物は葉緑素を含む生物と無色の生物との共生関係からできたと主張。

1888 ヴァルダイヤー、細胞分裂の際にクロマチンが凝縮し、棒状の塊を形成することを報告。染色体(クロモソーム)と名付ける。Chromosome とは「色のついたからだ」を示すギリシャ語。
染色体

図1 染色体

1900 ド・フリースら、埋もれていたメンデルの法則を発掘。国際医学界で再評価される。

1902 25歳の大学院生ウォルター・サットン(米)、バッタの生殖細胞で「染色体」を発見。生物が減数分裂すること、遺伝を決める因子が染色体上にあると主張Genetic Factor と名付ける。その後彼は研究から離れて外科医となる。
1908 コロンビア大学のトーマス・ハント・モーガンら、ショウジョウバエを用いた遺伝学研究を開始。
1911 ウィルヘルム・ヨハンセン、サットンの「染色体上の遺伝因子」をダーウィンのパンゲン にならい「gene」(遺伝子)と呼ぶことを提案する。
1920 モーガンら、
ショウジョウバエの染色体を研究。ユニークな方法で染色体上に多くのジーンが載っていることを証明する。染色体とジーンの関係についての議論が引き起こされる。
1920 ドイツの植物学者ハンス・ウィンクラーがゲノムなる言葉を造語する。後にウィンクラーはバリバリのナチスとなる。学的業績はとくにない。
ウィンクラーは、「ジーンと染色体を無理に分けずに複合体と仮定して議論を進めたほうが生産的」と主張したのではないか。であれば、
遺伝子(gene)+染色体(chromosome)という解釈が素直である。最近は「遺伝子・gene+総体・-ome」という解釈が広がっているが、それは現代の用法に惹きつけた解釈であろう。木原の「配偶子が持つ染色体セット」は西田幾多郎風の禅問答だ。

1921 染色体の本体をアミノ酸連鎖とするモデルが提起される。遺伝子はポリペプチドで、それをテトラヌクレオチドが保護しているとされる。(染色体の“本体とは要するにDNAのこと。ポリペプチドは多数のアミノ酸がペプチド結合によって連なった化合物をさす
後に染色体の意味は拡大解釈され、形態や細胞周期に関わらず、DNAとそれに結合するタンパク複合体一般を指すようになった。これを「広義の染色体」と呼ぶ。
「広義の染色体」においては、DNAがヒストン(タンパク)を巻き込むように存在する。これをヌクレオゾームという。これが連珠状に連なり、染色体を構成する。この場合はゲノムの枠には収まりきらない。この分野の学問がmultidisciplinary であるがゆえの宿命ですね。


遺伝子の時代
1922年 モーガンら、ショウジョウバエの4つの染色体上に座している50個の遺伝子の相対位置を決定。
1926 モーガン、『遺伝子説』を発表。遺伝子は染色体上に線状に配列する粒子であると主張する。

1928 J.Bellingらは太糸期染色体が染色小粒とそれをつなぐ糸状部分からなる数珠状構造を示すと発表。染色小粒や横縞が遺伝子に対応すると考えられる。

1928 グリフィス、肺炎連鎖球菌における形質転換現象を発見。遺伝情報が転移できることを示唆。
グリフィスは
有毒肺炎球菌を加熱して注射した。死滅した有毒菌は病原性を示さなかった。つぎにこれを生きた無毒菌と混ぜて注射すると、豚は肺炎を発症し死んだ。つまり生きた無毒菌の菌体内に有毒菌の遺伝子が入り込み菌を有毒化させたことになる。これを形質転換と呼ぶ。(遺伝子が耐熱性であることを証明した実験でもある)

グリフィス実験

1929 レヴィーン、核酸にはDNAとRNAの2種類あることを発見。
1930年 木原均、ヴィンクラーのゲノムに関する定義を検討、「生殖細胞に含まれる染色体のセット」とする。遺伝子の存在も確定しない時代の提起であり、有用性は疑問(「ゲノム分析」を参照のこと)。
1932  透過型電子顕微鏡(TEM)の製造が開始される。バクテリオファージT2などが観察されたが、染色法の開発が遅れたため、実用価値はあまりなかった。
1933年 モーガン、染色体説の確立によりノーベル生理学・医学賞を受賞。しかし一方で、遺伝子の実体は不明のままだった。
1934 カスパーソン、DNAは生体高分子であり、これとタンパクが結合して染色体を構成すると発表。ポリペプチドがDNAの本体であるとする「テトラヌクレオチド説」は否定される。
1936-37年頃 日本国内で、〈gene〉に対し,〈遺伝子〉という語をあてるようになる。
当時のジーンの常識に照らして、適切な訳語であったが、ジーンという単語そのものに「遺伝」というニュアンスはない。これが後にゲノム概念を導入するに際し混乱を生んだ可能性がある。
遺伝子は染色体上に線状に配列する粒子というモーガンの“モノ的理解”は当時の最高教義であったと理解すべきであろう。

1941 免疫蛍光法が開発される。細胞上で抗体に反応する特殊な部位の存在を示した。
1941 ビードルとタータム、1つの遺伝子が1つの酵素をコードしていると発表。48年、ホロヴィッツが「一遺伝子一酵素説」と名付ける。
1943 A. Claude、リボソームを単離する。

遺伝子の定義
ここで遺伝子の定義をまとめておきたい。その際
遺伝子は染色体上に線状に配列する粒子というモーガンの理解は、部分的には現在もなお有効なコンセプトだということを確認しておきたい。
ジーンはDNAの一部であると同時に、DNAに刻まれたタンパク生成情報である。そのことは推定されたが、その実体解明は分子生物学の発達に待たなくてはならなかった。その間に多くの作業仮説的な定義がなされ、概念はたびたび修正された。今日では以下のごとく総括される。
① 最狭義の定義:mRNA生成の情報を含む核酸配列上の特定の領域。これをシストロンと呼ぶ。シストロンのすべてがタンパク合成情報分野(エクソン)ではなく、イントロンという中敷きを挟んでいる。
② 上記に転写調節領域を含める場合もある。これをオペロンと呼ぶ。転写調節領域にはプロモーター、エンハンサーが含まれる。CDS、ORF、cistron などこの研究領域には重複名称が氾濫している。野球でいうシュート、シンカー、フォーク対ツーシーム、チェンジアップ、スプリットみたいなものだ。学会で率先してこれらを使用禁止にすべきだと思う。
③ もう少し広い定義:例えばタンパク合成のための各種RNA(tRNA、rRNA)もDNA情報として伝えられる。それらの領域も「狭義の遺伝子」に含まれる。これらは構造遺伝子(structural gene)と呼ばれる。
④ 通俗的定義:これらの分子生物学的な規定とは別に進化論や遺伝学の分野ではより幅広い用語として使用されることもある。従って誤解を避ける意味から、遺伝子という用語はもはやできるだけ避けるべきである。



DNAの時代(生化学への移行)

1944 アベリー(O.T. Avery)ら、肺炎双球菌の研究中に形質転換現象を確認。その後グリフィスの実験をさらに工夫。耐熱残存物の本体がDNAであることを証明した。これを『DNAが遺伝物質であることの実験的証明』として発表。遺伝子の正体がDNAかタンパク質かの論争に決着をつける。さらにDNAが遺伝する化学的物質であると示唆した。
さまざまなガイド記事に「遺伝子はDNAである」という記述が頻出する。どう見ても間違いだ。なぜそれがまかり通って来たのか? このときのアベリーの気持ちになってみれば意味がよく分かる。
遺伝子は染色体上に線状に配列する粒子ではなく、まさにDNAそのものだったのだ。しかしそれは謎に対する答えではなく、さらに大きな謎「なぜDNAが遺伝を担うのか」の入り口っだった。
1950 E. ChargaffDNAAT、およびGCの間が水素結合によって結ばれ二つのポリヌクレオチド鎖が向き合っていることを示唆した。

1952 F. Sanger ら、インシュリンの完全なアミノ酸配列を解明。これによりタンパク質がアミノ酸の連結したものであることが確定された。
1952 ハーシェイとチェイス、ファージ(DNAウイルス)が大腸菌に感染するに際し、核酸が菌体内に入ることを確認。DNAが遺伝子そのもの(の一部)であることを直接に確認する。
バクテリオファージ

1952 D.M. Brownら、DNA五炭糖、リン酸および塩基から成るヌクレオチドの連鎖体(ポリヌクレオチド)であることを証明。
核酸はポリヌクレオチドである。五炭糖にはD-リボースとデオキシ--リボースの2種があり、それぞれRNADNAとなる。塩基にはA,G,C,U,T5つがある

1953 J.D. Watson F.H.C. Crick2重らせん鎖から成るDNAの模型を提唱。

1956 コーンバーグによりDNAポリメラーゼが発見される。DNAポリメラーゼを用い、試験管内でヌクレオチドを重合することによりDNAを合成することに成功。大腸菌のDNAポリメラーゼは5種類、ヒトの細胞は約15種類ある。この発見により、DNAが元のDNAの鋳型から作られることが明らかになる。

1956 DNAが情報の担い手であることが明らかになったため、遺伝子領域に限らずDNAの全塩基配列を示す用語が必要になり、ゲノムが用いられるようになった。

1956 タバコモザイクウイルスRNAに関する研究。化学的には純粋な核酸であるが、感染力があり、遺伝的能力をもつことが証明される。

1958 CrickmRNA翻訳の際、アミノ酸がヌクレオチドを含むアダプター分子によって鋳型に運ばれること、アダプターがmRNAと相補していることを示唆し、 tRNAtransfer:運び屋) の存在を予言する。

1958 クリックがセントラルドグマCentral dogma)を提唱。遺伝子は(世代継承ではなく)タンパクを作るための情報として位置づけられる。

1959 リボソームがタンパク質合成の起こる場であることが証明される。リボゾームは粗面小胞体の膜の表面に付着した小さな顆粒。細胞1個には約2万個のリボゾーム粒子が存在する。分裂の盛んな胎生期の未分化細胞には遊離のリボゾームが多い。

1959 E. FreeseDNAの一対の塩基対の変化により突然変異が起こると提唱。トランジション(塩基転位)およびトランスバージョン(塩基転換)と名付ける。

1960 DNAの二重鎖が分離・再結合することが発見される。

1960 核酸塩基の一つアデニンが、青酸アンモニウムの濃縮溶液から生成される。
1961 JacobMonod、遺伝子発現の制御機構について論究、タンパク合成をコードする遺伝子の他に、合成過程を調整する遺伝子(オペロン)が存在すると主張。オペロン説と呼ばれる。
1961 Crickら、遺伝暗号(コドン)の解読。アミノ酸20 種類の情報をつたえる遺伝子が三連文字(triplet)であることを示す。
 mRNAの塩基配列をコドンという。つのアミノ酸は mRNA の連続した塩基 3  1 組の配列によって規定され、この 3  1 組の塩基配列をコドンと呼ぶ。従って、コドンは 43 = 64 種類存在する。
転写と翻訳

1962年 ツメガエルで卵に細胞核を移植し、クローン作成に成功。

1962 リンパ球にT細胞とB細胞の差があることが発見される。。

1962 Watson and CrickDNAの構造に関する研究により、ノーベル医学生理学賞を受賞。

1962 葉緑体がDNAをもっていることを発見。2年後にはミトコンドリアからも独自のDNAが単離される。(後に葉緑体は多細胞生物内に共生するシアノバクテリアであることが明らかになる)

1965 ヒトの二倍体細胞の in vitro の寿命は、およそ50回分裂までで終了することが発見される。

1965 S. Brennerら、ポリペプチドの末端を指示する暗号(コドン)はUAGUAAであると推論。
1966  遺伝暗号の仕組みが解明される。A・G・C・Tの4種類の塩基のうち3つを使った“3文字言葉”(コドン)によって、アミノ酸の種類を指令する。

1966 脊椎動物のDNAは多くの反復ヌクレオチド配列を含むことがわかる。

1966 tRNAが、リボソーム上でのポリペチド鎖形成の起点となっていることが発見。

リボゾーム
リボゾームは、tRNAを呼び込み、結合する。そのtRNAは三塩基に対応するアミノ酸と結合している。そうするとtRNAの体側にアミノ酸の連鎖が形成されていく

1967 羊水穿刺を行い、そこから得られる胎児の細胞で、遺伝病を診断できることが報告。

1967 mRNAが両側のDNA鎖から生じることが明らかになる。

1968 Okazakiら、新しく合成されたDNAは多数の断片を含む。これらは、短鎖DNAとして合成された後、互いに連結される。

1968 Hubermanら、哺乳類の染色体は、おのおの長さ30μmの単位より成り、独立して複製されることを明らかにする。

1970 酵母のアラニンtRNA遺伝子の全長の合成に成功。

1970 M. Mandelら、塩化カルシウム処理した大腸菌の細胞内にファージDNAを導入することに成功。トランスフェクションと呼ばれる。
1970 制限酵素 HindIIIが分離される。DNAの配列の近くでDNAを特異的に切断する酵素。翌年には
HindIIIを使ってDNAを切断、断片化し、DNA断片の物理的配列を組み立てることに成功。

1972 ベクターDNA分子と外来DNA断片の末端に、ホモポリマーを付加する事によって、DNA分子を結合する方法が開発される。
1972 ユーグレナの葉緑体DNAが、シアノバクテリアのリボソームRNAと相同性を示すことを発見、葉緑体がシアノバクテリアの子孫であることを示した。
1973 ショウジョウバエの翅の成虫原基で、発生過程に従った区画化が起こることが発見される。

1974 RNAレプリカーゼの存在下で、ヌクレオチド・モノマーからRNAが生成することを発見。別の研究でRNARNAレプリカーゼの存在なしでも複製することができること、このとき亜鉛が複製過程を補助することが示された。

1974 大腸菌rRNA3'末端にmRNA上のタンパク質合成の停止と開始コドンが存在することが判明。

1974 熱ショックにより、ショウジョウバエに6種の新しいタンパク質が合成されることが報告される。

1974 酵母ミトコンドリアでゲノムの組換えと分離が起きることが明らかとなる。両親由来のmtDNAが他方と対合し、組換え体を生じる。

1975 サンガー、DNAの塩基配列決定法を確立。DNAシークエンシング法と言われる。DNAポリメラーゼを用いて、 DNAに結合したプライマーからDNA合成を行わせる。これにより塩基配列を決定する。(方法は読んでもさっぱりわからないので省略)

1975 分子生物学者が世界中からカリフォルニア州アシロマに集まり、組換えDNA実験を行うにあたっての研究指針を定めた歴史的規定書を作成した。NIHの組換えDNA委員会は、組換えDNA研究に伴う潜在的危険性を排除することを目的とした指針を発表。
1976 ヒト成長ホルモン遺伝子を大腸菌の中で発現させることに成功。
1976 遺伝子工学のGenentech会社が設立される。
1977 アデノウイルス-2DNA断片から、多種類のmRNAが合成されることが報告。現場でさまざまな組み合わせの選択的スプライシングが起きていると判断される
1977 サンガーら、シークエンシング法を用いて PhiX174ウィルスの全塩基配列を解析し、全ゲノムを確定した。

1977 哺乳動物のインスリン、インターフェロンを大腸菌で合成させることに成功。翌年にはインシュリンの商業生産が開始される。
1977 前駆体mRNA中に、タンパク質をコードしない介在配列(イントロン)が存在していることが報告される。その後、遺伝子領域にも介在配列の存在が報告された。

遺伝子の基本構造
とりあえずこれ以上の説明は避けるが、CDSとORFはほぼ同義と考えてよい。遺伝子(gene)もシストロン(cistron)もほぼ同義である」そうである(大阪医大細菌学教室)。
遺伝子配列のうち遺伝情報がコードされている部分をエクソン(翻訳配列)といい、遺伝情報がコードされていない部分をイントロン(介在配列)という。mRNA前駆体(最上列)はスプライシング(編集)によって長さが縮小され完成型mRNAとなる。

( splicing: ある直鎖状ポリマーから一部分を取り除き、残りの部分を結合すること。映画作成における編集作業もスプライシングと呼ばれる)

1977 ノーザン・プロッティング法が開発される。

1978 カン、DNA解析を用い鎌状赤血球症の出生前診断に成功。

ゲノムの時代(全ゲノム解読)

1978 バーンスタイン、制限酵素によって切断されたDNA断片の再マッピングにより、全ゲノムの解析が可能だと主張する。
1978 R.M. Schwartzら、原核生物、真核生物、ミトコンドリア、葉緑体に由来するさまざまな、タンパク質と核酸の配列データを比較。コンピュータ解析によって進化の系統樹を作成する。これにより真核生物が、ミトコンドリアや葉緑体と共生し始めた年代を、それぞれ二億年および一億年前と決定した。
1978  W. Gilbert、イントロンおよびエクソンという用語を提唱。

1978 T. Maniatisら、遺伝子の単離法を開発。真核生物DNAの遺伝子ライブラリー作成に着手。

1978 D.J. Finneganら、ショウジョウバエのゲノム上に散在している反復DNAの詳細な解析を行う。

1980 米国最高裁判所は、遺伝学的に修飾された微生物の特許を法制化。これに基づきGE社は石油の油膜を分解する微生物の特許を取得。

1980 受精卵にクローン化した遺伝子を直接注入することで、初めてトランスジェニックマウスの作成に成功。

1980 DNAマーカーを利用した遺伝子マッピング法が開発される。さらに核酸プローブを利用して遺伝子を染色体上に正確に同定することも可能になる。

1981 ヒトミトコンドリアの全ゲノム配列(17,000塩基)と遺伝子構造が決定される。
1981 L. Margulis、「ミトコンドリア、葉緑体などは、真核生物の祖先に共生体として組み込まれた原核生物である」と提唱。
1981 bhGHの臨床験がはじまる。1976にはGH遺伝子を79年にはhGH遺伝子を、大腸菌の中で発現させることに成功していたが、生物学的活性を発現させるための工夫が必要であった。

1981 ラウス肉腫ウイルスの腫瘍化を起こす性質は、v-src 遺伝子によってコードされていることを示した。

1982 Eli Lilly 社、組換えDNA技術を用いて製造したヒトインシュリンを販売開始。

ゲノムの時代
ここから先は書いていることの半分も分からない。

1982 米国生物工学情報センターによる塩基配列のデータベース(GenBank)の作製が始まる。日本DNAデータバンク(DDB)もプロジェクトに参加。

1983 ガゼラ、DNAのポジショナル・クローニングによりハンチントン病の遺伝子主座が第4染色体のG8領域にあることを発見。CpGアイランドと名付ける。その後この部分に塩基配列の過誤が発見される。
1983 SV40のがん遺伝子、v-sisは、血小板由来増殖因子(PDGF)  遺伝子に由来することが分かる。
1984年 ヒトゲノム計画が最初に提案される。ヒトゲノムの塩基配列の解読を目的とする。

1984 パルスフィールド電気泳動が導入される。大きなゲノム断片を分離することが可能になる。
1984 ショウジョウバエのホメオティック遺伝子におけるホメオボックス配列が、マウスにも存在することを示した。この事実はDNA断片の基本的な機能の重要性を示す。
1985 Randallら、遺伝子断片を増幅させるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を応用。DNAの大量複製によりDNAの同定、鑑別が可能になる。
1985 "普遍暗号"では終止コドンに相当するものが、ある種の線虫や細菌では、アミノ酸をコードしている(使いまわし)。
この事もふくめ、遺伝情報コドンは普遍であるという考えが放棄された。検索対象を「遺伝子」に絞ることは明らかに無意味となった。

1986 螢光シークエンサーの開発。塩基を蛍光物質でラベルしレーザー光で検出するもの。オートラジオグラフィー操作が不要となり、速度が数百倍に向上。全自動かつ高速の検出装置が普及しゲノム解読の自動化と効率化がすすむ。

1986 がんウイルスの研究者レナート・ダルベッコ,サイエンス誌に「ヒトゲノム解析計画」への支持を表明。「個々の遺伝子をばらばらに研究するのではなく,ヒトのゲノム全体を研究することが必要だ。そのためにヒトゲノムの配列を全部決定するのが早道」と提唱。
新しいゲノム概念はコーディング領域(遺伝子領域)とノンコーディング領域に分けられる。ノンコーディング領域は、当初はジャンクDNAと呼ばれていた。現在は遺伝子発現調節情報、RNA遺伝子などが発見され、未解明の生体情報が含まれることが明らかになっている。

1987 酵母人工染色体(YAC)が開発される。これを用いてゲノム断片をクローニング(塩基配列決定)することが可能になる。
1987 ミトコンドリアDNAについて塩基配列の相違を比較した。構築された系統樹によると、現存するすべてのミトコンドリアDNAは、原史のアフリカ女性「イブ」を共通祖先としていることが示された。
1988 電気泳動をゲル状ではなく細管内で行うマルチキャピラリシステムが開発される。これを組み込んだDNAシークエンサーは泳動のための準備が不要で、無人で24時間稼働させることが可能となる。

1988 アメリカでヒトゲノムプロジェクトが正式に発足。この時点で約400種の遺伝子の位置が判明していた。
1988 ハーバード大学が、実験的発癌マウスに対する特許を取得。遺伝的に改変した動物に対して、初めて特許が認められる。

1989 ヒトゲノム計画の国際連携を図るため、日米欧の研究者によりヒトゲノム国際機構(HUGO)が設立される。

1989 マイクロサテライトマーカーが発見される。これによりゲノムマッピングのためのDNAマーカーが容易に入手可能となる。
1990 ヒトゲノム解析プロジェクトの開始。当初は30億ドルの費用と15年の年月が予想された。

1990 ヒトで初めて遺伝子治療に成功。欠損酵素を持つレトロウイルスのベクターを培養し、形質転換細胞を患者に再注入。細胞は増殖し欠損酵素を産生した。

1990 D. Malkinら、ヒトのすべてのガンの50%p53変異があることを明らかにした。また野生型p53遺伝子がヒトのガン細胞の増殖を抑えることを示し た。
1991 遺伝子データベースのコンピュータによる運用が開始される。この頃多くの疾患関連遺伝子が同定される。
1991 ヒトゲノムプロジェクト(ヒトゲノムの塩基配列の解読作業)が始まる。

1991 日本・欧州を中心に枯草菌のゲノム解析が始まる。6年後に420万塩基対の解読を完了。

1994 フランスのヒト多型研究所、完全なヒトゲノムマップを作成したと報告する。ヒトゲノムの全体を網羅する「物理地図」がほぼ完成,文字配列の解読が詰めの段階に入る。
1994 ベンターら、独自の方式で3万以上のヒト遺伝子を同定。「ネイチャー」誌に発表する。

1995 米国のクレグ・ヴェンターら、全ゲノムショットガン法により、180万塩基からなるインフルエンザ菌ゲノムの解読に成功。あらゆる生物で初めて全ゲノム配列が確定される。その後大腸菌や枯草菌など10種類以上の細菌でも解明される。

1995 核酸プローブの高密度アレイを利用するDNAチップが登場。膨大な遺伝子を同時かつ系統的に解析することが可能になる。

1996 単細胞の出芽酵母のゲノム配列が決定される。

1995 インフルエンザ菌の全塩基配列を完成。引き続きマイコプラズマも。

1996 古生物Methancoccus Jannaschiiのゲノム解析。ほとんどの遺伝子は、他の生物と共通していなかった。

1996 ホメオボックス蛋白は、特定のmRNAの標的配列に結合して、翻訳をコントロールすることが示される。

1997 ユネスコ,「ヒトゲノムおよび人権に関する世界宣言」を採択。ゲノム研究で得られた知識の扱いについて倫理的な問題が浮上する。

1998 多細胞生物として初めて線虫の全ゲノム配列が発表される。単細胞から多細胞への進化の謎にアプローチ可能となる。また受精卵から個体へという動物の個体発生についても手がかりとなる。
1997 クローン羊ドリー誕生

1998 ベンター,全ゲノムショットガンで12000万塩基からなるショウジョウバエゲノムの全ゲノムを解読。新型のDNAアナライザー「ABI PRISM3700」が導入され、飛躍的に解析がスピードアップされる。
1998 ベンターが「セレラ・ジェノミクス」社を設立。人の全ゲノムを3年以内に、3億ドル以下で解読すると宣言。

1998 結核菌の全ゲノム配列が決定される。遺伝子の総数は約4000個で,その8割以上についての機能も予測される。

1999 ヴェンターら、ヒトゲノムの塩基配列を、全ゲノムショットガン法で読みとる作業を開始。まもなくヒトの第22番染色体のゲノムが解明された。翌年には第21番染色体のゲノムも解明。

2000年6月26日 クリントン大統領が記者会見。ドラフト配列の解読を終了したと宣言。実際はNIHはまだ90%段階に留まっていた。

2000 リボソームの構造解析。

2001 ヒトゲノムの全解読結果の「第1予稿」(ドラフト)がネイチャー誌に発表される。この時ベンターは99%成功していたという。

2003年4月14日 ヒトゲノム30億塩基対の解読完了が宣言される。この時点でのヒトの遺伝子数の推定値は3万2615個。

2003 ヴェンターら、大腸菌のDNA合成機構を利用して、ウイルスのDNA断片をつなぎ合わせ完全なゲノムを合成することに成功。
2004 ヒトの遺伝子数の推定値が2万2287個に訂正。以降も定期的に修正報告がなされている。

2005 次世代型シークエンサーの普及。
2006 マウスiPS細胞の樹立(山中伸弥)

2007 酵母菌を利用してDNAの断片をつなぎ合わせて、マイコプラズマ・ジェニタリウムという細菌のゲノムを構築することに成功。
2010 人工ゲノムの細菌への導入に成功。初の合成生命が誕生する。
遺伝子操作はゲノム解読の技術と情報をもとに進められている。操作には次の3つの柱がある。
①クローニング:対象遺伝子を担うDNAを増殖する
②シークエンシング:遺伝子の配列を読む
③過剰発現:解読した遺伝子をタンパク質に翻訳する

2012 シャルパンティエら、ゲノム編集の技術「CRISPER/Cas9」システムを開発。

2015 第3世代型シークエサ-の普及。これにより主要な生物種のゲノム解読はほぼ終了。

2015 中国で「ゲノム編集ツール」を使ってヒト胚のDNAを改変する研究が行われる。ネイチャー誌は「非倫理的研究だ」として厳しく警告。

ゲノム編集: これはDNAの二本鎖切断(DSBs)と、その修復という二つの過程よりなる。標的へのターゲティングとDNA切断にはCRISPR-Cas あるいはTALENが用いられる。修復には二つのパスがあり、相同性組換え(HR)あるいは非相同性末端結合(NHEJ)と呼ばれる。 非相同性末端結合においては、いやおうなく欠損が生じるため、対象となった不良遺伝子はノックアウトされる。

2022 ヒトゲノム完全解読
ヒトDNAの内訳


参照文献

遺伝学電子博物館のサイトから遺伝学年表




Venezuelanalysis.com
Nov 13th 2022

https://venezuelanalysis.com/analysis/15645

出国したベネズエラ人: 経済制裁とメディア操作に抗して

By Andreína Chávez Alava 

ベネズエラの出国者の波は、2017年、ワシントンが石油産業に対する金融制裁を行い、経済危機を悪化させたときから拡大し始めた。ベネズエラの移民を取り巻く厳しい現実と、メディアのプロパガンダの実態を、アンドレイナ・チャベス記者が実体験をもとに考察する。

以下本文

Ⅰ.出国というおこない

A) アメリカ政府による経済制裁

*出国は、ベネズエラの人々がアメリカの封鎖に抵抗するための数多くの英雄的方法の一つとなっています。私の家族も、ワシントンの経済テロで生活環境がますます悪化したため、出国しました。
私の家族のように、異国の地で新たなチャンスを求めて出国した話は、決して特殊なものではありません。
 近年、米国の制裁による無数の苦難から逃れるために、多くのベネズエラ人が故郷を離れています。
この制裁という非軍事的な手段は、政権にとって致命的なほどに打撃を与えます。さらに国民全体に苦痛を与え、政府転覆に立ち上がるよう仕向けています。

*オバマが2015年に「異常で並外れた脅威」という大号令を与えて制裁の地盤を築きました。
そして2017年に、トランプ大統領がベネズエラに対する「最大限の圧力」キャンペーンを開始しました。
そしていまもバイデン政権は殺人的なトーチを掲げ続けています。

*ベネズエラは2014年の原油価格の暴落ですでに経済危機に陥っていました。それが経済制裁によって悪化し、可能な限りの解決策が封じ込まれました。
5年前からは、主要な対外収入源である原油をはじめ、金などの鉱物資源の輸出が禁止されました。
2020年には原油生産量が歴史的な低水準に落込み、ガソリンやディーゼルの不足が国を襲い、生産者に大きな影響を与えました。

*米国と欧州諸国は、ベネズエラが海外に所有する数十億ドル相当の企業、資金、金準備を押収し、凍結しています。
また、食料、医薬品、医療機器、さらに水・電気・医療などのインフラを維持するために必要な物資を輸入を妨げています。
米国の金融システムでの取引も禁止されています。こうしてベネズエラは世界市場から実質的に排除されているのです。

*CLAPと呼ばれる政府補助の食糧配給計画さえ制裁の対象となりました。それは約700万世帯に基本的な食料を供給するものです。
ベネズエラは石油と引き換えに、食糧や医薬品、燃料を手に入れることができたのですが、トランプ前政権は、現物スワップ取引の停止にまで踏み切りました。

*一言で言えば、アメリカは何万人ものベネズエラ人を処刑し、前代未聞の出国の波を引き起こし、残った国民を人質にして集団罰を与えているのです。


B) 出国=海外移住。私たちの家族の場合

*出国は最初の経済制裁が行われた2017年に増え始めました。それは偶然ではありません。
ベネズエラの人権団体SURESの報告書によると、その後の5年間で約540万人が出国しています。国連は出国者数を710万人と推定しています。

*私の家族の場合は、母がエクアドル生まれということもあり、エクアドルを出国先に選びました。
ベネズエラからの出国は、コロンビア、チリ、ペルー、パナマ、アルゼンチンにも定住しています。
最近は、米国も数は少ないが重要な目的地となっています。

*私の家族の期待は単純なものでした。
それは、自分たちや子どもたちが住み、食べ、着ることができ、学校に通うことができるような、まともな賃金のある仕事です。
幸運なことに、私たちはそのすべてを実現し、さらに夢や目標を広げることができました。

*2017年6月、最初に下の姉が、夫と二人の子どもとともに出国しました。
彼女は、私たち兄弟と同様、スリア州西部の労働者地域に住んでいました。
そこでは燃料不足で公共交通機関が壊滅的な打撃を受け、ディーゼル発電所がほぼ麻痺し、電力危機に拍車をかけました。

*その夜、彼女たちは慌てて出発しました。
それは当時、ベネズエラでは激しい反対デモで混乱していたからです。コロンビアとの国境が無期限に閉鎖されるとの報道もありました。
コロンビア政府がベネズエラへの食料、燃料、現金の輸送を阻止しようとしていたからです。
それらは反対派の不安定化戦略で、ベネズエラに生活物資と現金の不足をもたらすのが狙いでした。

*「私たちは抜け道を通ってコロンビアに入りました。みんな大変だったけど、もうチャンスはないと思っていました」と彼女は語っています。彼女にとって、それは生きるか死ぬかの問題のように感じられました。たしかにそうかもしれません。

*彼女は言います。「出国前、補助金付きの食料を買うために延々と行列に並びました、だからといって買える保証はありませんでした。もしそれがだめなら、目玉のドビ出るような値段の闇物資しかありません。そんなことはとても無理でした」

*私の両親は、2018年初め、30年以上住んだ家を出て国を離れました。
父母とも年金生活でしたが、父は食料や必需品を賄うために仕事に復帰していました。
 両親の旅立ちはショックでしたが、私は正直言ってほっとしました。私の稼ぎでは両親を助けることができなかったからです。

*父は言いました。「出国なんて考えたこともなかったよ。でもしかたなかった。食べ物は手に入らないし、インフレで年金も減ってしまった」


C) ハイパーインフレと生活破壊

*2018年、ベネズエラは超ハイパーインフレに見舞われました。
その年、物価上昇は13万パーセントに達し、人々の購買力を押しつぶしました。
それが、彼らが出国を余儀なくされた主な理由の一つです。
インフレの大きな原動力となったのは通貨投機でした。ベネズエラの通貨「ボリーバル」は連日売られ続けました。

*このハイパーインフレはさらに進行しました。その中で次に旅立ったのが兄でした。兄は2019年3月、妻、子供2人、義妹を伴って出国しました。
この頃は、ただでさえ疲弊している公共インフラが、テロの標的にされている厳しい時期でした。

*1週間にわたる全国的な停電がありました。その影響で、兄の収入源である商業活動も含め、国中の活動がストップしてしまいました。
当局の発表によると、停電の原因は、主要発電所であるグリのダムに対してサイバー攻撃が仕掛けられたためです。攻撃の出元はヒューストンとシカゴからのものでした。
その5日後、兄は国を離れました。電力網はいまも全く回復していません。

*兄は言いました。
「停電は最後の決定打だった。もうこれ以上恐怖の中で生活するのはやめよう。インフレで貯金が全部なくなってしまった。一日一食しか食べられない友人もいた。自分の家族がそうなるのを待つわけにはいかないだろう」
兄は私にそう言いました。

*2021年に国連の人権専門家アレナ・ドゥハンがベネズエラを訪問し、長文の報告書を発表しています。
その中で彼女は次のように強調しています。
「制裁によって悪化した石油収入の落ち込みが、食糧危機と栄養不良を誘発した」

*もう一人の姉、長女ですが、ずっと出国に抵抗していました。
ある日突然、彼女は出国を決意しました。
「家族を再会させ、日々の苦難から解放されるときが来た」と感じたからです。
2019年7月、彼女もエクアドルへ渡りました。

*彼女の夫は2017年末に国を出ており、毎月の送金で2人の子どもを食べさせていました。
しかし、毎日の停電に加え、深刻な調理用ガスの不足にはどうすることもできませんでした。
それは米国の制裁で生産が妨げられたためです。そして米国がLPGの輸入を厳しく制限しているためです。
ベネズエラのかなりの人たちは、薪で調理をしなければなりませんでした。

*妹はコロンビアと国境を接するタチラ州の小さな町にある障害児学校のソーシャルワーカーとして働いていたときのことを懐かしく思っています。
エクアドルに3年間滞在しましたが、今はベネズエラに戻るため、そして望むらくは元の学校に戻るためのお金を貯めようとしています。
彼女は「ベネズエラに帰ることを毎日考えている」と、いつも私に話してくれます。


D) 出国者の「帰還」の動き

*実際、最近になって多くのベネズエラ人が帰国しています。
2021年末には私の兄とその家族も戻ってきました。兄は出国先である程度の貯蓄を築き、ベネズエラの緩やかな経済回復に励まされ、帰国を決意しました。
帰国後は中古車を購入し、小さなビジネスを始めました。

*SURESによると、帰還の流れは2018年から2019年にかけて始まりました。これまでの帰国者の数は、正規と非正規を合わせて50万人から75万人です。
帰還者の数は、コロナが中南米の国々で社会的危機を悪化させた2020年以降に急速に加速しました。
ベネズエラ政府の「祖国への帰還」支援計画は、これまでに31,000人以上の帰還を支援しています。

*「出国した人々が戻ってきた」という話や、「米国の経済テロがベネズエラ人の国外流出の主な理由である」というような話にびっくりしたかもしれません。
それは世界的なメディアで読んだり見たりしてきたものとはかけ離れているかからです。
メディアの描く世界では、制裁などというものは存在しません。あるとしても、それはまるで魔法のように、ベネズエラ政府の権力者のみに作用するものとして描かれているからです。
帰還した人々の実情は、「ベネズエラ政府が人権侵害の権威主義的社会主義を強制し、市民が必死の思いで逃げ出した」というメディアの物語にまったく似合わないのです。

*出国者たちは、それまでの独裁政権下でもう一度暮らすために戻ってくるのでしょうか?
それとも、ベネズエラの労働者階級は、単にアメリカの制裁による厳しい経済状況のために一時避難せざるを得なかっただけなのでしょうか?

*帰国者の数は、数年の間に日々増え続けています。
出て行った人の数には及ばないかもしれないが、現実には、多くの人が戻って来ています。
なぜなら、ベネズエラは原油価格の上昇を中心に緩やかな景気回復を続けているからです。
事実上のドル化などいくつかの変則的施策によって、緩やかな経済回復を遂げています。

*制裁がまだ続いています。危機はまだ終わっているとは言えません。
とはいえ、インフレはすえに後退しました。国際機関によるベネズエラの2022年の成長率は5~20%と予測されています。

*しかし、ベネズエラの経済はまだ十分な包容力を獲得したとは言えません。そのことを心に留めておく必要があります。
海外にいる多くの人々が、最初の出国国で安定した生活を実現できませんでした。そのために故国ではなく2度目の居住地への旅を選んでいることも忘れてはなりません。
SURESの調査によると、海外にいる50万人のベネズエラ人が二度目の出国を経験しています。それは彼らの権利であり、正当な選択です。


E) 西側メディアは何を報道し、何を報道しないのか

*西側企業のメディアは正直に報道することには関心がありません。彼らはワシントンの命令をうけて、政権転覆の宣伝を広げることに余念がありません。
最近、これらの報道機関は、誤解を広げるような宣伝のために、新しい切り口を見つけました。

*米出国局のデータによると、ベネズエラから国外に出国した276万人のうち15万人のベネズエラ人が、この1年の間に南西部の国境に到着しました。この数は全体の5.43%に過ぎません。
一方、パナマ当局が登録した範囲で13万3千人のベネズエラ人がダリエン地峡に集結しています。彼らはいずれも第三国に出国した後にパナマに集まってきました。
ダリエン地峡はパナマ地峡より幅が狭いのですが、人を寄せ付けないジャングル地帯です。
その規模や、危険や困難は、決して中途半端なものではありませんし、無視できるものでもありません。
しかし、メディアが描くような大規模な人類的な悲劇とは程遠いものです。メディアは政治的な主張を広げるするために人々の苦しみを利用しているのです。

*メディアはベネズエラ人「難民」についてハリウッド的な状況を演出してもいます。
白昼、メキシコとアメリカの国境の川リオ・ブラボーを横断する、ベネズエラ人出国たちのドラマチックな写真やビデオを見忘れた人などいるでしょうか。
彼らは高価な服を着て、まるでそこに降り立ったかのように見えます。
若い男性が勇ましく川に飛び込んで、年配の女性を救い出す姿は話題になったものです。
しかし後に、彼が中南米のビザを頻繁に取得しているアメリカ人であることが判明しました。

*人権団体SURESは4部構成の報告書の中で、このような奇妙な状況を巧みに説明しています。
「メディアは、実際の出国の物語を覆い隠し、結果として、危険で脆弱な状況にある人々への具体的な援助を妨げてきただけだ」

*現在進行中のメディア・サーカスの動機の一つは、「悲惨なベネズエラ人」が儲かるビジネスになっていることです。
NGO複合体、国内野党勢力、政治家、そして各国の右派政府は、何百万ドルもの "救済資金 "を確保するために、出国者の話題を切れ味鋭く取り上げるのです。

*SURESによると、2021年1月まで、ワシントンは "ベネズエラ危機への対応 "として、ラテンアメリカ諸国に12億ドルを送りました。
コロンビアだけでも2017年から2020年の間に9.5億ドルを受け取っています。2022年9月、アメリカ政府は3億7600万ドルの追加を発表しました。

*これらの資金の管理は透明性が全くありません。受給者がベネズエラ人出国に効果的な支援を行った形跡は見当たりません。


F) 出国は逃亡ではなく、権利の行使であり、庶民的抵抗の手段である

*アメリカの制裁が近い将来(あるいは遠い将来?)どうなるか見通しはありません。
ベネズエラの出国に対する恥知らずな利益誘導とメディア操作は、いつまで経っても終わらないでしょう。
結局のところ、ベネズエラの政権交代はワシントンの外交政策の主要な目標であり続けるでしょう。
そのためにアメリカの高官は人々の命を的に取引することを厭わないのです。

*私のたくさんの家族は、国境を超えて旅に出ました。たくさんの旅について書こうとしたとき、その主な動機は、卑劣な政治的意図のために奪われた歴史を、私たちの物語として取り戻したいという願いだけだったのです。
書いていて気がついたのですが、それは逃げ回る旅ではなく、それ自体が壮大な抵抗の形なのだと思うようになりました。
移住は人間の重要な権利の一つです。ベネズエラの場合は、アメリカ帝国主義に攻撃された国における抵抗する権利、生き抜く権利でもあります。

*私たち、ベネズエラの人々だけが、出国権の真実の意味を知っているのです。


映画を見に行って、上映まで少し時間があるので、本屋で立ち読みして時間を潰した。
そのときに見つけたのが、文春新書のこの本。
エマニュエル・ドッドというフランス人評論家。文藝春秋の御用達らしく、背表紙には文春からの出版作品がズラッと並んでいる。

題名からしてキワモノである。緊急出版とうたっているが文春にとって緊急だということであろう。なにかブログの記事をそのまま本にしたような短文が並んでいる。それが第1章と4章で、真ん中の二章は数年前の記事の貼付けだ。
一言で言えば、ブログのような本だ。パラパラとページをめくると、コラム記事の題名がやたらと面白くて、見出しだけで内容はほぼ想像がつく。そして彼の見通しはズバズバとあたっている。きっとこのブログの愛読者の皆さんになら大受けするだろう。

その9割が世間の一般動向に対する異論であり、その8割に私は同感する。
同感できない2割は、トッドの文春に対する斟酌であり、然るがためのヒューマニズムの不徹底であり、それを「冷酷な歴史家」と韜晦する世渡りである。
いくら緊急と言えども、活字で書籍として発行するからにはどうしてもタイムラグは避けられない。ギリギリまで推敲を重ねたとしても6月初めの時点での情報である。すでに彼の(したがって私たちの)所見は相当受け入れられている。同時に米欧諸国の支配層は追い詰められ凶暴になっている。そして現実的な解決策を模索する私たちの作業は、ますます「緊急」化しつつある。

とりあえず目次をコピーする。1ポイント小さく、私の一言感想。


1.第三次世界大戦はもう始まっている

ア.”冷酷な歴史家"として 
分析の視座。何より一人の市民として、反戦平和主義者として。分析にあたっては感情に揺り動かされないリアリストとして、要するにオキシトシン依存の「正義派」を拒否して…

イ.「戦争の責任は米国とNATOにある」 
ここから数節はミアシャイマーの提起の受け止め。ミアシャイマー発言は平和派のウクライナ論の底流であり必読! AALAニューズに掲載済み。

ウ.ウクライナはNATOの”事実上"の加盟国だった 

エ.ミュンヘン会談よりキューバ危機 
欧米諸国メディアは「ミンスク合意はミュンヘン宥和の二の舞い」とあおった。しかし攻めているのが、かつてはナチであり現在はNATOだという事実には触れなかった。

オ.「NATOは東方に拡大しない」という約束 
2014年の “マイダン革命は、あらゆる面から見てクーデターである。東部諸州は合法政権を支持しクーデターに反対した。

カ.ウクライナを「武装化」した米国と英国 

キ.「手遅れになる前にウクライナ軍を破壊する」が目的だった 
ここはちょっと不正確。「」に括ってあるが、プーチンの発言の直接の引用ではない。しかし戦争目的が、強力な軍事国家の出現を阻止することにあるのは間違いない。初期に言われたように領土的野心や侵略と見るのは当たらない。

ク.ウクライナ軍が抵抗するほど戦争は激化 
侵略戦争であれば、そろばん勘定で引き合わなければ手を引く。死活的利益であれば手は引けないから激化する。そこが見抜けなかった人々はさらに激昂する。
ロシアはアゾフ軍団を第二次大戦におけるナチスの再来と見ている。だからアゾフを中核とするウクライナ軍をナチの手先と見ている。NATO軍をナチのパトロンと見ている。
この構図が続く限りロシアは戦争をやめない。まずネオナチとの関係を精算することが第一歩。

ケ.米国にとっても「死活問題」に 
ミアシャイマーの間違い。「米国にとって対岸の火事であったが、いまはすでにそうではなくなっている」…というのがトッドの見解で、彼は正しいと思う。
各個撃破政策の延長でウクライナ介入を進めたが、ロシアの直接侵攻により、大国同士の戦争となってしまった。
ウクライナ問題はすでにグローバル化してしまった。しかし米国には大国同士の直接対決を回避できるシステムがない。ヨーロッパの動揺を鎮める手段がない。ヨーロッパはそれに気づきつつある。もはや戦場にいないのはアメリカ兵だけだ。

コ.我々はすでに第三次世界大戦に突入した 
どこからウクライナ問題はグローバル化したか。それは2015年以降ウクライナが「NATOの事実上の一員」となったときだ。ウクライナが①ロシアに敵対して武装化し、②NATO装備に切り替えて増強し始めたとき、すでにこの戦争は必然であった
ロシア製武器とアメリカ製武器がウクライナでぶつかっている状況を世界大戦と呼んでも当然ではないか

サ.「二〇世紀最大の地政学的大惨事」
多民族国家において民族自決と国民国家の統一は厄介な課題。西欧はユーゴでは民族自決を国家統一に優先させ、ウクライナでは国家統一を民族自決に優先させた。この二重基準は、結局、西欧の時々の利害が「民族と国家に関する原則」に優先することを意味する。この二重基準を糊塗するのが「人権と民主主義の」呪文である。

 シ.冷戦後の米露関係 
アメリカは新自由主義の押しつけでロシアを苦しめ、対ロ包囲網の形成で軍事的にも追い込んできた。要するにロシアを我慢の限界まで追い込んできた。

ス.戦争前の各国の思惑

セ.超大国は一つだけより二つ以上ある方がいい 

ソ.起きてしまった事態に皆が驚いた 
「皆が驚いた」と書いてあるが、実は驚いたのは西側諸国だ。彼らはロシアにケンカを仕掛けながら、ロシアが逆上してケンカを始めるとは予想していなかった。イジメと同じで相手を殴っても相手は殴り返さないと信じていた。
だからロシアが侵入してきたとき、米英の軍事顧問は脱兎のごとく逃げ出した。その後はウクライナ人民を「人間の盾」にしてイジメを続けている。


タ.米国の誤算 
ロシアは反撃しないだろうという誤算、ロシアにそれだけの力(経済力・軍事力)はないだろうという誤算、米国は西欧を支えきれるだろうという誤算。
特に軍事の面での
超音速ミサイルでのロシア優位、②米軍事力の中心である空母の対ロシア有用性、③最新鋭F35戦闘機の実際の戦闘能力への疑問などが列挙されている。

チ.ロシアにとっても予想外 
最大の誤算はヨーロッパ諸国の対決姿勢と、ウクライナの強力な抵抗

ツ.共同体家族のロシアと核家族のウクライナ 
これは東京人と大阪人の比較みたいな感じで、非本質的な分析だと思う。トッドのえらく断定的な言い方が気に障る。

テ.「国家」として存在していなかったウクライナ 
これについては多くの論者から指摘されており、とくに目新しいものはない。
東部はロシア語を使う
ギリシャ正教のロシア人、中部はギリシャ正教のウクライナ人、西部はカトリック系のウクライナ人という構成。西部はもともとはポーランド人の土地で、第二次大戦後にソ連が獲得した。

ト.「親EU派」とは「ネオナチ」 
トッドに言わせれば、「フランスの国民戦線が中道左派に見えるくらいの極右」である。西部を拠点とし、第二次大戦時にはナチの手先として大虐殺を実行した。

ナ.ネオナチと手を組んだヨーロッパ 
西側メディアは、ネオナチを「親EU派」と好意的に報道し続けた。マウロポリで住民を人間の盾にして工場に立て篭ったのは、「アゾフ旅団」を自称するネオナチ武装組織だった。

ニ.家族構造とイデオロギーの一致 
以下二からハまでは、トッド独特の家族論。コメントはしない。

ヌ.共産主義を生んだロシアの家族構造

ネ.家族構造の違いから生じたホロドモールの惨劇 

ノ.ボリシェヴィズムが初期から定着したラトビアの家族構造 

ハ.「ヨーロッパ最後の独裁者」を擁するベラルーシの家族構造 

ヒ.「近代化の波」は常にロシアからやって来た 
ベラルーシとウクライナはロシア帝国内の後進地域で、19世紀なかば以降、ロシアが帝国主義的発展を開始すると、遅れた封建的社会システムのままロシア帝国に包摂された。後進地域のまま辺境化され、封建地主制が維持され、ロシア国内における反動・反革命勢力の牙城となった。

フ.国家建設に成功したロシアと失敗したウクライナ
ソ連崩壊後、西欧諸国はウクライナの「安価で良質な労働力」を吸い取った。ウクライナは独立以来、700万人、人口の15%を失った。こうしてウクライナはすでに「破綻国家」となっていた。

へ.プーチンの誤算 
国内に残された人々は反ロシアで団結するようになり、西欧諸国は反ロシアにウクライナの存在意義を認めるようになった。
これはトッドの主張ですが、これだけでは一面的な気もします。

ホ.ロシアはすでに実質的に勝利している 
ロシアはすでにウクライナ国土の20~25%を確保した。ロシアの兵力・国力から見れはこれが精一杯であり、その意味ではロシアは勝利したと言える。
これがトッドの判断だが、国際法の常識からしてこのような勝利は承諾し難い。ただ肝心なことは「ロシアは敗退への一路を辿っているという西側報道はもはや信じがたい」ということだ。そのような前提に立っての解決策はナンセンスだということだ。

マ.西欧の誤算 
西欧の誤算というのは、ドイツ・フランスの誤算ということだ。誤算というのはロシアとウクライナをヨーロッパの一員と考えたからだ。
しかしそれらは
ヨーロッパではなく、旧ソ連という「旧国家」のメンバーだ。それらの政治発想はヨーロッパとは違うから、いざとなれば躊躇なく戦争を始めてしまう。トッドが言うヨーロッパ人とは英仏独を中心とする西欧人のことだ。
米国とイギリスはそれを知っていた。それがリアル・ポリティークだ。

このトッドの主張を100%受け入れることはできない。しかし米英両国と独仏領国の間に認識の差があって、それは米英両国の側に責任がありそうだという認識は共有できる。

ミ.欺瞞に満ちた西欧の「道徳的態度」
トッドは言う。
“ロシアの攻撃開始に際してロシアを糾弾するヨーロッパの「道徳的態度」は自然なリアクションだ。しかしその後にヨーロッパが起こしたアクションは無責任で欺瞞に満ちている

これはトッドにしては随分表面的だ。そのリアクションとその後のリアクションは茫然自失とその後の条件反射として理解すべきではないか。それが群集心理を伴って最悪の方向へと流れ込んだのではないか。だから見出しは「欺瞞に満ちた」ではなく「混乱と自己矛盾に満ちた」とすべきだろうと思う。


ム.オリガルヒへの制裁は無意味 
ここでトッドは胸のすくようなセリフを吐いている。
「ロシアの残忍さを糾弾し、プーチンとその取り巻きを戦争犯罪人として非難するのは、ヨーロッパ人の無力感がなせる業です。こうする以外に何もできないゆえに、「ロシアを悪とみなす」ことで、西欧の各国政府は自分たちの無力さと卑劣さを隠そうとしているのです。しかもこのような反応が戦争をさらに深刻化させ、和平を困難にしていることにすら気づいていません」


メ.「ロシア恐怖症」
ヨーロッパは、ヨーロッパという政治的・通貨的まとまりを無理に維持するために、「ロシア」という外敵を必要としている。ロシア人と言うだけで悪とみなされてしまう、反ユダヤ主義の現代版が拡散している。現在フランスでは、ロシア人の若者に対して銀行口座の開設を拒否することまで起きています。
このことをもっとも喜んでいるのはアメリカである。
これは部落民が、日本人であって日本人でない扱いを受けているのと共通する。あるいは在日韓国人が事事に差別されるのと似ている。


モ.暴力の連鎖 
現在、対話を拒否し戦闘継続を煽っているのはウクライナ
西側諸国は総力戦に持ち込めば勝てると思うから、対話を拒否し、消耗戦に引き込もうとしている。
その最大の手段は“鬼畜ロシア”への憎悪を掻き立てる「戦時の情報戦」である
憎しみの応酬により、ロシアの持つ負の側面を引き出してしまう

ヤ.「消耗戦」が始まる 
「西側諸国は総力戦に持ち込めば勝てる」のか
それは中国がどう動くかで変わってくる。しかし西側は中国がどう動くかを見極めていない。

ユ.中国はロシアを支援する 
しかし中国は必ず親ロシアで動く。なぜなら「次は中国だ」は、お互いに自明であるからだ

ヨ.米国と西側の経済は耐えられるのか
欧米と中ロが経済戦争を行えば、勝負は一時的には拮抗するだろう。
しかし西欧(とくに独仏)はその勝負を続ける体力はないだろう。
新興国や途上国はチキンレースを止めるよう、とりわけ欧米諸国にもとめるだろう

戦闘が始まったとき、「ロシアは持たないだろう、経済制裁に耐える力はないだろう」と言われた。
いまは逆の予想が支配的だ。「ヨーロッパは持つのだろうか。ヨーロッパは自己制裁しているだけではないのか」

ラ.経済の真の実力はGDPでは測れない 
西側が戦闘予測を読み間違えた理由はGDP至上主義にある。
この数十年でGDPはサービス経済と金融経済の指標となり、実体経済を反映しなくなった。


リ.ウクライナ相手に貿易赤字だった米国 

ル.経済における「バーチャル」と「リアル」の戦い 

レ.対露制裁で欧州は犠牲者に

対ロ制裁で最終的な犠牲者になるのはヨーロッパ自身である。なぜならヨーロッパはロシアとの相互依存関係の中で発展してきたからだ。
そしてヨーロッパとロシアの依存関係の発展を警戒し妨害してきたのが米国の基本戦略だ。


ロ.米国の戦略目標に二重に合致したウクライナ
アメリカの世界戦略の究極的な目標は、世界を非平和の状態に置き続けること。
アメリカの支配力は実体経済的にはすでに失われた。
世界の経済活動の中心はユーラシアにあり、アメリカはそれに寄生せざるを得ない状況
平和のための必要悪、「用心棒国家」としてのアメリカ
従って世界を軍事的に支配するだけでなく、世界が軍事的な強者の下に存在せざるを得ない仕組みの維持が必要
もし世界が平和的に維持されるようになれば、アメリカは“用済み”になってしまう。
“アメリカ軍が必要とされる状況を無理にでも持続させるために、アメリカはユーラシアにおける軍事的・戦略的緊張を維持する必要がある。「世界の不安定がアメリカ支配の必須の条件」である


ワ.NATOと日米安保の目的は日独の封じ込め 
”極論すればNATOや日米安保は、ドイツや日本という同盟国を守るためのものではない。それはアメリカの支配力を維持し、とくにドイツと日本という重要な保護領を維持するためなのである”
もう少し現実に即して言えば独仏同盟の絆を弱め、それにより米国依存を強めることが戦略目標となる。


ヲ.現実から乖離したゼレンスキー演説 

ン.エストニアとラトビアという例外 
“感情の波が一旦収まった時点で、アメリカと西欧の根本的な利害の違いが現れるだろう”
ドイツが戦争終結のために重要な役割を担うだろう。

あ.予測可能な国と予測不能な国 
ロシアの動きは予測可能だ。ウクライナ(とくに政府)の行動は軍事的合理性を欠いており、予測困難である

い.ポーランドの動きに注意せよ 

う.最も予測不能な米国

え.「ネオコン一家」ケーガン一族 

お.世界を ”戦場"に変える米国 
“世界一の軍事大国であるだけでなく、大きな島国のような存在で、どんな失敗をしても侵攻されるリスクがない”
ミダス王のごとく、触れるものすべてを戦場に変えてしまう。

か.米国の「危うさ」は日本にとって最大のリスク 

き.核を持つとは国家として自律すること 
ここは到底同意し得ない内容である。かつて70年代に日帝自立論と並んで一部で論じられたファッショ的自立論と類似である。
“日本の核保有は、むしろ地域の安定化につながるでしょう”を、ドイツに置き換えたらフランス人としてどう感じるか、伺いたいものである。

く.「核共有」も「核の傘」も幻想にすぎない 

け.米国に対する怒り 
ここで著者は実に率直に本心を吐露している。
“私は今怒っています。アメリカは私のヨーロッパで戦争を始めたからです。これによって、私のアメリカに対する敵意は絶対的なものになりました”


こ.西洋は「世界」の一部でしかない 
“西洋が世界を代表していると西洋自身はうぬぼれていますが、世界の大半の国は西洋の傲慢さにうんざりしています。むしろロシアの勝利を望んでいるようにも見えます。

さ.長期的に見て国益はどこにあるか
最悪の展開は、西側に追い込まれたロシアが中国と接近し、中国に軍事技術を提供することである。


2 「ウクライナ問題」をつくったのはロシアでなくEUだ

3 「ロシア恐怖症」は米国の衰退の現れだ

2と3は埋め草に用いられた旧出論考です。ここでは省略します。第4章は第1章より1ヶ月位後の文章です。そのせいか、かなり議論が深まっています。さすがに日本核武装論は影を潜めています。ファクトの収集傾向はAALAニューズ編集部とほぼ共通しているようです。


4 「ウクライナ戦争」の人類学

ア.第二次世界大戦より第一次世界大戦に似ている 
ドイツの新聞社が「このウクライナ戦争は第二次大戦よりも第一次大戦に似ている」との記事を載せたことに対して、トッドが感想を述べたもの。
トッドも第一次大戦に近いのではないかと言っているが、これは第一次大戦を西部戦線に限定して、しかも軍事的な側面からなぞった話なので、かなり荒っぽい議論になっている。
第一次大戦に似ているという感想は私も持っていて、①祖国防衛戦争と②帝国主義間の戦争という二側面を持った戦争だということ、同時に③軍事同盟間の戦争に諸国が巻き込まれる形で始まった戦争だということ、④我々は非同盟の視点とツィンメルワルド派の階級的視点を貫かなければならないこと、をあげた。(

そして戦いが長期化するにつれ、ますますその視点が重要であると痛感している。

イ.軍事面での予想外の事態 
ここでトッドはロシア軍が弱かったことが予想外だったとしているが、この文章が書かれた4月中旬ころにはそのような見方もあった。しかしそれは戦線膠着の主因ではないことがその後明らかになってきた。この視点からトッドは誤った結論を引き出している。ロシア軍は案外弱いから、西欧にとっても国際社会にとっても脅威ではないという評価である。ロシアはこの時点で国際社会の動きも見ながら、ミンスク合意型の決着に向けて戦略を大転換したのである。

ウ.経済面での予想外の事態 
ロシア経済には意外な耐久力があった。経済制裁を受けたらひとたまりもないという予想は外れた。
その結果、軍事面の意外な弱さと合わせて、戦争は長期化の様相を示し始めた。これも第一次大戦と似ている。


エ.正しかったミアシャイマーの指摘 

オ.ミアシャイマーへの反論 

カ.米国は戦争にさらにコミットする 
なぜなら、もしロシアが制裁に耐えて生き残れば、それはアメリカが世界に対する支配力を失うことを意味する。世界一の軍事力ではあっても、世界を支配する軍事力ではなくなる。
とくに経済制裁の失敗は、即、ドル支配体制の崩壊に導かれることになる。


キ.時代遅れの「戦車」と「空母」

ク.米国の戦略家の ”夢"を実現 

ケ.ポーランドの存在感 

コ.”真のNATO" に独仏は入っていない 
ドイツとフランスは真のNATOから外されている。ロシアの侵攻開始は知らされなかった。だから直前まで「ロシアとの交渉はまだ可能だ」と言っていた。
米英はウクライナ軍の装備増強に直接関わっていたから、ロシアがいつ脅威を感じ、どうすれば介入するかを把握していた。


サ.ウクライナの分割 
ロシアはすでにドンバス、クリミア、ヘルソンを確保した。米英はウクライナに闘い続けさせるが、奪い返すほどの援助は与えないだろう。
従ってウクライナの失地回復は不可能だろう。ウクライナ人の血は無意味に流され続ける。


シ.この戦争の“非道徳的な側面”
ウクライナはローマの剣闘士と同じだ。闘い続けるための援助はもらえるが、勝つほどの援助は与えられない。
ウクライナは独立以来、つねに破綻国家であった。独立以来、国民の8人に一人が国外に流出した。2月からはさらに4人に一人が祖国を離れた。
生きる道がないから雇い兵として生きる道を選んだ。女性が売春婦として生きるのと同じように。もし戦争が終わればこの国に住むウクライナ人はいなくなるだろう。


ス.ウクライナ西部のポーランド編入

セ.ウクライナ侵攻に対する各国の反応

ソ.家族構造における父権性の強度 

タ.人類学から見た世界の“安定性”
ウクライナ戦争以来、世界は無秩序に陥ったとされるが、そうではなく新しい秩序が生まれつつあるのかもしれない。民主主義と人権のみが度外れに強調される西側世界の秩序とは異なるものとなるだろう。

チ.「民主主義陣営VS専制主義陣営」という分類は無意味 

ツ.露中の「権威的民主主義」 

テ.ロシアと中国の違い 

ト.ロシアの女性とキリスト教 

ナ.現在の英米は「自由民主主義」とは呼べない 

ニ.「リベラル寡頭制陣営VS権威的民主主義陣営」 

ヌ.日本・北欧・ドイツ 

ネ.リベラル寡頭制陣営の「民族主義的な傾向」 

ノ.権威的民主主義陣営の「生産力」に依存 

ハ.「高度な軍事技術」よりも「兵器の生産力」 

ヒ.米露の生産力 

フ.ヨーロッパ経済はインフレに耐えられるか

ッ.真の経済力は「エンジニア」で測られる 

ホ.本来、この戦争は簡単に避けられた 

マ.西洋社会が虚無から抜け出すための戦争 

ミ.第一次世界大戦は中産階級の集団的狂気 

ム.英国は病んでいる 

メ.「地政 = 精神分析学」が必要だ

 モ.なぜ中国よりもロシアが憎悪の対象になったのか 

ヤ.「反露感情」で経済的に自殺するドイツ? 

ユ.現時点では一歩引いた方がいい 

ヨ.マリウポリから脱出したフランス人の証言 

ラ.「ウクライナに兵器を送るべきだ」の冷酷さ 

リ.米国が”参戦国"として前面に 

ル.”軍事支援”でウクライナを破壊している米国







下の写真は本日の国際面記事。
処刑

非常にわかりにく記事なので、経過をまとめる。
① 傭兵としてロシア軍に参加していたワグネル軍団の兵士Aが、9月はじめ頃に、ウクライナ軍の捕虜となった。
② 兵士Aはウクライナ側報道機関と会見し、「ロシアと闘う」と語った。9月4日、その訴えはウクライナから発信され、反ロシアのキャンペーンに利用された。
③ 9月11日、ロシアとウクライナ間の捕虜交換があり、兵士Aはロシアに送還された。
④ 兵士Aの言動はワグネル軍団の知るところとなり、利敵行為と判断され処刑された。
これが事件のあらましである。
一般的には、ウクライナ当局の愚かさ(あるいは冷酷さ)を非難すべきニュースである。
ただしこの手の事件は、あえていえば日常茶飯事だ。真相も不明のことが多い。「独立系メディア」という出どころもいかにも怪しい。5段組にするほど重要なのかと思う。
一番問題なのは、常識的に見てウクライナ側に主要な責任が問われる事件なのに、ロシア非難の対象であるかのように扱われていることだ。
ウクライナ戦争において非はロシアにあり、大義はウクライナにある。ロシアの主要な非は、一方的な暴力行使であり、民族自決の侵害であり、領土不拡大原則の侵害である。
肝心なのは理非曲直の議論であり、それを勧善懲悪論に横滑りさせてはならない。まして、悪がロシアに局在し、善がウクウライナに偏在しているわけではない。「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも」ロシアのせいではない。
この立場を明確にすることは戦闘を一刻も早く終わらせ、犠牲者を一人でも少なくするために絶対必要な出発点だ。国際報道においてもぜひこのことを肝に銘じてほしいものだ。


Report on Certain Political Developments
(Adopted at the Central Committee Meeting held on October 29-31, 2022) 
https://cpim.org/sites/default/files/documents/october2022-cc-report.pdf

下記は「インド共産党(マルクス主義)」(以下CPIM)の中央委員会への報告のうち、国際情勢に関する部分を翻訳、紹介するものです。


1.世界経済危機とウクライナ

A) 景気後退とインフレの同時進行

世界経済危機は深化している。コロナの時期よりも大きな被害が出るだろう。原因はもっぱら富裕国の利己的行動によるものである。10月IMFの世界経済見通しはこう言っている。
世界の成長率は2021年の6.0%から2022年には3.2%、2023年には2.7%に減速すると予測される。これは、世界金融危機とパンデミックの急性期を除けば、2001年以降で最も低い成長率である。
ブルームバーグの最新モデルでは、世界経済はコロナの最盛期を除けば、2001年以降で最も低い成長率となっている。
10月3日、国連は世界が不況に向かうという警告を発した。経済協力開発機構(OECD)も同じような予測を行い、次年度の世界経済成長率の予測が2.8%から2.2%に引き下げられた。これにより、世界のGDPが約2.8兆ドル失われることになる。
世界最大の経済規模を誇る米国は、3月に大幅利上げを開始した。2022年に入ってから、米FRBは5回連続で利上げを実施している。
世界中の中央銀行が金利の引き上げを余儀なくされた。食糧やガソリンの価格が大幅に上昇した。世界のインフレ率は、2021年の4.7%から2022年には8.8%に上昇すると予測されている。

B) ウクライナ戦争はロシアとアメリカ・NATOの戦争

第23回CPIM大会政治決議にはこう書かれている。
ウクライナは、ロシアと西側同盟である北大西洋条約機構(NATO)の間で一触即発の状況にある。
戦争はいまなお続いており、米国とNATOはウクライナに大規模な軍事支援を行っている。
私たちが指摘したように、これはまさにロシアとアメリカ・NATOの間の戦争であり、ウクライナがその舞台となっている。
米国防総省は2022年10月14日、ウクライナの緊急な安全保障と軍事的必要に対応するために、最大7億2,500万ドル相当の軍事支援を行う大統領令を承認した。

2020年1月、バイデン政権が発足して以来、米国はウクライナに183億ドル以上の軍事支援を行ってきた。2021年8月、ウクライナ危機が深刻化して以降、バイデン政権はウクライナのために国防総省の在庫から合計23品目の備品の引き渡しを承認した。さらに、米国はNATOの同盟国や友好国からウクライナへの追加支援を確保した。

いまやウクライナでは、核兵器や「汚い爆弾」を使うという脅迫が続き、危険な状況を作り出している。


C) あいつぐ経済制裁が国際経済に与える影響

米国、G7、EUはロシアに厳しい制裁を課した。その結果、ロシアは重要な金属や鉱物の輸出を停止せざるを得なくなった。ロシアは食糧不足に陥り、インフレが進行している。
とりわけエネルギー供給不足の危険が高まっている。

ロシアに対する石油制裁の影響は今のところ限定的である。しかしロシアはエネルギー供給の重要な一翼を担っているから、 世界経済はまもなく過去最大のエネルギー供給不足に見舞われる可能性がある。対ロシア制裁によりもたらされる、世界経済や各国のエネルギー安全保障への影響は深刻である。欧州連合(EU)諸国は今後、インフレの進行と深刻なエネルギー危機により、対ロシア戦争の矢面に立たされるだろう。

D) 石油・天然ガスもウクライナ戦争の重要な側面

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Nord Stream ウィキペディアより

「ノルドストリーム」をめぐる情勢(ウィキペディアより): 今年9月26日、ロシアとドイツを結ぶ海底パイプラインでガス漏れが発生した。何者かによる破壊工作の可能性が疑われている

ドイツ政府は「Nord Streamパイプラインの爆発とそれに続くガス漏れについて、誰が損害を与えたか認識している」と主張している。しかし、安全保障上の理由で「誰か」について口をつぐんでいる。スウェーデンも「この問題は非常にデリケートで、収集したデータをどの国とも共有することはできない」と主張している。
ロシアは冬の間、無傷のNord Stream 2を使ってヨーロッパに275億立方メートルのガスを送るという提案を行ったが、ベルリンからは何の反応も得られなかった。これに代えてプーチンは、トルコに新しいガスパイプラインを建設することを提案した。
プーチン提案は米国と同盟国を驚かせた。これは、ロシアのNord Streamに対するリスクを回避するのに役立つ。なぜならNord Streamは複数の国の排他的経済水域(EEZ)を横断しているからだ。

ロシアの石油輸出を対象とした制裁措置は、12月5日に発効する予定である。ロシアの石油輸出は依然として好調で、EUはロシアに依存している。

欧州はこれまでのところロシア産への依存を断ち切れないでいる。原油価格の上昇と世界的なエネルギー供給の逼迫が圧力となっている。欧州では燃料用一般炭と液化天然ガス(LNG)が過去最高値となっている。これを背景に欧州各国はロシア産原油の禁輸措置を緩和した。調査会社ケプラーのデータによると、ロシア産軽油は8月の欧州向け輸出が前年より増加している。(日本経済新聞

ロシアの優勢は対欧州だけではない。ロシアの原油輸出は開戦から7ヶ月間で平均340万バレル/日。日量平均340万バレルに達している。これは 2021年同期比で17%増である。
その背景には、OPECが日量200万バレルの減産を決定し、それが世界の原油価格を押し上げている状況がある。それは、米国とサウジアラビアの二国間関係の脆弱性をも浮き彫りにしている。

E)ウクライナ問題に関するCPIMの原則的立場

インド共産党(M)第23回大会の政治決議は次のように述べている。
① この戦争は直ちに終結し、争点は協議と交渉によって解決されなければならない。
② 米国とNATOは、直ちに、東方への拡張を停止しなければならない。
③ 世界経済に壊滅的な影響を及ぼしている制裁措置は直ちに解除しなければならない。

2.世界経済危機と生活問題の浮上

A)インフレと窮乏化

世界的な経済危機とウクライナ戦争の影響で、人々の暮らしに深刻な負担がかかっている。とくに食料価格の騰貴は、世界中で非常に高い水準まで達している。
今年5月以降の世界銀行データでは、低所得国および中所得国のほぼ全てで高いインフレ率が確認されている。5%を超える物価上昇が記録された国は、低所得国の88.9%、低位中所得国の91.1%、上位中所得国の96%に達した。
とくに食料価格の高騰が、世界的な危機の引き金となっている。何百万人もの人々が極度の貧困に追いやられ、飢餓や栄養不良が拡大している。2022年10月の小麦、トウモロコシ、米の平均価格は前年に比べ、それぞれ18%、27%、10%高くなっている。
IMFの試算によると、食品と肥料の価格上昇の影響を受けた最貧国48カ国において、食料支援のために50億ドルから70億ドルの追加支出が必要となっている。さらに、今後12ヶ月の間に深刻な食糧不安が襲うものと予想され、その対策のために500億ドルの追加支出が必要である。
FAOの報告書は、「深刻な食糧不安を抱え、緊急支援を必要とする人々の数は、53の国と地域で2億2200万人に上る」と述べている。


B)世界的な反貧困運動の高まり

この数週間、世界各地でさまざまな分野の労働組合が大規模なストを決行している。それはインフレの進行により購買力が低下しているためである。賃上げをめぐる争議と並んで、労働者は労働条件や年金の改善を要求している。

EU諸国の動き

EU諸国では、同じ産業分野で短期間に複数のストライキが決行されている。それは労働者の過酷な状況を反映している。
英国では生活費の上昇に見合った賃金を要求し、ここ数カ月、何万人もの労働者が職場を放棄している。インフレ率は10%と過去40年間で最も高い水準にあり、労働者の生活費は、賃金を上回るペースで上昇している。労働組合が団交権を持つ部門でも、賃上げはインフレ率を下回っている。
国家統計局によれば、2019年には月平均19,500労働日がストライキによって失われていた。その数は2022年7月には、87,600日に達したよって明らかにされている。
鉄道では6月以降、ストライキが相次ぎ、鉄道網は 事実上停止している。ロイヤル郵便会社は8月からストライキを実施している。通信労組の組合員約11万5千人がこのストライキに参加した。BTとオープンリーチの約4万人の労働者は10月に初めてストライキに突入した。
イングランドとウェールズの弁護士は、6月以来、弁護料の値上げを要求する行動をとっている。この結果、数千の裁判が遅れている。150の大学で、約7万人の職員が給与と年金をめぐってストライキ権投票を行っている。教員組合、医療労働者、石油・ガス労働者、その他の部門でストが決行された。

オランダのバス運転手は、賃金と労働条件の改善を要求して、10月19日から21日まで3日間のストライキに入った。

スイスの建設労働者は10月17日に大規模な抗議デモ行進を行った。

フランスの労働者が、高騰する生活費に見合った賃金の引き上げを求め、全国的なストライキに参加した。主要な製油所の労働者が抗議行動を開始した。闘いは交通、学校、医療、市民サービス、エネルギーなどの部門に波及した。
10月16日、パリでは10万人以上の人々が超党派集会に結集し、生活費の高騰や気候問題に対処しないマクロン大統領に抗議した。この行進には、最近創設された左翼連合「新エコロジー・社会人連合」(NUPES)の活動家や指導者が参加した。
(NUPESはNouvelle Union Populaire Ecologique et Sociale の略。6月総選挙を機に結成された左翼連合)
フランス共産党(PCF)、「服従しないフランス」(La France Insoumise)、労働組合(労働総同盟など)の活動家や指導者が参加した。労働総同盟(CGT)などの労働団体からも参加した。

キプロスの労働者は10月15日、首都ニコシアの財務省に向けてデモ行進し、インフレと進行中の生活費問題に対抗するための具体的な行動を要求した。

ベルギーではベルギー労働者党(PTB/PVDA)が毎週開催している「怒りの金曜日」 集会の一環として、10月14日にブリュッセルのエンギー(Engie)社屋前でデモを行 った。そしてこの期間に同社が得た莫大な利潤に課税するよう、政府に要求した。
(エンジー社は、フランスに基盤を置く電気事業者・ガス事業者で、世界2位の売上高を持つ)

ギリシャでは、賃金と年金の引き上げ、安価な電気、燃料、食料、税の廃止、基本的な消費財の値下げと制限、債務の帳消しを求める大規模な集会が開催された。労働組合は他の大衆組織とともに、11月9日にゼネストの呼びかけを行った。

アメリカの動き

アメリカでは、生活費の高騰で一家の月々の支出が460ドルも増えたため、労働者階級が多くの抗議行動を起こしている。ミネソタ州では1万5千人の看護師が米国史上最大規模の民間医療機関のストライキに参加した。シアトルでは教師6,000人が授業を拒否した。また、10万人以上の鉄道労働者がストライキを行った。

その他の諸国の動き

同様の労働者階級の抗議行動は、ヨーロッパではドイツ、チェコ共和国、セルビア、ハンガリー、モルドバで、アフリカではチュニジア、ギニア、南アフリカ、ケニア、スーダン、中央アフリカ地域、ラテンアメリカではエクアドル、アルゼンチンで目撃された。


イランでは、女性の権利に対する攻撃に反対する大規模な抗議活動が行われている。経済状況の悪化に悩む多くの人々が、この抗議行動に参加している。これらの抗議は残忍に弾圧され、多くの死者が出ているとの報告がある。

パレスチナのヨルダン川西岸地区及び被占領地では、パレスチナ人に対する残忍な弾圧が行われている。今年に入って、184人のパレスチナ人がイスラエルの治安部隊によって殺害された。イスラエル当局は、ガザでの一連の襲撃に続き、ヨルダン川西岸地区の「パレスチナ人の人権」活動家と市民社会組織への攻撃をエスカレートさせた。
 これらの組織の多くは、すでに恣意的に非合法化されたものである。これらの襲撃は、イスラエルを批判する人々への攻撃を目的としている。それはイスラエルが国際法に著しく違反し、アパルトヘイト政策と何百万人ものパレスチナ人への迫害を行なっていることを覆い隠すためである。
いまもパレスチナ領土の不法占拠と ユダヤ人入植地の建設は続いている。


3.政治戦線 極右とのせめぎあい

この間、各国で相次いだ選挙結果は、第23回大会で指摘した政治的な右傾化の進行を示している。
インフレの高まり。価格上昇に引き合う賃上げが実現されないこと、そして社会民主・保守両党の経済政策の失敗が、国民の不満に拍車をかけている。
このような条件のもとで、宗教的感情や人種差別は、多くの国で極右勢力に利用されている。極右勢力はその勢いを加速させている。

イタリア 

イタリア議会選挙で、超保守派のジョルジア・メローニ率いる極右勢力「イタリアの兄弟」が44%の得票率を獲得し勝利した。
「イタリアの兄弟」は、ベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツァ・イタリア」とマッテオ・サルヴィーニ率いる「反移民同盟」との間で連立政権を樹立した。イタリアではファシスト独裁者のベニート・ムッソリーニ以来の極右政権となる。
彼女の政治的キャリアは、ネオ・ファシストであるイタリア社会運動の青年団の10代の活動家として始まった。メローニは移民に猛反対し、保守的な「家族の価値」を支持する。メローニは断固として親米であり、強権的な国家安全保障政策を提唱している。
イタリアはGDPの135%という巨額の公的債務を抱えている。世界的な金利上昇に伴い、この債務の返済コストは上昇し、若者の失業率が高い(約25%)。そのことが民衆の不満を高め、極右が台頭する要因となった。

スウェーデンの右翼進出

スウェーデンの首相に、中道党のウルフ・クリスターソン党首が、3党の少数派連合の長として選出された。この連立政権には、初めて移民排斥派のスウェーデン民主党が含まれる。極右政党である スウェーデン民主党(SD)党は、同国の選挙で実質的な勝者となった。
極右政党であるスウェーデン民主党は、得票率を2〜3ポイント伸ばし、第2党に躍り出た。右派ブロックの得票率は49.7%で、左派ブロックを1議席上回った。
SDは、1990年代半ばにスウェーデンのネオナチ運動から生まれた政党である。それ以来9回の総選挙で連続して得票を伸ばしている。SDは反移民キャンペーンを通じて暴力犯罪に対する恐怖を利用することができた。
エネルギー価格の上昇、学校経営の破たん、医療へのアクセス困難といった有権者の懸念は、移民と犯罪に執拗なまでに焦点を当てることでそらされた。

ブラジルでのボルソナロの「健闘」

10月2日、ブラジルでは大統領選の第1回投票が行われた。2019年から大統領に就任したジャイル・ボルソナロ氏が予想以上に健闘した。最終的にルーラは48%の票を集め、ボルソナロは43%の票を獲得した。
数カ月前から世論調査では、左派のルーラ前大統領が2桁のリードを保っていた。ボルソナロ側は政府機構の乱用、巨額の資金投入、民主主義や制度に対する脅威を煽ることで反撃した。そしてメディア、ソーシャルメディアの支配を通じてフェイクニュースを拡散した。ペンテコステ派の説教師を使って国民の宗教的感情を操った。
どの候補者も50%の票を獲得できなかったため、10月30日に決選投票が行われることになった。
ルーラ候補は中道左派の元州知事で女性のチロ・ゴメス氏の票を獲得したい考えで、福音派はボルソナロを支持する。
(現実には、このCPIM中央委員会報告の後、決選投票が行われ、ルーラは僅差での勝利を収めた)


チリ新憲法案の国民投票における否決

チリの国民投票 チリの有権者は、ピノチェト時代の憲法に代わる新憲法を拒否した。 国民投票では、約62%が進歩的な草案に反対票を投じた。
否決された憲法案はきわめて進歩的なものだった。チリを「多民族国家」と宣言し、チリの先住民の権利を認め、中絶の権利など女性団体の主要な要求を盛り込んだ。また、政府機関の役職の50%以上を女性が占めることが認められた。
 しかし、条文のどこかに少しでも疑問を感じた有権者は、新しい憲法がもっと好みに合うことを願い、憲法全体を否決した。
否決された憲法は、世界で最も進歩的な憲法のひとつとなるはずだった。それはチリの先住民、環境、女性の保護を強化する道を開いた。また、医療や住宅などの社会財を提供することを国家に義務付けたものだった。
 今回の敗北は、独裁政権時代の現行憲法を支持するものではない。7月の世論調査では、74%のチリ国民が、否決された場合の新たな憲法改正手続きを支持している。

しかし、国民投票での敗北はチリの左派・進歩的勢力にとって後退であることは間違いない。

パキスタン選挙の結果

パキスタンで行われた予備選挙で、野党パキスタン・テヘレク党が議席の過半数を獲得した。 これは、与党連合にとって大きな打撃となる連合に大きな打撃を与えた。
また、この結果は、パキスタン国民が直面している経済的苦境を憂慮していること、そして新たな総選挙をもとめていることを示している。

英国の首相交代の意味 

英国議会の保守党の党首にリシ・スナックが選出され、首相に就任した。彼は今年になって3人目の首相となる。
英国史上初の非白人首相、2世紀以上ぶりの最年少だということ、国王よりも裕福と推定されるなど、さまざまに語られている。
しかし、注目すべきは、彼を選んだのが世界金融界だということだ。リシ・スナックはゴールドマン・サックスで、ヘッジファンドマネージャーをつとめた。金融界の生粋の出身者である。

CPIM第23回党大会政治決議は、スナックの首相就任について、「グローバル金融資本の支配力が強化された。経済だけでなく、多くの国で政治をますます左右するようになった」と指摘していた。

全面的な経済危機は、人々の暮らしに悲惨な影響を及ぼしています。そのため 保守党がますます支持を失う事態を招いた。
世論調査では、労働党が保守党に大差をつけてリードしている。しかし、労働党は保守党が追求する経済政策に対して、有力な代替案を提示することができているわけではない。
明らかに、保守党の議員たちは早期の選挙を望まず、それゆえ、解散・総選挙を回避したまま新しいリーダーを選出した。こうして2024年の任期満了まで政権にしがみつこうとしている。

上海協力機構(SCO)首脳会議が示す方向

2022年9月15日~16日にサマルカンドでSCO首脳会議が開催された。そこで議論された最も重要な問題は、加盟国の自国通貨を使用した貿易の拡大であった。
貿易における自国通貨使用のためのロードマップの作成と、代替的な支払・決済システムの開発は、SCOが近年取り組んでいる課題である。
ドルへの依存が益より弊害となる中、各国はドルへの依存度を下げ始めている。サマルカンド・サミットでは、加盟国首脳が、自国通貨による貿易を拡大するためのロードマップ案を承認した。これは、国際貿易の脱ドル化に向けた一歩となる。
IMFが発表している外貨準備高に関する統計によると 、各国がドル建て資産の保有高を減らしていることがわかる。2022年3月、世界の外貨準備に占めるドルの割合は58.8%に低下し、1995年以来の低水準となった。

中国共産党大会の評価

中国共産党第20回大会が2022年10月16日から22日まで開催された。
この5年間、中国共産党は100周年(1921年)記念に向け2つの目標、絶対的貧困の撲滅と中等度の繁栄の確立をかかげ活動してきた。そして「2021年までに中国に適度な豊かさのある社会を建設する」という最初の目標を達成した。

① 経済発展
そして世界的な経済危機のなかでも、共産党は国の経済をリードすることができた。2021年、中国の国内総生産は17.7兆米ドルに達した。それは世界の18.5%を占める。2013年から2021年までの年平均成長率は6.6%で、世界平均の2.6%を上回った。世界の経済成長への貢献度は平均38.6%で、G7諸国合計を上回った。
2020年には米国を抜き、初めて世界最大の貿易国となった。2021年には対外貿易額が6兆9000億ドルに拡大し、その座を維持した。中国の一人当たりの国民総所得は昨年11,890ドルに達し、2012年の数値から倍増した。
所得が増加し、教育や医療が改善された。これにより中国人の平均寿命は、世界平均を5.2歳上回る77.9歳となった。
② 党と国家の近代化
党綱領の改正は、1982年以降のすべての党大会の恒例行事となっている。
今回の綱領改正において、「中国の近代化の道を通じて、中華民族の若返りを各方面で進める」ことが党の中心的な任務とされた。
もう一つの大きな改正点は、「社会主義経済の基本的な制度(公有制を主軸とする制度と多様な制度を含む)」の原則を盛り込むことである。
もう一つの大きな改正点は、社会主義社会の原則に踏み込み、
* 公有制を主軸とし多様な所有制を併存させる
* 労働に応じた分配を主軸とし多様な分配を併存させる
* 社会主義経済の基本制度は社会保障の充実のために必要である
* 社会主義市場経済は、中国の特色のある社会主義の重要な柱である
という原則を盛り込んだことである。
③ 党規約を改正
2020年から2035年にかけて、中国をあらゆる面で現代社会主義の大国に建設する。社会主義現代化を実現するとの決意を盛り込んだ。
そして、2035年から今世紀半ばまで、中国を繁栄し、強く、民主的で、文化が発展し、調和のとれた、美しい偉大な近代社会主義国家に建設すること、これが第二の百年課題である。
(2049年の中華人民共和国建国100周年と重なる)

大会は、党規約前文に、より広範で充実した、より強健な中国を発展させるための記述を追加することに同意した。そして、より広範で充実した、より強固な人民民主主義を発展させること、民主的な選挙、協議、意思決定、管理、監督のための健全な制度と手続きを確立することに同意した。
党の規律に関する条項が改正され、特権を求める考え方や旧式の慣行に反対するために、あらゆるレベルの党役員に指示し、腐敗を抑制するための憲法条項が設けられた。

④ 党幹部の人事
大会では、新たな中央委員会と中央紀律検査委員会が選出された。 新たに選出された中央委員会は、習近平を総書記に再選した。政治局常務委員(総書記を含む)7名が選出された。うち4人が新規選出であった。また、習近平は中央軍事委員会主席にも再選される。

以下国内情勢の論評 省略

米核戦略の凶暴化について
反核医師集団の当面の任務

下記は11月3日開かれた北海道反核医師の会総会でのフロア発言をメモとして起こしたものです。
この日は記念講演として川崎哲さんの「核兵器禁止から廃絶へ」というお話があり、終了後のディスカッションの時間でお話させていただきました。

なにぶんにも、3分スピーチでほとんど骨組みだけですが、
詳細については下記をご覧ください
http://shosuzki.blog.jp/archives/89174879.html
(三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第一論文」)
をざっくりと紹介しました。
ご覧のように結構長くて重い文章なので、なかなか読んでいただけないと思います。そこで音楽ビデオ風に聞かせどころを押し出しました。
結果的には、メモ書きのつもりがだいぶ膨らんでしまいました。

1. 絶滅論の始まり

今から40年ほど前、世界を震撼させたのが世界核戦争の可能性と、それによってもたらされる「核の冬」、人類絶滅の予想図です。
それは当時、米大統領に就任したレーガンが打ち出した宇宙戦争戦略でした。
当時の時代背景はこうなっていました。アメリカを盟主とする資本主義諸国とソ連、中国、新興独立国が東西に分かれて対立していました。
その中でアメリカは新興独立国への各個撃破戦術を強め、直接の武力制覇、ときによっては核使用も辞さない危険なものでした。
現在では朝鮮、キューバ、ベトナムで具体的な核攻撃計画が実行寸前にまで至ったことが明らかになっています。
中でももっとも核戦争の危機が差し迫ったのが、1962年のキューバ・ミサイル危機でした。
それまでアメリカ国民は、もし核兵器が使用されたとしても、本国とは遠い世界の話だと思っていました。それが国内の主要都市がことごとく核の標的となり、自らの生存が脅かされていることに気づき愕然としました。
このとき全ての世界の人々にとって、世界核戦争と人類の絶滅は現実的で具体的な課題となったのです。

2.核抑止戦略への移行

資本主義諸国のソ連・中国・新興独立国への敵意は変わることなく続きますが、核問題はちょっと特別だという認識が広がりました。
戦争指導者たちは、「核兵器は使用する兵器ではなく核戦争を抑止するための兵器だ」という奇妙な理屈を持ち出して、通常兵器との差別化を図りました。
そのような戦略は主に米ソの間で進められ、「恐怖の均衡」に基づく相対的な安定がもたらされました。これを「相互確証戦略」といいます。
それ以外の国は両国の「核の傘」の下に入ることを求められましたが、新興独立国の多くは、それを「偽りの平和」だとし、軍事的従属を拒否しました。非同盟とは何よりも非核同盟でありました。

3.レーガン戦略と反核運動キャンペーン

1980年にレーガンが大統領に就任すると、「核の均衡」路線は投げ捨てられ、対ソ封じ込め路線が復活します。
多頭核弾頭と大陸間弾道弾(ICBM)を頂点とする核戦略に代わり、弾道弾は撃ち落とす、あるいは発射の瞬間に敵のミサイル基地を瞬殺する戦略が開発されようとしました。
このとき世界中の科学者が先頭に立って反核運動に立ち上がりました。
それが人類の絶滅の危機を訴えた「核の冬」キャンペーンです。このキャンペーンは米ソの科学者がタッグを組んで進められ、世界の年間平均気温が生存不可能な水準まで下がると推定しました。
これが「核の冬」仮説です。この仮説は世界中に反響を呼びました。「世界反核医師会議」(IPPNW)もこの時期に結成され、ノーベル賞を受賞しました。

4.核は抑止力から攻撃力へ

このキャンペーンのおかげもあって、核兵器増強の動きは一定の沈静化を見せました。しかしソ連・東欧諸国が崩壊すると、唯一の超大国となった米国はふたたび核支配を目指すようになります。
米外交主流派は「核抑止時代の終わり」という報告を発表しました。
そのなかで、旧式化したロシアの戦略核のすべてを一度の核攻撃で破壊できるとし、核が抑止力にのみ留まる必要はなくなったと述べました。
そしてこう結論しています。
「ロシアの指導者たちは、もはや生存可能な核抑止力を当てにすることはできない。なぜなら、米国は通常兵器と核戦力の両方において、現代の軍事技術のあらゆる次元で優位にたったから」である。
そして反撃を考慮しなくて良い核兵器は、抑止力ではなく先制攻撃能力だと規定しました。
ということで、核をめぐる「私たちの選択」も様変わりしている。かつての選択は核抑止戦略を是とし認めるか否かであった。大国間の約束事で作られた仮想世界だが、ある意味ではそれで済んでいた。
しかしアメリカの核戦略が凶暴化し、「先制攻撃症候群」に陥ったいま、そのような選択肢はもはや残されていない。いま私たちの前に提示されているのは、米国が全世界で展開する「核のチキンレース」に目下の同盟者として参加するかどうかという選択だけだ。それは選択というにはあまりに虚しい、アメリカに自らの運命を預けるかどうかの選択であり、とどのつまりは選択権を放棄するということだ。


5.各個撃破政策から対ロ対中の正面戦へ

最近の核戦略のもう一つの特徴が、比較的小さな国を個別に撃破するやり方から最大の仮想敵国を正面に据えて、これを打ち破る戦略への転向です。
この戦略は必然的にチキンレースの様相を呈してきます。非常に危険な賭けです。
しかし米国は、核戦力の差を根拠にして、勝利を確信しているようです。だからひょっとすると彼らはチキンレースだとは思っていないかも知れません。
私は、ウクライナ戦争のもっとも恐るべき本質はここにあると思っています。

6.「核の冬」への攻撃と反撃

米国の軍産複合体が核戦争の勝利と生き残りを確信するのには、「核の冬」への対抗キャンペーンが成功して、国際反核世論が弱まっていることへの侮りもありそうです。
メディアと軍は、「核の冬」の主張が何らかの形で「誇張」されたものと非難しました。警告を鳴らす科学者を変わり者であるかのように描きました。
その典型が「核の秋」論です。彼らは、地球の全休温度が摂氏20度下がっても「それは秋だ」とし、ゆえに「核の冬は誇張だ」と主張しました。
その手口は、現在に至るまで何十年にもわたって、核戦争の影響を軽視するために使われてきた。

7.いま一度「核戦争の脅威」を科学的に確証し、核先制攻撃論者に反撃を

「核の秋」論への反撃はすでに始まっており、その欺瞞性も明らかにされていますが、っメディアの権力より姿勢も相まって、まだ多くの市民の共通認識とはなっていません。
大国間の戦力バランスという抑止力が失われている今、各戦力の使用を防ぐ力は世界の平和勢力の戦いにかかっています。
40年前の国際反核平和勢力の盛り上がりをもう一度再現することが求められています。若い人の多くは、核の冬という言葉を聴いたことがないかも知れません。
科学者や医師などが、もう一度運動の先頭に立つことが求められていると思います。

詳細については下記をご覧ください
http://shosuzki.blog.jp/archives/89174879.html
(三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第一論文」)


2016年02月21日に「 ゲノム研究 年表」という記事を発表した。

17年6月に第1回目の増補、7月に第2回目の増補を行ったが、その後5年間手を着けていなかった。今回、少しづつゲノムの世界も晴れ渡るとまではいかないが、少し霧が晴れて見通しが良くなってきたので増補版に着手する。

従来型の遺伝子操作の枠に留まらず、ゲノムそのものの基礎研究分野にも手を広げて、全体像の掌握に務めたいと思うが、現実の研究の発展スピードはあまりに早い。
研究の裾野がどこまで広がっているのか検討もつかない。ここはまず作業を開始して、作業しながら考えることにする。

2022年11月27日 結局、新たに新年表を立ち上げることにしました。下のリンクをクリックしてください。


出典





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2022.03
Kindai University
News Release


要約

下垂体後葉ホルモン、「バソプレシン/オキシトシン」は、脊椎動物の神経内分泌系の"要"です。その同族ペプチドを、原始的な左右相称動物であるヒラムシの"原型脳"から発見しました。

左右対称動物の分岐

ヒラムシは扁形動物門に属し、プラナリアと同じ仲間です。“脳”のプロトタイプを有することで知られています。

我々はこの同族ペプチドをプラチトシン(platytocin)系と名付けました。プラチトシン系は、これまで報告のあった下垂体後葉ホルモンの同族ペプチドと比べて、進化的に最も古い動物からの発見となります。

今回、プラチトシン系は哺乳類と同様に抗利尿ホルモンとして機能していることが確認されました。今後、神経内分泌系の進化起源の解明が期待されます。

考察

下垂体後葉ホルモンは、脊椎動物と無脊椎動物をふくめた左右相称動物に普遍的に存在しています。
その発祥が共通祖先を遡って存在していたか、その進化起源がどうなっているかは未だ不明です。

血管-循環器系を未だ獲得していないヒラムシで、神経内分泌系がはたらいていることをとても興味深く感じます。

下記もご参照ください

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