鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

廣田 ゆき、仲嶋 一範(慶應義塾大学 医学部
短い「前置き」への長い「反論」

大脳皮質の発生という項目には。次のような短い前置きがある。
 大脳皮質の発生過程では、神経細胞は誕生した部位からダイナミックな細胞移動を経て最終配置部位に到達し、例えば新皮質においては6層構造が形成される。大脳皮質を構成する神経細胞は興奮性神経細胞と抑制性神経細胞に大別され、前者は主に終脳背側部の外套(広義の大脳皮質)と呼ばれる部位の脳室面にある脳室帯及び脳室下帯から産生され、後者は主に終脳腹側部の基底核原基と呼ばれる部位の脳室面から産生される。
短いが、非常に難しい、というか分かりにくい。思い切り枝葉を落として書き直すと、以下のようになる(と思われる)。

*大脳皮質の神経細胞は別な場所で誕生し、目標部位に移動する。
*興奮性神経細胞は外套の脳室面から産生され、抑制性神経細胞は基底核原基の脳室面から産生される。

「大脳皮質の発生に関する基礎的説明」としては非常に不親切かつ迂遠な説明である。正しいか間違っているかという話ではなく、大脳の形成というテーマからは見事に「的を外している」からだ。
不親切というのは、側脳室の形成過程がまったく説明されていないからである。
迂遠と言うのは、興奮とか抑制という余分な概念を突っ込むことである。そもそも大脳内での神経調整が興奮vs抑制という二元的原理によるのか否かは、それ自体が証明されるべき疑問である。

<私は自動車と同じで、駆動(したがって加速)はエンジンで、その調整と方向づけはドライバー(したがって神経)によって行われるものだと考えている。もう一つ、外套→大脳皮質は巨大なメモリ装置であり、その(最終)結果に対してはニュートラル(無責任)であろうと考えている>

先程の前置きは2つのポイントがあるが、両方とも、「何が、どこからどこへ、どのように、そしてなぜ?」という基本設定からすれば、どうでも良いことだ。

側脳室の形成過程

溝口さん(神戸学院)の記述によれば、前脳の前端に近く、両側に突出部が形成される。ちょうど、カエルの頭の両側に目玉が飛び出す形だ。この突出部を半球胞(終脳胞という記述もあるが、終脳否定派の私としては、断然半球胞)と言う。これは三脳が内腔(中脳水道から第三脳室)を持つのと同様に内腔を持つ。それがやがて側脳室となっていく。
二つの内腔は室間孔を通じて相互につながる。室間孔と前脳水道(中脳水道の延長)はT字型に連絡し、この水路を通じて脳脊髄液が半球脳の内腔に進入し、側脳室へと押し広げる(このあとは半球胞内腔と呼ばずに側脳室と呼ぶこととする)。
前脳腔
上の図は「脳科学辞典」より引用した興奮性と抑制性神経の説明図。それはどうでも良くて、黒枠で囲まれた黄色のゾーンが側脳室壁、内側の三味線のバチみたいなところが側脳室。両方セットで前脳胞だったところ。この前脳胞は左下の部分で視床(間脳)と接している。そして壁のこの部分が先んじて増殖をはじめ線条体となっていく。壁の他の部分は1ヶ月ほどしてから増殖をはじめ、外套→大脳半球となっていく。これが溝口テーゼである。


線条体と大脳皮質

胎生第2月に入ると側脳室の腹側(すなわち間脳に接する部分)が脳室内に膨隆する。これが大脳核丘である。その本質は慶大グループの言う如く“基底核(線条体)の原基”である。
胎生中期に入ると、大脳核丘→基底核の発育は緩徐となり、これに代わり側脳室の自由壁側が急速な成長を始める。これが外套と呼ばれ、大脳半球の母体となる。
たしかに両者は側脳室の上皮を原基として発育するが、基底核の構造は基本的に三脳と類似しており、外套→大脳半球とは様相・性質をまったく異にする。
例えば間脳における視床と視床下部の関係のごとく、発生学的機転としては異なるものと考えるべきであろう。

なお、印象論に過ぎないが、大脳基底核というくるめ方は不正確ではないか。線条体とその仲間、それ以外の核に分け、後者は視床周囲の諸核と連携付けながら検討すべきではないかと思う。

資料: 平取・二風谷 史跡めぐり

Ⅰ. 民族としてのアイヌ人
最終氷期(3万~2万5千年前)に旧石器人が樺太経由で日本に南下してきた。この人々は本州から九州・沖縄まで南下し、各地で狩猟と採集生活を営んだ。大陸の人々との交流の中で細石刃文化や縄文文化が生まれた。
紀元前1千年ころには、平取でも縄文文化が広がっていた(糠平2遺跡)。
紀元前後から日本北部は寒冷期に入り人口は激減し、多くの人たちが海をわたり東北地方に進出した。入れ替わりに樺太在住民族(オホーツク人)が海岸伝いに北海道まで進出した。
5世紀ころからふたたび縄文人の再北上が始まり、一部オホーツク人と混血しながらアイヌ民族(須恵器文化)を形成するようになった。
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この頃から、沙流川流域はアイヌ民族の主要な居留地となった。内陸に発達したのは海岸の霧と冷気を避けるためであろう。それが結果的にはアイヌの固有生活を保持し得た理由ともなったと考えられる。

Ⅱ. 進取の人 平村ペンリウク

平取のアイヌを語る上で欠かせない人物がペンリウクだ。義経神社の鳥居前に佐藤昌介北大学長の記した顕彰碑がある。経時変化で文字が崩れ、よく読めない。資料として書き出しておく。

故ペンリウク翁は氣骨稜々智略にとみ、十勝の同族を征服し、その名遠近に轟き、大いに衆望を聚め、亦良く地方の同族を統率して愛撫を加へ、文字の學ぶべきを説き、學校を設立して子弟の就學を勤む、之を土人教育の嚆矢とす。
官乃ち土人の事一切を翁に委ね、オテナ即ち総酋長を以て之を遇す。
翁曾て判官義經公の神像を此の地に遷祀して其の徳を鑑かにす、是本村義經神社 の濫觴なり。
明治十七年八月、故小松宮彰仁親王殿下本村お成の砌、翁の住宅 に御立寄あらせられ優渥なる御諚を賜はる。誠に無上の光榮と謂ふべく。
翁明 治三十六年十一月二十八日七十一歳にて病を以て歿す。郷黨翁の遺業を追慕し、ここに碑を建て、以て記念となし、長へに英魂を慰めんと欲す。

碑と碑文の評価については土橋芳美さんの「痛みのペンリウク  囚われのアイヌ人骨」に詳しい。

ウィキペディアなどから抜粋した

平村の姓を持つが生粋のアイヌ。生年は1833年、70年を生地平取で生き、1903年(明治36年)平取に没した。

ペンリウクは平取コタンの首長(コタンコロクル)シュロクの長男として生まれ、生まれながらにアイヌ指導者であった。

ペンリウクには相当の資産があったらしい。71歳で亡くなったとき、その遺産は土地や馬を合わせて千円もあったという。

町内の義経神社はペンリウクの寄進により建立、当時はアイヌ人専用の神社だった。かつては神社の鳥居前にペンリウク宅があった。

若いとき、正義感に燃えしばしば北蝦夷地・樺太に渡り、同胞の苦難を救おうとした。

Ⅲ.ペンリウクを頼って多くの外国人が来訪

 1.ウォルター・デニング(Dening

 記録に残された最初のヨーロッパ人はイギリス人宣教師のデニングである。1874年、英国領事館のあった函館に赴任した。1876年(明9年)8月に平取を訪れ、ペンリウクのもとでアイヌ語を学んだ。おそらくその前に函館での出会いがあったのだろう。

ただ、デニングはかなり強引な布教活動もしたらしく。後にペンリウクはこう批判している。「もしあなたを造った神が私たちをも造ったのならば、どうしてあなたはそんなに金持ちで,私たちはこんなに貧乏なのですか」

2.イザベラ・バード

イギリス人旅行家イザベラ・バードが平取に入るのは、デニング訪問の2年後、1878年(明治11年)のことである。彼女はペンリウク宅に4日間滞在した。

このときバードはすでに47歳、決して若くはない。旅行の印象は2年後に一冊の本として発表された。原題は「人跡未踏の路」となっている。それが実感だったのだろう。

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 バードの旅行記にはアイヌについていくつかの記述がある。

通訳兼案内人の日本人伊藤某は「アイヌ人を丁寧に扱うなんて!彼らはただの犬です。人間ではありません」と断言しました。しかしバードが接したアイヌはそれとは逆でした。

アイヌは純潔であり,他人に対して親切であり,正直で崇敬の念が厚く,老人に対して思いやりがあります。 

3.ジョン・バチェラー

 バード夫人が平取を訪れて間もなく、明治14(1881)年、イギリス人宣教師ジョン・バチェラーが平取を訪問した。彼はペンリウク家に下宿し、アイヌ語を習った。

ペンリウク宅

  ペンリウクの家。現義経神社の鳥居前辺り。


明治14(1881)年には、バチェラーのための新室を建て増した。

 その後彼は、札幌を拠点としつつ道内各所で精力的に活動。明治28(1895)年に平取聖公会を建設した。運営には養女のバチェラー八重子も携わった。教会には診療所や幼稚園も併設された。

彼はたんなる伝道師にとどまらず、アイヌの悲惨な生活を救うため献身的な努力を重ね、生涯をアイヌのために捧げた。この点に関しては間然たるところはない。

ただそれが伝道活動という枠の中で行われたために、慈善の枠を乗り越えてアイヌ民族の解放運動へ進むよう訴える人も出現した。さらに軍国主義が広がって行くに連れ、さまざまな潮流との摩擦で困難を抱えるようになった。
ペンリウクとバチェラー
   ペンリウクとバチェラー(撮影年不明)

 Ⅳ.平取とアイヌの文化運動

 1.平村コタンピラのユーカラ

岩波新書で久保寺逸彦 「アイヌの文学」という本がある。著者は1925年(大正14)に大学を卒業した後、平取に飛び込んでひたすらユーカラの採集に没頭した。1956(昭和31)年に「アイヌ文学序説」として発表された。これが77年に掘り起こされ、関係者の努力によって岩波新書となった。それも絶版となり埋もれていたのが、たまたま北大病院前の古書店で私の目に止まった。

採録の思い出が文中に記されている。

かつて私は、1931(昭和6)年の夏、日高・平取の平村コタンピラという老伝承詩人からユーカラの一つを筆記したことがあった。朝は7時ころから、暗くなるまで、昼飯抜きで書き続けて、5日もかかってやっと書き終えた経験がある。

 コタンピラ

ここではただ一編のみ紹介する

 

「一騎討ちの決闘を叙する」

大地の上に/猛き足踏みを/我に伸ばし

こなたよりも/猛き足踏みを/我伸ばしたり

真っ先に/我を突き来る/矛(ほこ)の陰

我にかぶさり来る/この矛の下を/我前へ屈みて

はたと伏せば/兜の上に/矛すべる音

鏗爾(こうじ。 琴を下に置くとき、コーンとなる音)

彼が矛の下に/我が矛の/目当てをつけ

彼のみづおちを切って/ぐざと突き刺せば

重々しき しわぶき/息 咽せかへりて/くわっと迸(ほとばし)り

彼の鼻より/出づる血は/粒々なして落ちこぼれ

彼の口より/出づる血は/幅広の赤褌を口から吐くよう

新たにまた/彼が我を突き来る/矛先に

我れ身をそぼめ/我が胸の上に/矛をそらしめ

その折に/刀を執る手/我 むずと摑み

足の甲の上を/我 踏みつけ/上の方より 下の方より

我が手許/疾く競へば/うめき苦しむ彼

またさらに/我を衝き来る時

避けんも面倒くさく/突かせをれば

我が鳩尾(みそおち)を切り/我をしたたに刺す

重々しきしはぶき/我がつく息のひまに/くわっと迸り

我が口を/通る血は/幅広の赤褌のごとく

我が勝ち誇れるままを/我に仕返し……

なおこの他、登別ユーカラの伝承者、金成マツも平取聖公会の初期に看護婦ブライアントの助手として勤務したことがある。

2.バチェラー八重子の「若きウタリに」

伊達町のアイヌ豪族向井富蔵の娘、長じてバチェラーの養女となる。イギリスで伝道師の教育を受けた後帰国、平取聖公会で働く。1931年(昭和6年)に歌集『若きウタリに』が出版された。

 batyera-yaeko

たつ瀬なく もだえ亡ぶる 道の外に ウタリ起さむ 正道(まさみち)なきか

灰色の 空を見つむる 瞳より とどめがたなき 涙あふるる

夏ながら 心はさむく ふるうなり ウタリが事を 思い居たれば

しんしんと 更け行く夜半に 我一人 ウタリを思い 泣きておりけり

3.違星北斗

余市の網元の家に生まれる。東京で勉学後、北海道に戻り各地のアイヌの組織化に動く。平取にも短期滞在し、八重子の下、聖公会で働く。過労から結核が悪化し昭和4年はじめ死去。

ここでは日記の最後のページより。

58日 兄が熊の肉とフイベを差し入れ。

熊の肉 俺の血になれ 肉になれ 赤いフイベに 塩つけて食う

熊の肉は 本当にうまいよ 内地人 土産話に 食わせたいなあ

あばら家に 風吹き入りて ごみほこり 立つ 其の中に 病みて寝るなり

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酒飲みが 酒飲む様に 楽しくに こんな薬を飲めないものか

薬など 必要でない 健康な 身体になろう 利け 此の薬

718

続けては 咳する事の苦しさに 坐って居れば 蝿の寄り来る

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アイヌとして 使命のままに 立つ事を 胸に描いて病気を忘れる
12
28

此の頃左の肋が痛む。咳も出る。疲れて動かれなくなった。

東京の希望社後藤先生より、お見舞の電報為替。

何か知ら 嬉しいたより来るようだ 我が家めざして配達が来る

 多分ツァー当日は授業中で、見られないと思うが、二風谷小学校の敷地内に歌碑がある

平取に 浴場一つ ほしいもの 金があったら たてないものを

の歌が刻まれている。

Ⅴ.二風谷に葬られた医師マンロー

医師ニール・ゴードン・マンローはスコットランド生まれの外科医。エジンバラ大学で学ぶ。卒業後そのまま船に乗り、インド、中国を転々とした後、横浜に腰を落ち着ける。本業はそっちのけで考古学に熱中し、英語で書かれた唯一の考古学書「先史時代の日本」を出版した。

昭和のはじめ、66歳で二風谷のアイヌ居住地区に定住し、民俗学的研究を続けた。その間、アイヌの人々を無料で診療した。

 マンロー夫妻

 マンロー邸のクリニック入り口でマンローとチヨ夫人(看護婦

  マンローは、母国スコットランドがイングランドに支配されてきた歴史をアイヌの上に重ね合わせ、アイヌを先住民族・被抑圧民族と捉えていた。このことはアイヌを「高貴な野蛮人」の枠内においたバチェラーとの関係決裂に導いた。(後に和解)

スパイ事件をでっちあげられ獄死した北大生宮沢さんとも交友があり、最晩年には帰化した日本国民でありながら敵性外国人として監視の下に置かれた。

死にあたり、マンローは二風谷の地にアイヌ人と同じようにして葬ってほしいと希望。共同墓地の一角に埋葬されている。

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 これは1930年(昭和5)、マンローが制作した記録映画「イヨマンテ」撮影時のスナップ写真である。女性たちの表情がいきいきと捉えられている。

 

 

参考: 新冠アイヌの強制移住

日帰りツァーの対象地としては遠すぎるので、今回訪問対象にはならないが、略述しておく。
大正5年に新冠御料牧場拡張のため、先住アイヌは平取村上貫気別地区へ強制移住させられた。強制移住はこれが最初ではなかった。最初の強制移住は明治
28(1895)年の滑若村から姉去への移住であった。

地区の有力者であった吉川アシンノカルは御料牧場に奉職するかたわら、自身も牧場や商店を経営していたが、移転を率いた。

「強制移住になった人々の悲しさは凄絶なものがあった」という。

上貫気別地区には記念碑が建てられているらしいが、詳細は不明である。

*後日知ったことであるが、私たちのツァーをガイドしていただいた
木村二三夫さんは、まさにこの強制移住を強いられた人々の後裔に当たるということだ。それと知って居ればもう少し話を聞いておきたいところであった。ただ、ご本人のインタビュー記事によると、ご自身がたまたま姉去の慰霊碑の前を車で通りかかって、初めて姉去の所在を知ったということであるから、やはり周りの人がしっかり掘り起こしていかなければならないのは間違いない。

  

紹介
East Asia Forum
23 May 2023

Sullivan’s speech sounds US retreat from free trade over China

サリバン演説、中国との自由貿易の停止を示唆


Author: James Curran, University of Sydney


以下紹介

ジェイク・サリバン国家安全保障顧問が4月下旬にワシントンで行った講演は極めて重要だ。その講演は米中関係、米豪関係について語られたが、事実上ほとんどが米中関係の今後の見通しに終止した。

アメリカは世界市場から撤退しようとしている

Sullivan

サリバンは演説の中で、「中産階級のための外交政策」を重視すると語った。
これは2016年にドナルド・トランプが叫んだ「米国の核心部が空洞化する」というアピールが、今もなお米国政治の大きな懸案となっていることを示している。それは現政権の、貿易、経済、国家安全保障の相互関係についての構想も示している。
サリバンはまず、バイデンの当選以降の諸事実を列挙した。
それによれば、米国は主要な貿易・経済分野において関与と規制を強めた。そのいっぽう国内産業政策を強化し、製造業とハイテク産業への支援を大幅に強化している。
一言で言えばトランプばりの『アメリカ・アズ・ナンバーワン』思想にもとづく経済の内向き化だ。
その結果、世界貿易機関(WTO)のルールに基づく国際経済秩序は支えを失い漂流している。それは強固な政治力を持たないオーストラリアにとって深刻な問題だ。

サリバンの「新しいワシントン・コンセンサス」?

バイデン政府は、経済的なパートナーシップとか、世界市場を機能させる調整役から身を引こうとしている。これについてのワシントンの専門家筋の反応は厳しいものだ。
著名な外交アナリストであるウォルター・ラッセル・ミードは次のように述べている。
最近の経済の方向づけは、際立った特徴を示している。それは第二次世界大戦直後を特徴づけていた米国経済システム、すなわち閉鎖的で強力に規制された戦時国家の経済システムへの回帰を目指すものである。

ブルッキングス研究所のライアン・ハスは、次のように述べている。
サリバンの演説は、米国が「国際経済の舞台でフィクサー機能を放棄しようとしている」ものだと見ている証拠だ。サリバンのスピーチは、このような傾向が米国の政治だけでなく、歴史にも反していることを示す。
サリバンの演説は、米国の主張が自国の政体の中で猛威を振るうだけでなく、自国の歴史に対して反論していることを示す。
サリバンの言う「新しいワシントン・コンセンサス」は、ビル・クリントン元大統領の貿易政策(北米自由貿易協定、WTOの創設、中国の加盟など)を真っ向から否定するものである。それはフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」のテーゼを火炙りにしようとしている。
1989年にベルリンの壁が崩壊し、自由民主主義と西欧資本主義が勝利したとフクヤマは主張した。そして「今必要なのは、その福音を、福音を持たない哀れな土地に広めることである」と述べた。

しかし、サリバンはいま、法と秩序の勝利についてではなく、資本主義の勝利がもたらした大混乱について話している。
ラリー・サマーズ元米国財務長官が言うように、「この政権は第二次世界大戦後に我々が築き上げた伝統とはやや異なる世界にいる。彼らはより多国籍でグローバルなやり方を好んでいる」
例えば米国は、CPTPPに参加する方向性を一切排除している。

(訳注:CP/TPPはComprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnershipの略。日本語では「TPPに関する包括的及び先進的な協定」。アメリカ抜きで調印されたTPPの実施を目指す協定である。平成30年 3月 8日 サンティアゴで署名)

対中国政策:縁切りからリスク回避への転換

この演説と4月下旬のイエレン財務長官の演説は、バイデン政権の中国政策のさまざまな切れ端をつなぎ合わせようとするものである。
彼らは、ワシントンが北京から「デカップル」縁切りするのではなく、「デリスク」リスク回避するのだと強調している。
二人とも、中国との対立を避け、協力すべき領域について提示している。
しかし、どちらもワシントンの反中国熱のエスカレートに真剣に挑戦しているとはいえない。
サリバンは、米国がしばしば口にする嘆きを同じように表現した。
「中国を国際経済の仲間入りをさせても、彼らの価値観は変わらなかった」
サリバンの演説は、「足元に火がついた」アメリカの中堅層の不満や不平を暗黙のうちに踏まえている。しかし、「米国の中産階級のための外交政策」が、台湾をめぐって中国と交戦する決意まで含むのかどうかまでは読み切れない。
また、2024年以降の将来の政権が、この自己本位の保護貿易と経済的孤立への道という構想をそのまま引き継ぐかどうかは不明である。

パートナー国関係の見直しと、抵抗する『同盟国』

サリバンの発言には他の疑問も生じる。たとえそれが明示的に取り上げられなかったとしてもだ。
ひとつは、米国の同盟国やパートナーも米国の示す方向に従うかどうかということだ。
サリバンが焚き火に放り込んだような新自由主義の貿易協定に、ほとんどの国がいまだにこだわりを持ち続けている。そして市場アクセスの削減ではなく、拡大を求めている。とりわけ死にかけたCPTPPを救った日本はそうである。
米国には同盟国やパートナーが存在する。その中にはサリバンの視野に入るものもあれば、そうでないものもある。サリバンが重視するのはEUだ。バイデンのインフレ抑制法には自動車産業保護主義が含まれる。その自動車産業保護主義にはEUが反発している。
それにもかかわらず、サリバンの声明は欧州連合が重要なパートナーとして含まれている。カナダも同じように重要なパートナーとして含まれている。

しかし韓国と日本はリップサービスしか受けていない。
そしてさらに、彼の演説は東南アジアへの風当たりが強い。それは、どちらか一方の側に近寄ることを避けたいという東南アジアの願望をいっそう強めている。
イギリスとオーストラリアは、AUKUSを巡ってこれだけの動きを呼んだにもかかわらず、米国の対外関係の主軸には含まれていない。
もしサリバンの発言が現実となって、オーストラリアが重要なパートナーから外れるようなことになれば、オーストラリアの経済的ニーズや目標に対する米国の関与は不確かなものになる。

米中の板挟みとなったオーストラリア

例えば次のようなオーストラリアの長所が指摘されるかも知れない。
リチウムやニッケルを輸出し、米国の兵器産業に資金を提供し、米国の武器輸出の市場となっている。また、太平洋地域、日本、韓国、東南アジアの一部で一定の影響力を持つ。
しかしオーストラリアは、米国の不快感を知りつつ、重要な資源と農産物をワシントンの敵である中国に輸出している。(それは米国自身も同様であるが、慰めにはならない)。
「ワシントン・新コンセンサス」から生じる貿易と安全保障に関するこれらの不安は、東京、ソウル、台北、そしてもちろん北京でも確実に検討されている。キャンベラでも、この問題を念頭に置いて、迅速に行動を起こすべきである。

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オーストラリアの支配層の動揺が率直に語られた記事である。ネオリベラリズムの波に乗って経済成長を遂げたオーストラリア支配層が、米中対決の強化の中で荒波に揉まれ、疎外感に打ちのめされているている姿が描かれている。
個別の事情を通り越して、米国がもはや世界の盟主たり得なくなる状況がやってくるかも知れない、それ以前に、対米従属路線のこれ以上の強化が破滅を招きかねないという危機意識があり、自立路線への転換が避けられないのではないかという予感が世界に拡散している感じが分かる。

エピクロスの略歴

紀元前341年 エピクロス、イオニア地方の島、サモス島で守備兵の子として生まれる。守備兵は恵まれない職業であり、一家は貧困から脱するため、エーゲ海の島々を放浪する。この間に原子論や形而上学を知る。

AD323 父親の故郷アテネに渡って軍役に就く。この頃プラトンやアリストテレスの後継者が塾を開設していた。エピクロスはデモクリトス派の哲学者ナウシパネスの門下に入ったと言われる。

この年、アレクサンドロス大王が急死し、後継者を巡る争いが始まる。

エピクロスは、軍役を終えた後、両親と共にエーゲ海沿いの小アジアの都市を転々と移り住む。この間に哲学者として名を上げるようになる。

AD306 35歳の時、アテネ郊外に「庭園」を買い、「庭園学校」を設立。弟子達と共に暮らすようになる。プラトンの開いたアカデメイアの近くだった。

「隠れて生きよ」のモットーに従い、「庭園」に引きこもったまま政治や社会とは一切関わろうとしなかった。その生活スタイルは世上の評価とは逆にきわめて質素なものだった。

エピクロスは弟子入りを希望する者に対して男女分け隔てなく受け入れた。講義は万人に解放され、召使の奴隷や遊女が聴講したという記録もある

物質的充足は苦であって精神的充足が快であると説き、異性にも触れずパンと水だけで静かに生きることを是とした。その考えのどこが快楽主義と言えるのか。

ストア派の哲学者たちは、エピクロスを思想的ライバルとみなし、有る事無い事を吹聴し、中傷した。その事によって得られる現世的利益を、ストア派は重視したことになる。

BC270 エピクロス、腎臓結石を患い死去。エピクロスは死後の世界や転生があるとは考えず、死とは快楽と苦痛を感じる感覚が消失することと考えていた。

「隠れて生きよ」のモットーに従い、「庭園」に引きこもったまま政治や社会とは一切関わろうとしなかった。その生活スタイルは世上の評価とは逆にきわめて質素なものだった。

エピクロスは弟子入りを希望する者に対して男女分け隔てなく受け入れた。講義は万人に解放され、召使の奴隷や遊女が聴講したという記録もある

物質的充足は苦であって精神的充足が快であると説き、異性にも触れずパンと水だけで静かに生きることを是とした。その考えのどこが快楽主義と言えるのか。

ストア派の哲学者たちは、エピクロスを思想的ライバルとみなし、有る事無い事を吹聴し、中傷した。その事によって得られる現世的利益を、ストア派は重視したことになる。

BC270 エピクロス、腎臓結石を患い死去。エピクロスは死後の世界や転生があるとは考えず、死とは快楽と苦痛を感じる感覚が消失することと考えていた。

忘却と再発見

BC99頃-BC55頃 この頃、共和制末期のローマでは、エピクロスの唯物論的な世界観に基づく素直な生き方がもてはやされた。崇拝者の一人ルクレティウスは「物の本質について」という著作を表した。しかしその後は、キリスト教の拡大に反比例して没落し、5世紀には消滅したと伝えられる。
ルクレティウスの著作自体も長い間埋もれていたが、イタリアの人文学者ポッジョ・ブラッチョリーニ(1380-1459)が、ドイツの修道院で写本を発見した。これによりルクレティウス並びにエピクロスの業績がふたたび世に出ることになった。

エピクロス主義=快楽主義か?

今日、社会思想や学問の世界では、世間と隔絶して生活の喜びを静かに味わう生き方として正当に評価されているが、一方では刹那的な快楽主義であるかのようにレッテルを貼られ、そのレッテルは未だに生きながらえている。共産主義、社会主義が生まれて200年経った後も悪魔の思想のごとく罵られるのと似ている、
我々は快楽が目的であると言うが、それは道楽者の快楽や性的な享楽ではない。それは苦しみがなく、魂が平静であることにほかならない。 『メノイケウス宛の手紙』
ということで、「快楽」(アタラクシア)だ。エピクロスのいうアタラキシアはエクスタシーどころかむしろ逆の心身ともに平穏な状態だ。むかし最も売れていた精神安定剤はアタラキシンという商品名だった。といってももちろん精神的にニュートラルというのではなく、何らかの充足感を伴う「しっかりした幸せ感」だ。

この人生観は、彼がデモクリトスから受け継いだ「原子論」にもとづく一種の能動的アナーキズムだ。 原子の集合に過ぎない人間が、感情に走ることは無意味である。感覚に基く穏やかな「快楽」(アタラクシア)を求めることを目標とすべきだというのが論旨である。

目的意識的行動があり、自らの力能が発揮され、その結果として何らかの使用価値が生み出され、それを我がものとして獲得し、使用(消費)した結果得られる充足感と心の安静というのが生活の基本的サイクルを構成する。
それは労働→享受→労働力能の再生産という連環の中に生み出される感情ではないかと思う。


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この話は拙著「療養権の考察」を執筆時に何回も触れた。これは経済学批判要綱に何度も言及されている。「経済学批判」の第一章、「生産は消費であり、消費は生産である」というところだ。
マルクスは価値と使用価値の二重性に関連して、労働と享受という対になる概念を提示している。今でも経済関係の論文でしばしば混用されているのだが、生産に消費が対応しているように、労働には享受が対応しているのである。
生産は資本と労働の結合であり、労働は労働能力の使用(支出)であり、これに対しヒトは労働の産物(使用価値)を享受するのである。しかも直接にenjoyするのではなく、まずは我がものとし、その上で享受するのである。それは直接的に快楽のために消費されるのではなく、労働能力(正確には労働力能)を培うために消費されるのである。

「要綱」のマルクスは、賢明にもこの生産と消費、労働と享受の二重の弁証法を踏まえていた。しかしミクロ経済の命題の解明の過程で難関を突破するために、人間的諸活動を生産・労働・価値優位の理論に矮小化してしまった。そのために市場問題と価格実現過程で苦しみ、大工業における社会主義的協業関係の成長過程を描き切れずに終わってしまったのである。労働者は資本主義の墓堀人ではなく、(もちろん深刻な矛盾をはらみつつも)次の世界の正統な継承者なのだ。

The "Appeal to womanhood throughout the world"
 (later known as "Mothers' Day Proclamation") 


世界中の女性へのアピール 1870

by Julia Ward Howe 1870

(“母の日宣言”として知られる。Anna Jarvisがその考えを広げ、白いカーネーションを捧げる「母の日」として世界中に普及した)

英語版Wikiより

これは、世界の平和のために女性が団結することを訴えたものです。
この「女性へのアピール」は、1870年にジュリア・ウォード・ハウにより執筆されました。
それは当時のアメリカ南北戦争と普仏戦争での相次ぐ大量殺戮に対する、一人の平和主義者の反応でした。

hau

この訴えは同時に、「女性には政治水準まで及んで社会を形造る責務がある」というハウのフェミニストとしての確信と結びついたものです。

以下本文

起て、この日、女性たちよ!
起て、志あるすべての女性たちよ!
水であろうと、
涙によるものであろうと、
洗礼を受けた女性たちよ

きっぱりと言いなさい:
関係のない役人たちが何を決めようとも、わたしたちには知ったことではありません。

私たちの夫は、殺戮の臭いを放ちながら、愛撫と喝采をもとめて、私たちのもとに帰ってくることはありません。

私たちの息子には、たくさんのことを教えてきた。親切、寛容、我慢。
それらすべてを忘れて去っていくことはありません。

私たち、この国の女性は、他国の女性にとても優しく、
私たちの息子が他国の息子たちを傷つけることは許せず、
私たちの息子がそのような訓練を受けることも許せません。

荒廃した大地の奥深くから、ひとつの叫び声が上がってくる。その叫びは私たち自身の叫びです。
それはこう言っている: 武装解除、武装解除!

剣は人を殺すため、それは正義の天秤ではありません。
血は不名誉を拭い去るものではなく、暴力は奪うことを認めるものではありません。
男たちは戦争が呼びかけられると、鍬や金床を投げ捨ててしまいます。
ならば、女性たちもすべてを捨てよう。いっそ家も投げ捨ててしまいましょう。
盛大で厳粛な「評議会」を開くために。
(for a great and earnest day of council “評議会”は教会の信者会議からの連想と思われる。参政権のなかった女性の発言の場を想定したものであろう)

まずは、女性として集まりましょう。そして死者を悼み、祈念しましょう。
その後、互いに厳粛に協議を行います。
何の協議か。それは偉大なる人類家族がこの地上で平和に暮らすための方法についてです。 
参加者のそれぞれは、神の神聖なみ印を、カエサルではなく、自分の出自に倣って顕わしましょう。

女性と人道の名において、私は次のことを切に求めます。

まず、国籍にとらわれない「女性総会」を開きましょう。最も便利と思われる場所を選び、指名します。総会の目的に沿って、できるだけ早い時期に開催されることを切に願います。 
その目的とは、多国籍間の同盟の推進、国際問題の友好的解決、平和の持つ壮大かつ総合的な可能性を実現するためです。

~ Julia Ward Howe

どことなし、アリストファネスの「女の平和」を連想してしまいます。アメリカというのはアメリカ帝国主義の故郷でもあるけど、こういう草の根民主主義の故郷でもあるんですね。以前、日本の戦後史を勉強していて、突然 ララ物資とかバイニング夫人だとか、信じられない人たちに出くわすことがありました。親切で信念があって、肝っ玉が太くて、言い出したらテコでも動かない人たち、そういう人の一人に今日も出会うことが出来ました。
もう母の日を1週間も過ぎてしまったけど、載せておきます。(訳文は怪しいのですがご容赦ください)



Common Dreams
17 May 2023
 
米国国防専門家によるウクライナ和平の呼びかけ
戦争は "問答無用の大災難"
(ニューヨーク・タイムズの全面広告について)

A TIMELY CALL FOR PEACE IN UKRAINE BY US NATIONAL SECURITY EXPERTS

A FULL-PAGE AD IN THE NEW YORK TIMES CALLS THE WAR AN “UNMITIGATED DISASTER”



by Medea Benjamin & Nicolas J.S. Davies


2023年5月16日、ニューヨークタイムズ紙は、ウクライナ戦争についての全面広告を掲載した。そこには米国の国家安全保障の専門家15人が署名していた。
その見出しはこうなっている。
「米国は世界の平和のための力となるべき」
それはアイゼンハワー・メディア・ネットワークの起草になるものである。
NYTimes



ウクライナ戦争とその背景

この声明は、まずロシアの武力侵攻を強く非難する。その一方で、ウクライナ危機を客観的に説明している。米国政府やニューヨーク・タイムズ紙のこれまでの説明よりはるかに正確なものだ。
そこにはNATOがいかに拡大されたか、米国がいかに破滅的な役割を果たしたか、度重なる警告を歴代の米国政権が以下に無視してきたか、最終的な開戦に至る緊張の高まりをいかにアメリカが煽ってきたかなどが触れられている。
声明は、ウクライナ戦争を "問答無用の大災難"と呼び、「外交を通じて戦争を速やかに終わらせるよう」、バイデン大統領と議会に対し、強く要請している。そして早くしないとこの戦争は「制御不能に陥りかねない軍事的エスカレーションの危険性」をはらんでいると警告する。

残された和平の外交的チャンス

米国には、いまならゼレンスキーに外交のチャンスをつかむよう促すことができる。
しかしもし米国がその代わりに、ウクライナの攻撃計画を継続させ、支援することに固執するならば、米国は、平和のチャンスをつかもうとしなかったことの責任を問われ続けることになるだろう。
そして際限なく増えていく、この戦争の恐るべき人的犠牲について、責任を負い続けることになるだろう、
賢明で経験豊富な元インサイダー(外交官、軍人、文官たち)によるこの外交の呼びかけは、それがいつ発表されたとしても貴重なものであっただろう。
しかし戦争が始まって442日、戦争が特に重大な局面を迎えている今、彼らの訴えは必要なのだ。

ゼレンスキーの抱える苦境

5月10日、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍の「受け入れがたい」損失を避けるため、待望の「春の攻勢」を延期すると発表した。それは重大で意味深長な声明である。
欧米の政策は、ゼレンスキー大統領を繰り返し解決不可能なほどの苦境に追い込んできた。
彼は欧米のさらなる支援と武器供与を求め、それを正当化するために、戦場で前進の兆しを示す必要性に迫られてきた。
一方では、何万人ものウクライナ人が新しい墓地に埋葬されている。戦争の継続は、真新しい墓地に象徴されるような衝撃的な人的犠牲を生んでいる。
ウクライナの反撃が予定より遅れたとして、それがどのくらいまでなら、戦術上許容しうるのか、それは不明である。ただし、その遅れが反撃作戦の縮小・中止という方向に向かうのなら、まったく話は違ってくる。ゼレンスキーは、明白な軍事的成果を示さなければならない。それが欧米の要求を満たす条件だからだ。
ウクライナへの武器と資金の流れを維持するために、軍事的な進展を示すという欧米の要求を満たすために、ゼレンスキーはあと何人犠牲になっても構わないと考えているようだ。しかしその計算には、あと何人自国民を犠牲にできるかという根拠が必要だ。その点で彼は限界に達しているように見える。

元英国首相ボリス・ジョンソンという悪魔

ゼレンスキーの苦境は、ロシアの侵略でもたらされた。そのことは間違いないが、2022年4月に当時の英国首相ボリス・ジョンソンという悪魔と取引したせいでもある。
ジョンソンはゼレンスキーに、イギリスと「オール西欧」が長期の視点で支援すると約束した。ウクライナがロシアとの交渉を拒否すれば、我々はウクライナの旧領土もすべて回復させる、そのために彼を支援する、と約束した。
ジョンソンはそんな約束を果たせるような立場であったことは一度もなかった。
首相を辞任させられて以来、彼は2014年以前の国境線への復帰を語ったことはない。彼が主張するのは2022年2月以降にロシアが侵略した領域からの撤退のみだ。
しかし、その妥協案こそ、2022年4月、戦死者のほとんどがまだこの世で生きていて、トルコでの外交協議で和平合意の枠組みがテーブルの上にあったとき、ジョンソンがゼレンスキーに説得して同意させたものだった。

度重なる軍備投入は事態解決の鍵にはならず、人的犠牲を増やすだけ

ゼレンスキーは、ジョンソンが広げた大風呂敷を、必死になって欧米の支持者に守らせようとした。
しかし西側諸国の兵器がいくら投入されても、この膠着状態を決定的に打開することはできなかった。いまやこう言える。「米国とNATOが直接軍事介入しない限り、戦線の展開は難しい」と。なぜならこの戦争は、もはや、砲撃戦と塹壕戦、市街戦によって行われる残酷な消耗戦に発展してしまったからである。
アメリカの将軍は、西側諸国がウクライナに600種類の武器システムを供給していると自慢している。600種類という多彩性が実は大問題だ。例えば、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカから送られた105ミリ砲は、すべて異なる砲弾を使用している。
また、ウクライナが大損害を受けると生存者を新しい部隊に再編成する。そのたびに、これまで使ったことのない武器や装備を使いこなすために再訓練を受けなければならない。
米国は少なくとも6種類の対空ミサイルを納入している。Stinger、NASAMS、Hawk、Rim-7、Avenger、そしてPatriotミサイル・バッテリーである。

(訳注: Forbes によると、「パトリオット」は、Phased Array Tracking Radar for Intercept on Target の略。Raytheon Missiles & Defenseによって製造されている。各バッテリーには、レーダー、管制ステーション、発電機、5 ~ 8 基の発射装置、支援車両/機器が含まれており、運用には約 90 名の人員が必要である。戦域規模の地対空ミサイル防衛システムと考えられており、移動可能ではあるが、「設置面積の関係で即移動可能というわけではない)

しかしペンタゴンのリーク文書によると、ウクライナが使っているのは、依然としてロシア製のS-300とBuk対空システムである。これがウクライナの主要な防空防御のほぼ90%を占めている。
NATO諸国は、ロシア製ミサイルシステムに使用可能なすべてのミサイルと武器の備蓄を探しだした。 
しかし、ウクライナはそれらの物資をほぼ使い果たし、新たな反撃の準備に入ったところで、ロシアの空爆に対して攻撃部隊が防御対応を取れないことが判明した。それは防空能力力ゼロの脆弱な軍隊になった。

有利な停戦のための軍事作戦

少なくとも昨年年6月以降、バイデン大統領をはじめとする米政府高官は、戦争を外交的解決で終わらせる必要があることを認めた。そしてウクライナを「交渉の席で可能な限り強い立場に置く」ために武装強化していると主張してきた。
彼らは、次々に新しい兵器システムを送ってきた。そしてそのたびに、ウクライナの反撃力は強化され、戦略目標に貢献し、ウクライナの立場をより強いものにしてきたと主張した。
しかし、ペンタゴンのリーク文書や米国とウクライナの当局者の最近の発言から、以下のことが明らかになった。
 ウクライナが計画している「春季攻勢」(すでに中止になっており、夏に延期されている)は、昨年秋の一斉攻撃ほどの成果は期待できないという。たしかに前回は領土の一部を回復したが、これから行われる攻撃には奇襲の要素がなく、ロシアの強力な防御に遭遇することになるだろう。

軍事作戦が成果を上げる見込みは薄い

国防総省のリーク文書は、「ウクライナ軍の訓練や弾薬の供給は不十分なままにとどまるだろう。攻勢の進展は妨げられ、犠牲者は増えるだろう」と警告し、「秋の攻勢よりも領土獲得は少ないだろう」と結論付けている。
目立った結果が期待できず、死傷者も増えるであろう新たな攻勢が、今後登場するかも知れない交渉の席で、ウクライナをいくらかなりと強い立場に立たせることができるだろうか。
もし来るべき攻勢で、西側諸国の膨大な軍事援助でさえも、ウクライナに軍事的優位性を与えることが出来なかった時、あるいは犠牲者を戦闘持続可能なレベルまで抑制することができなかった時、ウクライナはより強い立場ではなく、より弱い立場に立たされることになる、 

もはや和平に条件はつけられない

今やバチカン、中国、ブラジルなど、世界各国から和平交渉の仲介の申し出が相次いでいる。
昨年秋のウクライナの軍事的勝利の後、米国のマーク・ミレー(Mark Milley)統合参謀本部議長は公言した。
「強者の立場から交渉する時が来た。交渉の機会があれば、平和が実現できれば、それをつかめ」
それ以来、既に6カ月が経過している。それは二重、三重に悲劇である。
2022年4月に起きた、和平交渉を台無しにするという外交的失敗の上に、無理やり戦争に持ち込んだ末に、その戦争画失敗に終わったことで、彼らの望んだ外交上のチャンスは失われた。
外交交渉のためにさらに強い交渉力を手に入れるという、ミレー将軍が掴みたかった力はもはや実現不可能である。
米国は、ゼレンスキーに外交のチャンスを与える代わりに、ウクライナの反撃計画を支持し続けた。米国はそのことに大きな責任を負っている。 
この戦争がもたらした驚くべき、そして増え続ける人的犠牲の責任は米国が負わなければならない。

今すぐNATO政策の見直しを

The New York Timesの声明に署名した専門家たちは、次のことを回想している、
1997年、米国の50人の上級外交専門家が、NATOの拡大は「歴史的な政策ミス」であるとクリントン大統領に警告した。しかし残念ながらクリントンはその警告を無視することを選択した。
バイデン大統領は、いまもなおこの戦争を長引かせることで、自らの政策の誤りをさらに追い続けようとしている。それは間違いであり、本日、安全保障政策専門家が提起した助言を受けるべきである。
そしてウクライナ紛争の外交的解決に貢献し、米国の持つ力を世界の平和のための力としていくことである。

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MB & ND

今年に入ってから、もう一つの国際ニュースの世界では激動が始まっています。
20年前私たちは、ありもしない大量破壊兵器を口実とした「アメリカ帝国主義」のイラク侵攻に抗議して世界中で立ち上がりました。サッカー競技場のウェーブのように太陽の進行と一緒になって順番に、世界で1千万の人が集会とデモに参加しました。
その時人々は、迫りくる世界の危機に心を痛めるだけではなく、「もう一つの世界は可能だ」(Another World is Possible! )と、その後に必ずやってくるはずの明るい未来への期待に胸を躍らせていました。
その後20年、残念ながら期待された「もう一つの世界」は実現しませんでした。それどころか1%による収奪がさらに進行し、いまやグローバルなディストピアが実現したかのようにさえ見えます。その最たるインフェルノがウクライナ戦争でした。
しかしウクライナ戦争の1年、超富裕層の政治的、軍事的、金融的ツールとしての「アメリカ帝国主義」の内部崩壊が始まりつつあります。そしてその瓦礫の下から新たな世界の萌芽が見え始めています。まさに「もう一つの世界」は可能であるにとどまらず、その足音を響かせ始めているのです。

*それはすでに2年前、中南米で始まりました。キューバなどに押し込められた変革の力は、いまや南北アメリカ大陸での米帝国主義の経済的包囲と反共攻撃・暴力的介入を完全に打ち破りました。
*昨年からのウクライナ戦争がもたらした最大の変化は、アメリカ帝国主義の力の二大源泉の一つ、「経済制裁」が重大なほころびを見せたことです。最強の制裁対象国である中国とロシアが、資源と金融を巡って共同することで、西側諸国の金融封鎖に耐え切りました。最近では経済支配層さえ「ドル支配の黄昏」を認めるようになっています。
*欧米諸国以外の新興国・途上国は、慎重ながら、明らかにアメリカ帝国主義のイデオロギーである「人権と民主主義」から距離を取るようになりました。それは数次にわたる国連総会や人権理事会でのディベートに典型的に示されています。
*新興国・途上国は、アメリカの自分勝手な経済支配、資源収奪、金融脅迫に怯えながら暮らして来ました。その根源にドル支配があります。いまロシアの経験に見習いながら、人民元決済の組み込みによりドル支配から脱却しようという動きが広がっています。それは中国とロシアのブロック、BRICS機構の拡大、すべての非欧米諸国のパートナーシップという3つの流れに集約されつつあります。
*ここ1,2ヶ月の最も目覚しい変化は、中東情勢に現れています。イエメンの和平への動き、サウジとイランの関係正常化。OPEC+によるエネルギーシフト、そしてシリアのアラブ世界への復帰です。アラブの米国離れが可能だとすれば、それは政権が民衆の立場に寄り添うこと以外にありません。それが実現すれば、イスラエルも根本的な政策変更を余儀なくされるでしょう。
*これら米帝国主義からの離脱の流れは、欧州諸国にさえも広がりを見せています。今年の冬のエネルギーをどう確保するかをふくめて、欧州にはもはや切り札はありません。アメリカは本当に欧州のためを考えているわけではありません。それはノルドストリームのパイプライン爆破事件で明らかです。このままアメリカに従い続けるのなら、欧州は中国、ロシア、中東、アフリカなどすべての市場を失うことになるでしょう。
*最後に強調したいのは、米国自体でもネオコンの王朝が自壊しつつあることです。ネオコンは超富裕層の増加と歩調を合わせて成長してきました。世界中で我が物顔にのさばる彼らは、支配層の中でも孤立を深めつつあります。尻馬に乗って、自らデマゴーグに成り下がった商業メディアも、このままでは活路を失うことになるでしょう。

皆さん、これが2023年年央の世界の断面です。この断面は「もう一つの世界」へと向かう世界の流れが生み出したものです。それは平和の流れ、99%の非富裕層の流れ、すべての国の対等・多国間主義の流れ、法治主義の流れ、持続的発展を目指す流れが合流したものです。

この流れを目の当たりにすることが出来たこと、それを次の世代につなぐことができただけでも、長生きしてよかったと実感します。


Global Research 
May 11, 2023

Time for Arabs to Come Together and Rethink Strategic Alliances

今こそアラブ人は団結し、戦略的関係を再構築しよう


By Michael Jansen


サルマンの平手打ち

アラブ連盟外相会議(the Arab League foreign ministers’ congress)が12年間のシリアの権利停止を解消することを決めたのは、ジェイク・サリバン米国家安全保障顧問がリヤドでサウジのサルマン国王およびムハンマド・ビン・サルマン皇太子と話し合っていた、まさにそのときだった。
シリアの連盟復帰は何カ月も前から取りざたされていた。ジョー・バイデン大統領と米高官は、シリアの復帰に繰り返し拒否の意思を表明していた。
いっぽうサウジ首脳らは、19日にリヤドで開催されるアラブ首脳会議の前にこの目的を達成しようとしていた。
つまり、この動きはサウジアラビアと王族によるバイデンへの平手打ちに他ならない。

サリバンはリヤドで、イエメンの平和構築やスーダンの紛争とともに、シリアの正常化について議論することになっていた。実際のところ、シリアはあまり注目されなかったようだ。
ホワイトハウスが発表した会談の概要では、サウジがスーダンから米国人を避難させたこと、イエメンの停戦に言及されていた。
主要な話題は、湾岸機構加盟国とインドとを大規模なインフラプロジェクトで結ぶ取り組みであった。それは相互の貿易を促進するため、海運とネットワーク整備に向けられていた。 
もちろん、この取り組みは中国の「一帯一路」プロジェクトに挑戦するものである。

イスラエル第一戦略は変わらず

サリバンはサウジアラビアに飛ぶ前に、米国で最も強力なイスラエルのロビー組織である米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)を訪問した。そしてAIPACの研究機関であるワシントン近東政策研究所で、外交政策に関する重要な講演を行った。
この講演でサリヴァンは、バイデンが「この瞬間をとらえ、ルールを定め、戦略を立て、我々の世界の価値と規範を前進させようとしている」と語った。
「我々は力を背景に中東に関与するつもりである。内外の圧力や暴力にもかかわらず、中東地域に対するバイデンの姿勢は揺るぎない」
彼は、レバノン・イスラエルの海上国境画定、「テロリスト」の殺害、疎遠な地域大国間の和解の仲介、イスラエルの地域統合の推進など、米国の功績を列挙した。
もちろん、「米国の価値観」や「国連憲章を遵守する各国の義務」についても語っている。

「米国の価値観」という皮肉

サリバンの「米国の価値観」という言葉は米国にとって痛烈な皮肉だ。
アメリカはこの地域で一度だけ、「価値観」に沿って行動したことがある。それは1919年、キング=クレーン調査団の報告書を棚上げにしたときである。
この報告書は、旧オスマン帝国の支配地域の帰属をめぐる調査の結果、アラブ市民の要求に耳を傾け、彼らに独立を認めるよう世界の列強に求めたものである。
事態は報告書の提起とは逆の方向に動いた。フランスとイギリスがトルコの支配地をシリア、レバノン、ヨルダン、イラク、パレスチナに分割した。そのときアメリカは何もしなかった。
イギリスがパレスチナをシオニストの植民地主義者に引き渡し、1948年と1967年の戦争でシオニストが全面占領したときも、アメリカは何もしなかった。
イスラエルは、エジプトとレバントの間の陸橋を切断し、米国の妨害や反対を受けることなく、アラブ人に対してほぼ絶え間ない戦争を仕掛け続けた。

アメリカが価値観や国連憲章を尊重したのは、ただ一度だけ。それは1956年、当時のアイゼンハワー大統領が、イスラエル、イギリス、フランスの三国によるエジプト攻撃を受けて、イスラエルにエジプトのシナイ半島からの撤退を命じた時のみである。

サリバンは今回のリヤド訪問で、ホワイトハウスの地域調整官ブレット・マクガークとエネルギー顧問アモス・ホクスタインを同行した。(ともに米国とイスラエルの二重国籍者)
彼らはすぐリャドからイスラエルに移動し、ネタニヤフら政府関係者にブリーフィングを行った、 
それはバイデン政権がイスラエルに全面的に肩入れし、サウジアラビアへの説明を軽視していることを示すものだ。
アラブ諸国は一丸となることを迫られている。そしてワシントンの利益を優先するのではなく、自分たちの利益を確保することを目的として、戦略的同盟関係を見直すべきだ。

アメリカの政治家は、議会でもホワイトハウスでも、イスラエル絡みの政策についてはつねに、超党派の支持を得ている。このため、彼らの政策はイスラエルの利益と常に一致する。

イスラエルに屈したバイデン

大統領になる前、バイデンはドナルド・トランプ政権が行った破壊的な政策を覆すことを約束していた。
イランの核開発計画を制限する2015年の協定に再参加することを約束した。 米国とパレスチナ人の関係を回復し、ワシントンのパレスチナ公館とイスラエルが占領する東エルサレムの米国領事館を再開すると言った。

しかし、彼はこれらの公約をすべて反故にし、イスラエルの命令に屈服してしまった。
さらに、中国の影響力拡大に対抗するため東に軸足を移し、戦略的な西アジアを無視してきたのである。
サリバンのリヤド訪問は、バイデンがこの地域に関心をまだ持っていることを示すだけのものである。

アラブ諸国は、米国の世界覇権から多極化への転換を図っている。米国との緩やかな関係を維持しながらも、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ(BRICSグループ)に接近している。
中国が提唱する上海協力機構(SCO)とも連携している。SCOの対話パートナーとなったアラブ諸国には、エジプト、クウェート、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦がある。

ワシントンの最も古い地域の同盟国であるサウジアラビアは、石油輸出国機構(OPEC)の枠組みを拡大した。そして米国のライバルであるロシアを「エネルギー戦線」(OPEC+)の主役に加えた。

シリアのアラブ復帰は米国の焦りを生んでいる

昨年秋、米国の中間議会選挙を前にしたバイデンは、米国のガソリン価格を下げるために供給を増やすようにと要請した。OPEC+は石油輸出の削減でこれに応えた。
これは、バイデンにとって最初の平手打ちとなった。バイデンはすぐにリヤドに金を払うと宣言したが、すぐに考えを改めた。かれはサウジアラビアとの関係復活のために、サウジアラビアに取り入ろうとした。
この努力によってサリバンの訪問が実現した。
さらに、バイデンの強い反対にもかかわらず、今回アラブがシリアのアラブ復帰を歓迎したことが、米国の焦りを生んでいる。こうして来月、ブリンケン米国務長官がリヤドへの道を歩み出すことになった。

アラブの有力な政府は、アラブの利益になる問題では米国と協力する用意がある。なにょりも自国の国益、そしておそらくはアラブの利益を優先させる方向を示している。

今後、中国、ロシア、第三世界の国々は、対米一辺倒ではなく、バランスと選択の自由を提供できるであろう。


溝口史郎「間脳と終脳の発生」のノート
中枢神経系の発生
I.中枢神経系の発生 概説と脊髄の発生
II.菱脳および中脳の発生
III.小 脳 の 発 生
IV.中脳の発生
V.間 脳 と 終 脳 の 発 生
のうち、第5章の抜書きである。
…………………………………………………………………………………………………………


1.  前脳胞の分化

A) 胎生第4週の終り頃

① 前脳胞は中脳胞の頭側に続く単一の袋をなす。そのほとんどは将来の間脳原基たる間脳胞である。

② 眼胞(optic vesicle): この前脳胞の外側壁の腹頭側部から外方(lateral)に向って非常に大きい眼胞が膨出している。

③ 終板(Lamina terminalis): この眼胞の出発部の頭側(前方)に薄い板状の組織があり、これを終板と呼ぶ。

B) 胎生第5週および第6週

① 半球胞(Hemispherium): 前脳胞の頭側端部(前端部)で、眼胞の出発部の頭側で背側にあたる部分の外側壁が、外方(lateral)から背外方(dorsolateral)に向って大きく膨出する。

この膨出部は左右一対の大きな袋=半球胞を形成する。

② 室間孔(Foramen interventriculare): それぞれの半球胞は前嚢胞に向けて、相対的に広い水路軸を出し、これは”前脳胞の頭側端部”につながる。これを室間孔と呼ぶ。

③ 私感「十字路」:両室間孔と”前嚢胞の頭側端部”は「十字路」を形成する。この交差点には名前はついていないが、解剖学的には非常に重要なランドマークである。

C)十字路を中心に見た前脳(前脳と終脳の境界)

* 前脳のうち十字路より前方、終板までの区域を終脳正中部と呼ぶ。その内腔は終脳室無対部という。

* 十字路の尾側は、これまでの前脳胞の大部分を占めるが、これ以後は間脳胞と呼ぶ。

* 脳胞内の空隙はこれまで総じて前脳室と呼ばれたが、終脳室+間脳室となる。これらは総括して第三脳室と呼ばれる。(すなわち旧前脳室=新第三脳室である)

* 私感1:ここで初めて終脳の解剖学的根拠を知ることが出来た。ただしランドマークとしてわかったと言うだけで、なぜあえて終脳と名付けたのか、その意義は不明である。字句通りに受け止めるなら、終脳(正中部)は成熟後にも間脳の前方にそのまま残存することになる。

* 私感2:室間孔が間脳と終脳を前後に分かつ境界だとすれば、半球胞はその線上に出現するが終脳由来とされる。眼胞はその後方腹側に起始するので、間脳由来と考えられる。(英語版Wikiにあった「5脳期脳幹発生図」の“出ベソ”は眼胞を示唆しているのかも知れない)

D)半球胞と外套

* 半球胞はその後急速に増大し、間脳・中脳・小脳まで被い隠す。このような外形から、半球胞(とくに外側部)は外套と名付けられた。


2.間脳

A)視床下溝

間脳の外側壁には前後方向に走る浅い溝が認められる。これは、背側の視床と腹側の視床下部を隔てる溝として、視床下溝(Sulcus hypothalamicus)と呼ばれる。

B) 視床

間脳外側壁の背側半部の肥厚として発生する。胎生第3月以降、総ての方向に向って増大して、強大な灰白質となる。これにより第三脳室は狭小化する。

多数の幼若神経細胞は、外套層および縁帯の各所に集合して、前核・内側核・中心核・腹側核・視床枕核などの視床核を形成する。

各種の上行繊維を受け入れて、これを大脳皮質や大脳核の諸部に伝達し、逆に大脳皮質や大脳核から来る多数の神経繊維を受け入れる。

C) 視床上部

松果体(Corpus pineale s. Epiphysis)と手綱(Habenula)および手綱三角(Trigonum habenulae)が識別される。いずれもヒトにおいては退化的である。

D) 視床下部

発生の早期においては、視床下部は背側の視床よりもむしろ大きい

視床に接する部分において、二次的分化が起こり、Hypothalamusと区別して、Subthalamusと呼ばれる。大脳核の1つに数えられている淡蒼球も、発生学的にはSubthalamus由来と考えられる。

3.終脳

A)終脳の基本構造

上述のように、終脳は前脳胞の頭側端部(前端部)をなす終脳正中部とその左右に膨出した1対の半球胞とからなる。

半球胞と終脳胞には、おのおの内腔があり、半球胞の内腔は後に側脳室となる。一方終脳胞正中部には終脳室無対部が形成される。

(このあたり言葉が1対1の対応をなしていないので要注意。煩雑な割には、臨床的意義は低いので、忘れた方がいい)

 重要! 終脳正中部はあまり拡大しない 

その結果、半球胞や間脳胞に比べて相対的に狭小となる。

B) 蓋板

正中部の背側壁を蓋板がおおう。蓋板は間脳の蓋板に直接続き、第三脳室脈絡組織の一部となる。

C) 終板と交連板

終脳正中部の前壁は神経管の頭側端を閉ざすことから、終板と呼ばれる。

終板は左右の半球胞の唯一の交連部である。交連繊維はその背側部を通るため、終板の一部が肥厚して、交連板となる。

4.終脳の大脳への進展様式

(原文では終脳の章の第二節だが、かなり膨大になるため独立した章を起こす)

A)  線条体 Corpus striatum

胎生第2月の中頃:半球胞の腹側壁において、盛んな細胞分裂が始まる。この膨らみは半球胞の内腔に向け突出する。これを大脳核丘という。

この場所を詳しく言うと、「室間孔の下外方で間脳、特に視床下部の前方に直接続く部分」となる。要するに、ほとんど間脳との境界線上である。大脳核丘は急速に大きくなり、半球胞の腹側ないし腹外側のほぼすべてを占める。

(著者は線条体と呼ばず、ドイツ医学の伝統に倣って「大脳核丘」と呼ぶ。悩んだが、今後英語版文献との付け合せをする可能性も踏まえ、線条体に統一する。ただし線条体はトリ脳の解剖もふくめ歴史的多義性を持つことを覚悟しておく)

B) 外套(Pallium)

大脳核丘以外の場所では、半球胞の壁は、広く引き伸ばされる。しかし胎生期間の中頃に至るまで肥厚・増殖はしない。

その結果、側脳室を前・外・後および背方から囲むように広がる。

(というより半球胞の内腔が拡張させられ、側脳室となっていく)

その包み込むような進展スタイルから、「外套」と呼ばれる。

こうして半球胞の壁は、側脳室を挟んで内側の大脳核丘と外側の外套に分かれる。大脳核丘からは大脳(諸)核が、外套からは大脳皮質が形成される。

C) 外套と側脳室の拡大

胎生期間の中頃以降、大脳核丘の増大は緩徐となり、これにかわり側脳室の前側、上側、外側、後側が拡大する。さらにこれに付着する外套が急速に発育する。 

(つまり、脳幹+大脳核を包み込むように側脳室が発育し、さらにその外側全体を外套が取り囲むマトリョーシカが構築される)

D) 大脳及び側脳室各部の構築

主題から外れるので省略。

E) 線条体(広義)の分化と内包の形成

線条体は半球胞の腹側壁をなしている。側脳室内腔の前端から後端にまで達する大きな高まりである。

大脳皮質が発達すると、そこから視床およびそれ以下へ行く神経線維が生じる。これらは線条体の中に進入し、斜めに貫通して、室間孔の後縁で間脳の前端に進入する。

この繊維集団が形成するのが内包(Capsula interna)である。やがて線条体は内包によって分割され、尾状核(Nucleus caudatus)、レンズ核の被殻(Putamenn)と呼ばれるようになる。(以後詳細は略す)

F) 淡蒼球と扁桃核など

なお基底核には淡蒼球も存在するが、これは大脳基底核ではなくSubthalamusの一核が終脳領域に転位したものと考えられている。

扁桃核は嗅覚に関連する神経核で、系統発生的には線条体よりも古いものである。

(所感:基底核を視床周囲の諸核とごたまぜにすることは避けなければならない。第二なことはそれが視床と大脳角、大脳皮質を結ぶ線維性連絡に結びついているか否かの見極めである)

G) 脈絡野

省略

H) 嗅脳

残された二つの大物が、嗅脳と海馬だ。議論百出なんとも納まりの悪い対象だが、著者の辣腕に期待。

嗅脳は終脳のうちで嗅覚に関系した部分であり、爬虫類までの脊椎動物では、これが終脳の総てである。哺乳類では大脳が巨大となるために、目立たない存在となる。

嗅葉(Lobus olfactorius): 胎生第5週に、半球胞前部の腹側・内側面で、線条体の前方部が腹方に向って隆起する(逆に言えば外套の最後方で、線条体と接する部分)。これが原基となり嗅葉が形成される。

嗅葉からは嗅索が伸び、その先端が嗅球を形成する。

梨状葉(Lobus pyriformis): 嗅葉の後半部分に接続して梨状葉と呼ばれる特殊な大脳皮質が形成される。

梨状葉はさらに外側嗅回、疑回、半月回、および海馬回鈎などの各部に分化する。人では退化傾向を示し、発生途中にほとんどが消失する

I)海馬(Hippocampus)

* 胎生第3月の中頃: 半球胞の外套する。内側面が肥厚を始め、側脳室に向って軽度に隆起。これを海馬と呼ぶ。その後海馬隆起は、弧を描いて後方に伸び、側脳室の後端近くまで達する。

* 神経細胞は6層構造を示さない特殊な大脳皮質を形成する。

* ウサギやネズミなどでは発育は非常に良好だが、ヒトでは退化的である。


むすび

最後に著者自身の結語を要約・紹介する。

非常に難解であると言われている中枢神経系の発生過程を、やや詳しく述べた。

中枢神経系の発生学は、今日なお十分に解明されているとは言い難い。中枢神経系の発生学に対する関心が高まり、これが発展することを念願して止まない。

…………………………………………………………………………………………………………

ここには私が求めていたもの、ほかの教科書が曖昧にしてきたものの、ほとんどすべてが網羅されている。

脳の解剖学教科書でありながら、臨床を目指すもの、脳の進化や発生学、神経生理を目指すものに共通の拠り所を提供してくれる。「群盲象を撫でる」というが、これは目で見て書いたことがありありと分かる有無をいわせぬ記述だ。

もう一つ特筆すべきは、言葉・知識が踊っていないことである。さまざまな用語・表現が丁寧に取捨選択されている。さすがにゲノム関連の情報は十分とは言えないが、根っこがしっかりしているから無理なく適応できる。

作成者は神戸学院の名誉理事長で、神戸大学名誉教授の溝口史郎さんという方、2012年に講義のために作成されたカラースライド用のデータベースを公開されたもののようだ。

発行の辞が述べられているが、まさにライフワークと呼ぶにふさわしい。その「持続する志」にふれるだけでも一読の価値があると思う。

Al Mayadeen 
15 May 2023

インドネシア、国営事業として
VISA、マスターに代わる決済システムを開始

Indonesia launches national payment system to replace VISA, MasterCard

https://english.almayadeen.net/news/economics/indonesia-launches-national-payment-system-to-replace-visa-m

リード
インドネシア中央銀行の戦略管理・統制部長、Dicky Kartikoyonoは、国営機関・企業のための国家決済システムを立ち上げると述べた。

本文(要旨)
「国営決済システムへの移行は順調に進んでいます。国有企業内を含め、近い将来に普及すると期待しています。欧米で金融不安が高まる中、東南アジア諸国は企業や一般市民向けにセーフティクッションの確立に向けて動くべきでしょう」とカルティコヨノは語った。
今年3月、ジョコ・ウィドド大統領は「さまざまな地政学的リスク」から取引を保護するためには、金融コングロマリットの代わりに、地元の銀行が開発したクレジットカードを選ぶよう、関係当局に迫った。
クレジットカード協会の幹部は、「ロシアの経験や決済システムなどから学び、独自の決済システムを構築していくつもりだ」と語った。
ロシアは、ウクライナ戦争以来、欧米系金融サービス企業へのアクセスを停止された。その後、国家決済システムを構築しつつある。

多くの国が米ドルに代わるものを求めている

欧米では記録的なインフレが起こり、各国は米ドル(USD)に代わる選択肢をもとめている。
3月には、中国の貿易取引で人民元決済が初めて米ドルを抜いた。それは基軸通貨としての地位が低下している米ドルに新たな打撃を与える結果となった。
ブラジルのルーラ大統領は、国際貿易で米ドルを使用せず、互いに自国通貨を使用するよう呼びかけた。
中国とブラジルは、相互の取引では米ドルを使用しないと申し合わせた。それによって投資コストが削減され、経済関係が発展すると期待されている。

以上

……………………………………………………

Al Mayadeen という在レバノンの独立メディアだ。アルジャジーラの社員のうち左派の連中が飛び出して作ったらしい。アルジャジーラがなんとなくメジャー路線を目指し始めたことが逆に鮮明となった。
歯石除去した直後みたいに、口もと明瞭だ。評論ではなくあくまで通信・メディアの立ち位置を崩さない。
今回は記事の一つを短信欄で紹介しておく。これはスプートニクの配信記事だ。

私には以前から前脳ー間脳ー終脳ー外套ー大脳ー基底核の書き分けが非常に気になっている。この6項目についてはいつも気持ちが引っかかる。教科書的なものから入門的なものまでふくめて、細かい定義が相当ばらばらになっているのではないだろうか。
そこで、こう考えた。
そもそも解剖学はほとんどが欧米からの直輸入で、日本人はそれを勝手に解釈しているに過ぎない。だからこのような細部の曖昧さが残るのだろう。
そこは外国の権威ある教科書に準拠して確認すれば済むのではないか。
そこで用語学的な可否も洗い直して、整理してみてはどうかと考えたのである。

そこでまずは英語版Wikiから当たることにした。その場合日本語版、さらに脳科学辞典との比較もできるので、相違点を見つけていきたい。


英語版Wikipedia の概要

Ⅰ.前脳 prosencephalon

英語版にはprosencephalonの見出し語はなく、Forebrainで掲載されている。内容的には『前脳』の内容と一致している。
記載は19行しかなく、簡潔と言えば簡潔である。
脳幹は神経系の初期発達期(三脳期)においては前脳、中脳、後脳(菱脳)に分かれる。前脳は、脳の最吻側に位置する。
その後5脳期に入ると、前脳はさらに間脳diencephalonと終脳telencephalonに分かれる。終脳は大脳cerebrumに発達する。
大脳は、大脳皮質・白質・大脳基底核からなる。
この記述で明らかに問題となる点が二つある。
一つは、前脳がどのようにして間脳と終脳に分離するのかがまったく説明されていないこと。とくに大脳と大脳基底核の母体となる外套に付いて説明されていないことである。
そしてもう一つは、はるかに重大な問題だが、この説明図である。

3脳図と5脳図
図 3脳期(右側)と5脳期(左側)

右側の5脳図で終脳の下にちょこっと飛び出しているのが間脳diencephalonである。
実はこの絵は私にとってかなりの衝撃であった。国内で展示されているどのイラストにもこのような表示はされていない。寡聞にして私は知らない。
さらに英ナビという辞書サイトでは、diencephalonが次のように説明されている。
“the posterior division of the forebrain; connects the cerebral hemispheres with the mesencephalon”.
思わずめまいがしてくる。(なお日本語Wikiの文章は英語版からの翻訳と思われる。ここでもこの図が引用されている。ただし原文にない注釈があって、“終脳は俗にいう大脳だが、解剖学では大脳とは終脳と間脳を合わせた領域を指す”とある)

参考までに日本語のサイトから引用しておく。
前脳 脳科学辞典
  脳科学辞典より 前脳の発達(終脳(黒田一樹、佐藤真)から引用

ウィキ氏の思いとしては、Prosecephalonではなく“Forebrain”(前の脳)のわかりやすい説明をしたつもりだけなのかもしれない。としても、これはProsecephalonの説明ではなく、この記事は削除すべきであろう。大脳の外套原基論を念頭に置けばこのような発想は出てこないはずだが…


Ⅱ.間脳 Diencephalon 

この項目は正式名称で立ち上げられ、前脳に比べると詳しく説明されている。

それは前脳の一部であり、終脳と中脳の間に位置する。(先程の図を文章でもダメ押ししている)
インターというのはかなり侮蔑感を含んだ言葉で、要は大脳と中脳の中継点、高速道路の降り口みたいな表現である。
その後、次のように語られる。「間脳は英語ではinterbrain と呼ばれる。古い文献では tweenbrain とも表現されていた」
tween というのはbetween の短縮語である。どっちみち通過駅だ
もう一つ、これも奇妙かつ文学的な表現だが、「前脳は徐々に終脳と間脳に分かれる」(divides into)とされる。つまり二段ロケットの一段目として切り離される存在という位置づけだ。

間脳の構造についての説明では、その雑多性が強調される。
*視床 Thalamus
*下垂体を含む視床下部 Hypothalamus
*視床上部(諸核)Epithalamus
*視床腹部 Subthalamus

記事の主要内容はここまで。
間脳の説明についての最大の不満は、「5脳期の説明図」で、終脳の下方にこれ見よがしに描かれたデベソ風の突起。これがなんで間脳でなければならないのかの説明が何一つないことである。

tweenbrain: tween はbetweenの短縮形
Cloake, P が  "The Influence of the Diencephalon ('Tween Brain) on Metabolism"という論文を発表している。(August 1927)
導入部の要約: 中枢神経系は、直接交感神経中枢を通じて身体の代謝に影響を与える可能性がある。さらに内分泌を介して、身体の代謝に影響を与える可能性がある。基礎代謝も、感情的な原因によって増加する可能性がある。
下垂体の内分泌機能については知られているが、その上部の視床下部にも内分泌機能との強い関わりがあり、それらを含む間脳を「橋渡しをする脳」と捉える必要がある。

Ⅲ. 終脳  telencephalon

英語版Wikiにはtelencephalonという見出しはなく、Cerebrumの記事に一括されている。英語表現ではendbrain、さらに直截である。
前半(Structure)は、完成された大脳についての説明に終止するが、見出し語がそうなのだから仕方ない。結局終脳については、雲の合間から見え隠れするその有様をスケッチするくらいしかできない。
中盤(Development)と後半(Other animals)に終脳から大脳への発達・進化が書き込まれている。

Development

終脳の背側はpallium(外套)の原基となり、それは哺乳類と爬虫類の大脳皮質に発達していく。
*終脳の腹側は基底核を生成する。(背側・腹側関係については後に触れたい)
*鳥類や魚類にも背側終脳があるが、層状構造(layered architecture)をとらないため大脳皮質とはみなされない。(これが線条体問題である。後述)

Other animals

ヤツメウナギなど脊索動物では、大脳は比較的単純な構造である。それは嗅脳と呼ばれ、嗅球からの神経刺激を受け取る。
軟骨魚類では大脳は3つの領域に分かれ、複雑な構造を持つ。
腹側領域は基底核を形成し、大脳と視床が線維性連絡をとる。大脳の側方は旧皮質paleopalliumにより形成される。大脳の上部は古皮質archipallium と呼ばれる。
大脳は依然、嗅覚に特化しているが、有羊膜類では大脳は大きくなり、広い範囲の機能を有するようになる。
爬虫類では古皮質archipalliumが発達し、それによって基底核が大脳の中央領域に押し出される。
下等脊椎動物では、灰白質は白質の下に位置するが、一部の爬虫類では表面に広がって原始皮質を形成する。
哺乳類では、大脳皮質が大脳半球のほとんどを覆う。大脳表面の複雑な凸凹も出現する。これらは霊長類において著しい。
旧脳paleopalliumは腹側へ押し出され、嗅覚小葉として痕跡を留める。古皮質archipalliumは背中側の内側で巻き込まれ、海馬を形成する。
鳥類の大脳も、哺乳類と同様に大きくなっている。鳥類の脳の進化は大脳基底核が肥大化したためと考えられてきたが、最近は考え方が異なってきている。
その場合、進化のプロセスが異なっているだけで、大脳化という大方向は同じだとされる。(これについては私見として後述)
終脳についての紹介は以上。おわかりのように進化・比較解剖学の所見が非常に詳しく書き込まれており、貴重な文献となっている。しかし鳥の脳の記述を見てもわかるように、外套の増生と分化など最近の知見はほとんど書き込まれていない。
私の持っている疑問についてはほとんどそのまま持ち越しとなった。

Ⅳ. 外套 pallium

これまでの勉強に際しては、この言葉の説明が一番あやふやだった。中には外套という言葉をまったく用いずに大脳の発達を記述して、平気で済ませているものもある。また同じ轍を踏むのではないかと一抹の不安を抱えながらの進入になった。

本来は終脳論を済ませてから外套に入りたかったのだが、英語版Wikiには終脳という見出しがなくて、大脳の項目に誘導される。仕方ないので大脳を先に済ませたが、本来は終脳についてもう少ししっかりと学習してから、外套に入り、最後に大脳へという順序を踏みたかったところだ。

不安はまさに的中、積乱雲の真ん中に突っ込んだ如くに、乱気流に弄ばされる。内容は混迷を極めており、ほぼ翻訳不能。そもそも書き出しがこうだ。
最近の分子生物学的検討で、皮質構造(allocortexとisocortex)と皮質核(claustroamygdaloid complex)の両方が発達して外套を形成していることが判明した。
その後長い記述が続くが、論旨は混乱し読解不能だ。とにかく読解を断念して雲の外に逃げ出す。

結局、新知見が続出し疾風怒濤の状況から操縦不能となり、「外套論」が崩壊してしまった。このために終脳・前脳・間脳論の改定に手がつけられず、工事中・通行止め状態になっているようだ。日本で終脳→大脳論が混乱しているのも、結局ウィキの学的停滞と混迷が影響しているのかもしれない。それがわかっただけでも勉強した甲斐があったというものだ。

この記事の終末に近く、Evolutionという節が建てられている。
ここを長めに引用する。ただし訳文の正確さについては責任は持てない。
背側パリウムの進化はまだ完全には解明されていない。ある著者は、哺乳類の海馬の全皮質領域と海馬傍の中皮質(移行)領域に大きく寄与しているとする。
また、哺乳類に特徴的な6層構造の大脳新皮質に直接移行するとの説もある。また、背側頭蓋の内側と外側の部分が、大脳皮質と大脳内皮の運命の分かれ目になるとする説もある。(そこにはおそらく、外側パリウムからの寄与もある)
とにかくなんでもありのバトルロワイヤルだ。素人が手を出すようなものではない。


Ⅴ.とりあえず英語版ウィキの読解作業は一旦中止

今、素人にもわかるレベルで外套論をまとめ、終脳→大脳論に無理やり押し込むことなく、外套→大脳論を完成させることが第一だ。
その際、外套→大脳論が出現した以上もはや終脳論はまったく不要であり、終脳という言葉は研究史上の言及以外には用いないことだ。終脳などというものは「幻の関東軍」に過ぎない。
必要な作業は次の3つ。
1.腹側外套と背側外套の位置関係を確定すること。とくに発現のゲノム的位置づけ
2.基底核一般ではなく、とりあえず線条体(トリ及びヒト)の位置づけを確定すること
3.嗅脳・海馬系と基底核の進化論上の位置づけ、その相互関係を明確にすること

一応前向きの挫折だったと自らに言い聞かせつつ、現場を撤退する。






三脳説 つぶやき 2

A)終脳という言葉は不必要

終脳という言葉は、むかし19世紀に脳の解剖を行なった人がつけた名称だと思う。
脳幹が後脳、中脳、前脳と伸びてきて最後に前脳の前方に終板という物があって、それ以上発育して行けなくなっているので、そこを終脳と名付けたということではないのだろうか。
どうもそのあたりについて書いた文献が見当たらないので、当て推量で行かないのだが。
結局そうなると脳の先端(すなわち前脳)を終脳ということになるはずなのだが、いろんな模式図を見ると前脳が終板に突き当たったところから両脇に脇芽みたいなものが出てきて、これを終脳と名付けているようだ。発生論的な視点からいえば、これは“脇脳”であって終板を突き破ってそこから成長していくという意味での終脳ではない。
だから変な勘繰りはしないで、この“脇脳”を大脳といえば済むはずだ。

B) 間脳という言葉も不要だ

間脳という言葉も由来がわからない言葉だ。お化けのようにいずれの時からか、何処からか出現する。
これも根拠がわからないので推測だが、前脳の両脇に終脳が出てきてどんどん大きくなる、それで本来の脳が間に挟まれて住みにくそうになっていく。それで間脳と呼ぶようになったのではないか。
あるいは前脳が3つに割れて団子三兄弟みたいに膨れるから、真ん中の挟まれた団子を間脳と呼ぶようになったのか、とも取れる。
しかしこれを割ってみればわかるように、両脇の終脳は元々の前脳とはまったく違った構造をしている。なぜならそれは前脳の脇から発芽した脇芽が外套という形を取って肥大したものなのであって、元の前脳とはまったく姿かたちの異なるものなのである。
それは幹から発芽した芽である。幹が根ではないのと同じように、芽はやがて枝葉をつけようと幹ではない。
だとすれば結論は明らかで、前脳は視床(諸核)である。外套は外套であり、それはやがて脇芽どころか脳幹全体を覆うようになり、大脳の名にふさわしく成長していく。

C) 終脳は外套、間脳は前脳(視床諸核)と表現すれば良し

終脳も間脳もセピア色の伝統を意味もなく引き摺っているに過ぎず、やめるべき。
ただし外套イコール大脳ではなく、視床周囲の諸核(いわゆる大脳基底核)も含むと考えられる。これについては、もう少し個別の吟味を要する。

D) 大脳は新生脳(Neo Brain)だ

大脳は神経管を原基とし、脊髄・延髄・三脳の構造的特徴とはまったく異なるマトリックスを持つ新たな脳だ。
三脳は、上行下行の神経線維と末梢からの刺激(感覚)入力を受け止める神経節、さらにそれらを統合する神経核から構成される。
大脳は線条体などいくつかの例外を除いて均質な構造から成りそれ自体に特異性を持たない。
それは、線条体の付着部を通じて脳幹諸核と線維性連絡を保つ。そして基本的には脳幹からの刺激を受けて活動する。
脳幹との関係をコンピュータに例えるならば、中央演算装置と周辺記憶装置との関係と考えられる。
もちろん周辺記憶装置と言っても、何もかも中央演算装置の言うままに動くのではなく、むしろ日常ルーチンワークのほとんどをCPUの介在なしに実行しているものと考えられる。

E)「大脳形成と外套起源」論は終脳否定論をもって完結する

英語版Wikiの学習を通じて、2つのことが確認できた。
一つは終脳なんてものはありはしないのだということ。終脳に見えたものは前脳の側方から発達した2対の外套だということだ。近い将来、英語版Wikiの模式図に載せられた間脳の“出べそ”は名高いカリカチュアとして記憶に留められるであろう。
もう一つは、外套の進化論的起源および構造的特徴が脳幹とはまったく違うことだ。外套→大脳は前脳の機能を補うものとして、補助的記憶装置として登場したということだ。
この補助記憶装置の巨大化と多能化の歴史は、並行する二種の動物系(単弓類vs双弓類)においてニュアンスを異にしており、それはホメオボックスに刻印されている。

F) 野村真 「比較発生学的解析による哺乳類大脳外套領域の進化起源の解明」

「ちょっと歯ごたえがありすぎる」と思われた方は、私の解説の方に目を通してほしい、正確ではないが分かりやすさは保証する。
2022年09月13日 外套はいかにして大脳となるのか
2022年09月14日 外套→大脳の発生過程とホメオボックス

哺乳類特有の脳構造は発生学的には「終脳」(前脳)の背側領域(視床)に由来する。この部分が襟付きのコートのように膨大するために外套と呼ばれる。
(前脳)、(視床)は私が勝手につけた注釈。「終脳」も前脳なのだから、「当たらずといえども遠からず」である。

外套領域はすべての脊椎動物に普遍的な構造として存在する。しかし外套の形態的多様性がなぜ生じるのかは、未だ明らかとなっていない。
だから無視されてきた?

最新遺伝子学からの検討

これに対し、切り札とも言うべき新技術が登場した。それが発生過程の遺伝子学的検討である。
それは「ツールキット遺伝子群」と呼ばれ、外套の神経前駆細胞の運命を決定している。
なぜそれがわかったかと言うと、ゲノム編集技術の進歩である。
① この技術でツールキット遺伝子群を破壊し、表現型の変化を検討すると、それぞれのツールキットの意義がわかる。
② この遺伝子群を「分岐学」の方法でふるいにかけると、初期脊椎生物からの分岐が明らかになるのだ。

方法は略すが(読んでもわからないので)、なんとなく凄いというのは分かるでしょう。

同じ有羊膜類の外套に同じ刺激を加えても、単弓類と双弓類とでは違った脳になる。
それが背側脳室隆起(DVR)と呼ばれる構造で、これはトリにはあっても哺乳類の大脳外套にはない独特の脳構造である。

未熟な外套にCRISPR/Cas9によるゲノム操作を掛けた。その結果Pax6 とShhという2つの遺伝子が、二種間の違いを生み出した。詳細は省くが、これによりトリにはDVRが構成され、哺乳類には6層構造が形成された。

G) 磯江泰子「終脳の構築機構」より

最初はEbbesson S.O. (1980) からの引用。
終脳は発生過程において神経管の最も先端の脳のふくらみから生じる脊椎動物に共通した脳構造である。
様々な感覚情報を統合し、記憶・学習、生得的な行動の制御を行なう高次中枢として機能する。
終脳は神経管の背側から発生する「外套」と腹側から発生する「外套下部」に分けられ、両者は構造と機能が大きく異なる。(って、結局外套じゃん。高次中枢って言ったって、それは大脳のことでしょう)
「外套」は海馬や大脳皮質を含む。その構造と機能は、動物種により大きく異なる。
「外套下部」は大脳基底核(線条体など)を含む。動物間で構造が比較的共通する。

このあとメダカの終脳背側の構造解析を行い「複数のクローナル・ユニットが、排他的な解剖学的領域を占有」する傾向を認めた。ただしこの傾向は種を超えて共通するものではなかった。メダカ外套の縞状構造



いま朝の4時半。退院後の初の朝は、流石に目覚めが早い。
眠気覚ましにつけたテレビ、BSの歌番組がすごい曲を流している。
1986年のBBC実況録音、Patti Labelleの熱唱が4曲続き。実はその前の2グループも重量級の黒人女性のShoutだった。スタジオとはいえ4階建ての空間の隅々まで高音が突き刺す。寝起きには凄まじいモーニングコールだ。
Patti Labelleという人は70年代後半から活躍し、80年代後半がピークだったようだ。
最初は黒人三人娘のコーラスのセンターとして売り出した。Lady Marmaladeが最初にして最大のヒット。変な言い方だが、声の大きいのが売りとなったらしい。なるほどと納得させる。
You Tubeでは下の映像が歴史的にはすごいが、音楽的には先程聞いたBBCが一番良い。ここではアメリカと違って白人におもねっていないし、得意技でハッタリをカマすというのでもなく、彼女が一番歌いたかったスタイルで歌いきっている。なにかそう思える。
Patti Labelle

Patti Labelleの演奏が終わって「あぁ疲れた」と思うまもなく、いきなり次の歌手へと場面転換する。それがシャカカーンだ。仏教徒ではなくシカゴ生まれの黒人歌手。こちらも声帯の強さはなかなかのものだが、はるかに都会的でジャジーで洗練されている。
アメリカにはこのくらいの人はゴロゴロいるようだ。

133号の短信欄に掲載した国連人権理事会の採決結果が尻切れ状態になってしまいました。改めて、全文を掲載します。

Geopolitical Economy 
2023-04-06

世界の多数は制裁に反対、支持するのは米国と欧州のみ
国連人権理事会の採決

West vs the rest: World opposes sanctions, only US & Europe support them


By Ben Norton



リード

経済制裁は、経済戦争の手段であり、公式には国際法に違反する一方的強制措置とみなされている。
国連人権理事会で、圧倒的多数が一方的制裁を非難する決議に賛成した。強制措置を支持したのは、米国、英国、EU加盟国、グルジア、ウクライナだけであった。

以下本文

4月3日、国連人権理事会は、「すべての国に対し、一方的な強制的措置の適用、継続、執行、遵守をやめるよう求める」決議案を、賛成33国、反対13国で可決した。

この決議(A/HRC/52/L.18)は、「このような措置は国連憲章と国家間の平和的関係を支配する規範と原則に反する。よって、その排除を強く求める」と述べている。

この決議は、非同盟運動を代表してアゼルバイジャンが提出したものである。

投票の内訳を見ると、欧米諸国とそれ以外の国とがいかに鋭い対立を示しているかがよくわかる:

UN-Human-Rights-Council-sanctions-2023
図 The UN Human Rights Council vote condemning sanctions on 3 April 2023 (左クリックで拡大)

賛成(=制裁反対) 33カ国
反対(=制裁賛成) 13カ国
棄権         1カ国

決議文には次のように記されている。
「特定の国によって、圧力の手段として、このような政治的・経済的圧力を含む措置が一方的に適用され続けられることを強く非難する。特に後発開発途上国に対してである、 
特定の国による政治的・経済的圧力は、これらの国々の政策を歪め、自らの自由意志で政治、経済、社会システムを決定する権利を行使するのを阻止する結果となる」
これは、米国政府がキューバとベネズエラを封鎖し、社会主義政権を転覆させようとしていることを指しており、それが明らかに国際法に違反していることを意味している。

決議は以下のように付け加える。
「制裁は対象となる人々の人権に対する深刻な侵害を引き起こし、女性や青年、さらに子どもや高齢者、障害者に特に影響がある」
同文書は、過去の国連総会や人権理事会の決議、人権高等弁務官事務所による報告書などから多数を引用し、一方的な制裁の影響を非難した。

欧米による一方的な制裁の発動は、ここ数十年で急増している。
2021年末の米国財務省のレビューによると、同年に米国の制裁を受けた当事者は9,421件で、2000年に比べ933%という驚異的な増加を見せている。世界人口の3分の1以上が、制裁対象国に住んでいる。

米People's World
(英Morning Starより転載)
April 26, 2023

岐路に立つスーダン: 代理戦争か革命か?

Sudan at a crossroads: Proxy war or revolution?



BY AMEENA AL-RASHID


急速支援部隊(以下RSF)はジャンジャウィードそのもの

4月8日に始まったスーダン軍とRSFとの紛争の本質は、スーダン国民に対する代理戦争である。彼らは大国の支援により富や武器を手に入れている。

それはモハメド・ハムダン・ダグロ将軍(通称:ヘメティ)の率いる急速支援部隊(以下RSF)とスーダン軍内の「国家イスラム戦線」治安委員会の戦争である。後者を率いるのはアブデルファタフ・アブデルラフマン・アル・バーハンである。両者とも、海外の国から支援を受けている。

ヘメティは、スーダン国民向けの演説で、最も洗練された武器を持っていることを公然と自慢した。彼はいう。「安い武器を買っていたわけではない。RSFは最高のものを最高の人から買っているのだ。

RSFは、2004年にダルフールで大量虐殺を行ったとして国連安保理決議1556号で起訴された民兵組織「ジャンジャウィード」“Janjaweed”と同じ組織だ。

それは2019年6月3日にハルツームの軍本部で行われた座り込みで、もう一つの残虐行為を行った民兵と同じである。
しかし、国際社会の記憶は完全に白紙化しているようだ。

RSFは、"ハルツーム・プロセス "に際して、国際社会に復帰する最初の足がかりを得た。それはやがてEUの公認に至る。
取説と同じで読んでもさっぱりわからないが、ジャンジャウィードを使うということは、トランプよりもっとひどいことをする計画ということだろう。

訳注 EU-アフリカの角移住ルート構想(EU-Horn of Africa Migration Route Initiative):アフリカ連合委員会 (AUC) と欧州委員会 (EC)との間で2014年に結ばれた。「不法移民、密入国、人身売買の防止と闘い」を目的とするが、取説と同じで読んでもさっぱりわからない。しかしジャンジャウィードを使うということは、トランプよりもっとひどいことをするつもりということは容易に察しがつく。

それは有り体に言えば、リビアから地中海を渡り、ヨーロッパに向かう移民を阻止する計画だった。それはヘメティを軍事的に支援し、権力、資金を与えるものだった。
RSFはその資金を使い、犯罪や権利侵害を繰り返した。そして国際社会は皆そのことについて沈黙を守った。

ヘメティの最近の同盟国はロシアだ。彼はモスクワに招待され、プーチン大統領と面会した。その直後、ロシアの準軍事組織であるワグナー・グループが派遣された。そして彼を支援し、民兵を訓練した。

2019年に退陣したスーダンの前大統領オマル・アル・バシルも、RSFの温存に手を貸した。彼は在任中にサウジを支援してイエメン戦争に介入した。そしてRSF部隊をイエメンに送り込んだ。
RSFはそこでも犯罪行為を繰り返し、リビアやエリトリアやエチオピアからの難民に暴力を振るった。
そして今、彼らはスーダンで自国民への略奪とテロを始めているのだ。


スーダンはRSFの包囲下にあり、いたるところで人が殺されている

一方のボス、ムスリム同胞団=軍事政権のトップであり、治安委員会のトップであるブルハンは、エジプト、UAE、サウジアラビアを足繁く訪れている。
彼は命令を受けている。それはスーダンから資源を盗み、略奪し、スーダンから金や農産物を密輸することだ。

2019年、ブルハン率いる軍事政権が国家権力を掌握した。彼はRSFを使い、民主化デモを暴力的に取り締まった、同時に彼の私兵集団として「イスラム武装集団」を組織した。

2021年10月、アル・バシルに対する民衆蜂起後の「文民移行」の建前はすべて捨て去られた。
ブルハンは暫定政府を解散させ、文民指導者を逮捕し、ヘメティを右腕として自らの政権を確立した。

それは当時のことであり、今、両者は戦争状態にある。

この度の紛争のきっかけはいろいろあるが、なかでも北部の人民抵抗委員会がスーダンとエジプトの間の貿易を停止させたことが注目に値する。
人民抵抗委員会の闘いは、多くの資源のエジプトによる略奪を阻止した。それはエジプトに深刻な影響を与え、怒らせた。
そしてRSFや軍事政権と同盟国との関係を決定的に破壊した。


"この戦争はスーダンを深く傷つけ、その影響が近隣諸国に波及している"

ヘメティは今、アル・ファシャカ地方でエチオピアに立ち向かっている。そこはエチオピアと係争中の土地で、2020年11月にライバルのブルハンが「解放」した地域でもある。

戦火を交えた2つの軍閥は、誰がスーダンの権力を独占し、誰がスーダンの資源を掌握するかをめぐって競い合っている。
この全面的な争いは、アル・バシル政権下で軍が30年かけて築き上げた経済・金融力をどちらが引き継ぐかの戦いである。

軍部は依然として大企業や銀行、を支配下においており、スーダンの銀行や機関から略奪した資金を確保している。両派はそれらの資源を独占しようと狙っている。

スーダンでは2019年12月に革命が発生した。文民政府への復帰を願う運動は軍閥の
脅威となり、その立場を著しく弱めた。
だから彼らは今、あらゆる手段を使って革命を頓挫させるという使命を共有しているのだ。それは、たとえ自分たちの間で権力争いをしていても、革命を許さず暴力支配を維持するという使命だ。


"スーダンは実は大国で豊かだ。金、鉱物、巨大な農業の可能性など"

スーダンの富は国を建設し、スーダンの人々のために繁栄と発展を生み出すことができるのに、この富はこれまでも、そして今も略奪され続けている。
スーダンの抵抗委員会は、ロシアのワグナーグループが金を密輸している映像、エジプトのトラックが金を出荷している映像も持っています。

ここ数日発表された停戦は、双方にとって時間稼ぎに過ぎない。両陣営とも、国際社会に約束した停戦を守るつもりはない。

とりわけRSFは、スーダン軍の一部と考えられているにもかかわらず、組織的な軍隊ではない。メンバーたちは、戦闘初日から、自分の家で略奪や襲撃を繰り返している。たとえ停戦が一部で機能したとしても、それがどこでも尊重されるわけではない。
両者は互いに譲らず、最後まで戦い続ける状況になりつつある。

国民は深刻な被害を受け始めている。何千人もの人々が家を出て、安全な場所を探している。
この紛争は、追放された政権のイスラム戦線からはぐれた制御不能な民兵、兵隊、軍人による暴動であり、3、4回と続くジェノサイドである。

私たちは今、ハルツームやマラウィなど、民間人の近くの軍事基地が殺人鬼の出撃基地となっている状況を目の当たりにしている。まず一刻も早く、軍隊を都市から排除しなければならない。


"スーダンの人々は戦争の終結を求めている。これは戦争の犬どもの争いだ。"

国民は、戦争に反対する同盟の結成、文民政府の回復、軍隊を兵舎に戻すこと、民兵を解散させることを求めている。
しかし、それは始まりに過ぎない。スーダン革命は挫折したままとなっている。それは継続されなければならない。それは漸進的な発展であり、国民が国の資産と富を管理できるようにする道である。

スーダンの活動家たちは、経済の平和的な発展、国民に奉仕する分厚い公共部門の構築を呼びかけている。
しかし、その道には、多国籍企業、金融資本、国の富に対して利害関係のある人たちがいたるところにたちはだかっている。


「国際社会」はどうすればいいのか

国連は良い役割を担っている。しかし包括的な平和に向けて人々を結集するほどの力はない。それは限定的なものに過ぎず、全般的な効果は十分なものとは言えない。

国連が仲介し、2022年12月に文民政治勢力と軍との間で枠組み合意が締結された。しかしそれは、ヘメティと小さな「解放」軍の利益を追求するものでしかなかった。多くの人々や勢力は排除され、革命が求めた重要な要求は、そこには含まれていなかった。これが、軍事政権がいかなる政府も樹立できなかった理由である。

国連は、すべての人を巻き込むために、スーダンの政治地図を把握する必要がある。その中から、スーダン自身にとって必要な議題を優先しとりあげる。そして革命に貢献したすべての人々による、包括的な合意を築かなければならない。

スーダン共産党はその一翼を形成する。そして党を支持し、急進的な変化を求める無党派の勢力と共同する。この革命は、スーダンの活動家、共産党員、進歩的なグループによって作り上げられた、確固たるスローガンと要求の上に成り立っている。
国際的な連帯勢力は、自国政府にスーダン国民の要求を支持するよう働きかけるべきである。それは国民の権利を守り、国家と国民を守る軍隊を作ることができる、包括的な文民統治を実現することである。

外国勢力は、軍や国内の軍事勢力、民兵部隊への支援をやめるべきである。

この戦争はいずれ終わる。その際には、2つの破壊勢力の運命も尽きるだろう。

スーダンの人々は、もはや他の独裁者や他の国家に寄り添うことはないだろう。自分たちの利益のために国を歪め、人々の権利を踏みにじる人々、同盟関係にはもううんざりしているのだ。

(訳:SS)


アメーナ・アル・ラシード(Ameena al-Rashid)は、スーダン共産党の活動家、政治評論家。Liberation Journalや英国のMorning Starに寄稿している。

もご参照ください

環球時報
May 01, 2023

ファーストリパブリックの買収で強まる景気後退懸念:
専門家は世界的なドミノ倒しを警告
   
First Republic takeover adds to concerns over a possible US recession;
expert warns of a global domino effect



要約

米国の規制当局は、経営難に陥っている金融機関「救済」のために、ファースト・リパブリック銀行を差し押さえ、その事業の大部分をJPモルガンに売却する契約を月曜日に締結した。 
しかし、この「もぐら叩き」のようなやり方では、苦境にある米国の銀行システムを修復することはできない。専門家たちは、この後さらに多くの国に影響が及ぶ可能性があると、警告している。
米国政府が米国の金融機関を管理するのは今年で3回目だ。それは、規制当局による救済措置にもかかわらず、最近の銀行危機が治癒していないことを示す。専門家は、さらに多くの銀行が追随する可能性があると警告している。
世界最大の経済大国を引きずり込む潜在的な景気後退に対する不安はさらに高まっている。

この間の動き

月曜日のロイターの報道によると、銀行大手のJPモルガン・チェースは、ファースト・リパブリック銀行が保有する920億ドルの預金を含む1730億ドルの融資と約300億ドルの証券を引き受けることになる。
ファースト・リパブリックの84の支店はブランド名を変更し、月曜日には通常通り開店する予定だ。

月曜日未明、カリフォルニア州金融保護局(The California Department of Financial Protection and Innovation)は、ファースト・リパブリックを手中に収め、連邦預金保険公社(FDIC)がその管財人として活動すると発表した。

ファースト・リパブリック銀行とは

サンフランシスコに本拠を置くファースト・リパブリックは、米国史上2番目に大きな破綻した銀行である。ロイターの計算によると、同銀行の株価は今年に入って97%暴落した。

北京の、ある銀行の投資マネージャーは、月曜日に環球時報にこう語った。
「前回の救済措置で危機が緩和されたと考えられていた。今回の買収は、問題が最初に予想されていたよりも深刻であることを示している」

シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻が米国の銀行業界に衝撃を与えた後、米国の大手銀行は3月にすでに300億ドルをファースト・リパブリック銀行に注入していた。

匿名希望の投資マネージャーはこう述べる。「一時的な "モグラ叩き "の手法が有効でないことが判明した今、流動性不足に陥って破綻する銀行は今後も増えるだろう」

ロイター通信によれば、月曜朝、財務省の広報担当者はこう述べた。「財務省は、ファースト・リパブリック銀行が預金保険基金への負担を最小限に抑えて解決したことを心強く思っており、米国の銀行システムは健全で弾力的であると考えている」

3月の演説ーシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の問題を取り上げた際の演説で、ジョー・バイデン米大統領は次のように述べている。
「このような銀行破綻が再び起こる可能性を減らし、アメリカの雇用と中小企業を守らなければならない。そのため、議会と銀行規制当局に、規則の強化を求めるつもりだ」

金融危機への対応手段を失いつつあるバイデン政権

月曜の環球時報でこのバイデン発言へのコメントを求められた北京・中国社会科学院の高リンユン氏は、こう答えている。
「最悪なのは、バイデン政権がジレンマに決着をつける方法を失ってしまう危険があることだ。FRBの利上げサイクルは続いている。このことで金利がゼロに近かった頃に銀行が行った融資の価値が目減りしてくる。それはまさに銀行にとってのリスクであり、今後より厳しいものになることは避けられない」

高氏は、銀行破綻は米国の景気後退懸念にも拍車をかけるとし、世界的なドミノ効果を警告している。

商務省のデータを引用して27日にウォール・ストリート・ジャーナルが報道した内容は、米国の経済成長が今年第1四半期に低迷し、1月から3月までのGDPはインフレ・季節調整後の年換算1.1%にとどまった。これは昨年第4四半期の2.6%の成長から大きく減速している。


Al Mayadeen
16 Apr 2023

ゼレンスキーは米国民から4億円を横領していた
(ハーシュ・レポートの紹介)

Seymour Hersh: Zelensky embezzled $400 million from US taxpayer money

https://english.almayadeen.net/news/politics/seymour-hersh:-zelensky-embezzled-400-million-from-us-taxpay

はじめに

ピューリッツァー賞受賞者のシーモア・ハーシュが日曜日に最新のレポートを発表した。
「ウクライナのゼレンスキー大統領が、燃料購入用の数億ドルを横領した」というものだ。

seymour-hersh

これによると、ウクライナ政府は米国の税金を使ってロシアのディーゼル燃料を購入し、軍備を増強していた、 
さらに、ウクライナ政府幹部は、国際的な民間武器商人と契約を結ぶために血眼で、(米国からの援助武器を横流しするための)トンネル会社の設立を競い合っているとも言及した。

「中央情報局(CIA)のアナリストによる推定では、横領された資金は、昨年度少なくとも4億ドルであった」
別の専門家は、キエフ政府の腐敗度はかつてのアフガン政府に近づいていると指摘した。それによれば、「多数のウクライナ政府機関が、武器商人に銃や弾薬を輸出するためのフロントビジネスを競って設立している。代行業者にはポーランド、チェコ共和国、イスラエルが含まれている」
ハーシュのレポートはこう付け加えている。『ウクライナからしっかりした監査報告が出ることはないだろうが…』

ウクライナはパキスタン経由で燃料を購入する事になっていたが、実際にはロシアから燃料を購入していた。それを指示したのはなんとゼレンスキー大統領、ロシアがウクライナの領土を侵略したと非難している人物である。
ハーシュはさらに、彼らが米国からディーゼル油のために割り当てられた巨額の資金を横領していた事実を明らかにした。

飽くなき利益追求

ロシアのディーゼルの価格は米国などと比較すると安い。その差額をウクライナ人が懐に入れ、数億ドルを稼いでいる。

最初は、ロシアで生産された石油製品がブルガリアとラトビアを経由してウクライナに運ばれたとの報道だった。
ハーシュの情報筋は、その後キエフでゼレンスキーとCIA長官ウィリアム・バーンズの間で行われた会談の意義を強調した。 
会談は、ウクライナの指導者に「印象的なメッセージ」を伝えた。

"キエフ政府の将官と高官は、ゼレンスキーが多くの利益を取っていることを知りその強欲ぶりに怒っていた。そこでバーンズはウクライナの大統領に言った 。
「私はCIAやアメリカ政府の要人に知られた腐敗分子35人をリストアップしたと告げ、そのリストをゼレンスキーに渡した」

バーンズはまた、キエフ政府をめぐる数々の汚職スキャンダルについて、次のように強調した。 
戒厳令が敷かれ、18歳から60歳までのウクライナ人男性が、政府の許可なくウクライナから出国することを禁止されている。にもかかわらず、元検察官のトップがスペインで休暇をとっていたことが明らかになった。
ゼレンスキーはこのあと1月24日に、さまざまな政府省庁やウクライナの法執行機関内で『人事上の決定』を発表した。
そのなかでゼレンスキーは、国家公務員が公務と無関係な目的で海外渡航することを禁止すると発表した。

背景の物陰に隠されたもの

今年に入って、ハーシュは重要情報を連発している。
2月、ロシア・ドイツ間の天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」の破壊工作の背後に米国がいたことを明らかにした。 
それ以来、ウクライナと米国の関係については、有名なジャーナリストから多くのレポートが発表されるようになった。

ハーシュはまた、3月中旬に、米国がウクライナ戦争に踏み込む可能性を検討していると述べた。その条件は、キエフがロシア戦争で防衛線に亀裂が入り、敗北の兆候を見せ始めたら踏み込むというのだ。

重要なのは、ハーシュの情報源がすべて米国政府。軍。情報機関などから流出した内部情報であることだ。今回の場合は明らかにCIA上層部にディープスロートがいると想像できる。
このことは、モスクワに対するウクライナの代理戦争が「うまくいっていない」ことに、政府上層部の中に不満を抱いていることの反映であると見るべきであろう。(訳:SS)

(ということは、今後とも政権内の反ネオコン派がドシドシ、秘密情報の蔵出しをやるだろうということだ)

Al Mayadeen is a pan-Arabist satellite news television channel launched on 11 June 2012 in Beirut, Lebanon. Many of Al Mayadeen's senior staff were former correspondents and editors of Al Jazeera.



The Progressive Magazine
APRIL 26, 2023

"Pentagon Leaks" Punch a Hole in the U.S. Propaganda War

「ペンタゴン漏洩事件」、プロパガンダ戦争に強力パンチ


BY MEDEA BENJAMIN, NICOLAS J S DAVIES 


はじめに

重大事件が発生した。ウクライナ戦争に関するペンタゴンの秘密文書が流出したのだ。
このことに対する米商業メディアの最初の反応は、水面に向かって泥つぶてを投げ込むようなものであった。 彼らは「何も見るべきものはない」と断言し、21歳の空軍州兵が友人の気を引くために秘密文書を公開したと語り、非政治的な犯罪記事として葬り去ろうとした。

ジョー・バイデン大統領は、このリークを「重大な結果をもたらすものではない」と断じた。
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Medea Benjamin at 2007 State of the Union protest

文書の意義: 国防総省がウクライナの戦況不利を認めたこと

あらためて事実に注目しよう、これらの文書が明らかにしたのは、戦争がウクライナにとって、政治指導者たちが認めている以上に悪い方向に進んでいるということだ。

…どちらの側も今年中に膠着状態を打破することはできず、文書の1つにあるように、「2023年以降も戦争が長引く」可能性が高い…
と、文書の一つは明かしている。

このようなペンタゴンによる「見通し」が露見したのだから、政府は当然、国民に改めて事情説明する必要がある。

流血を長引かせることで、本当のところ、一体何を実現しようとしているのか? 
そして、2022年4月に米国が阻止した和平交渉の再開をなぜ未だに拒み続けているのか?

私たちは、この和平交渉を妨害したことは、大変な間違いだったと考えている。また英国首相ボリス・ジョンソンの好戦的姿勢に屈服したことも同様である。 
現在の米国の政策は、さらに何万人ものウクライナ人の命と、広大な国土を犠牲にして、この過ちをさらに悪化させている。

戦争当事者は一般に、自分たちに責任がある民間人の犠牲者の報告を過小に見積もり、専門職としての軍は自軍の死傷者数を正確に報告することを基本的な責務としている。

しかし、ウクライナ戦争をめぐっては激しいプロパガンダ合戦が行われている。両国が戦闘犠牲者の数を一種のゲームとして扱っている、 
その結果、敵の死傷者は組織的に誇張され、自国の死傷者は過小評価される。

公開されている米国の推定では、ウクライナ人よりも多くのロシア人が殺されているという考えが支持されている。 
それは国民の間に、「ウクライナは、私たちが武器を送り続ければ、きっと戦争に勝つことができる」という考えを押し付けている。すなわち意図的に世論を歪めている。

リークされた文書は、米軍の内部情報による両軍の死傷者数の評価である。しかしさまざまな文書や、ネット上に出回っている情報では、矛盾した数字が示されていることもある。そのことから、米軍筋の角度の高い情報が明らかになったにもかかわらず、プロパガンダ戦争は相変わらず続いている。  

この点について漏洩文書の記載を紹介する。
米軍情報部は、「部隊の消耗率に関するウクライナ側情報には信頼が置けない」と述べている。
そしてその理由として、「ウクライナ軍側の情報共有には偏りがある。情報源によって死傷者数が変わる」と指摘している。

ようするに、ウクライナ側の方が死者数が多いというペンタゴン文書の記述は、連邦政府当局の否定にもかかわらず、正しいのであろう。

現在の戦闘の主流は、砲弾が飛び交う血みどろの消耗戦である。
そして、ロシアがウクライナの数倍の砲弾を発射していることは、広く報道され知られている。

いくつかの資料では、双方の死者数は10万人に迫り、死傷者を合わせると35万人に上ると推定されている。

また、別の漏洩文書は明らかにしている。
ウクライナはNATO諸国から送られた在庫を使い切った。すでに防空の89%を占めるS-300とBUKシステム用のミサイルが不足しつつある。
そして長距離ミサイル攻撃とドローン攻撃を主な戦術とするロシア軍のに対して耐えきれなくなっている。5月か6月にロシア軍が全力攻撃を開始すると、危機状態に陥るかも知れない。

幻の春季大攻勢

最近の欧米の武器輸送は、次のような予測によって国民に正当化されている。
すなわち「ウクライナはロシアから領土を奪還するために新たな反攻作戦を開始する。それがまもなく可能となる」
この 「春季攻勢」のために、新たに納入された西側の戦車が動員される予定だ。戦車戦の訓練のために、12個旅団、つまり最大6万人の軍隊が編成された。
ウクライナに3個旅団、ポーランド、ルーマニア、スロベニアにさらに9個旅団が作られる予定だ。

しかし、2月末の漏洩文書によると、海外で装備・訓練を受けている9旅団の装備は平均して半分以下だった。訓練も平均して15%程度にとどまっていたことが明らかになった。 
一方、ウクライナはバクムートに援軍を送るか、町から完全に撤退するかという厳しい選択を迫られた。そして迫り来るバクムート陥落を防ぐために「春の攻勢」部隊の一部を戦列から外す道を選択した。

米国とNATOは2015年にドンバスで戦うウクライナ軍の訓練を開始した。ロシアの侵攻が始まってからは他国で訓練を行っている。NATOはウクライナ軍をNATO軍の基本水準まで引き上げるため、6ヶ月間の訓練コースを提供している。
これを踏まえると、「春の攻勢」のために集められている部隊の多くは、実際には夏(7月か8月)までに訓練を終え前線に配備される可能性は低い。

リークされた文書は、春季攻勢計画の結論として「訓練や弾薬の供給におけるウクライナ側の持続的な不足に悩まされるだろう。それが攻撃の進展を妨げ、犠牲者を増やすだろう。最も可能性の高い結果は、わずかな領土の獲得にとどまる」と予想している。

この文書は、ロシア側の深刻な欠陥も明らかにしている。
バクムートでの激戦は数カ月にわたって続いた。双方で何千人もの兵士が倒れ、街は焼け野原になったが、ロシアは未だに100%支配できていない。

私たちは、バイデン大統領の計画がどのようなものなのか、あるいはそもそも彼がなにか計画を持っているのかさえ、疑わざるを得ない。
このような懐疑心は私たちだけではないことが判明した。
商業メディアは無視を決め込んでいるが、今回の漏洩は実は2度目の話だ。 


今やCIAや軍部まで政府の意図を疑っている

米国の情報筋は、ベテランの調査記者シーモア・ハーシュに次のように語っている。
「私たちも同じ質問をした。結果わかったことは、ホワイトハウスと米国情報機関の間が“完全な断絶”を来たしているということだ」
ハーシュの情報源は、「これは2003年に米国がイラクへの侵略を正当化するために取った手段と同じパターンだ」と指摘する。捏造された、あるいは検証されていない情報を組み合わせて偽情報をでっち上げる手法。

情報源によれば、ブリンケン国務長官とサリバン国家安全保障顧問は、通常の情報分析および手続きを迂回し、ウクライナ戦争を自分たちだけの情報のもとで運営していた。
彼らはゼレンスキー大統領に対するすべての批判を「親プーチン」として中傷した。そして米国の情報機関が政策を理解しようとしても、それを無視した。

米国の情報当局が明確に認識しなら、ホワイトハウスが執拗に無視している事実がある。それは次のことだ。
アフガニスタンやイラクと同じように、ウクライナも腐敗が常態化している。この国のトップは米国がこれまでに送った1000億ドルの援助と武器から金をかすめ取り、大儲けしている。
ハーシュの報告によると、CIAはゼレンスキー大統領を含むウクライナ政府関係者が4億ドルの資金を横領したと評価している その資金はアメリカがウクライナにディーゼル燃料を買わせ、戦費に充てるために供与したものである。それを彼らはロシアから安価で割安な燃料を購入するという手口でせしめた。
ハーシュの独自調査によれば、ウクライナ政府の各省庁は文字通り互いに武器の販売競争をしている。
米国の納税者が国家財政として支負担した国家財政で購入した武器が大量にウクライナに送られる。ウクライナの官僚たちは、それをポーランドやチェコなど世界各地の民間武器商人に転売し、大儲けしている。

ハーシュは、今年1月、こう書いた。
CIAはウクライナの将軍たちから聞いた。ゼレンスキーが将軍たちよりも多くの利益を得ている。そのことで彼らは腹を立てていると。 
そこでCIA長官のウィリアム・バーンズがキエフに赴き、彼と面会した。そして「君はスキムマネーを取りすぎている」と言った。そして、CIAがこの腐敗した計画に関与していると知っている35人の将軍と高官のリストを手渡した。

Seymour Hersh: Zelensky embezzled $400 million from US taxpayer money
https://english.almayadeen.net/news/politics/seymour-hersh:-zelensky-embezzled-400-million-from-us-taxpay
別途翻訳掲載します。

ベトナム、イラク、アフガニスタン…そしてウクライナ

米国が何十年も関わってきたすべての戦争で起こったように、戦争が長引けば長引くほど、腐敗、嘘、歪曲の亡者たちはは解き放たれる。
米政府は和平交渉を妨害し、ノルド・ストリーム・パイプラインを破壊し、ウクライナ政権幹部の汚職を隠蔽し、死傷者数を偽り、約束を破り、NATO拡大の危険性を隠し、予見的警告を隠蔽してきた。これらはすべて、私たちの指導者がいかに真実を歪めてきたかの例である。
いまやウクライナの若者たちを犬死にさせている勝ち目のない戦争を継続させることが、政府の目的と化している。そのために国民の世論の結集をはかろうとして、ありとあらゆる手段を講じている。

これらのリークや調査報道は、最初でも最後でもない。プロパガンダのベールを破って真実の光を解き放つた作業はこれからも続く。
ロシア、ウクライナ、米国のオリガルヒ(独占資本家)が富と権力を得るために、遠く離れた場所で若者の人生を破壊することを許さないために。

フランシスコ法王は、戦争の利益をむさぼる企業や個人を死の商人と呼んだ。彼らと彼らの言いなりになる政治家を追放するために、より多くの人々が活動することが、これを止める唯一の方法だ。






Peoples Dispatch
2023年 4 月 20 日

時代遅れの冷戦思想がヨーロッパをがんじがらめにしている

Obsolete Cold War attitudes are holding Europe back


by Fiona Edwards


リード

去年1年で米国が約500億ドル、EU加盟国が520億ユーロ、英国が23億ポンドをウクライナに注ぎ込んだ。しかし情勢は悪化の一途だ。
「ヨーロッパには独立した外交政策が必要だ」
この声は経済危機が深まるほど支持を集めるようになっている。

以下本文

米国が欧州に熱い戦争を持ち込んでいる

最も極端な表現から始める。
ウクライナ戦争では、数万人の命が奪われた。国連によれば、1800万人近くが人道支援を必要とし、数百万人が避難生活を送っている。

この悲劇は避けられるものだった。

戦争の根本的な原因は、NATOの前線をロシアの国境まで拡大しようとするアメリカの政策である。そこには、ウクライナがNATO軍事同盟に加盟する案も含まれていた。

その事に対し、ロシアは繰り返し、それが自国の安全保障上の利益に対する「レッドライン」を犯すものだと警告したが無視された。米国はNATOの拡張を強行し続けた。

それらの経過を考えれば、欧州には独立した外交政策が必要だったはずだ。しかしそのようなものは存在しなかった。それはこの1年間で実証された、 欧州諸国の政府は、米国のウクライナ政策に黙々と随き従った。


欧州で政治・経済の軍事化が進行

2022年、それは莫大な費用負担を伴った。2023年、それは軍事援助へと変わりさらにエスカレートしている。アメリカからの圧力で、ドイツはレオパルド戦車の配備を承認した。英国政府は劣化ウラン弾を送り込んでいる。

欧州は明らかに軍事化されつつある。この1年間で、欧州の主要な政府は軒並み軍事費を増加させた。それは米国が長年求めてきたことである。

昨年、ドイツのオラフ・ショルツ首相は1000億ユーロの軍事費を計上した。さらに「今後はGDPの2%を防衛費に充てる」と約束した。
フランスのマクロン大統領は、軍事費を2030年までに約600億ユーロ(2017年の約2倍)に増やすと発表した。これは2017年と比べ約2倍となる。
米国に最も近い同盟国である英国は、すでにGDPの2.2%、年間480億ポンドを軍事費に費やしている。
米国はこれに応えるかのように、10万人の軍隊を欧州に駐留させ、ドイツに119の基地、そのほか多くの軍事基地を有している。

ウクライナの影響は、欧州の経済に深刻な影響を及ぼしている。この状態が続けば、まずウクライナで多くの人が死亡し、さらに多くの人が避難することになる。
戦争をエスカレートするのではなく、ウクライナの平和を交渉する努力が絶対必要だ。

それだけではない。欧州全体では、ロシアへの制裁の反作用としてエネルギー価格が高騰している。
さらに軍事費の増加が政府支出の増大をもたらし社会福祉を圧迫する。生活費逼迫への対応により社会資源が流出する。
この結果、欧州はより危険で貧しくなりつつある。

米国はウクライナ和平の提案を一切支持していない。中国からの和平提案も無視している。それは結局、戦争の長期化をもたらすことになる。

欧州諸国が歩むべき道はこのようなものではない。紛争を終わらせるため別の道を追求し、和平交渉を支援する役割を果たすべきだ。欧州にはそれができるはずだ。


グローバルな協力関係こそ、経済的回復の鍵

経済的には、欧州はおしなべて危機に直面している。
経済成長は鈍化し、インフレは亢進し、政府の緊縮政策は一般市民の生活水準に打撃を与えている。
それに一部の欧州政府による強硬な対ロシア・対中国政策が状況を悪化させている。

欧州は、対ロシア制裁に参加したことで深刻なダメージを受けた。
米国は、パイプラインで運ばれる安価なロシア産ガスに代わって、自国さんの高価な液化ガスを欧州に販売、巨額な利益を得ている。

著明なジャーナリストのシーモア・ハーシュは、ノルド・ストリーム・パイプラインの爆破に関して重大な発言を行っている。アメリカがやったというのだ。
しかし、欧州各国政府は、欧州のエネルギー・インフラに対するこの攻撃について、独立した調査を求める動議を否決してしまった。


米国の反中国を後追い

米国は欧州に対し、米中対決路線についずし、より反中的な姿勢をとるよう促している。このため、最近では欧州と中国との関係が悪化している。
2020年12月に、中国とEUの投資に関する包括協定が原則合意されたが、いまだ署名されていない。それが欧州に経済的な機会をもたらすことは確実なのだが…
欧州はまた、米国の中国のテクノロジー産業攻撃に加わるよう求められている。欧州は最近、TikTokを政府の業務用電話から排除した。そしてより広範囲の禁止を求める圧力をかけようとしている。

このような方向性がもたらす経済的影響は、欧州にとって深刻なものである。中国はEUにとって最大の貿易相手国であり、最も急速に成長している主要経済国である。
IMFの2023年の最新成長予測では、中国の成長率は5.2%でる。ユーロ圏の成長予測は0.8%にすぎない。実に6倍の較差になる。
このことを考えれば、中国とのウィンウィンの経済協力の拡大が欧州にもたらす潜在的なメリットは巨大なものである。


独立した欧州外交をもとめる闘い

米国の新冷戦政策は、欧州に混乱をもたらしている。そのため、欧州の主要な政治家の中には、このままではいけないと考える人が出てきている。

マクロン大統領は、2023年4月の訪中後、台湾について発言し、大きな波紋を呼んだ。
彼は、台湾問題が重大であるからこそ、欧州は米国の "追随者 "になってはならない。欧州独自の "戦略的自律性 "を追求すべきであると述べた。
これは、マクロン訪問中にフランスと中国の間で結ばれた重要な経済取引に続く重要な動きである。
この発言はすぐにワシントンから強烈な反発を受けた。
今後、マクロンがこのような独立した姿勢を貫くかどうか、それだけの政治的強さを持つかどうかは、まだわからない、 

先月、スペインのペドロ・サンチェス首相も、「欧州と中国の関係は対立的である必要はない。ウィンウィンの協力の余地は十分にある」と述べた。


最後に 世界各国に独立外交の動きが

世界的に、独立した外交政策を追求する傾向が強まっている。
アジアでは、多くの国が対立よりも経済発展を重視し、平和を維持してきた。
最近、サウジアラビアとイランの国交回復が、中国の交渉協力のもとで実現したことは、中東のさまざまな紛争を克服する可能性を示している。
ラテンアメリカでは、ブラジルでルーラが復活を果たし、地域の独立と発展を支持する政治的勢力が強化されている。

ヨーロッパでも、地域の将来にとって独立した外交政策が重要であるとする考えが台頭している。それはこのような世界全体の動きと一致している。

著者Fiona Edwards
フィオナ・エドワーズはロンドンを拠点に活動する作家・活動家。No Cold War International委員会の委員を務める。


「考える脳」とCPU/メモリ群


私が強調する三脳は、「考える脳」ではない。もちろん萌芽としては諸感覚を組みたて、評価し、反応する。そしていくつかをDNA上の記憶として積み立て成長する。


しかしそれは「思考」とまでは言えない。思考は何よりも膨大な記憶を必要とする。それを整理し収納し、必要に応じて引き出して、組み合わせて統合する。そのためには多分、記憶の言語化が必要だろう。しかしその話はとりあえずおいておく。


話を徒労に終わらせず、生産的にするために、私は目の前にあるパソコンを材料にしながら議論を進めたい。すなわち、中央演算装置CPUと階層化された記憶装置の複合体を「考える脳」の発祥モデルとして眺めて見ようと思う。


CPU: 視床諸核に中央演算装置を仮想する


CPU=メモリ複合体をヒト脳のモデルと考えることにはかなり無理がある。
ふつう脳といえば大脳のことを指す。脳の中にCPUに類する機能を果たしているスペースがあるとすれば、それはおそらく大脳であろうと考えても不思議はない。
しかし、実際に大脳を眺めると均一で無機的な構造が果てしなく広がっており、どこにもCPUに相当するような外観や機能を持つ脳内領域など存在しない。

そこで多くの学者はあちこち「機能的なCPU」を探し始める。ある人は前頭葉の一部に統合的中枢があるという。かつてのロボトミーの経験が密かに持ち出されることもある。しかしそれは見つかっていない。

私は視床諸核がCPUの役割を果たしているように思える。目下のところ3つの理由を考えている。

第一に、視床は中枢神経系の発生時に出現した前脳の流れを正統に受け継ぐ万世一系の領域だからである。もしこれが中央演算回路でないとすれば、発達した大脳を持たない動物には中枢がないということになり、進化論の立場から見てきわめて不都合である。

第二に、きわめて情緒的な表現になるが大脳の6層からなる基質はCPUというより記憶装置にふさわしい印象を与える。私は80年代末からパソコンに手を染めているが、CPUの大きさはあまり変化なく、むしろコンパクトになっている印象がある。パソコンの機能を飛躍的に強化せしめたのはひとえに補助記憶装置の巨大化(集積化)と、巨大な記憶を統御し駆使する実行ソフトの充実だ。(通信速度の高速化はとりあえず別にして)

第三に、これは思考機能とは直接関係ないが、脳神経系に駆動力を与えているのは脳内アミンなどの刺激物質である。
どんなに精巧な思考装置であろうともこれらなしには動かない。電気の切れたパソコンである。脳血液関門の抜け穴を通じて生体情報(内分泌系、免疫系)が侵入し、思考回路に動機と欲望を与える。

ここに三脳説の最大の意義がある。三脳は膨大な記憶装置を発達させることにより、その限界を突破した。中央演算回路は巨大な脳がなぜ活動するのかの理由を与え、その回答を求め、その作業に必要なエネルギーを提供した。 これが、10年を掛けてぼちぼちと作り上げた鈴木頌ドグマである。


メモリ群: レジスタ→キャッシュメモリ→メインメモリ

メモリと名がついたものはたくさんあって、それが素人を悩ませる最大の問題である。ネット上の教科書には「こうなっています」としか書かれていなくて、なぜそうなのかは書かれていない。メモリ群は非常に複雑な構成になっているが、これはパソコン進歩(進化)の過程で分化したものだろうと思う。

一応進化論的に思いをめぐらせていくとこうなっているのではないかと思う。
① CPU+メモリ
② CPU+作業用メモリ(主記憶装置)+外部メモリ(補助記憶装置)
③ CPU+キャッシュメモリ+
作業用メモリ+外部メモリ
④ CPU+レジスタ+キャッシュメモリ+作業用メモリ+外部メモリ
この内最後のレジスタの分化はよく分からないが、おそらくCPUがマルチタスクシステムに移行する過程で生まれたのではないかと勝手に想像している。
②→③の話は割とケチっぽい話で、コストパフォーマンスを巡るお家の事情をさんざん聞かされる。

ということで、メインメモリとキャッシュメモリについて補足説明しておく。


メインメモリ(主記憶装置)とは

CPUから直接アクセスできる記憶装置のこと。裏ぶたを開けて増設するメモリが主記憶装置に相当する。メモリと名がついたものはたくさんあって、それが素人を悩ませる最大の問題である。
たんにメモリというときはメインメモリを指す。それ以下のメモリは、補助記憶装置(外部メモリ)と呼ばれる。HDDやSSD、USBメモリなどがこれに相当する。

メインメモリというのはその働きに対してつけられた名前である。最低だと2ギガ、最近の64ビットパソコンでは16ギガまで増設可能だ。しかし今や3テラの外付けハードディスクが1万円台(いまアマゾンを見たら、エレコムの6テラが1.2万円)で買える時代に主記憶装置と威張っているのはなぜだろうか。ここが一つの勘所だ。

メインメモリは、その物理的構造に対してはDRAM(Dynamic Random Access Memory)という名がつけられていて、そちらもかなり使われる。面倒だが、当分は両方覚えておくほかないみたいだ。

メモリとRAM

この事項は書き込むか否かでだいぶ迷ったのだが、メモリとキャッシュメモリとの関係を押さえておかないと記憶装置の体系が理解できないので項を起こすこととする。

RAMには三つの特徴がある。
CPUが記憶媒体にアクセスする際に、普通は端から順番に読み書きしていく。これをシーケンシャル・アクセスという。磁気テープが典型である。デジタルな媒体では、容易に飛び飛びのアクセスが可能である。これをランダムアクセスという。これが第一。
第二が、パソコンのスイッチを切った途端に記憶が全て失われることである。このことからRAMは「揮発性メモリ」(volatile memory)とも呼ばれる。これに対し補助記憶装置(外部メモリ)は基本的に「不揮発性メモリ」(non-volatile memory)とよばれる。作成中の文書を保存しないままスイッチを切って泣いた夜が何度あったことか。
第三が、DRAMのD、ダイナミックの意味である。メモリの素材は「コンデンサを用いて製造される半導体」である。このため放っておくと、自然放電し劣化する。これを防ぐためには定期的な電力供給が必要で、これをリフレッシュという。ダイナミックというのは、自転車と同じで、動かしていないとずっこけるということだ。普通ダイナミックと言うといい意味で使われるが、ここではあまり良い意味ではない。

キャッシュ・メモリ

DRAMには以上の特徴と弱点がある。これを補うものがSRAM(Static RAM)だ。技術的なことは省くが高性能で、自然放電がなく記憶は劣化しない。しかし価格が高く、容量もかさばる。
そこで現在はDRAMとSRAMを組み合わせるのが普通だ。

図 キャッシュとメモリ
ぽんぱす」より

以前はCPUのチップの外部にキャッシュメモリを搭載するのが主流だったが、現在はCPUのチップ上にキャッシュメモリを搭載している。


メモリ・チェーン

CPUはキャッシュメモリを使って起算し、その結果をメモリに書き込む。
CPUは最初に一次キャッシュを、ついで二次キャッシュを読みに行く。最近では三次キャッシュもついているそうだ。
実はキャッシュに行く前にCPUがつながる記憶領域が埋め込まれているということで、これはレジスタと呼ばれる。
このようにメモリーは、高速なものから低速へ、容量の小さいものから大きいものへと連なっている。これをメモリーチェーンという。
CPUはキャッシュメモリを使って計算し、その結果を主記憶装置(メモリ)に書き込む。

A) 脳の構造

脳の構造」という素人向けのやさしい解説サイトがある。ある一節が気に入って引用した。他の部分はほとんどぺけである。

人間の脳は、終脳(いわゆる大脳)、脳幹(間脳、中脳、橋、延髄)、小脳から成り立っています。”

* なぜ「いわゆる大脳」なのか。なぜ終脳が由緒正しい名称で、大脳はたんなる俗称なのか。しかしこの分類は「脳幹+アルファ」という正しい発想を含んでいる。

終脳はさらに、外套と大脳核および側脳室に分かれます。外套は神経細胞が集中する灰白質(=大脳皮質)と、神経線維が集まる白質からできています。”

*灰白質と白質からなっているというのは、正しく大脳に関する本質的説明であり、しかも大脳が外套が進化したものという指摘は大胆で鋭い。
側脳室は大脳の中の空洞なので、通常は脳のコンパートメントとしては数えない。大脳基底核が大脳なのかについては吟味が必要。私は嗅脳や小脳、松果体と同じく脳幹の付属物だと思う。この部分は「大脳辺縁系」の考えを引きずった分類だと思う。


B) ポアロの「私の灰白質」

「私の灰色の脳細胞」といえばエルキュール・ポアロの決め台詞だが、原語はちょっと違っている。“gray matter” という味も素っ気もない言葉だ。日本語で言うと「灰白質」。解剖学用語である。
大脳の組織のうち表面側2ミリほどの灰色の層で、ここに脳神経の神経核が詰まっている。その奥は白質と言って神経細胞の繊維部分が固まっている。チョコ・アイスクリームのチョコレートの部分だ。
もう少し言葉が熟れてくれれば、むしろ直截に「私の脳の灰白質」と言ってくれたほうが分かりがいいと思う。
というのは脳の解剖学を勉強していると、脳の本質が大脳の灰白質にあるということが、いつの間にかどこかに行ってしまうからだ。
それともう一つ、大脳の力の根源はこのベタなMatterにあるということだ。
ブローカという人が大脳の働きを根気強く調べて言って、数十ヶ所の分野に分割した。これを見るとわかるのだが、一つ一つのフィールドの広がり、となりとの境界などは結構いい加減なのである。新興団地の建売住宅みたいなもので、見たところは同じマターである。
「どうしてその仕事をしているんですか?」
「別に、そこで生まれたからということなんで…」
というのが大脳の特徴だ。つまりある程度の広がりを持った面で、隣近所と連携しなら集団作業をしていることになる。
だから結局のところ、脳というのは半導体のネットワークとしてみていかなければならないのだ。つまりは半導体どもが何をしているのか、脳が何をしているのかが、「脳とは何か」の答えになるはずなのだ。
くどいようだが、脳の構造なんてものは大したものではない。それが織りなす無数のネットワークと、そこでやり取りされる電子のやり取りこそが問題なので、アガサ・クリスティはそこを言っているのだと思う。


C) 終脳という概念が価値判断的だ

生命の進歩、科学の進歩には切りはない。脳の発展もまだまだこれからだ。それを、これで打ち止めにしようという発想は退廃的だ。
大脳そのものが三脳構造の限界を打破するものとして、出現した。それは三脳にはないものを持っている。第一にそれは三脳の単極性に対し三脳の一部から両側性に成長する“できもの”である。第二に三脳の構造が進化の歴史に応じて多彩な構造を取っているのに対し、極めて単調な“できもの”的組成を示していることである。第三に大脳の脳細胞は単独では記憶素子に過ぎないが、集団を形成することにより一定の規則を持つ判断を行うようになる。
脳神経集団は「現場の知恵」を身に着け、自らバッチファイルとエグゼファイルを持ち、自動能(アプリ)を獲得する。フロントエンドプロセッサーが使い込むうちに利口となるのに似て、これらは熟達のなせる技であり、取り立てて崇高なものでも、神秘的なものでもない。
我々はリアリストであるべきで、決して聖者マクリーンの徒になってはいけない。


D) あえて言うなら「新脳」だ

大脳という言葉が気に入らないのなら(理由は分からないが)それは新脳と呼ぶべきだろう。

脳の一部ではあるが起源も造りも三脳とはまったく異なるから新脳だ。三脳という構造を乗り越えて、新たな概念で形成されたコンパートメントだ。だから New Brainではなく Neo Brain の方だ。

新脳という言葉は温泉旅館の新館を思い起こさせる。本館が和室を中心とする伝統的な造りなのに比べると、新館はホテル風で装飾の少ない近代的な造りだ。無機質で、風情はないが機能的だ。

ただしそうなると、大脳も小脳も新脳ということになる。これもややこしい話だ。高校の生物の先生は授業のネタが増えて喜ぶかも知れないが。


E) 大脳は進化的には外付けの記憶装置だ

大脳の発生原基は前脳両外側の外套である。それが最初は前脳を、やがて中脳までを覆い隠すように成長する。それはおそらく視床の神経核で行われる諸感覚の統合を円滑に行うための記憶装置、いわばRAMとして発達した。それはパソコンでCPUが何らかの処理を行うための作業用メモリでCPUの一部とも考えられる。
これだけではすぐ容量が不足してくるし非能率だ。そこで机の引き出しにさまざまな資料を打ち込むことになる。そこでROMを増設して凌ぐことになる。パソコンを生活の一部としているひとにはメモリーの増設がいかに仕事の能率をアップさせるかを痛感した記憶があるだろう。
ここまではパソコンの計算力アップのための記憶装置だ。パソコンのハードディスクには作業用メモリーだけではなく、データファイルと文書が落とし込まれている。ここからパソコンは一気に貪欲になる。目に入るすべての情報を記憶しようと暴走する。
大抵のサラリーマンにはオフィスの自分用空間はここまでだが、最近はパソコンの外付け記憶装置が発達していて、記憶容量が一気に増えた。今のところ議論はここまでで十分だ。サイバー空間は必要ない。

F) 記憶(メモリー)と情報(インテリジェンス)

このように記憶には階層性がある。そしてパソコンでの作業というのは情報と情報を付け合わせ、それを実行ファイルに処理させ、結果を出力しあるいは保存するという情報処理作業なのだ。
「インテリジェンス」には情報と知性というだいぶニュアンスの違う2つの用法がある。知性の方にはほかにもいろいろな言葉があるから、この手の議論をするときはできるだけ情報という没価値的な用法に限定して使ったほうが良いだろう。(意図的に混同して使ってくることもある)
でこのようなコンポーネントを想定したときに、脳(とくに新皮質)の役割は extraCPU の記憶装置である。少なくとも進化論的には、内蔵ハードディスクやDDSの範疇に入れるべき装置である。終脳論の是非を論じるに当たっては、このことをわきまえておくべきである。

G) 比較神経科学からみた進化にまつわる誤解と解説
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/10/75-17-20.pdf

ヒト脳に関する3つのウソを要領よく説明している。

1.「生物は進化によって複雑で高度なものに変化していく」

その時々の環境に最も適した種が生き残るのだって、5億年前に人が生まれたとしても生存の可能性はゼロだ。
ただしこの答えは50点である。もう半分の真理は「多様性の確保」である。
「量が質を規定する」、それこそが適者生存の必須条件である。
もう一つ、これは蛇足だが、この50億年で、地球が全体として成熟しつつある、という一般的傾向については否定できない。

2.「サルがチンパンジーに進化して,チンパンジーが人間に進化した」

これも間違いで、共通祖先の考えを前提とすべきである。ただ、それを知っていて使うならあまり罪のない仮説ではある。
一番の問題は、こうした「人間至上主義」が後ろ向き(レトロスペクティブ)の発想に基づくということだ。
レトロスペクティブな考察は正規の証明手段ではなく、むしろ合理化の手段となる危険が大きい。そこだけはしっかりと戒めて置かなければならない。

3.三位一体脳(マクリーン)

繰り返し指摘したことなので省略。ただ,反駁の仕方はあまり感心しない。ひょっとすると反駁になっていないかも知れない。
比較神経科学1

この長めのコメントは、下記のニュースの解説として書かれたものである。日本では逮捕の瞬間の映像がちらっと流れただけで、詳細はまったく報道されていない。
この解説記事には牽強付会なところもないわけではないが、「いよいよウクライナ戦争も終盤だな」というアメリカ左翼の感想を生々しく伝えている。

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The Associated Press
04/14/2023 12:18 PM EDT
ペンタゴン文書のリーク容疑者、2件の連邦法違反容疑に問われる
Alleged Pentagon leaker hit with 2 federal charges
ダウンロード

金曜日、マサチューセッツ州の連邦地方裁判所は、2件の連邦法違反容疑で、航空州兵のJack Douglas Teixeiraを起訴した。
容疑は"国防情報の無許可保持・送信 "と "機密文書・資料の無許可除去・保持 "である。
彼にはペンタゴンの機密文書を漏洩した疑いがかけられている。
テイシェイラは、ウクライナ戦争その他の国家安全保障問題に関する、極秘情報を漏洩した。彼は木曜日に重武装した戦術捜査官によって逮捕されている。
テイシェイラはソーシャルメディア・プラットフォーム『ディスコード』内の小グループのリーダーであった。彼の漏洩した文書には、ウクライナ戦争や、中国、イラン、ロシアの準軍事組織「ワグネル」などの地政学的な話題について、「Top Secret」と書かれていた。


………………………………………………………
April 17, 2023
Consortium News

Leaks Spelling the End for Ukraine
ウクライナの終焉を告げる漏洩情報


By Joe Lauria


リード

ある情報文書により、西側が「ウクライナが戦争に勝利した」という偽情報を流したことが暴露された。
激戦の舞台はいまやワシントンに移りつつある。 

本文

先週のワシントン・ポストの見出しは、ウクライナ戦争についてワシントン・ポストをはじめとする欧米メディアでしか読んでこなかった人間にとって、爆弾のようなものだった。
見出しはこうだ。
"米国は、ウクライナの反攻が大きなゲインになるか疑問符をつける:漏洩文書に記載"

記事は次のような事実を認めている。
*欧米のメディアの視聴者は、戦争の経過について誤解している。
*すなわち、ウクライナは戦争に勝っており、最終的な勝利につながる攻撃を開始する準備が整っていると考えている。
*なぜか? ウクライナについて主要メディアが報じてきたことは、基本的に嘘の塊であったからである。 

記事の第2段落では、ウクライナの攻勢が長い間計画されていたこと、しかしそれは惨めな失敗を遂げる可能性が高いということを明らかにしている。
これは「ウクライナ軍の能力・士気に関するバイデン政権の公式見解」とは著しく異なっている。

つまり、米政府関係者は、国民にたいして、そして、その一言一句を疑うことなく忠実に報じてきた記者に対してウソをつき続けてきたことになる。戦争の状況はそれよりはるかに悪かった。

ポスト紙は、まるで国家的災厄でも起きたかのように、このリークを取り扱っている。
「米国とNATOは紛争の交渉による解決に切り替えるべきだ」と促す連中を勇気づけることになるだろうと述べている。

権力の中枢内に動揺

権力の中枢内に動揺が起こり始めている。権力の移行を反映するフォーリン・アフェアーズには、元国務省のリチャード・ハースと外交問題評議会のシニアフェローであるチャールズ・クプチャンの2人が書いている。 

元国務省のリチャード・ハースと外交問題評議会のシニアフェローであるチャールズ・クプチャンの2人は、"戦争の行方を楽観視することは困難だ"と書いている。

彼らは「欧米はウクライナで新戦略を必要としている: 戦場から交渉のテーブルに着くための計画」という論文の中でこう言っている。

「最善の道は、まずウクライナの軍事力を強化することだ。その後、今年後半に戦闘モードを終え、モスクワとキエフを交渉のテーブルに案内する。こう言った2本立ての戦略である」  

この記事はクリミア陸橋を突破するウクライナの攻勢が失敗した後に公開された記事である。当然、今回明らかになったリークには触れていない。

この記事は、西側諸国の戦略を象徴している:  ウクライナがロシアより優れた "作戦技術 "を持っていて、戦争は "膠着状態 "で終わるといった、いつもの話で埋め尽くされている。

すなわち、交渉の前に、ウクライナが攻勢をかけて領土を奪い返す。そして「ロシアに大きな損失を与え、その軍事オプションを封じ、外交的解決を考えさせる方向へ誘導する」という視点が貫かれている。

しかし、それは難度の高い指令である。
"ロシア軍の数的優位"を認め、ウクライナが "自国のマンパワーと海外からの支援の両方において制約が増している "ことを認めるのなら、モスクワが西側の希望通りに交渉に臨むと考えるのは無理がある。

モスクワはロシアの介入から1カ月後、去年4月初めの時点で、キエフと取引する用意があった。
しかし欧米は、ロシアを弱体化させるために、取引を拒否し、戦争を長引かせる戦略をとった。
いまは、ウクライナが格段に弱く、ロシアが戦場で大きな前進を示している。果たしてモスクワは取引に応じるのだろうか。

フォーリン・アフェアーズの論文は認めている。「この外交的駆け引きは失敗するかもしれない。戦闘が続いて、ロシア化ウクライナかのいずれかが戦闘を続けることを選択するかも知れない。あるいは両者がともにファイティング・ポーズを取るかも知れない」
その上で、「いずれにしてもこの戦闘の季節が終わると、米国と欧州はバイデンが表明した『必要な限り』ウクライナを支援しつづけるという態度表明を放棄する可能性も出てくる」

その場合、次に来るのは?

彼らは語る。
「NATOの同盟国は、軍備管理をふくむより包括的な欧州安全保障構造について、ロシアとの戦略的対話を開始することになるだろう」  

信じられないことだ。これはロシアが2022年2月の介入前に求めていた内容であり、NATOと米国が拒絶した内容だ。
つまりこれはウクライナが戦争に負けたことを示す何よりの証拠だ。

「とにかく攻めの姿勢を貫こう」

ウクライナは、成果が少ないとわかっていながら攻勢に出るという。しかしこの戦略は、キエフの最後のあがきである。
ネオコンの妄想派が奇想天外な策でワシントンの現実主義者を出し抜き続けない限り、この戦略にはいつか終わりがやってくる。

最も重要なことは、このネオコンの最後の試みが失敗することが、西側諸国の唯一の逃げ口だということだ。
ウクライナ戦争は西側諸国が自ら作り出したアリ地獄である。それはロシアに対する経済制裁の逆噴射、非西洋における情報戦争の失敗、そして最終的には戦場での敗北である。  

すでに2月には、この戦略を推し進めてきたフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相が、ウクライナのゼレンクシー大統領にこう伝えている。
「ゲームオーバーだ」
このニュースは、体制側大表紙のウォール・ストリート・ジャーナルによってもたらされた。

そして、その10日後にアメリカの情報機関はニューヨーク・タイムズにニュースを提供した。
「ノルドストリームパイプラインの破壊の背後には、親ウクライナ・グループ、さらにウクライナ政府そのものが関与していた」

記事そのものはセイモア・ハーシュの暴露に対するカウンター情報に過ぎないが、そこにはキエフから米国を遠ざけようとする意向が透けて見える、何れにせよ「出口ランプが目前に迫ってきている」のだ。

「なぜMSMはリーク情報を掲載したのか?」

NYタイムズ紙やWポスト紙など権威筋メディア(MainStreamMedia)は、なぜ自分たちの信頼性を著しく損なうリーク情報を掲載したのだろうか。それには3つの可能性がある。  
第一は単純に競争である。 彼らは、ライバルがリーク情報を手に入れたら、それに負けじとリーク合戦を挑んだのかもしれない。
編集者にとって、競合他社を「抜き返す」ことは、(ジャーナリズムの卑小な世界では)悪いこととは思われていない。

2つ目の理由は、紙面上のお付き合いである。これらのリークはいずれどこかで出てくるものであり、簡単に無視することはできない。
さらに重要なことは、企業ジャーナリズムは、実際に反権力のポーズを維持する必要があるからだ。そのために自国の政府を悪者にし、場合によっては自らをも悪者にするような記事を時折掲載することになる。生き残るためには、反権力の姿勢を完全に放棄したわけではないと、国民に納得させなければならない。 
2010年にメディアがウィキリークスと提携し、米国の戦争犯罪を暴露するリーク情報を公開したときもそうだった。いつの間にかメディアはアサンジとウィキリークスを敵視し、国家と歩調を合わせるようになった。

「なぜメディアはリーク源を追いかけたのか」

それは、リークに関する派手な記事の後、実際に起こったことだ。
NYタイムズとWポストは、政府系情報機関が支援するBellingcatとチームを組み、リーク犯の発見に力を注ぐようになった。
今日のConsortium NewsにはElizabeth Vosのフォロー記事が掲載されている。これによるとメディアはMSMが反WikiLeaksで歩調を合わせたようだと論じている。

MSMは国民にとって重要なリーク元を守ろうとはしなかった。それどころか、漏洩元とされる21歳の全国防空団(Air National Guardsman)隊員ジャック・テキシエラを追い詰めたのだ。テキシエラはマサチューセッツの自宅前で軍服を着たFBI捜査官に逮捕された。

大手メディアがリークを掲載した3つ目の理由は?

NYタイムズはウクライナ政府がノルドストリーム破壊工作に関与していた可能性があることを明らかにした。それはマクロンやショルツがゼレンスキーに「戦争は負けた」と言った話を掲載したのも同じ理由だろうと思われる。 
つまり、米国とその同盟国がウクライナの負けを認め、ウクライナの冒険から手を引くための下準備の一環だ。
そのため、Texieraは、報道されているように、Discordチャットフォーラムで10代のフォロワーを感動させるという動機で単独で行動したわけではないという憶測もある。

元CIAアナリストのラリー・ジョンソンは、Texieraは、おそらく上級士官によってはめられたと考えている。
 ジョンソン氏がそう考えるのは、Texiera氏が流出させたとされる文書の中に、ジョンソンがかつて勤務していたCIA作戦本部の文書が含まれていたからだ。

ジョンソンは、自身のウェブサイトにこう書いている。
「CIA作戦本部は、午前と午後の2回、日報を作成する。これは『コミュニティ』向けではない。したがって他の情報機関に配布され共有されることはない。(もちろん、国家情報長官には送られる)

TexieraはCIAに勤務していたわけではない。したがって作戦センターの文書にアクセスできるはずはない。では、どうやって手に入れたのだろうか?
ジョンソンは書いている。軍や情報機関には現実主義者がいて、何が何でも戦争を続けようとするネオコンに反対している。そういう連中がテイシエラを漏洩の手段として利用したのではないか。


タカ派のチャンピオン ボルトンの「新たなグランド・ストラテジー」

ネオコンは戦わずして倒れることはない。元安全保障担当補佐官でネオコンのトップであるジョン・ボルトンは、先週、ウォール・ストリート・ジャーナルに絶望的な文章を書いた。それは「ロシアと中国に対抗する米国の新たなグランド・ストラテジー」 と第されている。

ボルトンは、世界が変化していること、そしてそれがアメリカにとって有利でないことを理解している。
だから彼の対応は、失敗した米国の政策を覆すことではなく、米国が世界を支配しようとするのでもなく、世界の一部になることであり、ミシシッピ川の船内賭博でギャンブラーのように一発大勝負をかますことである。 
その「大戦略」とは、軍事費をレーガン時代の水準まで引き上げ、地下核実験を再開し、「北大西洋条約機構を全世界のシステムとし、日本、オーストラリア、イスラエル、その他NATOの防衛費支出目標にコミットしている国を加盟させる」ことである。
ボルトンは、「米国はモスクワと北京を中東から排除しなければならないとうそぶく。中東こそは両国の強調のもとで、ここ数十年で最も劇的な改革が進行している。

しかし、ボルトンはとっておきのジョークをウクライナのために取っておく。
「ウクライナがロシアとの戦争に勝利した後は、ロシア=中国枢軸を分断しなければならない。
モスクワの敗北はプーチン氏の政権を崩壊させるだろう。その次に来る政権はまったく未知数の政権だ。
新しいロシアの指導者たちは、北京よりも西側に目を向けるかもしれないし、向けないかもしれない。
ロシア連邦の分裂、特にウラル以東の分裂も考えられない話ではない」

たとえ精神に異常をきたしたボルトンが排除されても、現実主義者の行く手には大きな障害がある。それがバイデンの再選キャンペーンだ。彼は近々発表するつもりだと言っている。彼はすでにネオコンに身も心も投じている。
青と黄色の旗を振り回してきたバイデンに、選挙勝利を至上命題としつつ、ウクライナの敗戦を受け入れることができるだろうか?

バイデンチームの狙いはロシアを血祭りに上げることだった。しかし、出血しているのはウクライナである。ウクライナと選挙をテンピンにかけたワシントンの政治戦、今度こそついに、現実が妄想に打ち勝つことができるだろうか。

………………………………………………………

Joe Lauria: Consortium News編集長。前国連特派員(Wall Street Journal, Boston Globe)
金融問題評論員(Bloomberg News) 

The Tricontinental
APRIL 13, 2023

IMF発のウソの数々

So Much Lying from the International Monetary Fund


By Vijay Prashad



リード

Vijay Prashadは言う。「南半球の貧しい国々は新たな資金調達の手段を模索し始めた。本物の開発理論に基づいたプロジェクトを推進するためにはそれが必要だ」


本文

カマラ・ハリス副大統領の空手形

驚くべき報道が流れた。3月下旬にガーナを訪問したカマラ・ハリス米副大統領は、次のように発表した。

*米国財務省技術支援室が「2023年にアクラに常駐顧問を配置する」 
*財務省は常駐顧問を通じて中長期的な改革を立案し、その執行を支援する。
*これらの措置により、債務に持続可能性を持たせ、競争力のあるダイナミックな国債市場を支える。
ガーナはたしかに、この分野で大きな課題を抱えている。対外債務が360億ドル、国内総生産に対する債務比率が100%を超えている。

ロイター通信はこれについて、ガーナがバミューダを拠点とする金融アドバイザー、ラザードと代理人契約を結んだと報じた。ラザードはパリを拠点とするロスチャイルド社との協議に入る。ロスチャイルド社は、ガーナ最大の債権者である国際債権者グループの筆頭代理人である。

なんと有り難いことか、米国政府は、これらの裕福な債権者たちに、債務の一部を帳消しにする(いわゆる「ヘアカット」)、あるいは債務返済のモラトリアム延長を働きかけるのではなく、ガーナに「技術顧問」を提供したに過ぎないのだ。

IMF1

12月、ガーナはIMFの拡大信用枠を通じて、3年間で30億ドルを受け取る契約に調印した。その見返りとして、"国内資源動員の増加と支出の合理化 "を含む「広範な経済改革プログラム」を受け入れた。ガーナ政府は自国民に対して緊縮財政を行うことになった。

この合意の時点で、ガーナのインフレ率は54.1%まで上昇していた。2023年1月には、電気、水道、ガスと言った公共価格、そして住宅価格が1年間で82.3パーセントも上昇した。
世界銀行の試算では、ガーナの貧困率はすでに23.4%に達していた。 
貧困率の上昇は、電気・水道料金の値上げや食料品価格の上昇、それに消費税増税の累積的影響によるものであり、それは"わずかな増加 "にとどまると予測された。
国内債務の再編によってもたらされる公共支出の削減は、ガーナの約3,300万人のほぼすべての人々にとって「絶望」を意味する。

米国政府の「常勤常駐アドバイザー」に期待できることはなにもない。彼らが、永久的な債務危機事態と化したガーナ経済への評価をおこない、現実的な解決策を提示することはないだろう。
ガーナのユーロ債130億ドルのうち、かなりの部分を占めるのがユーロ債である。英国のAbrdnやAmundi、米国のBlackRockをはじめとする債権者がそれに該当する。彼らが事態解決の計画立案に当たって焦点とならないことは、最初から明らかである

中国はガーナの対外債務の10%未満しか保有していない。それなのに米国は、「中国のためにガーナ経済が破壊されつつある」と非難するのは安易な責任転嫁である。

ガーナのナナ・アクフォ=アドゥ大統領はハリス副大統領ににこう言った。
「アメリカでは(アフリカ)大陸での中国の活動に対して強迫観念があるようだ。しかしここではそんな恐怖感はない」

新植民地主義はアフリカを束縛し、我々はアフリカ開発の代替案を模索する

私たちの「三大陸」誌の最新号では、「生命か負債か:新植民地主義はアフリカを束縛し、我々はアフリカ開発の代替案を模索する」と題する記事を載せている。そこでは、永続的な債務危機に苦しむ国々への実践的な政策提案を行っている。
そこには
*累進的な税制の構築、*国内銀行インフラの改革、*IMFの債務緊縮の罠に代わる資金源の構築、*地域主義の強化などの提案が含まれている。

IMFや世界銀行というシステムが、自分たちの正統性から逸脱した国を容赦なく罰することを考えれば、わずか10年前といえども、このような政策は考えられなかった。
IMF2

今では、欧米に代わる開発資金源が到来しつつある。確かにそれは主に中国からだが、Global Southの他の国々からもやってきている。 
その結果、貧しい国々が、自主的な開発理論に基づいた独自の国家的・地域的計画を構築する可能性が開かれたのだ。
前号で書いた通り、 
「開発計画は、資金調達の機会を一度ならず数回にわたりとらえなければならない。 また、IMFの力の隙間を突いて、財政・金融政策を推進する必要がある。
そのようにしてアフリカの人々の抱える問題を解決することが計画の骨子となる。 それが裕福な債券保有者とそれを支援する欧米諸国の要求に屈しないための条件である」
アフリカ政治経済共同体(CAPE)が発表した「IMFは絶対に答えではない」と題する声明から、私たちの資料の根拠となる原則が生まれた。
この声明は、「競争ではなく協力を促進する新しい種類の制度的装置」の必要性を指摘した。その中には「米ドルをバイパスする通貨制度の確立」も含まれている。

なぜ、脱ドル化がこれほど重要なポイントなのか。この問いに対して、米国上院議員マルコ・ルビオほど明確な洞察を示した人物はいない。
彼は言った「5年後には制裁について話す必要はなくなる。ドル以外の通貨で取引する国が多数となり、我々には制裁する能力がなくなるからだ」

CAPE声明が指摘するように、ドルへの依存は米国による制裁を可能にするだけではない。それはなによりも「IMFの条件付けの強力なレバー」なのだ。
また声明は、「アフリカ国家の開発課題を実現するためには、そのための能力と自律性を回復し、再活性化することが急務である」と指摘している。これには、国家が税収を動員し、その資金を自国民の尊厳を築くために使う能力を高めることが含まれる。
現代における開発を考える場合、まずは各国の主権を尊重した新しい形の開発資金調達を図らなければならない。それとともに、資金調達における国家機関の役割ももう一度考えなければならない。

世界銀行とBRICS銀行(新開発銀行)

4月中旬の世界銀行総会では、シティグループとマスターカードの元幹部であるアジャイ・バンガ氏が総裁に任命される予定となっている。1946年に初代総裁が任命されて以来、14人目の米国人総裁となる。

バンガは開発の世界での経験がない。商業銀行の前は、米国のファーストフードフランチャイズ「ピザハット」と「ケンタッキーフライドチキン」のインドでの立ち上げに携わっていた。

一方、BRICS銀行と呼ばれる新開発銀行は、新総裁にブラジルの前大統領であるディルマ・ルセフ氏を選出しました。ルセフ氏は、ブラジルの絶対的貧困撲滅プログラムにおける豊富な経験をもって、BRICS銀行にやってくる。
民営化という宗教を推進するバンガ世銀新総裁とは異なり、ルセフ氏は、所得移転プログラム「ボルサ・ファミリア(家族手当)」や社会保護プログラム「ブラジル・セミセリア(極貧のないブラジル)」といった強固な国家政策に取り組んできた。新しい職場ではこれらの経験を生かすことになる。

資料にもあるように、BRICS銀行の出現は、南半球の他の機関とともに、すでにIMFや世界銀行に圧力をかけ始めている。
とりわけ
*新自由主義的な債務緊縮モデルの押し付けは無限定なのか、そこには限界があるのか。
*政府が国家の主権と住民の尊厳を高めるためには、最低限資本からの独立と、資本への規制とコントロールが必要だが、そのための新たなツールは必要なのか、
などに関して意味のある回答を求めている。

『始まりのための長い道のり』

10年前、ナイジェリアのミュージシャン、セウン・クティがアルバム『始まりのための長い道のり』というアルバムを発表した。その中に「IMF」という曲がある。

この曲はIMFの政策を痛烈に批判したもので、ジェローム・バーナードが監督したビデオでは、アフリカのビジネスマンが買収され、最後にはゾンビになってしまう。その過程を通してIMF批判が展開されている。

ミダス王が物に触れると、金に変わる。IMFが人に触れると、人はゾンビになる。
この論文の図は、Seunのミュージックビデオのイメージに基づいている。この曲は催眠術のようだ。

ピープルパワー
IMFは嘘ばかりだ
ピープルパワー
IMFはこれだけ盗む
ピープルパワー
IMFはこれだけ殺す
ピープルパワー
IMFはだまし続ける
ピープルパワー
IMFは脅し続ける
ピープルパワー
IMFは犠牲を押し付ける
ピープルパワー
………………………………………………………

Vijay Prashadは、インドの歴史家、編集者、ジャーナリストです。Globetrotter の執筆者兼通信員。LeftWord Booksの編集者であり、「三大陸」研究所の所長である。中国の重陽金融研究院上級研究員。





神経の原基に関する話題で最近知った生物が2つある。とにかく見たそばから忘れてしまうので、とにかくウィキを読んでメモして、ブログに載っけておくのが一番だ。
まず最初はピカイア(genus Pikaia)。カンブリア紀中期の原始的脊索動物で、すでに絶滅している化石生物だ。

アメリカ人古生物学者チャールズ・ウォルコットによってカナダブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩累層に属するピカ山(Mount Pika)の麓から発見された。
Pikaia_Smithsonian
スミソニアン博物館所蔵の化石標本

1911年の発見当時は原始的な多毛類に分類された。
(多毛類 Polychaeta: 一般にはゴカイ類と呼ばれる。環形動物門多毛綱。実は多系統群で非常に多様性の高い分類群、既知の種だけで約8000種)
1979年にイギリスの古生物学者サイモン・コンウェイ・モーリスが「始原的脊索動物」の分類に改めた。スティーヴン・ジェイ・グールドの通俗書『ワンダフル・ライフ』で、「脊椎動物の祖先」として紹介されたことから有名になった。
ところが、その後、バージェス動物群より更に約2,000万年古いカンブリア紀前期地層の澄江動物群からミロクンミンギアが発見されたため、ピカイアは単にカンブリア紀に棲息していた脊索動物の1属にすぎないと忘却されることになった。
…というちょっと可哀相な生物。

生物的特徴

体長4cm弱、眼を持たず、筋節を持ち、体をくねらせて泳いでいた。ナメクジウオによく似ているが、より原始的である。頭部の先端に一対の触角がある。
pikaia
画面向かって右が頭で、一対の触覚が伸びている(想像図)

ここまでがウィキの記載だが、脳・神経にはまったく触れられていない。

初期の脊索動物

少し前向きに考えてみることにしよう。脊索動物は約5億年前、古生代前期のカンブリア紀に発生した。
最も古い脊索動物ではないが、かなり古く、割と大量に発生した。(“カンブリアの海はピカイアが支配した”という本まである)ナメクジウオと良く似ているため、対比研究が容易である。

この本(神田正光著)に脊索動物の出現と発展をまとめた文章がある。

哲学的考察がやや煩わしいので、要点を引用する。
カンブリア動物群は「知覚系」に「神経・筋肉系」を繋ぐことによって、エディアカラ動物群の「繊毛運動」をはるかに超える行動を可能にした。素早く獲物を捕獲したり、危険を回避できるようになった。エディアカラ動物群は海底を這う生物だったが、カンブリア動物群は海中を上下するようになり、能力を飛躍的にアップした。逆にカンブリア紀で最強の捕食者といわれたアノマロカリスは上下の動きに対応できずに絶滅していった。

この文章には大切なことが2つふくまれている。
一つは、神経というシステムの目的は感覚受容と筋肉の反応を素早く接続することにある、ということ。この「システム」と「目的」について確認しておくこと、神経を勉強する際に常に念頭に置いておくことはとても大事だ。
もう一つは生物は最初、海底を這い回る生き物だったが、海中を泳ぎ回ることを覚え、泳ぐ生活に訓化することで急速に発達したということだ。人間もふくめた四足動物が地べたを這い回るのに対して鳥が空を飛び、地球を半周もするような“渡り”を敢行するまでに発達していくことがいかに偉大な進化なのか。
ただ、個体能力やDNAを通じた進化ではなく集団性・社会性を獲得することによって、種としての進化を遂げたアリやハチや人間のことも念頭に置かなければならない。一時人の祖先は頑丈型猿人を目指したが途中でそれを断念し、ハイエナ型集団に方向転換した。
この選択については、たしかに「かもめのジョナサン」のように、哲学的に思いを致さなければならない。
ただしここにはピカイアにおける神経組織の発達については記載されていない。

第二部 生物進化史というページにピカイアと脊索の発達が記載されている。

二回目のカンブリア大爆発(バージェス動物群)で、ピカイアという生物が現れた。
ピカイアやナメクジウオは魚の背骨の祖先に当たる脊索があって、生物の体を前後に貫いている。
原索動物の脊索の背側には、脊椎動物の脊髄に相当する神経索が通っている。
脊索は骨よりも柔らかいので、骨のようにしっかりと筋肉を支えることはできない。だから本当の魚ほど激しく運動できない。

なにか病み上がりのせいか、根性が続かない。このへんで一度休む。脊索動物の最上流に位置する動物であることはわかった。それではホヤ幼生とどちらが先か、もう少しはっきりさせなければならない。
ところでダーウィンのホヤ幼生に関する発言というのが、ネット上で読める。面白いので、とりあえずここにおいておく。

ダーウィン(1871)『人間の進化と性淘汰』 (長谷川眞理子訳、文一出版)より
コワレフスキー氏から私が聞いたところでは、彼がその研究をもっと進めるならば、たいへん興味深い発見となるだろう。その発見というのは、ホヤの幼生はその発生の過程、神経系の相対的位置、そして脊椎動物の脊索に非常によく似た構造を備えているという点で、脊椎動物と近縁だというものである。
……とほうもなく遠い昔、現在のホヤの幼生に多くの点で類似したグループの動物が存在し、それが二つの大きな枝に分岐し、その一つが発生の過程で後退して現在のホヤのなかまを生み出し、他方が脊椎動物を生み出すことによって、動物界の最高峰にまで登り詰めたと考えてよいだろう。
ダーウィンってすごい人ですね。
春になり、杉の花粉が空に向かっていっせいに旅立つ。みんないつかはいい場所に降り立って根付いて、立派な杉になろうと思っている。ところが変わり者がいて、「降り立った場所にしがみついて生き延びるだけの人生は嫌だ、俺はこのまま、風の吹くまま空中を漂っているんだ」とおとなになるのを拒否して、ハックルベリー・フィンふうの生活を始めた。
これを「退化」と呼んでいいのか、という問題だ。



geopoliticaleconomy
2023/04/06

世界各国が米ドル価値を引き下げようと動いている:
中国、ロシア、ブラジル、ASEANの脱ドル化 

Countries worldwide are dropping the US dollar:
De-dollarization in China, Russia, Brazil, ASEAN

By Ben Norton


リード

世界各国が米ドル覇権に代わる通貨を求め、世界的な脱ドル化の動きが活発化している。
中国、ロシア、ブラジル、インド、ASEAN諸国、ケニア、サウジアラビア、UAEなどでは、現地通貨を使った貿易が始まっている。

以下本文

世界各国が米ドルの覇権に代わる通貨を求め、世界的な脱ドル化の動きが活発化している。
中国とロシアは各自の自国通貨で取引している。北京とブラジルも二国間貿易でドル使用を減らしている。
UAEはフランス企業を通じて、中国にガスを人民元で売っている。
ASEANの東南アジア諸国は、貿易を脱ドル化し、地域独自の決済システムを推進している。ケニアは自国通貨でペルシャ湾の石油を買っている。
経済メディアの総本山、、フィナンシャル・タイムズ紙でさえ、「多極化した通貨世界」が出現しつつあることを認めている。

中ロ経済が、もう一つの世界経済の基軸に

3月に習近平主席がモスクワを訪問した際、プーチンは、二国間の貿易の3分の2がすでにルーブルと人民元で行われていることを明らかにした。
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プーチンは言った。"二国間貿易で自国通貨がますます使われるようになることが重要だ。自国通貨での決済を引き続き推進するべきだ。そして、両国の市場における金融・銀行機構の相互的なプレゼンスを強化する」
さらに「我々は、ロシア連邦とアジア、アフリカ、ラテンアメリカとの取引に中国人民元を使用することを勧める」と付け加えた。

UAEの自立傾向とオイルダラーの回避

習近平がモスクワを訪問した1週間後、中国は初めて人民元を使ってUAEから液化天然ガス(LNG)を購入したと発表した。この契約は、中国海洋石油公司とフランスのトタルエナジー社の間で交わされたもので、欧州企業が人民元での取引に本格的に乗り出していることを意味する。
フランスのメディアRFIは、この取引を「北京はガス・石油の取引における『ペトロダラー』としての米ドルを弱体化させようしており、その試みの大きな一歩だ」と評した。

報道はさらに、上海石油天然ガス取引所のグオ・シュウ会長の言葉を引用した。彼は「これは多通貨による価格づけ、決済、国境を越えた支払いを促すものだ」と述べた。


ブラジル・ルーラが描く経済自立の展望

3月30日、中国とブラジルが、互いの自国通貨である人民元とレアルで貿易することで合意した。2つの国は世界で最も人口の多い国と6番目に人口の多い国である。

中国のメディアネットワークCGTNは次のように報じた。

「"世界第2位の経済大国 "中国と "中南米最大の経済大国 "ブラジルが、直接の貿易・金融取引を行うことになった。ドルを介さず人民元とレアルの直接交換を目指す」

中国はブラジルにとって最大の貿易相手国であり、2022年には両国は1505億ドル以上の貿易を行った。左派のルーラ大統領は、ラテンアメリカが地域貿易のための新しい通貨発行を呼びかけており、これを「Sur」と呼んでいる。

中国とブラジルによる貿易合意の2日前、ディルマ・ルセフ前ブラジル大統領は上海で新開発銀行(NDB)総裁に正式に就任した。NDBは通称BRICS銀行。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国が、米国主導の世界銀行に代わる銀行として設立した。

ディルマはルーラの盟友、ブラジル労働者党の左派に属する。2022年の演説で、ディルマは米中対立は「2つのシステムの対立」であり、新自由主義と社会主義の闘いであると分析した。そして米国の制裁と「ドル覇権」を非難し、ラテンアメリカが「モンロー・ドクトリンと決別する」ことを呼びかけた。

東南アジア諸国の脱ドル化と中国への接近

*東南アジア全体の動き

東南アジアの国々も脱ドル化を進めている。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の財務相と中央銀行総裁が28日、インドネシアで会合を開いた。ニュースサイト「ASEAN Briefing」によると、会議の最大課題は「金融取引において米ドル、ユーロ、円、英ポンドへの依存度を下げ、現地通貨での決済に移行するための議論」であった。
同ニュースによれば、2022年11月にASEANは、地域貿易で現地通貨を使用できるようにする、国境を越えたデジタル決済システムを開発することで合意したと述べている。

*インドネシアの動き

同メディアは、インドネシアの中央銀行が現地での決済システムの構築も計画していると付け加えている。インドネシアのジョコ大統領は、地方行政に対し、地元銀行が発行するクレジットカードの使用を開始し、外国の決済システムの使用を徐々に停止するよう促した。ジョコ大統領は、ウクライナ紛争をめぐる米国+EU+同盟国のロシアへの金融制裁を引き合いに出し、インドネシアは地政学的な混乱から身を守る必要があると強調した。
インドネシアは、アメリカに次いで地球上で4番目に人口が多い国である。

*マレーシアの脱ドル化への挑戦

もう一つの東南アジアの国、マレーシアも脱ドル化を公に提唱している。マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は3月31日、北京で中国の習主席と会談した。そこでは米ドルの覇権を弱め、「アジア通貨基金」を創設する計画が話し合われた。これは、ドルを世界の基軸通貨として確立した1944年のブレトンウッズ会議から生まれた、米国主導の国際通貨基金(IMF)に対する正面からの挑戦である。
アンワルは、中国海南省で開催されたボアオ・フォーラムで、「アジア通貨基金」の創設を提案した。
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アンワル構想についてブルームバーグが報道している。
その記事では、アンワルが「マレーシアがドルに依存し続ける理由はない」語っている。
同メディアは、マレーシアの中央銀行が、東南アジアの国が自国通貨であるリンギットを使って中国と取引できるように、決済メカニズムを開発していると付け加えた。
Bloombergはこう指摘する:
マレーシアの指導者のコメントは、シンガポールの元政府関係者が議論してからわずか数ヶ月後のことだ。シンガポール関係者はこう問いかけた。
「ドル高によって自国通貨が弱体化し、経済政策の道具と化すリスクを我々は負っている。このリスクを軽減するために、ASEAN地域の経済は何をすべきなのか」
食料品の純輸入国であるマレーシアをはじめとするアジア諸国にとって、ドル高は頭の痛い問題である。"経済的国家戦略 "とは、わが身に降りかかるかも知れない「経済戦争」の遠回しな言い方である。米国が国際法に反して地球上の国々に課してきた一方的な制裁が裏目に出ている
(キューバ、北朝鮮、イラクのフセイン政権、セルビア、リビアのカダフィ政権、イラン、シリア、ベネズエラ、ニカラグアetc、そしてロシア)
多くの国が、自分たちが次の標的になることを恐れて、金融面での代替策を模索しているのである。

米金利引揚げの影響を世界が負わされている

いま、米国連銀(FRB)が絶えず金利を引き上げているため、ドルが強くなりすぎて他国の通貨を傷つけ、輸入品を高くしている。
米国の同盟国であるインドでさえ、脱ドルへのヘッジを図っている。ロイターによると、ロシア最大の国営企業ロスネフチが、同じ国営企業であるインド石油会社と、ドバイ価格ベンチマークを使用する売買契約を結んだ。
ロイターは次のように書き進める。「これまでの通常の石油価格は、欧州が支配するブレントベンチマークにより決められて来た。これを放棄する決定は、ロシアの石油販売のアジアへのシフトの一部である。ロスネフチのセチンCEOは2月、アジアがロシアの石油の最大の買い手となったことから、ロシアの石油価格は欧州以外で決定されるだろうと述べた」

原油価格: 「北米」「欧州」「アジア」の3種類がある。北米の指標原油はWTI、欧州は北海ブレント原油、アジアはドバイ原油。ロシアは欧州に追随してきたが、制裁開始後にドバイにシフトした。

そればかりではない。アフリカ大陸のいくつかの国も脱ドル化を提唱している。3月、ケニアはサウジアラビアとUAEの国有企業と、同国の現地通貨シリングを使って、信用取引で石油を購入する契約を結んだ。アフリカ諸国は、必須だがより高価な輸入品の代金を支払うため、ドル準備高が不足しがちである。

世界有数の新聞社であるフィナンシャル・タイムズは、3月の記事で、こうした動きが歴史的なものであることを、控えめな表現で認めた。それは「多極化する通貨世界」への移行の一部であると()。
フィナンシャル・タイムズ紙の編集委員長で米国担当編集者のジリアン・テットは、「米国の銀行の混乱、インフレ、迫り来る債務上限争いがドルベースの資産の魅力を低下させている」と書いている。
彼女は、BRICSという言葉を最初に広めた元ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニールが「ドルはグローバル金融においてあまりにも支配的な役割を果たしている」と述べていることに言及した。
とはいえ、それが非欧米諸国によるドル支配の拒否であることは認めていない。

赤旗の科学欄は間宮記者によるいつもながら楽しい記事が満載である。
今回は下の図が気に入った。

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トランスポゾン (transposon) は細胞内においてゲノム上の位置を転移 (transposition) することのできる塩基配列である。動く遺伝子とも呼ばれる。(ウィキ)
ゲノムにおいてタンパク質コードする領域(遺伝子)は 1% 以下であり、残りの 40% 以上はトランスポゾンが占めている。
ただトランスポゾンの話はそれだけでも難しいので、ザックリと「現代のゲノム編集技術ではこんなことができるんだよ」という覚え方でも良いのだろう。
技術革新の時代には新技術が新発見を産み、科学がそれを後追いする形になる。
エジソンは発明王であって、発見王ではない。コペルニクスの発見は目について社会を変えるわけではないが、新技術は神父にも魔女にも新生活を生み出す。魔女は箒ではなくスクータでやってくるようになる。実にワクワクする時代だ。よくある話だ。
それについていけないのは、ジジババがスマートフォンについて行けないのと同じだ。後から「なるほど」と分かればよいのだ。
かくいう私も、悪戦苦闘の末やっと染色体と遺伝子、DNAとゲノム、コードゲノムと非コードゲノムの相互関係がやっとおぼろげながら見えてきた状態だ。
小学生の頃、同級生で真空管ラジオを手作りした子がいた。私がゲルマニウムラジオのキットをやっと手作りしたときに、彼は間違いなく数歩先を行っていた。しかし彼がその後大学教授になったという話はとんと聞かない。

日本書紀 神功紀
垣間見える百済紀と倭国紀

日本書紀(飛鳥以前)の原本というのは大まかに言って3本建てです。
一つは神代記ですが、大八洲~豊葦原瑞穂にはじまる説話の多くは出雲神話からの借り物です。ただし開闢以来アマテラスに至る創世記は別系統の高天原伝説で、こちらは北方系のものでしょう。
二つ目は、大和王朝に伝わる皇統記(古事記と同じ基調)と散逸した倭王朝の記録の断片、風土記に残された記録などの国内記録です。そして三つ目が卑弥呼から倭の五王に至る中国・朝鮮との交流録です。この中には百済本紀の断片が数多くふくまれ、これがさまざまな出来事に絶対年代を付けていく手がかりになります。これらの記録からアマルガムを作成した主体は、百済滅亡後に日本に亡命した百済の知識人です。
体裁としては、絶対年代を特定できない皇統紀を、百済本紀で裏打ちして歴史書仕立てにしています。しかしその編集は至上命令で歪められています。一つは神武起源の死守、一つは神功=卑弥呼の無理筋です。今回はこの後者を分に当たりながら、この無理を解きほぐしてみたいと思います。

2つの取っ掛かりがあります。はっきりと絶対年代が表記された事項は百済本紀由来、絶対年代記載がなく伝承風のものは神統紀その他国内発、年代がはっきりしていても天皇の生没、即位年は要注意です日本書紀編集者の創作の可能性があります。その無理の典型が卑弥呼=神功皇后論と倭の五王の河内王朝への比定、そして継体天皇81歳生存論です。


以上、550年頃から後を歴史時代と設定し、それ以前を神統記(現存しない)、出雲神話、百済本紀の混合物と考えます。
その上で百済本紀からのコピペと考えられる記載を年表風に列挙してみたいと思います。底本はいつものごとく
です。
扱う素材は巻第九:神功皇后です。

神功紀 (年表式にまとめたもの)

仲哀2年、気長足姫尊が仲哀のもとに嫁した。(神功皇后)
同九年春二月、仲哀天皇が筑紫の香椎宮で亡くなられた。「新羅進攻」を勧める神のお告げに従わなかったことが理由とされる。皇后は自ら神主となられた。(古事記ではより直截に神功と武内宿禰による謀殺説をとる)
神功は鴨別を遣わして熊襲を征した。(九州の風土記には景行紀時代の出来事として記録されている。記紀では大和武尊の業績として一括されているが、もともとの大和武尊神話は東国征服に限定されたものではなかったか?)
ついで海をわたり新羅を征伐した。高麗、百済二国の王はこれを見て服従を誓った。(風土記など多くの伝承から記事を組み立てている。九州王朝に神功に比定される人物がいたと思われる。新羅本紀にも何回か倭人に攻め込められたとの記載はある。百済が攻め込まれた形跡はない)
同年12月、皇后は新羅から還られ、応神天皇を筑紫で産まれた。
神功2年年2月、神功は豊浦の殯の宮で天皇の遺骸をおさめて海路より京に向かった。仲哀の本妻の息子たちと戦い、これを殲滅し支配権を獲得した。

この次の記載が出所不明である。
神功五年春三月七日、新羅王がウレシホツ、モマリシチ、ホラモチらを遣わして朝貢した。この時新羅が差し出した人質コチホツカンは策を講じ新羅帰還を図った。神功は葛城襲津彦を付き添いとし新羅に送ったが、途中で逃げられた。襲津彦は新羅を攻め、何ヶ所がの城を陥したあと還った。連れ帰った捕虜たちは桑原、佐糜、高宮、忍海村の漢人の先祖である。
これは風土記の文体ではなく、記紀に近い公式文書の文体である。しかし新羅が書いた文書とは思えず、百済が関与していたとも思えない。ひょっとして「倭国紀」の断片ではないか?
新羅に遠征した女傑「神功」は4世紀中頃の人物と思われる。その後新羅は高句麗の支援を得て、5世紀に入ると、倭国の侮れないライバルとなっている。
かなり裏読みをすると、日本書紀の編者が倭国本紀の断片に葛城の名を潜ませてここに潜り込ませたことになる。かなりの高等戦術であると同時にかなり乱暴な改ざんでもある。
今後AI分析が進めば、百済本紀の文体、日本の公式文書の文体、古事記や風土記など万葉風漢文の判別ができるようになるかも知れない。

神功39年の段はすごい。百済の関連図書を駆使して亡命官僚が書き上げたものであろう。

しかしこれは卑弥呼の話だ。日本書紀の編者は神功を卑弥呼に見立てたがっているようだ。しかしそれはあまりに無理筋だ。新羅侵攻は卑弥呼の仕業ということになってしまう。
一連の記載は魏の明帝の時代にペグがついている。
明帝の景初三年(AD239)六月に、倭の女王は大夫難斗米らを遣わして帯方郡に至り、洛陽の天子にお目にかかりたいといって貢を持ってきた。太守の鄧夏は役人をつき添わせて、洛陽に行かせた。
40年、魏は建忠校尉梯携らを倭国に遣わした。
43年、倭王はまた、使者の大夫の伊声者掖耶ら八人を派遣した。
この3つの事項は私たちの女王、すなわち卑弥呼の事績である。
46年、倭王は斯摩宿禰を卓淳国に派遣。卓淳の王、末錦旱岐は斯摩宿禰らの存在を百済を通じて知っていた、と返答。百済への仲介を約束する。
47年、百済王は久氐、弥州流、莫古を遣わして朝貢した。皇太后と太子である誉田別尊は、「先王の望んでおられた国の人々が、今やってこられたが在世にならなくて誠に残念」と語った。
49年、倭と百済の交易を新羅が妨害したため、荒田別と鹿我別の軍を宅順に送った。軍は新羅を攻め、比自㶱、南加羅、喙国、安羅、多羅、卓淳、加羅の七ヶ国を平定した。西方の古奚津に至り、 南蛮の耽羅(済州島)を亡ぼして百済に与えた。
(日本書紀には記載がないが、魏志倭人伝によると、248年ころ卑弥呼が死亡した。男王をたてるが「国中服せず。更々相誅殺し、当時千余人」が殺される事態となった。そこで卑弥呼の宗女台与が国政を司ることに成り、国内は安定した)
百済王の肖古と皇子の貴須は、また兵を率いてやってきた。百済軍と倭軍は合流した。
五十一年春、百済王はまた久氐を遣わし朝貢した。朝廷は千熊長彦を、久氐らにつけて百済国に遣わされた。百済王父子は、共に額を地にすりつけ厚情を謝した。
五十五年、百済の肖古王が薨じた。貴須が王となった。
六十ニ年、新羅が朝貢しなかった。その年に襲津彦を遣わして新羅を討たせた。
この時初めて百済記が公式に引用されている。ただし上記に対する異文としての扱いである。
倭国は沙至比跪を派遣したが、新羅に籠絡され、反対に加羅国を討った。国王一族は百済に逃げた。国王の妹が、大和国にやってきて言上した。
66年、266年(晋の武帝の泰初ニ年)、晉の記録に倭の女王が何度も通訳を重ねて、貢献したとある。
65年、百済で政変があり、王子の叔父の辰斯が位を奪って王となった。
69年、皇太后が稚桜宮に崩御された。年一百歳。

ここで長い長い神功紀が終わる。これでは子も孫も天皇になれずに終わるだろう。はっきりしているのは、日本書紀の編者はウソと知りつつ絶対年を歪め伝えているということだ。ただウソのつき方には法則性があるはずなので、地雷を踏まないように、できれば地雷を無力化しながら進んでいくことにしたい。

入院中に是非読もうと思って、持ち込んだのが「蘇我氏の古代史」という本。武光誠さんという方が書かれ、平凡社新書から発行されている。
2008年というからだいぶ前の本、古本屋で見つけて400円で買った。
最初の1ページから疑問続出。ちっとも読書が進まず、書き込みが余白では足りず、病院の請求書や処方説明やいろんなものに書き散らしたが、あとで読んでもさっパリ分からない。「旅を病んで、夢は荒野を駆け巡る」の雰囲気だ。

一応話のとっかかりだけでも整理しておきたい。崇神王朝の最後の仲哀が福岡で急死する。とても怪しい死に方だ。仲哀は九州で朝鮮出兵をそそのかされるが、「そんなモノ、わしゃ知らん」と言って蹴っ飛ばした。その直後に香椎で変死した。死体は密かに関門海峡を越え下関まで持ち出された後殯(もがり)にふされている。ところがその嫁さん(神功皇后)は身重の体で朝鮮に自ら出兵し大活躍する。
そして息子たちは1年の準備の後、難波まで進み、仲哀の息子たち、つまりは自分の兄たちを全員殺してしまう。

これは、どう読んでも朝鮮勢力(百済)と組んだ北九州勢力の仲哀暗殺、そして崇神王朝の乗っ取りとしか思えない。これが河内王朝と呼ばれる第三次皇統である。
難波に乗り込んだ河内王朝は大和盆地の西部を支配する葛城氏と組んで旧崇神系と対抗した。
河内王朝の最大の事業は、大和川の開削により河内湖を干拓し大和盆地を凌ぐ大田園地帯へと変ぼうさせたことである。

しかしこのような土木技術と組織づくりのノウハウをもっていたのは崇神系であり、九州人たちは収奪し浪費することしか念頭になかった。こうして河内王朝は自壊し、長い空白時代を経て近江・越前系勢力の台頭を迎える。

個人的感想としては、継体が王朝の創始者であるとして、安閑、宣化はその息子たちではないのか、そして欽明はさらにその息子ではないのかと思っているが、単なる年数合わせに過ぎないかも知れない。
問題は生まれた年ではなく、死んだ年である。つまり継体、安閑、宣化がわずか10年の間に連続死していることである。普通はありえない。何かあったと考えたい。継体天皇のあまりに長い寿命、在位期間を考えるとなおさらのことである。
紀元530年代に朝廷を揺るがすような事件があって、欽明天皇が実現し、欽明王朝とも言うべき飛鳥政権が誕生したと見るべきなのか、と思われるのだ。

しかしこのような話は、記紀を読み解くだけでは埒が明かない。日本書紀を通じてチラチラと見え隠れする、百済本紀の記載をなんとか系統立てて読み起こすほかないと思われる。もちろんそこには新羅、百済、そして任那・加羅の歴史が深く絡んでくる。

とりあえず、雄略紀から始めてみたい。

ベン・ノートンの人気記事

すっかり思い違いをしてしまい、ひたすら“ベン・ゴードンと書き続けていました。お詫びして訂正します。
こういう人が高齢運転者事故を起こすのでしょうね

ベン・ノートンの書いた記事を訳していたら、文末に「ベン・ノートンの人気記事 ベストテン」というのがあった。https://geopoliticaleconomy.com/2023/04/06/dedollarization-china-russia-brazil-asean/

いずれも2023年になってからの記事である。この人は評論家とか学者と言うよりも精力的なジャーナリストという性格の人だ。底は深くはないが勘は鋭い。日本でいうと田中宇さんのような存在か。
面倒なのでいちいちリンクは貼らない。英題名をグーグル窓に入れて検索してください。

1.地政学のゲームチェンジャー: 中国のイラン・サウジ和平合意は米国経済覇権への大きな打撃となる
Geopolitical game changer: China’s Iran-Saudi peace deal is big blow to petrodollar and US economic hegemony

2.「メキシコは米国の植民地ではない!」: AMLOが侵略の脅威を非難し、石油とリチウムの国有化を祝う
‘Mexico is not a US colony!’: AMLO condemns invasion threats, celebrates nationalization of oil, lithium

3.シリコンバレーと銀行は米政府に救済された。それは富裕な寡占層への贈り物だ
US government bailout of Silicon Valley and banks is $300B gift to rich oligarchs

4.世界(中国、ロシア、ブラジル、ASEAN)が米ドル離れしている
Countries worldwide are dropping the US dollar: De-dollarization in China, Russia, Brazil, ASEAN

5.ドイツ左翼党議員、「核はいらない。米兵は自国から去れ」と発言
German leftist lawmaker says US soldiers and nukes must leave her country

6.パキスタンのクーデター政権、イムラン・カーン逮捕を図るも、民衆抗議に直面
Pakistan’s coup regime tries to arrest Imran Khan – but faces massive popular resistance

7.中国&ロシア、「100年ぶりの社会変化」を約束:米ドルの覇権を標的に
China & Russia pledge ‘changes not seen in 100 years’: Xi & Putin take aim at US dollar hegemony

8.ホンジュラスが中国を承認 - 残るは12の小国のみ
Taiwan separatists lose key ally, Honduras recognizes China – just 12 small countries remain

9.「ハバナシンドローム」の研究に数百万ドルが費されるが、その存在すら証明できず
The U.S. is spending millions on ‘Havana Syndrome’ research – but it’s not clear if it exists

10.AMLO大統領、「民主化」サミットで米国の「寡占支配」を痛烈に批判
Mexico’s AMLO calls out US ‘oligarchy’ at Biden’s ‘democracy’ summit

月曜午前に退院・帰宅。その日は自宅で自重した。なにか体が本物ではなく、ゴロゴロしていても疲れる。これは筋力の低下によるものではないかと思う。宇宙飛行士と同じ生理的反応だ。
火曜は歩いて10分の病院まで。これも予想外に疲れた。しかし血中酸素の低下はなく、脈拍の上昇や不整脈も見られない。帰宅後昼寝してからAALAニューズの編集に取り掛かる。
水曜午前は結局何もせず経過する。昼から来たヘルパーさんに頼んで夏タイヤを車に積んでもらう。夕方にはAALAニューズが一応編集完了だ。夜はとくに何事もなく寝たが、真夜中に目覚めてその後はぼんやりと過ごす。
本日は朝から色々と動き回る。まずトヨタの整備工場へ行く。しかしタイヤ交換は2週近く待たされるということだ。それから自動車保険の更新手続きを行う。長年ゴールドだから安いには安い。
それから病院に向かい生命保険の診断書をもらう。外来受付で昨日忘れた健康保険の月例提示を済ます。ついで銀行と郵便局で通帳の記載、しばらくしてなかったので残高の確認だ。ついでに当座の必要分もおろしてくる。飲みに行かないので金は減らないが、寂しいといえば寂しい。郵便局ではバスの老人割引の手続きも行なった。
午後からはもう一つの病院の外来予約。入院中だったため予約日に受信できなかった。一応断りは入れてあったが次回予約があらためて必要だ。「薬は大丈夫ですか?」と聞かれたが、「適当に間に合わせるので大丈夫です」と答えた。普通はこういうのは「大丈夫」とは言わない。看護婦さんは苦笑していた。
そしてこの日の最後は区役所。12月に手術したのでこの月だけ高額医療の適応になるという連絡が来たので手続きを行う。しめて6箇所で約10件の用事をこなした。自宅到着は午後5時半。さすがに現在何もする気がしない。明日は何もせずにグダグダして過ごすことになるだろう。

Financial Times
MARCH 31 2023

Currency wars: Prepare for a multipolar currency world

通貨戦争: 通貨多極世界に備えよ



by Gillian Tett 

リード

今月、ロシアと中国がワシントンで新たな動揺を巻き起こしている。その主な理由は、両国がウクライナを巡って南側諸国との間に外交的結束を固めたことにある。
先週、習近平がモスクワを訪問した際にも、「通貨」の話題があった。プーチンは、「ロシアとアジア、アフリカ、中南米の国々との間の支払い」でドルに代わって人民元を採用することを公約した。
モスクワは中国との貿易で人民元の利用を拡大するだけでなく、すでに中央銀行の外貨準備高人民元を組み込んでいる。それは、「有毒」な米国資産へのエクスポージャーを減らすためである。

これは重要なことなのだろうか?

最近まで、ほとんどの西洋の経済学者はこう答えていただろう。「とんでもない」(heck, no!)
なぜなら彼らは、ずっとこう考えてきたのである。
中国の資本勘定があまりにも閉鎖的であり、そのことが、通貨「元」の普及を妨げていると。しかし、今、そのような言い方は影を潜めている。プーチンの発表は、エコノミストたちに異常な精神的ショックをもたらしている。
その理由のひとつは、米国の経済支配力の弱体化にある。
*今月起きた米国銀行業界の混乱、*依然収まらないインフレ、*迫り来る債務上限を巡る混乱…。それらの結果、ドル建て資産の魅力が低下しているという懸念が根底にあるためだ。
自由主義右派の経済学者ピーター・シフ氏は今週書いた。「ドルはまたもや銀行救済の資金調達のために引き下げられようとしている」
そしてアメリカの右派に広く見られる意見と同じ不干渉主義を主張した。
一方、ジム・オニール(Bricsという言葉を提唱したゴールドマン・サックスの元エコノミスト)は今週論文を発表し、「ドルはグローバル金融において、支配者としての役割を果たしている。それはあまりにも包括的にすぎる」とする、新興国リスクの削減を呼びかけた。

しかし、米国にはそんなことを言っている余裕があるだろうか

習近平がモスクワを訪問する前、すでにサウジアラビア政府が中国への石油輸出の一部を人民元建てで請求することを発表している。フランスでは初の人民元建て液化天然ガス販売が行われ、ブラジルでは中国との貿易の一部に人民元が採用されている。このような報道が立て続けに拡散していることも、ドルの独占支配に対する不安を煽る要因となっている。
たしかに今現在、このような形だけのジェスチャーで、ドル高に打撃を与えるような兆候はまったくない。しかし、しかし国際金融の流動化は着実に進んでいる。世界の外貨準備に占めるドルの割合は、1999年の72%から最近では59%にまで低下している。これは、各国中央銀行が投資資金の多様化を進め、導入資金への通貨ペグを破棄しているためである。
また、各国中央銀行のデジタル通貨がホールセール(銀行間取引)にまで波及すれば、理論的にはこの多様化はさらに加速される。その背景には各国中央銀行がドル以外の通貨で直接取引することを容易にしていることもある。

ドルは依然、圧倒的に強い しかし…

とはいえドルは依然として債券市場を支配している。その結果、海外で保有されるドルの量は今世紀に入って急増している。昨今の議論で見過ごされている肝心な事実がある。国際金融研究所のチーフエコノミスト、ロビン・ブルックスが最近指摘している。最も重要な事実、それは「ドルがG10および新興市場通貨に対して記録的な強さを保っている」ことである。
最近の銀行危機でも、多くの世界の投資家がドル紙幣を手に入れようとしたため、連邦準備制度理事会は他の中央銀行と連日スワップ・プログラムを行った。
ジョージ・メイソン大学メルカトス・センターの研究員、デビッド・ベックワースはこの動きを次のように見る。
「このようにドルスワップ枠の利用を強化することは、一見国際化の波及に見えるが、それは皮肉にも、世界のドルシステムのネットワーク効果をさらに強化することになる」
アメリカの財政問題を考えると、ドルは、美人コンテストで優勝するには値しないかも知れない。しかし不美人コンテストに登場するほどのものでもない。多くの投資家は、非常に醜い為替世界の中では最もマシな選択肢だと考えている。 
なぜならユーロや人民元の資本市場は根が浅く、狭く、ネットワーク効果が弱いからだ。

ネットワーク効果: ネットワーク効果(network effect)とは、利用者が増えるほど、製品の価値に加えサービスのインフラとしての価値が高まること。ネットワーク効果で優位に立てば利用者はさらに爆発的に増加する。 https://makitani.net/shimauma/network-effect

しかし、これでプーチンの脅威を完全に無視できると結論づけることはできない。その前に、 昨年発表された「貿易インボイシングに関する示唆に富む調査結果」(経済政策研究センター)を見ていただきたい。

インヴォイス制度の粘着性(stickiness)に疑問符

10年前、IMFのギタ・ゴピナス副代表は「ドルには、それを支えるもう一つの要因がある。それはインボイス制度の粘着性(stickiness)である」と主張した。それはいままで常識だった。
しかし現在、この考えは徐々に変化している。中国の貿易が拡大するにつれて、「粘着性」を振り切るように人民元の使用量も増加している。
CEPRはこのことに関連して次のように述べている。
「これは中国の資本勘定開放度が低いことを考えると、驚くべきことである。従来の常識とは逆に、資本勘定が閉鎖的であることが人民元の国際化の決定的障害となるとは限らない。今後、人民元の基軸通貨としての役割が拡大する可能性は否定できない」

貿易インボイス制: 貿易取引の現場では「送り状」と呼ばれることもある。インボイスには3つの役割がある。国内では3つの書類に分かれるが、貿易取引ではインボイスに一元化。
①納品書(輸出者、輸入者は誰か)。②明細書(荷物がどこからどこへ、誰から誰に送られるか)、③請求書(内容物、価格、数量など)。https://lab.pasona.co.jp/trade/word/558/


すでに2000億ドルのオフショア人民元市場が出現している

このオフショア通貨は、中国の対外貿易や支払い、請求書発行や決済に使用され、すでに清算や支払いの世界的なネットワークになっている。
CEPRは、今後数年のうちに、オニールが予想した「通貨多極化型の世界」が出現する可能性があると予測している。しかし、それはプーチンや習近平が望むほど劇的な変化ではないし、ワシントンの警戒論者が恐れるような変化でもないだろう。

経済政策研究センターCEPR ): 経済政策を専門とする左派のアメリカのシンクタンク著名な 貢献者には、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ スティグリッツロバート ソローが含まれる。

私の考えでは、これは中期的には賢明な選択である。それが単に多極化の一パターンにすぎないとしても、米国の政策立案者には衝撃となる可能性がある。なぜなら米国が必要とする対外資金は無限だからだ。

投資家も政策立案者も、今後数ヶ月間は貿易請求書の詳細について注視する必要がある。
プーチンのハッタリは無力化し、政権の命は風前の灯火になるかもしれない。

終わり(訳:SS)


どこかのお詫びの記者会見ではないが「みなさま方に多大なご迷惑、御心配をおかけいたしました。ここに謹んでお詫び申し上げます」
まずは経過から
1.3月28日夕刻より腹満が徐々に強くなる。便意はあるが排便なし。さまざまな方法にて排便促すも反応なく、間欠的な上腹部の差し込み痛が出現し、嘔吐2回、わずかに食物残渣を認めるも血液・胆汁等の目立った混入はなし。
2.一時腹満は改善したため就寝。29日早朝、摘便にて排便。その後軟便中等量の排出あり症状は落ち着く。水分補給の後ふたたび就寝。
3.同日昼、著しい倦怠と悪寒にて覚醒。アセトアミノフェン服薬するも症状収まらず。午後1時半に家政婦さんの定期訪問あり。直ちに救急車手配され、中央病院救急外来に搬送される。この間一貫して意識はあったが、家政婦さんの話ではもうろう状態であったと言う。
4.受信時診察で胆道系感染症疑われ、CT、エコー等施行。CRP約20程度、白血球増多なし。その後諸情報総合し、「急性胆管・胆嚢炎」の診断となる。
5.29日夕方、静脈麻酔下にERBD(内視鏡的逆行性胆道ドレナージ)施行。ここからまったく記憶はぶっ飛ぶ。おそらく夜9時頃に覚醒。絶え間ない悪寒と倦怠、半覚醒の状態は著明に改善し、施術の成功を確信する。
6.翌30日から数日をかけ、稽留熱から弛張熱へ、悪寒発作の間隔は間遠となった。自発性とやる気の回復にはなお数日を要した。デブリの培養ではグラム陰性桿菌、クレブジエラの一種が同定された。通常のセフェム系抗生剤に感受性を持っていた。血液培養は陰性であった。
7.CRPが1台まで改善。筋力の著明低下はあるものの、安静時にはほぼ病前状態まで復帰した。退院は10日の月曜日となった。20日の外科外来受診にて、腹腔鏡下胆嚢摘出+ドレーン抜去の日取りが決まる。おそらく連休前に手術となるのではないかと予想している。
胆管チューブ
https://www.amc1.jp/center/naishikyo/detail05.shtml

おそらく私が主治医なら、病気の原因は飲酒習慣+高コレステロール血症と断じるであろうが、心中慮るに、どうもクロワッサンの食い過ぎではないかと思う。うまい店があって、この数ヶ月どうも癖になってしまい、あれはつい手が出る。気がつくと満腹でご飯は食べない、その合間をアルコールで満たすという生活になっていた。
ただしアルコールは2合以内に抑えており主因とは考えられない。
バゲットも朝食の定番、3日に1本くらい食べているから、コシの強い小麦粉の摂取が多すぎる。これだといったん便秘になった場合、その対応に苦慮するのは理の当然だ。
ということで当面の食事プランは大豆と米飯の増量、小麦粉の制限を進めたい。そして週に一度は鍋料理を作ることにする。これによって冷蔵庫の中で野菜が腐るのをギリギリ予防できる。

この1年で二度の手術。野球でいうと、打席に立って、あっという間もなく2球空振り。次はない。その間、なんとか1日1~2合くらいのお酒はたしなみ続けたい。これが独居老人に残された、人生の最大の目標である。





truthout
March 24, 2023

バイデン、被災直後のシリアに爆弾をプレゼント

US Bombs Syria 2 Weeks After House Voted Against Withdrawing Troops

https://truthout.org/articles/us-bombs-syria-2-weeks-after-house-voted-against-withdrawing-troops/


By Jake Johnson


リード
米軍は23日、シリアへの空爆を行った。これは、バイデンが議会の承認なしに承認した空爆である

以下本文
米国は木曜日にシリアで空爆を開始した。国防総省は攻撃を認めると同時に、"イラン製"ドローンの攻撃で、「米国人契約社員」(雇兵のこと)1人が死亡し、5人の軍人が負傷したことを受けてのものだと説明した。この爆撃はシリア北東部の米軍整備工場へのドローン攻撃に対応してものだった。
米軍の対応は、下院がシリア撤退の超党派決議案を否決した2週間後に行われた。この決議案は、バイデン大統領に180日以内にすべてのアメリカ軍をシリアから撤退させることを要求するものだった。
現在シリアには、約900人の米軍と数百人の契約社員が駐留している。専門家によれば法的根拠は非常に疑わしい。

ロイド・オースティン米国防長官は以下のように説明した。
バイデン大統領の指示により、国防総省は米中央軍に対し、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)に属するグループが使用する施設に対して、シリア東部で精密空爆を行うことを許可した。
空爆は、今日の攻撃だけでなく、IRGCをふくめたシリア連合軍に対する攻撃にも対応したものである 
この空爆により、「親イラン派戦闘員」とされる少なくとも8人が死亡した。バイデン政権が米軍の駐留を維持し、シリアで軍事作戦を実施するための法的権限に関する質問が再び殺到した。
オースティン国防長官は法的根拠を唱えなかったが、米国の空爆は「米国の要員を保護し、防衛するためのものであり、憲法第2条に合致している」と述べた。

Voxの外交政策ライター、ジョナサン・ガイヤーは書いている。
私たちは間違いなく、シリアで戦争をしている。それなのに、アメリカの議員はそのことを議論ししていない。国民はほとんど知らない。これはブッシュが行ったイラク侵攻の最も重要な疑問である。それは同時に、最も議論されていない負の遺産である。それは無許可の永遠の戦争につながる問題だ
政府は憲法第2条に依拠して議会の承認なしに軍事作戦を遂行する。これは以前の政権でも行われていた。議会のメンバーは以前からこのやり口に警鐘を鳴らしてきた。
2021年、米国による2回のシリア空爆の後、ピーター・デファジオ議員(オレゴン州選出)を中心とする30人以上の下院議員が、「議会承認なしに軍事作戦を行うことはできない」と警告した。
デファジオのほか、ナンシー・メイス(サウスカロライナ)、ジャマール・ボウマン(ニューヨーク州)は、政府に警告を与える共同書簡を送付した。議会は、米軍がシリアで「イランが支援する勢力」と戦うことを具体的に許可したことはない。
議会が2002年のイラク戦争中に策定されたいくつかの曖昧な法制度の廃止に動く中、リンゼー・グラハム上院議員(共和党)は、むしろ干渉を強化しようとする法案(グラハム修正)を提出した。
それは「イラクで活動するイラン民兵への攻撃」を許可するよう求めるものだった。しかしこの法案は60人の上院議員が反対することにより大敗した。

以上

2023-02-25
GeopoliticalEconomy

マハティール、第三次世界大戦を予言

Ukraine conflict ‘caused by Europeans’ love of war, hegemony’,
says Malaysia’s ex leader


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By Ben Norton

リード
マレーシアの最も長く首相を務めた最年長の元首相マハティール・モハマッドは次のように言った。
「現在のウクライナとロシアの戦争は、ヨーロッパ人の戦争好き、覇権好き、支配好きによって引き起こされている。それはすでに第三次世界大戦の始まりとも言える。欧米の対ロシア制裁により、世界は供給不足に追い込まれ、それに耐えなければならなくなった」
マハティール氏は、次のように付け加えた。「東アジアにおける無責任な挑発にも米国は責任を負っている。台湾に武器を提供し、米国の最高幹部ナンシー・ペロシを派遣し分離主義勢力を支援した。

以下本文
マハティールは1981年から2003年まで、そして2018年から2020年まで再びマレーシアを率いた。マハティールは、欧米の新自由主義経済と「ワシントン・コンセンサス」を長年にわたって批判してきた。彼は、帝国主義が資本主義に根ざしていることを強調してきた。
マレーシアの元指導者は、米国が台湾をめぐって中国との戦争を誘発しようとしていると非難している。

2月24日のツイッター発言の全文は以下の通り:

以下引用
私はこの記事を書くことを躊躇している。私はロシア人に味方していると非難されるかもしれない。しかし、そうではない。
現在のウクライナとロシアの戦争は、ヨーロッパ人の戦争好き、覇権好き、支配好きの連中が引き起こしたものだと思う。
ロシアは、第二次世界大戦の対独戦争において西ヨーロッパ諸国(アメリカ、カナダを含む)のパートナーであった。しかしドイツが敗れた瞬間、西側諸国は自分たちのパートナーであったロシアを「次の新たな敵だ。だから、ロシアとの戦争に備えなければならない」と宣言した。
そして、ロシアに対抗する軍事同盟を結ぶためにNATOが設立された。これに対抗して、ロシアはワルシャワ条約機構を立ち上げた。こうして冷戦が始まった。
その結果、世界は西と東のどちらかを選ばなければならなくなった。
ロシアがワルシャワ条約機構を解体し、ソビエト連邦の国々がロシア本国から離脱した後も、NATOは解散しなかった。
それどころか、ロシアの覇権から解放された国々は、ロシアの敵としてNATOへの加盟を促された。東欧の旧社会主義共和国がNATOに加盟し、ロシアに対する直接的脅威が高まった。ロシアは弱体化したのに、ロシアに対する圧力は強まった。
そんな中で、ロシアは軍事力を再構築し、単独で強力な西側同盟に立ち向かう事になった。NATO軍がますますロシアに接近して、演習を行った。このため緊張が高まった。挑発されたロシアは、ウクライナへの侵攻で先手を打とうとした。
その侵攻は、第三次世界大戦の始まりと解釈しても不自然ではない。核兵器を使うという話も出ている。すでに世界は、ロシア制裁の跳ね返りによるエネルギー不足、ロシアの報復による物資不足を我慢しなくてはならなくなった。
極東での挑発もある。米国の高官が台湾を訪問したことで、中国と台湾の緊張が高まった。どちらも重武装化している。アメリカは台湾に多くの武器を売り、中国はより好戦的になった。
マレーシアですら物資不足とインフレに見舞われている。いまや各国が「プランB」を準備する必要に迫られている。なぜならこれは第三次世界大戦の始まりかもしれないからだ。
(プランB: contingency planとも呼ぶ。非常時に備えた計画
以上

注意:これは私訳であり試訳です。恣意訳のところもあります。カタカナを減らすよう努力しましたが、専門用語が多いため誤訳もあると思います。引用はご遠慮ください。

MFA China
2023-02-21 11:12

The Global Security Initiative Concept Paper



Ⅰ.背景

安全保障の問題は、あらゆる国の人々の幸福、世界の平和と発展という崇高な大義、そして人類の未来に関わるものである。

今日、私たちの世界、時代、歴史はかつてないほど変化しており、国際社会は、これまでにないいくつものリスクと課題に直面している。

地域的な安全保障の焦点はくすぶり続けている。地域紛争や混乱は頻繁に起こっている。COVID-19のパンデミックはなお続いている。一国主義と保護主義の機運は著しく高まり、伝統的・非伝統的な安全の脅威はたがいに絡み合っている。

平和、開発、安全保障、ガバナンスの欠落(deficits)は拡大し、世界は再び歴史の岐路に立たされている。

課題山積の時代。しかし、同時に希望に満ち溢れた時代でもある。私たちは、平和、発展、相補の協力という歴史的な流れは止められないと確信している。
世界の平和と安全を守り、世界の発展と繁栄を促進することは、すべての国の共通の追求であるべきだ。

中国の習近平国家主席は、国際安全保障イニシアティブ(GSI)を提唱した。そして各国が連帯の精神で対処すること、根底から変化しつつある国際情勢に適応し、複雑で絡み合った安全保障上の課題に、ウィン・ウィンの考え方で対処することを呼びかけています。

GSIは、国際紛争の根本原因を排除し、国際的な安全保障ガバナンスを改善すること、不安定で変化する時代にさらなる安定と確実性をもたらすための国際的な共同努力を推進すること、そして,世界の堅固な平和と発展を促進することを目的としています。


II. 核心となるコンセプトと原則

1. 留意(stay committed):共通した、包括的で、協力的かつ持続可能な安全保障という展望に向かい前進する

2014年、習近平国家主席は、共通、包括、協力、持続可能な安全保障のための新しい構想を提起した。それは国際社会から広く認められ、支持されている。
この新しい安全保障ビジョンの本質は、共通の安全保障という概念を提唱することである。
まず全体的なイメージとしては、すべての国の安全保障を尊重し、保護することである。
この安全保障構想の本質は、新たに提唱された“共通の安全保障”(common security)の概念にある。
「共通の安全保障」においてはすべての国の安全保障が尊重され、保護される。
伝統的域と非伝統的領域の両方で安全を維持する、全体的なアプローチを目標とする。
また、安全保障機構を強化するために協調する。
政治的対話と平和的交渉を通じて安全保障を実現する。このための枠組み作りをめざす。
そして、開発を通じて社会・経済不安の温床を摘み取っていく。それによって紛争を根絶やしにする。このような生活の安全保障こそが持続可能な安全保障である。
私たちは、安全保障が道徳、正義、正しい考え方に裏打ちされたものであるよう目指す。それによってこそ、強固に確立され、持続可能な安全保障となると信じている。

2. 留意:すべての国の主権と領土の一体性を尊重する

民族自決権の平等と内政不干渉は、国際法の基本原則である。それは現代の国際関係を支配する最も基本的な規範である。
 私たちは、大小、強弱、貧富の差にかかわらず、すべての国が国際社会の平等な一員であると信じている。
国家の内政は外部からの干渉を許さず、その主権と尊厳は尊重されなければならない。また、社会システムと発展の道を独自に選択する権利は支持されなければならない。
民族自決に基づく独立と平等は支持されなければならない。すべての国が権利、規則、機会の面で平等を享受できるよう努力しなければならない。

3. 留意:国連憲章の目的と原則を遵守する。

国連憲章の目的と原則は、2つの世界大戦の苦い教訓に対する世界中の人々の深い反省を具現化したものである。
これらは、人類の集団安全保障と恒久平和のために設計された制度である。
今日、世界で起きているさまざまな対立や不正は、国連憲章の目的と原則が古くなったからではなく、それらが効果的に維持・実施されていないために起きている。
私たちは、すべての国に対して、真の多国間主義を実践することを求める。
私たちは、国連を中核とする国際システム、国際法に裏打ちされた国際秩序、国連憲章に裏打ちされた国際関係の基本規範を堅持する。
そして、国連の権威と地位を堅持することである。それは国際的な安全保障制度の主要なプラットフォームとしての条件である。
冷戦的な考え方、大国主義、ブロックに分かれての対立、覇権主義は、いずれも国連憲章の精神に反するものである。それらは抵抗・拒否されなければならない。

4. 留意:どの国も安全保障上の懸念があるだろう。懸念が正当であれば真剣に受け止める。

安全保障の観点からすれば、人類は不可分な共同体である。
ある国の安全保障が他の国の安全保障を犠牲にすることがあってはならない。安全保障上の利益という点ではすべての国が平等である。私たちはそう信じている。

すべての国の正当かつ合理的な安全保障上の懸念は、真摯に受け止められ、適切に対処されるべきである。無視されるようなことが続いたり、制度を理由に議論を拒否されたりしてはならない。
いかなる国も、自国の安全保障を追求する一方で、他国の合理的な安全保障上の懸念を考慮すべきである。
私たちは、個人と全体の安全、伝統的・非伝統的な安全、安全保障の権利と義務、安全と開発の間の不可分性を提唱する。そしてこのような「不可分な安全」の原則を支持する。
普遍的で相互に共通する安全保障を実現するためには、バランスのとれた、効果的で持続可能な安全保障体制が構築されなければならない。

5. 留意:対話と協議を通じて、国家間の相違や紛争を平和的に解決する。

戦争や制裁は紛争の根本的な解決にはならず、対話と協議のみが相違の解決に効果的である。
我々は各国に対し、戦略的コミュニケーションを強化し、相互の安全保障上の信頼を高め、緊張を拡散させ、相違を調整し、危機の原因を根本から除去するよう求める。
(Strategic communication:多分、安全保障戦略の相互のすり合わせ)

主要国は正義を守り、対等な立場で協議を支援し、関係国の意思に照らして平和のための協議を促進し、善処し、調停しなければならない。

国際社会は、危機の平和的解決のためにあらゆる努力をはらい、紛争当事者が対話を通じて信頼を築き、紛争を解決し、安全を促進することを奨励すべきである。

一方的な制裁やロングアーム司法権を乱用することは、問題の解決にはならず、さらなる困難と複雑さを生み出すだけである。
(遠距離管轄権:ある国の司法が他国在住の被告を自国の法で裁く権利。治外法権の逆概念)

6.留意:伝統的・非伝統的な領域の双方において、安全保障を維持する

今日の世界では、安全保障の概念も拡大している。安全保障はより相互に関連し、国境を越え、多様化している。
これに伴い、伝統的な安全保障の脅威と非伝統的な安全保障の脅威は、相互に絡み合うようになってきている。
我々は、すべての国が国際調整機関における広範な協議、共同貢献、利益共有の原則を実践し、地域の紛争やテロ、気候変動、情報安全保障、生物学的安全保障などの国際課題に取り組む。
(global governance:この場合は国際紛争を解決するための法的調停システム)
持続可能な解決策を見出し、安全保障の国際的調整を促進し、安全保障上の課題を予防・解決するために、複数のチャンネルを探っていく。
それらのための解決法を開発し、関連ルールを改善していくための協調的な努力が必要である。

7.小括

これら6つのコミットメントは相互にリンクし、相互に補強し合っている。それは弁証法的に一体となった有機的な全体である。
これら6つのコミットメントは相互にリンクし、相互に補強し合っている。それは “弁証法的” に一体となった有機的な全体である。
その中では、共通、包括的、協力的、持続可能な安全保障という展望が、概念的な指針となっている。 
それらを一つの言葉にまとめると次のようになる。
まず、すべての国の主権と領土保全を尊重することが大前提である。ついで、国連憲章の目的と原則を遵守することが、第一の基準である。さらに、すべての国が抱く正当な安全保障上の懸念を真剣に受け止めることは重要な原則でありる。対話と協議を通じて国家間の相違や紛争を平和的に解決することは必須の選択である。
そして最後に、伝統的な領域と非伝統的な領域の両方における安全保障の維持は、固有の要件である。


III. 協力とその優先順位

すべての国が平和で安定した対外環境を享受し、国民がその権利を十分に保障され、幸福な生活を送ることができるようにする。
そのために恒久的な世界平和を実現することは、私たちの共通の願いである。

同じ船に乗る乗客のように、各国は連帯して、人類が安全保障を共有する共同体を育み、恐怖がなく普遍的な安全を享受できる世界を築く必要がある。 
これらの平和構想を実現するために、中国は、国際安全保障イニシアティブ(GSI)の枠組みの下で、すべての国や国際機関・地域機関と二国間・多国間の安全保障協力を行い、安全保障概念の調整と利益の収束を積極的に推進する用意がある。
中国は、すべての当事者に対し、相互学習と相互補完を追求し、世界の平和と平穏を共同で促進することを望む。そのために、以下のような側面において、他国との協力を実施することを求める:

1.「平和のための新たなアジェンダ」への参加

国連事務総長による「平和のための新たなアジェンダ」や「私たちの共通アジェンダ」で提示されたその他の提案の策定に積極的に参加する。
紛争予防を強化する国連の取り組みを支持し、平和構築アーキテクチャを十分に活用し、紛争後の平和国家の構築を支援する。
中国・国連平和発展信託基金の事務総長平和安全予備基金(the Secretary-General’s Peace and Security Sub)をさらに活用し、安全保障問題における国連の役割をより大きくするよう支援する。

国連が平和維持の任務を遂行するための能力強化を支援する、
 平和維持活動の三原則である「当事者の同意、公平性、自衛と任務の防衛を除く武力の不行使」を堅持する、 
政治的解決を優先し、症状と根本原因の両方に対処するために全体的なアプローチをとる。
平和維持活動に十分な資源を提供する。アフリカ連合(AU)が自律的な平和維持活動を行うために、十分かつ予測可能で持続可能な資金援助を提供することを支持する。

2. 主要国間の関係強化

主要国間の協調と健全な交流を促進し、平和的共存、全体的安定、均衡ある発展を特徴とする主要国関係を構築する。
主要国は、国際的な平和と安全の維持という重要な責任を担っている。主要国に対し、平等、誠実、協力、法の支配を尊重し、国連憲章および国際法を遵守する上で、模範となることを要請する。
相互尊重、平和的共存、互恵の協力を堅持し、非紛争・非対立の原則を堅持し、違いを留保しつつ共通の基盤を求め、違いを調整する。

3. 核の安全を確保

「核戦争に勝つことは決してできない。決して戦ってはならない」というコンセンサスを堅持すること。
2022年1月に核兵器保有5カ国の首脳が発表した「核戦争の防止と軍拡競争の回避に関する共同声明」を順守する。核戦争のリスクを低減するために、核保有国間の対話と協力を強化する。
核兵器不拡散条約(NPT)に基づく国際的な核不拡散体制を守り、非核兵器地帯の確立に向けた関連地域の国々の努力を積極的に支援する。
核の安全に関する国際協力を推進し、公正かつ協力的で互恵的な国際核保安システムを構築する。

4. 大量破壊兵器とBC兵器その他について

第76回国連総会で採択された「国際安全保障の文脈における平和的利用に関する国際協力の促進」決議を完全に実施する。
国連安全保障理事会1540委員会、化学兵器禁止条約(CWC)、生物兵器禁止条約(BWC)などの枠組みによる協力を実施する。大量破壊兵器の完全禁止と徹底的な破壊を推進する。不拡散輸出管理、バイオセキュリティ、化学兵器に対する防護などの分野において、すべての国の能力を向上させる。

世界の通常兵器管理のプロセスを支持する。
アフリカの意思を尊重することを前提に、小型武器・軽兵器管理に関する中国、アフリカ、欧州間の協力を支持する。アフリカ連合による「銃声の聞こえぬ大陸を」運動の実施を支持する。
人道的地雷除去に関する国際協力・援助を積極的に行い、能力の許す限り、被害国に援助を提供する。

5. 地域紛争の解決のために

国際的および地域的なホットスポット問題の政治的解決を促進する。 関係国が率直な対話とコミュニケーションを通じて、相違を克服し、地域紛争を解決することを奨励する。
内政不干渉の前提の下、国際社会が地域紛争の政治的解決に建設的に参加することを支援する、 
公正さと実用性を基本姿勢とし、主に和平交渉の促進という手段を通じて、症状と根本原因の両方に対処する道を探る。ウクライナ危機などの地域紛争の対話と交渉による政治的解決を支援する。

6. 東南アジア諸国との協力

ASEANを中心とした地域安全保障協力の仕組みとアーキテクチャを支持・改善し、ASEANの合意形成と互いの快適なレベルを受け入れるという方法を堅持する。地域諸国間の安全保障対話と協力をさらに強化する。
「ランカン江・メコン協力」(LMC)の枠組みの下で、非伝統的安全保障分野における協力を促進する努力を支持する。LMC特別基金の下で関連協力プロジェクトを実施し、地域の平和と安定を共同で守るための地理情報システムのパイロット地域となるよう努力する。

7. 中東の平和と安定のために

中東の平和と安定の実現に関する5項目の提案(相互尊重の提唱、公平と正義の堅持、不拡散の実現、集団安全保障の共同促進、開発協力の加速を含む)を実施し、中東の新たな安全保障の枠組みを共同で確立する。

中東諸国が対話を強化し、関係を改善し、すべての当事者の安全保障上の懸念を受け入れ、地域の安全を守る内部勢力を強化する。アラブ諸国連盟(LAS)その他の地域組織を支援するための前向きな機運と努力を支援する。

 国際社会は、パレスチナ問題の公正な解決を早期に実現するために、パレスチナ問題の2国家間解決を進めるための実際的な措置をとり、より大規模でより権威と影響力のある国際平和会議を招集すべきである。

8. アフリカの平和と安定のために

AUその他の地域機構の安全保障への努力を支持する。アフリカ主導のテロ対策活動に財政的・技術的支援を提供する。さらにアフリカ諸国が独立して平和を守る能力を強化するよう支持する。
アフリカの問題にアフリカの方法で取り組むことを支持し、アフリカの角、サヘル、大湖地域等での地域紛争の平和的解決を促進する。
「アフリカの角の平和と発展に関する展望」を積極的に実施し、「平和・統治・発展のための会議」の制度化を推進し、協力プロジェクトの立ち上げに積極的に取り組む。

9. ラテンアメリカの平和と安定のために

ラテンアメリカ・カリブ海諸国が、「平和地帯宣言」に記載した約束を積極的に履行することを希望し支援する、 
そして、ラテンアメリカ・カリブの地域機関が、平和と安全を守り、地域の紛争地域を適切に処理するために積極的な役割を果たすことを支持する。

10. 太平洋島嶼国

気候変動、自然災害、公衆衛生に関する太平洋島嶼国の特別な状況と正当な懸念に高い関心を払い、その努力を支援する。「青い太平洋大陸のための2050年戦略」の実施を支援する。
島嶼国が非伝統的な安全保障上の脅威に対処する能力を向上させるために、資材、資金、人材の提供を増加させる。

11. 海洋及び国境河川の安全

海上の対話と交流、実務協力を強化し、海上のトラブルを適切に処理する。海賊や武装強盗を含む海上の国際犯罪に協力して取り組み、海上の平和と静穏、シーレーンの安全を共同で保護する。
国境を越える河川の上流国と下流国に対し、国際協力に積極的に取り組み、対話と協議を通じて関連する紛争を解決する。国境を越える河川における船舶の安全を確保し、水資源を合理的に利用・保護し、国境を越える河川の生態環境を保護するよう呼びかける。

12. 強化:国際テロへの対処

世界的なテロとの闘いにおける中心的な調整役としての国連の役割を強化すす。
国連総会および安全保障理事会のテロ対策決議と国連国際テロ対策戦略を完全実施し、国際社会を支援する。 
安全保障理事会が指定したすべてのテロ組織と個人を共同で取り締まる。
発展途上国のテロ対策能力を高める必要がある。このため、より多くの国際テロ対策資源を途上国に提供すること。

テロを特定の国、民族、宗教と関連付けることに反対する。
新興技術が世界のテロとテロ対策に与える影響が強まっている。それに関する研究と対応を強化する。

13. 情報保安分野における国際協力を深化させる

中国は「情報保安に関する世界基準作り」を提唱している。すべての当事者の意思を反映し、利益を尊重するデジタル管理に関する国際規制を策定するよう呼びかける。
情報保安に関する中国・LAS協力計画と中国・中央アジアのデータ保安についての協同計画を実行し、様々なサイバー脅威に共同で対処し、開放と包摂、正義と公正、安全と安定、活力と活力を特徴とする情報空間の国際管理システムの確立に取り組む。

14. バイオ領域の保安とリスク管理の強化

バイオセキュリティ・リスク・マネジメントを強化する。
責任あるバイオ科学研究を共同で提唱し、すべての関係者が自主的に「科学者の行動規範のための天津バイオ研究保安ガイドライン」を広げていく。
研究所のバイオ保安能力の構築を共同で強化し、バイオ保安上のリスクを低減し、バイオ工学の健全な発展を促進する。

15. 情報技術に関する保安

中国は、人工知能(AI)及びその他の新興技術に関する国際安全保障ガバナンスを強化し、潜在的な安全保障リスクを予防・管理する。そのため軍事的応用の規制やAIの倫理的規制の強化に関する「基本的見解」を発表している、 
そして、AI保安管理に関する国際社会との情報交流を強化し、幅広い参加による国際的なメカニズムの確立を促進する。
そのため広範な合意に基づく管理機構、基準、規範を開発する用意がある。

16. 宇宙空間における国際協力

宇宙空間における国際協力を強化し、宇宙空間における国際秩序を保護する。
国際法に基づき宇宙空間での活動を行い、軌道上の宇宙飛行士の安全と宇宙施設の長期的かつ持続的な運用を確保する。
宇宙空間を平和的に利用するすべての国の平等な権利を尊重し、これを確保する。
宇宙空間における兵器化と軍拡競争を断固として拒否し、宇宙空間における軍備管理に関する国際的な法的手段について合意を形成する。

17. 保健医療と安全保障

世界保健機関が公衆衛生における国際的管理において主導的な役割を果たすことを支援する、 
COVID-19やその他の主要な世界的感染症に共同で対応するために、世界的な資源を効果的に調整し動員する。

18.  食料・エネルギー安全保障について

世界の食料・エネルギー安全保障を守る。国際農産物貿易の円滑な運営を維持し、安定した穀物生産と円滑なサプライチェーンを確保する。
食料安全保障問題の政治化・武器化を回避するため、行動調整を強化する。
国際的なエネルギー政策の協調を推進し、エネルギー輸送を確保する。そのため安全で安定したエネルギー環境を作り、世界のエネルギー価格の安定を共同で維持する。

19. 国際犯罪への対策

国連の国際組織犯罪防止条約を完全かつ効果的に実施すること。
すべての国に対し、国際犯罪と闘うための国際条約、条約、協定の締結・参加、制度的取り決めを奨励する。
国連の国際薬物統制3条約を支持し、国際薬物統制システムを保護し、国際社会における協調、責任の共有、相互の誠実な対応を実現する、薬物問題がもたらす課題に共同で取り組み、薬物の害のない人類共通の未来を持つ共同体を構築する。
各国の主権を尊重した法執行協力を積極的に行い、法執行能力と保安能力を共同で向上させる。
開発途上国のために、自国の安全保障上のニーズに対応したより多くの法執行官を養成するためのグローバルな研修システムの確立を支援する。

20. 持続可能な開発の展開に伴う持続可能な安全保障の推進

気候変動への対応、安定的で円滑な供給・産業チェーンの維持に向けた各国間の協力を推進する、 
持続可能な開発にともない持続可能な安全保障を促進する。このために、国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施を加速させる。


IV.  協力のための基礎と構造

1. 国連機関を中心とすること

総会、関連する国連委員会、安全保障理事会、関連機関、その他の国際・地域機関において、平和と安全に関する広範な議論と意思疎通を行う。
また、安全保障上の課題に対処するために、国際社会の合意を得るための共通の計画や提案を、それぞれの委託に基づいて行う。

2. アジア地域の協力機構

安全保障協力を段階的に実施する。また、類似または同一の目標を達成することが必要である。このために上海協力機構、BRICS協力、アジア交流・信頼醸成措置会議、「中国+中央アジア」メカニズム、東アジア協力の関連メカニズムなどの役割を活用する。
また、湾岸地域における多国間対話プラットフォームの構築を促進し、アフガニスタン周辺国外相会議や中国・角アフリカ平和・ガバナンス・開発会議などの調整・協力メカニズムの役割を発揮させる。

3. 国際安全保障イニシアチブ(GSI)に関する機構・組織

GSIに関するハイレベルな会議を順次開催し、安全保障分野における政策発信を強化する、 
政府間の対話と協力を促進し、安全保障上の課題に対処するための国際社会における相乗効果をさらに促進する。

4. 国際対話プラットフォーム

中国・アフリカ平和安全保障フォーラム、中東安全保障フォーラム、北京向山フォーラム、世界公共安全保障協力フォーラム(連雲港)及びその他の国際対話プラットフォームが、安全保障に関する交流と協力の深化に貢献することを支援する。
政府、国際機関、シンクタンク、社会組織がそれぞれの利点を生かし、グローバルな安全保障ガバナンスに加わる。このための新たなプラットフォームを提供する。より多くの国際安全保障フォーラムの設立を推進する。

5. 非伝統的安全保障の領域での能力向上 

非伝統的安全保障の領域における管理能力を向上させる観点から、テロ対策、サイバー保安、バイオ保安、新興技術などの分野における安全保障上の課題への対応に関する交流と協力のための国際基準と仕組みを構築する。
大学レベルの軍事科学、警察機関などの交流と協力をさらに奨励する。
中国は、グローバルな安全保障問題に対処するための専門家を育成するために、今後5年間で5,000件の研修機会を他の発展途上国に提供する用意がある。

終わりに

GSIは、開放、包摂の原則に則りすべての関係者の参加を歓迎する。そして共同して豊かな明日を実現したいと望む。そのため、相互協力の新たな形態と分野を積極的に模索する。
中国は、平和を愛し、幸福を希求するすべての国や人々とともに、あらゆる種類の伝統的・非伝統的な安全保障上の課題に取り組む。
地球の平和と平穏を守り、人類のより良い未来を共同で創造し、平和の松明が世代から世代へと引き継がれ、世界中で輝き続けるよう、取り組むつもりである。

以上


TeleSur
20 October 2022

Yemen Appoints New Negotiators to Proceed Talks With Houthis

イエメン、フーシとの新たな交渉窓口を指名


イエメンの国際承認政府は、長年にわたる軍事衝突の終結を目指し、フーシ派武装勢力との和平交渉を進める交渉団を結成した。交渉団は、アフメド・アワド・ビン・ムバラク外務大臣が率いる11人より成り、フーシ派との和平交渉の計画を整理した。この委員会は、イエメンの南部と北部の州民を等しく代表する大統領諮問会議(PLC)によって選ばれたもので、南部独立を目指す南部移行評議会(STC)が初めて交渉委員会に含まれる。

これまでは国連を中心とした一連の国際的な取り組みが行われてきた。イエメン国内の派閥間の6ヶ月間の人道的停戦が続いていたが、今月初めに暗礁に乗り上げた。交渉チームの再編成は、交渉のための新たな条件を切り開くことをめざしている。
国連は、休戦をさらに6ヶ月間延長し、新たな合意事項を含むよう広げることを提案したが、フーシ派はこの提案を拒否している。

TeleSur
22 March 2023

物価高騰の中、ラマダンの準備に追われるイエメンの人々
Yemenis Struggle to Prepare for Ramadan Amid Soaring Prices




ラマダンを迎え、イエメンの首都サヌアで人々は買い物に追われている。しかしいまなお進行中の内戦と高インフレが、祝祭ムードに水を差している。

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ラマダン期間中、イスラム教徒は夜明けから夕暮れまで飲食を控える。日没までナツメヤシと水で断食し、モスクで礼拝をした後、自宅で家族と一緒にさまざまな料理を楽しみます。

アブドゥラ・アブドゥルサラームさんは市内中心部のマーケットで語りました。

「ラマダン "用の食料品を買いに来たのですが、物価の高さにショックを受けました。私たちは、この国が安全で安定し、平和であることを望んでいます。それが私たちの一番の願いです。それから物価が下がり、低所得者にも手が届くようになるよう願っています」

教師を務めるアマル・ムタハルさんは、25kgの白小麦粉と5kgの米袋を買っただけでした。

「肉、マカロニ、砂糖、菓子、フルーツジュース、調理用ガスなど、どれも昨年のラマダンに比べて30%以上上昇しています。もう買う余裕はありません」

戦争、封鎖、通貨暴落により物価が高騰し、イエメンの人々のほとんどが極度の貧困状態に追い込まれています。

イエメンでは5歳以下の子どもたちが栄養失調で1,000人以上(10分に1人)亡くなっています、 

「学者」は、「資本主義は『富を生み出す』から完璧だ」と言います。でもみなさん、資本主義とは、もっとひどい格差を生み出すものでもあるのです。

世界食糧計画(WFP)は、イエメンの飢餓が「前例のない」水準にあると警告しました。
これによると、
約1700万人が満足な食料を持たない、3分の1の家庭が貧しい食生活を送っており、豆類、野菜、果物、乳製品、肉などの食品をほとんど食べていない…

イエメンの紛争は9年目に突入しています。国連は戦争を終結させ、イエメンの人々を救済し、政治的解決策を見出そうとしています。
戦争は2014年末、フーシ派民兵が北部の複数の都市を占領し、サウジアラビアが支援するイエメン政府を首都サヌアから追い出したことで始まりました。
この戦争により、数万人の死者と400万人の避難民が発生し、国は飢餓の瀬戸際に追いやられています。
米国は世界最大の武器・爆弾輸出国であり、過去5年間の世界販売額の3分の1以上を占めています。
その半分以上は中東、とくにサウジに供給され、イエメンの人々を残虐に殺すために使用されている。


2023年3月18日

北海道AALA 学習会のためのレジメ

ウクライナ戦争を通じて戦争と平和を考える

ウクライナ政府の対応を中心に


はじめに 私の思想転換の5つのステップ

ウクライナ戦争開始Ⅰ周年を機に、これまでの、私の考えの流れを振り返ってみたいと思います。一つの流れは、言うまでもなくウクライナ戦争そのものの評価の流れです。もう一つは、それが日本と私たちの「戦争と平和をめぐる考え」にどうインパクトを与えているかの分析です。

今まで前者について多く語ってきましたが、後者の問題についてはすっきりと整理できていなかったと思います。とくにウクライナ側の対応についての省察です。この学習会を機に、日本における平和のあり方について、ウクライナ戦争が何を教えてくれたかを考えてみたいと思います。

考え方を整理するために、この1年間を次のように分けて考えてみることにしました。分類の指標は、おもに自分の考え方が大きく変化する変曲点でもあります。

0.戦争開始前の自衛論

1.2月24日 武装侵攻開始の反応。ロシア大国主義への怒り

2.ウクライナ軍の武装抵抗への共感と違和感

3.アメリカの関与が明らかになる。この戦争の複雑さへの理解

4.停戦路線の中断と武力対立路線への固執。続けてはいけない戦争。

5.完全な膠着状態への移行と、果てしない犠牲。無条件平和の呼びかけ。

以下、これを目次としながら考えてみたいと思います。

………………………………………………………

0.我が国における自衛論の柱

この問題は膨大な内容を抱えており、正確な表現はできません。私の個人的な感想になってしまうと思いますが、議論を進めるための踏み台と思って聞いておいてください。

柱は以下の5つです。

*自衛権は民族自決権の一部であり、民族固有の権利である。

*実際には自衛権が発動される場面はない。自衛権は非戦の思想と結びついてこそ生かされる権利。

*他国に防衛を頼む「抑止力切り離し」理論は有害無益。厳密な抑止は存在せず、関係国の意思次第。しかし義務は絶対。

*非武装中立や専守防衛が持つ自己矛盾。大事なのは、「形から入る」のではないということ。あれこれのオプションではなく「非戦」の思想をつらぬくこと。

*近隣諸国と不戦・平和のパートナーシップを結び、東アジアに非核・共栄の多国間連合を構築することが最大の保障となる。
これにはウクライナ体験を踏まえての最近の考え方もふくまれています。おふくみ置きください。

1.侵攻開始への初期反応

A) 私たちはすべて「正義派」だった

報道を受けての最初の感想は、「信じられない、ハンガリー・チェコ侵攻の再現か」というものでした。一瞬のうちに日本国民のほとんどが反ロシア派となりました。反応をまとめると次のようになると思います。

*ロシア・真っ黒、ウクライナ真っ白。

*対ロ経済制裁、全面的なウクライナ支援。事実上の軍事支援承認

*「国連憲章を守れ」という事実上の強硬路線。

B)「なぜ?」の問いかけは省略された

*ロシア人芸術家やスポーツ選手の排除が何の疑問もなく強行されました。これは戦時中の日本人強制収容と同じ発想です。名歌手アンナ・ネトレプコは各地の歌劇場からパージされるに当たりこう述べました。

「私はこの戦争に反対だ。私はロシア人で祖国を愛している。ウクライナにも多くの友人がいて、彼らの苦境に心を痛めている。この戦争の終結と平和が私の望みである。付け加えるなら、芸術家に祖国への糾弾を強制するのは正しいやり方ではない。政治的分断を超えた和合が私の目的だ」

ネトレプコ

*開戦の当初からNATO諸国のウクライナへの軍事支援が行われている。交戦国の一方に対する軍事支援の可否は、戦争そのものとは別問題である。これについて和仁健太郎はこう論じている。

諸国がウクライナに与えている軍事援助について、その交戦国(ウクライナ)が合法的に武力を行使する国である場合には集団的自衛権により正当化されるが、…他方交戦国(ロシア)によって違法な武力行使または武力攻撃とみなされる可能性を排除できない。(https://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2020/2022-12_003.pdf?noprint)

*「国連憲章を守れ」と言うのは、「撤退なくして交渉なし」と事実上同義語になります。これは現実を考えると無理な話で、「交渉なくして撤退なし」というのが常識でしょう。

ということで、西側勢力によって論理のすり替えが行われていることに、やがて気づいていくことになります。


2.ウクライナ軍の武装抵抗への共感と違和感

当初はロシアへの怒りと、ウクライナへの同情がありました。そこへもってきた圧倒的劣勢と見られたウクライナ軍の予想外の健闘があり、それが「ウクライナ頑張れ」の声援へと広がっていきました。

ここでの違和感はふたつ、

*ウクライナの無条件美化、NATOの “やらせ” は無視。

*「本土決戦」という最悪の反応への疑問

現在では、救世主と呼ばれた対戦車ミサイル「ジャベリン」を始め多くの米国製武器が前線配備されていたことが明らかです。それは、「ウクライナ軍は弱小を顧みず果敢に立ち向かった英雄」というイメージとは異なったものでした。

そのことが分かったのはだいぶあとのことですが、それが分からずとも、ウクライナ政府の「本土決戦」の決意は異様なものでした。

過ぐる世界大戦において沖縄を失い、満州を失い、原爆の被害にあっても、日本はなおかつ戦争を継続しようとします。最後の選択肢となったのが「本土決戦」でした。しかしさまざまな経過の上、最後に和平派が好戦派を押し切って無条件降伏に至ります。ウクライナはまさにその地点をスタートにして戦争をやろうというのです。私からみればそれは「狂気の沙汰」です。敵の砲弾も味方の砲弾も米国からもらった砲弾も、落ち行く先は皆ウクライナの国土と国民の上です。

なんとか避ける方法はなかったのでしょうか。避ける勇気、正気はなかったのでしょうか。


3.アメリカの関与が次第に明らかになる

*この戦争の複雑さへの理解。米国外交主流派がロシアいじめに反対。ネオコンを糾弾。

*「ミンスク合意」に立ち帰る道、それを妨げるもの。
省略された「なぜ」の問いかけにこだわった人たちの疑いは、その後、他でもない米国外交の主流を占めていた人たちの発言によって、深まっていきます。そして「ミンスク合意」の存在を知って、「戦争は避け得た」という確信へと変わっていきます。

国務省旧主流派とはジョージ・ケナン、ヘンリー・キッシンジャー、ミアシャイマーなどです。彼らの活躍した時代は冷戦終結の時代に重なります。彼らはソ連・ロシアと欧州平和の構造を維持することで一致しました。ところが米国外交がネオコン(保守過激派)の方向にぶれていき、ロシアを追い詰めました。つまり米国こそが、ロシアのウクライナ侵攻を招いた真の犯人だとするのが、彼らの共通した見解です。それは子供の頃のいたずらにも似て、大人しくしている近所の犬をいじめて、唸り声をあげて向かってきたら、「わーい」といって逃げる。ところが犬に綱がついてなかったから、「さぁ大変」といったところです。

綱だったはずのものがミンスク合意です。その唯一の利点は、「叩き台」として合意されているということに尽きます。合意なんてものは無きに等しい、むしろ“相違点が合意された”というべきものです。

その後、流産に終わりましたが「4月イスタンブール合意」というものも存在します。報道(22年4月4日日経)によれば

(1)ウクライナの首都キーウ周辺におけるロシア軍の軍事活動の大幅縮小、

(2)ウクライナの「中立化」(NATO非加入)

(3)クリミア半島の主権に関する今後15年間の協議。

というものです。

以上のことから、戦争を速やかに停止に導くことこそが、アメリカの恐怖支配を終わらせる唯一の経路だということが分かります。

米国の本音は、そもそも交渉などさせないということです。そのためには「なんとかの虐殺」やパイプラインの破壊などためらうところがありません。


4.引き裂かれた停戦路線

思い出してほしい。

3月30日には停戦交渉がいったん終了し、ロシアはキエフ周辺の兵力引揚げを通告。自衛隊情報召喚はこのような見通しを語っていた。「ウクライナがロシアの即時撤退まで求めるのか、ロシアによる掌握を認めるのかなど、その取り扱いが焦点だ」(NHKニュース)

4月5日、突如「ブチャの虐殺」キャンペーンが始まりました。「虐殺は非人道的だから、そのような勢力との間に妥協はない」というのがウクライナと西側勢力の言い分でした。これこそ戦争の最大の岐路でした。市民が虐殺されたことも問題ですが、それよりはるかに深刻なのは、和平の道がこれで閉ざされたことです。ついトンキン湾事件(ベトナム戦争のきっかけとなったでっち上げ)を思い出してしまうのは私だけでしょうか。


その後の経過は次のように整理されます。

*武力対立路線への固執。続けてはいけない戦争が続く。

*非西側諸国の離反。西側諸国の独善と二重基準に反感。

*ウクライナ国民は支援しても、ウクライナ政府支援はできない。
押さえて置かなければならないこと、始めてはいけない戦争を始めたのはロシアです。しかし続けてはいけない戦争を続けたのはウクライナ(の側)だということです。我々はウクライナ政府に、これ以上寄り添うことはできません。

もう一つ吟味すべき問題があります。西欧社会が人権を至上の価値としながら、反人権の極致たる戦争を継続しさらに激化させていることです。和平を願う声はかき消され、ひたすら憎しみだけが掻き立てられている状況は異常というほかありません。


5.膠着状態への移行

4月上旬に和平への願いが打ち砕かれ、戦闘が続いています。この間西側の報道は、ウクライナ軍が各地で反撃に出ている。ロシア軍は消耗し戦線維持が困難になっている。ロシア兵の士気は低下し、各地で住民への残虐行為が続発している。という三本立のキャンペーンを続け、戦闘継続を合理化してきました。

しかし昨年暮れ辺りから、戦況は決してウクライナ有利というものではなく、ひいき目に見ても拮抗状態という見方が広がっています。今度は、「このままでは危険、もっと多くの武器を」と叫び始めました。まさに戦時中から末期にかけての大本営発表を思い起こさせます。最後は「一億玉砕」となるのでしょうか。

現段階での政治状況の要点はこうなります。

*果てしない犠牲。さらに武器をつぎ込む西側諸国

*ウクライナの焦土化と荒廃、それはロシアのせいなのか

*和平工作を試みる非西側諸国と、これを敵視する西側諸国

端的に言えば、さまざまな戦争の中でも最悪な経過を取りつつある戦争のひとつと言えます。

6.ウクライナ戦争=本土決戦の日本にとっての意味

*本土決戦の恐ろしさ。あのときもし日本が本土決戦に入っていたら…

*非戦を貫くことの大切さ。どんな事があっても刃は抜かない、戦争は回避するという決意

*抑止力、核の傘概念は無間地獄。軍事同盟は平和同盟ではなく危険同盟。

以下は戦中派・森嶋通夫の有名な「白旗・赤旗」論の一節。当時の“仮想敵国”であるソ連を念頭に置いたものです。

…いずれにせよ最悪の事態が起これば、残念ながら日本には一億玉砕か一億降伏かの手しかない。玉砕が無意味なら降参ということになるが、降参するのなら軍備はゼロで十分だ。

…不幸にして最悪の事態が起これば、白旗と赤旗をもって、平静にソ連軍を迎えるよりほかない。34年前に米軍を迎えたように、である。

凄まじいリアリズムですが、反論の言葉を飲み込まざるを得ない、殺気にも似た迫力があります。



脳の進化


理研脳科学研究所という機関があって、若者向けに面白いサイトを立ち上げている。

書き出し快調だ。

脳は新たな機能を加えながら進化する。
脳は、基本構造が変化するのではなく、新しい機能が付け加わるように進化してきた。つまり、ヒトの脳の進化を知ることは、生物の進化を知ることにつながるのだ。
それこそ私の思うところとまさに響き合う。

…と書いたら、次に下の絵が載っていてがっかり。言っていることとやっていることが逆さまだ。

know_structure

*「終脳」は線維性連絡はあるが、明らかに左右別々である。すなわち脳幹そのものではなく、そこから突出した「脳幹付属体」である。それは視神経や嗅脳、小脳が、キノコのように脳幹からせり出していくのと同じである。
*したがって前脳の後身は、視床+視床下部(=間脳) ということになる。そうなれば、間脳、終脳という言葉は不要になる。
*説明文にもその通り書いてあるではないか。「脊椎動物の脳は、どの生物種でも基本構造は同じで、脳幹、小脳、大脳から成る」
*それは発生学的にも確認済みだ。大脳の発達は前脳(視床+視床下部)の両脇から「せり出し」てきた外套が、前脳の上部を覆うように増大するところから始まる。それは程度の差こそあれ脊椎動物の初期から見られる発生過程である。

ついでに書いておくが、脳の地名には大脳帝国主義が満ち溢れている。大脳辺縁系、大脳基底核、古皮質・新皮質など上から目線の階級的差別感むき出しだ。
この説明文にも次のような記載がある。
「魚類と両生類では、大脳には、生きていくために必要な本能や感情をつかさどる“大脳辺縁系”しかない。進化的に古い大脳辺縁系は”古皮質”と呼ばれる」
進化と発達を決して否定するものではないが、著者が最初に書いたように、「脳は、基本構造が変化するのではなく、新しい機能が付け加わるように進化してきた」はずである。

どうもこの間違いの根源は、「人間の脳は他の動物とどう違うのか」という問題設定から作業を開始していることではないか。この問いには無理があって、多分調べれば調べるほど同じだということがわかることになるのだろうと思う。まずはヒドラやプラナリアの脳ととう違うのか、ホヤやヒラムシの脳とどう違うのかを調べるほうがはるかに生産的だと思う。


TheGrayZone
JANUARY 19, 2023

イランに関するフェークニュースが爆発的に増加

Iran’s unrest triggers explosion of fake news


by S. SADEQI AND C. WEAVER


リード

この数カ月間、企業メディアや著名なインフルエンサー、欧米の指導者たちがイラン政府に対して激しい非難を加えた。
その中には、捏造も混じっている。しかしそのほとんどは修正されないままだ。

以下本文

2022年9月、イランで起きた抗議デモは、表向きは警察の留置場で女性が死亡したことに対する反応として始まりまったが、欧米、イスラエル、サウジアラビアの通常の容疑者だけでなく、これまでイラン問題にコメントした実績のない著名なソーシャルメディア・インフルエンサーからも、同政府に対するかつてないほどの国際的反発を招いている。

イランは、制裁、武装蜂起、軍事介入、あるいはその3つの組み合わせなど、あらゆる手段で政権交代への国際的な支持を得ることを唯一の目的とした、慎重に調整された情報戦の標的となっているのである。

ペルシャ語を話せず、イランの政治や文化をほとんど理解していない数十億人のインスタグラムのフォロワーという、ほとんど無批判な視聴者の前で、ハリウッド俳優や落ち目のロッカー、トップモデルたちが、イランの治安部隊によるデモ隊への報復的な家屋解体や虐殺などの悲惨な虐待を描いた病原ウィルス投稿をしています。

BBCからNew York Postまでの西側メディアが、イランがウクライナでロシアに殺された民間人よりも多くのデモ参加者を殺害したと非難する報道を次々と展開する一方で、シンクタンクの論者やNATO諸国の政府指導者は、テヘランは反政府デモに参加しただけで15000人に死刑判決を下したとしている。

このような恐ろしい話は、確かに政権交代を求める声を正当化するように思える。が、ただひとつ問題がある。それらは単なる作り話なのだ。

実際、この数カ月間、旧来型メディアや著名人、欧米の指導者たちがイラン政府に対して行った最も扇動的な非難の中には、純粋な捏造もあれば、インパクトの割に重要な文脈が欠けいているものもある。
そして偽の報道や偽の投稿のうち、公式のファクトチェッカーによって撤回されたものは皆無である。

以下に挙げる政権交代の偽情報の例は、2022年9月以来のプロパガンダ戦争のほんの一例だ。しかしこれだけでもはっきりすることがある。
企業メディアやソーシャルメディアのファクトチェッカーは、イラン政府を題材にするときは、最低の誠実基準さえも行使していないということだ。


BBCペルシャ、「イランはウクライナのロシア人より多くの人を殺している」と非難

11月18日、BBCペルシャは、車両に火をつけて歓声を上げるイラン人の群れを写した画像をネットメディアに投稿した。
見出しには、こう書かれている。「抗議行動に対する血なまぐさい弾圧は、ウクライナ戦争並みの死者を出した」

この誇張された見出しは、BBCの記事の第3段落で、全く異なる、恣意的に選ばれた日付を指していると説明されている。

BBCの記事はこうだ。
「人権団体の報告によると、9月22日から10月17日の間にイランでは224人のデモ参加者が死亡し、9月1日から9月25日の間にウクライナでは216人のウクライナ人が死亡している」 
どの「人権団体」がこの曖昧な文言の統計を提供したかは明記されていない。


「クライマーが逮捕、家は取壊しに」と言うフェイクニュース

CNNは、2022年10月15日、イラン人女性ロッククライマー、エルナズ・レカビさんが韓国の大会にヒジャブなしで参加したことへの罰として、実家が取り壊されたと報じた。

イラン代表チームのメンバーであるレカビは、韓国の大会後に講演し、スカーフを着用しなかったのは、急な大会のため意図的ではなかったと説明し、政治的主張として意図したものではなかったと述べた。
英語サイトでは、レカビ選手が拉致され、その報復として彼女の実家が「政権」によって破壊されたとの記事が流され始めた。

BBC、The Guardian、Le Mondeなどは、レカビが行方不明になったと決めつけ、その行方を懸念する声を上げていました。
 誤報が相次いだため、イラン大使館はツイッターで記録を訂正した。
その後、レカビはInstagramで「元気で帰宅の途中です」と発表した。

大切な実家が破壊されたことについて、地元メディアは次のように報じている。壊された30平方メートルの建物は、レカビの兄が所有するもので、違法に建てられた120平方メートルの建物の一部である。そこは実家ではない。

大会のちょうど1年前の2021年10月18日、レカビの兄はザンジャン州の当局から不正用途の通知を受けた。そこは農地として指定されていた。違反が解消されなかったため、建物は取り壊された。


「1万5千人のデモ隊参加者に死刑宣告?」
ハリウッドセレブのトルドーが、デマを流してイランを糾弾

イランの著名な学者であるヴィオラ・デイヴィス、イライジャ・ウッド、ソフィー・ターナーらとともに、カナダ首相のジャスティン・トルドーは、共同アピールをソーシャルメディアに掲載した。
そこには「イランが1万5千人の抗議者に死刑宣告」と記載されていた。

「イランは抗議行動に参加しただけの人たち1万5千人に死刑を宣告した」という異常な主張を押し出した『ニューズウィーク』の記事は、たちまちソーシャルメディアで大評判となって拡散された。
しかし、この主張は公式の「ファクトチェッカー」によって否定されている。BBC、The Guardian、Time Magazineも同様の措置を取った。
この問題を騒ぎ立てた他の著名人投稿を削除する中、イライジャ・ウッドのツイートは、「1万5千の死刑囚」見出しを掲げ続け、6000以上の「いいね!」を獲得して今も活動している。

この偽情報の根拠となったのは、イラン議会が暴力的な暴徒に対して、より強力な措置を取るよう求めた公式な要請である。
その内容は次のようなものである。
「290人中227人の国会議員が、最近の暴動における挑発者たちにしっかりと対応するよう司法に求めた...。
私たちこの国の代表は、司法府を含む国のすべての関係者に、『ムハリブ』への早急な対処を求める…。
ISISのようにあらゆる種類の武器を使い、人々やその財産を攻撃するような人々に対し、法律に従って非妥協的に毅然として立ち向かうべきである。これらの問題において妥協することはできない。 

ムハリブは、「暴力集団」と訳される。デモ参加者とは異なり、武器を持ち陰謀的な活動に従事する人々を特に指す。
法律では、ムハリブは処刑されるか国外追放されることになっている。

では、「政府に抗議しただけで1万5000人のイラン人が死刑になった」という全くのでたらめな主張はどこから出てきたのだろうか。

イラン移民のオミド・メマリアンは、CIAの情報提供者である故ジャマル・カショギの名をとった組織「Dawn MENA」で働いている。彼が「幻の1万5千人」について最初にツイートした。

彼のツイートに続いて、カリム・サジャドプールが登場する。サジャドプールは、ベルトウェイを拠点とするイランの反政府活動家で、NATOの国費を投入したカーネギー財団に雇われている。
彼こそが、イランが1万5千人のデモ参加者を投獄したと、何の根拠もなく主張したのである。

メマリアンとサドヤドプールはいずれもイラン国外に住んでいる。彼らは生活のすべてをアメリカ帝国のエリート機関に依存している。
それにもかかわらず、Reader Supported Newsは、「彼らがイランの著名人であり、外国政府からの対応を求めている」と述べ立てた。


三度も死んだ女の子

9月28日、子供向けファンタジー作家で大金持ちのJ.K.ローリングは、次のような投稿をリツイートした。

こんなふうな説明がつけられた。「イランのある父親が、娘の結婚式で踊るために長生きすると約束した。しかし娘は髪を隠していなかったためにイランの道徳警察に殺され、父親は娘の葬儀で踊ることになった」

この感染力の強いツイートには、2018年に放送されたアゼルバイジャンのドラマシリーズ「Ata Ocagi」(Hearth of Father)のビデオクリップが添付されていた。

「偽の死んだ少女」はシリアの「政権」に殺され、生き返ってはコビドに屈し、さらにアヤトラの治安部隊に無残に切り捨てられた。

これほど何度も公式の敵やウイルスにより迫害されて、これほど何度も恐ろしい死を遂げた人はいないでしょう。


国連イラン専門家の想像によるクルド人名禁止令

2022年11月に国連で行われた記者会見で、イランの人権状況に関する国連の特別報告者であるジャイード・レーマンが虚偽の主張をした。
「イランはクルド人の名前の戸籍登録を禁止している」

実際には、イラン政府のオンライン公式名簿によると、少なくとも5686人が自分の名前をジーナと登録しており、これはマサ・アミニのクルド名だった。
レーマンは述べた。
「クルド人は歴史的にも現代的にも、基本的人権を否定されてきた。例を挙げると、ジーナはクルド人の名前ですが、国家はクルド人のアイデンティティをいかなる形であれ認めていません。このため、彼女はその名前で戸籍登録できませんでした」

下の写真(略)は、イランの公式戸籍登録のスクリーンショットで、少なくとも5686人がZhinaと名付けられ、それがまだ有効な名前であることが示されています。

なぜ国連がいまだにジャビド・レーマンのような人物をイランの内政に関する専門家とみなしているのか、謎である。


元サッカー選手のアリ・カリミ、あからさまな嘘でハットトリックを達成

インスタグラムで1440万人のフォロワーを持つ元イランのサッカースター、アリ・カリミは、彼の生まれた国の現在の騒乱に特に影響力のある役割を果たしている。

彼はまた、広く流布された3つの嘘に貢献している。
信用がないにもかかわらず、“意地悪爺さん”のようなカリミは、反イラン宣伝のためにドイツ大統領に温かく迎え入れられた。

アリは、下の写真(略)はDShK重機関銃によって射殺されたイランのデモ参加者であると主張している。この銃は長さ108ミリメートルの弾を発射する。その衝撃波は、神経に致命的なダメージを与えるほど破壊的です。

アリ・カリミのインチキ画像は、彼のファンの一人によってすぐに否定された。
「私はアリ・カリミを愛していたし、今も愛している。しかし正直に言うと、これは隣村の私の友人が数ヶ月前にバイク事故に遭った後の写真だ」
そして、そのファンは右側の写真を掲載し、「これは自分の携帯から撮った全貌だ」と記載した。
その後判明したのは、写真の男性は、ハメダン州ヴァリネ村に住むアリ・ハミドヴァンドさん。
022年7月13日に起きたバイク事故の後、彼の足は切断された。
憤慨した彼は、アリカリミが写真を反政権キャンペーンに悪用したと非難し、司法当局に措置を取るよう求めた。

アリ・カリミは、他にも2016年にアフガニスタン起きた爆破事件の画像を盗用し、イランのクルド人の街でイラン警察が行った虐殺と偽っている。

Karimiはまだ他にもやっている。パキスタンの慈善団体の2012年募金活動から写真を盗み出しウソのキャプションを付けている。

「灼熱の中、弟を膝に抱く少女の姿が映されている。イランの治安部隊に虐待されているバルーチ族の子どもたちを描いたものである。この人たちの権利は、生涯を通じて常に侵害されてきた」


実在しない死者が、生きているイラン人ラッパーであることが判明した

ナディア・アレファニという人物は、イランの治安部隊による虐殺の犠牲者として紹介されている。
しかし、ソーシャルメディアに出回っているアレファニの画像は、あまり有名ではないが、ニルーファルというイランのラッパーが生きている姿を描いたものだ。
ひょっとするとArefani自身は、まったく存在しないかもしれない。
この写真は、政府に対する武装を奨励し、暴力的な反乱を自由と独立への道として描いていた人物によって最初に共有された。
この人物は、写真にはナディア・アレファニという人物が写っているとし、イランの警察に殺されたのだと主張しました。
この写真はその後、サウジアラビアとイスラエルが支援するMEK教団の関連団体である女性委員会NCRIのツイッターアカウントに転載された。

多くのソーシャルメディアユーザーは、この投稿に写っているのはニルーファルというイランのラップミュージシャンであるとすぐに指摘しました。

ブライアン・アダムス、イラン人歌手の逮捕について嘘をつく

1980年代のポップ・ロックの旗手、ブライアン・アダムスは、彼の友人であるイラン人歌手、サーヴァン・ホスラヴィ(Khosravi)が「Mahsa Aminiの殺害に抗議し、女性の権利運動を支援したために逮捕された」と発表した。

アダムのツイートを受けて、ホスラビは自身のアカウントでつぎのように訂正した。
「自分と弟のZaniarがイランの治安機関に拘束されたり、収監されたりしたことは一度もない。ご安心ください」


NATO研究員の「レンタル群衆」

バーバラ・スラヴィンは、NATOとサウジアラビアが後援する大西洋評議会のスタッフで、「イランの未来」イニシアティブの前ディレクターである。
彼女は「イラン全土で開催された政府を支持する大規模な集会参加者は、「レンタル群衆」だと主張した。「広場は退屈なスローガンを唱えるために、無料ランチを約束された絶望的な人々で埋め尽くされました」
無料で配布される飲み物やお菓子によって、集会の参加者が膨れ上がるという考え方は、1979年のイラン革命以来、伝統メディアで繰り返されてきた。

しかし、イランで最近行われた大規模な政府支持者集会での食糧配給の証拠写真は存在せず、フードトラックも見当たらない。
スレイヴィン氏は視覚的な証拠を一つも添えていない。
当日、吹雪の中、イラン人が街頭に繰り出す動機付けとして、無料の食料が魅力的だったという説明もない。


Euronewsは、イラン全土のデモで参加者が銃撃されたと報道、証拠はゼロ

ユーロニュースのペルシャ語版ウェブサイトは、イランの治安部隊が全国でデモ隊に発砲したと主張する一連のランダム画像を掲載した。

ユーロニュースは、「ソーシャルメディアで流れているニュース」を総合し、テヘランをはじめ、イスファハン、アラク、サナンダジなどの都市で抗議活動が行われたと報道した。
また、アザディ広場周辺やイスファハン、西部の都市で銃撃戦があったと伝えている。

Euronewsのレポートには、「ソーシャルメディアに掲載されたニュースに基づく」「Euronewsはニュースの信憑性を確認できない」、「衝突が起こったと言われている」などの注意書きがあった。
Euronewsは、その扇動的な主張を裏付ける証拠を持ち合わせていなかったが、編集者を拘束するものはなかった。
政権交代への熱狂に満ちた西側のメディア文化では、ニュースは物語よりも重要ではないようだ。

………………………………………………………

かなりしんどい作業でしたが、他に紹介する人はいないようなので頑張りました。内容が全て正しいとは言い切れませんが、ゼロよりははるかにマシだと思います。今後も、情報の非対称性の打破に挑んでいきたいと思います。


DemocracyNow
MARCH 07, 2023
Economist Joseph Stiglitz on How War, COVID & Climate Crisis
Cause Economic Crises Around the World


はじめに

国連事務総長は、富裕層が自分たちの利益のために世界経済を操作していると非難しました。
本日は経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏に、戦争、パンデミック、気候変動がいかに世界中で経済危機を引き起こしているかについてお話を伺います。
またFRBによる金利引き上げは、すでに借金に苦しんでいる南の国々にとって借入コストの上昇を意味します。それは「南半球」の状況を悪化させています。
スティグリッツはノーベル賞受賞の経済学者で、コロンビア大学教授、経済諮問委員会の前議長です。現在、ルーズベルト研究所のチーフエコノミストでもあります。最新刊は「不満の時代の進歩的資本主義」というタイトルです。

AMY GOODMANによる背景説明

COVID-19が急速に世界中に広がり、世界の多くが機能停止してから約3年、ロシアがウクライナに侵攻してから1年余りが経ちました。パンデミックと戦争という2つの出来事は、世界経済を大きく変貌させました。一部の人々は富を急増させたが、何十億もの人々が苦しんでいます。
今週初め、国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、カタールのドーハで開催された後発開発途上国首脳会議の開会式で演説しました。
ウクライナ戦争によるエネルギーと食料の価格高騰を受け、生活費の危機は日に日に厳しくなっています。さらに、紛争、干ばつ、飢餓、極度の貧困の影響が加わり、貧困と不公正を永続させるのに格好の大風となっています。私たちはこの大嵐を終わらせなければなりません。
この嵐を終わらせるためには、大規模かつ持続的な投資が必要です。後発開発途上国は大規模な財政・経済支援を必要としています。私たちはみな、それらの国が支援に値することを認識しなければなりません。
みなさんの国にとって、極度の貧困の撲滅と飢餓の終焉をはじめとする「持続可能な開発目標」を推進することは、“2030年につながるグラフ”の線以上の意味を持ちます。それは生死に関わる問題なのです。あなた方がそこから引き返したり、どこか遠い国の話だと割り切るのは受け入れがたいことです。
引用ここまで

世界経済の現状について、ノーベル賞受賞の経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏をお招きしてお話を伺います。彼はコロンビア大学の教授で、経済諮問委員会の前議長です。現在、ルーズベルト研究所のチーフエコノミストでもあります。
Democracy Now!にお帰りなさい、ジョーさん、歓迎します。ご一緒できてうれしいです。
 今はとてもとても難しい時代です。国際的な経済危機、高騰するインフレ、切り下げられた通貨、そして壊滅的な債務危機に直面する世界中の国々を見て、国連事務総長が語った、今日の世界の危機についてフォローアップしていきたいと思います。それではまず世界の状況についてお聞かせください。

JOSEPH STIGLITZ: 状況はおっしゃる通りです。

今、私が懸念しているのは次の点です。
問題は過剰な総需要ではないのに、FRBは金融政策、つまり金利引き上げで解決しようとしていることであり、それによって状況がさらに悪化していることです。
現在の問題は供給サイドの中断によるものです。そのために需要の転換が起きています。これは戦争やパンデミックといった、まさにおっしゃるような力によって引き起こされます。
そして、率直に言います。
金利の引き上げは、経済を減速させ、失業率を高めます。それは私たちが直面しているインフレに対処するための正しい政策とは言えません。

AMY GOODMAN: 今日と明日、FRBのパウエル議長が議会で演説や質疑応答を行っていますね。
あなたは激しい批判をする人ですね。

JOSEPH STIGLITZ: その通りです。彼らは診断を間違えているのだと思います。
そのために、解決策は間違っているだけでなく、事態をさらに悪化させる可能性があります。
金利をゼロの水準から正常な水準に引き上げたのは、正しい行動でした。金利を正常化する必要があったのです。
しかし、金利を上げ続けることは、世界的に為替レートの切り下げにつながる効果をもたらしています。それは世界的な債務危機を悪化させることになる。
すでに債務超過に陥っている国では、返済がさらに困難になるでしょう。
しかし、それは国際的に見た話です。今は米国に話を戻します。米国におけるインフレの主な原因の1つは住宅です。
住宅分野において、金利を上げるとはどういうことなのか。それは住宅への投資を減少させ、問題をさらに悪化させます。
今はどういう環境なのか。それは供給側の反応が遅れていること、そして需要の内容が変化しているところに特徴があります。だから住宅関連分野にはより多くの投資が必要です。
しかし、パウエルの反応は、投資を減らすことだけです。

JUAN GONZÁLEZ: 私から一つ質問です。経済学に詳しくない人のために、なぜ金利の上昇は、特にグローバル・サウスにとって不利なのか教えて下さい。
世界の他の地域から投資資金が米国債に逃避することは分かります。その上で、米国への資金還流が、南の国々の債務や通貨価値にどのような影響を与えるのでしょうか。

JOSEPH STIGLITZ:  資金が他の国々を離れ、米国やドルに向かうと、ドルの価値が上がり、自国の通貨の価値は下がります。
それはそれだけの話しですが、問題は、彼らが借りたお金です。それは圧倒的にドル建てです。
だから、海外で稼いだお金も、国内で稼いだお金も、借りたお金に比べれば価値が低くなってしまいます。彼らが支払うのはますます難しくなります。
第二に悪いことは、通貨の価値が下がるだけでなく、支払わなければならない金利が高くなることです。
第三に悪いことに、ドル金利の上昇が意図するところは、世界経済の減速にあります。そのため、輸出に大きく依存しているこれらの国々は、販売できる製品量が減ることになります。
自国の経済の価値が下がるのです。国内金利も高くなる。
だからIMFや世界銀行は、債務危機を警告しています。
FRBが今やっていることは、世界的な債務危機をより悪化させる危険性を高めています。このまま行けば、貧しい国々はさらに貧しくなっていくでしょう。

JUAN GONZÁLEZ: ウクライナ戦争がもたらしたもうひとつの影響についてお聞きします。
ここ数十年、新自由主義の支持者たちは、自由貿易こそが世界経済の発展の鍵であると主張してきました。
しかし、今おっしゃったように、COVIDでのサプライチェーンの問題やウクライナ戦争によって、自由貿易を前提としたロジスティックの欠陥が一気に露呈しました。
世界のどこからでも商品を手に入れることができる経済システム下において、企業のほとんどがジャストインタイム生産を行っています。
パンデミックだけでなく、ウクライナ戦争が世界に与える影響も高まっている今、自由貿易の未来はどうなるのでしょうか。

JOSEPH STIGLITZ: あなたは、過去40年間にうまれた新自由主義と呼ばれる経済システムの主要な問題点を指摘しています。
まず第一に、それは近視眼的なものでした。
2008年の世界金融危機は、貧しいアメリカ人に融資した銀行が搾取、収奪を行いました。さらにクレジットカードの乱用、過剰なリスクテイクなどが引き起こしたものです。
しかし、このようなやみくもな行動には、「石油やガスが数十円でも安く手に入るなら、リスクに関係なくやってみよう」という考え方もありました。

私は2006年に自著で、ヨーロッパがロシアのガスに依存するようになったのは愚かだったと書きました。それは近視眼的でした。
プーチンはエネルギー源を扱う人物として信頼できませんでした。
残念ながらその予想は的中し、ウクライナ侵攻の後、ヨーロッパはエネルギー危機に直面することになりました。
つまり、新自由主義は市場に対して近視眼的であったということです。それを私たちは学びました。
もう一つ、ジャスト・イン・タイムの在庫生産システムは、私たちの経済を硬直した不自由なものにしてしまいました。
パンデミックの経済的影響は、この市場経済における根本的な誤りによって増幅されたのです。
さらに炭素と気候変動の問題があります。私たちはいつも、市場は炭素をただだと仮定して成り立っています。そのため、過剰な汚染に手を染めてしまうのです。
しかし、市場は経済に伴うリスクもないものと仮定して動いています。

だからいま、世界経済システムのあり方を見直すことになったのです。
 皮肉なことに、これは自由貿易を支持していた、たとえば共和党の側でも進行しているのです。
超党派のインフレ抑制法案、それからCHIPS法…、これらはいずれもWTOの基本ルールを無視して、アメリカ企業を優遇し、アメリカ生産を復活させようとするものでした。
米国内だけ見れば、これらは良い政策かもしれないが、国際貿易の規範に反しています。
ということで、私たちは世界の国際秩序を根本から考え直し、再定義しなければならないのです。

JUAN GONZÁLEZ:  中国と米国の緊張の高まりが世界経済、特に貧困層に与える影響についてお聞きしたいと思います。
最近、習近平国家主席が、米国は中国を包囲し、封じ込めようとしていると主張する声明を発表しています。さらに、先週、中国外務省が発表した声明は異常でした。
これは、中国が世界における米国の役割をどのように見ているかについての極めて批判的な概要となっています。
この声明では、米国は軍事的にも経済的にも、世界の暴力と不安定性の最大の原因であると主張しています。
この声明が、対中国強硬派の多くの人々に及ぼす影響をついて、どのようにお考えでしょうか。
とくに、中国が地球の製造業の中心地となったことを考えると、経済的影響は少なくないと思いますが。

JOSEPH STIGLITZ:  まず申し上げておきますが、そもそも私の最初の懸念は、皆が協力しなければならない地球規模の問題が数多くあることです。
私たちは地球温暖化の問題に取り組まなければなりません。私たちはパンデミックを乗り越えたところですが、ほとんどの疫学者は、再びパンデミックが起こる可能性があると信じています。
いつ起こるかわからないが、そのときは、必ず高いレベルの世界的な協力が必要になる。
ですから、このような両者の言葉のやり取りは、協力しなければならない分野での協力能力を低下させてしまいます。
いま双方が行っているような広範な攻撃は、私たちが必要とする協力的な行動をとることを難しくしています。
もちろん、中国が香港の民主派に対して行ったこと、ウイグル族に対する行為について、私たちは声を大にして批判しなければなりません。その点については率直に言うべきだと思います。
同時に、私たちはもっと的を射た対応をしなければならないと思っています。

中国が発展途上国に壊滅的な影響を与えたいくつかの政策についても指摘する必要があります。
中国は、そのお金に含まれる利回り(the returns)を適切に評価することなく、多くの国々にお金を貸してきました。時には汚職の疑いもある。
しかし、各国が債務困難を抱えたとき、中国は債務の再編に消極的でした。スリランカはその犠牲者になっています。
債務危機が現実になれば、債務再編が必要になります。その際は中国や欧米の民間セクターを含めた包括的な債務再編が必要になります。
欧米の民間企業は、中国よりはるかにひどい。無謀な融資や、時には腐敗行為にも手を染めていることが多い。
だから、私はこの問題で一方的に中国に指を向けるつもりはない。これは世界的な問題なのです。
債務再編は必要でしょう。そして、これらの国に貸し出される資金が、生産的な目的のために貸し出されることを確認する方法を持たなければならないのです。貸し手を豊かにするためとか地政学的な理由であってはなりません。

AMY GOODMAN:  あなたはかつて、『3兆ドルの戦争:イラク紛争の真のコスト』を書かれています。この戦争から20周年を迎えようとしています。
いままたウクライナで大規模な紛争が起きています。最近バイデンが中国に警告しました。「ロシアを軍事支援するな。それはレッドラインだ」
興味深いのは、ほぼ同時にブリンケン国務長官が、6億ドルの米国製武器を台湾に提供すると発表したことです。
このことについて、またこれら2つの紛争の比較、とくに世界経済との関わりについてお聞かせください。

JOSEPH STIGLITZ: 私たちは、イラク戦争とアフガニスタン戦争の教訓の多くが、いかに学ばれていないかということを議論してきました。
私たちが指摘したことのひとつは、あの戦争がいかに高価であったかということです。当時、私たちは3兆ドルと見積もっていました。しかし、今となっては、その額は明らかにそれを超えています。おそらく、5兆ドルというのが底値の見積もりでしょう。
しかし、アメリカ国民は、この戦争にはこれだけの費用がかかると聞かされていたわけではありません。
政府、国防総省が使用する会計システムは、真のコストを隠蔽するように設計されています。つまり特別予算があるのです。議会でさえ、これらの戦争にかかる包括的な費用全体を十分に議論することはありません。

私はウクライナを支援し、ロシアの侵略に抵抗することを強く支持します。

その上で、公共政策の問題として、次のことが重要だと思います。
 私たちは、より透明性を高め、より大きな説明責任を果たし、この戦争のコストと理由を十分に検討する必要があります。

JUAN GONZÁLEZ:  アメリカや世界で拡大している所得格差についてお聞きしたいと思います。

先生がよくおっしゃる重要なポイントの1つですが、所得格差は市場原理によるものではなく、政治指導者が採用した具体的な政策の結果だということです。
次の大統領選挙に向けて、議会は経済に関する政策について、より多くの決断を下さなければなりません。
国内の所得格差の是正だけでなく、世界中で深刻化する所得格差を是正するために取り組むべき重要な課題は何だと思われますか?

JOSEPH STIGLITZ: そうですね、よく聞いてくれました。
私はしばしば、不平等や貧困は選択の問題であり、人々自身の問題ではなく、不平等をもたらす政策の枠組みの問題であると書いてきました。
その素晴らしい例が、バイデン政権がパンデミックに対応するためにとった行動です。この1年間で子どもの貧困を推定40~50%削減することができたのです。
このようなことは、過去にいつでもできたはずです。子どもの貧困からの脱却に、巨大な効果を与える政策を採用することができたはずなのです。
貧困の中で育った子どもたちは、勉強できず、生産的で有能な市民になれません。私たちが今日行うことは、将来の経済や社会に影響を及ぼします。
例えば、パンデミック時に支給された特別な非常食が、2月に終了してしまったことが心配です。
その結果、その緊急食糧支援によって貧困から抜け出した何百万、何千万という子どもたちが、今また貧困に逆戻りするかも知れません。

AMY GOODMAN: SNAPのことですね。Supplemental Nutrition Assistance Program.

JOSEPH STIGLITZ: そうです。推定では、2021年の貧困ライン以上の420万人がそれらに依存していました。SNAPの緊急支援策を導入した州では、その効果で貧困が10%、子どもの貧困が14%減少したのです。
ですから、私たちは今、貧困を増大させるような別の選択をしていることを認識すべきです。
さらにいえば、そのような一連の行動を私は不合理だと思います。

同時に、先ほど、連邦準備制度理事会が金利を引き上げ、景気を減速させるという話を少ししましたね。すべて小手先の操作です。
FRBが何をしようとしているのか、はっきりさせましょう。FRBはそれについて少し詳しく話しています。彼らは失業率を上げたいのです。
失業率が上がるということは、何百万人もの人が職を失うということです。何百万人もの人々が貧困に陥ることになります。何百万人もの人々の人生が壊れる。教育も中断されるでしょう。
そしてそれは、人口の中でも特に特定のサブグループに影響を与えることになります。例えば、FRBが何気なしに言います。 
「失業率を5%程度にすることを目標にしている」
政府が失業率をもっと増やせと言ているのです。信じられますか?
マイノリティにとっては、失業率がその2倍になるということです。若者のマイノリティは、その4倍です。
つまりFRBは、これらのグループの失業率が20%を超えることをもとめているのです。
FRBが今やるべきは、政府や財政当局に対し、セーフティネットの改善や、失業者の訓練プログラムの改善など、できる限りのことをするよう求めることでしょう。
社会の不平等をこれ以上拡大させないために、貧困に苦しむ人々の数を増やさないために、何かをしようとするなら、金利の引き上げはこれらの救済措置を伴わなければなりません。しかし私はそういう言葉を一度も聞いたことがありません。

AMY GOODMAN:  学生ローンの免除の問題も最高裁で争われていますね。

JOSEPH STIGLITZ: その通りです。
そしてまた、"ああ、これは莫大なマクロ経済効果をもたらすだろう "と言う人がいます。それは間違いです。
私たちは数字を見てきました。インフレへの影響はゼロであることは明らかです。総需要への影響も非常に小さい。 理由は明白です。これは一生の借金なのです。
石から水を搾り出すことはできないので、その多くはいずれにせよ返済されることはないでしょう。
しかし、返済しようと思っても、年間の返済可能額は低く、借金を減額するために新たな借金をする気力も能力もありません。

ですから、現実に裁判所で起こっていることは、何百万人ものアメリカ人青年の首に借金の鎖をかけるということです。
結婚できるかどうか、家を買うことができるかどうか、車を買うことができるかどうかなど、人生のスタートに影響を与えます。自分の能力に見合った仕事を探すことすら妨げられています。
そういう意味では、結末ははっきりしています。
アメリカの若者の首の周りにはそのような負債が鎖となっていて、そのために国家の生産性が損なわれるのです。

JUAN GONZÁLEZ:  先日、「ラテンアメリカ・カリブ海地域政府間協議体」(CELAC:
THE COMMUNITY OF LATIN AMERICAN & CARIBBEAN STATES)の財務閣僚会議で、コロンビアのホセ・アントニオ・オカンポ財務大臣が発表した提案についてお聞きしたいと思います。
CELACは初めて税制サミットを開催することになりました。
このサミットによって、タックスヘイブンの悪用や、特にお金を隠すことで有名なカリブ海諸国の脱税に終止符を打つことができるとお考えでしょうか。

JOSEPH STIGLITZ:  オカンポの提案は非常に歓迎すべきことだと思います。また、各国間の反応は、非常にポジティブなものだと思います。たしかにそれは一歩に過ぎませんが、重要な一歩です。
これは、タックスヘイブンが企業を誘致したり、少なくとも利益がタックスヘイブンで生み出されたように見せかけることを難しくするものです。
とは言え、これは重要な一歩ですが、もっと多くのことを行わなければなりません。
グローバルミニマム税という提案が国際的になされていますが、これはあまりにも軟弱です。15%しかなかったのです。25%にすべきです。
多くの国が15%を超える最低法人税率を設定しています。この合意によって一部の国で実際に税率が下がることが懸念されます。
ミニマム税が当該国にとっては事実上マキシマム税になり、より多くの企業がその分税金を払わなくなるのではと心配しています。

AMY GOODMAN: ジョセフ・スティグリッツさん、ご登場いただきありがとうございました。時間がありませんので、インタビューを終わります。

TheGeopolitics
March 10, 2023

非西洋の中堅国家が地政学的重要性を増大

Non-Western Middle Powers and Their Increasing Geopolitical Relevance



by Tridivesh Singh Maini


注目されるアジア三国

昨年始まったロシア・ウクライナ戦争の余波を受け、いくつかの非西洋諸国が米国とロシアの間を綱渡りするような試みを行っている。その代表的な例が、インド、UAE、インドネシアの3カ国である。
G20_議長国の交代
 G20首脳会議 議長国の交代 ジョコ(インドネシア)からモディ(インド)へ

*インド

インドはロシアから石油を購入することを決定し、ロシア・ウクライナ戦争でロシアを真っ向から批判しなかったため、各方面から賞賛を浴びたが、その中立性は厳しい批判にもさらされている。

2023年2月、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する国連総会決議で、インドは32カ国とともに棄権に回った。ウクライナ関連の国連決議を棄権したのは、これが6回目である。この決議は、ロシアとウクライナの戦争が始まってからちょうど1年後に成立したものだ。この決議でロシアはウクライナでの敵対行為を「終了」し、ロシア軍は無条件で直ちに撤退すべきであると明示された。
また、「国際連合憲章の原則に沿ったウクライナの包括的、公正かつ永続的な和平を」求める必要性も強調された。
しかし、インドはロシア・ウクライナ戦争の被害と悲惨さについて懸念を表明し、自らの立場を説明した。またロシア・ウクライナ戦争による世界のサプライチェーンの混乱に対処する必要性を繰り返し主張している。
これは、現在G20の議長国を務め、先日G20外相会合(2023年3月1日~3月2日)を開催したインドが、ロシア・ウクライナ戦争の終結を求めたことに繋がっている。 この要請は実現しなかった。ロシアと西側諸国との対立により、G20外相会合で共同声明を採択することはできなかった。
しかし、先に述べたようにロシアを真っ向から批判する姿勢は一貫している。クアッド外相会議後の声明でも、ロシアによる「核兵器」の使用という脅しは許されないと批判している。

*UAE

UAEもまた、米国とロシア、中国との関係のバランスを取ろうとしている。ワシントンは、UAEが中国との経済的な結びつきを強めていることに不快感を抱いており、米国によれば、その中には安全保障上の強い結びつきがあるものもある。
2023年3月6日の会議で、UAEは「アジアインフラ投資銀行」(資本金1000億ドル)の事務所設立にゴーサインを出した。同時に、UAEはI2U2/「西アジア・クワッド」の重要なステークホルダーでもあり、OPEC+の原油減産決定には納得していなかった。一時はUAEがOPEC+からの脱退を希望しているとの報道さえあったが、UAEはこれを否定した。

I2U2 :経済統合を深めるための新しい地域プラットフォーム、2022年7月、インド、イスラエル、米国、UAEより構成され、西アジアQUADとされる。

*インドネシア

近年、中国と密接な経済関係を共有しているインドネシアも、ロシア・ウクライナ問題ではバランスの取れたアプローチを取ろうとしている。インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、2022年にロシアとウクライナの双方を訪問し、仲介を申し出た。ウクライナへの武器供与を拒否し、欧米の反対にもかかわらず、ロシアのプーチン大統領の招聘に踏み切った。 
2022年6月のモスクワ訪問の際、インドネシア大統領は、ロシア・ウクライナ戦争による自国の姿勢や経済的混乱についてコメントしながら、次のように述べた。
"インドネシアは戦争の早期終結を望んでおり、食料、肥料、エネルギーのサプライチェーンは数億、数十億の人々の生活に影響を与えるため、直ちに復旧させる必要がある"。
2022年11月にバリ島で開催されたG20首脳会議の開会式で、ウィドドは次のように述べた。
“責任を持つということは、ゼロサムではなく、戦争を終わらせるということでもある。戦争が終わらなければ、世界が前に進むことは難しいでしょう。"
インドと同様、インドネシアもグローバルサプライチェーンの問題への取り組みの必要性を繰り返し訴えてきた。戦争が始まる前、インドネシアはウクライナから小麦を輸入していた第2位の国だった。 ロシア・ウクライナ戦争について、インドネシアは独自のスタンスを貫いている。

インドネシアは、インド太平洋戦略の重要なステークホルダーとして浮上している。2022年5月のインド太平洋経済枠組み(IPEF)に署名した12カ国のうちの1つでもある。インドネシアは、中国と第2位の輸入国としての経済関係を培う一方で、日本との経済関係の強化も目指している。

まとめ

世界政治における大国や欧米のミドルパワーの重要性の高まりに注目が集まる中、 地政学的な変化を理解し、インド、UAE、インドネシアといった非西洋の中堅国の重要性が増していることを理解することが重要である。
これらの国々は、経済的、地政学的に重要な問題で欧米に迎合しているわけではないが、すべての問題で「反欧米」の姿勢をとっているわけでもない。彼らは自国の国益を重視し、単なるバランサーになるのではなく、グローバルな舞台で重要なプレーヤーになることを目指している。


DIRCO 
26 February 2023

Why we abstained on latest UN vote on Ukraine

https://www.politicsweb.co.za/documents/why-we-abstained-on-latest-un-vote-on-ukraine--dir


南アフリカは、1周年を迎えるウクライナ戦争が、罪のない人々の命や重要なインフラを破壊し続け、何百万人もの人々を避難させていることに深い遺憾の意を表明し続ける。

この戦争は、その影響が世界中に波及し、最も弱い立場の人々の生活に影響を与え、パンデミックにより衰弱した現在の世界の食料、燃料、金融危機を強めている。

南アフリカは、国連憲章の目的および原則に対する揺るぎない信念を強調したい。

我々は、すべての国家の主権と領土保全は神聖視されるべきであり、これはウクライナにも適用されると信じている。

また、戦争を終わらせるために緊急の行動が必要であるとの決意も固まっている。

しかし、私たち国際社会が、そのための条件を整えるための具体的な提案を打ち出すことができないのは、私たちの努力に突きつけられた悲しい現実である。

南アフリカが以前この総会で述べたように、外交と対話こそが、紛争の持続的かつ平和的な解決につながる唯一の道である。

ウクライナ戦争に関するこの決議は、この地域に武器が流入し、より大きな暴力行為と人的被害の拡大を永続化させている中で行われたものである。

このことは、核戦争の脅威と相まって、平和を達成することが難しくなっているように思われます。

昨年、国連総会は、ウクライナに関する一連の決議を採択した。

 以前にも国連総会で質問したように、私たちの言動は平和の維持に重点を置いているのだろうか、それとも即時の平和達成の可能性を低くするようなさらなる分裂を作り出しているのだろうか。

私たちは、今回の決議が憲章と国際法の原則に焦点を当てていることを支持するが、悲しいかな、持続的な平和の基礎を築き、荒廃と破壊に終止符を打つことには何ら近づいていない。

私たちに必要なのは、すべての当事者による、平和への確固たる明確なコミットメントである。

確固たる行動を伴わない平和を求める決議は、空虚なものとなってしまうだろう。

Statement issued by DIRCO, 23 February 2023

Covert Action Magazine
March 6, 2023

With Us or Against Us" Fails in Munich as U.S. Tries ‘Offer They Can’t Refuse’

ミュンヘンの「敵か味方か」作戦が失敗に終わる


By Dee Knight


米国、ドイツ、ウクライナの外相は、2 月 18 日のミュンヘン安全保障会議でグローバル サウス諸国の指導者たちに語った。「あなたは本当に中立でいることはできない」と。

会場前のデモ
ミュンヘン会議の直後、インドのバンガロールで開催された首脳会議で、ジャネット・イエレン米財務長官はこう述べた。
「G20諸国はロシアによるウクライナ侵略を非難しなければならず、ロシアに対する米国の制裁を遵守しなければならない」

しかし、G20 の議長国であるインドは異議を唱えた。
「ロシアに対する既存の制裁は、世界に悪影響を及ぼしてい。したがってインドは、ロシアに対する追加の制裁についての議論を推進することはない」

制裁はEUを孤立に追い込んでいる

アメリカとNATOの制裁はロシアを孤立させる代わりに、西側諸国を世界から孤立させている。

フランスのマクロン大統領はミュンヘンで、「グローバル・サウスの信頼をどれほど失っているかに驚いている」と述べた。「私たち」というのは、NATO諸国、特にG7を指している。彼は「西側はグローバル・サウスを失いつつあり、コロナワクチンでは貧しい国を支援しなかった。二重基準だとの南の告発に対応できていない」

コロンビアの新しい副大統領フランシア・マルケスはこう語った。「戦争の勝者と敗者になるのは誰かという議論を続けたくはない。私たちは皆敗者であり、最終的にすべてを失うのは人間です」

ナミビアのアマディラ首相は語った。
「私たちは紛争の平和的解決を目指しています。私たちは問題を解決したいと望んでいます。大事なのは責任を転嫁することではありません。武器を購入するためにお金が使われています。そのお金は、多くの人々が困難を経験している場所での開発を促進するために、より有効に活用できるはずです」
amadhirashushou
ナミビアのアマディラ首相

注目された王毅の提案

中国の王毅国務委員は、ミュンヘンで主役となった。彼は次のように述べた。
「ミンスク第2次合意にできるだけ早く戻ることが肝要だ。ミンスクIIはこれまでのところ唯一の拘束力のある文書である。なぜなら、それは関係者が交渉し、国連安全保障理事会が承認しているからだ。ロシアもEUもミンスクIIを支持している。
それは、ドンバスの停戦と自治、そしてNATOをウクライナから撤退させることを意味する。
ブリンケン米国務長官も "最近の電話会談で"米国はミンスク合意を支持すると表明した」

そして、合意事項の実施に向けたロードマップとタイムテーブルを作成するため、「関係者が(一緒に)座る」ことを呼びかけた。

王は、ミンスク合意と並行して「ウクライナの平和のための中国の12項目の計画」を発表した。

この計画は、
*すべての当事者は冷戦の考え方を捨て、ブロック対立を防ぎ、平和と安定のために協力すべきだ。
*国連安保理が許可していない一方的な制裁に反対する。
*核拡散を防止し、核危機を回避しなければならない。
としている。

ブリンケンは議論をすり替えた。「中国はロシアに "重大な軍事支援を提供するつもりだ。それは我々の関係において深刻な問題を引き起こすだろう」
そして「王毅の提案はロシア以外に利するものはない」と非難した。

いっぽう、ゼレンスキー大統領は、中国の提案の側面を検討する意向を示したという。
「習近平国家主席と会談する予定だ。それは両国と世界の安全保障にとって「有益」だろう」

ミュンヘン会議の後、王毅はモスクワに飛んだ。
彼はプーチンとの会談でこう述べた。「我々の関係は経済、政治、文化など、非常に強固な基盤を持って降り、不動のものである」

2月21日、中国は「グローバル・セキュリティ・イニシアチブ」コンセプトペーパーを発表しました。(この文書については別途紹介します)

コンセプトは「連帯の精神に基づき、大きく変化する国際情勢に適応するよう各国に呼びかける。
そして、複雑で絡み合った安全保障上の課題に、Win-Winの考え方で対処していく」とされている。

その中核として、次のように書かれている。
「戦争や制裁は紛争の根本的な解決にはならず、対話と協議のみが相違の解決に有効である。
主要国は正義を守り、正当な責任を果たし、対等な立場で協議を支援し、平和のための協議を促進しなければならない」

中国の元駐米大使で、現在は外務大臣を務める秦剛氏がコンセプトペーパーを紹介した。
関係国に対し、火に油を注ぐことを直ちに止め、中国を非難することを止め、『今日はウクライナ、明日は台湾』といった言及で状況を挑発することを止めるよう求める」と述べている。

中国外交部の毛寧報道官は、次のように米国を批判した。
「中国が危機の政治的解決に関するポジションペーパーを発表したのに対し、米国は中国や他の外国企業に制裁を課した。誰が平和と緊張緩和を推進し、誰が緊張を煽り、世界をより不安定にしているのか?その答えは明白だ」


まずちょっとした感想ービッグ・ニュースです。基本的評価としては、サウジの米国離れの重要な一段階と位置づけられます。国際経済上は両国にロシアを加えた産油国トロイカの協調の可能性と、と中国のエネルギー確保における対米自立の展望です。
事態のもう一つの側面は、アメリカの単一的全面的支配の時代の終焉です。ウクライナ代理戦争を通じて最大(になるだろう)の変化は、無限に見えた米国の軍事支配と金融(ドル)支配という二本柱が、重大なほころびを見せ始めたことです。それは当面、二正面作戦の挫折、つまりネオコン派の冒険主義の破たんという形を取っています。
しかし肝心なことは、それがより長期的・構造的な変化の予兆となっていることです。我々は最近の一連の事態を、一つの時代の終わりを告げる出来事として見据えていかなければなりません。

Global Times
Mar 10, 2023

サウジアラビアとイラン、国交再開と大使館再開に合意
王毅「中国は建設的な役割を果たし続ける意思がある」

iran
https://www.globaltimes.cn/page/202303/1287076.shtml


中国、イラン、サウジアラビアの三国は、3月10日に共同声明を発表し、「イランとサウジアラビアが、2ヶ月以内に関係を再確立し、大使館を再開することに合意した」と発表した。
このニュースは10日夜に発表され、世界中の注目を集めた。長年の敵対関係にあったイランとサウジアラビアが二国間関係を改善する上での突破口になると見られている。アナリストには、「世界的に不確実性が高まる中、紛争の平和的解決を目指す三国の努力を賞賛したい」との声が上がっている。

以下本文

中国共産党(CPC)中央委員会外事弁公室主任の王毅は、3月10日に、イラン最高国家安全保障会議のアリ・シャムハニ長官が率いるイラン代表団と、サウジアラビアの国務大臣・閣僚理事・国家安全保障顧問であるムサード・ビン・モハメド・アル・アリバンを団長とするサウジアラビア代表団とのあいだで会議を開催した。
会談後、共同声明が発表された。
3カ国の共同声明によると、イランとサウジアラビアは、2ヶ月以内に外交関係を再開し、両国の大使館や機関を再開することに合意した。両国の外相は、この決定の実行を目的とした協議を続け、大使の交換に必要な手配を行うことになっている。

両国は主権の尊重と相互の内政不干渉を強調した。また2001年4月17日に締結された「安全保障協力に関する協定」を実施することに合意した。
また、1998年5月27日に締結された、「経済、商業、投資、技術、科学、文化、スポーツ、青少年の分野における関係の促進を目的とした一般協定」を実施することに合意した。
両国はまた、それぞれの懸念に対処するためのタイムテーブルを概説することで、フォローアップ作業の基礎を築いた。

3カ国は、地域と国際の平和と安全を強化するためにあらゆる努力を払うという強い決意を表明した。

王毅は両国が二国間関係の改善において「歴史的な一歩」を踏み出したことに祝辞を述べた。
王は同日、記者団に対し、北京で行われたイランとサウジアラビアの会談は重要な成果を収め、対話と平和の勝利であり、不穏な世界に非常に良い知らせをもたらしたと述べた。 
王はまた、この成果は、ウクライナ危機が世界の唯一の問題ではなく、平和と人々の生活に関わる多くの問題があり、世界的な関心と適切な対処が求められているとのべ、三国合意はこのことについて、「どんなに複雑で茨の道であっても、相互尊重の精神を保ち、対等な対話を求めることで、解決に至ることができる」という明確なシグナルを送ったと指摘した。
王はまた、「中東は地域の人々のものであり、地域の運命は地域諸国の人々の手にしっかりと握られているべきだ」と強調した。
……………………………………………………

この発表について、蘭州大学「一帯一路」研究センターの朱エグゼクティブディレクターは、Global Timesに語った。

イランとサウジアラビアの関係が改善されることは、この地域とイスラム世界だけでなく、世界にとっても非常に重要である。彼らは協調を強化することで、より安定した、平和で豊かな中東を築くことができる。
世界がロシアとウクライナの紛争の影響をまだ感じている中、両国の国交回復は中東に確実性を注入し、平和と発展への信頼を高めるものである。これが突破口となって、この地域にシナジー効果をもたらすかもしれない。
イランとサウジアラビアは、国交回復によって中東の平和への扉を開いた。紛争を対話によって解決する模範を示した。より多くの地域諸国がこれに倣い、敵対的な外交政策を改め、より包括的な精神で協力の可能性を模索し、地域発展の余地を生み出すことを期待する。

王毅は「イランとサウジアラビアの信頼できる友人として、中国は建設的な役割を果たし続けたいと考えている」と述べたが、この対話は、グローバル・セキュリティ・イニシアティブの成功例となるだろう。両国外相は会議を主催し推進した中国に感謝の意を表明した。そして、近隣諸国を強化し、地域の安定を共同で守るために、会議で得られたコンセンサスを実行する意思があると述べた。
中国は、親切で信頼できる仲介者として、ホスト国としての責任を果たした。今後も建設的なプレーヤーとして、世界の過熱した問題の適切な処理を促進していくだろう。

朱は語る。「今回の合意は地域と世界における中国の影響力の増大を浮き彫りにするものである。しかし対外的には、このような前向きな改善を望まない国もあるだろう。地域の紛争を処理するに当たっては対話と交渉の継続を求め続け、干渉の可能性に警戒する必要がある。


24時間前から「親ウクライナ派がノルドストリーム爆破」というニュースが一斉に流れている。
これはきわめて胡散くさい情報である。

先日NYタイムズを評価したが、あくまで条件つきだった。理由はそれが社としての意見ではなく、寄稿に過ぎず、しかもウクライナ寄りのスタンスは崩していないからである。

しかし今度の記事で、NYタイムズのウクライナ支持はたんなる政治的ポジションの問題ではなく、バイデン政権と国家諜報活動集団と一体化していることが明らかになった。
ハーシュ記者はNYタイムズのかつての花形記者である。南ベトナムにおける海兵隊の住民虐殺事件を報道し、ピュリッツァー賞を獲得した。イラク侵攻作戦ではイラク人捕虜虐待記事をすっぱ抜いた。

しかし今回のノルドストリーム爆破事件では、ハーシュ記者の発表を報道せず、黙殺を続けた。
最初は見識かと思ったが、かなり記事が世界中に拡散されてからは、それが黙殺という構えの表明であることがわかった。そして突如としてウクライナ主犯説の報道に至ったのである。

報道を緊急後追いする形で、ネグレクト仲間のメジャー報道機関が一斉に報道した。
そしてウクライナ政府がそれを否定し、ハーシュ発言には煙幕が張られ、結局真相は闇の中に…
というのがNYタイムスとその背後にいる国務省なり大統領府なりの目論見であろう。

しかし、そうは行くまい。考えれば考えるほど、疑問は膨らむのみで、その分、真の受益者である米国への疑惑も膨らむのみである。

「ウクライナは犯人ではありえない」、というのは、パイプラインが敷設された機雷によって爆破されたからだ。

水雷を投げ込んでも、これだけの精度で爆破することはできない。4本のパイプラインがピンポイントでほぼ同時に爆破されるためには、遠距離発火装置を装着した高性能小型爆弾をベルトでパイプに装着し、数時間ないし数日後に水中無線で誘導発火する以外にない。
これだけでも容易ならざる技術である。

しかもパイプラインは海面下数十メートルの海底に敷設しているのであるから、潜航艇を使ってマジックハンドで作業をするか、特殊な訓練を積んだ潜水夫が水圧への順化を行った上でやるしかない。

たしかにハーシュは証拠を示したとは言えないが、後者の方法しかありえないことを示している。つまりアメリカ海軍の特殊作戦チームでしかなし得ない作戦であることを論証している。

つまり、物的証拠はないが論証は確実にできているのだ。だからハーシュの記事は遅効性の毒のようにじわじわと真綿で首を絞めつけるように効いてくるのである。


ゲノム系統樹についての読み物を一つ見つけました。

“Tree of Life web project” の報告を解説したもので、ブログ主はKimさんという方です。
発表日は 2020年2月25日となっています。

1.全生物のつながりを描く系統樹

系統樹とは「進化の道筋」を人間が見てわかりやすいようにグラフ化したものである。

系統図づくりはある程度の狭さの中で行われる。あまりにも遠いとアライメントがくずれる。
ただ、ある程度高い度合いで保存されている部分的な塩基配列であるならばアライメントが可能で系統樹がかける。

科学館やテレビ番組などで見かける系統樹は似顔絵にすぎない。様々な形質やゲノム配列から裏付けはされているが、あくまで近似値である。

生命全体の系統樹を作るプロジェクトが作業を行い、その結果が“Tree of Life web project” としてまとめられてきた。
http://www.tolweb.org/tree/phylogeny.html

そこでは特定の遺伝子について着目し、それについての系統樹を書いていた。これを「Gene Tree of Life; Gene ToL」という。
これには様々な問題点があり、現在では挫折している。

ToLContentManagement


2.多数の全ゲノム決定が生物全体の系統樹の推定により深い洞察をもたらした

2020年にアメリカの科学雑誌にゲノム配列を用いた生物全体の系統樹が掲載された。https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1915766117
生物全体の系統樹_ToL

まず明瞭に示されているのが原核生物と真核生物という2つの「スーパーグループ」である。
ついで、その外側リングで、古細菌、真正細菌、原生生物、菌類、植物、動物が順に並ぶ。

これらの鎖の形成において、菌類植物、動物の出現には非常に大きな変化があった。
これまでの遺伝子研究においては菌類は我々動物と姉妹群(系統樹上で植物よりも近い)とされてきた。しかし、今回のアミノ酸配列による系統樹では、菌類は植物・動物をあわせた枝の外側に位置することが判明した。
pnas

共通祖先はまず菌類と植物・動物の共通祖先とで分かれた。植物のほうでは例えば 紅藻や緑藻などの原生生物が出現し、その後シダや苔が出現し、裸子植物、種子植物といったように出現していく。動物の枝ではカイメン(スポンジ)、ワーム、昆虫などの無脊椎動物から始まり、脊椎動物が出現していく。

3.本当に地球上のすべての生物は1つの生物由来だったのか?

最後の問題提起は深刻なものである。

「1つの共通なLTFA (最後に地球上に出現した複製する細胞のこと。創始者的な細胞)が真核生物と原核生物に分かれていったのではなく、共通ではない、サイズや構成物質が異なるものからそれぞれ出現したのではないか」という可能性である。
それはLUCAの否定につながるが、ありえないことではない。地球外生命の飛来説に立てば、むしろそのほうがありうる。



グーグル検索で“生物 系統樹”と検索をしてみたが、最近の解説は通俗記事をふくめてほとんど見当たらない。
原因は、確実だったはずのゲノム解析法が混乱をもたらしているところにある。
相互乗り換え、時代をまたがったゲノム構成など混乱の種が尽きない。最初の頃は革命的とか画期的とかもてはやしていたものの、既存の系統樹破壊が進むにつれ、世の中はバベルの塔状態になり、ヒトの全ゲノム解析が完成した2005年ころからは誰も新たな全系統図を描かなくなった。
toloverview

私たちも人類の拡散図において同じ思いをしている。前世紀末から今世紀初めにかけて、人類の系統図はY染色体ハプロにほぼ統一された。それ以前のさまざまなパラメーターはほぼ過去のものとなった。ミトコンドリアDNAだけは操作の簡便さ、古人骨における採取の容易さにより生き残っているが、感度・正確さにおいてY染色体の右に出るものはなかった。
ヒトの全ゲノムが解析されることでより正確さが増すものと期待されたが、結局耳垢や鼻くその違いがわかったという以外に付け加えるものはなく、むしろ判定基準の多様化により、いたずらにホワイトノイズを増やすだけの結果に終わっている。

ヒトだけでなく全生物を対象とする研究を行う際に、その手段に、ゲノムというあまりにも広範な多様性を内包する材料を用いることは、論理的な自爆行為である。後知恵ではあるが今更ながら方法論の未熟さを痛感することになった、ということではないだろうか。
なにかゲノム解析プロジェクトで成功したショットガン的な解析(むしろ反思考法と呼ぶべきか)がすっかり研究の論理を荒っぽくしてしまったような気がする。それがしっぺ返しを食らっているのかも知れない。

とりあえずはDNA/RNA採取可能な最古の生物まで遡り、そこから諸指標に沿って下ってみる地道な作業が必要であろう。その中で最も有効な指標を選択した上で既存の系統図と突き合わせた暫定系統図を作成し、その作業を積み重ねていく努力が必要なのではないだろうか。

鳥居龍蔵に関する講演録がある。

北海道大学アイヌ・先住民研究センター
シシリムカサテライト2008年度第1回講座(札幌会場) 講演録
「マンローと鳥居 ―同時代を生きた二人の事績、その活用」
日 時: 2008年6月15日(日)
場 所: 北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟 W202号室
主 催: 北海道大学アイヌ・先住民研究センター
演 題: 鳥居龍蔵の東アジア研究 ‐その足跡と今日的意義‐
講 師: 元徳島県立博物館館長 天羽利夫氏

とある。
リンクは下記のごとし
https://www.cais.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2012/03/toriiryuzo.pdf

若干演題が羊頭狗肉の感があり、マンローについては申し訳程度に触れられている程度だ。おそらく公演会の主催者が北海道大学なので、一応敬意を表したというところであろう。

これだけまとめて鳥居の経歴に触れたのは初めてであり、その行動力にはあらためて感心した。
ただ、行き先を見ると大陸浪人然としていて、本人の意志というより軍部や植民当局の意向が働いている感もある。
例えば
手放しで褒めちぎるというのもちょっと躊躇を覚えるところがある。

奥さんというのがまたすごい人で、旦那より11歳年下だが、夫唱婦随どころではない。
20歳で結婚して、子を設けず、5年後には蒙古カラチン王府女学堂の教師となり単身赴任する。1ヶ月後、 龍蔵も蒙古に赴き、 蒙古カラチン王府男子学堂教授に就く、という具合である。


地学雑誌
JournalofGeography
114(3)410-4182005

磯崎行雄


1.古生物学と層序学

最も古典的かつ基本的なものに古生物学と層序学的がある。
これは地層の累重関係に基づき、各種生物の進化を実証していく方法である。
19世紀初頭、W.Smithが化石層序学を確立。その後長期間を欠けて、地質年代表を作成してきた。
これにより化石群が時間の経過と共に変化することが明らかになった。
20世紀半ばまでに地球の年齢が45億年以上に及ぶことが明らかになった。この内、生物の化石が確認できない先カンブリア時代は、約40億年を占める。
20世紀後半になるとし、先カンブリア時代の地層からも化石が発見されるようになった。そして1990年代後半からはさらに急展開が起きている。

2.地球外現象と生命進化

1980年にカリフォルニア大学バークレー校の研究チームは中生代/新生代境界(約6500万年前)での恐竜、アンモナイトなど中生代型生物の絶威の原因が、巨大隕石衝突であったという仮説を提起した。そして10年後にそれが実証された。メキシコのユカタン半島で衝突を示す巨大クレーターが発見されたのである。
現在では「隕石衝突と生命圏の応答」というパラダイムが初期地球の生命研究において重要となっている。
1990年代には、「カンブリア紀の生命爆発」事件や「全球凍結」事件が話題となった。

3.生命の起源と化学化石/ゲノム解析

1996年に南極に落下した火星起源阻石の中に原始的なバクテリア化石が発見された。NASAはこれを元に「火星生命の発見」を公表した。これが火星ブームの火付け役となった。

2002年には火星と地球の形成史を比較すると、生命が誕生した可能性はむしろ初期火星において高かったという見解が発表される。Clinton政権がこのような流れを全面的にバックアップした。

この頃から物体を構成する有機高分子(biomarker)や軽元素の安定同位体比などの測定を通して、原始生命の情報が得られるようになる。これらは化学化石(chemofossil)と呼ばれる。

現在では、少なくとも初期生命は38億年前にはすでに生息していたこと、おそらく最初の生物の出現は安定した海が形成された40億年前まで遡るであろうことがほぼ確実となっている。

もう一つの進歩の流れとしてゲノム解析が挙げられる。生物分類の体系も、最近20年の問にすっかり様変わりした。

生物の系統樹で見ると以下の点が挙げられる。
*生物界は圧倒的にバクテリアによって構成されている
*多細胞生物の位債は、従来のイメージからは大きく変化した。特に後生動物(いわゆる私達が通常思いつく動物)や植物は、その中でも実に小さな枝に過ぎない。
*動物の小枝は植物から大きく離れ、菌類(キノコやカビ)のすぐ横に位置付けされている。
*ここで紹介したこれらの最新の系統樹は、数年後には大きく改定されていく可能性がある

系統樹1
系統樹2

図の説明: 
上図:現世生物全体の遺伝子系統樹(Knoll、2003を改変)。生物は真正細菌、古細菌および真核生物の3つのグループ(ドメイン)に区分される.
下図:真核生物のみの詳細系統樹(Porter、2004).分子及び生物組織の超構造のデータに基づく復元

付け足し

論文は2005年、系統図は2003~2004年のものであり、ゲノム解析の飛躍的発達はその後の10年であるから、その点が不満である。それにあまり見やすいものでもない。もう少し新しいものを探してみたい。

論文の最後に書かれた一文が印象的である。
一般社会の退職ラッシュと同期して、間もなく日本の学界や大学において団塊世代の研究者の「大量絶滅」が始まろうとしている。大きな地質時代境界と同様に、これを機により進化した新しいタイプの研究者が一気に現れるかもしれない。

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