鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。


地学雑誌
JournalofGeography
114(3)410-4182005

磯崎行雄


1.古生物学と層序学

最も古典的かつ基本的なものに古生物学と層序学的がある。
これは地層の累重関係に基づき、各種生物の進化を実証していく方法である。
19世紀初頭、W.Smithが化石層序学を確立。その後長期間を欠けて、地質年代表を作成してきた。
これにより化石群が時間の経過と共に変化することが明らかになった。
20世紀半ばまでに地球の年齢が45億年以上に及ぶことが明らかになった。この内、生物の化石が確認できない先カンブリア時代は、約40億年を占める。
20世紀後半になるとし、先カンブリア時代の地層からも化石が発見されるようになった。そして1990年代後半からはさらに急展開が起きている。

2.地球外現象と生命進化

1980年にカリフォルニア大学バークレー校の研究チームは中生代/新生代境界(約6500万年前)での恐竜、アンモナイトなど中生代型生物の絶威の原因が、巨大隕石衝突であったという仮説を提起した。そして10年後にそれが実証された。メキシコのユカタン半島で衝突を示す巨大クレーターが発見されたのである。
現在では「隕石衝突と生命圏の応答」というパラダイムが初期地球の生命研究において重要となっている。
1990年代には、「カンブリア紀の生命爆発」事件や「全球凍結」事件が話題となった。

3.生命の起源と化学化石/ゲノム解析

1996年に南極に落下した火星起源阻石の中に原始的なバクテリア化石が発見された。NASAはこれを元に「火星生命の発見」を公表した。これが火星ブームの火付け役となった。

2002年には火星と地球の形成史を比較すると、生命が誕生した可能性はむしろ初期火星において高かったという見解が発表される。Clinton政権がこのような流れを全面的にバックアップした。

この頃から物体を構成する有機高分子(biomarker)や軽元素の安定同位体比などの測定を通して、原始生命の情報が得られるようになる。これらは化学化石(chemofossil)と呼ばれる。

現在では、少なくとも初期生命は38億年前にはすでに生息していたこと、おそらく最初の生物の出現は安定した海が形成された40億年前まで遡るであろうことがほぼ確実となっている。

もう一つの進歩の流れとしてゲノム解析が挙げられる。生物分類の体系も、最近20年の問にすっかり様変わりした。

生物の系統樹で見ると以下の点が挙げられる。
*生物界は圧倒的にバクテリアによって構成されている
*多細胞生物の位債は、従来のイメージからは大きく変化した。特に後生動物(いわゆる私達が通常思いつく動物)や植物は、その中でも実に小さな枝に過ぎない。
*動物の小枝は植物から大きく離れ、菌類(キノコやカビ)のすぐ横に位置付けされている。
*ここで紹介したこれらの最新の系統樹は、数年後には大きく改定されていく可能性がある

系統樹1
系統樹2

図の説明: 
上図:現世生物全体の遺伝子系統樹(Knoll、2003を改変)。生物は真正細菌、古細菌および真核生物の3つのグループ(ドメイン)に区分される.
下図:真核生物のみの詳細系統樹(Porter、2004).分子及び生物組織の超構造のデータに基づく復元

付け足し

論文は2005年、系統図は2003~2004年のものであり、ゲノム解析の飛躍的発達はその後の10年であるから、その点が不満である。それにあまり見やすいものでもない。もう少し新しいものを探してみたい。

論文の最後に書かれた一文が印象的である。
一般社会の退職ラッシュと同期して、間もなく日本の学界や大学において団塊世代の研究者の「大量絶滅」が始まろうとしている。大きな地質時代境界と同様に、これを機により進化した新しいタイプの研究者が一気に現れるかもしれない。


Oxfam
January 23, 2023

スティグリッツが不平等の現状を評価する

Checking in with Joseph Stiglitz on the state of inequality


リード
ジョセフ・スティグリッツが、戦争による利益供与、格差の拡大を企む政治家、そしてさらに希望の源について語る。オックスファムのスタッフとの対話。
オックスファムの不平等に関する第10回年次報告書の発表に先立ち、スティグリッツと語る機会を得た。彼はグローバル化と不平等に関して語った。

Joseph_E._Stiglitz
___________________________________________

今年のオックスファムのダボス会議報告書について

聞き手B: オックスファムはダボス会議報告書を発表しましたが、富の蓄積に関するショッキングな数字が目につきます。食料品やエネルギー価格が高騰しています。経済的不平等はどの程度深刻なのでしょうか。

Stiglitz: 私はいつもみなさんの年次報告書を楽しみにしています。ズバッと物事が表現されています。
以前の報告書では、世界の富の半分を持つ全ての金持ちをバス一台に乗せることができると言っていました。その数年後には、バスは必要ない、ミニバンで十分だと言っています。それほどまでに格差が広がっているのです。
COVID-19以降、世界的な不平等が露呈しました。今それはますます悪化sしています。まさしく異常な事態です。オックスファムの「不平等報告書」は、富裕層批判に焦点をあてています。
彼らのために多くの人々が職を失い、食糧や原油の値上げに直面して、非常に困難な生活を強いられています。そんな時代において、富裕な個人・企業がいかに強盗顔負けに儲けたことか、それは衝撃的なことです。
富の増大はまさに驚異的です。Oxfamのレポートから数字を拾いましょう。
2020年以降に新たに生まれた富は42兆ドルに相当します。1%の富裕層は、その3分の2近くを握りました。これは世界人口の下位99%のほぼ2倍に相当します。まさに驚異的な数字です。
しかし、パンデミックとパンデミック後の世界は、事態をさらに悪化させました。私が最も怒りを覚えたのは、世界中の人々が原油価格の高騰に直面しているとき、石油会社やガス会社が何百億ドルもの大金を手にし、自社株買いや一時的な配当などに回していたことです。

このようなアコギな儲けに対して課税することで、富を共有しようという提案がなされました。その利益の源泉は、まずはウクライナでの戦争でした。
しかし、その「超過利益税」が提案されると、彼ら(企業)は「とんでもない」と猛反対しました。ヨーロッパのいくつかの国は「超過利益税」を実施していますが、アメリカではやっていません。

「アメリカ復興法」の素晴らしい一瞬

聞き手A: その通りです。ところで、今アメリカでは、事情が少し改善してきているのではないかという声があります。それにはどうですか?

Stiglitz: それについては、ちょっと話が入り組んでいます。
2021年、バイデンが就任してアメリカ復興法が成立した直後、素晴らしい一瞬がありました。1年間で子どもの貧困を40~50%減らすことに成功したのです。これは驚異的なことです。
それは、私が長い間言い続けてきたことを、事実でもって示してくれました。
不平等とは選択である。私たちは、その気になれば、いつでも子どもの貧困を40~50%減らすことができたのです。しかし、バイデン大統領のような人物と、パンデミックのような瞬間をともにしたからこそ、私たちはその選択の結果を共有できたのです。
しかしその後、共和党、民主党の一部さえも、「よし、もっと不平等にしてやれ」(let's have more inequality)と言ったのです。信じられません。
このようなやり方は、私たちの未来を危険にさらしています。なぜなら、貧困の中で育った子どもたちは、ものを生み出す力が低いからです。
また貧困は一方に不満をもたらします。不満は、政治や社会、経済にも悪影響を及ぼします。
私たちの社会で、多くの子どもたちが貧困の中で育つことは、愚かなことだと私は思います。
もうひとつ例を挙げると、私がひどいと思ったのは 、FRBが「失業率を上げたい」と言い続けてきたことです。彼らは「それは多くの痛みを伴うだろう」と続けます。
もちろん、彼らは痛みを感じることはないでしょうが...。
失業率を3.7%から5.1%に上げるというのは、一見小さなことのように見えます。それらはたんなる数字のように見えます。しかしそれは生身の人間なのです。
失業率を1.4%引き揚げるとしましょう。すると、社会の底辺の人々、たとえばアフリカ系アメリカ人の若者では、失業率は5.1%ではなく、20%程度になります。そうなったら、私たちの社会はどうなってしまうのでしょうか。

富裕層への課税は富裕層にとっても必要

聞き手A: 極端な不平等と戦うためにできる選択肢の1つは、超富裕層への課税です。
というのも、世界の議論は「金持ちに税金をかけるべきか?」という問いかけでしたが、今は「金持ちにどれだけ税金をかけるべきか」という具体的な議論に移ってきているように感じるからです。
興味深い歴史があります。かつて米国は世界で最も累進的な税制を採用していました。1950年代から80年代前半にかけては、高額所得者の所得税率は平均で80%を超えていました。
超富裕層への課税率はどれくらいが妥当だと思いますか? 特に今の時代の億万長者には?

Stiglitz:  億万長者の多くは気付くべきです。彼らがその富の多くを運から得ていることを。
たしかに彼らは何か積極的に動き、何かを作り出しました。でも同じようなことをした人はたくさんいたのではないでしょうか。例えば、FacebookやMySpaceがそうです。たくさんの企てがあって、そのうちのひとつが当たるという、宝くじみたいなものです。
「いいね!」をクリックするとランクが上がるというアイデアを思いついたことが、結果的に大きなイノベーションであったと言えるかも知れません。
しかしそんなことに500億ドル、1000億ドル、1500億ドルの価値があるのでしょうか?それは市場が決めた価格に過ぎません。
今度はイノベーターの立場になって考えてみましょう。
たとえばもし、1000億ドルを手にしたのに、50億ドルしか持ち帰られないとしたらどうでしょう。
私が思うに、50億ドルや100億ドル以上の富の大部分を取り上げても、彼らはそれをやり遂げたでしょう...。つまりこれらのイノベーションの原動力は市場にあるのではなく、創造しよう、成功しようという意欲なのです。
富裕層の富の源泉はもう一つあります。彼らのほとんどは、その富の何分の一かを他人の労働から得ています。時には市場そのものが合法的に取り立てることもあります。億万長者の中には、露骨に労働者を酷使し、嘘をつき、ごまかそおうとする人もいます。
ですから、エリザベス・ウォーレン(民主党進歩派の上院議員)が提唱している富裕税は非常に合理的な税制だと思います。
(この案では、最も緩い場合、500億ドル以上の収入に対し1%、最も重い場合は50億ドルに対して3%の税を課す)
そして、この国の問題を一部でも軽減できるようしなければなりません。それは本当に長い道のりを歩むことになるでしょう。
私は、事業家が事業を成功させることに反対しているわけではありません。社会がよりよく機能するように成功の分前を分かち合うのが願望です。

富裕税の最高税率は70%くらいが妥当

聞き手B: 確認したいのですが、具体的に最高所得者の限界税率についてです。過去には90%以上の税率が設定されたこともありました。今日、このようなパーセンテージは現実的なのでしょうか?

Stiglitz:  財政学のトップクラスの経済学者たちが、利害得失を慎重に検討した結果、このような計算がなされました。
課税を強化すれば、上層部の人々は少しばかり働きにくくなるかもしれません。しかし、その一方で、より平等でまとまりのある社会を実現することで、私たちの社会は利益を得ることができます。それがさらなる成長を促します。
ということで、労働所得については、70%の税率が合理的というのが、一般的なコンセンサスだと思います。もう少し高くてもいいかもしれませんが、あまり細かい議論は無意味でしょう。
しかし、ここで話しているのは、富裕税についての話でもあります。私の考えでは、富(資産)には所得よりもっと高い税率をかけるべきなのです。なぜなら富の多くは相続された富だからです。私の友人の一人は、これを「精子の宝くじ」と表現しています。
資産への課税税率は低すぎます。株式の配当への課税は最高でも20%の課税です。株の取引による利益(キャピタル・ゲイン)も低い税率しかかけられていません。さらにアメリカでは、資産を子供に譲れば、株式取引税はただです。まったくなんということでしょう。

中低所得国における富裕層をどう取り扱うべきか

聞き手B: 億万長者について考えるとき、私たちはトップの富の集中について考えます。たとえばイーロン・マスクやビル・ゲイツを思い浮かべます。しかし、このようなグローバル・ノースの白人男性だけでなく、低・中所得国でも富が極度に集中しています。
そこでお伺いしたいのは、先進国以外でも富裕税による格差改善は実現可能なのでしょうか?
中低所得国では対外債務が山積みになっています。北側諸国からは緊縮財政の推進が押し付けられます。財政が逼迫している以上、政府は緊縮財政に走るしかありません。緊縮政策は明らかにエリートが推し付けたものです。またIMFという巨大な支配的外部勢力によって推し進められたものです。
しかし、中低所得国において富裕税は緊縮財政の代替案となりうるのだろうか、どれだけの効果があるのでしょうか。富裕層への課税はどれくらいの効果があるのでしょうか?

Stiglitz:  ああ、莫大な範囲があると思います。まず国際社会がやらなければならないことは、途上国に作られた資産の隠し場所、タックスヘイブンを閉鎖することです。この存在のおかげで、どれほどの富が逃げ出していることか...。
次に中国やインドなど新興国の富裕層への課税です。そこでは、億万長者の数が凄まじい勢いで増えています。その気になれば、それらの国々は米国同様にビジネスマンに課税できます。
新興国では、多くの富が国をまたいだ「共同市場」によって生み出されています。それは発展途上国や新興市場における富の蓄積を促進するものです。同時にそれは隠れた汚職の温床です。
国は原理的に、国民がどこで所得を得ようと正当に課税することができます。タックスヘイブンに逃すようなことはしません。もちろん完璧にはできていませんが、もっと徹底するべきです。国際的な税捕捉能力は重要です。他の国にもさせてはなりません。

新植民地主義の残滓との戦い

聞き手B: タックスヘイブンについて考え、その国際的な解決の方向に話が進んできました。
これからは解決の土台となる「多国間主義」について話を伺いたいと思います。
コロナのパンデミックの際、ワクチンに関する議論が闘わされました。あなたはとても大きな力を発揮しました。このような多国間協議の場では、貧しい国々が議論から締め出され、挙句の果てに不利な条件を突きつけられるということが多々見受けられます。
このような新植民地主義的なスタイルがいまだに残っていることに、私は驚きを隠せません。どうすれば、この時代遅れのやり方を変えることができるのでしょうか?

Stiglitz: 本当に良い質問ですね。あなたの言うとおりです。税に関する包括的な枠組みを作ろうとする努力は、より一層進んでいます。
しかし、貧しい国々はその場にいるのですが、その声に耳が傾けられることはありません。会話は、貧しい国の声が事実上聞こえないようにして構成されているのです。OECDの税制改革に関するイニシアチブの結果を見ても、それがよくわかります。発展途上国がどれだけの追加資金を得ることになるのかさえ公表しなかったのです。その理由は、予備的な計算をしたところ、途上国が手にするのはあまりにわずかな金額だったからです。だから、あなたが尋ねた質問「それをどう変えるか?」は正しいのです。
新しい地政学が生まれつつあります。冷戦時代には、第三世界の人々の心をつかむために、一種のライバル関係がありました。しかし、80年代後半に冷戦が終結すると、そのような競争はなくなりました。
新たな冷戦の時代に突入し、私たちは欧米の失敗を目の当たりにしている。一方でロシアのウクライナ侵攻を見ると、とても非道だと思う。 発展途上国や新興国からウクライナへと、私が期待したような支援がなかったことは残念です。しかし、彼らの怒りは理解できます。
彼らは欧米諸国にこう言います。「COVID-19で我々が死にかけたとき、あなたがたは知的財産を共有しようともしなかった。そして、今もその知的財産を共有しようとしない。あなたがたは私たちの命よりもファイザーとモデルナの利益を優先した。そして今、ヨーロッパで戦争が起こった。あなた方は我々に支援を求めているが、我々は食料品や石油価格の上昇を負担するという代償を十分支払っている」
だから、その怒りはよく理解できます。
それだけではありません。金融政策を変更して、より高い金利を支払わなければならなくしました。私たちの負債の多くはドル建てであり、その借金は膨らみ、金利は上がります。結局そうしなければ借金を返せないから、緊縮財政を強いられます。
新冷戦の新しい現実は、発展途上国にもっと注意を払うよう、米国とヨーロッパに強制するでしょう
。これが質問に対する答えです。

平等な世界のために何が必要なのか

聞き手A: あなたがおっしゃることは、世界中で一緒に仕事をしている人たちから聞いた話と、本当によく似ています。
最後の質問に移ります。
あなたは不平等と立ち向かってきました。時には、非常に難しく感じることもあるでしょう。平等な世界のために戦い続けるために、何が必要なのでしょうか?

Stiglitz: 私は、このような社会的不公正が存在する世界を受け入れることができないのです。より良い世界を作るために自分ができることをしていないと思うと、夜も眠れなくなります。
歴史的に見れば確実な進歩があったと思います。2歩進んで1歩下がるという感じもしますが。
『グローバリゼーションと不満』(Globalization and Its Discontents)を書いたころは、IMFや緊縮財政を批判していたがもっとひどい状況だったと思う...。
今、格差社会がより注目されています。
危機の中で資本市場を運営するためには、資本への規制が最善の方法かもしれないという発想があります。それと裏腹の関係で、緊縮財政は痛みを伴い、成長はおろか債務の支払いにも逆効果ではないかとの認識もある。「債務の持続可能性」(debt sustainability)というような新たな技術的発想についての新しい知見も蓄積しています。
私は、進歩や理性、進歩を信じる啓蒙主義に傾倒しすぎているのかもしれない...。
私は、かなり学術的な観点からこの問題に取り組んでいます。私は啓蒙主義的な価値観を強く信じています。もし共同で論理を立て実証するならば、理性と道徳的善性、つまりアダム・スミスが『道徳感情論』で語った共感が、私たちを正しい方向へ導いてくれると信じています。

聞き手B: 我々は世界の状況について考える厳しい一週間を過ごしてきました。その中で今日の話は貴重なものでした。
相変わらず、あなたはとても刺激的で、勇気を与えてくれました。
今日も時間を割いていただき、本当に感謝しています。ありがとうございました。


伽耶と加羅と任那

最近はこの三者のあいだでは伽耶の勢いが盛んで、加羅という呼称は殆ど聞かない。
任那は日本書紀にはっきりと記載された国名であるにも関わらず、なにか使うこと自体が「親日」派の象徴であるかのような扱いだ。

これはあくまでも、古書籍上の呼称の問題なので、本来あまり議論の対象となるはずがないのだが、どうしてなのか。

始まりと終わり

私としては漢により楽浪郡が造設された時点が出発点であるべきで、とくに史記と漢書に記載された事実を議論の出発点とすべきだと思う。いわば紀元零年である。

もう一つのメルクマールが562年の任那滅亡である。これを期に国家としての任那は滅亡し、その主部は新羅に吸収され、残余は百済のものとなった。
この終末の時期に最後の呼称として存在したのは任那であり、加羅も伽耶もすでに存在していない。

歴史(文献)の事実として見ればこれだけの話である。

資料評価の問題

紀元零年はほとんど問題がない。なぜならそれは中国の公式文献を元にした年代措定だからである。対立するような他の文献がないことも、もう一つの理由になる。

しかし滅亡の時期においては絶対的な歴史的(文献的)根拠はない。

第一に、最も客観的な根拠となりうる中国の公式文献がない。なぜなら当時の中国は隋が全土を統一する以前の、政治的混乱の時代だからである。

第二に、成立年代が最も古い日本書紀(紀元700年前後)は、失われた百済本紀を基礎に記述されたものであり、その正確さは百済本紀に依存しているのである。
日本側の歴史的事実との突合せは、皇紀2600年神話との整合という意図に基づく改ざんが顕著である。ゆえに絶対年代に関しては100%偽造である。

第三に、朝鮮側の文献的事情はさらに劣悪で、本格的な史書(現存する)の編纂は紀元1千年まで下ることになる。したがって日本書紀と三国史記を突き合わせながら時系列を編纂していくことになるのだが、それはガラス細工のように脆く、作っては壊されの歴史を繰り返してきた。

とくに第二次大戦後は、朝鮮側史学界に「反日」イデオロギーが持ち込まれ、感情の暴発は学的論争を大いに阻害してきた。
その典型が伽耶・加羅・任那問題である。

伽耶問題は決着済みのはずだが

私の考えるところ、加羅vs伽耶問題は以下の見解でほぼ決着済みの話である。
朝鮮古代史の基本史籍である『三国史記』ではおもに加耶として出てくるが、他に伽耶、加良、伽落、駕洛という表記もある。『三国遺事』ではおもに伽耶であるが、『日本書紀』には主に加羅である。『梁書』には伽羅、『隋書』には迦羅、『続日本紀』には賀羅ともでてくる。このように表記は様々であるが、同じ語の異表記であり、加耶 ka-ya は加羅 ka-ra の r 音が転訛したもので朝鮮語ではよく見られる。つまり、加羅=加耶である。
これは「世界史の窓」というサイトからの引用であるが、この引用そのものが、田中俊明『古代の日本と加耶』(2009 日本史リブレット70 山川出版社)からの引用である。

読めば分かる通り、伽耶は加羅のことであり、その訛である。朝鮮側が頑張るのは理屈に合わない。加羅という国を否定するのは、好太王の碑を否定するのにも似て非合理である。

伽耶一覧

なお、倭の五王の表奏文中、加羅の国号が途中から加えられた経過については、下記のような説明がある。
「任那」はかつての弁韓であり、新羅や百済には属さず、倭の勢力に依存し、独立的な様相を呈していた。…その後、「都督諸軍事」に「加羅」が加号されるが、『南斉書』に建元元年(479年)加羅国王が独自に南斉に朝貢し、その王が「輔国将軍・加羅国王」に封冊されることと関係がある。つまり、高霊加羅の独立的な動きを背景にした称号追加だった。
(ウィキ:「好太王碑」の記事より)
つまり加羅は、当初は任那の一部として認識されていたが、4世紀中頃には自立傾向を強めていたと考えられる。

その際、旧弁韓の東半分が加羅、西半分が任那という棲み分けになっていたのかもしれない。ただし6世紀に入ってからは、任那ともども衰退し、最後は任那の一部として没落することになった、ということになのかもしれない。なお「任那日本府」は日本書紀のみに出現する名称であり、取り扱いは保留すべきである。ただ後期加羅領域内に倭館があることは念頭に置くべきか。

伽耶 地図

    「倭の五王」時代の加羅国。赤丸()が現在の倭館に相当する。

そのように想定すると、韓国史学界が伽耶の呼称にしがみつき、任那をネグレクトする理由が説明つく。分からないのは、日本の研究者の間にも韓国史学の動向に従う人が少なくないことである。もう少しその人がたの言い分を聞いてみたいと思う。

抄読
「プラナリアを用いた脳の進化と再生に関する分子・細胞生物学的アプローチ」
阿形清和: 発生・再生総合科学研究センター、進化再生研究グループ
http://www.zoology.or.jp/html/04_infomembers/04_gakkaisyourei/news/200209/agata.html

多分、日本動物学会雑誌に掲載されたエッセーと思われるが詳細不明。著者は京大の岡田節人門下で現在は姫路工大に在籍。

はじめに

のっけからワクワクするようなエピソードが紹介されている。
…モーガンは、ショウジョウバエの前はプラナリラアの再生を研究していた。
プラナリアのエサとしてショウジョウバエを導入した。1900年のことだ。ショウジョウバエは一気に、遺伝学と発生学の主流へとのし上がっていった。
そこで著者らはプラナリアの地位奪還にむけ、研究を開始した。1991年のことである。
ついで自らのプラナリア研究のきっかけ
…研究を始めてわかったことは、これが分子・細胞生物学的アプローチをするには極めて扱いにくい生き物であるということだ。全身に分布する腸・大量に分泌される粘液が障壁となった。
細胞研究の前処理として、塩酸処理・カルノア固定・ヘパリン処理といった独特のプロトコールを作るのに3年の歳月を要することになった。
…けれども、問題点を克服した先には、多くの楽しみと驚きがあり、サイエンスをしていることの喜びを堪能させてくれた。
プラナリアと言えば当然再生。再生の貴女が詳しく述べられているが、ここでは省略する。

プラナリアの脳

脳の分化に関わるのは3種類のotd/Otx ホメオボックス遺伝子群である。その後次々と神経マーカーが同定された。
これらの発現により中枢神経系が構造化される。
それは脊椎動物の神経胚期に一過的に観察される一次神経系に類似する。
著者らはこのことから、中枢神経の基本的なパターンはプラナリアが中枢神経系を獲得したときから成立してしていたと主張している。
そして神経管成立の機序として
*外胚葉から神経細胞が個々の細胞単位で発生した
*シート状にまとめて神経細胞に発生した
などの可能性を考えている。

脳神経系の進化の本質

著者は、脳神経系の基本構造(遺伝子構造)がその始原から大きな変化はないこと、神経細胞の多様化が主たる進化であるという仮説を提示している。

プラナリアでは一種類の神経幹細胞がすべての神経機能を果たしているが、進化の過程で多様な細胞に分化し専門化することで効率を上げている可能性がある。

省略しすぎて訳の分からない文章になってしまったが、いくつかの鋭いツッコミは記憶に残るものとなるであろう。
こうやって挟み撃ちをしていくと、ヒドラとプラナリアのあいだに深い進化の崖があることが予想される。ただしプラナリア脳に関する諸事実が、研究者の間で確認されているものかどうかはわからない。そこのところを固めつつ進化の流れを遡る作業が必要のようだ。

「個体発生は系統発生を繰り返す」というのは個体発生=発生学をやっている人にとっては不磨の大義であろう。
もう少し長く引用するとこうだ。
「個体発生の初段階において、短時間にわれわれの眼前に起こる諸変化は、その生物の祖先が、その古生物学的発展の間に長い年月をかけてゆっくりと経過した諸変化の短いくり返しにほかならない」:Ernst Haeckel「有機体の一般形態学」(1866年)
しかし系統発生=進化学をやっている人から見れば、限りなく誤りに近いということになるだろう。生命の誕生から40億年、何度も絶滅に近い事態を乗り越えながら多様化→適応を繰り返すことによって生きながらえてきた生物にとって、進化は何よりもまず葛藤であったはずだ。
だからそれを十月一〇日に短縮し、ゲノムの予定調和的な発現によって生体にまで至る無葛藤の形而上学的過程は、到底発生学とは言い難いものがある。
もちろんその過程の探求はそれはそれとして重要なものだし、それが進化の歴史を解明する上で大きな力になることについては異論はない。だがピタゴラスイッチでは進化の本当の理由は説明できないのだ。

私としてはヘッケルのオリジナルの主張について、個体発生の定義としては原則的には受け入れる。ただし証明のためにつけた図表があざといことも認める。
根本的な問題は、それが、
とくに発生学者の側から、進化の設計図のように語られるところにある。

以上、とりあえずヒドラの神経について勉強した感想。
つぎはプラナリア



1.神経系は真の多細胞生物の象徴

腔腸動物は動物界で最も単純な神経系をもつ。系統樹の上では、単細胞の原生動物の次に二胚葉性の海綿動物があり、その次に刺胞動物門が現れる。
すなわち、腔腸動物は個体性がはっきりした真の多細胞生物であり、神経系は個体性の本質的特徴をなす。

2.生体の体制・構造

ヒドラの体制は単純で、内胚葉と外胚葉の二層の上皮細胞で体ができていて、内外上皮層の間は非細胞性の間充織が存在する。
上皮細胞は、その基部に筋肉繊維を持ち、筋肉細胞としても機能している。外胚葉は縦走筋で内胚葉が輪状筋である。神経細胞は、上皮細胞層に存在し、神経突起は上皮細胞の筋肉層の上を走る。

体は、両端が閉じた管で、一方の端が頭部となり、口丘と6本前後の触手からなる。他端は足部で、肉茎と足盤よりなる。

ヒドラは、一個体が約10万弱の細胞を含む。
細胞系譜は、外胚葉上皮細胞系列、内胚葉上皮細胞系列、間細胞系列に分けられる。
この内間細胞系列は、多分化能幹細胞である間細胞、その分化産物である神経細胞・刺胞細胞・腺細胞などに分かれる。

3.散在神経系の構造

神経節や脳のような発達した神経集中は見られず、体全体に網目状神経ネットワークを形成している。樹上突起と軸索の区別は見られない。

基本的な神経系としてのセットは揃っている。しかし神経集中を持たない散在神経網である。

個々の神経細胞は多機能的である。すなわち感覚、運動、介在ニューロンであり、神経分泌細胞である。神経細胞は、成熟個体においても常に幹細胞より分化・生産され続けている。そして体の先端より抜け落ちている。爪や毛髪のごときである。

神経機能を見ると、単体で各種の機能を果たす。行動学的には高等動物では中枢神経系が行う各種の反応を司る。すなわち、複数の感覚入力の統合による行動決定、原始的な学習である慣れなどである。

同時に、散在神経系ならではの地方分権的な神経機能も見られる。散在神経系は、神経細胞の継続的な生産、神経細胞の激しい入れ替わり、樹状突起と軸索の区別の付かない神経突起、ペプチド類を主にした神経伝達を特徴とする。

4.神経環:中枢神経系の原型か

ヒドラの口丘の回りにみられる神経環は中枢神経系の原型と見られ注目される。基本的には、後口動物も前口動物も、下等無脊椎動物の中枢神経系は、口あるいは食道をとりまく神経環である。
ヒドラ神経環

この神経環は、
1) 原始的ながら神経細胞の集中が
見られること、
2) 神経細胞の発生動態が高等動物に近いこと、
3) 口あるいは食道をとりまく神経構造であること、
を考えると、原始的な中枢神経系かもしれない。

5.神経伝達物質の起源と進化

高等動物の神経伝達ではコリン・モノアミン・アミノ酸などの古典的伝達物質が主たる機能を担い、その脇役として、ペプチドが考えられている。
ヒドラの神経系でもペプチドが神経伝達物質として機能している。いっぽう、コリン作動性ニューロンはない。モノアミンは、発光反応などに関連しているが。ヒドラについては、まだ良く分からない。アミノ酸類についても同様である。
ヒドラを基準に考えると、神経伝達物質の起源はペプチドではないか。そう考えると、ペプチドの働きの多様性の意味が見えてくる。

神経伝達物質の変化については以下のような仮説が成り立つかもしれない。
神経系は、最初はDNA/タンパク質系を使って神経ペプチドを合成し、多様な神経伝達機能を担っていた。その後、アミノ酸を出発とした新しい代謝系が付け加わり、さらに古典的な伝達物質が現れた。伝達物質の変化は、高速で高効率の伝達という要請に従って現れ、機能するようになった。

6.まとめ ヒドラ神経系研究の意義

神経系を研究する場合、それがどのように機能しているかという問いと同時に、
1)それが、なぜ・どのようにしてその様な機能・戦略・機構を持つにいたったか。
2)現存する多様な神経系の構造と機能とはどういう関係にあるのか
を比較検討することは、神経系を深く理解するために不可欠である。

ヒドラの散在神経系は、高等生物の神経系との共通性と、散在神経系ならではの独自性を持ち合わせている。
神経系の始原であるヒドラの神経を研究するということは、現存する多様な神経系を単純なものから複雑なものまで系統樹に従って並べて、一番単純なものから眺めることに通じる。
それによって、比較神経生物学の様々な新しい視点が得られる。その視点はこの地球上に神経系が現れ進化していった過程についてさまざまなヒントを与えてくれる。

ちくま新書で「脳の誕生」という本が出版されている。副題は「発生・発達・進化の謎を解く」というきわめて魅力的なものだ。
最初の読後感。なかなか読むのに辛い本だ。題名はこうするべきだった。「ゲノムで読む系統発生」
「誕生」という言葉に騙されたのがこちらであって、発生学の通俗本だと言われればまさにそのとおり、嘘は言っていない。脳・神経の創世記の物語を期待したほうが悪いのだ。

しかし個体発生のステップを一段一段踏まされるのは辛い。その過程はゲノムの最新知識を含む専門用語で満たされている。なぜ体細胞生物が多細胞になって、相互連絡のネットワークが形成され、発達・多様化していったのかは触れられないまま、3分の2くらいまで進んでいく。
「発達」については脳の生後の発達をゲノム発現の順に従って説明しただけであり、発達心理学やパーソナリティーへの言及はない。何よりも臨床への関心がないので「発達」は「生下後の系統発生」に還元されてしまう。やっとたどり着いた「進化」の章はつけたり程度の記述しかなく、断片的事実が脈絡なく綴られている。
総じて言えば、「なぜ?」という問いかけを無視した「トリセツ」である。我々の如き素人に脳の誕生物語を読み聞かせるというたぐいのものではない。あざとい形容詞や間の抜けた喩え話が、ひたすらつづく。最後に「だから何さ!」と叫んで放り投げてお仕舞い。
申し訳ありません。他意はないのですが、つい悪態をつきたくなる。高校の生物学の教科書と共通するところがあります。
結局、自分で文献探してみました。それが次の記事(ヒドラとプラナリア)です。「脳の誕生」という題名で本を書くのならこう言う流れで行くべきではないかと思う次第です。

ブログ読者の皆さん
AALAニューズ ウクライナ戦争の12弾 ライナーノーツ」出版のお知らせです。
上記表題で、パンフレットを作成しました。
ライナー
A4で24ページです。といっても、A3の用紙を6枚、2つ折りにして両面印刷しただけのものです。ホッチキスも使わないというエコに徹したパンフレットです。
出版した経過について触れておきます。
去年ネット上で発行した「AALAニューズ」で全12回にわたり「ウクライナ特集」を発行しました。これは簡単に言えば、その記事(約100篇)のつかみどころを紹介したものです。
むかし、LPレコードのジャケットに印刷されていた曲紹介をライナーノーツと言っていました。題名はそれを借りたものです。これを読むと、何か分かったような気分にさせるという優れものです。もちろん気分だけですが…
ご希望の方には無料で配布しております。北海道AALA事務所までご連絡ください。

北海道アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(北海道AALA)
〒 001-0013 札幌市北区北13条西3丁目2-1 アルファスクエア北13条1010号室
Tel 011-747-0977 Email aalahokkaido1010@gmail.com


Geopolitical Economy Report
Feb 21 2023

ミュンヘン安全保障会議: 欧米が南に迫る…
あなた方は中立ではいられない。我々の側か敵の側か、どちらかだ

West tells Global South ‘you can’t be neutral’ in Ukraine war: 
You are either with us, or against us

ByBen Norton

リード

国連総会でロシア非難決議に賛成票が141票も集まったことに意外の感を抱いた方もいるでしょう。その背景を示唆するのが、1週間前にミュンヘンで開かれた欧米諸国の安全保障緊急会議です。会議の目玉は米国、ドイツ、ウクライナの外相による公開座談会でした。
三国の外相は声を揃えて、「中立は選択肢にない」と語り、独自の判断を示す「グローバル・サウス」諸国を批判しました。

US-Germany-Ukraine-neutral-Blinken-Baerbock-1536x864
写真説明: ミュンヘン安全保障会議。中立国を非難するブリンケン、バーボック、クレバ

以下本文

米国、ドイツ、ウクライナの外相は、この戦争において「中立ではいられない」と圧力を加えた。それはブッシュ大統領の宣言「You are either with us, or against us」を思い起こさせる。

その発言は、地球上の多くの国、つまりウクライナ戦争に対して中立を維持している南半球の国々を暗に批判しているのである。

2月18日の公開ディスカッションでで、ドイツのバーボック外相は「中立という選択肢はない。それでは侵略者の側に立つことになる」と言い放った。

そして、「これは、来週(国連総会で)、世界に対して行う嘆願でもある」と強調した。「平和のため、ウクライナのため、人道的国際法のため味方をしてください。それは、ウクライナが戦うために弾薬を送り届けることも含めます」

ドイツ外相の発言は、米国のブリンケン国務長官にも響いた。
「バーボックが言ったように、中立はありえない。とても中立ではいられない」と彼は強調した。

ウクライナのクレバ外相は、「西側は原則と規範のために立ち上がった」と賞賛する一方で、「南半球は野蛮で無法地帯だ」と批判した。「しかし、世界の他の地域はどちらつかずで、事実上ロシアを支持している」とクレバは吐き捨てた。

バーボック外相は、1月の欧州評議会でも「我々はロシアと戦争をしている」と宣言した。それは西側がロシアに戦争を仕掛けていることを明言したことになる。

これら欧米高官の発言は、ウクライナ戦争に加わることを拒否した「南半球」に、彼らが苛立ち怒っていることを明確に示している。
………………………………………………………

これは流石に、みんなビビりましたね。ただこれからもっと戦況が悪くなると、脅しも効かなくなるでしょう。とくにドイツの跳ねっ返りには、ノルドストリーム絡みで国内から相当批判が出ると思います。
保留の32票はこれだけ脅迫されての保留ですから、「ロシアの味方」と指をさされる覚悟の確信犯です。

大和総研
2022 年 9 月 28 日

人民元決済システム(CIPS)は SWIFT の代替手段となり得るか 

https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/securities/20220928_023302.pdf

編集部による要約

はじめに

* 2022 年 2 月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシアへの金融制裁が決定され、主要銀行の多くが SWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されることとなった。
* 国際決済は主に送金情報伝達システムと実際の資金のやり取りを成立させる決済システムの 2 つで成り立つ。SWIFT が提供しているのは前者の送金情報の伝達に用いられるサービスであり、その普及率の高さから国際決済における事実上の国際標準規格となっている。
したがって、。SWIFT からの排除は国際決済における主な取引手段の消失を意味する。

かくの如き状況のもとで、SWIFT の代替手段として中国が運用する CIPS が登場した。
本稿では、CIPS の概要を示し、将来的に SWIFT の代替手段となり得るかを検討する。

1.CIPS の概要

CIPS は「人民元国際決済システム」( Cross-Border Interbank Payment )の略語である。
SWIFTがドル決済システムであるのと対照的に、CIPS は人民元決済システムである。

CIPS は、中国が人民元の国際決済のために構築したシステムである。決済システムに加えて送金情報の伝達機能を一部に有している。
CIPS への参加形態は直接参加機関と間接参加機関の 2 種類に分かれる。
直接参加機関は CIPS のシステム内に口座を開設しており、送金情報の伝達に CIPS の専用回線を使用できる。間接参加機関は国境を跨いで送金するためには、SWIFTを併用することになる。
CIPS への参加機関数は 2022 年 6 月時点で直接参加 76 行、間接参加 1,265 行、合計 1,341 行となっている。中国資本の銀行が主であるが、日米欧の大手銀行の中国法人なども幾つか参加している。

CIPS は SWIFT の代替手段となるか

(1)当面は SWIFT の対抗馬とはいえない
CIPS は送金情報の伝達機能を有するが、それは一部であり本体ではない。また、その機能はSWIFT から独立しているわけではない。
SWIFT は世界の 200 超の国、1万以上の金融機関等を内包し、多数の通貨に対応している。

(2)CIPS の今後を見定める 2 つのポイント

① CIPS 参加機関の広がり
今回のロシア制裁の結果、制裁時の代替手段として参加機関が増加した(欧州、アジア中心に81行)
② 国際取引における人民元決済の増加
人民元とルーブルの為替取引は、開戦後3ヶ月で1067%増加した。
人民元決済の取引国ランキングで
ロシアは香港、英国に次ぐ 3 位に浮上している。インドとロシア間でも人民元が決済に用いられている。ロシア国内では人民元建て社債の発行や人民元建て融資などが行われ、オフショア市場が形成されている。

ロシア以外では、サウジアラビアが石油取引の際に、人民元建て決済を用いる可能性が取り沙汰されている。

これらは現在のところ米ドル決済の制限を受けた国による一時的か
つ局所的な変化にとどまるが、将来的に制裁対象となる危険がある国においても、人民元による決済ニーズが定着する可能性がある。
………………………………………………………

このレビューは、お分かりのように影響を過小評価する方向にバイアスがかかっている。
にも関わらず、結論に書かれた将来の可能性については隠しようもなく示されている。

① CIPS は本来SWIFTに対抗するものとしてはデザインされていないが、それでも自家発電的な急場しのぎには使えるものだということが示された。

② ロシア経済を救うという点では大きな意義を持った。究極の制裁といわれたSWIFT排除が不発に終わった原因は、「人民元とルーブルの為替取引は、開戦後3ヶ月で1067%増加した」という一行に端的に示されている。

③ 人民元の立場から見れば、「中国経済とロシア経済がドッキングすればドル支配に対抗できる」という可能性を示したことになる。

④ 今後例えば「制裁対象となっている四大産油国(サウジ、ロシア、イラン、ベネズエラ)が人民元決済を拡大すれば、アメリカの勝手な制裁から身を守る可能性」もある。

Sputnik 日本
2023年2月22日
プーチン大統領の年次教書演説
(AALAニューズ編集部による要約+小見出し)

はじめに

今日、世界において抜本的かつ不可逆的な変化が起き、我が国と我が国民の未来を決定づける重要な歴史的に最も重要な時期になっている。
1年前、我々の歴史的な土地に住む人々を守るため、我が国の安全を保障するため、そしてネオナチ体制による脅威を取り除くため、特殊軍事作戦が実施された。

この間に行われてきたこと

我々はこの問題を平和的手段で解決するために忍耐強く協議を行った。
しかし今、我々は、西側の指導者たちがドンバス(注1)の平和を目指すとした約束が残酷な嘘であったことを理解した。
彼らは時間を引き延ばし、政治的な殺害や迫害に目をつぶり、ドンバスにおけるネオナチのテロ行為を奨励した。
キエフ政権は2014年の時点ですでにドンバスに大砲、戦車、飛行機を投入していた。ドネツクに空爆が行われた。2015年にも彼らは再びドンバスへの直接攻撃を試み、しかも、封鎖、砲撃、民間人に対するテロを続けた。
キエフと西側諸国との間では防空システム、戦闘機、その他の供給交渉が行われた。キエフ政権は核兵器を獲得しようとしていた。彼らは公言していたではないか。
米国とNATOは、我が国の国境付近に自国の軍事基地を展開し、ウクライナの政権に大戦争に向けた準備をさせていた。そして今、彼らはそれを公然と、あからさまに、恥じることなく認めている。
ミンスク合意も「ノルマンディー形式」も外交的なショーではったりだと言ってのけた。名誉、信頼、良識という概念は彼らにはない。

欧米諸国の評価

(欧米諸国の支配者たちは)何世紀にもわたって植民地支配、覇権主義を続ける間に、何でも許されることに慣れ、世界中を無視するようになった。
彼らは自国民も同じように堂々と軽蔑し。騙している。彼らは「平和を模索し、安保理のドンバス決議を順守している」などと作り話を続けてきた。
我々はオープンかつ誠実に西側諸国との対話を行おうとした。すべての国家に平等な安全保障システムが不可欠だと主張してきた。我々が受け取った反応は偽善的なものだった。
ロシアとの国境へのNATOの拡大、軍部隊の展開、核ミサイル防衛拠点の創設である。
米国ほど多くの軍事基地を自国の外に持っている国はない。その数は全世界で数百に及ぶ。
米国は中距離・短距離ミサイル条約をはじめとする、世界の平和を支える基本的な軍事協定を一方的に破棄した。何の理由もない行動を米国がとることはない。

開戦に至る経過

2021年12月、我々は米国とNATOに対し、安全保障条約の草案を正式に送った。だが、最も重要な原則はすべて、真っ向から拒否された。彼らが攻撃的な計画を止めるつもりはないことが最終的に明らかになった。
脅威は日に日に増していた。こうしたすべては、国連安全保障理事会が採択した関連文書や決議に完全に反している。にもかかわらず、皆が何も起きていないふりをしていた。
2022年2月までにドンバスで再び流血の懲罰的な行動を起こすは疑いようがなかった。
繰り返したい。戦争を始めたのは彼らだ。我々はそれを止めるために武力を行使し、今後もこれを行使する。

欧米諸国の非難への反論

西側の目的は無限の権力である。我々が守っているのは人命であり、自分たちの生家だ。
西側はキエフ政権を支援し、武装させるためにすでに1500億ドル(20兆円)以上を費やした。これに対し、世界の最貧国支援にG7諸国が割り当てた額は約600億ドル(9兆円)だ。(OECD 2021年)
実に分かりやすいではないか。
戦争に注ぎ込まれる資金の流れは細らない。他国の混乱やクーデターを助長するための資金もまた、世界中で惜しみなく注がれている。
ウクライナだけではない。2001年以降、米国が始めた戦争による死者数は約90万人に達し、3800万人以上が難民となった。米国はこうした全てを記憶から消し去り、何事もなかったかのように振舞っている。
何兆ドルという大金が動いている。万人から盗み続け、民主主義と自由を装い、ネオリベラル主義の価値観を流布している。
ある国やある民族にレッテルを貼り、指導者を公然と侮辱し、敵のイメージを作り上げる。
こうして経済的、社会的、民族間の問題や矛盾の拡大から逸らさせ、自国内の反対意見を弾圧する。

ネオナチの本質を隠蔽する西側権力者

欧米は2014年のクーデターを支援することで、ウクライナの「反ロシア化」を強行した。
クーデターは血なまぐさく、国家に反し、憲法に反していたにもかかわらず、まるで何もなかったかのように受け止められた。どれだけの金が投じられたのかまで報道された。
その思想的基盤にロシア嫌悪症と極めて攻撃的な民族主義が投入された。
ウクライナ軍の旅団のひとつには、「エーデルワイス」の名が与えられている。
(かつてヒトラーの直属師団だったエーデルワイス師団は、ユーゴスラビア、イタリア、チェコスロバキア、ギリシャのパルチザンを虐殺し、ユダヤ人の国外追放、戦争捕虜の処刑を行った)
他にもウクライナ軍にはナチの師団名がつけられている。特に人気が高いのは、第2SS装甲師団「ダス・ライ」、第3SS装甲師団 トーテンコップ(髑髏師団)、第14SS武装擲弾兵師団「ガリーツィエン」などナチスの親衛隊だ。装甲車にはナチスドイツの時のドイツ国防軍の記章が描かれている。
ネオナチは、自分たちが誰あるかということを隠そうとしない。驚いたことに、西側諸国の権力者は誰もこのことに気づかない。
それは、彼らにとってはどうでもいいことだ。主な目的は我々と戦わせることだから。

ウクライナ政府は国民とは無縁だ

我々はウクライナ国民と戦争しているわけではない。ウクライナの国民は、キエフ政権とその西側の支配者らの人質となっている。
西側は事実上、この国を政治的、軍事的、経済的に占領し、産業を破壊し、その天然資源を略奪した。その論理的帰結が社会の退廃、貧困と不平等の爆発的な増加だ。
そのような状況では、おたがい他人のことなど考えない。人間は破滅のために準備され、最後は消耗品になってしまう。

ウクライナ紛争を煽り、犠牲者を増やした責任は、西側エリートとキエフの現政権にある。
この政権にとってはウクライナ国民は本質的に他人だ。ウクライナの現政権は自国の国益のためではなく、第三国の利益のために奉仕している。

ウクライナはロシア攻撃の突破口

西側諸国は戦況を変え、戦車など軍事供給を増やそうとしている。それについてあれこれ言うつもりはない。
だが、西側の長距離戦闘システムがウクライナに供与されれば、我々は対応せざるを得なくなる。

強力なロシアの建設

西側のエリートは自分たちの目標を隠そうともしていない。彼らははっきりと「ロシアに戦略的敗北」を与えるのが目標だと言っている。
つまり、彼らは局所的な紛争を世界的な対立の局面に転化させるつもりなのだ。この場合、話はすでに我々の国の存続に関わる。
大統領令によって2021年から2025年までの軍の建設および発展に関する計画が承認された。質的潜在力の向上を保証する最先端技術を積極的に導入する。

西側は我々に対して軍事的および情報的な戦線だけでなく、経済戦線も展開した。
ロシアとの経済関係を断ち切り、金融システムを通信チャンネルから断絶し、輸出市場へのアクセスをロシアから奪った。我々の外貨準備を盗み、ルーブルを崩壊させ、破壊的なインフレを扇動しようとした。
その結果どうなったか。
制裁の提唱者たちは自分で自分を罰している。自分たちの国で物価上昇、雇用喪失、事業閉鎖、エネルギー危機を引き起こした。そして国民に「悪いのはすべてロシアだ」と言っている。

ロシアの経済と統治システムは、西側が考えていたよりもはるかに強固であることが明らかとなった。
2022年の国内総生産(GDP)は2.1%減だった。予想は20~25%減、10%減だった。
昨年2~3月には、ロシアの経済は崩壊すると予想されていた。ロシアは補給網を再構築し、責任感があるパートナーとの関係を強化した。
通貨と金融についても前進した。国際決済に占めるロシアルーブルの割合は2021年12月比で倍増して3分の1となった。友好国の通貨(人民元)と合わせるとすでに半分を超えた。
ドルやユーロは、西側の支配者たちがいまのやり方を続ければ、必然的にその普遍的価値を失うだろう。
強力な収支均衡政策をとったために、ロシアは外国で借金をしたり、頭を下げたり、お金をねだったりする必要はない。どのような条件で返すかについて長い間話し合う必要もない。国内銀行は安定かつ着実に営業しており、しっかりとした蓄えを持っている。

次に農業生産について触れる。昨年、農家は記録的な収穫をあげた。1億トン以上の小麦を含む1億5000万トン以上の穀物を収穫した。2023年6月30日までに、ロシアは穀物総輸出量を55億6000万トンまで伸ばすことになるだろう。
農業生産は二桁の成長率を示した。これはまるでおとぎ話のようで、10~15年前には想像もつかない数字だ。

労働市場も成長を遂げた。現代の状況で失業率の低下を成し遂げた。パンデミック前のロシアの失業率は4.7%だったが、現在は3.7%と歴史的な低水準にある。

景気動向について触れる。
昨年は第2四半期のみ景気が後退したが、第3四半期および第4四半期にはふたたび成長と発展が見られた。
成長分野に変化が見られた。これまではアジア太平洋地域の世界市場への進出や、外国への原料供給が主要な成長分野であったが、最近では付加価値の高いモノづくり、ロシア自身の国内市場、科学、テクノロジー、人材の基盤が新たな成長分野として登場している。

ロシア国民の性格についてお話したい。
彼らはいつも誰よりも寛大で心が広く、慈悲深さと思いやりの深さで際立っている。我々は仲良くし、約束を守り、誰も騙すことなどなく、どんな時でも困難な状況にある人を支援し、困っている人がいれば、ためらうことなく助けに行く。
まさにロシアの民こそ、この国の主権の基礎であり、権力の源泉である。

戦略攻撃兵器削減条約をめぐる茶番

今月初め、NATOからロシアに対し、核の国防施設の査察を認めるよう要請が入った。「戦略攻撃兵器削減条約の遵守の精神に立ち戻れ」というのだ。

どこが「条約遵守」というのだ。
過日、キエフ政権がロシアの戦略的航空基地へのドローン攻撃を行った。
この作戦には西側諸国が直接的に関与していた。使用されたドローンは、NATOの協力を受けて装備され、アップグレードされた。
強調したいのは、米国とNATOは、ロシアに戦略的敗北を与えることが自らの目標だと明言していることだ。英国、フランスも核兵器を持ち、改良と開発を続けており、それらは我々、ロシアに対して向けられている。

2010年に発効した条約には安全保障の不可分性、戦略的攻撃兵器と防御兵器の直接的な関連性についての重要な条項が含まれていた。
しかし米国は弾道弾迎撃ミサイル制限条約を脱退しており、すべて過去のことになっている。我々の関係が悪化したのは完全に米国の「功績」だ。

アメリカは世界を作り替えようとしている

ソ連崩壊後、彼らは第二次世界大戦の結果を修正し、米国が唯一支配する世界を築こうとした。そのために、第二次世界大戦後に作られた世界秩序の土台をすべてあからさまに破壊しはじめた。安全保障と軍備管理のシステムを解体し、世界中で一連の戦争を計画し、実行に移したのだ。
もちろん、世界の状況は1945年以降、変化している。発展と影響力の新たな中心が形成され、急速に発展しつつある。これは自然で客観的なプロセスであり受容すべきものだ。しかし、米国が自国の利益のためだけに、世界秩序を作り変えることは、受け入れがたい。
ロシア国防省とロスアトムはロシアの核兵器実験の準備を確実にしなければならない。もちろん、これは我々が最初に行うのではない。米国が実験を行うのであれば、我々も行う。
世界の戦略的均衡が破壊されるような危険な企ては誰も抱いてはならない。

この文章は、1週間前に書いた記事を、その後の情勢や議論に合わせ増補したものです。メディア批判については、情報の整理が必要なので、別記事として投稿します。



ウクライナ戦争 開始一周年を迎えて

1.世界は戦況を知らされていなかった

年末まで、国際報道においてはウクライナ軍の圧倒的優位が伝えられていた。
ウクライナ軍は意気盛んで、ロシア軍を追い込みつつあり、ロシア軍は崩壊しつつあり、ロシア経済は破たんしつつある…という具合だ。この1ヶ月間の報道で、それは誇張(ウソに近い)だったことがわかった。つまり、メディアは長期にわたり戦場の現実を覆い隠していたのである。
最近の軍事情勢については2つの見方がある。一つは両者の力関係が拮抗しており、東部ではロシア優位に傾きつつあるという見方、もう一つはウクライナ軍が総崩れに陥りつつあり、アメリカも戦闘継続を断念する方向という見方である。
真偽は不明だが、ゼレンスキーとバイデンが突然の訪問を繰り返していることからも、事態の深刻さがうかがえる。
ロシア軍はロシア人居住区の確保という戦争目的をほぼ達成した。これ以上戦争を続ける理由はない。
ウクライナ側が戦う理由は何一つなくなっていない。“正義”は実現されていない。
ウクライナ支援の一翼を担う欧州各国は、ますます対米従属を強めつつあり、アリ地獄に陥りつつある。これは勤労者・庶民の強い不満を呼び起こしつつある。
このように、ウクライナをめぐる事情は、客観的にも主観的にもバラバラになっている。

2.世界はウクライナ政府のウソを知らされていなかった

ウクライナ政府は、一貫して正義の味方の役割を演じてきた。2014年のマイダン政変が合法政府を転覆させたクーデターであったこと、成立した政権が東部のロシア系住民を攻撃し、その尖兵となったネオナチが多数の住民を虐殺したこと、ゼレンスキー政権がミンスク合意を蹴り戦闘姿勢を示し続けたこと、開戦後はウクライナ軍が人間の盾方式を主要な戦闘方式として採用したこと、などは報道されなかった。
ウクライナ政府が正義の味方であることは、米国がクーデターを支持し、東部住民弾圧を黙認し、開戦後は軍事支援を惜しまず、第三国の施設(パイプライン)破壊まで敢行したことを弁護する応援となった。
この戦争の主役はウクライナ政府、NATO、米政府だけでなく、欧米主要メディアの仕掛けた戦争でもあった。

3.戦争を終わらせるための前提

この戦争は、黙っていればまだまだ終わりそうにない。戦いが続くということは人の血が流され続けるということだ。一刻も早い停戦が必要である。武器を送るのではなく和平交渉の椅子を用意し、そこに座らせることがもとめられている。
何らかの妥協が必要である。これはウクライナ政府とそれを支援する勢力にとっては辛い選択となるが譲ってもらう他ない。
もう一つは戦後世界の構築だ。それは異なる考えを持つ諸国家が平和的に共存する世界である。そこでは、国連規約に反する軍事同盟の解消と核廃絶が、まさに緊急課題として問われている。そのような戦後を目指す積極型和平が必要だ。
ウクライナ側からはこのような提案はない。しかしそれでは、せっかく交渉の席についても議論は進まない。この議論は未来志向のウィン・ウィンの関係を築くことによってのみ前進する。


4.アメリカの単独制裁に怯える時代が終わろうとしている

この辛い戦争を通じて、一つだけ未来につながる希望が見えた。それは米による一国支配体制のほころびである。
キューバ制裁に始まり、イラク、ベネズエラ、イランと、米国は理屈なし、国際手続きなしの一方的制裁を続けてきた。このやり方が初めてほころびを見せたことだ。
今回、対ロシア制裁の柱は次のごとし。
半導体などの戦略物資のロシアへの輸出停止
②石油、天然ガスなどの輸入制限、停止
個人・企業・銀行(中銀含む)の資産凍結と国際決済網からの排除

フォレイン・アフェアーズ誌によれば、ロシアは3つの手法で貿易・金融制裁に対応している。
①各国通貨建てのスワップ貿易
②人民元建ての国際銀行間決済
③デジタル人民元経由のドル決済
(Foreign Affairs December 27, 2022)

これらの対応は、今のところ基本的に成功している。当初、SWIFTからの排除はロシアにとって絶望的な状況と考えられたが、ほとんど影響なく経過した。通貨は安定し、ハイパーインフレも生じなかった。
実体経済の数字も悪くない。今月の原油生産量は710万トン、過去2年間で最高だ。GDP成長率も5.6%と予想される。ロシアの鼻息は荒く、欧州が原油を買いたくても売らないと宣言した。
このようなパフォーマンスの実現は、中国がロシアに好意的だったことも貢献したであろうが、政治的には、圧倒的な国家数、人口を持つ新興国・途上国が、米国の独りよがりに背を向けたことが大きい。
それは、たんにウクライナ戦争というだけではなく、その後の世界経済構造の変革への足がかりとなる可能性を持つ。


5.非先進国を主体とする新たな秩序の構築

ハバナで開かれた「進歩主義インタナショナル」は2月2日に「新国際経済秩序に関するハバナ宣言」を採択した。ポイントは2点。

① 非同盟のプロジェクトを更新する。1955 年のバンドン会議、1961 年の非同盟会議、1966 年の三大陸会議などで明確にされた主権、平和、協力の原則を発展させる。
②  21 世紀にふさわしい「新しい国際経済秩序」のビジョンを再構築する。デジタル技術の発展を取り込み環境科学の視点を注入し、新たな主権概念に適合した国家間秩序を練り上げる。
そしてこれを国連50周年記念キャンペーンとして提起したいとしている。

日本AALAとしてもこれに賛同し、大いに議論を盛り上げていくべきと思う。

昨日からNHKはウクライナ一色だ。
これだけ見せつけられると、皮膚からジワーッと染み込んでくる論理がある。
ウクライナは被害者だ。みな苦しんでいる。
こんなに苦しんでいるのはロシアが攻撃しているからだ。
ウクライナを苦しみから救うためには、ロシアをやっつける以外にない
この核心となる論理にはゆるぎはない。
実はこの「正義の三段論法」は誤謬だらけの虚構の論理であり、「戦いのチキンレース化」という致命的な欠陥をはらむが、今回は省略する。
百歩譲って「正義の三段論法」が論理の整合性を持つとしても、それは人倫の道に真っ向から反する、殺し合いの正当化論である。
だから純粋に論理の問題としてこの「死の三段論法」を俎上に載せるとしても、殺し合いが正当化されるきわめて僅かな可能性にこのケースが該当するかの吟味が必要だ。洪水のごとく流れるメディア情報には、この視点がまったく欠けている。
なぜか。それはこのウクライナ戦争という戦争には、人倫の原理を保留にし、戦争を合理化できる条件などなにもないからだ。
人倫を基礎とする三段論法では、三段目は「ロシアと話し合う以外にない」という結論になる。話し合う中身は3つある。第一に、戦争を仕掛けたのはロシアであるから反省は求める。第二に、とは言えロシア側にも言い分はあろうから話は聞く。第三に時計の針を戻す。2014年のマイダン政変まで戻すか、ミンスク合意のところまでにするか、戻しようのない話は別の形で償う。

この「死の三段論法」以外にも、いくつかの論理的トリックを指摘して置かなければならない。一つはウクライナ政府「真っ白」論である。これはロシア「真っ黒」論と対になっているのだが、後者を否定するとロシア擁護論のレッテルを貼られて、話がややこしくなる。
ウクライナ政権の最大の問題は武装対決論である。その後の報道を通じて、戦争は決して青天の霹靂ではなかったことがあきらかである。なんとしても回避すべきであったし、民族自決の意思表示は別な方法で行うべきであった。日本の1945年8月15日を想起すればよい。本土決戦は自殺行為であり、悠久の大義に“生きる”というのはレトリックに過ぎない。いまにして思えば開戦は痛恨の極みであり、1年経ったいま「さらに血を流せ」と呼号するのは、国民に対する犯罪としか言いようがない。
(開戦翌日の私の記事を参照されたい。  )

もう一つの問題は思想としての「本土決戦」主義である。それは武装対決路線の必然的な帰結にみえるが、そうではない。人民をモノ、「人間の盾」として利用する非人間的発想に基づく邪悪な戦略である。個別の事例を挙げれば水掛け論になるが、そもそも「本土決戦」の発想がアンチヒューマンな狂気を秘めていることに思いを致さなければならない。
メディアで放映される映像のかなりの部分に、この戦争につきまとう異様な残虐性を感じざるを得ない。それはロシアの残酷さとか、戦争一般の悲惨さとかにとどまらないものだと思う、

メディアがこのような点を踏まえて、後世に恥じないような報道を貫くよう、心から期待するものである。




Global Times
Feb 09, 2023

US urged to explain Nord Stream blasts after Pulitzer winner's probe

米国、ノルドストリーム爆発について説明を求められる:
ピューリッツァー賞受賞者の調査報道を受けて

https://www.globaltimes.cn/page/202302/1285165.shtml


By Wang Qi

gasumore

デンマーク国防軍司令部が公開した、「ノルドストリーム2」のガス漏れを示す写真 
2022年9月27日、デンマークのボーンホルム沖でデンマークの迎撃機F-16から見たもの。
ロシアと欧州を結ぶ2本のガスパイプライン「ノルドストリーム」で原因不明のガス漏れが発生し、妨害工作の疑いが出ている。

以下本文
………………………………………………………

世界に衝撃を与えたガスパイプライン「ノルドストリーム」の爆発事故から約5カ月、米国のベテラン調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュの記事が、爆発事故の犯人は米国であると告発した。

米国は頭ごなしにこの告発を否定したが、ハーシュの記事は直ちに米ロ間の激しい言葉のやり取りを招き、地政学に波紋を広げている。

中国の専門家は、これまでの米国の行動を考えると、ハーシュの報告書は信憑性が高いと考えている。そしてワシントンが否定しても、この報告を手掛かりにもっと証拠を掘り起こそうとする動きが強まるだろう、とりわけロシアの決意は固いものとなると考えている。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、2022年の「ノルドストリーム」パイプラインの爆発事故について米国の役割を説明するよう求めた。

ザハロワはテレグラムのページで、「ホワイトハウスは、ハーシュが指摘したすべての事実について説明しなければならない」と述べた。

これに対し、ホワイトハウスの国家安全保障会議のワトソン報道官は2日、次のように述べた。
「調査記事は "全くの虚偽で完全なフィクション "である」
また、CIAと国防総省も同様の趣旨でこの疑惑を否定した、と報道されている。

85歳のピューリッツァー賞受賞者であるハーシュは、2日、個人サイトで記事を公開した。

そこで彼は、ホワイトハウスの高官が国家安全保障の専門家チームを組織し、9ヶ月間にわたって秘密討議を行ったとする。そしてノルドストリーム・パイプラインを破壊する計画を立案したと述べた。
同記事は、この計画を直接知る情報源を引用し、作戦の多くの詳細を明らかにした。
①NATOの海上演習を隠れ蓑に、米海軍のダイバーが爆発物を仕掛けた。
②NATO加盟国であるノルウェーの偵察機が、起爆装置のボタンを透過した。2022年9月26日のことである。
作戦は6月に連続して行われる予定であったが、バイデンはこの作戦を一旦保留した後許可した。

誰が犯人なのか、最終的な判断はくだされていないが、すでに、アメリカ、NATO、そしてスウェーデンとデンマークの各国調査団は、爆破が"妨害工作の結果 "であることに関しては一致している。

決定的な証拠をつかむ

2022年9月のノルドストリーム爆発事故の直後、一部の米国メディアはロシアが犯人である可能性が高いと非難していた。

しかし、ハーシュは、自国の政治的エリートは、事件前の発言に関して、パイプラインを破壊するインセンティブをより強く持っていると書いている。

2022年2月7日、ジョー・バイデン米大統領は次のように脅した。
 "もしロシアの戦車や軍隊がウクライナの国境を越えたら、Nord Stream 2はもう存在しなくなるだろう"。

2022年9月、西ヨーロッパで深刻化するエネルギー危機の影響について、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は記者会見で、次のように示唆した。

「Nord Streamの停止は、ロシアのエネルギーへの依存をきっぱりと取り除き、ロシアが政治的目的のためにエネルギーを武器として利用するのを阻止する絶好の機会である」

中国社会科学院の米国研究専門家である呂祥氏は2月20日、環球時報にこう語った。
「バイデン氏が一般市民で、誰かに脅しをかけたとしよう、その後に米国のどこかでパイプラインの爆発が起こったとしたら、彼は強い動機があると解釈され、米国検察当局によって法的責任を負うことになるだろう」

ハーシュは、1969年の米軍によるベトナム民間人虐殺や、2003年の米軍侵攻後の米軍によるイラク人捕虜への残虐行為に関する調査で、その信頼性を証明した。

そのことが、呂祥にノースストリームパイプラインの爆発事故に関する最新の調査を信じるようにさせた。

「たとえ100パーセント正確でないとしても、つまり、このような怪しげな活動の暴露が100パーセント正確であることはありえないとしても、どこからともなく作り出されたものでないことは間違いない」と呂祥は指摘した。

ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストを含む米国の主要メディアは、米国新聞の一面を飾るにふさわしいこの件について、報道時点では沈黙を守っている。  

呂氏は、この一貫した沈黙は、米国メディアと米国政府の緊密な連携であり、たとえ決定的な証拠をつかんだとしても、それを否定し、抹消する戦略であると推測している。

中国外交学院国際関係研究所の李海東教授は、米国は天才的な嘘つきであると語った。
ハーシュの勇気は賞賛されるべきだが、アナリストは彼の安全性を懸念している。

破壊されたパイプラインから最も利益を得たのはアメリカであることは明らかである。
 「もし、米国が破壊工作を行ったのなら、米国は間違いなく証拠を隠滅し、国民を欺く方法を慎重に積み上げているだろう」と李は言った。  

李氏は、このような国際的な紛争を担当する法的組織がなければ、法的な立証は難しい、と述べた。
米国が犯人であるという証拠をさらに裏付ける事が出てきたとしてもとしても、ほとんど不可能である。
しかし、この調査報告書は、ロシアがより多くの証拠を掘り起こすという決意を強めるだろう、と彼は言った。

この爆発に対する欧米の指導者たちの反応も、米国への疑惑を深めるものだった。当時の英首相リズ・トラスがブリンケン氏に「終わった」 "it's done" とメールを送り、ポーランドの元外相が「米国に感謝する」"Thank you, USA."
とツイートした。

2023年1月、ロシアはノルドストリーム1、2のパイプラインの穴を調査していたスウェーデンとデンマークが "何か隠している "と非難した。そしてロシアが共同調査に関与できないように妨害した。

「アメリカが犯人であろうとなかろうと、ヨーロッパの振る舞いははあまりにも従順である。
ロシアとウクライナの紛争が激化するにつれ、欧州が安全保障問題で米国と交渉する余地がどんどん少なくなっている。これは悲劇的だ」と李氏は指摘した。

李海東は述べた。欧州の政治家は、米国に盲従することが最終的に欧州に利益をもたらすのか、それともその逆なのかを考えるべきだと。
そして、欧州は自律性を効果的に強化するよう促した。
「さもなければ、ノルドストリームの爆破のような事件が再び起こります。そしてその代償は再び米国ではなく欧州が払うことになるでしょう」


ノルドストリーム事件の続報がだいぶ入ってきました

基本的にはハーシュの記事の後追い+各界反応のレベルですが、少し拾ってみたいと思います。

1.爆破計画の背景

爆破計画の背景はこう説明されている。

「NATOとワシントンから見て、ノルドストリーム1だけでも十分危険だった。もしノルドストリーム2が承認されれば、ドイツと西欧が利用できる安い天然ガスの量は2倍になる。西欧が安い天然ガスのパイプラインに依存する限り、西欧はウクライナに武器や資金を提供するのを嫌がるようになるだろう」

大統領安全保障顧問は対策チームを招集した。海軍は潜水艦を使って、パイプラインを攻撃するよう提案。空軍は遅発性の爆弾を投下する案を提出した。海軍案が採択され、CIAが立案に当たることになった。それが「戦争行為」であることはメンバー全員が承知していた。

素案が固まった時点(昨年2月初め、開戦の3週間前)、バイデンはドイツのショルツと会談し、直後の記者会見で「ロシアが侵攻すれば、ノルドストリーム2はない。我々がそれを終わらせる」と述べた。

2022年6月に、バルト海における合同軍事演習「バルトップス演習」が実施された。これを隠れ蓑にして、米海軍のダイバーが「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」の下に爆発物を設置した。

3か月後の9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が発信機を投下した。信号は水面下に広がって、数時間後に機雷を爆破させた。

ブログに概要を発表した後、ハーシュは「Berliner Zeitung」の取材に応じ、以下のように語った。
「作戦関係者の多くは計画に反対し、“狂気の沙汰”だと指摘していた。こう言った関係者もいる。「それは、まるで東京の地下に原子爆弾を仕掛けて、日本人にオレたちは爆発させるぞ、と言っているようなものだ」
バイデン大統領は、爆破を当初予定の6月ではなく9月に延期するよう指示したが、最終的には実行命令を下した」

ここまでがハーシュの記事の概要。以下は記事の反響。

2.ハーシュ記事に対する反応

ホワイトハウスの報道官は直ちに記事を否定した。
米国務省のネッド・プライス報道官は、「米国が事件に関与している」という主張は「完全なでたらめ」である、と発言。
ロシアのペスコフ大統領報道官は、「ブログを第一の情報源として扱うことには注意が必要だが、看過するのは「不公平」であり、西側の報道機関が十分に報じていないことに驚いている」と述べた。
中国の環球時報は説明責任を追求する社説を掲載した。気球撃墜事件はこれに対する返礼というか、カモフラージュの可能性が高い。

3.冷ややかな西側メディアの反応

「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」は、これまでハーシュ氏の報道を取り上げていない。また、「ニューヨーク・ポスト」は記事を引用する形で短く伝えてはいるが、続報は出していない
「南ドイツ新聞」はハーシュ氏の記事について懐疑的に伝えている。英紙「ガーディアン」や「フィナンシャル・タイムズ」は取り上げていない。「タイムズ」はハーシュ氏の記事を引用して伝え、米国政府が否定したことを伝えている。
スペイン、インドのメディアはハーシュの報道を大きくとり扱っている。

日本メディアでは詳細を示したり大きく取り上げている記事はみあたらない。

米国の主要メディアは今のところ沈黙を守っている。しかし例えばハーシュの出身母体NYタイムズであれば、最低でも「バイデン発言との関連で、米政府は説明義務がある」との構えは打ち出すであろう。

以下はスプートニク 通信 2023年2月15日の紹介

【解説】「ノルドストリーム爆破に米関与」への各国反応 日本メディアが伝えない米国に不利な報道
https://sputniknews.jp/20230215/14965932.html
日本語版があるので利用させていただきます。

4.経済的影響 誰が得して誰が損をしたか

フランスのマリアーニ欧州議会議員は、ノルドストリームの破壊から米国がどのように利益を得たかについて語った。

ノルドストリームが稼働を停止した後、米国の石油会社と液化天然ガス(LNG)生産会社は記録的な利益を上げている。
わずか6か月で欧州は米国産LNGを積んだタンカーを230隻以上受け入れた。
利益を得たのは米国だ。最も損をしたのは欧州だ。EUはそれを認めず、産業と家計が被った損失を黙認している。


5.その後に明らかになった事実

スプートニク紙は、航空機の位置を追跡するサービス「Flightradar24」のデータを調査した。その結果、
*発生3ヶ月前の6月に北大西洋条約機構(NATO)の海軍機が現場周辺の海域を定期的に旋回していた。
*爆発から1時間後に米国の哨戒機「P-8A・ポセイドン」が爆発地点の周辺を通過していたことが明らかになった。
*爆発から1ヶ月半後、当該水域を管轄するスウェーデン当局が調査結果を発表した。
「ノルド・ストリームで起こったガス漏れは、工作活動によるものだった可能性が高い。それは“野蛮なサボタージュ”と考えられる」


下記の講演がYou Tubeて視聴できる。1週間続いた便秘がスッキリだが、やや刺激が強い。

「ウクライナ戦争と新自由主義の行き詰まり」 孫崎 享(元外交官・政治学者) 第18回 新社会党新春講演会 2023年1月22日 
孫崎

いまや停戦を掲げないウクライナ論は、アメリカを利する「野蛮な正義論」として退けられる時代になってきてはいるが、依然根強いことは事実で、矢面に立って闘ってこられた孫崎さんであるから、対抗上ちょっぴり外交官らしくないところもある。
論点を整理する上では非常に参考になるのでぜひご視聴をお勧めしたい。


図1 現生ホモサピエンスの展開

nihonjinn

*ホモサピエンスの最初の出アフリカは20万年前に遡る、現生サピエンスの出アフリカまでに数次にわたる出アフリカ→絶滅があったと思われる。残念ながら、いまだにその足跡を示したマップにはお目にかかっていない。
*4.9万年前という日付は、厳密には出アフリカではなく出エデンである。現生ホモサピエンスのDNAにネアンデルタール人のゲノムが混入していることが確認されているが、両者の混交は9万年前ころのテルアビブ近郊とされているので、出アフリカを果たした現生ホモサピエンスはその地(エデン?)に5万年を滞留し、その後一気に拡散を開始したことになる。
*人類の波及の年代については色々書かれているが、個体数が少ない中での誤差なので、あまり深読みしないほうが良い。ただしインド→東南アジア→オーストラリアの流れは一気呵成の感があり、海上を使っての移動拡散が考えられる。これが新幹線で、ほかは支線、さらに日本のようなところは染み出し的波及と考えるとわかりやすい。
*これはむしろ文化人類学的に考えるべきで、片道切符にとどまらない往還型交通が延長していったのではないかと思われる。つまりヒトが人間になったことに人類拡散の最大の要因がったのではないかと考えられる。無論北回りにもルートは伸びていくのであろうが、当時における陸路の困難は想像するに余りある。

図2 旧石器時代前期と後期の気候

古気候
*旧石器時代後期を前半期と後半期に分けることはきわめて重要である。私は前半期と後半期では違う人種の旧石器人が暮らしていたと考える。相対的に温暖な前半期に日本に進出してきた人たちは、後半期の最終氷期最寒冷期には適応できなかった可能性が高い。
*3万年前に最終氷期に突入した日本列島では、先着した第1期ホモ・サピエンスは絶滅かぞれに近い状況に陥った。それに代わり、シベリアから樺太→北海道→本州と南下してきたマンモスハンターの生息地となった。同じ時期に朝鮮半島を経由して別の人種が入ってきた可能性も否定できないが、それが主流となった形跡はない。縄文人のDNAに、南方系もふくめたばらつきが見られるのは、この3万年前の人種交代によって説明できるのではないだろうか。

図3 3つの地理的単位

更新世

*これはあくまで自然地理的領域であり、土器などの文化地理学では北海道から本州中部までほぼ単一の領域とみなすことができる。
*近畿、中国、四国地方の縄文文化については材料不足。むしろ朝鮮半島をふくめ考古学的空白という印象がある。そして弥生時代につながる縄文後期、晩期が検討対象となっている。
*南九州から種子島・屋久島などにかけて出現し7千年前の噴火で突如消失したもう一つの縄文文化の位置づけは未だ不明である。トカラ・ギャップ、ケラマ・ギャップについては初耳なので判断できないが、それほど重要なものなのかという印象。


図4 縄文~弥生~奈良時代 人種の変遷

yayoijidainokonketu

*ごく普通の渡来・混血の経過図である。右の図は鎌倉時代の状況である。最大公約数を要領よくまとめているが、それだけにいろいろ突っ込みどころのある図でもある。
*人種構成を大きく変えるほどの数ではないが、原日本人の主流となる弥生期渡来民に続いてBC100年頃に南満系の民族が(おそらく数次にわたり)襲来し、征服王朝を設立している。これはイギリス人がアングロサクソン民族(ゲノム的根拠はない)を名乗るのと同断である。

2022年5月
「縄文人ゲノムから見た
東ユーラシア人類集団の形成史」
太田 博樹
東京大学生物科学専攻
という講義をYou Tubeで閲覧した。
一応、記録しておく

oota02
これは、ホモサピエンスの展開図で、おそらく演者の思いの投影したものだ。困ったことに赤線の展開図が今回の研究では証明されていない。
ゲノム展開については、検体数から行っても圧倒的にY染色体が先行しており、量的にも質的にもゲノムサンプル数が多くないと1対1の比較は無理である。
そこでゲノムやさんの発表は、大量のY染色体データを無視することになる。したがってもし同じ傾向しかでないのであれば、それは無視される。もし違うのであれば「なぜそうなのか?」の理由をつけて提起しなければならない。
最尤法を用いるというが、たった一例で統計的処理が聞いて呆れる。まあ、そうやって作ったのか下の図である。
oot03

最初にも言ったように、この系統樹には北アジア在住人種の出る幕がない。すなわちハプロC2人とD2人だ。Y染色体ハプロの到達の上にゲノムの知見を載せたいのだが、これでは全面的な退歩としか言いようがない。無残である。

ラオスの山奥の先住民と豊橋の縄文人のゲノムが近かったといわれても、そうですかと答える他ない。特に人骨の絶対年代の問題はもう少し数が出てくれないとなんとも言いようがない。
Yハプロの話ばかりで申し訳ないが、おそらく3万年前くらいまではアフリカ以外のサピエンスはハプロC1一色だったと思える。当然その頃の日本の旧石器人もC1だっただろう。最終氷期に合わせて北方からD2人が進出してきたが、C1人が消滅したと考える必要はないだろう。関東平野の旧石器、縄文人が決してD2優位ではないことは、そのことを示唆する。

東アジアを経由しないで東北アジアへ進出した人種は、だから北回りとは言えない。C2、D2はヒマラヤ越え→チベット高原経由で蒙古に達した可能性が強い。
ota05
純粋な意味で北方系というのは、牧畜が始まって中央アジアの牧畜民が東西に振り子のように触れる生活を始めるようになってからである。そして狩猟人たるC2、D2人が追われるように外縁化していったと見るべきであろう。
oota06












セイモア・ハーシュのノルドストリーム爆破事件の暴露記事が話題を読んでいる。
私も一時訳しかけたが、半分を超えた頃に「ちょっと待てよ」と感じて、作業を中断している。

もともと胡散臭かったノルドストリーム事件

ノルドストリームの事故については当初よりきわめて胡散臭いものを感じていた。
そのタイミングがあまりにも絶妙であり、その規模があまりにも大きく精緻であることで、ネオコンの絡んだ陰謀ではないかという疑いを持った。それは多くの左翼活動家にとって共通の思いであったろうと思う。
しかし、パイプラインはロシアが一方的に敷設したものではなく、ドイツとの共同工事として完成に至ったものである。それを破壊することは、ウクライナの戦いという「正義」によって合理化できるようなものではない。むしろ同盟国への信義も国際法も無視した犯罪行為と断ぜざるを得ない。少なくともアメリカ政府が直接手を下すような代物ではない。これが第一。
そしてその最大の受益者がほかならぬ同盟国ドイツであり、その国民的ライフラインに対する攻撃とみなさざるを得ないのである。それが米独関係にどんな影響を及ぼすだろうと考えれば、正常な神経をした人間に手が出せるような作戦ではない。
それにしては不思議にドイツは文句一ついわず、渋っていた戦車の供出まで申し出た。だとするとドイツはひょっとして米国の脅迫に屈したのだろうか。

セイモア・ハーシュとは誰か

ということでもやもやしたまま、事実が経過していたのであるが、しかし、ロシアとの関係強化を喜ばない勢力による陰謀だったのではないかという感じはますます強くなっていた。
そこへ持ってきてのセイモア・ハーシュの暴露である。
セイモア・ハーシュと言えば我らベトナム世代にはカリスマ的光彩を放つ人物である。彼は従軍記者として現地で取材中に、南ベトナムの農村ミライ村で米軍が行った住民虐殺事件を目撃し、これを新聞で報道した、
そして、その記事がピュリッツァー賞の対象となった。
その彼が2月10日に突然、調査記事を発表。事件は安全保障会議の指揮のもと軍、CIA、国務省などが関わってタスクフォースを結成し、入念な準備の末に昨年9月に機雷攻撃を敢行したものだとかいたのである。

まだ確認情報が現れない

しかしあまりにも大規模な作戦、技術的困難、情報源の信頼性などいくつかの難点があり、少しフォロー記事がないと直ちに信頼するのは困難というのが、目下の心境である。
具体的にいくつかの有力な反論もでており、もう少し事態を見守りたいと思う。ただし、言って置かなければならないが、これはきわめて説得力のあるレポートであり、ジグゾーバズルの最後のピースになる可能性を秘めている。

グーグルで一言の報道もないと書いたところ、
北海道AALAの会員から「赤旗にはしっかり報道されている」と指摘がありました。
2月10日の国際面です。
いわれてみるとなんとなくそんな記憶もありますが、グーグル検索の印象が強烈だったので、消え去ってしまったのだと思います。
nakamitu

コピーを掲載します。内容も薄められず歪められず、しっかりと伝えられています。
考えてみればしっかりと特派員を送っているのですから、もっと有効活用すべきだと思います。

念のため、「中満 安保理」でもう一度グーグル検索をかけてみました。

NHKニュース
2023年2月10日 0時12分
国連安保理 ウクライナ武器供与めぐりロシアと欧米各国が応酬

が拾われました。
国連の安全保障理事会でウクライナ情勢をめぐる会合が開かれました。冒頭、国連の軍縮部門のトップを務める中満泉事務次長は武器の流入が紛争を激化させる懸念を示すとともに、ロシアがウクライナへの攻撃を続けていることも改めて批判しました。
前回は“中満”が見出しにないためスルーされたのかもしれません。

果物の追熟についての記事。なるほどと感心する。面倒なのでそのまま切り貼りする。

果物 追熟

研究者たちは「こんなにきれいな結果が出るとは…」と大満足しているようだが、どうもそれほどクリアーな結果とも思えない。証明の仕方が違うような気がする。それと人のふんどしで相撲を取るメタ検索ではやはり説得力が薄い。これを作業仮説として追試する必要があるが、研究費が取れるかどうか…

中満泉さんの安保理発言

2月8日に中満さんの演説が行われた。演説の直後にピンク・フロイドの発言があってこちらは随分話題になったが(私も紹介している)、中満さんの演説の方はほとんど紹介されていない。
まさかと思ったが、グーグル検索で“中満 安保理 報告”で検索したが、1件の記事もヒットしない!

4月の国連総会での演説もふくめ、中満さんの話はととても重要なので、紹介しておく。原文は下記のリンクへ。




武器輸出が増え、重装備化している

2022 年 2 月 24 日にロシア連邦がウクライナで軍事攻撃を行い、ウクライナの人々に計り知れない苦痛を与え、世界中に波及効果をもたらしてから、ほぼ 1 年が経過しました。

これまでも、多くの政府が、防衛上の必要性からウクライナに軍事支援を提供していると発表しています。
歩兵戦闘車、防空能力、大口径砲システム、無人戦闘機、ミサイル システム、小型武器、軽火器など、通常の重火器や軍需品が転送されています。
これに加え、ごく最近、より重く近代的な兵器の転送が発表されています。

武力紛争のあらゆる状況への大規模な武器の流入は、紛争のエスカレーションと転用のリスクに関する懸念を増幅させます。
軍備の透明性は、加盟国間の緊張とあいまいさを軽減するのに役立つ重要な信頼構築手段です。
国際規範に従って、武器と弾薬の譲渡には、譲渡前のリスク評価と、現場検査やエンドユーザーの検証などの出荷後の管理が含まれる必要があります。

民間人への影響が深刻化している

現在の軍事攻撃が始まって以来、人権高等弁務官事務所は 18,657 人の民間人の死傷者を記録しています。この合計には、7,110 人の死亡者と 11,547 人の負傷者が含まれています。実際の数値はおそらくかなり高いです。

民間人の死傷者のほとんどは、重火器、複数のロケット発射システム、ミサイルなど、広範囲に影響を与える爆発兵器によって引き起こされています。

重要な民間インフラへの攻撃が、民間人に直接的な人道的影響をもたらしています。
家、学校、道路、橋が破壊されただけでなく、病院や医療施設も攻撃されています。水、ガス、暖房、電気の混乱は、ウクライナの人道的危機をさらに悲惨な次元に到達させています。

事務総長は、紛争当事者に対し、無差別に危害が及ぶ可能性が高いため、人口密集地域での爆発兵器の使用を控えるよう明確に促しました。

侵攻から 1 周年 さらに訴える

ウクライナ侵攻から 1 周年を迎えるにあたり、私は国連の平和への呼びかけを新たにしたいと思います。過去 12 か月間、計り知れない損失と荒廃が見られました。
残念なことに、現在の軍事的論理が優勢であり続ける限り、紛争の交渉による解決の見通しは現時点では薄いように思われます。

紛争のさらなるエスカレーションと長期化は、耐え難い苦痛をもたらすだけです。ウクライナを支援するための軍事装備の移転は、平和への願望を狂わせてはなりません。
私は、国連憲章の原則に従い、ウクライナの主権と領土保全を尊重しつつ、紛争の平和的解決を支持するという総会の呼びかけを繰り返します。

ありがとうございます。

本日は羽場 久美子さんの講演ということで、事前勉強をしておく。

1.力関係の変化―中国の台頭と米ロ・中ロ関係

1989に冷戦の終結、91年のソ連崩壊。
=「資本主義体制と民主主義の勝利、社会主義体制の崩壊」
しかし現実はそれほど単純ではなかった。

*政治経済は民主化と市場経済への移行として包括できるが、軍事的には孤立化を迫られた。
*2000年にプーチンが登場。9.11を期に米ロの軍事関係は急接近。しかしNATOの東方拡大は継続。
* 中ロ関係は、何段階かに分けて変化した。(石井明)
基本的には「同盟」関係ではなく「パートナーシップ」を打ち立てた。
同盟とパートナーシップ: 同
盟は「冷戦」思考に基づいているが、パートナーシップには軍事的な意味はない。

2.中国の強大化と体外進出

*2013年 習近平体制の成立

真っ先に中ロの領土問題を解決し、共同のパートナーシップ関係を構築(中ソ紛争を繰り返さない決意)

*上海協力機構 中国・ロシア・
中央アジアの連携関係を確立

* AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立。アジアと欧州で80か国を数える

* 一帯一路構想: 中国・中央アジア・アフリカ・欧州のインフラ投資計画。
ただしこの計画に関しては、ロシア側に警戒感

*日本は中国の力を過小評価、柔軟外交を軟弱と誤解している。日本は安保をもってしても中国を抑止できない。

3. アジアにおけるロシアの位置の再編 

*ロシアは、冷戦期に比べて経済力は落ちたが、軍事力・政治力・情報力・戦略力において、依然として強力である。
*また東アジアにおいては、中露の一体化したパワーとなる可能性がある。
* ポスト・ウクライナ時代には日本は、東アジアの最大の不安定要因とみなされるかもしれない。

4. 安定的な東アジア―戦争を起こさないために

*中国の経済力とロシアの軍事力・戦略力・天然資源などが合体すれば、アメリカに十分対抗できる、あるいはそれをしのぐ潜在力を持つ。

*ロシアにとっては、欧州以上に東アジアの発展が重要となるかもしれない。

*東アジアにおける平和の構築は、中・ロ・日・韓国の 4 か国連携の強化以外にない。

元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの国連安保理でのスピーチをめぐってはさまざまな報道が飛び交っている。
彼が何を言うかはおよそ察しが付く。西欧メディアが地の文でどのくらい彼の発言を歪めるかも想像できる。
彼の発言を忠実に報道しているニュースを探したが、ろくなものはない。彼はすっかり晒し者にされており、喋った言葉の数倍くらい、彼の言葉へのケチつけと当てこすり
が盛り込まれている。とりあえずアルジャジーラの記事を紹介する。

ALJAZEERA
9 Feb 2023

ウクライナ、ロジャー・ウォーターズの国連安保理での発言を非難
Ukraine slams Roger Waters over UN Security Council speech

https://www.aljazeera.com/news/2023/2/9/ukraine-slams-roger-waters-over-un-security-council-speech

RTRMADP_3_UKRAINE-CRISIS-UN-PINKFLOYD

ロシアは西側諸国によるウクライナへの武器支援について、安保理での議論を要請した。
席上、ロシア側参考人としてピンクフロイドの共同創設者であるロジャー・ウォーターズが発言した。ウクライナは、ウォーターズが「ロシアの侵攻は“故なきもの”(not unprovoked)ではない」と主張したことを糾弾した。

以下本文

79歳のウォーターズは、ロシアの招請で開かれた国連安全保障理事会で、ロシア側のゲストとしてビデオ出演し、スピーチを行った。

彼は、これまでプーチン大統領を賞賛し、ウクライナに武器を供給している欧米を批判してきた経歴があり、どの程度踏み込んだ発言をするかが注目されていた。

かれはまずモスクワの攻撃を非難し「違法」だと述べた。
ついで、キエフとその同盟国にもこの紛争の責任の一端があることを示唆した。

「ロシアのウクライナ侵攻は、“まったくいわれのないもの” というわけではありませんでした。だから私は、挑発者に対しても可能な限り強い言葉で非難します」 

ウォーターズは、ニューヨークの外交官たちにビデオリンクを通じてこう語った。ただし特定の個人、グループ、国に言及することはなかった。

ウォーターズの発言は、ウクライナのセルギー・キシュリツァ国連大使の鋭い非難を浴びた。

大使は「ウォーターズがモスクワの行動を“なかったことにしようとしている”(whitewash)と非難した。

1979年、ピンク・フロイドは『アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール』という曲を発表した。
同じ年にソ連がアフガニスタンに侵攻した。そのときもピンク・フロイドは非難された。

ある音楽家はいう。

「それは激辛とまでは行かないがかなりの皮肉だ。彼はロシアの防壁のレンガの役割を引き受けている。それは“偽情報とプロパガンダの壁"だ。
あのときに続いて、今回まで見てみぬふりをするとは…かつてのファンにとっては、悲しいことだ」

ウクライナの最も有力な支援者である米国もウォーターズを糾弾した。
「我々は今日もまた、ロシア弁護の別バージョンを聞くために集められた。彼らは、ロシアの残忍なウクライナ侵攻が、ロシアのせいではないという。実はウクライナやウクライナのパートナーのせいなのだというわけだ。
ウォーターズ氏の言葉を借りれば、ウクライナの友人たちがこの戦争の挑発者だということだ」

米国のリチャード・ミルズ国連副大使は、15人のメンバーからなる安全保障理事会でこう語った。

「私たちは、ウクライナの自衛行動がこの戦争を終わらせる障害になっているという考え方を明確に否定します。それは被害者を非難するものです。
ウクライナ人ほどウクライナの平和を望んでいる人はいない。
侵害されたのはウクライナの主権と領土の一体性であり、ロシアにとっての一体性ではない」

sending-weapons-to-Ukraine
       ウクライナに軍事援助を与えている国々

昨年9月、ウォーターズは欧米の武器供与に反対した。そしてゼレンスキー大統領が「極端なナショナリズム」の拡散を許していると非難した。

ゼレンスキーの妻、オレナ・ゼレンスカに宛てた公開書簡の中で、ウォーターズはこう書いている。

 「悲しいことに、あなたのご主人は、ウクライナの人々の意志を否定する全体主義的、反民主主義的なものに同意してしまった。
そしてそれ以来、その影で悪意をもって潜んでいた極端なナショナリズムの勢力がいまやウクライナを支配している」

「彼らはロシアが何年にもわたって明確に提示してきたレッドラインを何度も越えてきた。
その結果、彼ら極端な民族主義者は、あなたの国をこの悲惨な戦争への道へと導いたのです」
(ウォーターズの発言はここまで)


ロシアは、ウクライナでの行動を「非軍事化および脱ナチス化」を目的とした「特別軍事作戦」と呼んでいる。

いっぽうウクライナ政府と西側諸国は、「ロシアがウクライナの国土を奪い征服するために侵略戦争を行っている」と主張し、ロシア側の言い分を否定している。


SOURCE: AL JAZEERA AND NEWS AGENCIES

*訳者注 ロジャー・ウォーターズは、米国のベネズエラ攻撃の際も一声上げている。

*ついでに一言: 正義派は時間軸上の一点(武力侵攻)をもってあらゆる判断の出発点としてしまう。正義論が感情論である以上仕方ないのである。しかしそれでがんじがらめになると停戦の提案そのものが許せなくなる。「神州不滅」で固まって、未来志向が働かなくなるのである。




NY Times
Feb. 9, 2023

GUEST ESSAY


By Nicholas Mulder

Dr. Mulder, a historian of twentieth-century European and international history at Cornell University.


2021年12月、バイデン大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、ウクライナ領土への侵攻は「これまで見たこともないような経済的結末」をもたらすと警告した。

警告にも拘らずプーチンはウクライナに侵攻し、アメリカとヨーロッパの同盟国は、歴史上最大規模の経済制裁を実施した。

それから1年、ロシア経済は予想をはるかに超える衝撃を乗り越えた。

2022年3月、国際金融研究所は、ロシア経済が年末までに15%縮小すると予測した。しかし、ロシア経済の縮小幅は昨年1年間で3%強にとどまった。IMFの見通しでは、ロシア経済は2023年度に0.3%とわずかながら回復するだろう。
一方、EUは0.7%の拡大にとどまり、英国のG.D.P.は0.6%下がると予想されている。

なぜロシア経済は制裁下でも回復力をしめしたのか? 
それは、ロシアの政策対応、経済規模、通商上の地位、非同盟諸国の支持によると考えられる。

政府の迅速な危機対応は、制裁の短期的な影響を鈍らせることができた。
資本規制と積極的な利上げにより、ロシア中央銀行は2022年春の破滅的な金融危機を回避した。
今後しばらくは、政府の保有する金融資産(資源)が緩衝材となるだろう。

やや物足りない結果に見えるが、努力が足りなかったわけではない。

どのような基準で見ても、昨年度の西側諸国の制裁はそのスピードと広がりにおいて強烈なものであった。

侵攻開始から数日のうちに、ロシア中央銀行は3000億ドルもの在外資産を凍結された。
その後、欧米諸国では数週間から数ヶ月の間に、
*外国からの投資がすべて遮断された。
*ロシアの金融セクターの4分の3がSWIFT決済ネットワークから切り離された。
*ハイテク部品の輸出が阻止された。
*ロシアへの航空便、船舶、メンテナンス、保険サービスが停止された。
*そして、欧州諸国はロシアのエネルギー資源から自らを切り離したのである。

1年前、経済のハルマゲドンを予感させるものが世界中に蔓延していた。
国際エネルギー機関(IEA)は、ロシアの原油輸出に対する制裁が「過去数十年で最大の供給危機を引き起こすだろう」と警告した。

2022年末には、ほとんどの西側諸国がロシアの石油、ガス、石炭の輸入を大幅に減らすか、完全にストップした。
しかし先月、ロシアの原油輸出量は6月以来の高水準となった。

モスクワにさらなる衝撃を与えたのは、欧米企業のロシアからの撤退である。

何百もの多国籍企業がロシア市場から撤退し、現地法人を解散させ、あるいは投資プロジェクトを完全に断念したのである。

ロシアの石油輸出に対する先進7カ国の価格上限は、何事もなかったように世界市場に通用しているように見える。

 ロシアのオリガルヒが所有する数百億の資産もまた凍結された。

確かに、制裁措置は深刻な影響を及ぼしている。
それが予想より縮小したとしても、ロシア経済は長期的な成長軌道を大きく下回ることになるだろう。このままでは、よほどの幸運がなければ2021年の所得水準を回復できることはないだろう。

確かに、2022年は一般のロシア人にとって悪い年であった。
しかし、1998年と2008年の金融危機も、2020年のパンデミック不況も、こんなものではなかった。それはかつて「経済版の核爆弾」とまでいわれた措置であった。
実質GDPの成長率は、この1年の制裁措置よりもはるかにひどかった。

経済的なダメージはまだ終わっていない。まだこれからだ。

外国資本、技術、ノウハウの不足は、この国の将来の発展を大幅に阻害することになるだろう。
ロシアの石油・ガス部門は、欧米の専門技術に依存している。それなくしては、現在の生産量を長期的に拡大することはおろか、維持することも困難であろう。
航空部門は、ポンコツ航空機を部品として共食いさせることで、なんとか航空路を維持している。

おそらく、長期的にみて最も不利なのは、才能と教育を受けた膨大な数の専門家が流出したことである。
何十万人ものロシアのIT専門家、教師、学者、エンジニア、科学者が、現在イスタンブールやウズベキスタンのタシケントなどに亡命している。

欧米諸国は、輸出志向の、したがって輸入に依存する中所得国において、経済成長見通しを左右する力を持っている。

先進国のロシアへの制裁は、ロシア経済を掘り崩したり、プーチン大統領の戦争努力を瓦解させるほどではなかった。

昨年、米国と欧州だけではもはや制裁レジームを構築することができないことが明らかになった。
歴史的な経験からわかるのだが、制裁の圧力に耐えることができるのは、それがより大きな国のばあいである。
国土が広ければより多くの自然資源をかかえている可能性があり。国境線が長ければ、切り離すことがより困難だからである。

ロシアの対西側貿易は崩壊したが、アジア、中東、中南米、アフリカ諸国との商業交流は拡大した。
世界がパンデミックから回復し、戦争の衝撃に適応していく中で、ロシアの商品輸出は完全に敬遠するにはあまりに魅力的である。
ロシアからの安価な原材料の誘惑は、かつてない規模で制裁回避に拍車をかけている。

世界各地の海に、保険に加入していない、追跡が困難なタンカーが存在する。ロシアの石油を世界のバイヤーに届けるために、「闇の船団」(dark fleet)が徘徊している。

かつてスイスに拠点を置いていた商品取引業者は、ロシアの石油、ガス、石炭、肥料、穀物などの貨物を扱うために首長国連邦に移ってきた。

 トルコは、ロシアへの販売を目的とするグローバル企業にとって、コーカサスの山道を長いトラック隊が蛇行しながら通過する主要なパイプ役になっている。

インドの製油所やシンガポールの石油貯蔵会社は、割安なロシアの石油をアノニマスで購入し、世界中に販売して多額の利益を得ている。

ロシア製のヘリコプターや巡航ミサイルには、さまざまな仲介業者を介して、欧米製のマイクロチップが搭載され続けている。

アルメニアやキルギスのような小国は、ロシアに出荷されるスマートフォンや洗濯機などの消費財の中継地として忙しい日々を送っている。

もちろん戦争が始まる前に比べれば、この新しい連携は効率も悪く、コストも高く、中断されがちである。とはいえ、そのルートをフル活用することで、ロシアの輸入は戦前の水準に回復した。

制裁の効果が限定的であることから得られる最も緊急の教訓は、このような芝居がかった場面ではない。
むしろ制裁に気取られて私たちが見逃していることである。

それは、戦争によるウクライナの経済的打撃と、国際的な地位の低下であり、それを補うために西側諸国になにができるかということである。
ウクライナにとっては制裁は脇筋であり、ウクライナの将来を決定する主な舞台ではない。

実際、世界の世論は世界第11位の経済大国、ロシアの経済パフォーマンスに集中している。
そのことは戦争がウクライナの小さく弱い経済に与える、より大きな破壊的影響から注意を逸らす結果をもたらしている。
3%縮小した1兆8000億ドルのロシア経済と、GDPの3分の1を失った2000億ドルのウクライナ経済を比べてみよう。どちらがより深刻な問題を抱えているのだろうか?

欧米諸国が何よりも重視すべきなのは、ウクライナに対する持続的な支援である。
最近の議論では、当然ながら軍事支援が最重要視されているが、長期的な課題はウクライナ経済を欧米との完全統合の道へと導くことである。
その一方で、ウクライナ経済が崩壊しないよう、経済的な補強をしなければならない。この課題は、戦争が終わるまで待つことはできない。

ウクライナの経済強化のためには、インフラ、産業、農業に非常に大きな投資が必要である。
また、教育、医療、社会サービス、有能な機関の創設といった分野でも大規模な支援が必要である。
欧州連合(EU)は、東欧諸国を現在の発展水準に引き上げるために、30年の歳月と数兆ユーロの経済構造支援を要した。
繁栄し、自由で民主的なウクライナの建設を支援したいのであれば、同様の課題が西側諸国を待ち受けているのである。

制裁は、ウクライナの防衛戦争に対する支援の表明として重要である。しかし、ロシアへの経済制裁にのみ力を注ぐことは、この紛争で真に重要な経済的闘争からの逸脱である。

………………………………………………………

これは社説ではなくオピニオンである。しかし昨年のクリスマスのオピニオンで制裁強化を煽っていたのに比べると180度の転換と言って良い。あきらかに米国内では戦争継続を叫ぶネオコンへの逆風が吹き始めている。
背景には七つの海を股にかける「ヤミの船団」、コーカサスの山道を往く長いトラック隊、さらに南の非同盟諸国、BRICS諸国がある。いっぽうですべてを失ったウクライナはとんでもないお荷物となる可能性がある。ナポレオン、ヒットラーに次ぎ「冬将軍」に打ち破られる第三の敗者が登場するかもしれない。そして終戦後の欧州には、マーシャル・プランに継ぐ第二の支援計画が必要になるかもしれない。
ハゲタカやハイエナが跋扈するネオリベラリズムの世界が終わり、すべての国の主権が保障される多国間主義の世界への第一歩がふみだされることになるかもしれない。





病状悪化により、診療を休んだ。医局に顔出さないので日経新聞にもお目にかからなくなった。
半年の間、おそらく一人の読者もなく無聊を囲っていたのだろう。
昨日、久しぶりに顔を出して10日分ほどの紙面に目を通した。目を疑うばかりの変化だ。ウクライナ、ロシア関連のニュースはほぼゼロだ。世界がビックリハウスのようにぐるぐる回っているのに、まるでなにもなかったかのようだ。
もちろん国際面には戦車の話やウクライナ国防省の汚職の話は載っている。しかし外信の転載のみだ。一番のミラクル、死んだと思っていたロシアが生き返って、ウクライナ軍が壊滅寸前になって、アメリカ政府がオロオロして、新聞はいままでの報道とまったく別の景色が目の前に広がっているのを、呆然と見つめている。
経済欄に短報で「ロシア経済が破綻状態だ」のという記事がパラパラと載っているが、それと現実の格差について説明しようとさえしない。1945年終戦時の商業新聞だ。これでは極右のウェッジ誌にも及ばない。
こちらは親露系のサイトから少し情報を集めて、日経と付き合わせるつもりでいたが完全な期待外れ。
とりあえず、ためておいた記事を以下に掲げる。

telesur
2023 年 1 月 10 日

Russia’s 2022 Budget Deficit Accounts for 2.3 Pct of GDP: FM

ロシアの 2022 年の財政赤字は GDP の 2.3% を占めた

ロシアのアントン・シルアノフ財務相が発表した。

*金融市場での借り入れを増やした結果、財政赤字は474 億ドルに達した。これはGDP の 2.3% に相当する。

*総予算収入は4,024 億米ドルに達し、当初の計画よりも402 億米ドル多かった。

*地政学的な状況にもかかわらず、制限と制裁にもかかわらず、私たちは計画されたすべての任務を果たした。

………………………………………………………
30 December 2022

Russia and China Strengthen Their Strategic Ties

*プーチン大統領と習近平国家主席がビデオ会議。
*中国とロシアの累積貿易額は、今年の最初の 10 か月で 1,540 億米ドルに達し、前年比で 33% 増加と報告。

………………………………………………………
24 October 2022

Russian Exports Jump Over 25 Pct in Jan.-Sept.

*ロシア連邦関税局の第一次官 Ruslan Davydov が記者会見。
*第1~第3四半期のロシアの輸出は、前年比で 25.4% 増加し、4,310 億米ドルに達した。
*輸入はこの期間に 15.7% 急落して 1800 億ドルにとどまった。
*この結果、2510億ドルという「記録的な」貿易黒字が発生した。

NYタイムズにかなり衝撃的な記事が掲載されたので、そちらの翻訳に回る。とりあえず閉める。

アルクマイオン(Alcmaion)

紀元前500年ころ 南イタリアのクロトン(現クロトーネ)に生まれた。クロトン在住のピュタゴラス学徒たちと親交があった。
英語版ウィキによればピタゴラス派とは無関係で、思想的にはイオニア学派の流れを汲むと言われる。


cf. クロトン、ギリシャの植民都市。紀元前710年頃に創設され、紀元前600年ころにピタゴラス学派が拠点を置いた。
クロトーネ
地図

世界で最初に人体解剖を行った。人体解剖を通してエウスタキオ管(耳の器官で鼓膜の振動を助ける)を発見した。また動脈・静脈を区別した。
最も重要なのは、視神経の発見から脳が精神活動の中枢であることを推測したことである。アルクマイオンは「感覚」がすべて「脳」と何らかの関わりをもつとし、「脳」の中に人間の「指導的部分」が宿ると主張した。

「脳」を人間の意識活動の中枢とする見方は当時にはまだ新説であり、医学者たちの間でも完全に意見の一致をみていなかった。

これをヒポクラテスは取り入れ、より唯物論的に解釈し、「自然本性」(physis)という実体概念にまとめた。

今井正浩「ギリシャ医学と技術」
(弘前大学学術情報リポジトリ)

さらにアルクマイオンは、病気の内的原因について最初に論じた人物でもある。健康は相反する体液間の平衡状態であり、病気は環境、栄養、ライフスタイルの問題によるものであると最初に示唆した。(英語版ウィキ)

ガーディアン
2023 年 1 月 23 日 

Russia’s Lavrov gets controversial welcome in S.Africa

https://guardian.ng/news/russias-lavrov-gets-controversial-welcome-in-s-africa/

写真
337M88U-preview-1536x1024

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、プレトリアで南アフリカのナレディ・パンドール外相に歓迎された。
南アフリカは、ロシアのウクライナ侵攻を非難することを拒んできた。
パンドール外相は会談後、「最も素晴らしい会談」であったと感謝した。彼女は二国間の「すでに良好な関係を、さらに強化する」のに役立ったと述べた。

南アフリカは最近、ブラジル、ロシア、インド、中国を含むBRICSの議長国に就任した。それは米国と欧州主導のグローバル・ガバナンス体制に挑戦するものである。

野党に反対の声も

しかし、モスクワとの連携は、国内の批判を招き、政府が中立の立場を放棄したと非難する声も出ている。

「南アフリカ政府は公然とロシア側に立とうとしている。そのことは、ますます明白になっている」と、主要野党である民主同盟(DA)の議員、ダレン・バーグマン氏は言った。

「ロシアとの友好的な関係は、適切ではない。それはロシアにウクライナへの関与を止めさせるように使われるべきだ」

訪問時のラブロフ発言

ラブロフ氏は記者会見でこう述べた。
「ロシアはウクライナとの「交渉を拒否していない。しかし、拒否する者との話し合いは、拒否する時間が長ければ長いほど、解決が難しくなる」

モスクワの当局者は、外交チャンネルの閉鎖をゼレンスキー大統領のせいにしている。
それは彼が交渉拒否を公言しているからだ。ゼレンスキーは「プーチンが権力を握っている間は交渉しない」と言っている。

プレトリアでは、南アフリカのウクライナ人コミュニティーのメンバーが訪問に対する小さな抗議行動を行い、Stop the war "と書かれた看板を掲げていた。「ラブロフに帰れ」「嘘を止めろ!」と書かれた看板を振る人もいた。

先週、ノーベル平和賞を受賞した南アフリカの故デズモンド・ツツ大主教の財団は、計画中の合同海軍演習を「不名誉なこと」と一喝。「南アフリカがウクライナとの戦争に参加すると宣言したに等しい」と非難した。

これに対しパンドール外相は、「演習は国家間の関係の自然な流れの一部である。どの国も友好国とは軍事演習をしても不思議ではない」とし、擁護した。




「フォーリン・アフェアーズ」掲載論文の紹介記事。
2023年1月19日

効果を失う米国の単独経済制裁 中露の「迂回路」とは?
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29094


米国の単独制裁は徐々に効果を失っている
敵対するロシアや中国が制裁を迂回する手段を開発しているためだ。以下その手段を列挙。

1.制裁迂回策 その1 米ドルを使わない通貨スワップ

中国は、60ヶ国以上と人民元とスワップを行い、総額は5000億ドルに達している。

2.制裁迂回策 その2 SWIFTのような西側の送金システムを使わない

人民元建ての「国際銀行間決済システム」(CIPS)には、100カ国以上の1300の銀行が参加している。

3.制裁迂回策 その3 デジタル通貨

おそらくこれがドル迂回の決定打となる。
* 米国は第三国の中央銀行が発行するデジタル通貨に対して監視できない。
*デジタル通貨の発行国は疑わしい取引を監視出来る。

中国では、既に3億人が中国の中央銀行が発行するデジタル人民元を利用している。

これが進行すると、10年以内に米国の単独制裁はほとんど効果を失う。中露の連合に新興国や途上国が協調すれば、もはや対抗手段はない。

このような事態を招いたのは、米国がここ1年余りの単独制裁を連発し、それを恣意的な国際関係混乱の道具にしたことが原因である。

日本、EUとの共同制裁がルール化されると、これにかわる金融秩序が構築される可能性があるが、その可能性はきわめて乏しい。したがって米・先進国・中露・新興国+途上国の新たな協調システムの構築が求められることになる。

Wedge にしては随分まともな論調であるが、「フォーリン・アフェアーズ」からの紹介であれば、あまりひどいこともできまい。事態はすでにそこまで来ていると言うべきかもしれない。

ついでにもう一つ、Wedge ONLINE から。
少々古いが2022年4月18日の記事。

ロシアへのさらなる経済制裁は課されるのか
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/26366

4月2日付の英Economist誌の紹介で、西側の先例のない厳しい経済制裁を課せられたロシア経済の現状を紹介し、期待されたほどの大きな打撃が生じている訳ではないと述べている。

その上で、一連の経済制裁のそれぞれについて個別に評価している。

中央銀行の資産の凍結

ロシア中銀が保有する外貨準備の約半分が西側諸国により資産凍結された。
これを受けてルーブルは侵攻前には1ドルが75ルーブル程度であったが、3月7日には、150ルーブルに下落した。
資産が凍結されているためドル売りによる買い支えができない。そこでいくつかの手を打った。
① 中銀貸出金利の引き上げ
② 輸出による外貨収入の80%をルーブルに転換させる
③ 外国の投資家による株式の売却の禁止
④ 原油売却に際しルーブルでの支払いを求める
これらの内どれが有効であったかは記載されていないが、ルーブルは侵攻前の水準に近い1ドル85ルーブルに戻した。

原油と天然ガスの輸出

金融制裁は不調に終わり、エネルギー分野に踏み込むしかなくなった。
金融資産の凍結はまことに過酷な制裁であるが、資産がなくなったわけではなく石油・ガスが売れればふたたび資産は増える。
だから西側諸国はそれらの購入をボイコットするしかなくなった。
しかしそれはもともと無理な相談だ。
ドイツのショルツ首相は、欧州は公共サービスや市民生活に必要なエネルギーをロシアからの供給以外の方法で確保は出来ないと述べていた。
これに応えるかのように、何者かがバルト海のパイプラインを破壊して、「実質的」に購入をストップさせた。
それにも拘らず、ロシアが苦境に陥ることはなかった。ロシア産石油は中国が購入した、国際原油価格は低下せずOPECは供給制限で価格を維持した。
ロシアは量的にも、金額的にも安定した原油生産を続けることができた。

欧州は自縄自縛の状況に

この記事(2022年4月)はこう書いている。
ガス供給源の多様化と再生エネルギーへの転換を含むロシア依存抑制のための欧州連合(EU)全体の努力の他に方法はない。
そんな事ができるわけはない。いまや欧州はエネルギー危機を迎え悲鳴を上げている。

1年前にウクライナ侵攻が始まったときに、「ロシアは持たないだろう」と言われた。理由は経済制裁に耐えられないだろうということだった。その際、侵攻直前に合意されたSWIFT制裁が実施されるとロシアはひとたまりもないだろうと言われた。
しかし最近さっぱりSWIFTの話は聞かない。ルーブルが紙切れになってしまったという話も聞かない。ロシアをなんぼやっつけようと思っても、経済制裁が効かないのでは話しにならないのではないか。もしそうならメディアをあげての大本営化は一体何なのだろうか。
そう思って資料を漁り始めた。意外なことにSWIFT関連の記事はほとんど見当たらない。どうもSWIFT制裁の話は完全に破産したようだ。もう一つは商業メディアのガードがさらに固くなり、ただで読める文献が殆どなくなってしまったことだ。こういう状況で非常に困るのが、グーグル検索がこういう腐れ記事を大量に拾ってくることだ。これでは検索エンジンの役を果たせない。こういう質具され記事を排除できる検索エンジン、というかAI機能を作って欲しいものだ。あるいは世界中の有志がリンク集を立ち上げる事も考えるべきではないか。
かろうじて見つけたのが下記の記事。一応、関係するところを拾っておく。

いろはに投資
2023-02-05FX

【2023年】ロシアルーブル/円の見通しはどうなる?変動要因を解説!
https://www.bridge-salon.jp/toushi/rub-jpy-future/

この記事の結論
経済制裁によってルーブル安が長期化する見通しがある
原油価格やウクライナ危機によってロシアルーブル/円は変動する
スワップポイントが高いメリットがあるが、取り扱い会社がない


1.経済の現状

ロシアの人口は1億4,617万人ほどで、日本の人口1億2568万人と大きくは変わりません。
ロシアの大統領である、プーチン大統領はソ連崩壊後のロシアを立て直し、在任期間が20年を超える異例の長期政権が続いています。
主要産業は鉱業で、資源が豊富な国として輸出が多い国としても知られています。そのため、輸入に比べて資源の輸出が上回り、貿易黒字を維持している。ルーブルの価格が原油価格に影響する
2023年1月には原油生産量710万トンと予想され、予想通りであれば2019年以降で最高の水準になる。
実質GDP率 5.6%   物価上昇率 8.4%

2. 通貨の状況

2014年2月に起きたロシアのクリミア併合のとき、経済・経済制裁が行われ、ロシアの国内経済は大きな打撃を受けた。
ウクライナ侵攻後の2022年2月末に政策金利を20%まで引き上げました。政策金利の高い通貨の価格は上昇する一方です。⇒ 2023年1月現在、政策金利は7.5%まで下落したことや円の価格が上がったことにより、ルーブル/円の価格は落ち着いています。

今後の見通し(記事の性格上通貨に限定した予想)
2023年は原油価格が上がったとしても、ルーブル高にはならないと予想(経済制裁が継続し、資源の輸出が難しくなる可能性があるため)
1ドル=30ルーブル前後から=70ルーブルの底値を記録。政策金利を17%まで引き上げました。

なおこの記事では最初の部分に、目立つ文字でこう書いてあります。
2023年1月現在、ウクライナとの戦争による経済制裁として、ロシアの金融機関はSWIFTから排除されルーブルの価格は暴落しています。
しかしこの記載は疑問です。本文の記載とはあきらかに矛盾しています。実際にはルーブルが暴落したのは最初の1,2ヶ月で、その後高金利に設定し、輸入制限をかけたあとルーブルは戻っています。
一番肝心なことはSWIFTの影響がまったく見られないことです。
要するに記事の恐ろしげな記述とはべつに、ルーブルは結構落ち着いちゃっているのです。
これでは書いた本人が一番当惑しているのではないでしょうか。

Consortium News
February 6, 2023

US-Laid Trap for Russia Has Trapped West Instead

ウクライナ:米国の仕掛けた罠にヨーロッパがはまってしまった


By Joe Lauria


リード

米国とNATOは、ウクライナに兵器を投入している。キエフはドンバスへの攻撃を計画していないというが、もしワシントンが攻撃を強行すれば、モスクワは大きな決断を迫られるだろう、とジョー・ローリアは書いている。

本文

米国を中心とする西側諸国が、ロシアに対して経済戦争、情報戦争、代理戦争を仕掛けるのには大義名分が必要だった。

その「大義」のうち最大のものとは、2014年から激化していた内戦でロシア系民族を守るために、ロシアがウクライナに侵攻したことだろう。

ロシア人を政府転覆に駆り立てることを目的とした経済戦争は、見事に失敗した。制裁はかえって西側、特にヨーロッパで裏目に出た。ロシア中央銀行への制裁にもかかわらず、ルーブルは崩壊しなかった。経済もそうだ。

それどころか、中国、インド、ロシアを筆頭に、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの大半が参加し、西洋を排除した代替的な経済、商業、金融システムが台頭している。
それは西洋の植民地主義の最終的な崩壊である。

世界中で情報戦が失敗している。自らを「世界」と考える米国と欧州だけが、自分たちの "情報 "を信じている。 

1,000億ドルを超える米国の援助は、ウクライナに血の海を作り出したが、その代理戦争は敗勢にある。

今後、事態は交渉による解決(ウクライナが領土・権利の一部を失う)、ロシアの完全勝利とウクライナの崩壊、あるいは第三次世界大戦、さらにその先の最終戦争(ハルマゲドン)のいずれかの道を進むことになる。

米国はロシアを瀬戸際に追い込み、介入を誘発させた。それは30年前から始まり、NATOは東方拡大を続けてきた。2021年にはNATOがロシアの国境で演習を行うに至った。
2021年12月、ロシアは条約案を提出し、ロシア国境へのNATO軍配備とミサイル設置を撤回するよう求めた。西側諸国は条約案を拒否した。

ウクライナでは、2014年に選挙で選ばれた大統領が違憲的やり方で追放された。これをきっかけにウクライナ内戦が8年間続いた。それが終結し、和平協定が国連安保理で承認され、ドイツとフランスの支援のもと実施されることになった。

しかし、当時のドイツとフランスの指導者たちは、最近になって認めている。そんな協定を実施するつもりはなかったと…
その協定は、ウクライナの一部でありながら、ロシア系住民の居住するドンバスに自治権を与えるはずだった。
メルケル(前独首相)とオランド(前仏大統領)は、ロシアは騙されたのだと述べた。
NATOにはロシアの侵攻から守るためにウクライナの軍備を増強する時間が必要だった。
ロシアにはその8年間があったが、それを使う代わりに、紛争を避けるためのミンスク合意に望みをつないだ。
昨年2月、西側が支援するドンバスへのウクライナの攻勢が始まった。そのあとロシアは行動を開始した。
西側はより大きな紛争を手に入れる事になった。 結局ロシアを罠にはめるつもりが、自分が罠にハまった。

Joe Lauria
Special to Consortium News

Global Research
February 01, 2023

A Panicked Empire Tries to Make Russia an “Offer It Can’t Refuse”

ロシアがアメリカの提案を断れない理由


By Pepe Escobar
ブラジル生まれ。アジアタイムスの通信員。グローバル・リサーチ(本誌)の定期寄稿者。

リード

米国はNATOとロシアの戦争が敗北に終わる可能性が高いことを認識し、撤退の提案を試験的に行っている。
王座の背後にいる者たちは、壁に背を向けているときほど危険なことはない。彼らの権力は急速に失墜している。
*軍事的には、ウクライナにおいてやがて招来するNATOの屈辱によってそうなる。
*財政的には、遅かれ早かれ、南半球の大半の国々が、破産した不正な巨大企業の通貨とは関わりを持ちたくないと思うようになる。
*政治的には、世界の多数派は、強欲で信用を失った事実上の少数派に従うのをやめようとしている。そしてそれらのために、決定的な措置を取ろうとしている。
だから今、玉座の背後にいる人々は、なんとか軍事面だけでも、迫り来る災害を食い止めようと画策している。
しかし、なぜモスクワはこんな遠回しな提案を真剣に受け止めなければならないのか。いまは軍事的前進の目前で、しかもその先に勝利の栄冠が待ち受けていると言うのに。


以下本文 

米国高官筋の確認情報では、ウクライナに関する新しい指令が、ブリンケン米国務長官に伝えられた。
ブリンケンは、実際の権力という点では、ストラウス派のネオコンと新自由主義者のメッセンジャーボーイに過ぎない。米国の外交政策を実際に動かしているのはもっと上の連中である。

(訳注: レオ・ストラウス。ドイツ出身のユダヤ人哲学者。シカゴ大学でかなり怪しげな哲学を教え、ネオコンの始祖となる)

国務長官は通常、新しい指令やクレムリンへのメッセージを主要な紙媒体で伝える。それはすぐにワシントン・ポストに掲載される。アメリカの主要メディアは、ニューヨーク・タイムズが国務省、ワシントン・ポストがCIAと接続し、たがいに分業している。 この種の情報はきわめて重要であり、正確さが求められる。そのため帝国の首都の活字メディアが伝える必要があるのだ。

今回目新しいのは、1年前のロシアのウクライナ侵攻以来初めて、アメリカが「見逃せないオファー」形式の提案を行っていることである。具体的にはロシアの安全保障上の要求への譲歩をも含んだ提案である。
(訳注: “Offer It Can’t Refuse” は文脈から見て交渉の落とし所まで示唆した提案を指す業界用語と思われる)

重要なのは、米国の提案がキエフ政権の意向をを完全に無視していることだ。米国は以下のことを認めた。
この戦争は、米帝国とその手先であるNATOがロシアを相手に戦っている戦争であり、ゼレンスキーらは取り替え可能なたんなる代理人に過ぎない。


「攻撃をやめよ、お願いだ」

ワシントン・ポストのモスクワ駐在の古参記者ジョン・ヘルマーが重要なものを提供してくれた。すなわちブリンケンのオファーの全文である。
そこにはもちろん、「米国の兵器がプーチンの侵略軍を粉砕するのに役立っている」などの空想的な文言が広範囲に散りばめられている。そこには、歯切れの悪い説明も紛れ込んでいる。たとえば「言い換えれば、ロシアは休息したり、部隊を再編成したり、攻撃の準備をしたりしてはいけないということだ」などなど。

ワシントンからのメッセージは、一見すると、アメリカがクリミア、ドンバス、ザポロージエ、ケルソンに対するロシアの支配を認めるかのような印象を与える。
それは例えば、“クリミアとロシアを結ぶ陸橋 " だったり、“既成事実” などという表現だ。
そして、以下のような提案が連ねられる。
ウクライナは非武装化される…。HIMARSミサイルやレオパルド、エイブラムス戦車の配備はウクライナ西部に限定される…。そしてロシアのさらなる進撃に対する“抑止力" として維持される…。
かなり曖昧な表現だが、提示されたのは、実際にはウクライナの分割である。
ロシア参謀本部が「2023年攻勢」という未知の作戦を取りやめることが求められる。そしてそれと引き換えに、非武装地帯を含むウクライナの分割が提案されている。
この分割は、最悪の場合キエフの黒海へのアクセスを遮断するような壊滅的な分割となる可能性もある。さらにポーランド国境を越えるようなNATO製武器の供給を遮断する可能性もある。

米国はこの提案を、"ウクライナの領土を維持し公正な平和へ進む道" と定義している。
 まあ、さほどでもないが。

この提案が実現するとどうなるだろうか。ウクライナは解体されることにはならないだろう。ポーランドが食い物にしたがっている西部の土地もキエフ政府が保持することになるだろう。
「最終的な戦後の軍事バランス」に関するワシントンとモスクワの直接取引の可能性も指摘されている。そこではウクライナのNATO加盟の見送りも含めて話し合われる。
アメリカ人は この提案を自画自賛している。「ウクライナはEUに加盟し、強力で清潔な経済」を実現できると信じているようだ。

しかしすでに、ウクライナに残っている価値のあるものはすべて、金持ちに食い物にされてしまった。
彼らは途方もなく腐敗した寡頭勢力、またブラックロック系の投資家や投機家であった。
ハゲタカ企業の連中は、ウクライナの穀物輸出港を失いたくないし、EUとの貿易取引権益を放棄するわけにはいかないのだ。
彼らはロシアの攻撃によって、黒海の主要な海港と輸送の拠点であるオデッサが占領されることを恐れている。もしそうなればウクライナは陸の孤島になってしまう。

プーチン大統領と、安全保障理事会のパトルシェフ長官やドミトリー・メドベージェフ副議長などがアメリカの権力者を信じる理由は、いまのところない。特にブリンケンやワシントン・ポストのようなたんなる使い走りの情報を信じる理由はなにもない。
結局のところ、Stavka(ロシア軍最高司令部)は、たとえ文書による申し出があったとしても、ブリンケンらを「合意能力」を持たない者とみなしているようだ。

これは、米国側の必死の交渉である。モスクワを引き延ばし、今後数ヶ月の攻撃計画を遅らせたり中止させたりするために、ニンジンをぶら下げようとするものである。
身内さえ誰も相手にしていない。ストラウスを先頭とするネオコンの連中ばかりでなく、古参の反体制派のワシントン工作員でさえ、この国務省の作戦は何の役にも立たないと思っている。

ロシアは例によって、古典的な「戦略的曖昧さ」モードで非武装化、非ナチ化、非電化を進め、ドニエプル川の東側を境界として、いつでもどこでも適当なところで(あるいはそれよもう少し先で)進出をやめるだろう。 

結局、この “ふところ深い国” は何を望んでいるのだろう。

NATO対ロシアという本質的な競争がある。ワシントンの野望は、ウクライナという一地方をはるかに超えている。
私はロシアー中国ードイツを結ぶユーラシア連合という悪夢について話しているわけでもない。
ここでは戦場ウクライナでのありふれた議論にもう一度こだわってみよう。

軍事、経済、政治、外交の主要な「提言」は、昨年末のNATO評議会の戦略文書に詳述されている。
そして、もう一つの文書「戦争シナリオ1:現在のテンポで戦争が続く」では、ストラウス派ネオコンの戦争政策が全面的に明文化されている。
全てはここにある。

* 「キエフが勝利するために必要な支援と軍事支援を行う」ことから、「ウクライナの領空支配とロシア軍への攻撃を可能にする戦闘機や、ロシア領内まで射程に置くミサイルなど、軍事支援の威力を高めること」まで。
* ウクライナ軍が「西側兵器、電子戦などのサイバー能力を身につけ、新兵を軍務に継ぎ目なしに統合する」ための訓練から、ドンバスの最前線での実戦能力強化、「非正規戦を想定した戦闘訓練」まで。

それは「クレムリンと取引しているすべての団体に間接的制裁を課す」ことに加えて、「すべての謀略の母」(強奪)に帰結する。すなわち「ロシアが米国やEUの海外口座に保有する3000億ドルを没収し、ウクライナ復興資金に充てる」算段である。
しかしプーチン、ゲラシモフ参謀総長を頂点とする統合参謀部のハルマゲドン将軍たちは、これらの緻密な計画を頓挫させつつある。アメリカの目論見は破産しつつある。

ネオコンの連中は今、大パニックに陥っている

ブリンケンのナンバー2、ロシアフォビアの好戦主義者ビクトリア・ヌーランドでさえ、アメリカ上院で認めた。「春まで(現実的には2024年まで)戦場にエイブラムス戦車は到着しないだろう」
彼女はまた、モスクワが「交渉に戻る」なら「制裁を緩和する」と約束した。その交渉は、2022年の春にイスタンブールでアメリカ人自身が打ち切ったものだ。
さらにヌーランドは、ロシアに「軍隊を撤退させる」よう呼びかけた。ブリンケンの「見逃せないオファー」からにじみ出るパニック感に比べれば、それは少なくともユーモアのある対応と言えるだろう。しかしロシアはこれに対し、「無反応」という反応をおこなった。

本文ここまで
……………………………………………………

この記事は、事情通の書いたコラムであり、業界用語の飛び交う “読み物” である。彼らにとってはジョークかもしれないが、我々にとっては恐ろしい冗談である。

遍路墓と「五木の子守唄」

「五木の子守唄」の歌詞はいくつかの元歌の寄せ集めである。
本来の子守唄は一番だけで、二番以降は子守唄ではなく、「勧進さん」の哀歌である。あるいは怨み歌と呼ぶべきかも知れない。
最も長く、掛け合い歌のように連なるのが「勧進さん」の死に様と弔いである。
「おいどんがうちねば、みちばちゃいけろ。通る人ごち、花あげろ」
みちばちゃ(道端に)というのは「おうかんばちゃ」(往還端に)というバリアントもあって、多分こちらのほうが古いのだろうと思う。
ただの道ではなく、いろんな人が行き来する街道筋だ。そこが「勧進さん」のなりわいの場でも、仮りそめの宿でもあった。

「勧進さん」と「お遍路さん」は今では随分イメージが違うが、昔はジプシーと同様、物乞いの人々であった。私の子供の頃はまだいろんな旅回りがごっちゃであった。

托鉢や虚無僧、御詠歌など月に1,2回は何かと門付けが現れ、おふくろが10円玉を手渡しているのを見て育った。遍路もその一つではなかったか、と思う。

傾城阿波の鳴門では、おつるが「巡礼にご報謝を」と、ひとり門付けをして歩く。夜は野に寝たり山に寝たり、人の軒の下に寝たりの毎日だ。(河合真澄「浄瑠璃に見る四国遍路と順礼」

もちろんお遍路さんはそのような、みすぼらしい惨めな存在とばかりは言えない。筑紫や肥後では身元正しい娘たちが集団で御詠歌を歌いながら旅をすることもあったらしい。北原白秋の歌や、高群逸枝の文章にもそのような集団が登場する。

ただ四国の各地に存在する遍路墓は、遍路の最も厳しい行く末をヌッと突き出していることに間違いない。

四国遍路というサイトがって、遍路にまつわるさまざまなエピソードが紹介されている。そのひとつがこれ。「遍路墓で昔のお遍路さんを偲ぶ」という記事だ。

遍路墓
これは十五丁石付近から今は通るお遍路さんが少ない川沿いの道を進んだ先にあった遍路墓です

上の写真の遍路墓は、盛り土に自然石を置いただけの簡素な遍路墓で、このようなお墓が今でも残っていることは少なくなっています。
ただし、このお墓も地域の方がこの場所までお参りにくるのが難しくなり、2015年12月に集落に近い場所にうつされることになったそうで、今現在は痕跡を残すのみになっているそうです。

というキャプションが付いている。

こちらの写真がそうやって集められたお墓の集団。

遍路墓2
いろいろな場所にちらばっていた墓石を集めている墓地もあります


これは別の記事からの引用。

以前のお遍路は死と隣り合わせだったのです。そのため、お遍路さんは死に装束である白衣、卒塔婆の代わりとなる金剛杖、棺桶の文字が書かれた菅笠を最初から身にまといお遍路をしていました。
やはり、本当に厳しい修行なのでお遍路の途中で行き倒れてしまう人もいました。そのような人は地元の人によって埋葬され、お墓が作られました。このようなお墓は「遍路墓」と呼ばれています。

このような情景を思い浮かべながら「五木の子守唄」を聞くと、野垂れ死んだ「勧進」さんの娘への弔い歌という、この歌のもう一つの側面が浮かび上がってくる気がする。

このブログの検索窓に「五木の子守唄」と入れて検索してください。

小関彰一「平和憲法の深層」(ちくま新書 2015)より

第五章 深層から見えてきた「平和」

第一節「平和」に飢えていた頃

① 耐え抜いた敗戦

多くの人々が「平和」に飢えていた。 
敗戦とともに、米軍の空襲は止み、安心して眠りにつけるようになった。
たしかに、衣食住の心配はむしろ戦中にも増して大きかったが、それでも戦争を耐え忍んだ末の「平和」であった。
「平和」は静止したものではなかった。人々は平和を呼吸しながら動き始め、希望を膨らませ始めた。「平和」は、戦後とともに「平和国家」、「平和主義」へと動的・形容的な「平和」へと変わり始めていた。

② 平和国家

GHQが検閲をしていたことは紛れもない事実である。しかしそれは戦前の検閲とは比較にならない自由があった。
 戦時下で「ボロ屑」のごとく、人間としての尊厳を無視され続けてきた国民は、貧しくとも自 らに誇りを持ち始めた。
平和とともに自由と、自立・自愛もセットで、希望を振り撒きながらやってきた。それが憲法に先立ってやってきた「平和国家」の枠組みであった。「国体護持」は何となく捨てるのが怖いので、神棚にしまい込まれた。

③ 二つの「平和国家」論

「平和」ほど無概念に、たやすく使える言葉はない。先の「大東亜戦争」の開戦宣言(詔書) で「平和」は六か所も使われていた。

森戸辰男によると「平和国家」には二種類ある 。それは「戦争のできぬ国」と「戦争を欲せぬ国」である。

当時GHQ案を受け入れた日本は、「平和国家たることを強要」されている。それは外形的には平和国家であるが、必ずしも内面的にもそうだというのではない。
これに対して「戦争を欲せぬ国」は、第一に「独立自由な国家」を意味する。占領下の国家は平和国家の資格を持たない。
そして第二に 「平和の追求者」、つまり「戦争ではなく平和が人間性に即しており、史的発展の方 向もそれを指示している」と認識していることを意味する。
第三の「平和主義国家」という範疇も提起されているが、率直のところ理論が空回りしている感が否めない。肝心の発案者である森戸も、まもなく論陣を解き戦列を離れた。そして数年後には中教審のイデオローグとして華々しく再出発するのである。

The Unz Review
 FEBRUARY 1, 2023

ウクライナは沈没しつつある
西側諸国は逃げ出すのだろうか?

Ukraine Is Sinking,
Are Western Elites Bailing Out?


by MIKE WHITNEY

UkraineTitanicMW-600x360
      ウクライナはタイタニック号となりつつある


抄録

ランド研究所が発表したウクライナに関する最新の報告書(以下ランド報告)の重要な点は、分析のあれこれのクオリティではない。
重要なのは、米国で最も権威ある国家安全保障シンクタンクが、この戦争について、ワシントンの政治家やネオコンたちとは反対の立場を取ったという事実である。
これは非常に大きな問題だ。
 覚えておいてほしいのは、戦争は国民が反対するから終わるのではない、ということである。それは神話である。戦争が終わるのは、支配層の間に決定的な分裂が生じ、それが最終的に政策の変更につながったときである。
支配層の分裂を象徴しているのがランド報告、「長期戦の回避: 米国の政策とロシア・ウクライナ紛争の軌跡」である。
rand
ランド社のウクライナ報告 ( このページに行くと、そこからPDFファイルを入手できます
(2月5日、読者のご指摘を受け訂正しました)

これは、支配層の有力な一部が、「現在の政策は米国に損害を与える」と考え、多数派(ネオコン派)と決別したことを示すものだ。
彼らは現在の政策が米国を苦しめていると考える。この立ち位置の転換は、今後さらに勢いを増し 、交渉開始を求める引き金となるだろうと考える。つまり、ランド報告は、戦争終結への第一歩なのである。

報告書の前文にあるこの部分を少し考えてみよう。:

“ウクライナでの長期戦争のコストとリスクは大きく、そのようなやり方が米国にもたらすだろう利益見込みを上回る。”

この言葉は、この文書全体を効果的に要約している。
考えてみよう:

この11ヶ月間、私たちは繰り返し、アメリカは "必要な限り "ウクライナを支援すると聞かされてきた。
上記の引用文は、「そんなことはありえない」と裏書きしている。
米国は、ロシアをウクライナから追い出すという達成不可能な夢を追求するために、自国の利益を損なうつもりはないのだ。 「タカ派」と呼ばれる人たちでさえ、もはや、それが可能だとは思っていない。

外交当局の現実派は、ウクライナが成功する確率を計算し、逆に紛争が予期せぬ形で暴走する確率と比較検討しているはずだ。
後者の場合は誰の利益にもならず、ロシアと米国の直接の衝突を引き起こしかねない。米国の政策立案者は、ウクライナ作戦で膨れ上がる巻き添え被害が、成功した場合の利益に見合うかどうかを判断することになる。
具体的には、破断したサプライチェーン、激化するインフレ、深刻化するエネルギー・食糧不足、兵器備蓄の減少などだ。それらは、「ロシア弱体化」に見合ったトレードオフなのだろうか? 多くの人は、"No "と言うだろう。

ランド研究所が発表した報告書は、ドミノ倒しの長い列の最初の一歩に過ぎない。
今後ウクライナの戦場での領土的損失は拡大するだろう。ロシアがドニエプル川以東の全領土を支配することが明らかになるにつれ、ワシントンの戦略の欠陥がより明瞭になるだろう。

経済制裁は最も親しい同盟国を傷つける一方で、ロシアに致命的影響は及んでいない。その意味を人々は問い始めるだろう。ドル離れ、米国債離れを加速させるような政策を、なぜ米国がとっているのか?
そして、ウクライナの勝利の可能性がほぼゼロであるにもかかわらず、なぜ米国は3月の和平交渉を意図的に妨害したのか、と考えるだろう。

ランド・リポートは、こうした疑問のすべてと、それが生み出す「ムードの変化」を予期しているようだ。だからこそ、著者は交渉と紛争の迅速な終結を後押ししているのである。
以下はRTの記事からの抜粋である。
ランド研究所は、国防総省から直接資金提供を受けているエリート国家安全保障シンクタンクである。そこが画期的な報告書を発表した。
「代理戦争を長引かせることは、米国とその同盟国に甚大な損害を与えることになる。したがってウクライナでの「紛争の長期化」を避けるべきだ」との警告である。
(報告書は)まず、こう述べる。「ウクライナ紛争はここ数十年で最も重要な国家間紛争であり、その進展はワシントンにとって大きな結果をもたらすだろう」
その中には具体的に、米国の「利益」が影響を受けていることも記載されている。
 この報告書は明言する。
「ウクライナ人は戦闘を続けてきた。彼らの都市は平らになり(flattened)、「経済が衰退」したが、「これらの損害はキエフの損害とは意味が違う」(these “interests” are “not synonymous” with Kiev’s.)という。("Rand calls for swift end to war", RT)

NATO-expansion-map-1024x576
図 NATO Expansion

報告書は「米国の利益が損なわれている」とは明言していないが、事実上そのように受け取れる。
報告書はワシントンの対ロシア戦争による巻き添え被害には一切触れていない。
結局のところ、米国に多大な損害を与えているのは、1000億ドルの援助資金でも、強力兵器の提供でもないのだ。国連やその他の国際機関が、次々に登場してきていることが、アメリカ帝国を窮地に追い込んでいるのだ。
ランド研究所のアナリストは、他のすべての常識的な人々と同じものを見ている。すなわちワシントンとモスクワとの誤った対立は「遠すぎた橋」となってしまった。その反作用はとんでもなく耐え難いものだ。それゆえ、戦争を早く終わらせることが急務なのだ。

以下は、本文の途中に太字で掲載された報告書の抜粋である。
まず状況悪化のリスクを最小限にまで抑えること、その次に重要なのは長期戦を回避することだ。それは最優先事項である。
米国は中期的な紛争終結の方向性を高めるべきである。
報告書は主なエスカレーション・リスクを詳述している。主なリスクとしては、NATOとのより全面的な戦争、他のEU諸国への紛争の波及、核戦争などがあげられる。
一方で、興味深いのは、「長い戦争」がなぜ米国に大きな損害を与えるのかについては、具体的に説明していないことである。
この省略は意図的なものであろう。彼らは制裁の反作用により、米国の横暴に反感を持つ諸国連合が形成される危険性を感じている。
それはグローバルパワーを維持しようとする米国の計画を明らかに損なうことになるだろう。彼らはそのことを認めたくないのだと思われる。エリートたちの間では、このような話は禁句なのだ。 

Consortium Newsに掲載されたChris Hedgesの記事を要約すると、こうなる。
ロシアを衰退させることによってヨーロッパと世界のパワーバランスを再構築するこの度の計画は、失敗した20年前の中東再構築計画に似ている。
ウクライナ計画は、世界的な食糧危機を煽り、ヨーロッパを二桁近いインフレで荒廃させている。それは、米国の無力さと、その支配者である超富裕層の政策的破産を再び露呈するものである。
“米国に対抗して、中国、ロシア、インド、ブラジル、イランなどの国々が、世界の基軸通貨であるドルの専制政治から脱却しようとしている。
この動きは、米国の経済的、社会的破局を引き起こすだろう。. ”カッコ内強調
米国はウクライナを救うために、より高性能な兵器システムと何十億もの援助を与えているが、大事なのはそのようなことではない。
重要なのは、ウクライナを戦火から救い出すことである。



Daily News
February 02 2023

Sending tanks not element for solution in Ukraine-Russia war: Erdoğan

エルドアン、「戦車の派遣はウクライナ戦争解決には役立たない」



この間の和平の動きの中で、明確な成果を上げているのはトルコのみです。もっと注目すべきではないでしょうか。以下はエルドアンのTRT放送インタビュー(2月2日)での談話大要。

erudoan

1.米独の戦車供与は紛争解決に役立つのか?

そうは言えない。これらは時間稼ぎの狙いに過ぎない。この選択はまったく的外れで、危険そのものであり、武器商人を利するだけだ。

2.トルコの果たしてきた役割

トルコ政府は穀物回廊、囚人交換、ザポリジャー原子力発電所の安全確保、人道支援に関して、常に解決の一翼を担ってきた。交渉には、限定的な停戦宣言と公正な解決策のビジョンが必要である。

3.平和への見通し

私は常に平和への希望を持ち続けている。もしこの希望を失っていたら、穀物回廊は開かれなかっただろうし、囚人交換もなかっただろう。今後ともロシアとウクライナの指導者と協議を続け、恒久的な平和を確保する方法を見つけていく。

4.ヨーロッパの危険な動き

ヨーロッパには危険な動きもある。特にスカンジナビア諸国における反イスラム的な暴言と不当な行動の増大に懸念を抱いている。イスラム恐怖症との戦いにおいて、スウェーデンが誠実な措置をとることを期待している。

4.平和と交渉の呼びかけに対する支援を

トルコ政府は常に永続的な平和のための調停者の役割を担う用意がある。平和と交渉の呼びかけに対する欧州と世界からの支援を期待する。


Global Research
January 31, 2023

なぜ、今もなお、人類は戦争の悲劇を許容するのか?
ー21世紀の全体像ー

Why Does Humanity Still Tolerate the Tragedy of Wars in the 21st Century? The Big Picture

https://www.globalresearch.ca/why-does-humanity-still-tolerate-tragedy-wars-21st-century-big-picture/5804347

Prof Rodrigue Tremblay
torenbure-

           英語版ウィキより

リード

アントニオ・グテーレス国連事務総長が国連総会を招集することは有益かつ望ましいことである。
ウクライナ戦争の悪化が激化する現在、それが人類にもたらす大きな危害を考慮し、世界の平和の問題を議論することが今ほど必要なときはない。

***
第二次世界大戦(1939-1945)終結後、多くの内戦があった。2カ国以上によるいくつかの重要な地域的軍事紛争も発生した。
最も深刻な地域戦争は、朝鮮戦争(1950-1953)、ベトナム戦争(1955-1975)、イラク戦争(2003-2011)、シリア戦争(2011- )、そしてウクライナ戦争(2022- )である。
しかし、高度な軍事力を持つ国同士が向き合うような世界的大戦争に発展したものはない。



本文

* 人間の本性。戦争の基礎となる好戦的本能

人間の基本的な本能である支配、征服、支配、搾取への欲望は、しばしば国家間の紛争や戦争の背景そのものであった。
先進国でも、暴力を用いて権力を獲得し、拡大しようとする人間がいて、長い時間をかけて支配しているかもしれない。それが王、皇帝、独裁者、強権主義者たちである。
戦争が人間の本質に属するものであるならば、その運命から逃れるために、文明はより抑制的にならなければならない。
すなわち、文化的原則と民主的ルールと法律に基づいて、独裁政権や寡頭制を防ぎ、他民族への支配欲を抑制する必要がある。


* 倫理的諸原則、あるいは国際協力によって戦争を防ぐ試み

1.「正義の戦争」論

ヒッポのアウグスティヌス(354-430)やトマス・アクィナス(1225-1274)が、「正義の戦争」論(jus ad bellum)について最初の哲学的著作を表した。彼らは国家間の組織的・軍事的暴力の実行に、「正義」とまではいかなくとも、ある程度の道徳と公正さを導入しようと試みた。
「正義の戦争理論」の思想家たちによれば、戦争は先制的であってはならず、防衛的でなければならない。戦争は自衛のためのものでなければならない。その目的は、国家の平和を重大な損害から守ることであり、
その実行は、あらゆる外交的選択肢が尽くされた後でなければならず、その悪質性は、想定される限りにおいてもっとも小さなものでなければならない。

そのためには、戦争は、正当な理由が求められる。例えば、罪のない人命を守るなどである。
その理由に基づき、長期的な平和を追求すること、その力は正当な権威の支配下において、用いられること、
その行使においては、いくつかの手段が先行し、その後に最後の手段として行われるというような、いくつかの基準が提示された。
(訳注: この辺はかなり怪しいので、不明な点があれば原文をあたってください)

言うまでもないことだが、現実的には侵略戦争を防ぐ手段はない。このため、正義の戦争理論は、その創設以来、侵略戦争や征服戦争の発生を防げたことがない。
実のところは、無節操で傲慢な指導者が国際関係において弱肉強食の法則にのみ従い行動すれば、「Might makes right」という野蛮なルールが適用されることになる。


2.国際連盟の時代 (1920-1946)

国際連盟は、20世紀初頭の1920年1月10日、スイスのジュネーブで、世界人口の7割を占める41カ国の加盟をもって創設された。それは、第一次世界大戦の再発を防ぎ、「国際平和と安全の達成」を目的とした多国間の試みであった。

第一次世界大戦以前、平和と安定を維持するための国際システムは、非常に原始的なものだった。それは、いくつかの国を束ねた軍事同盟に基づくものであった。

軍事同盟の目的は、いわゆる「力の均衡」によって戦争の抑止力となることだった。しかし、同盟制度は非常に不安定であった。なにか重大な軍事事件があれば、それは容易にエスカレートする。
そしてまもなく大規模な戦争の引き金になってしまう。なぜなら一国が宣戦布告をすれば、その同盟国も参戦してくるからだ。

第一次世界大戦前には、大陸の中央にドイツ、オーストリア・ハンガリー、イタリアを中核都市、のちにブルガリア、オスマン帝国を加えた「中央国家」(the Central Powers)が形成された。
一方、フランス、イギリス、ロシアに、のちに日本、アメリカを加えた「連合国」(Allies)という軍事同盟が形成された。これらは互いに牽制し合いながら存在していた。

1914年6月28日、ボスニアのサラエボで、オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子フランツ・フェルディナントが、セルビアの民族主義者ガヴリロ・プリンツィプによって、妻のソフィーとともに射殺された。オーストリアは直ちにセルビアに宣戦布告した。これが発端となり、軍事同盟が発動した。

軍事同盟がなければ、フランツ・フェルディナント大公の暗殺はセルビアとオーストリア・ハンガリーの間で地域戦争が起こるだけであっただろう。
しかし、同盟関係があったために、ロシアがセルビアを支援するようになり、その結果、オーストリアと同盟を結んだドイツは、自動的にロシアに宣戦布告することになった。

ここで問いかけが必要だ。「軍事同盟は大きな戦争を引き起こす火薬庫(powder kegs)なのか?

第一次世界大戦後、国際連盟はこのような同盟間の戦争を防ぐために作られた。しかし国家間の軍拡競争を防ぎ、軍縮協定を実施するにはあまりにも弱かった。
国際紛争が起こった場合、交渉や仲裁によって紛争を解決するためには、あまりにも脆弱であった。

3.国際連合の時代 (1945~)

第二次世界大戦(1939-1946)は、第一次世界大戦の遺産(続き)と言われている。
この戦争にも二つの対立する軍事同盟が関わっていた。一方は枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)、もう一方は連合国(フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、ソビエト連邦、中国)である。

大戦の直接的な引き金は、1939年9月1日、ドイツ軍が隣国ポーランドに侵攻したことである。その後、イギリスとフランスは、ポーランドと結んだ防衛条約に基づき、1939年9月3日にドイツに対して宣戦布告を行った。

しかし、歴史家はその責任の多くを、国際連盟が地域戦争を防ぐことができなかったことに求めている。
1919年6月のヴェルサイユ条約は、ドイツ(ワイマール共和国)とその経済に厳しい戦争賠償を課し、ドイツからいくつかの領土を奪い、その他の徴発も行った。
このような国家全体に対する厳しい屈辱は、ドイツだけでなく、イタリアや日本でもナチス運動や軍国主義の台頭を促した。

1945年6月26日、サンフランシスコで誕生した国際連合は、国際連盟の失敗を受け「侵略戦争」を禁止するための試みである。実際、国際連合憲章には、その主な目的は「戦争の惨禍から後世の人々を救う」ことであると記されている。

しかし、国連憲章が侵略戦争を違法としているにもかかわらず、強国は侵略戦争を続けている。
彼らは、自衛権51条の乱用的解釈に頼りながら、他の弱国に対して、その暴力的侵略が「必要な対応」であったと主張するが、それは口実に過ぎない。

だから、第二次世界大戦後の世界は、第一次世界大戦の前と比べて侵略戦争を回避するための環境が改善したとは到底言えない。 "所変われど品変わらず" (The more things change, the more they stay the same)である。


* 地政学的要因と軍事同盟の危険性

4.第一次冷戦 (1945-1991)

第二次世界大戦中、アメリカとソビエト連邦は同盟国であった。しかし、戦争が終わると、彼らは2つの強力な対立する「防衛的」軍事同盟を構築することになった。

一方、1949年、米国政府は北大西洋条約機構(NATO)の創設に力を尽くした。中・東欧に駐留するソ連軍に対抗するのが正式な目的だった。
現在、30カ国が加盟し、さらに多くの国々が加盟を待っている(スウェーデン、フィンランド、ウクライナ)。

NATO規約の第5条には、次のように規定されている。

「欧州又は北米におけるこれらの者の一人又は数人に対する武力攻撃は、これらの者全員に対する攻撃とみなす。

従って、このような武力攻撃が行われた場合には、各当事者は、国際連合憲章第51条により認められる個別的又は集団的自衛の権利を行使して、攻撃を受けた当事国を支援することに同意する。

締約国は、北大西洋地域の安全を回復し維持するために、個別的及び他の締約国と共同して、武力の行使を含む必要な行動をとり、攻撃を受けた締約国を支援する。

(何やら良く分かりませんので、原典から引用しておきます。

Article 5

The Parties agree that an armed attack against one or more of them in Europe or North America shall be considered an attack against them all and consequently they agree that, if such an armed attack occurs, each of them, in exercise of the right of individual or collective self-defence recognised by Article 51 of the Charter of the United Nations, will assist the Party or Parties so attacked by taking forthwith, individually and in concert with the other Parties, such action as it deems necessary, including the use of armed force, to restore and maintain the security of the North Atlantic area.

Any such armed attack and all measures taken as a result thereof shall immediately be reported to the Security Council. Such measures shall be terminated when the Security Council has taken the measures necessary to restore and maintain international peace and security .    以上 訳者)


一方、ソ連はNATOに対抗するため、1955年にワルシャワ条約機構を結成した。ソ連と東欧8カ国を加盟国とした。ワルシャワ条約は、加盟国に、外部勢力から攻撃された加盟国を防衛することを求め、統一的な軍事司令部を設置するものだった。

30年以上にわたって、西側ブロックと東側ブロックという二つの軍事同盟は、ヨーロッパのパワーバランスを形成した。

ワルシャワ条約機構は、ソ連が深刻な政治危機を迎えた1991年12月25日、正式に解体されることになった。ソ連はロシア連邦と15の新しい国家に取って代わられ、これで36年間続いた冷戦は終結した。

その結果、西側諸国連合であるNATOは、対抗する潜在的な敵を失ってしまった。

NATOの推進者である米国政府は、西側軍事同盟を解体するか、その目的を再調整して新たなミッションを開発するか、2つの選択を迫られることになった。
アメリカはその時、ヨーロッパにおける影響力を維持するために、NATOを解体しないという選択をした。

この決定は、ロシア政府にとって多くの疑念を抱かせるものであった。ロシア政府は、好戦的なNATOと対峙することを恐れていたのである。このような懸念を払拭するために、ブッシュ米政権はベーカー国務長官を通じて次のような確約をした。

「NATOは東欧には進出しない。したがって、ロシアにとって軍事的な脅威とはならない」

その交換条件として、ロシア政府は、東ドイツと西ドイツが一つの主権国家として統一され、NATOの同盟国となることを認めるよう求められた。しかし、1994年、さらに1999年になると状況は一変する。


5.第二次冷戦 (1999- )

1994年から1996年にかけては、共和党からの圧力もあったがそれだけではなかった。さらに一方的な新帝国主義外交を支持するネオコン派の台頭も影響した。クリントン大統領は演説で、父ブッシュがロシアに与えた保証、「NATOはもう1インチも東へ拡大しない」という原則をもはや尊重しないと匂わせた。

このときネオコンは、「米政府は市場経済への移行に失敗したロシアの極端な経済的弱点を利用し、ロシアを軍事的にも弱体化させ包囲すべきだ」と説得したのである。

1996年10月、クリントン大統領は、旧ワルシャワ条約機構諸国とポストソビエト共和国にNATO加盟を公然と呼びかけた。それだけではなく、NATO拡大が米国の外交政策の一環であることを公式に表明した。

1999年3月に東欧3カ国(ハンガリー、ポーランド、チェコ)がNATOに正式加盟した。これを皮切りに、旧東欧諸国(セルビアを除く)のNATOへの全面的組み込みが実施された。

1999年3月、クリントン政権はさらに一歩踏み込んだ。侵略行為を禁じた国連憲章を無視し、NATOを盾にユーゴスラビア内戦に干渉した。そしてセルビア軍に対する空爆作戦を開始したのである。

そのとき、米国政府は、国連を事実上無力化し、侵略戦争を防ぐことも止めることもできなくなした。
それ以来、米国政府は軍事介入を正当化するために、NATOを盾代わりに使ってきた。


* 戦争を始めるための口実、挑発、デマ、その他の諜報作戦について

国家間戦争を引き起こすには、直接爆撃したり、軍隊を派遣して外国を侵略したりしなくても、間接的な宣伝や裏切りなどいくらでもある

例えば、戦争の意図を持つ国は、戦争の前段階として挑発や脅迫を行う。あるいは、敵の憎しみを煽る。また、侵略者は、軍事演習や秘密作戦を通じて軍事攻撃の可能性を演出し、相手の国を混乱させ、苛立たせることもある。ニセ旗作戦(秘密に戦争行為を行い、その責任を他国になすりつける)もしばしば行われている。

非友好的な国を傷つけるもう一つの方法は、代理戦争に頼ることである。代理戦争においては、標的とする敵国に対して行う戦争だが、第三国が資金と武力を提供する。代理戦争と偽旗作戦の組み合わせは、紛争を公開戦争に発展させる計画の一部となり得る。

侵略者側の戦争計画は、秘密工作によって外国の施設を破壊することまで可能である。また、正式な宣戦布告なしに、被害国を包囲して脅威を与えることも可能である。

戦争を始めるときによく使われる戦術の一つは、嘘やデマ宣伝によって、敵国の“隠された意図”を作り出し、相手を誹謗し悪者に仕立てることである。

対象となる国を戦争に追い込むもう一つの方法は、その国が輸入しなければならない石油などの必需品の貿易禁輸を課すことである。ある国に対して一方的に経済・金融制裁を行い、その国の経済に打撃を与えることも、戦争につながりかねない敵対行為である。

以上見てきたように、強国が他国に対して戦争を仕掛けようとするとき、その手段は無限にある。対象国が法的、外交的手段、あるいは調停によってのみ戦争を防ぐことは、実際には非常に困難だ。国際連盟も国際連合も、覇権を狙う強国が、さまざまな手段で弱小国を挑発し、戦争を誘発することを違法としたわけではない。

以上のことは、侵略戦争という忌まわしい行いを、完全に時代遅れのものとすることが、いかに複雑で困難なものであるかを示している。とはいえ、核兵器の破壊力を持つようになった侵略戦争は、人類がこの地球上で生き残るためには、防がなければならない。

最後に付け加えておくことがある。あまり嬉しくない事実だが、最近の研究では、民主主義国の方が独裁政権よりも戦争を始める可能性が高いという結論が出ている。


結論

現在、戦争を防止し、あるいは終わらせるための国際的な政治的、法的枠組みは崩壊している。
国連は余計者となり、国連憲章に規定された軍事紛争の裁定者としての権威は覆された。
自分勝手なむき出しの「力の政治」が復権し、国際的調停に取って代ってしまったのである。

100年前の栄光が復活するように軍事同盟が再構築されつつある。「力の均衡」への信頼が、世界的な軍事衝突に対する唯一の防波堤となった。

侵略戦争と代理戦争は、野蛮な人類の制度として、きっぱりと排除されるべきである。より文明化された世界は、原始的な軍事同盟の罠から自らを解放するだろう。そして戦争が絶えない真の理由を根絶するだろう。それは歴史的に証明されている。財政赤字と公的債務、持続的なインフレだ。

……………………………………………………
Dr. Rodrigue Tremblay :

International economist.
He holds a Ph.D. in international finance from Stanford University.
He is a Research Associate of the Centre for Research on Globalization (CRG). 

teleSUR
27 January 2023

ロシア、NATOの対ロシア対決姿勢に警告

Russia Warns of NATO Confrontation With Russia



Russian Foreign Ministry spokeswoman Maria Zakharova

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国がロシアとの対立を激化させていると述べ、ウクライナへの武器供給について警告を発した。

ザハロワは、「NATO諸国の人々は、NATOがわが国と全面的に対決していること、そしてこの対決がエスカレートしていることを知るべきだ」と述べた。

彼女は、ドイツと米国が最近戦車の派遣を決定したことなどについて、NATOの関与を指摘した。

「ウクライナに到着した西側兵器はすべて、当然、ロシア軍の標的となる。戦車が供給されたとしても、もちろんそれはキエフ政権にとって状況の改善にはつながらないだろう。しかし西側諸国は、我が国と国民に対して新たな対立を引き起こしたことになる。それを忘れてはいけない」

ザハロワの発言は、今週開催された欧州評議会(PACE)議会で、ドイツのベルボック外相が「欧州諸国はロシアに対して戦争を仕掛けている」と発言したことを受けてのものである。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、この発言に対し、「NATOは紛争の当事者ではなく、今後も当事者にはならず、軍隊や航空機を派遣することもないだろう」と述べた。
ザハロワはストルテンベルクの発言を "犯罪的な偽善 "と非難した。

ベルリンは今週水曜日、ウクライナに14台のレオパルド戦車を送ることを確認し、同時に他国からのこれらの戦車の再供与を許可した。
ドイツは、「ウクライナを支援しても、ドイツが紛争の当事者になることはない」としている。

米国は今後数カ月以内に合計31台のM1エイブラムス戦闘戦車を供給すると発表している。


countercurrents.org
30/01/2023

今年の「終末時計」はなぜ問題なのか?

Why the Doomsday Clock Statement This Year Should be Questioned Widely


 by Bharat Dogra


今日、私たちが直面している最も大きな問題は、この世界がすでに深刻な生存の危機の真っ只中にあるということである。

原子科学者協会(Bulletin of Atomic Scientists)は、このことに繰り返し注意を促してきた。その最も強力なシンボルが「終末時計」である。この時計は、人類が世界を破滅させるような出来事にどれだけ近づいているかを示す象徴的な時計である。
筆者もこの問題について幅広く検討してきた。そして次の10年を「地球を救う10年」とする世界宣言を目指している。筆者の考えも Bulletin of Atomic Scientists が提起する懸念に非常に近いものがある。
そのような立場から、著書や論文の中で、「終末時計」のコンセプトの創造的活用について繰り返し言及し、賛同と評価を示してきた。

残念ながら、この賛同と評価は、今年の「終末の時計」発言にはあてはまらない。その理由は主に2つある。

希薄な危機意識

まず最初に、今回の声明では、終末への象徴的な時計が100秒から90秒にさらに近づいた。しかしこの10%減は、2022年に起きた非常に深刻な悪化、中でもウクライナ戦争によるものを全くとらえていない。
Doomsday-Clock-1

何人かの有識者がすでに指摘しているように、いま世界はおそらくかつてないほど深刻な事態に近づいている。それは以下のような要素からなる。

(1) ロシアとアメリカ・NATOとの間の直接対決。
(2) 核戦争の可能性
(3)第三次世界大戦、

この3つの状況が重なり合っているのが現在の状況である。

この代理戦争はすでに長引きすぎている。その戦争にはまだ終わりが見えない。そしてさらなに、とても不幸で恐ろしいエスカレートの兆ししかない。それらがこの戦争に悲惨な彩りを添えている。

ウクライナ戦争の他にも、米国と中国の関係など、他の危険な状況も進行している。環境問題もかなり悲観的である。
飢餓の極限状態(ステージ4、5)にある人々の数が、非常に速いペースで増加している。
アフリカの角などで飢饉による死者が出ている。異常気象や災害の発生は、枚挙に暇ないほどである。

 以上のことを考えると、現状を正しく把握するためには、「破滅の100秒」ではなく「破滅の50〜60秒」あたりに時計を移動させる方がはるかに適切ではないだろうか。


ウクライナ戦争を見る目の偏り

第二に、ウクライナ紛争の分析の傾向である。それはアメリカ/西側/NATOに有利で、ロシアに不利なように行われていて、非常に偏っているように見える。

この紛争は、少なくとも10年前から、アメリカ、その親密な同盟国、NATOによって、ロシアを搾取する代理戦争として計画されていた。そのことは、基本的な事実を無視しない限り、誰にとっても澄みわたった空のように明らかである。

その第一歩は、ウクライナの民主的に選ばれた政府を排除することでった。
ついで、新政権が反ロシア的な方向を示すようにさまざまな影響を与えることである。
それから、極右や人種差別主義者のグループを持ち上げ、彼らやウクライナ軍がウクライナ国内のロシア系住民への攻撃を強めるよう煽った。
7年ほどの間に14,000人近くが殺害された。
彼らは、他の方法でもロシアの攻撃を誘発した。

「終末時計」の声明は、これらすべての厳しい現状を無視しているように見える。声明は、世界の平和状況を急速に悪化させている真の原因から世界の関心を遠ざけている。

最大の脅威はアメリカにある

対弾道ミサイル条約や中距離核戦力条約のやり直しであれ、新戦略兵器協議の延長であれ、主な責任は米国にあるのだ。そのことをはっきりとさせる必要がある。

生存の危機を悪化させた近年の最大の脅威は、他のどの国よりもアメリカからもたらされたものである。それは言うまでもないことだ。

生存の危機を監視するという仕事は、危機に瀕した私たちの世界が直面する最も重要な問題であり課題である。それには非常に大きな責任が伴う。

勇気と誠実さを持ち、完全に真実で公平であり、あらゆる身内主義や党派主義から自由である者だけが、この大きな責任に応じることができる。

残念ながら、Bulletin of Atomic Scientistsは、その最新のDoomsday Clock声明において、この高い基準を満たすことができなかった。

……………………………………………………

bharat-dogra

バラット・ドグラ
は、フリーランスのジャーナリスト、作家、研究者。50年にわたり、主に平和、環境保護、正義の問題について執筆し、その著作は教育プログラムや社会運動で広く利用されている。

ショルツの歯噛みする音が聞こえてきそうです。
非戦の国是を破り、レオパードを送った悔しさよりも、四面楚歌の中で反ロシアを強制させられ、第三次世界大戦への一歩を歩まされた苦渋への怒りです。
米国もエイブラハム戦車を派遣するということでお付き合いはしたが、こちらは何年先かも分からぬ約束手形。陰に回ればせせら笑っているはずです。
NATOは安保条約のヨーロッパ版ですが、いざとなれば国是より憲法より米国の意向が優先するのは同じこと、まさに巻き込まれ型の「危険保障条約」です。
もっと怖いのは、戦闘継続の口実が嘘っぱちだったこと。「安全ですよ。お買い得ですよ。ウクライナの勝利間違いなし」と、煽られて買ったウクライナが飛んだ食わせ物。
いまや「買い足しで下支えしなければ、潰れますよ。潰れたらあなたも破産ですよ」とさらに買わされる。
こうして世界中が戦争に巻き込まれてこうとしているのに、一部の進歩派は、先の見通しもなく「ロシア憎し」の大合唱に加わり、戦争を後押しする始末。終末時計が聞いて呆れる。

かたみに人の血を流し
獣の道で死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても何事ぞ

「君死にたもうことなかれ: 旅順口包囲軍の中に在る弟を歎きて」より(これで三度目の引用)


クマエはイタリア半島主部に生成された最初のギリシャ植民都市であり、ポンペイの形成史を理解する上で不可欠のものとなっている。
ポンペイ周辺


ここではイタリアの先史時代からクマエの形成、先住民勢力エトルリアとの戦い、滅亡に至る経過を追ってみたい。
これによりローマ帝国の前身がギリシャ人植民者、中部土着勢力、南部土着勢力の三つ巴の中で形成され、最終的にローマ帝国へと集中していく過程が理解できる。

先史時代のイタリア
図 先史時代(鉄器時代)のイタリアの民族分布

先史時代(青銅器)クマエからBC900頃の青銅器時代の「竪穴文化」の人々の集落が発見されている。イタリック族に属する先住民が居住していた。

先史時代(鉄器時代)ナポリ湾一帯のカンパーナ地方はオスキ人の先住地であった。

BC 8c 現ナポリの西方にギリシア植民都市クマエ(Kumai→Cumae)が建設される。イタリア本土で最初のギリシャ植民地となる。街はヴェスビオ火山の噴火によって作成された沿岸の溶岩台地に建設され、城壁により囲まれる。

BC 7c クマエ、カンパニア沿岸のほぼ全域にその支配を確立。ギリシャ文化とエウボア文字を広める。
クマエの戦い

BC526 北方から進出したエトルリア人がクマエに侵入。エトルリアにはほかの先住民も加担。クマエは半島南部のギリシャ人植民者と同盟し抵抗。

BC524 クマエ近郊でギリシャ人とエトルリア+諸族の戦い。ギリシャ人が勝利。

BC505 クマエのアリストデモス将軍が独裁者となる。BC490に貴族によって倒され処刑される。

BC505 クマエ市街とアクロポリスを取り囲む壁が建設される。

BC474 エトルリアがふたたびクマエを攻撃。クマエ沖での海戦。シラクサのギリシャ人の支援を受けたクマエ軍が勝利。その後ギリシャ植民地連合の一員として発展。

BC450 エトルリア人に代わりサムナイト人(Samnites)がクマエへの侵攻を開始。

BC424 サムナイト人がクマエを征服。あわせてカンパニア地方全体を支配する。ギリシャ人は放逐され、先住民オスカン人の住む田舎町となる。

BC343 クマエをふくむサムナイトがローマの支配下に入る。







ポンペイの歴史

napoli & Pompei

ポンペイの街はヴェスビオ火山の噴火によって作成された沿岸の溶岩台地に建設され、城壁により囲まれる。三度にわたり拡張を繰り返した後、火砕流に埋もれた。
AD 79年の8月24日に一瞬にして死の街と化し、その上に厚く火山灰が堆積して地上から姿を消した。日本で言うと倭奴国王の金印の頃である。


図 ポンペイ(Pompei)の拡張史



先史時代(鉄器時代)ナポリ湾一帯のカンパーナ地方はオスキ人の先住地であった。
ポンペイ拡張史






BC91 同盟市戦争(Bellum Sociale)が始まる。ポンペイをふくむカンパニア地方は都市国家ローマとの同盟を破棄し蜂起。

BC89 同盟市戦争が終了。ポンペイはふたたびローマの支配下に入る。その後ポンペイはローマへの貢物の陸揚げ地として発展。

BC20 アウグストゥス時代に水道を始めとする大規模な設備投資がなされる。

AD62 カンパニア地方に地震。ポンペイも被害を受ける。

AD 79 
8月24日 ヴェスヴィオの大噴火。この時点での人口は2万人と推定される。翌日火砕流が発生し、火山灰と軽石が4 ~ 6メートルにわたり覆う。噴火後も街に残った約2千人が地中に埋もれる。


ドイツ左翼党の議員は、インタビューで米国の進歩派の人々の著しいブレに危機感を表明しています。
それを示すものが下記の声明文です。

Opinion:
The Doomsday Clock is ticking
– clock’s hands move closest ever to midnight and catastrophe

https://edition.cnn.com/2023/01/24/opinions/doomsday-clock-90-seconds-to-midnight-brown/index.html
Updated 11:02 AM EST, Tue January 24, 2023

これは終末時計の運営を担当するAtomic Sc​​ientists' Science and Security Board の3人の共同議長の連名よりなる個人意見です。
個人意見を発表しなければならないほど、内部で意見が割れていることの表明ですが、それは(ドイツ左翼党から見て)ダメな方の代表的意見だろうと思います。
ジェリー・ブラウンはBoard の執行委員長を務めており、組織のトップだろうと思われます。彼は 4 期にわたってカリフォルニア州知事を務めた政界の大物でもあります。
ということで、本来は統一声明にしたかったのが強力な反対者がいたために、有志声明になったという経過なのでしょう。
おそらく有志声明の内、下線が引かれた部分が、異論があった部分と思われます。そこだけ選んで紹介します。
①今日、主にロシアの無謀なウクライナ侵略拡大の危険が高まっている。これが時計の針を進めた主な理由である。
②ウクライナでの戦争が 2 年目に突入する中、多くの罪のない民間人が殺されました。紛争の明確な解決策は見えていません。
③ロシアは、2014 年に東ウクライナに侵攻し、クリミアを併合した。さらにプーチン大統領が核兵器の使用を脅かしている。
④これらの脅威は、残忍で予測不可能な戦争の文脈上にあり、偶然、またはプーチンの意図によって現実化する可能性があります。
⑤ロシアはチェルノブイリとザポリージャの原子炉サイトにまで戦争を持ちかけています。国際原子力機関による発電所の安全を確保するための努力は、これまでのところ拒絶されています。
これらの事実問題については、たっぷり異論がありますが、ここでは当面争いません。

もっとも肝心な点は、「紛争の明確な解決策は見えていません」というところにあります。
血を血で洗うような戦いを1年も続けて、それで解決策が見えないのなら、「そんな戦いはやめろよ!」となぜ言えないのか。両軍がさらに軍備を強化し、これからさらに戦闘が大規模化し、犠牲者が増えるというときに、「紛争の明確な解決策は見えていません」という言葉が、どうしてこんなに簡単に出てくるのでしょうか。「見えない」のなら目をつぶって想像力を働かせるべきです。

そもそも、なぜ解決策がないか? それは米国も西欧も明確な解決策を示していないからです。「世界は最も危険な時期に直面して」いるはずなのにどうして解決策が示せないのでしょう?
交渉すべき点ははっきりしています。ロシア語系ウクライナ人およびウクライナ在住ロシア人の居住権と基本的人権です。
もともとウクライナは多民族の混住地で、それが国家ができたときからナショナリティー(国籍)としてはウクライナ人になったのです。ウクライナは多民族共生国家であり、それが嫌だと言うなら分離するしかありません。それだけの話しです。

「紛争の明確な解決策は見えていません」というとき、実は彼にとっては「解決策」は明確なのです。1年もすれば経済制裁でロシアを弱らせ、武力でロシアを追い出し、紛争を解決できると考えていたからです。メディアは1週間前までそうやって宣伝してきました。それが「大本営発表」であったことがはからずも明らかになったのです。今回のロシアの攻勢により、戦闘の長期化は必至になりました。

とにかく停戦、とにかく交渉開始、とにかくすべての住民の安全です。それができれば、核の危機はおのずから遠ざかるでしょう。

ACURA Viewpoint
January 27, 2023

ウクライナ: 忘れられたベトナムの教訓

Ukraine and The Lost Lessons of Vietnam


by James W. Carden
(米露二国間大統領委員会の元ロシア担当顧問、および国務省政府間問題担当特別代表)

aircraft-carrier-2000x338-1

パリ協定50年

今日1月27日は、アメリカのベトナム戦争への参戦を事実上停止させたパリ協定調印から50年目である。ジョージタウン大学の国際問題研究者チャールズ・クプチャンは、ベトナム戦争の帰結の一つをこう語る。
「その最大の帰結はリベラルな国際主義者のコンセンサスを大きく揺るがせ、"孤立主義的衝動 "が大きく復活した」ことにある。

* 冷戦史の研究者ジョン・ランバートン・ハーパーは次のようなエピソードを記載している。
カーター大統領のポーランド出身のタカ派国家安全保障顧問、ブレジンスキーは、政権内のライバル、慎重で紳士的なサイラス・バンス国務長官を軽蔑していた。かれは「バンスはいい人だが、ベトナムで火傷をした」と評していた。

* 確かに、バンスと同世代の人たちは、ベトナム戦争の後遺症で深い幻滅を抱いていた。そして、「ベトナム・シンドローム」は不必要で裏付けのない海外介入に対する警戒心と疑念を示す略語として流通していた。
それは、理論的にはともかく、不必要な軍事的冒険に対する国防総省側の一種の抵抗であった。そして短期間ではあったが、時としてアメリカの最高レベルの政策に影響を与えていた。

* しかし、そのような抵抗は長くは続かなかった。 
第一次湾岸戦争が成功裏に終わったわずか数時間後、父ブッシュ大統領は「神かけて、我々はベトナム・シンドロームを完膚なきまでに叩き潰してやった」と宣言したのである。

* その1991年宣言から数十年間、わずか2年を除いて、米国は何らかの形で戦争を続けてきた。
直接の交戦国だったこともあり、非公式の共同交戦国だったこともあった(サウジアラビアのイエメンに対するグロテスクな戦争への関与がその典型)

* そして現在のワシントンの雰囲気は、「ベトナム・シンドローム」なるものが存在したことさえ想像できないものである。
バイデン大統領のウクライナ戦争への対処は、ワシントンのエスタブリッシュメントから絶賛され、いつもの面々から喝采を浴びている。

* しかし、これまでに800万人の難民と約20万人の戦死者を出した戦争が、ウクライナのNATO加盟と引き換えにするほどの価値があったのか。
外交上の賢明な関与によって現在の試練は避けられたかもしれない。そのことを考えれば、バイデン政策が本当に成功したと言えるのだろうか?

* 戦争は膠着状態に陥っているように見える。一方で、レガシー・メディアやさまざまなシンクタンクの論客たちは、モスクワの敗北と政権交代、戦場の着実な進展を保証し、まもなく勝利するとの声明を出すのに忙しくしている。(この状況は一夜にして逆転した)

ウクライナをめぐる独断と熱狂

* 政治学者で『歴史の終わり』『最後の人』の著者であるフランシス・フクヤマは、この9月にJournal of Democracyに寄稿し、次のように絶叫した。
「ウクライナは勝つ。ウクライナ万歳!」

* ワシントン・ポスト紙のリズ・スライ記者は1月初め、読者に次のように語った。
このまま続けば、ウクライナはゼレンスキー大統領が新年に掲げた「年末までにウクライナ全土を奪還する」という公約を達成できるだろうーあるいは少なくとも、ロシアの脅威を決定的に終わらせるに十分な領土を獲得することができるだろう。
欧米の政府関係者やアナリストもおなじように述べている。 

* 1月上旬には、元米軍欧州駐留軍代表のベン・ホッジス中将が、ユーロマイダン・プレスに対して、次のように語った。
「作戦の決定的な局面は...クリミアの解放だろう。ウクライナ軍は、クリミアにとって重要な物流網を破壊したり、混乱させたりすることに多くの時間を費やすだろう...。
それはクリミア解放につながる、あるいは条件を整える重要な部分となる。そして作戦は8月末までに完了するものと思われる」

* 2022年10月に報道された『ニューズウィーク』は、元ロシア議会議員の活動家イリヤ・ポノマレフの発言を報じている。そして「ロシアはまだ革命の瀬戸際ではないが...そう遠くはない」と読者に伝えている。

* ラトガース大学教授のアレキサンダー・J・モティルもポノマレフに同意している。
フォーリン・ポリシー誌の2023年1月の記事は、次のように題されている。
 「ロシアの崩壊に備えるべき時が来た」
モティルはさらに議論を進める。「政治家、政策立案者、アナリスト、ジャーナリストの間で、ロシアにとっての敗北の結果についての議論がほぼ完全に欠如している。これは驚くべきことだ」と断じた。そしてロシアの崩壊と統合の可能性を考えるよう急かしている。

* そして今週、かつてリアリスト政治学者であった『ナショナル・インタレスト』誌の編集者、ジェイコブ・ハイルブランから、「ドイツのウクライナへの戦車派遣は転換点である」という知らせがもたらされた。
いわく「ウクライナに戦車を送るというドイツの決断は、転機となる。
ウラジーミル・プーチンがウクライナに侵攻したことで、彼の政権の死刑執行令状にサインしたことは、今や明らかだ。

* かつてゴア・ヴィダルが突き放したように、「これほど日常的に、恐ろしいほど誤った“とんでも情報”を注ぎ込まれている人々には、ほとんど安息のときはない」

リアル・ポリティークの視点を失った米外交

ワシントンで交わされる外交政策の議論には、アメリカの利益という問いがないのが目立つ。
キエフの底知れないほど腐敗した政権に巨額の資金を配分することが、日常のアメリカ人にどのような物質的利益をもたらすのだろうか。
宗派的で狭量な「ガリシア民族主義」をウクライナ全体に押し付けることが、本当にアメリカの核心的利益となるのだろうか。(訳者注:ガリシア民族主義はスペインの地方政党。ガリシアはイベシア半島の西北端を占める貧しい州
NATOとロシアの代理戦争を長引かせることは、ヨーロッパとアメリカの安全保障上の利益を促進するのだろうか? もしそうなら、どのように?

ベトナムの教訓は遠い昔の話

実は、ベトナムの教訓はとうの昔に忘れ去られている。
いまワシントンのメディアや政界を牛耳る世代は、ベトナムがすでにバックミラーに映し出された時代におとなになった世代である。彼らは臆面もないリベラルな介入主義者であった。

バイデン政権のスタッフであるリベラル派の恥知らずな介入主義者たちは、特にボスニア内戦やルワンダ大虐殺のように、米国が十分に行動していないと一般に信じられていた1990年代に牙を研ぎ澄ましてきたのである。
そのため、ほとんど例外なく、現在政権の主体を担っている外交政策担当者たちは、9.11以降、アメリカの海外での誤った冒険をすべて支持してきたのである。

かつて一時的とはいえ、「ベトナム・シンドローム」に由来する正統な警戒心は存在した。しかし今日、ジョー・バイデンのワシントンにおける権力構造からはまったく失われている。
ベトナム・シンドロームは蹴散らされ、死んで、埋められた。
しかし、我々はまもなく、そのことを後悔するようになるかもしれない。

democracy now
JANUARY 25, 2023

ドイツと米国がウクライナへの戦車提供で合意
ベルリンは代理戦争に追い込まれる

As Germany & U.S. Agree on Tanks for Ukraine,
German MP Accuses U.S. of Pushing Berlin into Proxy War

https://www.deepl.com/ja/translator#en/ja/As%20Germany%20%26%20U.S.%20Agree%20on%20Tanks%20for%20Ukraine%2C%20German%20MP%20Accuses%20U.S.%20of%20Pushing%20Berlin%20into%20Proxy%20War


ゲスト
SEVIM DAĞDELEN(ドイツ左翼党幹部、ドイツ国会議員、クルド系ドイツ人)

聞き手
AMY GOODMAN+JUAN GONZÁLEZ
面倒なので一括して“聞き手”とする。

リード

NATO諸国の数週間に及ぶ圧力を受け、ドイツはウクライナにレオパード2戦車14台を送り、NATO諸国がドイツ製戦車を送ることを認めると発表した。

ドイツ左翼党の国会議員セビム・ダーデレン(Dağdelen)に話を聞いた。彼女によれば、ドイツ国民の大多数が紛争終結のための外交努力を望んでいるという。

バイデン政権はドイツをますますこの代理戦争に追い込もうとしています。米国の“進歩的”と言われる人々の多くが、その路線を支持しています。そのことに、私は大いに懸念を抱いています」とダーデレン議員は語った。
daguderenn


聞き手(この間の経過説明)

* ドイツは、ウクライナにドイツ製戦車14台を送ることを決定したと発表した。さらに同盟国がキエフを支援するために、レオパード戦車を送ることを認めることも明らかにした。
この発表は、米国がウクライナにエイブラムス戦車30台を送ると報じられた後に行われた。
ショルツ首相は、声明で次のように述べた。 「この決定は、ウクライナを可能な限り支援するという路線に沿ったものだ。我々は国際的に緊密に連携して行動する」
ドイツは戦車の訓練と弾薬提供も行う予定である。

* ショルツはここ数週間、ポーランド、アメリカ、その他のヨーロッパ諸国から、戦車を承認するよう強い圧力を受けていた。いっぽうドイツ国内では、ウクライナ戦争の激化とロシアによる報復につながるという懸念も強まっていた。
ドイツ左翼党は警告を発した。「この動きはヨーロッパの平和の方向を向いていない。それどころか第三次世界大戦に近づく可能性がある

この決定の支持者には、NATO加盟国に対してウクライナへの重火器納入の迅速化を繰り返し求めてきたイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長も含まれている。

...ドイツのセビム・ダーデレン国会議員にお越しいただきました。ダーデレンさんは左翼党の議員で、2005年に国会議員に選出され、外交委員会の委員を務めています。彼女はまたNATO議会のメンバーでもあります。

デモクラシー・ナウ!へようこそ。おいでいただきありがとうございます。

アメリカの人々にとって、この論争が何なのか、特に理解できない人もいるかもしれません。今日の決定、発表が何を意味するのかお話いただけますか。

ウクライナにレオパルド戦車を送るということ、それからポーランドやスカンジナビア諸国など、これらの戦車を持っている他の国もウクライナに送ることができるようになりました。それはドイツから調達するのと同じように可能なのですか?


ダーデレン議員: 

本日はお招きいただきありがとうございます。

* ドイツからウクライナに戦車を送り、ポーランドなどがドイツから購入したレオパルド戦車をウクライナに送るという決定は、歴史的に間違った決定です。この決定は、バイデン政権の重圧によってもたらされたと言わざるを得ません。

* 数ヶ月前、ショルツ首相はドイツ議会の外交委員会で、戦車の売却は「レッドライン」だと言いました。ドイツからウクライナに戦車を送ることは、軍事干渉のエスカレーションです。そしてこれ以上エスカレートしてはならないレッドラインを越えることになります。
ショルツ

* しかしバイデン政権からの圧力はあまりにも強力でした。中でも最強の圧力は、連立政権のパートナーである緑の党と自由党からのものでした。連立政権の中で、この2党は実はネオコンである人たちの圧力でした。
彼らは、もしショルツ首相がレオパルド戦車をウクライナに送らないのなら、連立を解消すると圧力をかけました。

* 私たちは今、非常に悪い状況に置かれています。なぜなら、それは間違った決定、歴史的に間違った決定だと思うからです。 なぜなら、それはドイツの大多数の意見に反しているからです。
ここ数日の世論調査によると、ドイツ国民の大多数はウクライナに戦車を送ることに反対しています。
ウクライナの交渉による平和のために、もっと外交努力をという人が大多数です。

* もうひとつは、1月31日がスターリングラードの戦いの記念日、80周年に当たるということです。
ロシアのすべての家族は、このスターリングラードの戦いで愛する人を失いました。
アメリカの代理戦争でロシアにドイツの戦車を送り込めば、この戦争でロシアの人々と社会がさらに動員されることは、予言者でなくてもわかるでしょう。
つまり、戦車を送るということは、この戦争に対してロシアの人々が望んでいるものとは逆の影響を与えることになります。だから、戦車を送るのは “歴史的に考えても” 間違っているのです。


聞き手

お聞きしたいのですが 、ここ米国では、マスメディアは政府以上に戦争好きです。バイデン政権に、ウクライナへの援助と殺傷能力の高い援助の提供を執拗に迫っています。私は疑問に思っています。
ドイツでは、メディアが政府指導者に与える影響はどのような状況なのでしょうか?
ウクライナに対するさらなる軍備の必要性をどのように描いているのか、あるいは描き出しているのでしょうか。


SEVIM DAĞDELEN: 

ドイツでは、メディア、とくに主流メディアによって、本当に極端に好戦主義(warmongering)な雰囲気が漂っているんです。これは興味深いことです。

私は昨年の3月か4月に、アメリカのワシントンD.C.にいました。国務省、国防総省、国家安全保障会議の代表者たちが、口を揃えて言いました。

「ドイツのメディアは、ドイツの新政権を“転換点” に向かわせるために、ものすごく大きな仕事をした。メディアの主張があったから、1000億ユーロを軍備強化に注ぎ込み、ウクライナに武器や兵器を送ることができた」

(訳注 転換点:ウクライナ侵攻が始まった3日後、ショルツ新首相は「時代の転換点」(Zeitenwende)を宣言した。それは戦後ドイツの平和主義への決別を示唆するものだった。

それに、アメリカ政権の幹部が「ドイツの報道はうまくいっている」と言うからには、何か問題があるに違いないと思うのです。

問題は、ドイツの主要な報道機関が、「大西洋評議会」(Atlantic Council)など米・西欧横断型シンクタンクなどに深く関わっていることです。つまり、何らかのアメリカの人的交流と便宜供与があるのです。アメリカ国民の知らないことでしょう。

アメリカのネオコンと呼ばれるエリートが、欧州でも肩で風を切っています。
ヨーロッパはいまや、70年代のアメリカにとってのラテンアメリカのようなものです。自分たちの好き勝手なことができる大陸なのです。これは本当に問題です。

* そして明らかに、アメリカの石油採掘業やアメリカの軍産複合体にとって、ヨーロッパで戦争をすることは良いビジネスなのです。

これは具体的にウクライナに戦車を送るという例についても言えます。ドイツから戦車を送ること、レオパルド2を送ることも、アメリカの軍産複合体の利益になっています。
なぜなら、戦車システムにおいて、ヨーロッパで最も近代的な兵器システムであるレオパルド2が損傷した場合、アメリカのメーカーは自分たちの戦車を供給することができるからです。

もうひとつは、ショルツが失敗したことです。エイミー・グッドマンは、ショルツが米国にたいし戦車の対ウクライナ援助を要求したが、了解を取れなかったと発表しました。ワシントンポスト紙によると、米国の戦車を製作して送り出すためには数年かかるからです。(ところが米国がエイブラムス戦車の提供を決めたのは御承知の通り)

そうやって、彼らは我々ドイツ人をこの火の中に押し込もうとしています。アメリカがドイツに軍産品を供給し、ドイツとロシアが永久に全く関係を持たないという状況を作ろうとしているのです。それは過去から一貫した話です。

ブレジンスキーの本や、アメリカの多くのシンクタンクの本を見ると、それは常にアメリカの目標でした。アメリカのエリートは常にドイツとロシアの関係を破壊することを目的としていたのです。

* そして昨晩、これが私の懸念なのですが、ドイツの緑の党所属の外務大臣アナレーナ・バーボックが、「我々はロシアと戦争をしている」と公言し始めたのです。つまり、私たちはすでにロシアと戦争をしているというのです。このことは私に大きな懸念を抱かせます。

そして、もう一つ心配なことがあります。それはアメリカの進歩的と呼ばれる人々の多くが、ドイツをますます戦争に追い込もうとするバイデンの路線を支持していることです。その人たちは、ドイツをますますこの代理戦争に追い込み、第三次世界大戦にまで発展させようとしているのです。


聞き手

この代理戦争では、フラッキング(天然ガスと石油の採掘)産業についても言及されましたね。ほとんどのアメリカ人は、この戦争の結果、米国の天然ガス会社が莫大な利益を得ていることに気づいていません。

この戦争の結果、アメリカの天然ガス会社が莫大な利益を得ていること、そしてそれがヨーロッパのエネルギー需要に影響を及ぼしていることを、ほとんどのアメリカ人は知りません。 ドイツで起きているガス価格と暖房の必要性について話していただけますか?


SEVIM DAĞDELEN: 

ドイツのいくつかの経済研究所の新しい発表によると、実質的な賃金の損失は4.7%です。これは1945年以降のドイツ連邦共和国の歴史の中で、最大の実質賃金の損失となります。人々は家賃を払う余裕もなく、ガス料金やエネルギー料金、ガソリンを支払う余裕もありません。食料を買う余裕さえないのです。それが問題なのです。

昨年、ドイツでは史上初めて、200万人が食料を調達するために公的な食料配給機関に行かなければなりませんでした。つまり、国民の大多数が本当に収入を減らしているのです。

一方、企業側には莫大な利益があります。エネルギー産業、石油会社、その他すべての大企業が1000億以上の利益を上げています。アメリカの石油採掘産業は、この危機と制裁によって大きな利益を得ています。

すべてはロシアに対する制裁、このエネルギー制裁が原因です。ロシアに害を与えているわけではありません。ロシアのガスプロム社は、2022年上半期に400億ドル以上の利益をあげました。利益だけです。年末も同様です。

つまり、彼らはこの戦争で利益を得ているのです。制裁のせいで苦しんでいるのはヨーロッパの人々だけです。制裁は自国の人々に対する経済戦争に変わりつつあります。

そして、米国の採掘産業は、米国から汚れたガスをタンクで送ってきますが、これは気候変動にも反しています。タンク1つで、2億ユーロ、3億ユーロの利益を得ることができます。アメリカからヨーロッパに向かう途中、価格が上昇することがあるからです。

ドイツで必要なガスは、およそ年間1,100タンク以上必要です。そして、ロシアからの安価で汚れの少ないガスと比較して、これを米国に支払う余裕があるとは思えません。

聞き手

この放送が始まる直前、ドイツの新国防大臣ボリス・ピストリウスの声明がありました。これについてについてお聞きしたいのですが、まず声明を紹介しましょう。

BORIS PISTORIUS: [translated] 
「この決定は歴史的なものだと思います。なぜなら、激変するウクライナの状況の中で、すべての関係者が再び協調してなされたものだからである。だからこそ、この決断は尊敬に値する。
もちろん、この戦争がこのまま続くことを懸念している人々がいることも承知している。しかし、ひとつだけはっきりしていることがある。それは、私たちはこの戦争の当事者にはならないということだ。私たちはそのことを確認する」

一方には「軍産複合体に餌を与えるな」と言う人たちがいます。他方には 、「ウクライナがこの重火器を手に入れなければ、ロシアはもっと多くの土地を奪うことに成功するだろう」と言う人がいます。
この論争についてお話いただくと同時に、アメリカからドイツまで、進歩的な人々の分裂にどう対応すべきかを教えていただきたいと思います。


SEVIM DAĞDELEN: 

そう、私は本当に警告しなければなりません。ロシアに対する勝利を空想している幻想家たちは、かつてナポレオンやヒトラーがしたように、ロシアを過小評価しているのです。ロシアは世界最強の核保有国なのです。このような核保有国に対して、通常戦争で勝つことは不可能です。

この議論の危険な点は、一方では、「ロシアのプーチン大統領は狂っている、怪物だ」などと言い、彼を悪魔化しようとしていることです。彼らはプーチンは狂っていると言っています。
しかし、その一方で、「これはハッタリだ」とも言っています。「プーチンが核兵器を使うほど非合理的だとは思っていない」と。

「いい加減にしろ」、と私は言いたい。(I mean, come on!)

なぜなら、核兵器が一度使用されれば、少なくともヨーロッパでは、アメリカはともかく、ヨーロッパでは間違いなく、人類の文明が終焉を迎えるからです。だから、私はこの議論の行方を本当に心配しているんです。

* もう一つは、クリスティン・ランブレヒト前国防相のことです。彼女はドイツのネオコン、緑の党、リベラル派、マスメディアから非常に大きな圧力を受けていました。

戦争屋たちは彼女を辞任させるために多くの圧力をかけました。なぜなら、彼らはもっと決然とした「北大西洋の戦争挑発者」(transatlantic warmongerer)と交代させたかったからです。彼女は戦争挑発者としては物足りなかったのです。

そして、新国防相ピストリウスは、意外にも、ショルツ首相が決断したのですが、彼もまた失望されています。戦車を送るよりも交渉による平和のための外交を、というドイツ国民の大多数の意志に従って行動していないからです。だから、彼はいま結局、「同盟国と協力して戦車を送る」と言っているのです。

* 率直に申し上げて、アメリカには真の意味での同盟国はありません。アメリカは自国の利益にしか興味がなく、そのための道具にしか興味がないのです。そこがポイントです。ポーランドなど東欧諸国は、ドイツとショルツ首相にレオパルド戦車の提供を迫ったのですが、彼らもまた、米国が望むことをそのまま行っているにすぎません。

これが問題なのです。アメリカはドイツを前線に押し出し、「こうしてください」と依頼します。そして同時にドイツ政府に圧力をかけ、好戦的な雰囲気を作り出しています。

 ドイツから始まった2つの世界大戦は、それぞれロシアやソビエト連邦に対する攻撃から始まりました。そして今、私たちは再びロシア、モスクワに対して戦車を送り込もうとしています。

新外務大臣は 「ピストリウスは間違っている」と言いました。実際に彼女が言った言葉はこうです。「いまや我々はロシアと戦争状態にある」  つまり彼女は文字通りの事実を言った似すぎないんです。

つまり、これが最後の決断ではないことを、私は非常に懸念しているのです。第三次世界大戦へとつながっていく一連の決断のスタートかも知れないのです。なぜなら、レオパルド2戦車を派遣しても、ゲームチェンジャーにはならないからです。長期的にも中期的にも、戦車はウクライナの現場を何も変えることはないでしょう。

ウクライナの民族主義政府が、ドイツやNATO諸国に対して、大規模な戦闘機システム、ヘリコプター、トルネード、ユーロファイターをすでに要求していることです。これはウクライナ政府からすれば、当然のことです。自分たちが生き残るためにNATOをこの戦争にどんどん巻き込もうというのは理解できることです。

しかし、戦車を送ることは軍事的なゲームチェンジャーではありませんが、ドイツのようなNATO諸国をロシアとの戦いにどんどん参加させるきっかけとしては、政治的なゲームチェンジャーになると思います。

しかし、この無分別な殺戮を終わらせるためには、もっと外交的な取り組みが必要です。ウクライナにもっと武器を送りたいという人は、ウクライナでの殺戮をもっと増やすことに賛成しているのだということを理解すべきです。


聞き手

お話しいただき、ありがとうございました。

ダグデレンさんはドイツの野党「左翼党」の幹部で、クルド人の国会議員です。NATO議会のメンバーでもあります。












Global Research
January 19, 2023


ポーランド政府指導部は警告する
「ウクライナは敗けるかも知れない
そのとき、第三次世界大戦が始まるかも知れない」

The Polish Leadership’s Warnings About Ukraine’s Potential Defeat Should be Taken Seriously. 
“Might become Prelude to World War III”

By Andrew Korybko
(
訳者注: 著者の肩書きはこう記されている。「アメリカのモスクワ在住の政治アナリストGlobal Researchに頻繁に寄稿している」。内容はおそらくモスクワで流されている情報をそのまま送っているのだろう。文章もとくに後半は乱れていtて、ロシア語からの機械訳ではないかと思われる。ご承知おきを…)

lead

*メディアの公式見解の180度転換

メディアの世界ではウクライナの勝利を早々と喧伝する「公式シナリオ」が流布されている。
これを、必然的と思われる敗北への警告へと覆す役割は、ポーランドの指導者が最もふさわしいだろう。
 今週までのウクライナ紛争に関する「公式見解」は、キエフが「必然的に勝利する」というものであった。
 しかし、ポーランドの首相と大統領が共に「ウクライナはまもなく敗北に直面するだろう」と警告した。このため予測は突然ひっくり返された。
モラヴィエツキ首相は、ベルリンを訪問した際、「ウクライナの敗北は第三次世界大戦の前奏曲となるかもしれない」と発言した。
一方、ドゥダ大統領はダボス会議で、「ウクライナは生き残れるかどうか」と率直に疑問を投げかけた。

本文

* あのポーランド政府が「ウクライナ優先」を否定

この二人が「ロシアの宣伝マン」だと推測するのは無茶だろう。ましてや両方揃ってなんてありえない。彼らは世界でも折り紙付きのロシア嫌いである。
 彼らの国は、米国を除けば他のどのNATO加盟国よりも多く、ウクライナの支援活動を行ってきた。
昨年5月のキエフ訪問で事実上のポーランド・ウクライナ連合を発表したのはドゥダ大統領自身だった。この事を見ても、ワルシャワが隣国の勝利を本当に望んでいることは明らかだ。

つまりポーランドの指導者ほど、ウクライナの勝利は必然だという「公式シナリオ」をひっくり返すのにふさわしい人物はいないということだ。
彼らのせいで、いままで皆がウクライナの勝利は必然だと勘違いしていたが、敗北こそが必然だと考えるようになったのだ。
もちろん、週明けのニュースで長々と説明されたように、アメリカの描くシナリオは別だ。
事実はこうだ。主要メディアは懸命に打ち消そうとしているが、ロシアによる東部ウクライナのソレダル市(Soledar)の解放は重大な軍事的変化だった。


* 「ソレダルの戦闘」が優劣を決定づけた

結局のところ、紛争に関する主要メディアの「公式シナリオ」は不可逆的に書き換えられることになった。その理由となったのがソレダルの戦闘だった。
CNNもこの流れに乗り、情勢に追いつこうとした。CNNの情報管理のトップの一人スティーブン・コリンソン氏は、バイデン政権のあり方が問われる「重要な折返し点」に達したと語った。
 ドゥダは、「ウクライナは大丈夫なのか?」と発言し、メディアの曖昧な表現に終止符を打った。
彼は「ウクライナが生き残れるかどうか?」を明確に疑問視した。そのことで、あれこれの言い逃れを終わらせた。

soledar

* このままではウクライナの敗北は決定的

この三者、すなわちポーランド大統領、首相、CNNは、政治的な理由で軍事的・戦略的な現状を誇張したことは間違いない。
しかし、だとしても、彼らの警告は真剣に受け止めなければならない。なぜならキエフが敗北の瀬戸際にあることはまちがいのない事実なのだから。
このシナリオを回避する唯一の方法は、最新の戦車のような前例のない援助ができるだけ早く輸送されるか、またはキエフが新たな攻撃を開始するか、どちらかである。
前者は政治的に危険であり、後者は軍事的に危険である。

 いずれにせよ、ドンバスの戦いはキエフの敗北で終わることはほぼ間違いない。
ロシアが不可解な「親善ジェスチャー」によって攻勢を中断しなければ、
そうなったとき、最も直接的に影響を受けるのはポーランドだろう。ポーランドは先に述べたようにウクライナと事実上の連邦関係にある。
ダボス会議でドゥダ大統領は認めた。すでにポーランドは、自国のT-72戦車をなんと260台も、隣国ウクライナに与えているのである。

* ウクライナが敗ければポーランド政府も崩壊する

キエフがドンバスの戦いに負ければ、ポーランドの指導者は大恥をかくことになる。なぜならそれはワルシャワの敗北に等しいからだ。
ポーランドはすでにあり余るほど軍事的・政治的な投資をしている。ポーランドは今週まで、ウクライナの「必勝」を信じ予言していた。
ポーランドがいま、軍事バランスを維持し「面目を保つ」ためには、自軍を西ウクライナに介入させる以外にないかも知れない。それはかなりの軍事的・政治的リスクを伴う。ひょっとすると与党は今秋の再選挙で落選するかもしれない。

ポーランド与党の「法と正義」党は、ポーランド語の頭文字でPiSと表記される。その支持層は、「保守派」と、いわゆる「穏健派」からなる。
「保守派」の実体は民族極右であり、「穏健派」は、愛国的な言辞に引き寄せられ、ウクライナの大量移民を支援しようと結集した人々である。
ポーランド政府は昨年末まで、ウクライナの勝利のために最大限の努力をすると豪語していたが、最近は全体として歯切れが悪くなっている。
ウクライナ情勢が悪化すれば、特に「穏健派」の人々の目には、政府に対する何の信頼性も残らないだろう。
そして、この地域をみずからの「勢力圏」にしようとしたポーランド政府の構想は打ち砕かれることになる。

* EU諸国はウクライナの敗北を予想し始めている

* 米国が主導する西側の「黄金の十億」(EU諸国の人口)は、その一部であるキエフの敗北を予想している。
彼らは、その責任をなすりつけ非難するスケープゴートを探しもとめるだろう。その際、ピウス(ポーランド政権与党)が格好なターゲットとなるだろう。ピウスは、この事実上の新冷戦軍事同盟を支えるリベラル・グローバリズムのイデオロギーに、他の多くのメンバーほど忠実でないためである。
したがって、ドイツは、最近絆を強めたアメリカの支配者との協力の下に、ポーランドに対するハイブリッド戦争を再開し、秋の選挙でピウスを政権から追い出そうとすることが予想される。

* ポーランドの植民地化を狙うドイツ

米・独がポーランドの政権交代を、名目上のパートナーに対して、表面的には「民主的」に行うならば、ショルツ首相は覇権主義の野心を具体的に前進させることになるだろう。
ワルシャワに真の意味での親ドイツの、ネオリベラル政権が誕生すれば、それはベルリンにとって史上最大の代理国家となる。そしてEUの事実上の指導者はヨーロッパで真の覇権を獲得したことになるのだ。
 モラヴィエツキとドゥダはともに、このことを強く意識している。すなわち、いまこのロシアの特殊作戦が正念場を迎えているとき、欧米大国にウクライナへの支援拡大を説得できなければ、彼らの政権は崩壊しかねないことを。
このような利己的な動機が、紛争に関する「公式シナリオ」をバラ色から暗灰色に、より事実に近いものに書き換えた理由である。
しかし、西側諸国がキエフの存続を助け、ポーランド政府の2人を助けるために行動するかどうかはまだ不明である。

(訳者より: この記事を翻訳中にニュースが流れ始めた。ドイツの首相がレオパルド戦車のウクライナ供与を議会で発表した。同時にアメリカも大量の戦車投入を発表した。メディアの戦況判断が180度変わった。
この記事の予想は覆された。NATOはウクライナの全土戦場化を決意した。ヨーロッパに狂気が漂い始めた! ヨーロッパはブラックホールに吸い込まれつつあり、核戦争の危機は間近に迫りつつある)


Global Research
January 23, 2023

Situation for Kiev Is “Very, Very Difficult”. 
US Joint Chiefs of Staff, Mark Milley

米統参議長マーク・ミレーが語る
「キーウの状況は最悪だ」

By Lucas Leiroz de Almeida
(Stuff researcher in Social Sciences at the Rural Federal University of Rio de Janeiro; geopolitical consultant)

リード

欧米のメディアは「ウクライナが勝利しつつある」と主張している。しかし経験豊富な軍人や評論家は、明白な事実を元に、ロシアがそう簡単に敗北するわけがないと指摘し続けている。
米国のある将軍は最近のインタビューでこうのべた。
「ウクライナ側にとって状況は非常に複雑だ。ウクライナが、すでにモスクワに帰属している領土を奪還し、ロシア軍を「追放する」という約束を果たすには、多くの困難が伴うだろう」
 の続編みたいな記事です(元記事の掲載は11月14日)。要するに11月の時点ですでに戦況は悪化していたが、現在ではさらに絶望的になっているということで、特にウクライナ軍の内部崩壊が深刻なようです。

本文

*軍事的解決はもう無理だ

米国統合参謀本部のマーク・ミリー議長は、「現在の対ロシア紛争において、ウクライナは軍事的目的を達成するために多くの問題に直面している」と述べた。
彼は次のように指摘する。
「西側の指導者たち、そしてゼレンスキー大統領でさえも、その好戦的な演説にもかかわらず 、こう考えている。この紛争は武力ではなく、外交的な交渉によって解決されるだろうと」
ミリー議長は軍事作戦によってウクライナが勝利する可能性には低いと考えているようだ。

* 「独立」した東部諸州はもはや取り返せない

ミリー議長はまた、戦闘状態を終わらせる見通しについてもコメントした。
ウクライナや西側の政治家の中には、できるだけ早くロシア軍を追放する計画を主張する人もいるが、彼はこの考えには否定的だ。
彼はこのプロセスが2023年までに完了する可能性はないと考えている。
ロシア連邦に新たに統合された地域では、すでにロシア軍が堅固な地位を維持している。このことから、よほどの急速かつ強力な軍事作戦を立てない限り、東部地域の支配をキエフにとりもどすのは困難だ。

*侵入したロシア軍を追い出すことはできない

ミリー議長はインタビューにこう答えている。
「バイデン大統領、ゼレンスキー大統領、そしてヨーロッパの指導者のほとんどが、この戦争は交渉によって終わらせることになるだろう…
軍事的な観点からは、この戦争はとんでもなく困難な戦いである(this is a very, very difficult fight)…
今も私は考えている。ロシアが占領しているウクライナ領土から、ロシア軍を軍事的に追い出すことは、とてもとても困難であると…
もちろん、だからといって、実現できないわけでも、諦めたわけでもない。でもとても難しいことだ…

*1千億ドル以上の援助もロシア優位を崩せなかった

ミリー議長の見方は現実的である。
キーウ政府には本質的な弱点がある。欧米の援助があるとはいえ、ウクライナの弱点はそう簡単には克服できない。そのことを彼は明言している。
米国はすでにキエフに1100億ドル以上の軍事支援を送った。重火器、戦闘車両、対空システム、100万発以上の砲弾を含むパッケージを提供した。
ヨーロッパとNATOの同盟国も、ウクライナのネオナチ政権を全力で援助している。
しかしそれにも関わらず、ロシアの軍事的優位は明らかだ。モスクワは最近ソレダーとクレシェフカの奪取など、ますます重要な勝利を飾っている。


*ロシアの補給線へのミサイル攻撃が奏功している

欧米の強力な支援にもかかわらずロシアが成功しているのには、多くの要因がある。
モスクワの作戦の要諦は、ロシアの兵士や民間人を不必要に殺すような消耗戦を避けることである。
そのために、ウクライナ軍の補給線を形成する重要地域への重点的攻撃を行っている。これがロシア軍の戦略的な方向付けである。
ロシアの重火器・ミサイルは大規模な軍事地帯やインフラ施設に集中している。
民間軍事会社「ワグネル・グループ」などの並列部隊はこの射撃部隊を保護するため、主に都市部で歩兵部隊の役割を果たしている。

*ウクライナ軍は無秩序で腐敗している

一方、キエフは紛争を戦略的に管理することが困難となっているように見える。
現場の複数の情報提供者がすでに報告しているように、ウクライナ軍は無秩序と腐敗が目立っている。NATOの支援も役立っているとは言えない。
西側諸国の兵器のほとんどはウクライナ兵にとって全く新しいものであり、兵はその正しい操作方法を知らず、しばしばオウンゴールをもたらしている。

*ウクライナ軍は無駄死にを繰り返し、消耗している

さらに悪い事情がある。ウクライナ軍指揮官はロシア軍と異なり、人命よりも領土を優先する傾向がある。
モスクワはしばしば、人命救助のために戦略的撤退を促すが。これに対しキエフ軍は戦いが事実上敗北していても塹壕に兵を留める。その結果、何千人もの兵士が不必要な戦闘で死亡している。
これらの死んだ兵士の穴埋めは、十分な訓練を受けておらず、軍事的な経験もない新しい戦闘員で代替される。
その結果、ルーキーたちは戦略的なミスを犯し、さらに多くの死者を出すことになる。


*ウクライナ軍の最新兵器はロシア系市民殺害に用いられている

さらに、2014年以降、キエフ軍が意図的に民間人を攻撃していることを指摘して置かなければなrに。その傾向は、欧米から殺傷力の高い重火器が国内に到着するにつれて、ますます悪化している。
ウクライナ軍に配備された装備は、その多くがドンバスの非武装化地域で、ロシア系市民を殺害するために、それだけのために使用されている。
欧米の軍事援助がウクライナ紛争に負の影響を与えていることが、この紛争をさらに複雑にしている。


*NATOの直接介入は核戦争をもたらすだろう

実際、ミレー統幕議長の発言は、軍事専門家の間ですでに一定の結論となっていることを追認するものだ。
キエフはロシアに勝つことができない。
なぜなら、モスクワは軍事的により強力でり、ウクライナ側に戦闘を続けるための組織的・管理的能力がないためである。
もし軍事的な逆転の可能性があるとすれば、それはNATOがより直接的に介入するシナリオの場合のみである。
しかし、この場合、戦争は確実に核兵器レベルまでエスカレートし、戦いは勝者なしに終わることになるだろう。


*ロシアの停戦条件を全面的に受け入れるほかない

近い将来の可能性としては、ロシアの勝利だけが現実的なシナリオに見える。ベストなのは、キエフがロシアの停戦条件を全面的に受け入れて、協議を再開することである。
ミレー議長がそれを示唆したが、同じように西側の政治家たちも考えている。
しかし彼らは、ウクライナがずたずたになるまでは、あらゆる形の援助を続けようとしている。紛争を通じて、ロシアの戦略的環境をできるだけ不安定にするためである。
たとえそのために、ウクライナ人の命が犠牲になっても、そんなことは気にしない。





以下はアイテック社HPより液化CO₂装置の説明書だ。間宮さん、ひょっとしてなにかに馬鹿されたのではないか? とも疑われる。誰かが機械の取説を読んで、「しめた、これでマイワールドが作れる」と思いついた可能性もある。


超臨界CO₂(Supercritical CO₂)とは?

1. 超臨界CO₂ってどういうもの?

CO₂は常温常圧で気体です。この二酸化炭素を冷却していくと固体のドライアイスになります。H₂Oと違い常圧下では液相を持ちません。
しかし、加圧下では液相を示します。
さらにこのCO₂を加圧下のまま31度以上に温めると、液体でも気体でもない「超臨界状態」になります。

2.超臨界CO₂の特徴

超臨界CO₂は液体のような物質の溶解性と気体のような拡散性を兼ね備えた特徴を持っています。
この特徴は一見すると有機溶媒に似ていますが、温度や圧力を調整することにより、溶媒としての性質を変更・調整することが可能です。
有機溶剤が持つ毒性と無縁なことは、超臨界CO₂の圧倒的な利点です。

3.超臨界CO₂の現場での応用

最も多い用途は抽出です。各種生薬 からの有効成分を抽出するのに最も効果を発揮します。
また特定成分の除去にも利用できます。コーヒー豆からカフェインを除去するのが一例です。
さらに表面張力による破壊を防げることから、半導体の回路パター ンの洗浄には絶対的な優位性を持ちます。

4.夢の溶剤 超臨界CO₂

有機溶媒は毒物です。処理後に有機溶媒を完全に除去する必要があります。食品加工への使用は禁忌です。
有機溶媒は易燃性です。防火対策が不可欠です。
有機溶媒は不快臭を持ちます。脱臭対策が不可欠です。
有機溶媒は製造後の微調整は困難です。超臨界CO₂は、圧力・温度の調整により、最適条件を持たせることができます。
超臨界CO₂抽出ラボスケール試験機
   超臨界CO₂抽出ラボスケール試験機


つまり、何やら原理はよくわからないが液化CO₂を有機溶剤の代わりに使うと、溶かしたり抽出した、洗浄したりといろいろ便利な機械がある。どうもこの装置と同じ環境が太古の昔にあったということらしい。
この環境のもとで、熱水のエネルギー熱水に溶けた各種の電解質、金属イオンがお互いに触媒となり、集積した複雑な有機物質を形成した。核酸を作るヌクレオチド、アミノ酸を作る炭水化物や窒素素化合物が、恒温性を兼ね備えたCO₂溶媒のもとで活動する中で、それらはRNAやアミノ酸を作り出した。
というお話で、めでたしめでたし。
後は化学進化の話に進んでもいいのではないだろうか。


赤旗科学面を担当する間宮記者の記事はいつも面白い。しかし今回はさすがに未消化だ。ひょっとして掴まされたのではないかという感じもしなくはない。
今回は化学進化と液体CO₂という2つの言葉で、プレ生命フェーズの実相を解明している。

地球が形成されてから生命誕生までの期間は、予想外に短い。
それは生命活動が、地球の活動そのものの一部であることを示唆している。
水、大気、炭素、窒素などの元素が有機物へ移行する過程は生命過程ではないが、一種の進化の過程と考えることもできる。
20年ほど前に一世を風靡した「RNAワールド」説がその典型だ。
生命誕生以前の事物をすべて地球外からの飛来物に委ねるのは、実に官僚的な態度で、科学者としては怠慢のそしりを免れ得ない。
ましてそれをロケット開発予算の口実にするなど狡猾だ。どうせ宇宙に行くのならもっと宇宙的に発想すべきではないか。

化学進化説

生物が誕生するためには必要な材料となるさまざまな有機化合物が揃っていなければならない。先に上げたRNAの他にも膜構造と受容体、ミトコンドリア、葉緑体、リボソームなど大自然のいたずらだけでこれほどのものが作れるのかと感嘆してしまう。

それらはどこでセット化されたのか。どのように進化したのか。
目下のところ、深海底の熱水噴出孔付近が最有力と考えられている。そこで深海底の研究が進んでいるのだが、その一端を学びたい。
ということで、まずは大本になる化学進化説の紹介だが、これは魑魅魍魎の跋扈するヤミ世界だ。化学進化の歴史を書くより、化学進化の学説の歴史を書いたほうが早そうだ。

基本的視点としては、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の「化学進化」の項目が役立つ。
生命の全進化史のうちで,その最も初期の,単純な無機分子から有機物質の素材成分が環境に蓄積してくる段階をさす。ただしこれはやや限定的な用法であり,広義には,生物進化の化学的側面すべて,たとえば細胞成分物質の進化につれての変化なども含めることもあるが,これら後期の段階は,生化学 (的) 進化として区別するほうがまぎらわしくない。化学進化のためには,分子の複雑化のためのエネルギー源が必要であり,原初地球上での化学進化においては,日光中の紫外線,地殻の熱エネルギー,空中放電,隕石などの衝撃波などが考えられている。



化学進化の材料

化学進化とは、種々の元素と熱水の持つ熱エネルギーの存在下に分子が形成され、その構造が複雑化されていく過程である。
進化を規定するものは、実は元素でもエネルギーでもない。原子のイオン化をうながし、それをやり取りし、化学反応を誘発するための触媒である。

元素も熱エネルギーも、次元こそ異なれ絶対的な存在である。しかし触媒は相対的、時限的、条件的なものである。流行り言葉で言えば、元素と熱エネルギーの「出会い系サイト」である。触媒をもって事物に関係性が生じ、過程というものが生まれる。

触媒も元素(ないし分子)

しかしそれだけ言ってたんでは念仏みたいなもので先へは進んでいかない。太古の世界にはモノとエネルギーしかないのだから、触媒もモノであるほかない。

おそらくそれが「特殊なモノ」であるためには、特殊な形でエネルギー(不安定なイオン)が付与されたものでなければならない。そしてそれはエネルギーの運び屋となるのである。

ウォーター・パラドックスという障害

これで湧水中の元素がときに原料になり、ときに触媒となることによって元素→分子の組成が高度化し有機化していくということになれば話は万々歳だが、実はそう簡単ではない。それがウォーター・パラドックスという仕掛けである。

これについての説明はほとんどないので詳細は不明である、僅かな説明から推理すると、熱水は化学反応に必要な熱エネルギーを供給するが、熱すぎると卵が固まってゆで卵になってしまう、ということみたいなようだ。

その後気になって調べたところ、ウォーター・パラドックスという言葉はNature誌のアマチュア愛好家向けのコラム記事につけられた題名で、平たく言えば「水は薬にもなるし、毒にもなる」みたいな使われ方をしている。その後誰もフォローしていないようだ。


液体CO₂の生成機序

文章だけ見ていくとそうなるのだが、ウォーター・パラドックスに引き続き液体CO₂の説明もない。大きな図に「液体CO₂生成の仕組み」とあるので、この図を自力で読み解くほかなさそうだ。
① 深海底に熱水とともにCO₂が供給される。
② このこの液体CO₂は、濃度差により2層に分離する。
③ 高CO₂熱水は、海中での冷却過程でさらに高濃度化し、ほぼ純粋な液体CO₂となる。
④ 液体CO₂は海面下にCO₂ハイドレートとして結晶化し、その下に液体CO₂を貯留する。
ということで牛乳が発酵してチーズが形成される感じか?

液体CO₂でパラドックスを克服する

この液体CO₂のプールは、「超臨界状態」に入ると水に溶けず有機化合物を溶かす性質を獲得する。水溶性と脂溶性の違いみたいなものか。

ここもおどろおどろしい表現の割には中身が不分明だが、多分気相と液相のあいだを行き来することで、熱水の灼熱地獄をスルーするのだろう。

まとめると、例えばワインの醸造過程で表面にカサブタができて、その下に炭酸ガスが溜まってその炭酸ガスが高温環境への緩衝材となる一方で、有機溶媒として適温下で生成された有機物を保存するプールとなる。

ということで類推に類推を重ねて、なんとか分かった感じになった。

要するに、CO₂ハイドレートの膜で隔てられ、外部の高温環境から保護され、脂溶性の溶媒で満たされた原形質環境が擬似的に形成されることになるという仕掛けですね。

これを図式化したのが下の図ですが、見るからにウソっぽいと言うか、怪しげな雑技団風モデルですね。私はエプロンおばさん以来、本邦発のニュースには査読の真摯さに問題があるとの印象があり、一応眉に唾をつけてから読むようにしています。

液体CO₂

RNAワールドの提唱されたときのまがまがしさにも似た、なにかざらついたものを感じてしまいます。
参考までにこの図は液体CO₂を装置化したモデルだが、えらくさっぱりしていて作り物っぽく見える(アイテックHP
液体CO₂装置



↑このページのトップヘ