鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。


Ⅰ.AI:  人工知能というもの

神経管→脳幹→前脳→外套+基底核→大脳と進んできて、メモリ(大脳皮質)の知能化の課題に取り組もうと思った。そのとき、これはまさにAIの進んでいく道すじではないかと考えた。

WindowsとかDOSとか(それしか知らないので)というプラットフォームから自然言語(とりあえず日本語)そのものをプラットフォームにするバージョンアップが求められ、実現しようとしている。
深層学習とか、推論とかにはおそらく言語が必要とされるので、そのあたりを足がかりにした「知能」の論理(言語の論理)の再構築が課題になっていくのではないかと思う。

Ⅱ.知能と言語

今考えているのは、知能とは「言語化された諸情報のうち、各個別に獲得されたもの」なのではないかということである。個人という人格に獲得された情報は、倫理的・実践的な性格を帯びるので知恵とか知識など、別の言葉で表すようにした方が良いも思う。

もしそうなれば人工知能というのは形容矛盾ではないかと言われるかも知れないが、その場合は知能の付け方が人為的であるということで人工知能と表現しても良いと思う。

わたしは、言語学というものについては、チョムスキーも含め懐疑的で、言語というものがどう分類されるかが問題だと思っている。


Ⅲ.言語学は言語を用いた事物の分類学

事物というものはほとんど無限にあるもので、しかも無限に発達・増殖する。それの表象化されたものが言語だ。一言で言って手に負えない代物だ。

これをそのまま放置すればゴミ屋敷になるが、なんとか分別すると、そこは立派な物品倉庫となる。

したがって言語は「分類された表象群」ということになる。ただし分類化作業は毎日毎日積み重ねるしかない。気の遠くなる作業だ。そこで分類化の手順、どうやって大別するか、いわば分類学の議論が必要になる。これが言語学だ。

ただし言語が活動である以上、動詞は特殊な意義を持つ。形容詞は、例えば「美しい」は“美しくある”の省略形だ。名詞のかなりは“サ変動詞”にできる(でっちあげ可能)。
人が群れて生活することから、社会が生まれ言葉が生じてきたわけだから、このことは当然だ。


Ⅲ.事物→表象→情報と分類の階梯

面倒な話で申し訳ないが、事物の表象として情報が獲得され、それが整序されて知識の体系、個別には知能として収蔵されるのが、ここまでの筋道だ。

次にその知能が有効かどうかの検証がある。そこではプロトコール(分類原則)が必要だ。

私は循環器医師の端くれだった頃から、ニューヨーク心臓病協会(NYHA)の分類が大好きで、そこでは3つの分類原則がある。
①症候学的分類(訴えに基づく分類)
②病理学的分類(観察に基づく分類)
③病因的分類
上の3つのうちでは③が一番本質的な病名である。炎症も腫瘍も変性も、究極的には外因なしには成立しない、それは医学研究者の信念だ(逆に言えばいっぽうに内因もあることになる)。
②だけで満足するなと言われたものだが、実際には③は不明のまま、ひどいときには②さえ不明のままに終わる。
このような分類は生物分類や図書分類のような平面的なものとは異なり、それ自体がベクトルを持つ構造的なものだ。

Ⅳ.大事なのは三大分類は三者ともに必要だということ

3つの中で病因学的分類が一番重要だと書いたが、それは3つとも必要で、中では病因学的分類が大事だということだ。なぜならそれは次の課題へと向かう扉となるからだ。
病因診断一つあれば使い終わったはしごは不要というわけではない。

この点では、似たような話で「武谷の三段階理論」というのがある。我々が学生時代に習った一種の“ありがたい教え”で、これさえ分かれば弁証法は卒業というくらいのものだった。
植松英穂氏が2003年の日本物理学会誌に書かれた「一人歩きした武谷三段階論」というエッセエがネットでよめる。

これに史上流布した理論のスケッチが掲載されている.これは武谷自身ではなく坂田昌一の解釈だ。
これによると、自然の認識は次に述べる三っの特徴的な段階を通って螺旋的に発展する.第一の段階は現象をありのままに記述する現象論的段階、第二は対象がいかなる構造にあるかを研究する実体論的段階、第三はそれがいかなる相互作用のもとにいかなる運動法則に従って運動しているかを明らかにする本質論的段階である。
今はなんとなく、三段跳びというのが気に入らない。「それって弁証法じゃないよね」という感じだ。
やはり現象そのもの、その機序が興味の中心だ。機序を賢明に追求しているうちに、真相というか本質は浮かび上がってくるものだ(浮かび上がらないことも多い)というのが私の考えだ。

Ⅴ.武谷理論のキモは実体論的把握

実は面白いのはその後の部分で、植松さんが指摘しているのが、三段階論は武谷の真意ではない。それは武谷の主張の一部が一人歩きしてしまったものだと述べているところである。

武谷が主張したかったのは、「実体」を考えることが重要だということである。もう少し正確に言うと、認識段階の一つである実体的認識の段階を重視せよということだ。

植松さんによれば、武谷は次のように言っている.
私は昭和9年の卒業論文において、物理学の認識には、その発展において一っの重要な注目すべき段階がある。すなわち何がそこにあるか、いかなる構造になっているかということを知る段階を経て、これを踏み台にしなければならないという事である。原子核物学の当時の状態はまさにこのような段階にあり、素粒子の発見と原子核構造の解明の時期であり、矛盾はこの方向に吸収されることを指摘したのである.」
 「現代物理学と認識 論」(1946)
こうなるとむしろ構造主義に近いのかも知れない。
ただいずれにせよ、武谷は間違いなく、科学者の実践哲学を説いたのではない。このことは念頭に置くべきであろう。

Ⅵ.AI化とは自然言語を作業プラットホームにすること

私はこれまで大脳中心主義(いわゆる脳科学)にずっと抵抗して前脳中心主義を主張してきた。それはCPUが常に念頭にあったからである。
CPUを中心とするパソコンの作業環境は、ほぼ常時CPUと周辺装置のデータ入出力(I/O)を行っている。それは自然言語と二進法言語のやり取りが宿命的について回るからだ。
しかし自然言語が作業のプラットフォームとなれば、まるで話は変わってくる。人間が獲得した膨大な灰白質の塊は、自然言語を使って自由に会話ができるし、考えることも判断することもできる。
ただそれを皮質下の世界に伝えるためには今後ともCPUの働き、したがってI/Oを必要とするだろうと思う。

以上はまったく専門外の年寄が好き勝手なことをほざいたまでだが、実体的認識から本質的認識へのジャンプアップのチャンスは誰にでも公平に与えられていると、実は密かに思っている。




Global Research
July 10, 2023

米国を第三次世界大戦に引きずり込もうとするバイデンと好戦家たち

Joe Biden and His Warmongering Minions
Seem Absolutely Determined to Drag America Into World War III


By Michael Snyder


リード

もし私っちの頭上に核兵器が降り始めたら、誰もそのとき、「警告されていなかった」とは言えないだろう。 
ジョー・バイデンと好戦主義者の手先たちのおかげで、われわれは第三次世界大戦に向けて突き落とされようとしている。しかし、ほとんどのアメリカ人は、そんなことは気にも留めていないようだ。私たちのほとんどは、ただ陽気にパーティーをして人生を楽しんでいるばかりだ。 
バイデン政権は絶えず中国を挑発し、ウクライナでの戦争をエスカレートさせている。彼らは文字通り火遊びをしているのだが、遊びにのめり込めば、火傷を負うのは彼らだけではない。

以下本文

今週、バイデン政権が8億ドルの新たな軍事支援策が発表され、その一環として、ウクライナにクラスター弾を供与することが決定された。

クラスター弾が何なのかご存じない方のために、NBCニュースからかなり詳しい説明を...。
二重目的改良型通常弾(DPICM)は地対地弾頭である。地上に落ちると爆発して、複数の小型弾を広範囲にばら撒く。
その弾丸は、装甲車両を貫通する強力な炸薬にもなるし、地雷となって粉々に砕けたり破片になったりして、人間にとってより重大な危害を加えることもある。
不発弾が戦闘後長い時間がたってから爆発し、罪のない市民を負傷させたり殺害したりする可能性もある。赤十字国際委員会によれば、10%から40%の不発弾があるという。
そのため多くの人権団体は、その使用に反対している。
クラスター爆弾の使用禁止を求める活動団体『クラスター爆弾連合』によれば、ラオスやベトナムでは、使用から50年経った今も、潜在的な殺傷力を持つクラスター弾が眠っているという。
多くの国が、このような理由でクラスター爆弾の使用を禁止している。クラスター爆弾禁止条約に、120カ国以上が参加し、この兵器を使用、製造、譲渡、備蓄しないこと、そして使用後は撤去することに同意した。なお米国、ロシア、ウクライナは未加盟国である。
ジェイク・サリバン国家安全保障顧問という人物

しかし、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障顧問はこう述べた。
この軍需品はウクライナがロシアの侵略者に対する軍事作戦を維持するために不可欠である。この紛争において、ウクライナを無防備な状態にしておくつもりはない
なぜみんながジェイク・サリバンについてもっと語らないのか?
バイデンはサリヴァンの言うことなら何でも聞く。サリヴァンが再び中国を挑発することを提案すると、バイデンはそれに従う。

「Zero Hedge」誌は、アメリカが台湾に機動散布型地雷システムの提供を開始すると報じている。
台湾は、機動散布型地雷システムを配備するため、1億4600万ドル相当の米国との契約を決定した。それは、2022年12月に米国防安全保障協力局によって予告されていた。
さらに国務省は4億4000万ドル以上の弾薬・装備取引を承認した。そこには、M977A4トラック、M87A1対戦車地雷、M88およびM89訓練用弾薬も含まれている
言うまでもなく、これもまた中国を大いに怒らせる動きだ。

対中経済制裁の強化は何をもたらすか

そして米国の対中貿易戦争はまた新たな段階に突入した。この間、とくに半導体の将来をめぐる中国と米国の貿易戦争がエスカレートしている。
米国による新たな規制を受け、北京は月曜日、切り札を切って反撃に出た。2つの絶対的に重要な原材料の輸出規制を実施したのである。そして世界の半導体産業に不可欠なガリウムとゲルマニウムという2つの戦略的原材料の輸出規制を課した。

「ジェフリーズ」誌のアナリストは語った。
これは、中国が技術戦争に対抗するための、第二の、そしてより大規模な措置である。それはまた、アメリカがAIチップの輸出禁止を強化した場合の対応策であろう。5月にアメリカ最大のメモリーチップメーカーの一つであるマイクロンテクノロジー(MU)を制裁したのはその手始めだ
ジョー・バイデンがホワイトハウスに入って以来、中国との関係はゴミ箱に投げ込まれた。バイデンのホワイトハウスでの任期が終わる前に、中国が実際に台湾への侵攻を選択する可能性もある。
もしそうなれば、世界経済にとって壊滅的な大惨事となるだろう...。

台湾の大手マイクロチップ・メーカーのトップ呉は言う。
台湾は中国から100マイルほど離れたところにある民主主義国家で、世界で最も先進的なマイクロチップを製造している地域だ。中国との軍事衝突が起これば、重要な半導体のサプライチェーンは壊滅し、世界経済は何十年も後退することになるだろう
もちろんそのような戦争をやっている余裕はない。なぜなら、我々はそのチップを入手しなければならないからだ。台湾が生産するチップがなければ、私たちは大変なことになる......。

ボストン・コンサルティング・グループの2021年の報告書にはこう書かれている。
台湾はマイクロチップ製造の母体であり、世界の半導体の60%、そして最先端の半導体の約93%を生産している。
米国、韓国、中国も半導体を生産しているが、事実上台湾が市場を独占しており、その市場規模は昨年6000億ドル近くに達した
では、なぜ米国内でもっとチップの製造を始めないのか?
アリゾナ州に400億ドルの工場が建設される予定だが、完成にはまだ何年もかかる。米国は世界の半導体チップの約1割を生産しているが、最先端チップの生産は皆無に等しい。
米国も国内生産を強化しようとしている。台湾のチップ大手TSMCがアリゾナ州に400億ドルの工場を建設中である。このプロジェクトには税制優遇措置を提供している。
呉はいう。
しかしこのような複雑な産業の構築には時間がかかる。10年はかかるでしょう。もし指導者たちが賢明であれば、米中間の平和を維持する方法を見つけようとするはずだ

中ロ枢軸の強化


しかしバイデン政権はそうはせずに、ロシアや中国との敵対関係を強め続けている。
中国はこれに対抗するかのようにロシア軍との関係緊密化を望んでいる。それはワグナーの反乱の頓挫後も、北京がモスクワを支持し続けていることでも明らかだ。中国の李国防相は、ロシア海軍のエフメノフ司令官との会談後にこう述べた。
双方の共同の努力により、両軍の関係は深まり、強固なものとなり、絶えず新たな進歩を遂げ、新たなレベルに達するだろう
もしロシア・中国と同時に戦うことになれば、それは悪夢である。
言うまでもなく、そのような紛争は必然的に核戦争に発展し、本格的な核戦争は何十億もの人々を殺す可能性がある...。

だから私たちは平和のために祈ろう。

残念ながら、我々の指導者たちは平和にまったく関心がないようだ。
ジョー・バイデンと好戦家の手下たちは非常に危険なゲームをしており、人類の運命は天秤にかけられている。

Michael Snyder has published thousands of articles on The Economic Collapse Blog. 






Code Pink
10 July 2023

クラスター爆弾をウクライナに送るな
Stop Biden from Sending Cluster Bombs to Ukraine


By: Medea Benjamin and Marcy Winograd


リード
バイデン大統領は、クラスター爆弾をウクライナに送ると発表した。ウクライナのロシア軍に対する反攻作戦の遅れをとりもどすためだ。クラスター爆弾は非人道兵器として国際的に禁止されている。おそらくそれは世界核戦争に至るレッドラインを踏み越えたものとなるだろう。

以下本文
議会リベラルの動き “それは完全に一線を越えている
(しばらくアメリカ議会の人物名が続くが、しばらく我慢を)
今回、バイデンの凶暴性に恐怖を感じているのは、私たちコードピンクや「ウクライナに平和を連合」(ウ平連)の左派活動家だけではない。これまでにない政治家たちが、クラスター爆弾の件でむき出しになった深刻な危機に驚いている。その多くはウクライナへの軍事支出1000億ドルを承認してきた民主党議員たちだ。そしておそらくその半分、500億ドルは、説明責任のない武器や軍事援助に使われた。

Cluster huhatudann

*7 日、米議会の「進歩議員連盟」のジャヤパル議長を筆頭に、19人の下院民主党議員がバイデン大統領への書簡に署名した。
書面はこう書かれていた。「我々は警告する。クラスター弾をウクライナに送るという決定は、我々の “道徳的リーダーシップ” を著しく損なうものである」
*下院国防予算小委員会の委員長であるベティ・マッコラム議員は、ポリティコに対し次のように語っている。
クラスター弾をウクライナに送るというバイデン政権の決定はとんでもない間違いだ。...クラスター爆弾の結末は、悲惨な死と、使用後何世代にもわたる高価な後始末である
*9日には、別の著名な民主党議員がテレビに出演した。元副大統領候補のティム・ケイン上院議員である。彼はFox Newsに「大統領の決定については大いに疑問がある」と断言した。
*バーバラ・リー下院議員(民主党)は、下院歳出小委員会の対外活動担当委員長であり、上院議員候補でもある。彼女は「クラスター爆弾は決して使用されるべきではない。それは完全に一線を越えている」と真っ向から非難した。
*ジェフ・バークレー上院議員とパトリック・レイヒー元上院議員も大合唱に加わった。二人は、アメリカ撤退後にベトナムを訪れ、クラスター爆弾の悲惨さを目の当たりにした経験を持つ。彼らはワシントン・ポスト紙の論説欄に投稿し、ベトナムでの事実を証言した。そして「クラスター爆弾などの兵器が、民間人に与えた影響は、明らか壊滅的かつ長期的だ」と結論を下した。
*すでにホワイトハウスによるクラスター爆弾の公式発表の前から、下院民主党のサラ・ジェイコブス議員とイラン・オマル議員は、クラスター爆弾の輸出特許状発行を禁止する修正案を議会に提出していた。 
*下院規則委員会の上位委員であるジム・マクガバン下院議員は、この輸出禁止法案を最初に共同提案した一人である。マクガバン下院議員はニューヨーク・タイムズ紙に対しこう語った。
クラスター弾は何百という爆弾の粒をばらまく。その多くは紛争が終わった後、長い年月を経てからトラブルを発生する
しかし、この爆弾輸出を禁止する修正案が可決されるには、超党派の圧倒的な支持が必要であり、法案が可決された場合には法律を遵守する大統領が存在しなくてはならない。

NATO主要加盟国をせせら笑ったバイデン


バイデンはクラスター爆弾に賛成したことで、NATOの18のパートナーを鼻でせせら笑ったことになる。彼らは2008年の国連クラスター爆弾禁止条約に他の100以上の締約国とともに署名したのだから…。
今週、リトアニアのビリニュスで開かれたNATO首脳会議のとき、英国、カナダ、ニュージーランド、スペインの代表はクラスター爆弾供与に賛成しなかった(『ニューズウィーク』誌)。

特例を用いて法律をジャンプ

バイデンはまた、クラスター弾の使用を、不発率が1%未満のものだけに制限する現行の米国法をジャンプした。国防総省の最終試算では、「不発率」は6%であった。
バイデンは、上院軍事委員会のアラバマ州選出トム・コットンのようなタカ派共和党議員に頭を下げつつ、クラスター弾の使用を禁止する法律の例外規定を持ち出した。すなわち「重要な国家安全保障事項」の際にクラスター弾の出荷を認める条項である。
ウクライナ東部のドンバス地方をロシア軍とウクライナ軍のどちらが支配しているかは、米国の「重要な国家安全保障」上の関心事とは言い難い。それはたとえば、気候変動による大災害の脅威を和らげたり、水道管が詰まった人々にきれいな水を提供したり、高速道路の高架下に住む身寄りのない人々のための公共住宅に出資したりするのと同レベルだ。

バイデンは核のレッドラインを越えてしまうのではないか

去年の7月に「核ハルマゲドンの危険性」を警告したバイデン大統領は、今回またもや核兵器の危険性を強調した。1年前、バイデンはまず核兵器について「ノー」と言い、次に多くの大量破壊兵器について手のひらを返すような決定を繰り返した。 それはスティンガーミサイル、HIMARSロケットランチャー、先進ミサイル防衛システム、M1エイブラムス戦車、F16戦闘機…などがそれである。
これらこれら大量破壊兵器のひとつひとつが、プーチンの 核の引き金への "レッドライン "を試すロシアンルーレットのようなものだった。
バイデンがクラスター爆弾をウクライナに送るという最新の決断を下したことで、反核活動家たちは、大統領も核のレッドラインを越えてしまうのではないかと懸念している。
バイデンこそ「核態勢見直し」(Nuclear Posture Review)で「先制使用」(first use)を容認した大統領だからだ。

不発弾はずっとウクライナの市民を殺傷し続ける

2008年の画期的な国連クラスター爆弾禁止条約のきっかけは、まさに1960年代から1970年代にかけて、米国が東南アジアで無差別にこの兵器を使用したことにある。
ラオスでは、米軍は約3億発の爆弾で国土を埋め尽くしたが、その多くはすぐには爆発せず、その後、米国が東南アジアから撤退した後、誤ってクラスター爆弾を踏んだり、おもちゃだと思って光り輝く玉を拾ったりした大人や子どもたちを傷つけた。

ウクライナとロシアはすでにウクライナでクラスター爆弾を使用しており、その結果、民間人が死亡したり重傷を負ったりしたことを記録している人権団体から非難されている。
バイデンが送ろうとしている数十万発の弾丸は、これらの禁止された兵器の使用を大幅に増やすことになる。

クラスター爆弾を使っても戦況は変わらない 犠牲者が増えるだけ

クラスター爆弾を送るというバイデンの恐ろしい決断は、ウクライナ南部と東部でのウクライナの反攻が失敗していることに直面した絶望の表れと見ることができる。バイデンはCNNに対し、"難しい決断 "だったが、ウクライナは "弾薬を使い果たしている "と語った。

真実はこうだ。
この新たな無差別兵器を追加しても、「軍事的勝利」を達成するために膠着状態を奇跡的に打破できるわけではない。
一方、不発弾はいずれウクライナの市民を殺傷する。そのことは今後何年も保証される。
そしていずれ、追い詰められた他の国々がクラスター弾禁止条約違反を促すことになる。なぜなら世界最大の国家アメリカも使っているからだ。これが真実だ。

来週あたり、議会が9200億ドルの軍事予算に取り組む中で、ジェイコブズとオマールのNDAA修正案が下院で検討されるかもしれない。今こそ、有権者がCODEPINKのアクションアラートをクリックし、下院議員にクラスター弾の輸出許可を禁止する修正案の共同スポンサーを要請する重要な時である。
大統領が戦争を行う権限を制限する法律を制定したとして、バイデンがそれを尊重するかどうか疑問に思うかもしれないが、大きな声で力強く反対することだけが、私たちの運命をコントロールする政治的レバーを引くことができる。

バイデン政権は、核戦争の危険を冒して軍拡競争をエスカレートさせるのではなく、停戦と前提条件なしの交渉を推進すべきである。国際法を破る代わりに、米国は紛争の外交的解決を求める世界的な声に加わることで、軍事的膠着状態を打破すべきである。

Medea Benjamin is cofounder of CODEPINK for Peace, and author of several books, including Peace in Ukraine: Making Sense of a Senseless Conflict. 

Marcy Winograd serves as the Co-Chair of the Peace in Ukraine Coalition and Coordinator of CODEPINK Congress.


クラスター爆弾供与の動きをどう捉えるか 訴えのポイント

1.不発弾は次の世代までずっと、ウクライナの市民を殺傷し続ける。世界の穀倉は無人の荒野となる。ウクライナ人のために流した涙はワニの涙だったのか
2.戦争の「大義」が失われる。この戦争は、正義対不正義の戦争から不正義対不正義の争いに変えられてしまう。正義の立場から戦いを支持してきた人々は正義を失う。

3.この戦争は、去年の4月に止めることを止めたときから、見通しのない戦争となった。そして今、米国が苦し紛れにクラスター爆弾を使い始めることで、見境いのない戦争、不条理な戦争となった。それは欧米が支配する“不条理な世界”を生み出し、世界に押し付けることになるだろう。
4.「市民の巻き添え」容認論の論理は、積み上げてきた非人道兵器禁止の流れを一気に押し流し、無力感と状況への慣れを生み、最終的には“きれいな核兵器”の容認へと導く

この4つが大きな問題だが、その他にも
5.非人道兵器は相手にも報復の考えを生み、戦争の拡大再生産につながる
6.戦闘のエスカレーションは戦争終結に繋がらず、戦争の激化と泥沼化を招くだけ
7.この戦争を政府対政府の戦争からウクライナ人(米国人)対ロシア人の、人間同士の戦いに変えてしまう

以上のことから言える結論は一つだ。今こそ両国人民と世界の人々が戦争終結、和平実現の一点で団結すべきときだ。


話に役立つ説明資料
Grant's_crocodile_tears
グラント将軍は選挙でロシアでのユダヤ人迫害に「ワニの涙」を流して、
ユダヤ人有権者へアピールした。しかし軍令では戦列からユダヤ人を追放した(Wiki)


に素晴らしい図が掲載されており、この図を説明するとほとんど話が終わるという優れものです。ただ2007年8月の発行なのでちょっと古いところがあります。

kurasuta-


なおウクライナにおけるクラスター爆弾問題は開戦当初の3月中旬から下旬にかけて集中的に報告されており、そのすべてがロシアによる犯行とみなされています。ロシア軍は犯行を否認し、ウクライナ軍の陰謀と非難しており、未決着です。これらの事件がNATO・ウクライナ軍による戦闘継続の根拠となっていることから、クラスター爆弾廃絶キャンペーンの中立性・真実性がいま試されていると言えます。反クラスターのキャンペーンが二重基準とならないようにするためにも、クラスター爆弾の供与反対にとどまらず、戦争反対・即時停戦の方向に踏み出すべきではないでしょうか。




クラスター爆弾供与について
見出し読み 左翼Web 

夏枯れにあえいでいた左翼系のネットニュースが突如息を吹き返した。わずか2,3日でクラスター爆弾供与問題だけでこれだけの記事が集まった。
とりあえず主見出しだけ掲げておく、(2本だけあらすじも紹介)
英語のところだけグーグル窓に入れれば、全部行けると思います。

Global Research
1.By Ahmed Adel, 10 July 2023
戦車も弾薬も少ないウクライナ、クラスター弾に望みを託す

2.By Karsten Riise, 10 July 2023
NATOは「新しい欧州秩序」の再定義を迫られる

3.By Michael Snyder, 10 July 2023
アメリカを第三次世界大戦に引きずり込む決意を固めたジョー・バイデンと戦争屋たち

4.By Dr. Binoy Kampmark, 9 July 2023
無茶な見積もり:ウクライナへのクラスター弾供与

Democracy Now
5.STORY JUL 10, 2023
軍国主義の狂気: バイデン、民間人を巻き添えにするクラスター爆弾にゴーサイン


Global Times 
6.By Yang Sheng Jul 10, 2023 
米英首脳会談を前に「NATOのさらなる支配」で調整へ…「ウクライナ戦争の終結阻止」をブロックの総意に

7.By Song Zhongping Jul 10, 2023
クラスター弾の供与は、米国のウクライナ市民軽視の表われ

8.By Xu Zihe and Huo Siyu  Jul 10, 2023
世界はなぜクラスターに反対すべきか?
why cluster

Counter Punch 
9.BY RON JACOBS JULY 10, 2023
はっきり言おう、クラスター爆弾は戦争のエスカレーションだ

この記事の書き出しは、誰に対しても説得的だ。
ある一線を越えると、他の物事の本質が明らかになる。ウクライナ軍へのクラスター爆弾の提供は、そのようなルビコンである。
NATOが支援する軍隊がモスクワとの対立において道徳的に優位に立っているという建前は、そうでなくても急速に消えつつある。戦争国家を擁護する『ワシントン・ポスト』紙さえ最近のオピニオン記事でそう認めている。
しかし、クラスター弾は世界のほとんどの政府によって禁止されている兵器である。それを供与することは、“人道主義的な好戦主義者たち” にとっては、あまりにも酷なことなのだ。

スプートニク 日本語版
10. 2023年7月10日
クラスター爆弾供与は「この先100年の危険」カンボジア首相は語る_過去に米国の重大な被害
日本語なので行けば読めるが、とかく面倒な人のために
カンボジアは1970年代の内戦に伴い、米国の侵攻を受けた。人権団体「地雷クラスター爆弾モニター」によると、米国は当時、カンボジア東部を中心に8万発のクラスター爆弾を投下した。散りばめられた子弾は2600万発に上った。
当時のクラスター爆弾の不発率が約30パーセントであることを考慮すると、およそ780万発が不発弾としてカンボジアの大地に残った計算になる。半世紀以上経った現在でも、対人地雷とともに民間人に危険をもたらしている。
「…私は米国とウクライナの大統領に対し、爆弾を使用しないよう強く求める。本当の犠牲者になるのはウクライナ人だからだ」

Common Dreams
11.  by Jake Johnson  July 7, 2023 
クラスター爆弾反対勢力、ウクライナ供与を決めたバイデンに「驚愕」

後略

「大脳皮質—大脳基底核ループと大脳基底核疾患」
より抜粋
https://www.nips.ac.jp/sysnp/dl/kiteikaku2.pdf

自然科学研究機構生理学研究所 生体システム研究部門
南部 篤

1. 大脳基底核

4つの神経核群から構成されている(図1)。
(1)線条体 (striatum)
(2)淡蒼球(globus pallidus)
(3)視床下核(subthalamic nucleus, STN)
(4)黒質(substantia nigra)

この内、線条体のうち尾状核のみが前脳(視床諸核)と繋がり、その働きを支える構造となっている。
それ以外の神経核群は運動神経(下行系)に関わり、運動の巧拙を規定したりするが、いくら読んでもそれ以上はわからない。さまざまな仮説が空中を乱舞する。
senjoutaitobijoukaku

線条体は背中を丸めたオタマジャクシの形をしている。頭の部分が被殻、シッポの部分が尾状核と呼ばれる。

*淡蒼球は古線条体ともいうが、通常の意味での線条体には含まれない。じゃ何なのということは書かれていない。
*被殻と合わせレンズのようにくっついているので、ふたつあわせてレンズ核という
*その他「腹側線条体」というものもある。側坐核と嗅結節などがこれに該当する。側坐核は「core」と「shell」という、構造的にも機能的にも異なる二つの構造に分類される、のだそうだ。

要するに尾状核を除けば、肝心なことは何一つわかっていないということがはっきりした。発生学的な連環が明らかになっていないから、用途もわからない。ジェット機のコックピットみたいなものだ。

発生学的に系譜を作成するということは、それが前脳のどこから、どういうふうに分化してきたかを明らかにすることだ。大脳との関係を調べても何も出ては来ない。まずは視床諸核と基底核との関係を明らかにすることが近道だと思う。脳内アミンや活性物質の出処は視床下部なのであり、おそらく視床下部→視床諸核→線条体その他への流れが基底核のロジスティクスを規定しているはずだ。
しかしなぜか、大脳から下等脳を見下ろすマクリーンの呪いがどうしても邪魔するようだ。


三脳説を自分なりに構築しながら大脳皮質の形成にまで接近してきた。
しかし私の仮説は、あくまで前脳→視床諸核をCPUと見なし大脳の2つの構成要素、尾状核と大脳皮質を二種類の記憶装置として位置づけるものだった。
その先には大脳皮質の自律性獲得が必ず必要になる。それがどこでどうジャンプして大化けしたか、これは大脳皮質を領域化して細切れにしても答えの出ない疑問である。

幸いなことに最近は人工知能ーAIという技術が登場し、この問題を解くための一つのモデルを提供してくれている。
昔、どこかで習った「量が質を決定する」というテーゼ(今考えるとドグマというべきか)が今さらながらに思い浮かばれる。何れにせよ、三脳説の主張は三脳説の高次における否定をもって完成するのである。

あともう一つの理論課題は、生成言語問題である。多分そこまでは生命と頭が持たないだろうが、頑張ってみよう。

ロシアは本当にクラスター爆弾を使ったのか?
ヒューマンライツ・ウォッチに自己検証をもとめる

ヒューマンライツ・ウォッチ(以下HRW)は去年3月にロシア軍がクラスター爆弾を使用したと宣伝している。
それは多分、去年の3月にそうやって彼らが報道したらだ。ただ流石に、こっそりとウクライナ軍も使用したと付け加えている。
たしかにその通りかも知れない。しかし肝心なことを隠している。同じ去年の3月、ロシア軍はクラスター爆弾の使用を否定している。そしてクラスター爆弾を使用したのはウクライナ軍だと主張している。しかも最もやってはいけない都市部の市民を対象とした爆撃をしたと非難している。これは今でも閲覧可能だ。現に私は見ている。動画の証拠まである。HRWがそのことを知らないわけがない。

HRWのクラスター爆弾批判の果たしてきた役割

ロシアのウクライナ侵攻→ウクライナ戦争の過程で、HRWは一貫してクラスター爆弾の報道に徹していたと言ってよい。それは彼らのHPをみれば一目瞭然である。彼らの報道の内容は2つある。一つはクラスター爆弾が人畜殺傷に特化した非人道的兵器であり、爆撃を受けた場合には悲惨な状況が現出する。これは当然の主張であり、使ってはならない兵器であることも間違いない。第二の報道内容は、クラスター爆弾を使用したのがロシア軍であるというかなり強い示唆である。ロシア軍がやったという「証拠」がある場合は、名指しで最大級の言葉で非難する。証拠がない場合でもほかの状況との抱合せで、ロシア軍の仕業と匂わせる。
こうしてクラスターは4月の国連総会の人道決議の有力な根拠となって行ったのである。その反人道行為糾弾は、合意寸前となっていた休戦を流産させ、ロシア憎しの大合唱の元、戦闘をいたずらに長引かせる結果となったのである。
つまりこの「人権団体」は、結果的に「ロシアは非人道兵器を平然かつ公然と使う野蛮国」という宣伝で戦争継続に一役買ってきたわけだ。これは、ウクライナ軍の人間の盾作戦を認め、歪んだ報道を続けてきたことを自己批判したアムネスティの態度とはまったく異なる。
だからもしアメリカがクラスター爆弾を供与し、それがウクライナで使用されれば、戦争を続ける2つの理由の内1つ(非人道的なロシアをやっつける)は完全に失われ、HRWはウクライナとアメリカを相手に戦わなければならなくなる。そしてもう一つの理由、「国際法を無視して一方的に攻め込んできたロシアをやっつける」という理由は、ロシアが撤退の条件を明らかにして交渉おうじるなら、ただちに消失する。もう戦争を続ける理由などないのである。それを邪魔するなどということは、決してやってはいけないのである。



ロシア軍のクラスター爆弾使用はニセ旗作戦か?

昨年3月のロシア軍によるクラスター爆弾による攻撃だが、あくまでも私の個人的見解だが、当時大量に実行された「偽旗作戦」の一環である可能性が否定できないと思う。

根拠はロシア側発表に頼らざるを得ないのだが、西側メディアやその延長線上でロシア非難を繰り返したHRWなどの西側人権団体は、ウクライナ発の情報であれば無条件に信頼し、ロシア側の発表はことごとく黙殺した。
そうやって黙殺された情報の一つを紹介しておく。(一部機械翻訳を利用)

2022年3月15日

ロシア国防省は、ロシア軍は人道的義務を果たしていると述べ、ウクライナ軍がクラスター弾でドネツクを爆撃したと発表した。
ロシア国防省は月曜日、ロシア軍がメトロポリとヘルソンを完全に制圧したと発表。そのコメントでウクライナ軍のクラスター弾攻撃に触れた。
ロシア軍報道官によれば、キエフ軍がクラスター弾を搭載したトーチカUミサイルでドネツク中心部を爆撃した。この攻撃で民間人20人が死亡、28人が負傷したと発表し、この爆撃を「戦争犯罪」と表現した。そしてその根拠をこう述べている。「ドネツクに砲撃基地がないことは明白だ。軍の陣地がない都市をクラスター爆撃するのは、純粋に民間人殺傷のためである」
ロシアは、ネオナチ大隊が日常的に停戦体制を悪用し続けており、民間人を人間の盾として戦術的位置の改善、戦闘準備の回復、装備の補充を目指していると非難した。
そして、際限なく嘘と偽情報が流れているにもかかわらず、ロシアは人道的義務を完全に果たし続けていると強調した。
この報道に対する動画フォロー‐がなされている。(記事と同じページ、閲覧注意)
うp主は “CNN, like other Western media, did not report this news. Probably because Russian victims are not worth mentioning” とコメントしている。
HRWが焦っているのは、一方的な報道と理不尽なロシア非難が明るみに出ることを恐れているからかも知れない。



米国クラスター爆弾連合 (USCMC) 
2023年6月14日

バイデン大統領への書簡



親愛なる 大統領閣下

我々、以下に署名する団体は、米国のクラスター弾がウクライナに移譲される可能性がある ことに重大な懸念を抱いております。

これまで米国のクラスター弾を一切ウクライナに供与しなかった貴政権の毅然とした姿勢に心から感謝いたします。

最近、連邦議会議員やウクライナの指導者たちから、米国がクラスター弾をウクライナに移転するよう求める声が上がっています。私たちは改めて、貴政権がこの姿勢を崩さないよう強く求めます。

米国クラスター爆弾連合は、いかなる当事者によるクラスター爆弾の使用、生産、移転、備蓄も、可能な限り強い言葉で非難するものです。

クラスター弾は、市民にとって最も有害な兵器のひとつです。
クラスター弾は広範囲に無差別に拡散するように設計されています。さらに使用当初は不発に終わることが多い爆弾です。 
したがってそれは、紛争が終結して数年してから、爆弾が投下された地域社会に不発弾をばらまき、市民、特に子どもたちに壊滅的な被害をもたらします。

クラスター弾は、2022年2月の全面侵攻以来、ロシア軍によって繰り返し使用されています。 ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、それは家屋、病院、学校などの民間人や民間物に壊滅的な影響を及ぼしています。ウクライナ軍もクラスター弾を複数回使用しています。

2022年4月8日には、ロシアがクラマトルスク市でクラスター弾攻撃を行いました。これにより少なくとも58人の市民が死亡し、100人以上が負傷しました。これは、2022年の侵攻以来、ウクライナで報告されたクラスター弾攻撃の事例のひとつに過ぎません。それは信頼できるものに限っても数百例に達します。
米国は、このような無差別兵器の使用に加担してはなりません。
 
ウクライナ国内には、自国の領土を防衛するために、米国製のより強力なクラスター爆弾を供与するようもとめる意見があります。その人々はクラスター爆弾が戦術的な利益につながると主張します。しかしそれらの主張は間違いです。
クラスター爆弾は市民に明らかな危険をもたらすだけでなく、クラスター爆弾禁止に関する国際的なコンセンサスを裏切ることになるからです。

米国がクラスター爆弾という国際的に禁された兵器をウクライナに譲渡すれば、それは世界の123カ国がクラスター爆弾禁止条約に署名または加盟しているという事実を無視することになります。そして国際的信義にもとることになります。

クラスター爆弾禁止条約は、クラスター爆弾の使用、製造、移転、備蓄を禁止しています。
たしかにロシア連邦、ウクライナ、米国はこの条約に加盟していませんが、米国の最大の盟友であるNATO加盟国23カ国はこの条約に加盟しています。それを公然と裏切ることは、米国を世界的な異端児にするだけではありません。

パートナー諸国やNATO同盟国がこれらの兵器の移転や使用を明確に禁止しているのを承知の上で、あえてこれに反して行動することは、欧米諸国に対する米国のリーダシップを損なうことになります。それはウクライナを支援という最も肝心な作業のための重大な支障となるでしょう。
また、他の軍備管理協定を推進するうえでも支障をきたすでしょう。

米国は遺憾ながら条約に加盟していません。しかし長年にわたる議会の決議の積み重ねの結果、不発率が1%を超えるクラスター弾の移転は禁止されています。そのため、米国に備蓄されているクラスター弾の移譲は、結果的に禁止された状態となっています。

さらに、過去1年間に2度にわたり、連邦議会議員から貴国政府に対して書簡が送られました。
そこではこう求められています。
米国は、このような兵器の備蓄を続けるのではなく、このような兵器を世界から廃絶するための世界的な努力を主導すること。
そしてクラスター弾の使用停止を目標に、米国のクラスター弾に関する政策の見直しを行うこと。
そのために関係諸機関に対し、この見直し作業を「速やかに命じる」こと。
さらにクラスター弾の使用、生産、輸出、備蓄を停止すること。米国をクラスター爆弾禁止条約に加盟させる道を開くこと。
私たちは、貴政権がこの議会の指令と意図に引き続き耳を傾けるよう強く求めます。

クラスター弾は無差別兵器であり、使用された時点でも、紛争が終結した後でも、民間人に不釣り合いな被害を与える兵器です。
私たちは、これからもウクライナの人々を支援していきます。その一方で、このような兵器の譲渡に反対するあなたの献身的な姿勢に大いに感謝しています。

Sincerely,

U.S. Cluster Munition Coalition (USCMC) 

Members:

American Friends Service Committee
Amnesty International USA
Arms Control Association
Center for Civilians in Conflict (CIVIC)
Democracy for the Arab World Now (DAWN)
Friends Committee on National Legislation
Human Rights Watch
Humanity & Inclusion
Landmines Blow!
Legacies of War
Maryknoll Office for Global Concerns
Mines Advisory Group (MAG) US
Nobel Women’s Initiative
Physicians for Human Rights
Presbyterian Church, (USA) Office of Public Witness
Proud Students Against Landmines and Cluster Bombs (PSALM)
The Quincy Institute for Responsible Statecraft
UNICEF USA
United Church of Christ, Justice and Local Church Ministries
West Virginia Campaign to Ban Landmines and Cluster Munitions
Win Without War

Partners:

18 Million Rising
Aurora Commons
Center for International Policy
Children of Vietnam
Church of the Brethren, Office of Peacebuilding and Policy
Foreign Policy for America
No Ethics in Big Tech
Nonviolent Peaceforce
Oxfam America
Pax Christi USA
Peace Action
Plan International USA
RootsAction.org
Saferworld
Shadow World Investigations
Sisters of Mercy of the Americas – Justice Team
Spirit of Soccer

cc: National Security Advisor Jake Sullivan, Secretary of State Antony Blinken, Secretary of Defense Lloyd Austin


書簡には書かれていない言葉があります。「クラスター爆弾まで使ったら、もう正義の戦争じゃなくなってしまう」という密かな悲鳴です。なぜ書かれないのか、それは叫ぶべき大元の言葉が違うからです。我々はこう叫ぶべきです。「クラスター爆弾使うな」ではなく「無条件で戦闘やめよ。ただちに和平交渉を開始せよ。ロシアが悪いことを、戦争を続ける理由にするな」
多分あと一歩でそう叫ぶようになるでしょう。


クラスター爆弾 禁止条約(オスロ条約)の成立経過

2008年 クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)が調印される。
クラスター弾の使用や保有、製造を全面的に禁止する。
その他にもジュネーヴ条約やハーグ陸戦条約など(国際人道法)がある。
民用物への無差別攻撃を禁止している。クラスター弾は広範囲を面制圧する兵器なので、市街地での使用は無差別攻撃と解釈される。野外での使用は可とされる。いくつかのクラスター爆弾はオスロ条約をクリアしている。

2010年 オスロ条約が発効。日本をはじめフランスやドイツ、英国など約100カ国が署名。米国とロシア、ウクライナはこの条約に署名せず。

2016年 米軍はクラスター爆弾使用の段階的な廃止を開始。他国への提供を制限。

2022年

2月24日 ヒューマンライツウォッチ、ロシアがクラスター弾で病院を攻撃 したと報道。 

3月 ロシア軍がウクライナ南東部でクラスター弾を使用。米国はロシアのクラスター爆弾使用を非難。

ヤフーニュースに7日掲載されたJSF氏解説の紹介

アメリカがクラスター弾をウクライナに供与する方針、



オスロ条約とその他の国際人道法


クラスター弾に関する条約(オスロ条約)・・・2008年調印、2010年発効。クラスター弾の使用や保有、製造を全面的に禁止する。
その他にもジュネーヴ条約やハーグ陸戦条約など(国際人道法)がある。
民用物への無差別攻撃を禁止している。クラスター弾は広範囲を面制圧する兵器なので、市街地での使用は無差別攻撃と解釈される。野外での使用は可とされる。

ATK
ATK


これまでのアメリカの態度

オスロ条約に参加していないが、クラスター弾反対運動の気運が高まった2003年に使用中止を決断、オスロ条約が調印された2008年に製造停止、翌年には輸出停止となっている。
すなわち条約に参加していないにも拘らず事実上従っている状態と解される。

JSF


*なお韓国はオスロ条約に参加せず、クラスター弾の製造工場を持つ。


(ロシア製)クラスター爆弾はすでにウクライナで使用されている

*クラスター爆弾はウクライナですでに常用されている。以下長めに引用する。
ロシアとウクライナの双方が主力兵器として使用している旧ソ連製の多連装ロケット発射機「スメルチ」「ウラガン」の主弾薬はクラスター弾頭ロケット弾であり、開戦以来ずっと常用されています。この他にも短距離弾道ミサイルや航空爆弾、野砲の砲弾などでクラスター弾の使用が確認されています。この戦争でクラスター弾は珍しいものではなく、当初より普段から大量に使用され続けている兵器になります。
このためウクライナはクラスター弾の使用自体は問題無いと認識しており(ただしロシア軍による市街地へのクラスター弾の使用は非難)、ロシアもクラスター弾を全く問題無いものと考えているので、ロシアにはアメリカによるクラスター弾のウクライナへの供与を非難することは出来ません。
ただ、今回供与される米製クラスターの性能ははるかに凌駕しており、別兵器と言って良いくらいのもののようだ。その辺がるる説明されているが当面、ジャンプ。興味ある方は原文を参照されたい。

ロシア製クラスター弾
ロシア製クラスター弾



この1ヶ月の経過

6月上旬 ウクライナが反転攻勢を開始。バイデン政権は進撃を加速させるため、クラスター爆弾や、最大射程が300キロと長距離の地対地ミサイルの供与を検討。

6月下旬 クーパー米国防次官補代理、下院外交委員会で証言。ざんごうに身を隠すロシア軍部隊を攻撃するのに「役に立つ」と述べた。

6月30日 ミリー統合参謀本部議長、クラスター爆弾の提供を検討中とかたる。「ウクライナ側からの要求だ。欧州の一部の国はすでに提供しており、ロシアは戦場で使用している」

7月

7日 アメリカ政府、ウクライナを支援するため、クラスター弾を供与すると発表。

6日 国防総省のライダー報道官、アメリカのクラスター爆弾は不発率2.35%未満。ロシアの不発率3~4割より低いと説明。

7日 バイデンが米CNNに対して、「自分にとって非常に難しい決断だった。供与を決めたのはウクライナが砲弾切れになりつつあるからだ」

7日 ハドソン研究所(右派)の軍事専門家がNHKの取材に答える
*クラスターは塹壕戦を主体とするロシア軍を攻撃するのに有効だ。
*クラスター爆弾の供与によって、ウクライナの反転攻勢に弾みがつく
*これまで、クラスター爆弾を供与してこなかったのは、クラスター爆弾を供与すれば、ロシアを挑発し戦術核の使用を誘発することを恐れたからだ。
*しかしクラスター爆弾の供与は緊張の高まりにはつながらない、との考えに変った。

7日 人権団体などでつくる「クラスター弾連合」、市民に恐ろしい被害をもたらすとし、供与中止を求める。

ウクライナを無人の野に
核と化学兵器以外は皆OK
これが人道・正義派の結論か
01

02
メジャーの報道メディアは、基本的には淡々と事実を報道するのみ。BBCやCNNはバイデンに同情してみせる。世界100カ国以上が反対していることは事実としてサラリと触れるが、だからどうだとは言わない。恐ろしいのは小型核を使っても、こうやって報道するのだろうなという感覚だ。
そしてグーグル検索しても、普通の人には世界100カ国の人々の意見に触れる機会はないという事実だ。

scheerpost.com
July 7, 2023

NATOによるウクライナの焦土化
NATO’s Scorched Earth in Ukraine


By Tony Kelvin


リード

7月11日から12日にかけてヴィリニュスでNATO首脳会議が開催される。それはすでに奇妙な宿命論に感染しているようだ。


NATOがウクライナ国家の自殺を幇助

リトアニアのヴィリニュスで、東欧諸国が主導するサミットが開かれる。ウクライナ戦争に疲弊した東欧諸国は、和平に向けた突破口をもはや見失ってしまッたようだ。

NATOは、夏季攻勢をザポリージェ奪回と、最近のバフムート攻防戦にかけた。しかしそれはロシアの防衛網を多少なりとも後退させることさえできなかった。
ウクライナ軍兵士の死亡率は恐ろしく高く、西側から供与された装備の摩耗は甚大であった。

西側諸国は、ゼレンスキーがすでに回復不可能なレベルに達したウクライナで軍兵士をさらに浪費し続けることに満足している。作家のラウル・イラルギ・マイヤーは、これをNATOによるウクライナ国家の自殺幇助行為と表現している。


NATOはウクライナで「焦土作戦」に移行した

NATOの「口には出さない」戦略はこうだ。
*ロシアがウクライナで勝利することは避けられない。
*我々とキエフの代理人(ゼレンスキー政権)は、ロシアがウクライナを支配する前に、ウクライナの労働力と国富を可能な限り破壊する。戦争の後にロシアが利用できないようにするためだ。(いわゆる焦土作戦)

カホフカ・ダムは消滅した。ザポリジエ原子力発電所に残された施設・設備は、西側の支援する破壊工作の危険にさらされている。これら2つの巨大資産は、ウクライナの産業と農業の潜在力と富の要だった。

ロシアはいずれ、廃墟と化したウクライナの政治的支配権を獲得することになるだろう。そして西側の所有権侵害の訴えをすべて拒否するだろう。そして果てしなく広がる廃墟ウクライナの政治的支配権を獲得し、西側諸国が絨毯爆撃をおこなった、途方もない規模の再建作業に直面することになるだろう。

それは第二次大戦後 ソ連がウクライナで直面した状況に匹敵する。ナチスは1944年から45年にかけての撤退に際して、狂気の焦土作戦を展開した。それがウクライナのネオナチにより繰り返されるだろう。

西欧は混乱し、目標を失っている

一方、ショルツ政権下のドイツは、工業化が進んでいない。アメリカによるバルト海パイプラインの破壊工作の結果、安価なロシア産ガスが手に入らなくなったからだ。
ドイツの未来に見切りをつけた実業家たちは、資本、経営技術、知的財産を他に移そうとしている。
フランスは深刻な暴動に見舞われている。総じてEUは混乱し、目標を失っている。西ヨーロッパは世界的な影響力を失いつつある。

アメリカでは「軍産情報複合体」の一人勝ち

アメリカでは「軍産情報複合体」(military-industrial-information complex)だけがうまくいっている。インフラは崩壊の一途をたどっている。中産階級は浸食され、混乱している。
民主党はリベラルな帝国主義の党であり、共和党はいまだに戦争屋とアメリカ第一主義のナショナリストの間で対立している。
誰が次期大統領になるのか、そしてその人物がアメリカの相対的な衰退を食い止められるのか、誰にもわからない。

ロシアはグローバル・サウスの支持が頼みの綱

ロシアは現在、グローバル・サウスと呼ばれる国々で着実に評判を上げつつある。BRICSや上海協力機構(SCO)に加盟しようと目指す各国政府の列はますます長くなっている。
ロシアと中国の戦略的パートナーシップは、多極化イデオロギーの要となっている。強固で知的自信に満ちた紐帯は、世界中の真剣な政府から注目を集めている。
ロシアの課題は、ウクライナで勝利することである。しかし、そのために中国やグローバル・サウスからの評判を落とすことは許されない。

ロシアは二度と西側を信用しないだろう

320年前、ピョートル大帝はロシアをヨーロッパ列強クラブの一員にしようとし。ロシアはそれ以来の歴史に幕を下ろそうとしている。ロシアは二度と西側を信用しないだろう。
1991年のソビエト共産主義の終焉以来、この32年間における西側の外交的裏切りの歴史は、以下のことをロシア人に示した。

米英のロシアへの思惑は、共産主義を打ち負かすこと以上のものだった。 
それは、アメリカの世界覇権を拡大し、世界文明国家としてのロシアを解体することだった。

グローバル・サウスは十分な証拠をもって納得している。
2013年以来、ウクライナの政権交代とアメリカの支配強化は、何よりもロシアの弱体化と不安定化を目的とするための偽装工作だった。
グローバル・サウスは、自分たちが悪辣に搾取された植民地支配の歴史を思い出し、今度はこうした西側工作が失敗に終わろうとしていることを喜んでいる。

ヴィリニュスでのNATO会議は、破滅しつつあるキエフ政権を救おうとするだろうが、そのような奇跡が生み出されることはないだろう。
「民主的なウクライナを守り続ける!」という、うんざりするような美辞麗句があいかわらず並ぶだろう。しかし発言者も聴衆も、誰もそれを信じないだろう。

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Tony Kevin はオーストラリアの元上級外交官。在カンボジア大使、在ポーランド大使、在モスクワ豪州大使館大使などを歴任。

尾状核
部位
尾状核は脳の中心付近、視床の両側に存在する。側脳室前角の底面の一部を形成する。尾状核は解剖学的に他の多くの脳構造と関係している。

機能
尾状核は学習と記憶、とくにフィードバックに強く関わっている。
その後に面白い記載がある。
「左尾状核は単語の理解とかかわっており、視床と関係しているとされる」
これって、まさにCPUとRAMの関係じゃない?
前から考えていたのだが、視覚、触覚、聴覚などを統合し、そこから対象(Object)のイメージを作り出すというのはとても大変だ。とくに聴覚というのは時間軸の勝負だけに、動的知覚が求められる。これはたんなる記憶でなくシリアルでリレーショナルな、いわば厚みのある知覚が求められる。これは分解能の高い高速メモリなしではできない作業だ。視床諸核のみで成し得る技ではない。ところが見たところ作業用のメモリは視床内にあるようには見えない。とすればそれは尾状核以外にはない。
しかも大きさからうと、揮発性というか超短期記憶型のメモリでなければならない。ひょっとするとフラッシュ型かも知れないね。

情動との関連付け
情動と連関し、行動を意味付ける可能性があるが、こちらは「脳科学者」にお任せ。ただ伝達物質の分泌・受容という側面から見れば、むしろ視床・視床下部の作用が一次的と思われる。

大脳皮質との関連付け
学界(脳科学)での興味はこちらの方が優勢なようだが、今のところ未知数が多すぎてまともな議論の対象とはならない。(だから脳科学の活躍する余地がある)
基本的には人間というのは失大脳でも生きていけるが、失尾状核でどうなるかは興味ある話題である。
「医学事始」というサイトに「尾状核梗塞と無為 abulia」というページがあって、面白い。

一言で言えば「浦島太郎症候群」というのだそうだ。傍で見ていて「急に今日から年をとってしまった感じ」というのが臨床的経過のようだ。
血管支配が良くわからないが、尾状核がやられたからと言って、すべからく失外套症候群を呈するというわけでもなさそうだ。

等身大の尾状核
部位的に見てもpara‐thalamus と呼びたくなる。視床と一体となって効果を発揮する秘書のような存在だ。これに体液性情報と行動刺激を与える視床下部がワンセットになって脳中枢を形成している。これが三脳説の肝となる。鳥脳がそうではないかと想像している。
しかし世の中にはだめ論文が山のようにあって、そこでは逆に、大脳皮質から尾状核を見下している。そうなると尾状核は大脳基底核(大脳のアクセサリ)として十把一絡げにされてしまう。これぞ P.マクリーンの「三脳説」の呪いだ。

線条体の勉強…構えの形成

Wikiの記述は長いが的外れ
Wikiの記述は解剖学的所見の記載がほとんどなく、神経生理の記述に終始する。このためこちらで内容を再構成しながら読み解かなければならない。

*線条体は新線条体(背側)と腹側線条体に区別される。
*線条体という名称は尾状核と被殻が内包によって分断される“場所”で互いに連絡している部分が線条として見えることから命名された。

要するに、線条体というが、そんなものはないんだ。ただそう(線状に)見えるだけなのだ、読んだってムダだよということ。
それじゃ尾状核と被殻の方に行こうかというと、そこから延々と神経伝達物質の話が始まる。

これを見ただけで、もうこの話は聞く気がしない。
どうせ一事が万事そういう態度の文章であろうから、ここで引き揚げることにする。
……………………………………………………

とにかく線条体に関する記事がない。

線条体で勉強するのはやめることにする。グーグルで探した範囲では、少なくとも日本語ではまともな記述はないことがわかった。

肝心な視点、それは前脳まで上行し視床諸核で複合感覚として統合された情報をどう処理し行動に反映するかということだ。そのことに尾状核(とりあえず線条体は使わないことにする)は関わるのだろう。
その際、無条件反射は視床で行われている(はず)なので、まずはそれに一手間加えることが求められるだろう。
一つの複合情報に対する反射行動に数種類のパターンがあるとすれば、それの選択、もう少し詳しく言うと量的反射、情動随伴、集団反応などが考えられる。これらは従来大脳の任務と考えられてきたが、大脳未発達の動物でもしばしば類似行動が見られるので、脳幹機能と大脳皮質機能との間に階梯的構造があるのであろう。それを線条体に求めるのは自然の流れだろうと思う。
なお、鳥の飛翔運動のような巧拙が即生命に関わる場合、線条体の働きはそちらに集中しているであろう。
線条体はコンピュータでいうメイン・メモリ=OSの置き場に相当するのかも知れない。さらに永続型ではないにせよもう少し効きの長い記憶装置が海馬。これは嗅脳からの借り物かも知れない。
というのが現段階での作業仮説。こういう発想の文章は、これまでのところほぼ皆無だ。ただし野に賢人はいるはずだ。これまでもそうだった。辛抱強く探していこう。




Stop the War coalition
08 Jun 2023

戦争の販売術 その1 人道的であるように見せかける
MAKE OUT IT IS HUMANITARIAN

by Chris Nineham

Chris_Nineham
  C.Ninehm: founder member of the Stop the War Coalition

リード
ウクライナ・西側の戦争宣伝を暴くシリーズの第一弾: ウクライナ戦争が人権のために戦われているという嘘を暴く。

はじめに

戦争は支配者たちにとってチャンスでし。でもまたピンチでもあります。
あらゆる紛争には宣伝攻勢がつきものです。だからことわざにも「真実は戦争の最初の犠牲者である」といわれるのです。
それは、人権戦争の代名詞のように言われているウクライナ戦争も、例外ではありません。
アメリカ、西欧諸国、ウクライナ政府、ロシア当局は、殺伐極まりないウクライナ戦争を民衆が支持し続けるよう全力を尽くしています。

ウクライナ戦争は第二次世界大戦以来、ヨーロッパで最も殺戮的な軍事作戦です。だから民衆は一日も早く終わって欲しいのです。それなのにいろいろ理由をつけて、むりやり戦争を押し付けるのはなぜでしょうか。

疑問が許されない社会

ロシアを非難する偽情報は、大工場のように流れ作業で大量生産され、世間に流されています。
アメリカのタカ派政権、イギリスの保守党政権、EUを牛耳る支配層、そして大西洋両岸の軍産複合体は、巨大なプロパガンダ・マシンを形成しています。そこには批判的論調は存在しません。
その主張は、事実上すべてのメディアと、少なくともイギリスでは、ほぼすべての政治家階級と、普段は左翼的な人々をふくめて驚くべき数の人が、盲目的に受け入れています。

その主張は、グローバル・サウスでは広く否定されています。少なくともヨーロッパのいくつかの国では、議論の対象となっています。しかしイギリスでは、それに疑問を呈すると、「平和と民主主義の敵だ、ロシアの味方だ」とレッテルを貼られ、非難にさらされます。


ある国の「国民の権利」

西側諸国がこの戦争を支援する最大の理由は、「ウクライナ国民の権利が守られなければならない」ということです。しかしこの言葉吟味して見る必要がありそうです。私たちには、国家や民族の権利の名の下に戦争に突入した、長い不名誉な歴史があります。

百年前には、第一次世界大戦という大虐殺の歴史がありました。イギリスはこの戦争に、「ドイツの侵略から “かわいそうなベルギー” (poor little Belgium’)を守る」ために加わりました。
アメリカはベトナム戦争を、「北からの“共産主義の脅威” から南ベトナムを守るためだ」と言い張って戦争を続けました。
1999年の西側諸国によるセルビア空襲では、セルビアの人々から推定5万人の死傷者が出ました。それは、「コソボ人の民族的権利を守るために “必要” であった」とみなされました。

それぞれの戦争で、戦争に至る経過は異なっていますが、これらの戦争を支持する理由は、ウクライナでNATOを支持する論拠と同じです。
すなわち西側諸国が、よその国の人たちのために対外軍事支援を行うのは当然、多少の巻き添えはやむを得ないという考えです。
そして、西側諸国が他国同士の戦争に軍事介入するのを認めることと同じです。なぜなら西側諸国は民主主義の先輩だからです。
ところで西側諸国には帝国主義と植民地支配という負の歴史があります。それは長い間西側でない国々の人々を苦しめてきました。
21世紀に入ってからも、アフガニスタン、イラク、シリア、リビアへの侵略、占領、大量爆撃、そしてサウジアラビアが主導するイエメンへの恐ろしい攻撃がありました。西側諸国はそれらの戦闘を熱心に支援して来ました。
そのことを考えると、「ある国の国民の権利」を西側諸国の軍事行動の根拠にするのは、とんでもなく無理があります。


戦争の推進力

ウクライナの場合、それはこう信じることから生まれます。
つまり、西側諸国の熱狂的戦争推進者たち、ジョー・バイデン、ボリス・ジョンソン、リシ・スナクの3人の政府が、心からウクライナ人の幸福を第一に考えていると信じることです。

2022年2月に発生したロシアのウクライナ侵攻は、まぎれもない侵略行為でした。すべての反戦・平和の運動は、いまもなおロシアの軍事行動の停止を要求し続けています。
しかし、西側諸国の軍国主義的な対応は、軍事行動の停止にも平和の実現にも役立たず、ウクライナ人の苦しみを深めるばかりです。

欧米列強は日をおかず、冷戦後の最大規模となる軍事動員を行いました。その後は、第二次世界大戦以来の規模の武器が供与されました。
米外交問題評議会によると、今年5月までにアメリカはウクライナに760億ドルという驚くべき援助を行っています。その大半は軍事援助です。これは、20年にわたる西側の占領によって荒廃したアフガニスタンへの援助の40倍近い額です。

英国はウクライナ戦争の「欧州戦争化」を推進し、無人機、劣化ウラン弾、巡航ミサイル、戦車を送り込んでいます。さらにウクライナの戦闘機パイロットの訓練をおこない、特殊作戦部隊をウクライナ領内に投下しました。

この1年あまりで、少なくとも15万人のウクライナ人が戦闘で死亡し、都市全体が破壊されました。数百万人が停電、食糧不足、定期的な空襲によって苦しい生活を迫られています。

この歴史的作戦を推進する真の原動力はなにか、それを見つけるのに、あれこれ詮索する必要はありません。当事者が率直に語っています。それは西側諸国の指導者、政府・軍当局、専門家たちです。
戦争が始まって数週間後に、バイデン大統領は自ら、これがロシアにおける政権交代のための戦争であることを認めています。質問されたとき、彼はこう応えました。「この点に関して我々は何も後退していない」

ハル・ブランズは、ジョンズ・ホプキンス大学の教授で、ウクライナ戦争を支持しています。彼はブルームバーグにこう書いています。
ロシアは、現代史において最も冷酷で効果的な代理戦争の標的となっている。
対ロシア戦勝利の鍵は、現地で献身的なパートナーを見つけることだ。彼らは殺すことも死ぬことも厭わない。次に、必要な武器、資金、諜報をたっぷり与えて、脆弱なライバル(ロシア)を粉々に打ち砕くことだ。それこそまさに、ワシントンとその同盟国が今日ロシアに対して行っていることだ。
ブランズの見解は、和平交渉が流産した昨年4月、バイデンの2人の高官、アントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官によって確認されました。
オースティンは語りました。
「ロシアが二度とウクライナに侵攻できないくらい弱体化することを望んでいる。この戦争どう展開するかはわからないが、独立した主権国ウクライナが、ウラジーミル・プーチンが壇上にある期間よりずっと長く存在することは確かだ」
もちろん、援助はいかなる勢力にも提供されているのではありません。ウクライナにおいては戒厳令下の権威主義政府が運営する国家戦争マシーンに提供されています。ウクライナの軍事能力は、大規模な軍事演習の積み重ねと、西側の情報、標的、訓練に軸足を置くことで成立しています。
つまり戦争開始前の数年間にここで起きたのは、ウクライナ政府が、アメリカを筆頭とする世界最強の軍事同盟に引き込まれたということです。そしてその結果、最も苦しんでいるのはウクライナ国民です。

平和の妨げとなるもの

ワシントンと英国政府が自分たちの優先順位を押し付ける方法の柱が、和平努力を妨害することでした。執拗な戦争プロパガンダの主張とは裏腹の関係になりますが、実は危機への対応方法はもとから最初から用意されていたのです。
もともとゼレンスキーは2019年に和平候補として選出されました。彼は対ロ問題を解決するためのミンスク合意をもう一度復活させることで、内戦を終結させるよう委任されていました。しかし西側諸国は彼を支援することを拒否しました。

それ以来、彼はさまざまな場面で交渉に前向きな姿勢を示してきました。
昨年3月、彼はウクライナのNATO加盟を白紙に戻すと表明しました。同じ日、彼はクリミアとドンバスの地位についてロシアと話し合う用意があることを示唆しました。

西側諸国はこの申し出を無視しました。ロシアの専門家リチャード・サクワはこう言います。
冷戦時代であれば、今日のような状況では、間違いなくアメリカが外交の主導権を握っていただろう。
しかし、今のアメリカは和平交渉に関心がない。どんなに多くのウクライナ人の命が失われようとも、どうでもいい。ただひたすらロシアの敗北を待っているのだ。
アメリカとその同盟国は和平交渉を妨害し続けました。
和平交渉の流産後1ヵ月、イスラエルが和平案を提示したことがあります。ゼレンスキーはこの提案に反応し、交渉で戦争を終わらせると公言しました。それから48時間以内にボリス・ジョンソンがキエフに現れました。そしてゼレンスキーに「交渉は不可能だ」と告げました。
johnson & Zerensky
      キーウに急遽現れたジョンソン(当時首相)

ウクライナのメディアで引用された、ゼレンスキーに近い情報筋の話ではこうなります。
「ジョンソンはキエフに2つのシンプルなメッセージを持ってきた。
1.プーチンは戦争犯罪人だ。彼に圧力をかけなければならない。彼との交渉は不可能だ。
2.もしあなたが彼と何らかの協定を結ぶなら、我々はその協定に加わらない。あなた方とは協定を結べるが、彼とは結べない。いずれにせよ、プーチンは皆を失望させるだろう。
最近、アフリカ6カ国の首脳が主導する別の和平計画も、西側諸国から難色を示されています。
「フィナンシャル・タイムズ」紙によると、プーチンもゼレンスキーも代表団と会談する用意があったといいます。ナイジェリアのオバサンジョ前大統領は、「米国務省と英外務省が“今はその時ではない”と明言した」とFT紙に語った。(訳注: その後、実質的な話し合いはできないまま代表団は帰国した)

さいごに

これは、地球上で最も強力な軍事大国によって、彼ら自身の利益のために続けられている戦争です。私たちの運動は、ロシアとウクライナの平和を求める声を支援することであって、自国政府の戦争努力を支援することではありません。
西側諸国の完全勝利という話は狂気の沙汰でしょう。そこにウクライナの人々への配慮はまったくありません。頭にあるのは地政学的な利益のみです。

より大きな破局を招かなければ、ゼレンスキー自身が言っているように、戦争は交渉で終結歯科ありません。その交渉の内容は、この国の人々の考えることです。しかし今、人々の問題が解決するかどうかは、殺戮の終結にかかっています。そして、それは早ければ早いほどいいのです。(訳 編集部)

第一集 終わり

June 30, 2023 
Peoples Dispatch

BRICSサミットは予定通り開催、開催国南アフリカが確認

BRICS summit will go on as planned, confirms host South Africa

https://peoplesdispatch.org/2023/06/30/brics-summit-will-go-on-as-planned-confirms-host-south-africa/


リード

ロシアのプーチン大統領に対してICCから逮捕状が出された。プーチン逮捕を避けるため、サミットは中国か他の国に変更されるのではないかとの憶測が流れていた。

以下本文

6月29日(木)、南アフリカはBRICSサミットが原案通り8月22日から24日にかけてヨハネスブルグで開催されることを確認した。
このことにより、国際刑事裁判所(ICC)がプーチンに対する逮捕状を発行した事からくるさまざまな可能性は解消された。

南アフリカはICCの加盟国である。したがってICCのローマ規程に基づき、プーチンが入国すれば、逮捕状を執行する義務がある。

ICCは3月、ウクライナから子どもたちを不法に国外追放したとして、プーチンに対する逮捕状を発行した。さらにいくつかの戦争犯罪についても指摘している。プーチンはこれらの疑惑を否定している。

ロイターによると、南アフリカのナレディ・パンドール国際関係相は次のようにコメントした。
「プーチンはサミットに直接出席するかどうかまだ確認していない。バーチャルモードでの参加に留まるかも知れない」

南アフリカは、米国をはじめとする西側諸国から、ウクライナ戦争に関する中立の立場を放棄するよう圧力を受けている。欧米諸国はさらにロシアに課された制裁を遵守するように求められている。アメリカはまた、南アフリカがロシアに武器を供給していると非難している。

南アフリカは米国の宣伝する軍事援助疑惑を否定し、戦争でどちらかに味方することを拒否している。
彼らは、「ロシアとの経済的・政治的関係は、西側諸国との関係に劣らず、アフリカ諸国にとって重要である」と主張している。
6月、南アフリカのシリル・ラマフォサ大統領はアフリカの代表団を率いてウクライナとロシアを訪問し、紛争の交渉による解決を働きかけた。    

南アフリカは2011年に5番目のメンバーとしてBRICSに加盟した。BRICSには、ブラジル、ロシア、インド、中国が含まれる。BRICSは、より公平で多極的な世界システムを構築し、欧米の経済的・政治的覇権主義に対抗することを宣言している。 
BRICS諸国によるサミットは今回で15回目となる。

最近、BRICSの国際的権威が急速に高まっている。イラン、サウジアラビア、アルゼンチンなど十数カ国がBRICSへの加盟を申請しており、欧米主導の国際フォーラムに代わるグループとしてBRICSが注目されている。

脳科学辞典より
「終脳」 黒田一樹・佐藤真 著

1) 一次脳胞形成期 
ヒトでは受精後4週目に相当する

三脳胞が形成される
菱脳胞より尾側では神経管の膨大は見られず、「神経管」に留まる

私注
*脳胞と呼ばれるのは、神経管の内腔も拡大し、ぶどう房状をなすためと思われる。内腔は吻側より順に第三脳室(前脳)‐中脳水道‐第四脳室(後脳)と呼ばれる。
*ただし房というほどに内腔が広いとは言えず、数珠をつなぐ糸を通す穴という方がふさわしい。
*この期間においては神経管の両端は開放されたままである。

2) ニ次脳胞形成期 
ヒトでは受精後5週目以降

この時期に三脳胞に原基を持つ3つの構造が発生する。終脳胞(前脳から)、橋と小脳(後脳から)である。

終脳胞は前脳胞の両側に突出するようにして形成される。突起物ではあるが三脳胞と同様に内腔を持つことが特徴で、しかも内腔の大きさは三脳胞をはるかに凌駕する。


3) 終脳胞→大脳の発生と進展

終脳の実質は内腔の臓側面から増殖し頭蓋内に拡大していく。この拡大増殖はまず上方に向かい、ついで後方に向かい、最後に下方へ曲がり込んで前方へと伸展し、側頭葉を形成する。
これに伴い終脳胞の内腔も同様の拡大方向をとり側脳室を形成する。
なお側脳室の最前方は室間孔を形成し相互に連絡し、室間孔はその中間点で第三脳室とT字型に交わり、髄液の相互交通を実現する。

4) 黒田さんは悪くない

黒田さんはなんとか終脳説と折り合いをつけようとしていろいろ苦労されている。それは「学問ビジネス」の世界では通さなければならない仁義であろう。もうひとつ、終脳→大脳となるプロセスのキー概念となっている「外套」への言及がない。否定するなら、それはそれで立派な態度表明だが、それならそれで歴史的概念としての外套への決別の辞は送るべきであろう。

たしかに前脳の前側が終脳になり、取り残された後ろ側が間脳になるという「通説」(例えばウィキペディア)はこれで切り抜けることができる。
実は神経管の前端に近い部分で同じように脳から左右に突出する感覚器は、多種存在するのである。「ふたぁつふたぁつなんでしょね」という歌まである。むしろ両側で対になっているのが当たり前だ。

目、鼻、耳、人間にはないがヒゲ、肝心なことはそれらは脳幹ではないということだ。終脳という言葉の怪しさはそこに起因する。脳幹であることと両側性であることとは論理的感覚を著しく逆なでする。それが大脳であったり小脳であったりして、つまり脳幹ではなかったとして、葉を茂らせ、花や実をつけたとして、実のところ何も困らないだろう。むしろ大谷選手のような二刀流が最終かつ最強の脳=ターミネータとして登場してもおかしくない、のではないだろうか。
そこを踏まえた上であれば、私も黒田さんと歩みを同じくしても悪くはないと思う、そんな今日このごろである。

5)終脳→大脳についてのもう一つの記述

脳科学辞典には、もう一つの大脳形成に関する記述がある。それが「脳胞」cerebral vesicle の記事である。ここでは「終脳の背側は大脳皮質となり、腹側からは大脳基底核などが分化する」と記載されている。しかし意図の有無は別として、ここにはごまかしがある。
ごまかしの第一は「終脳」が突然出現し、「終脳胞」との異同が語られないことである。終脳は終脳胞のたんなる言い換えとしか捉えられない。第二は「背側」と「腹側」の規定がされないことである。おそらくは脳胞の内腔面の背側と腹側を指すのだろうが、これでは教科書の体をなさない。

英語版Wikiでは、終脳は後脳、中脳、前脳と続く脳幹構造のさらに吻側の構造として終脳が捉えられている。これに対し黒田さんも、不肖私も、前脳胞の両側方に突出した脳胞状構造を「終脳胞」と考える。すなわち二側性の中空構造である。それは脳幹そのものではなく、終脳そのものでもない。基底核と大脳へと発達していく「終脳胞」という構造なのである。
この脳胞壁の前方視床と離れ、自由壁に移行しようとするあたりで、内腔面に基底核が突出し、外面に外套が形成され、その後外套が自由壁外側を覆うように広がり、大脳皮質へと発達していくのである。
……………………………………………………

これは 2023年05月29日

の続編である。
大脳の最初の最初の発生部位は下記の図(再掲)を前提として述べている。

前脳腔基底核原基(線条体)と書いてあるところの左下が視床(間脳)になる。


大脳基底核は大脳なのか

大脳基底核という言葉が以前から嫌いだ。終脳という言葉の次に嫌いだ。最初の頃はなんとなく好きになれなかっただけだった。しかし大脳基底核という言葉をなんとなく使い続けている人たちの曖昧さが嫌いになって以来大脳基底核という言葉が嫌いになった。それは大脳辺縁系という言葉が嫌いなのと同じだ。
初期の解剖学者が諸物を場所(存在部位)ごとにグループ化したのは、完全OKだ。しかしこれだけ発生学的な分類が明らかになってきているのに、それに沿って再分類せずに、あたかも大脳基底核という概念に意味があるかのように用いるのは学問的な犯罪行為だ。

発生学的に見た「大脳基底核」

これは重大な問いをはらんでいる。すなわち大脳基底核は大脳なのかという疑問である。
普通の常識から言うと「なんとか前」とか「新なんとか」というのはなんとかではない。「なんとか」ではないから、そう呼ばれるのだ。しかし発生学的に見ると、大脳基底核は大脳そのものなのだ。
しかも、なお困ったことに、大脳基底核群には大脳とは言えないものも混じっている。
先程あげた「新なんとか」には本家のなんとかとは関係のないものも混じっている。典型的なのが「なんとか銀座」で、これは銀座とは関係ないことを宣言しているようなものである。まぁこちらの方はご愛嬌みたいなところがあるから、めくじら立てるほどのものではない。
しかし深刻なのは、「大脳になりそこねた大脳」的なものが混在していることである。
その典型が線条体である。
そもそも大脳は前脳の両側にできた前脳胞(側脳室)の内側面が部分的に肥大し外套を形成するところから始まる。それは良いのだが、私が思うには、そのとき大脳は迷うのである。
発生第5週あたりで最初に、隆起してくるものは基底核の名にふさわしく、神経節…線条体である。それはそれで成長するのだあが、それから2,3週して、その隆起の下が盛り上がってきて、これは新計画の形を取らずにアモルファスな神経線維の集合として、ものすごい勢いで成長する。そして線条体を包み込むように上方に拡張し、やがて側脳室全体に広がっていく。
この辺の叙述は我ながら曖昧でいい加減だが、言いたいことはわかってもらえるだろう。
つまり線条体は大脳基底核ではなく大脳そのものなのだ。わたしは大脳基底核という言葉はやめて大脳線条体と呼び、区別すべきだと思う。それで線条体以外の基底核はあえて言うなら脳底部諸核というべきではないかと思う。

大脳の選択と決断

大脳は成長を始める時点でこう考えた。視床諸核とおなじ神経節の集合として生きていくべきか、それともこれまでとはまったく違った脳のあり方、巨大記憶装置として生きていくべきか迷った。そして最初は前者の道を選ぼうとしたが、突然考えを変えてそちらの方向に駆け出した。
それが線条体をメインとする鳥の大脳と違ったものになってしまった理由ではないだろうか。鳥は空を飛ぶために、そのような選択を断念したのかも知れない。
これがわたしの想像である。
ひょっとすると線条体のほかにも同様の経過をとった神経核連合があるかも知れない。そのあたりは今後の課題だ。

以上のような説は、類似のものもふくめて経験したことがない。

描かれたニュース
出来事との距離
戦争・日常
ゴヤ、月岡芳年、浜田知明から現代へ

と題された版画展が開かれている。何やら正体不明な企画展示のようだ。7月17日まで町田の版画美術館で開かれているそうだが、あの坂を考えると気が重くなる。

それで、そのポスターがネットで公開されていて、それを拾って今日の赤旗の「展覧会だより」が掲載した、切手みたいなちっぽけな写真が、瞬間目に突き刺さった。

松本悠
            画面上左杭リックで拡大

それでネットで探して見つけたポスターの拡大写真がこれだ。
版画のタイトルは「蛇口泥棒」。右下にこんなクレジットがつけられてる。

松本悠(長浜市、東近江市、砺波市)
2022年 リトグラフ 個人蔵

カッコ内の3つの地名が意味不明、変にリアルで不気味である。

つい気になってネットにあたったら、なんとYou Tubeに詳しい紹介があった。そういう時代なのだ。

この動画も何がタイトルで何が何やら分からないが、彼女(この人は女性なのだ)のインタビューが流されていて、下記が、その文字起こしである。
私の生まれた世代(この人は93年生まれで、平成を背負っている世代だ)は、一家に一台パソコンがあるようになり始めた世代で、膨大な情報をインプットしていかなければならなくなりました。
15歳の時経験した事件は、地方欄の小さな記事になり、ネット掲示板のスレッドでも意見が交わされました。たまに思い出して見ていますが、更新はなく、この媒体の終焉と共にいつか消えていくんだろうなと思っています。そういった点では、絵画は媒体としてもわりと長持ちで、足を止めてみてもらえてアウトプットしてもらえるものです。だから一瞬で消えていく小さなニュースを繋ぎ止められる最高の方法だと思います。
今生きている人がどういうところでリアルを感じているのかわかりませんが、私は作品をつくることで社会と小さな接点を持ち、何かしらのリアルを感じようとしています。
ということで、どうも彼女の抱える問題意識がこのテーマ展らしきものの主題になっているような感じもする。
同じ中身を語っても、昭和の熱血ぶりとはかなり違っている。やや低血圧気味のあいみょん風の「何かしらのリアル」である。その彼女にしては思い切った題材の絵を書いた。
足元の雑草は半ば冬枯れている。切れた作業員の後ろ向きの上半身は、右手にケータイを、耳に当てて、現場にふさわしい大声で責任者と連絡をとっているのだろうか。左手のハンマーを持つ手はモラトリアム状態にあるが、電話が済み次第、また右手に持ち替えられるのだろうか。
傍らで見て見ぬふりをして、聞き耳をツンと立てた猫は、居合わせてしまった作者だろうか。手前の男の手は、私なら消し去るだろう。





パソコンの仕組みに学ぶ

「パソコンのしくみ」(新星出版)という本を買ってきた。2018年の発行というのでちょっと古いが、原理論を知るのに不自由はない。今回はその中の「CPUの構造」というページを学ぶ。

CPU 中央演算装置というのは今では名前と実体が乖離した言い方だ。昔はそれだけで一部屋あるいは建物一つ占めていた。今では切手ほどの基盤の上に収まっている。
形は変わったが、その本質的役割は変わっていない。制御装置と演算装置を組み合わせたものだ。メモリからさまざまな情報を読みこみ、解析して、結果を出力する。単純といえば単純な仕掛けだ。
歴史的に見たCPUの特徴は、演算機能も発達しているが、情報の出し入れ機能が著しく発達していることにある。電卓機能に毛が生えたようなものだったのが、巨大な預金、債券を扱う大銀行の操作室になっている。つまり「高機能の演算装置を持つ情報制御装置」ということになる。

パソコンの性能は、以前は演算機能と決まっていたが、今は情報量と処理スピードによって規定されている。今どき円周率を小数点以下何桁まで計算するかなどどうでも良いことだ。インターネットを通じて掘り起こされる巨大な情報量。しかもそれが検索エンジンで整序され、あっという間に必要な情報に行き着く。私たちが目に見える形で体験しているのが、補助記憶装置の大容量化だ。現在では1テラ、2テラは当たり前。10テラまで普通の価格で登場している。

HD

通信速度も格段に向上し、大容量化している。電子メールで1メガくらいまでは何の心配もなく送信できる。画質さえ気にしなければYoutubeで1時間もあれば1ギガの動画をダウンロードできる。
つまり情報の大量保存・高速処理こそが昨今のパソコンの最大の進化だということになる。

記憶装置の膨大化は外延性に広がっているばかりではない。じつはCPU内部にもメモリの増殖が進行している。ただメモリと呼ばないだけだ。

01

これがCPU内部にある集積回路でダイという。この中の4つのコアが演算を担当する。右側のシステムエージェント&コントローラというのが制御装置である。画像関係の演算は一般の演算とは別回路で行われる。それが左側のグラフィックス・チップである。3次キャッシュはコア1~4共用のメモリである。
マインメモリのうち作業用に用いる高速メモリである。メモリコントローラは後で説明する。

2

この図は4つの個別コアを模式図で提示したものである。すべての内容を紹介するつもりはないが、1次、2次のデータキャッシュと2次キャッシュというのに注目してほしい。2次キャッシュはCPU全体の内蔵キャッシュよりさらに細分化された、コア限定のキャッシュメモリである。そして1次、2次のデータキャッシュはユニット対応のレジスタと呼ばれるメモリである。
つまりメインメモリ→キャッシュメモリ→データ・キャッシュメモリという3階建てのメモリ体系ができたことになる。これを遅滞も混乱もなしに機能させるためには、それだけの目的でメモリコントローラが必要となる。
メモリ階層

というわけで、メモリは上記のようなピラミッド構造を形成していることがわかった。くれぐれもメインメモリという言葉に騙されてはいけないということだ。
そしてメモリを階層化し索引機能を強化することで、情報を大量に処理していく、これが原題におけるコンピュータの力の見せ所だ。この力技があってこそ圧倒的な情報量も生きてくる。

大脳はメモリだ、三脳のトップに君臨するものではない

なぜ階層化されたメモリ構造のことをくどくどと述べるかというと、脳の進化を念頭に置いているからである。人間における脳の進化も、大脳という記憶装置の巨大化と、髄鞘化が決定的ではないかということである。脳みその断面を見て、これが脳幹のトップであり、神経核の塊であると考える人はいないだろう。それは巨大な記憶装置である。それは系統発生的には前脳に不足する外付けの、補助的な記憶装置である。

ただ、人間の前脳はもっと大胆に、仕事を現場に丸投げしている。いわば持株会社の総務機能に特化している。そのため、一見すると大脳に取って代わられた旧財閥本部みたいに見られるのかも知れない。
記憶装置はCPUの手先でしかないと思う向きがあるかも知れない。それがマクリーンのドグマと結びつくとますます発想は歪んでいく。しかし最終演算がCPUで行われるのは構造上当然であるにしても、自裁にそのプログラムが格納されているのは記憶装置であり、「情報の付け合せ」という知的生産作業が行われているのも、まさに巨大な記憶装置の内部においてである。
前脳は情報の結節点であるにせよ、思考や知的生産のセンターではなく、情報の配送センターでありハブであるに過ぎない。
私は大脳の意義を過小評価する意図は決してない。ただ大脳の働きは反応、条件反射、学習という脳幹の働きを乗り越えて、むしろ物事を対象として考察する、物事との関係において自己を省察し、構え(希望とか決意とか)を形成するという精神活動を生み出した。
記憶を想起し、それを突き合わせ、理解する営為は、記憶装置の役割を抜きに考えられない。とすれば記憶の座である大脳の革命的意義はいくら評価してもし切れるものではない。



Peoples Dispatch
June 22, 2023

The Failed Ukrainian Peace Deal
アフリカの和平提案が不発に終わる


By Abdul Rahman


リード
ロシアのプーチン大統領は先週、サンクトペテルブルグでアフリカ諸国の代表団と会談した、 
プーチンは、昨年ウクライナと "予備署名 "した協定案を提示し、ウクライナが ウクライナは何の説明もなく、土壇場で協定から離脱したと主張した。
プーチンはまた、アフリカやその他の発展途上国の食糧不足も、西側諸国に原因があると非難した。
彼は、西側諸国が自らの「不当な」経済政策を隠す口実としてウクライナ戦争を利用していると非難した。  
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が率いるアフリカ諸国代表団は、6月16日と17日の2日間、ウクライナとロシアを訪れた。
代表団は訪問にあたって、「ウクライナの戦争を終結させ、東ヨーロッパの平和を確立するための10項目からなる枠組み文書」の草案を発表した。


アフリカの平和イニシアチブ

アフリカの代表団は、先週金曜日にキエフで行われたウクライナのゼレンスキー大統領との短い会談の翌日、ロシア大統領と会談した。
代表団は、セネガル、エジプト、ザンビア、コモロ、ウガンダ、コンゴ共和国、南アフリカを含む国々の指導者で構成された。このうちコモロのアスマニ大統領はアフリカ連合の現議長である。

ラマポーザ大統領は、アフリカが和平の仲介者となる用意があると提案した。
その中には、協議の即時再開、双方による信頼醸成措置、ロシアとウクライナの領土保全と主権の相互承認、穀物と肥料の輸出の継続などが含まれている。

ゼレンスキーは、アフリカ代表団との会談後の共同記者会見で、ロシアとの交渉の可能性を否定した。そして和平交渉はロシアがウクライナの全領土から完全に撤退した後にしか進められないという自国の立場を繰り返した。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、アフリカの10項目の和平提案を中国の12項目の提案と同様に評価し、次のように述べた。
アフリカの指導者たちは、プーチンと会談した後、紛争の真の原因についてより深い理解を示した。紛争の原因は一部の国々が二重基準を採用しているためだ。
さらに一部の国が国連憲章に違反し、一方的な制裁を課し、他の国の安全を脅かしているためだ。

プーチンはアフリカ代表団との会談で、ロシアがウクライナとの協議を否定したことは一度もないと述べた。しかしウクライナは和平交渉から引き揚げてしまった。ウクライナはロシアとの交渉を拒否しているだけでなく、昨年イスタンブールで和平協定が仮調印された際にも、何の説明もなく協議から離脱した。その証拠として、プーチンは条約草案のコピーを配った。それはワシントンとロンドンの圧力で流産したものだった。

昨年の戦争初期の数日間、ウクライナとロシアの代表団の間で数回の会談が行われた。最初はベラルーシで、次にトルコで続けられた。しかし4月、ウクライナは、会談から突然離脱した。欧米諸国とNATOからの圧力があったとされる。

プーチンはアフリカの指導者たちに協定案を提示した。そこにはイスタンブールでロシア側とウクライナ側が相互に合意した詳細な条項が盛り込まれていた。(以下はタス通信による情報)
ウクライナは中立の要求に同意し、ロシアの安全を保証した。協定書には軍隊やその他の配備にも触れている。そこには 車両や人員の数まで残さずに書かれていた。

プーチンは、ロシアが国境を侵犯したことを否定し、ウクライナとその同盟国が2014年に戦争を始めたと非難した。
プーチンはまた、ロシアが行った紛争地域からの子どもたちの隔離と保護は適法行為であること、西側諸国が主張するような家族との強制離散措置ではないと主張した。

国際刑事裁判所(ICC)は3月、プーチンに対して逮捕状を発行した。
その容疑は、"紛争地域からの子供たちの不法な国外追放とその他の戦争犯罪"というものだった。   


アフリカの経済的苦難は西側諸国の責任

プーチン大統領は、西側諸国がロシアの穀物や肥料の輸出に対して経済制裁を適用し、不当な制限を加えていると指摘した。そのため、世界の食料価格が上昇しており、アフリカ諸国に最も大きな影響を与えていると主張した。
プーチンは、国連が仲介した穀物取引にもかかわらず、アフリカ諸国は苦しみ続けていると主張した。

昨年7月、国連とトルコの仲介で、ウクライナとロシアの間の穀物取引が実現した。
この協定によると、米国とEUがロシアの農産物輸出に対する一方的な制裁を緩和することと引き換えに。ロシアはウクライナからの穀物輸出を許可することになっていた。

プーチンは次のように述べた。「穀物イニシアティブのもと、ウクライナの港からはすでに約3,170万トンの農産物が輸出されている。しかし、このうち発展途上国向けの輸出はわずか3.1%に過ぎない」 
ロシアはまた、アフリカで飢餓が拡大しているのは、ウクライナ産小麦の不足のためだけではなく、西側諸国がアフリカに課した「許容できない経済政策」の結果だと主張している。

アフリカ開発銀行によれば、ウクライナ戦争の結果、アフリカ大陸で約3000万トンの食糧不足をもたらしている、 
それだけではなく、肥料の価格が約300%上昇したことも要因となっている。アフリカ大陸の農民は、深刻な肥料不足から、食糧穀物を栽培できなくなっている。




非核・非戦・非同盟で人類的共同を

ウクライナ戦争と核使用の可能性

いまウクライナの戦争はますます激しさを増し、留まるところを知りません。
戦争がもたらす影響は人的損失、物質的損失はもとより、世界をますます深い断裂の方向に進め、果てしのない戦いが、両者を核戦争への誘惑に駆り立てています。原発への攻撃、冷却用水を供給するダム湖の破壊などは、もはや当事者に核へのタブーが薄れて来ていることを示しています。

核使用の閾値が低下しつつある

核兵器については3つの安全神話づくりが進行しています。すなわち
使える核: 小型戦術核は、広島。長崎型よりはるかに小さな爆発力で、市街地ではなく軍事目標をピンポイントで破壊できる。
汚くない核: 放射線や死の灰をできるだけ減らし、爆発力に特化した核兵器。
核もどき兵器: 核汚染はあっても核爆弾ではない。劣化ウラン弾や、「汚い爆弾」を核兵器の枠外に置く。
このような方法で、核アレルギーに対する脱感作が行われ、とくに核兵器を扱う部署・要員が命令に抵抗する力を失わせています。

核武装論者は、いわゆる「核の冬」についても、人類絶滅と騒ぐのは大げさで、実際には「核の秋」程度の影響に留まると主張しました。これはその後の地球温暖化の議論の中で思わぬ形で論破されてしまいました。

これらのことから2つのことが言えます。一つは核兵器はいかなる形でもあってはならない兵器であり、廃絶以外の道はないということです。もう一つは核が使用される場面が通常戦争の延長であることです。そのことから通常戦争の回避、「非戦が非核の最大のポイント」だということです。

通常戦争の回避は双方にもとめられている

通常戦争の回避、すなわち「非戦の思想」は、相争う両者にもとめられますが、とりわけ攻撃を受けた側の、いわゆる「正義の戦争」をどう考えるかです。これについては冷戦終結後に大きく変化してきています。唯一の超大国であり、圧倒的な核大国であるアメリカに対抗する術はありません。

それ以外の核大国、例えばロシア、中国に対しても通常戦争を挑むのは、戦争が政治の延長である限り、取るべきオプションではありません。
今回のウクライナ戦争において、国連憲章を無視して武力侵攻したロシアの態度は、世界の世論として厳しく批判しなければなりません。停戦交渉にあたっても、国際包囲のもとで、武力侵攻をやり逃げに終わらせない断罪が求められます。
そのこととは別に、政府には国民の生命を最優先にする選択責任、国民を「聖戦」の巻き添えにしない決意が求められます。あえて言えば太平洋戦争の終戦時に日本政府が本土決戦を回避し、連合軍を受け入れたように、粛々と別の政治手段に移るしかありません。

これが非戦の決意です。これは一般的な反戦運動の論理とは異なる、“耐え難きを耐える” 、国家としてのギリギリの立ち位置です。現時点においてロシア・ウクライナ両国政府がその立場を放棄していることは、率直に批判して置かなければなりません。

非戦の決意は非同盟に導く

第三の決意が非同盟です。

今回のウクライナの事態を見ても、もしNATO加盟の選択を保留すれば軍事侵攻はなかったでしょう。今後戦争がどのように解決していくかはわかりませんが、NATOへの加盟はぜひ思いとどまってほしいものです。

今世界に必要なのは、軍事同盟ではなく、平和・互恵のパートナーシップです。
軍事同盟は、決して片務ではありません。軍事同盟に入れば軍事国になったのと同じです。少なくとも仮想敵国にとってはそうです。
日本が平和外交を心がけても、戦争回避を国是として追求しようとも、アメリカが戦闘態勢に入れば、自動的に巻き込まれます。多分日本にも中国にもオーバーキルをもたらすでしょう。

何よりも肝心なことは、軍事同盟が平和国家の理念とは根本的に相容れないことです。憲法の精神に則り平和国家で生きようという決意を固めるなら、徹底的に非戦・戦争回避の方針を貫こうとするなら軍事同盟は必要ありません。

以上、非核・非戦・非同盟の理念 は、日本国民、ひいてはすべての国の国民が共有すべき決意です。それは戦いの路線に留まるものではなく、情勢のあれこれの変動に伴って揺れ動くようなものでもありません。

多くの人に議論してほしいと思います。


Foobarにv2.0というのが出た
64ビット対応というので、プログラムの格納場所が変わった。今まではprogram86 というフォルダーに収納されていたのが、今度は86の付かないprogram というフォルダーに“格上げ”だ。32ビット対応のEXEファイルはそのまま残っている。
早速ダウンロードして聞いてみた。Preference はほとんど不要だ。Display には興味ないのでほぼデフォルト。Output は排他モードでFostexにつなぐ。プッシュモードはなくなってエヴェントモードのみ。ASIOは簡単につながるが、デフォールトからは排除されている。
音は一段とクリアになった感じがする。ただし音源が良質な場合のみで、ダメなものはダメ、ますますモニターサウンドに徹底してきた。ASIOの優しさを嫌う精神だ。ジョージ・セルが好きな人にはたまらない。
ただ最近のYou Tubeの音源は板起こしが多くゴツい、たまにASIOサウンズも恋しくなる。
このアプリだともうDSPはいらないと思う。ながら族にはReplayGain さえあれば十分だ。融通無礙に見えて、こと音質に関しては俄然譲らないところがある。それが20年もトップの座に座り続けた理由なのだろう。私も随分浮気をしたが、そのたびにここに戻ってくる。同年輩の亭主がやっている小料理屋という雰囲気だ。前はケンカして半年も行かなかったこともある。もう浮気も面倒だしFoobarで一生を終えることになりそうだ。

WinAmpについて
いろいろレビューを読んでいたら、なんとWinAmpが復活したという話。急いでHPに行ってみたが、目指すものがまったく違っていて、もはや関心領域を外れてしまったようだ。
むかしWinAmpを愛用したのはネットラジオをストリーミング録音できたからで、仕事中に放送を垂れ流し録音していると、数十曲くらいがMP3ファイルになって、曲名までつけて山盛りになっていた。これでRadioTangoで数千曲録音したが、結局聞くひまもなくHDの底に眠っている。ボサノバとサンバも同じことをやったが、こちらは放送局がいい加減で、まともな音楽ファイルにはならなかった。

カストロ、最後の非核・平和論(2010)

後編

05 人類の歴史を終わらせないために

人類は20万年足らずの歴史しかない。 それまではすべてが自然のままでした。30億年以上にわたって地球上で発達してきた生命の法則が、自然の法則を満たしていたのです。 人間、つまりホモ・サピエンスという知的生命体は、たかだか80万年までしか遡れない。 
200年前は、すべてが事実上未知の世界でした。 今日、私たちは種の進化を支配する法則を知ることができます。科学者、神学者、そして最も敬虔な宗教家でさえも、当初はダーウィン理論に反対していた。
地球上の誰もが、人類という種が消滅することを望んでいません。だからこそ、私は核兵器だけでなく、通常兵器もなくすべきだと考えています。イラン人にもイスラエル人にも、区別なくすべての民族に平和の保証を提供しなければならない。天然資源は必要な人全てに分配されるべきです。 
そうすべきです! そうなるという意味ではありませんし、簡単にできるということでもありません。しかし、再生可能なエネルギー源をすべて開発したとしても、資源が限られた世界では、人類にとって「分配」以外の選択肢はないでしょう。
もうすぐ70億人の人口ですから、人口政策を実施する必要があります。私たちは多くのものを必要としています。そして、私たちは考えます。人間には困難を理解し、それを克服する能力があるのだろうか?

チョスドフスキー  
あなたが言ったことで、トルーマンについての言及は非常に重要です。
トルーマンは、広島は軍事基地であり、民間人に被害が及ぶことはないと言っていました。
つまり軍事関係者以外の死者が出たとしても、それはたまたまの巻き添え被害に過ぎないというわけです。このような「巻き添え被害」という概念は、被害を小さく見せかけるのに大変便利な考えなので、1945年以来今日に至るまで、アメリカの核ドクトリンにおいて連綿と続いています。 
それは現実に起きていることの説明ではなく、軍事作戦とプロパガンダをくっつけるための虚構の概念です。
1945年にはこう言われていました。
 広島が軍事基地であったと断定し、人口の密集する大都市であったという事実を否定し、その上で「10万人を殺すことで人類を救おう」(Let’s save humanity by killing 100,000 people)と呼びかけたのです。 しかし現在では、このような粗暴なウソはより洗練されたフレーズに代わり、核兵器はより進化しています。 
つまり、私たちは人類史という時間軸と、地球レベルという空間軸での核戦争の脅威を扱っているのです。米国の政治的・軍事的言い分の根底には大嘘とペテンが隠されている。彼らは世界規模の大災害へと私たちを導くでしょう。そして最後に自分たちのついたウソでみずからも大怪我をするでしょう。
あなたは、「知的な人類」は20万年前から存在していると言いました。しかし、その知性が、メディア、情報機関、金融機関といったさまざまな機関に取り込まれ、今、私たちを滅ぼそうとしているのです。
私たち人類は自分たちの作り上げた嘘を信じ、核戦争という最後の日へと自らを導いています。アインシュタインが明確に述べているように、次の戦争が最後の戦争になることを理解せずに…。核戦争は決して人類の存続を保証するものではなく、世界と人類に対する脅威なのです。

フィデル・カストロ
教授、とても良い言葉です。 巻き添えとなるのは、人類かもしれません。
戦争は犯罪であり、そのように記述する新しい法律は必要ありません。ニュルンベルク以来、戦争はすでに犯罪であり、人類と平和に対する最大の犯罪であり、あらゆる犯罪の中で最も恐ろしいものであると考えられてきたからです。

06 核戦争だけでなく戦争行為そのものに反対すること

チョスドフスキー

ニュルンベルクのテキストには、はっきりとこう書かれています。「戦争は犯罪行為であり、平和に対する究極の戦争行為である」
 ニュルンベルク文書のこの部分はよく引用されます。
第二次世界大戦後、連合国はこれを敗戦国に対して使おうとしました。それが妥当でないと言っているわけではありません。しかしドイツや日本に与えた犯罪を含め、連合国側が犯した罪については一切触れられていないことも確かです。とくに核兵器使用の罪がそれに当てはまるでしょう。
戦争は核戦争以前に、私にとって重大な問題です。その際、戦争の犯罪化は基本的な側面であると私には思われます。私は戦争の廃止について話しているのです。戦争は犯罪行為であり、排除されなければならないのです。
問題は、彼らが司法制度や裁判所も支配していることです。だから、裁判官も戦争を支持するならば犯罪者なのです。その際、私たちにできることは何でしょうか?

フィデル・カストロ   
核戦争に反対することは「思想の戦い」の一部です。世界が核による破局に突入しないよう行動すること、要求すること、それは生命を守ることです。もし人間が自分の存在、自分の人々、自分の愛する人たちの存在を実感していれば、米軍の指導者たちでさえも、核兵器廃絶の実現へ向けて行動するでしょう。 
たしかに彼らは命令に従うように軍隊人生で教え込まれている。その教えの中には戦術核や戦略核の使用による大量殺戮もありえます。彼らは命令に従うよう教えられるが、その命令の中には、戦術核や戦略核など大量殺戮兵器も少なくないからです。
これに対し戦争に反対することは「政治の闘い」です。戦争のすべてが狂気の沙汰である以上、政治家は戦争の真実を国民に伝える義務から免れることはできません。       

チョスドフスキー
あなたが言いたいのは、次のようなことだと思います。
現在、人類史的に大事な議論は、人類の未来を脅かす核戦争の危険に焦点を当てることである。いっぽう戦争の発生を防ぎ、世界平和を確立するためには戦争を回避するための政治的・外交的戦略が必要になる。
さらに戦争の発生する条件を抑え込むためには戦争の理由、社会や経済について議論し、戦争の原因を解決しなければならない。そうなって初めて、基本的なニーズに基づいた生活の維持・向上を計画することができるということですね。
 
フィデル・カストロ
そのとおりです。私たちが行ったすべての分析から見て、資本主義は生き残ることができません。いづれ別のシステムへの転換が必要です。ただ、資本主義システムと市場経済は人間の生活を窒息させるものですが、一夜にして消滅することはないでしょう。かなり長い移行期がある。 
それに対して、武力に基づく帝国主義、核兵器、そして現代技術により殺傷能力を著しく高めた通常兵器は、人類の生存を望むなら、どうしても早期に消滅させなければならないのです。


07 メディアから発せられるプロパガンダにどう立ち向かうか

チョスドフスキー 
さまざまな出来事に与えられるメディアの報道と、メディアから発せられるプロパガンダの問題があります。
まず最初の問題はメディアの不作為です。あなたがおっしゃるように、人類に対する脅威があれば、世界中の新聞の一面を飾るべきです。たとえ下級将校であっても、その結果がどうなるかを知らないで核兵器の発射ボタンを押してしまえば、それによって人間社会の全体が犠牲となりかねないからです。
ここでは、メディア、特に西側諸国が、今日の世界に潜在的に影響を与える最も深刻な問題をいかに隠しているかについて話して見たいと思います。
第一に、メディアは核戦争の危険性を真剣に受け止めなければなりません。ヒラリー・クリントンもオバマも、イランに対するいわゆる予防戦争で核兵器を使うことを考えた事があると発言しているからです。
私たちはどうすればいいのでしょうか。イランという国は、少なくとも目下、誰にとっても危険のない国です。そのような国に対する一方的な核兵器の使用発言について、あなたはどう思いますか?  あなたならヒラリーとオバマにどう答えますか。   

フィデル・カストロ
私はその件に関して2つのことを知っています。まず最初は「何が議論されたのか」ということです。これは最近明らかになったことですが、米国の安全保障会議の中で遠大な議論が行われたことです。これらの議論がどのように行われたかは、ボブ・ウッドワード記者が明らかにしました。バイデン、ヒラリー、オバマ…、彼らが議論の中でどのような立場をとったのかがわかったのです。
もう一つの事実、誰が戦争に強く反対したのか。軍部と議論できたのはオバマだけだったのですそしてそこまでして彼に助言を与えたのは共和党員コリン・パウエルだけであった。彼はオバマがアメリカの大統領であることを思い出させ、関係者にアドバイスを促した。私たちは、このメッセージがすべての人に届くようにしなければならないと思っています。
さて、これらの情報を多数に知らしめる方法は何だろうか。私たちは何か編み出さなければなりません。十二使徒の時代、彼らには何百年も先があった。しかし、私たちには先がないのです。

08 米国、カナダ、欧州の反戦運動は分裂している

チョスドフスキー
脅威はイランからもたらされると考える人もいれば、彼ら(イラン人)はテロリストだと言う人もいて、運動そのものに多くの誤情報が存在するのです。
それに、世界社会フォーラムでは、核戦争の問題は、左派や進歩派の人々の間の主要な議論にはなっていません。冷戦時代には、核戦争の危険性が叫ばれ、人々はそのような意識を持っていました。
前回、ニューヨークで開催された国連の核不拡散に関する会議では、非国家主体、テロリストによる核の脅威が強調されました。オバマ大統領は、核攻撃の潜在能力を持っているアルカイダが脅威であると言いました。 オバマ大統領の演説を読むと、テロリストは小型の核爆弾、いわゆる「汚い爆弾」を製造する能力を持っていると示唆しています。これらは[問題の歪曲]と[強調事項のシフト]の方法です。

フィデル・カストロ
オバマの部下が吹き込んで、彼に信じさせたのはそういうことなのです。
問題は、あなたが語っていることが真実かどうかということです。ある特定の問題に関連してこれらの情報を収集する場合、集められた事実の集合の中に真実が存在しているかどうかが問題になります。私たちは本質の開示に集中しなければならないと思います。

チョスドフスキー
キューバ革命に関連する重要な側面があるので、質問させていただきます。
私の考えでは、人類の未来に関する議論もふくめて、社会全体が核戦争の脅威にさらされるなら、何らかの形で、行動だけでなく、思想のレベルでも革命を起こす必要がある。この点についていかがでしょうか。

フィデル・カストロ
その議論は実践的なものです。核戦争をめぐる真実を拡散するためには、「情報通の大衆」(the informed masses)にどうやって接触できるかを考えなければなりません。その解決策は新聞ではありません。インターネットです。インターネットは安価で、よりアクセスしやすい。
通信社でもなく、新聞社でもなく、CNNでもなく、インターネットで毎日配信されるニュースレターです。私はインターネットを通じて毎日100ページ以上に目を通しています。今回もそういうニュースを探してあなたに接触しました。

ところで昨日、あなたは、アメリカでは少し前に世論の3分の2が対イラン戦争に反対していたのに、今日は50数パーセントが対イラン軍事行動に賛成していると主張していましたね。

チョスドフスキー
ここ数ヶ月、世間ではこう言われていました。 こんな看板がニューヨークで出ていました。「確かに核戦争は非常に危険であり、脅威であるが、その脅威はイランからやってくる」と。そのメッセージの要点は、イランを世界の安全保障に対する脅威と宣伝することでした。考えてみればまったくおかしな話で、イランは核兵器を持っていない。そのため核の脅威は現実には存在しないのです。
とにかくそういう状況で、代替メディアの限られた流通経路の中で、このプロセス(メディアの偽情報)を逆転させる能力は限られています。

フィデル・カストロ

それでも私たちは闘わなければならない

チョスドフスキー

そう、私たちは闘い続けている、そのメッセージは「核戦争になったら、巻き添えになるのは人類全体である」ということです。インターネットは戦争を回避するための働きかけの場として機能し続けるでしょう。
なぜなら、人類全体が米国とその同盟国の核兵器によって脅かされているからです。なにせ彼らは核兵器を使うつもりだと公言しているのですから。       

フィデル・カストロ

もし反対がなければ、抵抗がなければ、彼らは核兵器を使用するでしょう。彼らはみずからに騙されている。軍事的優位と現代技術に酔いしれ、自分たちが何をしているのか分かっていない。彼らはその結果を理解していない。彼らは、優勢な状況を維持できると信じている。しかし、それは不可能です。

チョスドフスキー

あるいは、これが単なる通常兵器の一種であると信じている。          

フィデル・カストロ

そうです。彼らは騙されていて、まだその武器が使えると信じているのです。
アインシュタインが「第三次世界大戦はどんな武器で戦うかわからないが、第四次世界大戦は棒や石で戦うだろう」と言いました。そのことを、彼らは覚えていないのです。自分たちが別の時代にいると信じている。
 そこで私はこう付け加えた。「その棒や石を扱う人がもはやいないのです。それが現実なのです。

チョスドフスキー

核の問題はもう一つあります。核兵器の使用は、必ずしもある日突然に人類の終焉をもたらすわけではないということです。なぜなら、放射性物質の影響は蓄積されるからです。
核兵器にはいくつかの異なる結果があります。ひとつは、広島の現象である戦場での爆発と破壊、そしてもうひとつは、時間とともに増加する放射線の影響です。          

フィデル・カストロ 
ラトガース大学(ニュージャージー州)のアラン・ロボックが、反論の余地のない形で示しました。これによると、核兵器保有国8カ国のうち下位2カ国が戦争を起こすだけで、「核の冬」が到来する。スーパー・コンピューターを利用した計算で明らかにされました。
さらに8カ国が保有する25,000発の戦略核のうち100発が爆発すれば、噴煙により日光は遮断され、地球上の気温は氷点下となります。その結果、長い夜が約8年間続くでしょう。 
私は国際会議の席上で光栄にも彼と会話することができました。彼は研究結果のあまりの恐ろしさに「恐慌状態」に陥ったそうです。そして「考えたくない、なかったことにしたい」と大声で叫んだそうです。

09 通常戦争が制御不能な核戦争へ転化する道すじ

ある仮定からから入リましょう。イランで戦争が起きれば、必然的に核戦争になり、世界規模の戦争になります。だから昨日、安保理で事実上「戦争やむなし」を意味するような合意を認めるのはおかしいと言ったわけです。わかりますか?
とりあえず今のところ、イラン人が武力行使で対応することはなさそうだが、実際に戦闘が始まれば、それが局地的なものにとどまることはないでしょう。
もしそれが通常の戦争であれば、それはアメリカやヨーロッパが(負けることはないにしても)勝てない戦争です。その戦争の行き詰まりを強行突破しようとすれば、核戦争に発展する可能性が高いと私は考えている。その際、仮に米国が戦術核の使用を誤れば世界中が混乱し、やがて米国は事態をコントロールできなくなるでしょう。
オバマはどうするでしょうか? 彼は何をすべきかについて、ペンタゴンと熱い議論を交わします。アメリカやイスラエルの兵士が数百万人のイラン人と戦っている国の大統領、オバマの状況を想像してみてください。
サウジアラビアはイランで戦うつもりはないし、パキスタンやその他のアラブやイスラムの兵士も戦わないだろう。そんな時、イランに対して戦術核を使えばイラン人が諦めると考えるのは間違いです。世界には激震が走るだろうが、その時はもう手遅れかもしれない。

チョスドフスキー
彼らは通常の戦争に勝つことはできない。         

フィデル・カストロ
つまり、彼らは勝つことができない。

チョスドフスキー
彼らは国全体を破壊することができるかも知れません。しかし軍事的にみて、彼らが勝つことはできません。         

フィデル・カストロ
あなたがおっしゃる問題は複合的なものです。それは何よりも政治的な判断です。軍事的に破局に向かう時系列の中で、その国を破壊し続けることにどのような経済的見返りがあるのでしょうか。国民の前にそれを提示できるのでしょうか。
アメリカ国民はいずれ反応するでしょう。アメリカ国民はしばしば反応が鈍いですが、最後には必ず反応します。アメリカ国民は自国の犠牲者、死者に反応するのです。
ベトナム戦争では、多くの人がニクソン政権を支持しました。彼はキッシンジャーに同国での核兵器の使用を提案したこともありました。しかし、彼は核攻撃という犯罪的な手段をとることを思いとどまったのです。(編注:ニクソンはベトナムからの「名誉ある撤退」honorable retreatを唱えて大統領に当選した)
ニクソンは、アメリカ国民から戦争を終わらせる義務を負っていた。交渉し、ベトナム南部を引き渡さなければならなかった。しかしアメリカ国民はそれを支持した。

10 戦争からは何も得られない

戦争が始まれば、イランでは多くの人命が失われ、石油施設の大部分は破壊されるでしょう。私のメッセージは、今の状況では、イラン人に理解してもらえないかもしれません。
もし戦争になったら、アメリカもイランも世界も、何も得られないというのが私の考えです。通常戦争だけにとどまるのはありえないことですが、もしそうなれば、アメリカは取り返しのつかないほど負けるでしょう。さらに戦いが通常戦争にとどまらず世界規模の核戦争に発展すれば、全人類が敗者となるのです。

チョスドフスキー
イランは、相当な通常戦力を有しています。陸軍だけでなく、ロケット弾も相当なものだ。イランには自衛能力がある。

フィデル・カストロ
銃を持った男が一人でも残っていれば、その間、彼はアメリカが倒さなければならない敵である。

チョスドフスキー
そして銃を持った男は数百万人いる。

フィデル・カストロ
そしてその数百万人は、多くのアメリカ人の命を犠牲にしなければ収まらないだろう。残念ながら、アメリカ人はそのときになってから初めて反応するでしょう。 もし今反応しなければ、次に反応するのは、すでに手遅れになったときでしょう。私たちはできる限り広範囲にこのことを明らかにしなければなりません。 
キリスト教徒が迫害され、カタコンベに連れ去られたことを思い出してください。殺され、ライオンのエサとして投げ棄てられた。それにもかかわらず、彼らは何世紀にもわたって迫害に耐え、自分たちの信念を貫いた。しかし、彼らはその後も自分たちの信念を守り続け、後にムスリムにも同じことをしました。そうした歴史の教訓がなぜ忘れ去られようとしているのでしょうか。 

チョスドフスキー
イランの問題に戻りましょう。 私は、世界の世論が戦争のシナリオを理解するうえで非常に重要だと考えています。あなたは、アメリカが戦争に負けるとはっきり言っていますね。イランはアフガニスタン駐留のNATO軍よりも多くの通常戦力を保有しています。

フィデル・カストロ
アメリカはイランに450ヶ所の攻撃目標を設定しています。そのうちのいくつかは戦術核弾頭で攻撃しなければならないとされています。それらは山間部にあり、地下に建設されているためです。 これらのポイントでは多くのロシア人職員と他国籍の人々が死ぬでしょう。多くのアメリカ人が支持し、メディアによって無責任に宣伝されているこの一撃を前にして、イランはどのように対抗するのでしょうか。
彼らがどのような戦術をとるかはわからないが、もし自分が彼らの立場だったら、軍隊を集中させないことが最も望ましいと思います。なぜなら、軍隊が集中すれば、戦術核兵器による攻撃の犠牲になってしまうからです。それは一瞬、イラン軍が敗走し四散してしまったように見えるかも知れません。しかし分散はしているが、孤立はしていない。約1000人の大隊規模のユニットが適切な対空兵器を持って配備されています。
すべての戦闘部隊は、さまざまな状況下で何をしなければならないかをあらかじめ知っておかなければならない。地形は砂地で、どこに行っても塹壕に潜って身を守る必要があり、常に構成員の間に最大限の距離を保っていました。
とにかく恐ろしい相手です。アフガニスタンもイラクも、イランでぶつかるものと比べれば、「冗談のようなもの」なのでしょう。
***

The interview was conducted in Spanish.

Our thanks and appreciation to Cuba Debate for the transcription as well as the translation from Spanish.

***
蛇足ながら、下記も参照願います。いつの時代にも、どこの世界でも、同じようなことを考える人はいるものだとおもいます。人はそれを「賢者」と呼ぶのでしょう。

カストロは言う。「核戦争が起これば、全人類の命が巻き添えになる。

いまそれは急速に現実化する可能性がある」

 

By Fidel Castro Ruz and Prof Michel Chossudovsky

 

チョスドフスキーという人はGlobal Researchの編集主幹で、この会見でインタビュアーを勤めている。積極的に意見を述べており、インタビューというより対談となっている。

 

……………………………………………………

 

最初に(チョスドフスキーーによる背景説明)

 

ウクライナの最近の情勢を踏まえ、2010年に掲載したこの記事を再掲載する。今日、軍事的エスカレーションは大変なことになっている。それは第三次世界大戦のシナリオにつながりかねない。和平プロセスをただちに開始し、両国が和平協定を結ぶことが何よりも重要である。

この年、アメリカはイランに対して軍事作戦を企てた。おそらく多くの人は真相を知らないはずだ。その詳細は、今なお世間から隠蔽されている。

これを憂えたカストロは、各国政府に向けてメッセージを発した。そして「核戦争では、巻き添えで全人類の命が奪われることになる。私たちは勇気を持って、次のように宣言しよう。核兵器も通常兵器も、戦争に使われるものはすべて、この世から消滅させなければならない」と訴えた。

このメッセージの内容をより深く知るために、私はハバナでカストロと長時間の議論を交わした。会談は広範で実りあるものとなった。私たちの共通認識はこうだった。

「世界は危険な岐路に立たされている。私たちは歴史の中で重要な転換点を迎えている」

 

カストロの各国政府宛書簡 20101015

 

新たな戦争で核兵器が使用されれば、それは人類の終焉を意味します。

このことは、アインシュタイン博士が以前から予見していたことです。アインシュタインは、核分裂が数百万度の熱を発生させることを知っていました。そして広範な円形地域内のすべてのものを蒸発させるほどの破壊能力を持つことを予測しました。

今日、核兵器の使用による戦争の危険が差し迫っています。米国とイスラエルによるイランへの攻撃準備は、放置すれば、必然的に核紛争へと発展するでしょう。私はいささかの疑いも抱いていません。

世界の人々は、政治指導者に「生きる権利」を要求しなければなりません。人類の命がこのような危険にさらされるとき、誰も無関心でいるわけにはいきません。

アルベルト・アインシュタインはこう断言しています。「第三次世界大戦がどんな武器で戦われるかは知らないが、第四次世界大戦は棒と石で戦われるであろう」

しかし、世界的な核戦争になれば、その棒や石を使える人は地球上からいなくなるでしょう。なぜなら、アメリカの政治家や軍人は、罪のない人々を殺すことを正当化するために、いつもこう断言します。戦争ではやむを得ず「巻き添え被害」が発生する。それは罪のない人々に死をもたらすことを正当化する言葉のトリックです。そして皆さん、核戦争で「巻き添え」となるのは全人類の命ではないでしょうか。

だから、「核兵器も通常兵器も、戦争に使われるものはすべて消滅させなければならない!」のです。

皆さん、そう宣言する勇気を持とうではありませんか!

 

フィデル・カストロ・ルス

 


対談は進み、両者の意見は以下の点で一致した。
 イラン・イスラム共和国に対して軍事作戦が開始された場合、米国とその同盟国は通常戦争に勝つことはできないだろう。② それでも勝ちにこだわれば、それは核戦争に発展する可能性がある。
「それでも勝ちにこだわる」のは、米政権が今もなお「イランに戦術核を使えば、世界はより安全になる」という命題だ。この不条理な命題と自家撞着にどう立ち向かうのか。この問いに応えるため、フィデル・カストロが提示した中心的な概念は、「思想の戦い」である。

 

 思想の闘い”Battle of Ideas”とはなにか

 

遠大な「思想の戦い」だけが世界史の流れを変えることができる。その目的は、地球上の生命を破壊しかねない核戦争という事態を防ぐ想像力である。

企業メディア(ロイターやCNN)は思想を覆い隠す隠蔽行為に深く関わっている。彼らの情報操作は、核戦争がもたらす壊滅的な影響を矮小化するか、あるいは言及しないかのどちらかである。

人々は現状がほんとうに深刻なのだということを理解するべきだ。そして戦争への流れを変えるために、社会のあらゆる場面で力強く行動しなければならない。

 

*「思想の戦い」は、革命闘争の過程の一部である

 

カストロのもとめた決意は、世界の世論に事実を知らせ、そのことによって「不可能を可能にする」ことだ。そして未来に対する究極の脅威である軍事的冒険(the military adventurism)を阻止することだ。

メディアの流す偽情報の洪水によって、限定的な核戦争があたかも「平和の道具」であるかのようにみなされている。世界の機関や国連さえもふくむ最高権威によって容認されるようになっている。そうなったら、もう後戻りはできない。人類は自滅への道をまっしぐらに突き進むことになるのだ。

 

*「思想の戦い」は世界の人々の運動として展開されなければならない

 

人々は、戦争を挑発する軍事的意図と政治的宣伝に反対して結集しなければならない。政府や選挙で選ばれた代表者に圧力をかけ、町や村、自治体の地域レベルで反戦運動を組織し、メッセージを広げ、熱戦争のもたらす真の意味について仲間に知らせるなら、この戦争は防ぐことができる。

必要なのは、「戦争は正当だ」と主張するさまざまな論調に挑戦する草の根の運動であり、「戦争は犯罪だ!」と宣言する世界的な人々の運動なのである。

「思想の戦い」とは、戦争犯罪人の政権首脳と対決することだ。世界的な戦争に賛成を強要する米国主導のコンセンサスを突き破ることだ。数億人の人々の考え方を変えることだ。そして核兵器を廃絶することだ。つまり、「思想の戦い」は、真実を取り戻し、世界平和の基盤を打ち立てることだ。

 

紹介文の最後に、この対談におけるフィデル・カストロの発言のエッセンス(Havana, October 15, 2010)を掲げる。

 

*米国以外のすべての国は通常戦争では米国には勝てません。同時に核戦争は通常戦争の代替手段とはなり得ません。米国以外のいかなる国が核戦争をはじめても、米国はそれを甘んじて認容する気はまったくありません。それは必然的に米国の介入を招き、世界的な核戦争になるでしょう。

*地球上の誰も、人類という種が消滅することを望んでいないと思います。だから、消えるべきは核兵器だけでなく、通常兵器をふくめたすべての武器であるというのが私の考えです。 

*平和の保証は、すべての民族に分け隔てなく与えられなくてはなりません。

*核戦争で巻き添えになるのは、人類のすべての命です。 

*核兵器も通常兵器も、戦争に使われるものはすべて消え去らなければならなりません。そのように宣言する勇気を持ちましょう!

*世界が核による破滅nuclear catastrophe)に導かれないように要求すること、いまそれは、生命を守ることと同じです。

 

 

 



しばらくそのままにしていた武光誠氏の「蘇我氏の古代史」を手に取った。
相変わらず読み進むことが出来ない。武光という人は蘇我氏を葛城氏の流れと見ている。そして河内王朝にその源流をもとめている。
そしてその根拠を記紀と随伴する残存資料にもとめている。
これだけでもその根拠のあやふやさは明らかなのに、その記述は変に確信じみている。これだけでも近づきたくない人だ。
この人の立論は、①河内王朝正統説、
②「継体王朝は河内王朝の復興」説の組み合わせだ。
たしかに日本書紀を素直に読めばそういう結論になるだろうと思う。

しかしいろいろな前提をつけた上で、部分的な正確さを認めるにしても、前後の揺れ幅があまりに大きいのである。

大和を主舞台とする主役交代は次のような揺れがある。
① 扇状地の小規模な水田耕作を生活手段とする弥生人。人種的には長江系、文化的には銅鐸人。
② 出雲人(新羅系)が弥生人を従える形で侵入。銅鐸文明を破壊し、縄文系文化を追いやり、イザナミ系文化を拡散。
③ 九州王朝の神武系集団が畿内の出雲系政権を征服。高天原系政権を立てる。後続なく欠史8代をへて、崇神王朝(九州+出雲連合政権)へ移行。
④ 仲哀天皇が九州併合を目指して西進するが、現地で謀殺される。大伴・物部連合軍が神功皇后を旗印にし、畿内を制圧。崇神王朝勢力は若狭に逃れる。
⑤ 河内王朝は葛城氏の支援を受け、潅漑・農業を発展させた。しかし飛鳥一帯の豪族の制圧に失敗。内紛により自壊。
⑥ その後無政府状態に移行。近江、若狭を基盤とする旧崇神王朝派と大伴・物部を盟主とする旧河内王朝派が覇権を争う。
⑦ 両派に妥協が成立し、旧崇神派の継体天皇が即位するが、間もなく次々に早世し(理由は不明)、欽明が即位するに及び政体は安定。
⑧ 加羅・安羅・任那の滅亡に伴い半島帰りの戦士が流入。これらを糾合した旧葛城派が蘇我氏を盟主として反乱。物部氏を滅ぼす。
⑨ 旧崇神派と旧葛城派の連立政権は約100年続いた末、旧崇神派の宮廷革命(乙巳の変)により旧崇神派に一本化される。

ただしこの「系譜」はあまりに畿内中心説にとらわれすぎている。これは九州から東への主要ルートが瀬戸内か山陰の日本海岸ルートかの判断が難しいからだ。
我々には神武東征と、神功皇后東征の記憶が強烈なために瀬戸内メジャーのイメージが刷り込まれているが、果たしてどうであろうか?





consortium news
May 19, 2023

中国と制裁された者同士枢軸
China & the Axis of the Sanctioned


By Juan Cole


リード

中東におけるアメリカの外交的影響力の低下は明らかだ。それは中国の外交攻勢のためだけではなく、30年にわたるワシントンの無能、傲慢、二枚舌を反映したものである。

以下本文

2枚の写真の類似性と相違点

イラン国家安全保障会議のアリ・シャムハニ事務局長とサウジアラビアのムサード・ビン・モハメド・アル・アイバン国家安全保障顧問の間に王毅(中国外交トップ)が立っていた。彼らは相互の外交関係を再構築する合意を行い、ぎこちなく握手をしていた。

三国会見

その写真を見て、少なからぬ外交畑のベテランは、イスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長を両脇にしたビル・クリントン大統領の写真を思い浮かべたはずだ。それは1993年に、オスロ合意に合意したときに、二人をホワイトハウスの芝生で接待したときのものだ。
White_House_1993

その懐かしい瞬間そのものが、ソ連崩壊後にアメリカが得た無敵の権威の最後の名残だった。それは1991年の湾岸戦争におけるアメリカの圧倒的勝利がもたらしめたものでもあった。

今度の写真は、その後の30年間の中東におけるワシントンの無能さ、傲慢さ、二枚舌によってアメリカが失った巨大なものを反映した変化であった。
そしてもちろん、その失地を埋めた中国外交の象徴でもあった。

サウジ・イラン和解 中国側の思わく

サウジ・イラン和解の余震は5月初旬に起こった。議会でUAE(アラブ首長国連邦)に中国海軍基地が極秘裏に建設されるという懸念が高まった。 UAEは何千人ものアメリカ軍を受け入れているアメリカの同盟国である。
UAEの施設は、軍が使用しているアフリカ東海岸のジブチにある小さな基地に追加されることになる。そこはUAE軍が海賊対策のために建設したものである。
予定された中国の基地は海賊対策、紛争地域からの非戦闘員の避難、そしておそらくは地域スパイ活動に使用されることになるであろう。
(編注:自衛隊の拠点は、米軍基地に隣接するジブチ国際空港の敷地を借用・設置されている。P-3C哨戒機2機と整備補給隊より成る。さらに支援隊が別途配置)

しかし、中国がイランの「アヤトラ」(シーア派の宗教指導者)とサウジアラビア王政の緊張を冷まそうとする理由は、中東への軍事的野心からではなく、両国から大量の石油を輸入しているからである。
もうひとつの理由は、習近平の野心的な「一帯一路構想」(BRI)である。 
この構想は、ユーラシア大陸の陸上と海上の経済インフラを拡大し、地域貿易の大幅な拡大を目指すもので、もちろん中国がその中心である。

中国はすでに中国・パキスタン経済回廊に数十億ドルを投資しており、湾岸産石油を北西部(新疆ウィグル)へ輸送しやすくするため、アラビア海の港グワダル(パキスタン)の開発にも投資している。

イランとサウジアラビアが戦争状態にあることは、中国の経済的利益を危険にさらす。
思い出してほしい、 2019年9月のことだ。
イランないしその手先、アル・アブカイクの巨大な製油所コンプレックスにドローン攻撃を仕掛け、日量500万バレルの油田を停止させた。
サウジは現在、中国に毎日170万バレルという途方もない量の石油を輸出しており、今後ドローンによる攻撃(あるいは同様の事態)が起きれば、その供給が脅かされることになる。
中国はまた、イランからも1日120万バレル(推計)もの石油を輸入している。これはアメリカの制裁のためである。
2022年12月、全国的な抗議デモが習近平のコロナ封鎖措置の終了を余儀なくさせた。中国の石油需要は2022年比ですでに22%増加している。
つまり、湾岸情勢がこれ以上不安定になることは、中国共産党にとって今一番避けたいことなのだ。
もちろん、中国はガソリン自動車からの脱却を目指す動きの世界的リーダーでもある。いずれは北京にとって中東の重要性ははるかに低くなるかも知れない。しかし、その日はまだ15年から30年先のことだ。

中国が調停役になったのはアメリカのせいだ

中国がイランとサウジの冷戦に終止符を打つことに関心を抱いていたことは明らかだ。しかし、なぜイランとサウジはこのような外交チャンネルを選んだのだろうか? それは結局のところ、アメリカのせいだ。
アメリカはいまだに自らを "不滅の国 "と称している。しかし、その言葉が今も当てはまるとしても、アメリカの不可欠性は今や目に見えて低下している。イスラエルの右翼によるオスロ和平プロセスの破壊、2003年の無理無法なイラク侵攻と戦争、そしてトランプ大統領によるイランへの醜悪な対応といった失策の連続がアメリカへの失望をもたらしている。
ヨーロッパから遠く離れていても、テヘランはNATOの勢力圏に入ったかもしれない。それはオバマ大統領が莫大な政治資金を投じて実現しようとしたことだ。しかしその代わりに、トランプはプーチンと習近平の腕の中にテヘランを直接押し込んだ。

事態は確かに変わっていたかもしれない。
オバマ政権が仲介した2015年の包括的共同行動計画(JCPOA)核合意によって、イランが核兵器を製造する現実的な道はすべて閉ざされた。イランの最高指導者が長年、大量破壊兵器はいらないと主張してきたのも事実である。もし大量破壊兵器が使用されれば、それは敵味方を問わず膨大な数の非戦闘員を殺戮することになり、イスラム法の倫理とは相容れない。

イランの聖職指導者を信じるかどうかは別として、JCPOAはこの問題を無意味なものにした、 
JCPOAは、イランが運転できる遠心分離機の数、ブシェールの原子力発電所で使用するウラン濃縮のレベル、備蓄できる濃縮ウランの量、建設できる原子力発電所の種類に厳しい制限を課したからだ。
国連の国際原子力機関(IAEA)の査察団によれば、イランは2018年までその義務を忠実に履行していた。なぜなら法令違反には厳しい罰則が与えられていたからだ。これはトランプ時代の皮肉である。
イランのハメネイ師は、ロウハニ大統領が常任理事国との間で結ばれた、条約に署名することを許した。それは ワシントンが制裁解除を約束した見返りとしてである。しかしそれは実現することはなかった。

トランプと米議会の一方的制裁継続

2016年初め、安保理は2006年の対イラン制裁を解除した。
しかしそれは無意味な行いであった。というのも、すでにそれまでに、米議会はイランに一方的な制裁を加えていたからである。議会は財務省の対外資産管理局を配備し制裁を発動した。核合意後でさえ、議会共和党はその解除を拒否した。イランがボーイング社から民間旅客機を購入することも、共和党は拒否した。そのために250億ドルの取引が水に流れた。

さらに悪いことに、このような制裁は、それに違反した第三者を罰するように設計されていたことである。ルノーやトタルエナジーのようなフランス企業は、イラン市場への参入を熱望していたが、制裁措置違反への報復を恐れていた。

結局のところ、米国はフランスの銀行BNPに対し、制裁を回避したとして87億ドルの罰金を科した。要するに、議会共和党とトランプ政権は、イランが取引に応じたにもかかわらず、このような厳しい制裁を継続したのである。イランの企業家たちが欧米とのビジネスを心待ちにしていたにもかかわらず…
要するに、テヘランは北大西洋貿易協定への依存度を高めようとした。結果、欧米寄りの軌道に引きずり込まれる可能性があった。しかし幸か不幸か、そうはならなかった。

ネタニヤフが核合意の一方的破棄を画策

イスラエルのネタニヤフ首相が(当時も今も)JCPOAに反対するよう強く働きかけていたことも忘れてはならない。彼は前例のないやり方で、オバマの頭越しに、議会に協定を破棄するよう働きかけたのだ。
その妨害役としての努力は、2018年5月、トランプがJCPOAを破棄するまで日の目を見ることはなかった。ネタニヤフ首相はトランプを騙して、核合意を無力化することに成功した。彼が「騙されやすいトランプ大統領を説得してこの措置を取らせた」と自慢する姿がテープに撮られた。
イスラエルの右翼は、最大の懸念はイランの核弾頭だと主張していた。そしてJCPOAを阻止した。
しかし結局、イスラエルが2015年の取り決めを妨害したことで、イランはあらゆる制約から解放されたのだ。
ネタニヤフ首相と志を同じくするイスラエルの政治家たちはJCPOAに憤慨していた。
それがイランの民生用核濃縮プログラムにしか対処していないこと、レバノン、イラク、シリアにおけるイランの影響力の後退を義務づけていないことに。

彼らの怒りを受けて、トランプはイランに対して金融と貿易の禁輸措置をとった。その結果、イランとの貿易はますますリスクの高いものとなった。
トランプは自らの基準(そしてネタニヤフ首相の基準)、すなわちオバマの成果をぶち壊すことで大成功を収めた。

核合意破棄後のイランの動き

彼のおかげで、イランの石油輸出は日量250万バレルからわずか20万バレルにまで減少した。それにもかかわらず、同国の指導部は2019年半ばまでJCPOAの要件に従い続けた。それからは、イランはJCPOAの条項を反故にし始めた。
イランは現在、高濃縮ウランを生産し、核兵器製造の可能性にかつてないほど近づいている、 
しかし、イランはいまだに軍事核開発計画を持たず、指導者たちははそのような兵器を望んでいないと主張し続けている。
現実には、トランプ大統領の「最大限の圧力作戦」は、この地域におけるイラン政府の影響力を破壊しただけだった。レバノン、シリア、イラクでは、ハメネイと保守派の力が復活した。

しばらくして、イランは中国に石油を密輸する方法を見つけた。国内市場向けにのみ操業する小規模の民間製油所をトンネルにして転売するやり方だ。これらの企業は国際的に無名で資産もなく、ドルも扱っていなかった。アメリカ財務省には対抗する手段がなかった。
こうしてトランプと共和党は、イランが経済的存続をもとめて中国に深く依存するようになり、中東で台頭する中国の重要性が増すための道を清めた。
ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻したとき、原油価格は急騰し、イラン政府に利益をもたらした。バイデン政権はその後、トランプ大統領がイランに科したような最大限の圧力をかけた制裁をロシアに科した。当然のことながら、イランとロシアは貿易と武器取引を模索し、新たな「制裁対象枢軸」が形成された。
イランとロシアは貿易と武器の取引を模索し、イランはウクライナでの戦争のためにモスクワに無人機を提供した。

反イラン・親米路線が破たんしたサウジ

サウジアラビアについては、その事実上の指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が最近、より良い助言者を得たようだ。
2015年3月、彼は南隣のイエメンで、フーシ派反乱軍が同国の人口の多い北部を占領した後、破滅的で壊滅的な戦争を開始した。
(訳注:フーシ派:ザイード派シーア派(Zaydi Shiite)の集団で、「神の助手」を名乗る軍事集団が中核を形成する)

サウジは主にゲリラ部隊に対して航空兵力を投入していたため、戦闘の効果は限定されていた。その作戦は失敗に終わろうとしていた。サウジ指導部は、フーシ派の台頭と回復力をイランのせいにした。
イランは確かに「神の助け手」に資金を提供し、武器を密輸していたが、戦いの本質はサウジに対する長い不満を抱えた地元民の抵抗だった。
8年後、戦争は壊滅的な膠着状態に陥った。

サウジアラビアは他の地域でもイランの影響力に対抗しようとした。北隣シリアのアサド政権を倒すため、原理主義的なサラフィー派反政府勢力を支援して介入した。
これに対し、2013年にレバノンのシーア派集団ヒズボラがアサドを支持して介入、2015年にはロシアが空軍力を投入した。中国はアサドを非軍事支援し、戦後復興を支援している。
中国は最近もアサド政権をアラブ連盟に復帰させるために尽力した。中国の仲介を受けて、サウジアラビアは連盟復帰を承認した。(原注:シリアはアラブの春の真っ只中だった2011年に連盟を除名されていた)。

2019年後半には、アブカイック製油所攻撃をきっかけに、ビン・サルマンがイランとの争いに敗れたことはすでに明らかだった。
サウジアラビアは何らかの出口を模索し始めた。サウジはイラク首相マハディに接触し、イランとの仲介を求めた。マハディ首相は、イラン革命防衛隊エルサレム旅団のカセム・ソレイマニ将軍をバグダッドに招き、サウド家との新たな関係を検討させた。マハディ首相は、イラン革命防衛隊エルサレム旅団のカセム・ソレイマニ将軍をバグダッドに招き、サウド家との新たな関係を検討した。

忘れもしない2020年1月3日、ソレイマニは民間旅客機でイラクに飛んだ。そしてバグダッド国際空港でアメリカの無人爆撃機によって暗殺された。暗殺を命じたのはトランプで、彼はソレイマニがアメリカ人を殺しに来たと主張した。
トランプはサウジとの和解を阻止したかったのだろうか?
結局のところ、アメリカの核心的関心はサウジアラビアと他の湾岸諸国をイスラエルを盟主とする反イラン同盟に取り込むことだったのだ。それがトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーのす繰り上げた "アブラハム合意 "の核心であった。

中国の台頭とアメリカの没落

ワシントンは今や、外交官たちのパーティーではスカンク扱いだ。イラン側は調停役としてのアメリカ人を金輪際信用するはずがない。
サウジアラビアは、新たなヘルファイア・ミサイルが放たれないよう、交渉の内容が漏れるのを恐れたに違いない。

2022年が終わる頃、習近平はサウジの首都リヤドを訪れた。そこでイランとの関係が話題になったことは明らかだ。
今年2月、イランのエブラヒム・ライシ大統領が北京を訪れた。中国外務省によれば、習近平はすでに2国間の調停に個人的にコミットするようになっていたという。

そして台頭する中国は、ついに中東の調停に乗り出すことを提案した。その一方で、習近平は「域外の一部の大国」が「私利私欲」のために「中東の長期的な不安定化」を引き起こしていることに苦言を呈した。和平調停者としての中国の新たな名声は、やがてイエメンやスーダンのような紛争にも及ぶかもしれない。ユーラシア、中東、アフリカを視野に入れる大国として、北京は「一帯一路」構想の妨げを可能な限り平和的に解決させたいと望んでいる。

中国は3つの空母戦闘団を保有する勢いだが、それらは自国の近くで活動を続けるに留まる。
中東における中国の軍事的プレゼンスに対するアメリカの懸念は、今のところ本格的なものではない。
サウジアラビアとイランのように、双方が紛争に疲弊している場合、北京は誠実な仲介者の役割を果たすことができるし、その準備もできている。

しかし、たしかにこれらの国々が相互の関係を回復し、集団的発展の方向にかじを切ったことは大きな意義を持つし、それを実現した新興大国・中国の外交力も目覚ましいものがあるが、大きな目で見ると、それはむしろアメリカの信頼性が驚くほど低下していることの反映である。
どれは、長い目でみると、30年にわたる偽りの約束(オスロ)、大失敗(イラク)、気まぐれな対イラン政策の結果である。
振り返ってみると、アメリカの政策決定は、帝国主義の押し付けと分割統治策略に頼るばかりで、実質的なものは何もなかったように見える。




いつも(何十年も)その「寄らば切るぞ」的迫力に圧倒され続けている私ですが、今回のメール(と言っても営業メール)で以下の話が、「へーっ!」ものでした。なにか広げないともったいない気がするので、転載しておきます。

2020年、吉村大阪府知事が大々的に打ち上げた「大阪ワクチン」は、破綻寸前だった製薬会社アンジェス(創業者&大株主が安倍元首相のゴルフ仲間)の株価を爆上げし、さらに同社には開発補助金120億円が流し込まれましたが、当初から、この、実績がほぼ皆無で、他にもいろいろ疑惑のあるこの会社にワクチン開発能力があるのか、という点が複数の専門家から指摘されていました。

金額からしても、モリカケ桜アベノマスクをはるかに上回る規模の疑惑でしたが、「一生懸命努力したベンチャーが結果的に失敗したとしても、それを責めるのは技術開発の足枷になる」という理屈で、なぜかうやむやにされてしまった事件。しかし、アンジェスは、このワクチン開発に関して、まともな報告書も論文すら出していないというのが実態。

世界的に大きな被害を与えたコロナ禍を利権にしたとしか言いようのないこの一件、さらに、掘り下げていくと、その裏に、実はさらにべつの疑惑も横たわっていました。
これを、このまま、なんとなくずるずるとうやむやにしておいてよいものでしょうか?

というお話です。

以下の記事は、ワシントン・ポスト紙無料記事の、AALAニュース編集部による和訳である。なお訳出にあたって、Googleの無料翻訳機能を活用し、その出力結果を一部修正したが、速報のための仮訳として理解いただきたい。(SS)
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The Washington Post
June 2, 2023 

オピニオン: 米国はもはや世界が味方であると思い込んではいけない

Opinion  The United States can no longer assume
that the rest of the world is on its side


By Fareed Zakaria


この間、新興国で見てきたこと

私は、この国の国のトップの一人であるスレイマン・ソユル内相の言葉を聞いて唖然とした。その時私はトルコの最近の総選挙を追っていた。
ソユル内相はバルコニーから群衆に向かって演説していた。
選挙の勝利に歓喜する彼は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、トルコに "問題を起こす者は誰でも、たとえアメリカ軍でもやっつけてやる"と約束した。
以前からソユルは、「親米的なアプローチを追求する者は裏切り者とみなされる」と宣言している。
トルコはNATOに約70年間加盟しており、国内に米軍基地があるということを覚えておいてほしい。

エルドアン自身、しばしば反欧米的なレトリックを用いている。選挙第1ラウンドの約1週間前、彼は対立候補をこう罵った。「赤ん坊殺しのテロリストや西側諸国に約束したことは口をつぐむだろう」(ちなみに“赤ん坊殺しのテロリスト”というのはクルド人ゲリラのことだ。おそらくフェークだろうが…)

エルドアンはこうした下品さの最も極端な代表者だろうが、反欧米的言動を弄するのは彼だけではない。
多くのコメンテーターは指摘している。世界の人口の大半は、プーチンのウクライナ侵攻作戦と闘おうとか、西側諸国と足並みを揃えようとか考えてはいない。
この戦争自体が、より広範な現象を浮き彫りにしている。まさに発展途上国の中でも強力な国々が、反欧米、反米の姿勢を強めているのだ。

昨年10月、ブラジルでルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバが大統領に選出された。そのとき、多くの人々は安堵のため息をついた。気まぐれなポピュリストであったジャイル・ボルソナロに代わり、伝統的で親しみのある中道左派の人物が大統領に就任したことが理由である。
しかし、ルーラは就任して数ヶ月の間に、ブラジルの位置を激変させた。彼は欧米を痛烈に批判し、ドルの覇権主義に怒り、ロシアとウクライナが戦争の責任を等しく負っていると主張する道を選んだ。
今週、彼はベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を接待している。ルーラはマドゥロを賞賛し、彼の政権に制裁を課しているワシントンを批判した。
彼は独裁者マドゥロの正当性を否定するアメリカが許せないのである。

以前、南アフリカのシリル・ラマフォサ大統領は、西側諸国と強い結びつきを持つ、実務的でビジネスフレンドリーな穏健派という評判だった。
しかし、いま南アフリカはロシアと中国の軌道に近づいている。同国はロシアのウクライナ侵攻を非難することを拒否した。それどころか、ロシアと中国の海軍を受け入れて合同演習を行っている、 
南アは最近米国から、ロシアへの武器供与を行っていると非難されている。しかし南アフリカは、この疑惑を否定している。

インドはどうだろうか。モディ首相は、ウクライナ戦争ではロシアに敵対するつもりはないと述べた。インド軍への先端兵器の主要供給国であるロシアと事を構えるつもりはない。
西側諸国とロシア(さらには中国とさえも)との関係のバランスを保ちたいというインドの態度は一貫している。
米印関係に関する最も著名な学者の一人であるアシュリー・J・テリスは、次のようなエッセイを書いている。
「ニューデリーが将来、北京との危機に際して米国の味方をすると考えない方が良い」と、ワシントンに警告するエッセイを書いている。

いったい何が起こっているのだろうか?
米国は、世界有数の新興国家となぜこれほどまでに対立を抱えているのだろうか?

新興国は "思い上がりと偽善 "に満ちた国、アメリカが嫌いだ

こうした態度の根底には、2008年に私が "the rise of the rest"(その他の国々の台頭)と表現した現象がある。
過去20年の間に、国際システムに大きな変化が起きた。かつては人口が多くても貧しかった国々が、縁の下の力持ちから主役の座に躍り出たのだ。
かつて世界経済に占める割合はごくわずかであった「新興市場」は、今や世界経済の半分を占めるまでになった。
これらの世界史的な現象は「新興国の台頭」といってもいいだろう。

*これらの国々が経済的に強くなり、政治的に安定し、文化的な誇りを持つようになると、ナショナリズムも強まった。
*そしてそのナショナリズムは、国際システムを支配する国々、つまり欧米諸国と対立するものとして定義されることが多い。
*これらの国々の多くはかつて欧米諸国によって植民地化されたため、欧米諸国が自国を同盟やグループにまとめようとすることに本能的な嫌悪感を抱いている。

ロシア専門家のフィオナ・ヒルは、ウクライナ紛争を背景にこの現象を考察し、次のように指摘する。
新興国のもつ根強い不信感のもう一つの要因は、米国がルールに基づく国際秩序を支持していると聞いても、それを信じないことである。
彼らはワシントンを "思い上がりと偽善 "に満ちていると見ている、とヒルは言う。アメリカは他国にはルールを適用するが、軍事介入や一方的な制裁では自らルールを破っている。貿易や通商の開放を各国に促しておきながら、いざとなればその原則を破っている。

アメリカの衰退ではなく、他のすべての台頭(the rise of the rest)が新しい世界だ

2008年に私が書いたようにアメリカの衰退ではなく、他のすべての人々の台頭が特徴である。
かつてチェス盤の駒であった世界の広大な地域が、今やプレーヤーとなり、自分たちの、しばしば誇り高く自律的な動きを選択しようとしている。
彼らは簡単に屈服したり、おだてに乗ったりたりはしない。
海外で正義を説くだけでなく、自らも自らの国で正義を実践すること、その実践に基づいて説得することが必要だ。
このような国際舞台をしっかりと演じることが、アメリカ外交の大きな課題である。

果たしてワシントンはその任務を果たせるのだろうか?

以下の記事は、NYタイムズ紙無料記事の、AALAニュース編集部による和訳である。なお訳出にあたって、Googleの無料翻訳機能を活用し、その出力結果を一部修正したが、速報のための仮訳として理解いただきたい。(SS)

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The NewYork Times
March 11, 2023

オピニオン|中国との対立で得をするのは誰か?

Who Benefits From Confrontation With China?


By The Editorial Board
The editorial board is a group of opinion journalists whose views are informed by expertise, research, debate and certain longstanding values. It is separate from the newsroom.


米中関係変化の理由はアメリカの中国に対する対決姿勢の強まりだ

アメリカの中国に対する対決姿勢の強まりは、アメリカの外交政策における重大な変化である。その背景、利害得失についてはより広範な評価と議論が必要である。
過去半世紀というもの、米国は経済的・外交的関与を通じて中国を再構築しようと試みてきた。トランプ政権の場合は、より厳しい経済的・外交的攻撃を通じて行われた。
バイデン政権はこれとは対照的に、中国を変えさせるという考えは棚上げし、中国の行き過ぎを牽制するという方式を優先している。

ホワイトハウスは中国との経済関係を制限し、軍事利用可能な技術への中国のアクセスを制限しようとしている、 
米国は長年中国との関わりが深い国際機関から手を引き、中国の近隣諸国との関係を強化しようとしている。
ここ数カ月、アメリカは中国への半導体輸出を制限し、今週はオーストラリアが原子力潜水艦を獲得を支援する計画を進めた。政権はまた、特定の中国企業に対するアメリカの投資に新たな制限を課そうとしている。
こうして中国をアメリカの国益への脅威と見なすことで、共和党の有力議員、軍部や外交政策の専門家の多く、そして経済界を含む幅広い支持を得て行動している。

米国の対中政策は間違っていたのか?

ブリンケン国務長官は、昨年5月のジョージ・ワシントン大学での講演で、政権の中国政策を明確にした。ブリンケンは対中国政策は失敗だったと断じた。 
「米国は国際機関のルールに従うよう中国を説得したり、強制したりすることにほとんど成功していない。
中国は、国際秩序を再構築する意図を持ち、そのための経済力、外交力、軍事力、技術力を持つ唯一の国である。中国はますます他国に優先事項を押し付けようとしている。北京の支配力拡大は、過去75年間にわたり世界の進歩を支えてきた普遍的価値観から我々を遠ざけることになる。

中国との関係強化は期待したほどの成果を上げていない。中国は資本主義を受け入れたが、それは社会や政治体制の自由化に向けた第一歩にはならなかった。
実際、中国の国家主導型資本主義は、他国の自由民主主義の健全性を損なっている。
米国は、ウイグル族のイスラム教徒に対する弾圧や知的財産権の軽視など、深刻な相違が残る問題について、中国の指導部に圧力をかけ続けている。

中国はまた、南シナ海や台湾海峡での軍事行動や、アメリカ上空での気球の航行など、憂慮すべき挑発行為を繰り返している。
米政府高官によれば、中国はロシアへの軍事援助を検討しているとのことである。この動きは米国との緊張を意図的にエスカレートさせることになる。

対立から利益は生まれない、良きライバルとなるべき

しかし、米国と中国の関係は、さまざまな問題を抱えながらも、多大な経済的利益をもたらし続けている。両国は毎日、何百万もの正常で平和的な交流によって結ばれている。また気候変動のような共通の問題を抱え協力する基盤がある。

アメリカ人の利益は、中国との対立を最小限に抑えながら、良きライバルとしての意識を強調することによって最大限に実現される。
口先だけで冷戦を引き合いに出すのは見当違いだ。二つの関係がまったく異なるものであることは、一目見ただけで理解できる。
アメリカは相手の足元をすくうよりは、より速く走って勝てるように集中すべきだ。それには教育や基礎科学研究への投資を増やすなどが考えられる。

中国の行動やレトリックもまた、視野に入れておく必要がある。超大国の基準からすれば、中国は依然として自国第一主義である。
対外関係は、特に自国周辺以外では、主として経済的なものにとどまっている。
中国は近年、国際問題でより積極的な役割を果たすようになった。イランとサウジアラビアの関係を再構築するために中国が果たした役割は、良い例である。
しかし、中国は自国の社会的・政治的価値観を他国に押し付けることは関心がない。

米中両国には共通の課題がある

中国の指導者たちは、対決的な姿勢をとることで一致しているわけでもなさそうだ。米国人は中国人と、互いに安心感を与えあう必要がある。

アメリカも中国も、多くの同じ課題に直面している。
*所得格差の時代に、習近平国家主席が「共通の繁栄」と呼ぶものをどのように確保するか。 
*資本主義の重要な創造力を失うことなく、資本主義の最悪の行き過ぎをどう抑制するか。 
*高齢化する人口と、仕事以上のものを人生に求める若者をどうケアするか。 
*気候変動をどう抑え、その破壊的影響にいかに対処するか。
などで共通している。

アメリカの中国戦略の中核は、同盟国との関係強化にある。それは適切な政策である。米国は同盟国とのあいだで時間をかけて、経済的利益と国家目標との整合性を調整すべきであろう。
インド太平洋地域の同盟国との関係を強化することも必要である。「私たちは彼らに負けないようにと頑張っています。それが世界中の人々の心をつかむことに繋がるからです」と、行政管理予算局のシャランダ・ヤング局長は語った。

孤立主義の復活 国際関係からの離脱傾向は間違いだ

しかし米国は、中国と長年にわたって関わってきた国際機関から手を引くべきでない。例えば、世界貿易機関(WTO)には、貿易紛争を裁くために設立された上訴裁判所がある。
しかし同裁判所は、最近任命された判事が任期を終えたため、2年以上運営されていない。新しい判事は米国の支援なしには設置できないが、バイデン政権はその支援を拒否している。

米国はWTOの貿易ルールを策定する委員会からも手を引いている。WTOの専門家であるシンガポール経営大学のヘンリー・ガオ教授によれば、習近平氏が2021年11月、アメリカの重要な目標である国有企業に関するルール作りの場としてWTOを利用することを提案した。しかしアメリカはその件についてあまり関心を示さなかった、 

そういう態度は間違いだ。ルールに基づく国際秩序の構築は、20世紀における最も重要な成果のひとつである。それにはアメリカが主導的な役割を果たしたのだ。
米国が様々な国際制度に参加しなければ、それを維持することはできない。

バイデン政権はトランプ政権時代の対中貿易制限を継続。それだけでなく、いくつも新たな制限を課した。これも疑わしい戦略である。競争を制限することは短期的には利益をもたらすだろう。しかし、ここ数十年のアメリカの経済成長は、グローバルな貿易部門で競争に打ち勝つことによってもたらされてきたのである。


競争は苦痛だが有益でもある

競争は苦痛であると同時に有益でもある。連邦政府がインフラ、研究、技術教育に対して行っている大規模な投資の価値は、著しく低下している。
なぜならアメリカ製品の市場規模を制限したり、健全な外国との競争からアメリカ企業を保護するような措置によって競争力が押し下げられているからだ。

米中対立への路線転換は、気候変動への対応など全人類的課題や、本来一致しているはずの課題でも協力を難しくしている。

これまで中国政策の多くは、国防のために必要であるとして正当化されてきた。国家安全保障への配慮は、ある種の対中貿易を制限する根拠とっている。
しかし、それは保護主義的措置を正当化する事になりかねず、決してアメリカの利益にならない。
長期的に見れば、アメリカの安全保障の最善の保証は、アメリカの繁栄と世界との正常な関わり以外にない。
それは中国にとっても同じだ。

(題名とは逆で得をするのが誰かは曖昧だが、損をするのがアメリカだということははっきりしている、というのが論者の言い分 SS)

以下の記事は、アジア・タイムズ紙無料記事の、AALAニュース編集部による和訳である。なお訳出にあたって、Googleの無料翻訳機能を活用し、その出力結果を一部修正したが、速報のための仮訳として理解いただきたい。(SS)
……………………………………………………


Asia Times
MARCH 30, 2023

オピニオン: 中国の外交的勝利は米国の失敗がもたらす
ーー米国は、他国民を排除すれば、いずれ自分も排除される

OPINION China’s diplomatic wins rise from America’s losses
ーーUS is learning the hard way that if you treat everyone else as a pariah
you are eventually treated as one yourself



By CHRISTOPHER MCCALLION

ここ数週間の中国の外交的な動きは、ワシントンの外交政策関係者やメディアの間にさまざまな警戒感を生んでいる。
「アメリカの影響力が新しい敵対的な "世界秩序 "に取って代わられようとしているのではないか?」と。

現在の出来事をバランス・オブ・パワーの観点でとらえることが、「なぜこのような事態になったのか」を説明するのに役立つ。
中国の習近平国家主席はモスクワを訪問し、中露の "限界なきパートナーシップ "を確認した。
その同じ週に、国際刑事裁判所(ICC)はプーチン大統領の戦争犯罪に対する逮捕状を発行した。
今月初め中国は、湾岸諸国のライバル同士サウジアラビアとイランの間で、国交回復を成功させた。
2月下旬、北京はウクライナ戦争に関する12項目の和平案を発表し、キエフは懐疑と開放の両義的姿勢を示した。
習近平はモスクワ訪問の最後に、プーチン大統領にこう語った。
「われわれが一緒にやれば、世界の変ぼうを作り出すことができる」

アメリカのコメンテーターたちはこう見ている。
中国が「ユーラシア・ブロックのリーダーとして台頭しつつある。何世代にもわたって外交を支配してきた同盟関係や対立関係は根底から覆された。そして「反米を主軸とする世界秩序が形成されつつある」

問題は、この対立がヒートアップして核保有3カ国を第三次世界大戦の瀬戸際に追いやるのか、それとも「冷戦 ver.2」の幕開けを告げるだけにとどまるのかだ。
第三次世界大戦も冷戦2.0も我々は回避できるのか、また、中国の外交的な誘いかけにこれほど好意的な聴衆が登場したのはなぜなのか。
これらの問いに関心を持つ人はほとんどいないようだ、 

特筆すべき例外は、ファリード・ザカリアの最近のコラム、「アメリカの一極集中は外交エリートを堕落させた」というもの。
これによると、「わが国の外交政策は、要求を出し、脅しや非難をし、という行動に終始することがあまりにも多い。相手の意見を理解したり、実際に交渉したりする努力はほとんどなされていない」のだ。

バイデン政権が国際政治を「民主主義対独裁主義」の闘争と決めつけ、アメリカが同盟国以外との有意義な外交を避けていることを考えれば、ワシントンが北京、モスクワ、テヘラン、リヤドとの関係から締め出されるのは当然である。
北京は最近、アメリカが中国を「封じ込め」ようとしていると、異例なほど強い言葉で述べた。
この評価は、台湾に対するアメリカの関与がますます明確になっていることや、西側諸国が中国への技術輸出を制限していることを考慮すれば、正確なものと思われる。

「欧州の指導者たちはプーチンをICCに引き渡すべきだ」というブリンケン国務長官の発言は、「ルールに基づく国際秩序」を守ると主張する米国の偽善性を自ら暴露している。
想起せよ、ICC(国際司法裁判所)は米国がその権限すら認めていない組織である。

それだけではない。ブリンケン発言はモスクワの政権交代が米国の公式方針であると宣言したに等しい。
それは、ウクライナ紛争をより難航させ、危険なエスカレーションの可能性を高める恐れがある。
ICCはプーチンに逮捕状を発行することで、ウクライナ紛争の最終的な解決を含め、モスクワがもはや西側諸国と通常の外交を行えないようにしたにすぎない。

これによって、戦争終結を交渉する調停役は西側諸国からは出現しないことが明らかになった。調停役は西側出身者でもなく、西側の意向を反映する国や組織でもない、ということになるだろう。

バイデンはトランプ政権のイランに対するタカ派路線を継続した。そしてJCPOA核協定の復活に失敗した。その一方で、テヘランの宿敵であるサウジアラビアを“のけ者” pariah にした。

バイデン政権は一方で、テヘランの宿敵サウジアラビアを「のけ者」にした。
こうして何十年にもわたりこの地域のお気に入りだったにもかかわらず、アメリカはリヤドでもエルサレムでも影響力を失いつつある。
サウジアラビアとシリアも和解寸前にある。こちらはモスクワの仲介によるようだ。

中国が中東で交渉を仲介し、関与を強めていることは、アメリカにとって悪いこととは言い難い。
フリードマンが最近書いているように、アメリカがこの地域からの離脱し、その「空白」を中国が埋めたとしても恐れる必要はない。
実際、皮肉屋の現実政治家は望んでいる。北京がわれわれの足跡をたどるほどに愚かであることを。

過去数十年間のアメリカ外交のスコアカードは、決して芳しいものではない。アメリカは、ユーラシア大陸における覇権国の出現を避けようとしてきた。
それなのにアメリカは他の2つの大国を、同盟関係にまとめあげてしまった。それは主にアメリカへの反発によって結ばれたものである。

中東のパワーバランスは力勝負だ。さほど繊細なものではない。米国はすべての当事者に対して相対的に最大限の影響力を行使できる。米国はそうやって、湾岸地域の主要な二人のプレーヤーを引き離す方法を見つけた。つまり、誰が誰を孤立させるのか、という話だ。
外交政策当局はイランに敵対する同盟を形成しようと頑張ってきたが、誰かを " 除け者 " として扱えば、やがて自分自身も除け者になってしまう可能性がある。

Christopher McCallion is a Fellow at Defense Priorities. This article is republished with the kind permission of Defense Priorities


より
6/17 2023
国際情勢と中国外交(1)

1.中国外交の基本的性格
A) 歴史的国際的立ち位置
*強烈なナショナリズムに基づく国民国家(nation-state)の建設
*世界第2位の経済大国として、アメリカに対抗する国として、あるべき姿の模索
B) 外交主体の問題意識
国家建設主体としての問題意識とは異なる経過を取っている。
*善隣友好
平和共存5原則(領土保全、相互不干渉、相互不侵略、平等互恵、平和共存)に基づく国家関係
*大国(米ソ)との対抗
「三つの世界」論、反覇権闘争
*21世紀外交→習近平外交

2.習近平外交の成立
A) 模索期 12年12月総書記就任から14年11月まで
* 戦略的に軍事を重視し、遅れていた軍事力を伸ばした
* 軍事優先路線は日米両国との軍事リスクを増大させた
B) 中央外事工作会議(14年11月)
「中国の特色ある大国外交」路線を打ち出す。
「実事求是」「調査研究」の原点に立ち返り、実践を通じて外交戦略を形成。
C) 中央外事工作会議(18年6月)
「中国の特色ある大国外交」路線の具体化:6つの長期的基本方針
①歴史観と役割観を踏まえた情勢把握
②人類運命共同体構築を目標とする国際統治システム
③「一帯一路」建設の推進
④安定的な大国関係の推進
⑤周辺諸国との関係改善
⑥途上諸国との関係発展(その際途上国を「天然の同盟軍」と規定)

3.「特色ある大国外交」の柱
以上の経過を踏まえ、現在展開されている「特色ある外交」を分野別に見ていく。
A) 中米関係
18年会議の6つの柱のうち第1の柱が激突する。すなわち
*「世界のグローバル化」を踏まえ(歴史観)
* 「国際社会の多極的平和共存にふさわしい国際秩序」の実現を目指す(大局観)
* 「一帯一路」建設を通じて大国としての役割を果たす(役割観)
これは米国に対する真っ向勝負である。
なおこの項で、浅井氏は
「台湾、南シナ海島嶼(西沙,南沙、東沙)が中国の領土であることは、本来、歴史的、法的に議論の余地はない」と断言するが、西沙・南沙については保留する。
B) 中ロ関係
*両国は長期的基本方針のうち①~③を共有する。
*現実的関係:社会主義圏の崩壊以来、積み上げてきた実績もある。米西側との非友好的ないし敵対的関係とは対照的に長大で安定しか領国国境が最大の戦略的資産となっている。
* 中露関係強化の最大の成果が「ドルの武器化」に対する「脱ドル化」の進展が挙げられる。
C) 周辺諸国
中国外交にとって、周辺諸国との関係は常に緊張を強いられる。それは欧州諸国の「ロシア嫌い」(Russophobia)のすさまじさに比肩する。
国際世論に圧倒的影響力を振るう西側メディアは反ロ反中に全精力を集中している。
D) 途上諸国
途上諸国との関係では、「一帯一路」に基づく経済協力関係が確実に進展している。
途上諸国が重債務に陥っている問題を中国の責任とする米・西側諸国の主張は、事実に反している。
中国が仲介したイランとサウジアラビアの外交関係回復は世界の政治地図を塗り替えつつある。

これを近日開催予定の北海道AALAの学習資料として使いたいのだが、いまいちスッキリしない。もう少し他もあたってみた上でアラブ世界の団結、脱ドル化、資源の自律化、BRICSSと対外債務など非欧米諸国の共通課題と中国の果たすべき役割がもっと整理した形で提示されることが望ましい。
またとくに非核非戦の課題での非同盟諸国のイニシアチブと中国ロシアの立場が接近する展望について積極的に打ち出してほしいと思う。



2015年08月03日
グエン・ドクさん(ドクちゃん)について
最近、この記事が読まれているようです。読まれた方、背景説明が必要なので下記をご参照ください
枯葉作戦とは何だったのか(再掲)
原著「先天障害と、枯葉剤との関連」 フエ医大
 

ラテンアメリカの政治の記事を転載します。ドクちゃんの記事が読まれており、背景説明が必要と思い再掲しました。元記事はここです

枯葉作戦とは何だったのか

道 AALA 副理事長 鈴木 頌 

 

 この文章は当初、故レ・カオダイ先生(当時ベトナム赤十字総裁)が中央病院で講演していただいた際に、学習資料として作ったものです。いまから6年前、1999年のことでした。無事手術を成功させたドク君が中央病院を訪問するに際し、大幅に増補・改訂しました。あらためて、アメリカ帝国主義と闘うことなしに世界の平和も人々の健康な生活も保障しえないと痛感します。-2005年6月

 

アメリカにとって史上最大の戦争

 ベトナム戦争は、物量の規模からいえば第二次大戦をしのぐ史上最大の戦争でした。

 現在も正確な統計は出ていませんが、およそ300万人近くのベトナム人が死亡、400万人のベトナム人が負傷しました。また5万8千人以上のアメリカ兵が死亡しました。アメリカにとっても大変な戦争でした。アメリカ政府の発表によると、ベトナム戦争に使った費用は3520億ドルであったといいます。延べ650万人の若者が動員され、直接戦争に参加しました。1969年のピーク時には、南ベトナムの地に54万3千4百人のアメリカ兵が駐屯していました。

 ベトナム戦争のあいだに、アメリカは785万トンの爆弾(銃弾は含まない)を落としました。あの第2次世界大戦中にアメリカが各戦場に落とした爆弾の量は205万7244トンだったことを考えると、面積あたりの爆弾はとんでもない量になります。

 アメリカが北ベトナムに落とした爆砲弾は、ベトナムの各施設を破壊しつくしました。小学校から大学までの各学校2923校、病院、産院、診療所1850ヶ所、教会484ヶ所、寺、仏塔465ヶ所が灰燼に帰しました。

 そのなかでも、戦争後も長期にわたり人々を苦しめているのが、枯葉剤による被害です。


枯葉剤の使用法

 アメリカは1961年から、南ベトナムの解放運動を阻止するために、軍事介入を開始しています。それが本格化するのは63年にケネディが暗殺され、ジョンソンが大統領になってからでした。しかし「枯葉作戦」はそれよりずっと前、61年11月には開始されています。

 「枯葉作戦」のそもそもの目的は、第一に解放戦線の隠れ家であるジャングルを絶滅させることです。そして同時に、解放区で作られる農産物を汚染し、食べられなくすることも目的としていました。
散布面積の合計は、170万ヘクタール。南ベトナムのジ
ャングルの20%、マングローブ森の36%に及びました。これは、四国全体の面積にほぼ匹敵します。枯葉剤の散布量は、1ヘクタールあたり平均して27リットルといわれます。

 対象の多くは密林で、水田や耕作地への散布は14%ほどでした。ベトナム戦争の最も激しかった60年代半ばには、解放戦線の補給路とされた「ホーチンミン・ルート」周辺の密林に集中して、大規模な散布作戦が繰り返されました。

 71年に催奇形性の報告が相次ぐ中で作戦が中止されましたが、それまでに投入された薬剤は72,300立方メートル、溶剤以外の有効成分は55,000トンに及びました。



枯葉剤の種類と作用

 散布された枯葉剤は、日本でいう除草剤に近い薬剤で、エージェントと呼ばれましたベトナムでは主にオレンジホワイトブルーの3種類のエージェントが用いられました。オレンジホワイトは、植物の成長や代謝を阻害するものです。

 このうち特に大量に使用されたのがエージェント・オレンジでした。これは2・4-D(ジクロロフェニキシ酸)と2・4・5-T(トリクロロフェノキシ酢酸)の混合物です。ホワイトは、2・4-Dと4-アミノ-3・5・6-トリクロロピコリン酸の混合物です。

 稲を枯らすのにはオレンジやホワイトでは効果が薄いため、ブルーと呼ばれる薬剤が用いられました。ブルーは、カコジル酸を元にしたもので、植物の脱水化をもたらすことによって、枯れさせるといわれます。

 通常の散布作戦の場合、エージェント・オレンジを搭載したC123輸送機が、2機編隊で出動します。危険地帯へ出動するときは、F-4ファントムが護衛の任につくこともありました。

 現場の森林上空に達すると、翼面と胴体後部のノズルから薬剤を噴霧します。散布から24時間以内に木々の葉は変色を始めます。そして1ヶ月すこしで落葉します。

 つぎつぎに生まれる新芽を殺すため、除草剤は繰り返し撒かれる必要がありました。またその濃度は通常使用時の10倍に及びました。こうして枯葉剤は、密林のあらゆる植物を殺してゆきました。


ダイオキシンとは何か?(ちょっと難しいぞ)

 ベトナムで使用された三種類の枯葉剤のうち、エージェント・オレンジには、大量のダイオキシンが混入していました。散布量から換算すると総量170kgに達すると見られています。

 

2,3,7,8-ダイオキシン

 

 史上最悪の毒物といわれるダイオキシンは、正式名称を「ポリ塩化ダイベンゾダイオキシン」といいます。化学構造はその名のとおり、二つのベンゼン核(いわゆる亀の甲)が二重酸素結合し、結合部以外の炭素に塩素が結合したものです。

 ダイオキシンはひとつの化学物質ではなく、どの炭素にどのように塩素が結合するかによって性質が異なってきます。理論的には75種の同族が存在し、毒性は千差万別です。

 その中では、「2,3,7,8-ダイオキシン」の毒性が最強です。この他に「コプラナーPCB」と「ジベンゾフラン」も毒性が強く、これら三つは「ダイオキシン類」として同等に扱われています。ダイオキシンの急性毒性はあのサリンの2倍、青酸カリの1000倍といわれています。

 ダイオキシン類は常温で白色の個体です。水には溶けにくく脂肪にはよく溶けます。吸収されたダイオキシンは脂肪組織に蓄積します。半減期は3~10年といわれ、きわめて代謝を受けにくいとされます。

 1958年にウサギが極微量のダイオキシンで死んだことが、ドイツの学者により最初に報告されました。おなじ頃、米国でもダイオキシンの混入した飼料を与えられたヒヨコ数百万羽が死んでいます。しかしダイオキシンの名を一躍有名にしたのは、ベトナム戦争で用いられた枯葉剤です。

 アメリカ軍が撒いた枯葉剤によって、流産や奇形の発生が多いことが報道されるようになりました。そしてエージェント・オレンジに大量のダイオキシンが混入していることが明らかになりました。このことを通じ、ダイオキシンは史上最悪の毒物として有名になったのです。

 最近ごみの焼却との関係でダイオキシンが話題になっていますが、これはダイオキシン類が1300℃の超高温でしか高速分解しないからです。サリンは、空気中の水蒸気にさらされると無害になりますが、ダイオキシンは湿気にも高温にも強いのです。低温で焼却したごみには、ダイオキシンが濃縮されて含まれてしまうことになります。

 カネミ油症事件(68年)、イタリアのセベソ農薬工場爆発事件(76年)については別に報告があるので、そちらをご参照ください。「ダイオキシンの基礎知識」というページが大変よくまとまっているのでそちらもご参照ください。「母は枯葉剤を浴びた」中村梧郎著は、いま文庫本で気軽に買えますので、ぜひご参照ください。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」もついでにどうぞ。


ダイオキシンの人体への影響(かなり難しいぞ)

 カネミ油症事件ではPCBを摂取した人の中から、にきび・体重減少・肝障害・心筋障害・ホルモン異常が現れました。さらに学習能力の低下など中枢神経症状も出現しています。(正確に言うとPCBではなくポリ塩化ジベンゾフランという狭雑物質)

 ダイオキシンの1日あたり摂取許容量は、農薬の100万分の1です。このことはダイオキシン類の毒性が農薬より100万倍強いということを表わしています。

 農薬などの有害物質は、細胞の中の酵素・遺伝子・染色体などに直接作用して、これらの働きを傷害します。その結果、健康が侵されることになります。このようなかたちで健康が害されるには、かなり高濃度の化学物質が必要です。

 ダイオキシンがなぜ微量で生物効果を発揮するかは、「環境ホルモン」説で説明されています。

 ホルモンはホルモン産生臓器から分泌され、血液を流れて標的細胞に到達します。そこで細胞のなかにあるホルモン受容体と結合して細胞核に入り、遺伝子を活性化させます。活性化した遺伝子は蛋白の産生などさまざまな作用を引き起こして、人体機能を調節することになります。ホルモンの役割は情報機能だけですから、その量はミクロどころではなくナノとかピコという微量でも足りるのです。

 「環境ホルモン」説は、ダイオキシンがホルモンに成りすまして、遺伝子を狂わせてしまうというものです。自ら人体を傷害するのでなく、誘導された遺伝子が暴走していくので、極微量のダイオキシンでも重篤な障害を引き起こすことが出来ることができるわけです。

 この節は、ダイオキシンが先天障害などを起こす機序の説明であり、現在主流となっている仮説を提示したものです。都合上すごく単純化しています。
 あくまでも肝心なことは、ベトナムでの疫学調査によって枯葉剤散布と先天奇形などの障害との関係を立証することであり、「ダイオキシン猛毒説」や、「環境ホルモン説」を立証することではありません。

 


ベトナム戦争における枯葉剤被害

 ベトナムでもカネミ油症と同じような障害が出ました。違っているのはそれが空から降り注いだということ、あたりが薄暗くなるほどの大量の薬剤に暴露されたということです。

匂いのする雨
飛行機が低く飛んで、それは雨のように降ってきた。オレンジ色のこともあった、白い液のこともあった。黒い液体も降ってきた。…なんせ逃げる場所がない。体は濡れるにまかせていた。するとめまいがして、目の前がくらくらとして、意識が遠くなり、鼻血がたらたらと出たと思ったら、気を失っていました。水牛や豚が血を吐いて死んでしまった。(轡田「枯葉作戦の傷跡」より)

 しかし急性期障害の恐ろしさもさることながら、最も恐ろしいのは生殖障害や発ガンなどの遅発性障害です。表①に、枯葉剤の撒かれた地区で行われた健康被害調査の結果を示しました。

 この表からは、枯葉剤が散布されたベンチェ省の各地区で、枯葉剤散布前に比べ、流産が2.2~2.7倍に、奇形は約13倍になっことが分かります。 


  ①ベンチェ省の枯葉剤散布地区で行われた先天異常発生調査結果

先 天 異 常

散布前(A)

散布後(B)

B/A

流産 ルンフー村

5.22 %

12.20 %

2.3 倍

    ルンファ村

4.31 %

11.57 %

2.7 倍

    タンディエン村

7.18 %

16.05 %

2.2 倍

奇形児

0.14 %

1.78 %

12.7 倍

出典:綿貫礼子『自然』(1983.4)

 13倍という数は、統計的手法のいかんを問わない説得力を持ちますが、後ろ向き研究であり、対照群の信頼性には疑問が出るかもしれません。

 また枯葉剤被曝以外の要因、とくに飢餓と栄養障害の影響を排除できません。米軍は枯葉剤を撒いたあと、枯れ木にさらにナパーム弾を落とし燃やし尽くしました。枯葉剤に強い草本科の植物に対しては、害虫の卵を散布しました。孵化した害虫はたちまちのうちに稲などを食い尽くしました。それでも残ったところには、米軍兵がヘリでやってきて、農民の目の前で火炎放射器で焼き尽くしたそうです。
 

イエンバイ調査の結果

先 天 異 常

A群

B群

A/B

先天性奇形

3.14 %

0.21 %

15.0 倍

流産

14.42 %

9.04 %

1.6 倍

早産

2.01 %

0.61 %

3.3 倍

不妊

2.80 %

1.20 %

2.3 倍

出典:綿貫礼子『自然』(1983.4)

 表②は、「イエンバイ調査」というかなり説得力のある疫学調査です。これは北ベトナムのイエンバイという人口三万の田園都市における悉皆調査です。地域としてはまったく枯葉剤に関係なく、ただ南での戦闘に参加した元兵士が1500人ほど住んでいるだけです。このうち結婚し子供をもうけた人は約1200人います。その配偶者はいずれも枯葉剤と無関係の女性です。

 この兵士を枯葉剤を浴びたA群786人と浴びなかったB群418人に分け、比較対照しています。

 この表からは、枯葉剤に直接さらされた兵士の子供たちも、明らかに影響を受けていることが分かります。これは、枯葉剤が精子に影響を与えているためでしょう。

 これらの調査を通じて、先天奇形の頻度が異常に高いことに気づきます。これが枯葉剤被害のひとつの特徴かも知れません。胎内死にいたらない程度の胎児異常ということがいえるかも知れません。部位別に見た先天異常は先天性心疾患が約4割、無脳症など頭部疾患が2割を占めるなど、特異的なものはありません。

 アメリカでも、ベトナム帰還兵とその家族に、癌から子供の発育障害にいたるさまざまな疾病が現われました。今日では、その原因が枯葉剤に混入していたダイオキシンであったことが確実視されています。

 70年代後半にはアカゲザルにダイオキシンを投与するいくつかの動物実験が行われ、きわめて高率な生殖障害の出現が確認されています。今日でもこの実験結果に異論はないようです。

 1993年、アメリカ科学アカデミーが、枯葉剤暴露とさまざまな健康障害の関係を調査した報告書を発表しました。これによると、「ダイオキシンへの暴露は軟部組織腫瘍・非ホジキンリンパ腫・ホジキン病の3種類の癌を発症する可能性がある」とされています。劣化ウランの場合と異なり、米国は枯葉剤とそれによる障害との因果関係を公式に認めていることになります。

 


いまも残る枯葉剤汚染

 戦争が終わって30年余りたった今も、枯葉剤による被害はきわめて深刻です。とくに強調しなければならないのは、ベトナム戦争が終わってから生まれた子供たち15万人に、重篤な疾患をもたらし続けていることです。

 故レ・カオダイ先生の報告によれば、ベトナム全土で100万人を超す人たちが、いまなお外形的障害、ガン、神経障害、免疫障害、流産、遺伝疾患などで苦しんでいます。重大なのは、ダイオキシンによると見られる障害がいまもなお、新たに発生しているということです。

 ホーチミン市(旧サイゴン)の市立ツーヅー産婦人科病院は、枯葉剤被害者のセンターとして有名な病院です。ベトちゃん・ドクちゃんが分離手術を受け、いまも暮らしている病院でもあります。多くの日本の方が訪問し、多くの報告を出していますが、どんな方にも丁寧に対応してくれるようです。

 そこのデータを見ると、年間およそ3万件の出産があるようです。一日当たり100人近い分娩数です。そのうち先天障害の比率がおよそ300件、1%に達するといいます。(申し訳ありませんが、直接データに当たっていないので、それぞれの文献をお読みください.日本では妊娠早期に出生前診断が行われ、満期分娩にまで至らないケースもかなりあるため、一概に比較はできません)

 03年、ドイツの Schecter らは、中部ベトナムで人々が毎日食べている食物をサンプリング調査しました。その結果、「いくつかの食品が許容濃度をはるかに越える高濃度のダイオキシン類で汚染されていた」と報告しています。例えば放し飼いのアヒル、ニワトリや川魚などです。これらの結果は、枯葉剤のもたらしたダイオキシンが、いまもなお、環境中に広く残留していることを示しています。

 戦争の加害者である米国政府は、いまだに枯葉剤被害の責任を負おうとしていません。ベトナムでは昨年、「枯葉剤被害者協会」が設立されました。そして、当時枯葉剤を製造したダウケミカル社など七社を相手取って裁判を起こしました。しかし今年3月、ニューヨーク連邦地裁はこの訴えを棄却しました(現在控訴中)。

ダウケミカル社などはすでに20年前、ベトナム帰還兵の枯葉剤被害集団訴訟に対し、総額1億8000万ドルを支払うことで和解しています。ベトナム戦争の枯葉剤被害者に支援を」(http://www.vysa.jp/aovn/)をご参照ください。

 

【付録】ベトナム戦争とは何だったのか

 第二次世界大戦終了直後の1945年8月19日、ベトナムは独立を宣言しました。ハノイ、フエで蜂起が起こり、ベトナム民主共和国が樹立されました。国家主席にはホーチミンが就任しました。

 しかしその1ケ月後、旧支配者フランス軍がふたたび戻ってきて植民地支配を復活しました。1946年9月26日、北部を解放したホーチミンは、ベトナム南部の国民に独立闘争を呼びかけました。この「第一次インドシナ戦争」は長期化し、次第にフランス軍は消耗していきました。

 1954年、有名なディエン・ビエン・フーの戦いでフランス軍は、大敗を喫しました。その後のジュネーブ会議で、ベトナムは北緯17゜線を境に2つの国家に分割されました。南ベトナムでは、アメリカの後押しを受けたゴン・ジン・ジェムが指導者となりました。

 ジェム政権は祖国統一を定めたジュネーブ協定を裏切り、腐敗を強め、反対者へは厳しい弾圧で応えました。ジェム政権への反対運動が激化していくなかで、1960年12月「南ベトナム民族解放戦線」が結成されました。民族解放戦線はアメリカと南ベトナム政府に宣戦布告し、「第二次インドシナ戦争」が始まりました。

 アメリカは本格的な軍事介入に乗り出しました。61年にはゴン・ジン・ジェムを放逐し、軍事政権を樹立。その「要請」に応えて、膨大なアメリカ軍がベトナムへ送リ込まれました。

 強大な軍備を持つアメリカ軍に対し、解放戦線はジャングルでゲリラ戦を挑みました。戦争は泥沼化し、アメリカ軍も多大な損害を被むりました。

 アメリカ軍は、解放戦線の根拠地であるジャングルに、大量の枯れ葉剤を撒きました。北ベトナムへの空爆も始めました。しかし60年代後半になると、次第に解放戦線の優位が明らかになり始めました。アメリカ国内では、多大な人的損害と莫大な戦費から、次第に反戦運動と厭戦気分が高まっていきました。

 ジョンソンに代わり大統領となったニクソンは、北爆を停止し、撤退への道を模索するようになりました。パリで、北ベトナムとアメリカの交渉が行われ、1973年、和平合意が調印されました。これにより即時停戦とアメリカ軍の撤退が決定しました。

 その後もアメリカは、南ベトナムのカイライ政権への大規模な軍事援助を続けました。米軍を肩代わりした南ベトナム軍と解放戦線のあいだに戦闘が続きましたが、南ベトナム軍の敗勢は次第に明らかになりました。

 75年初め、北ベトナム軍と解放戦線は最終総攻撃に転じ、各地で南ベトナム軍を壊滅。次第にサイゴンへ迫りました。こうして4月にはついにサイゴンが陥落し、ベトナム全土が解放されました。第二次世界大戦の終わった日から、実に30年をかけてベトナムは民族独立をかちとったのです。

 
【付録コロンビアにおける枯葉

 アメリカは数年前から、南米コロンビアでも除草剤を大量散布しています。これはコカイン畑を絶滅させるための作戦とされていますが、実際にはコカインも一般作物も関係なく、高い空から、あたり一面にばら撒いているというのが実情です。低いところを飛ぶとゲリラに撃ち落されるからだそうです。

 ベトナムで枯葉剤が問題になったのは、エージェント・オレンジに不純物としてふくまれていたダイオキシンによるものです。コロンビアではこれとは違う「グリホサート」(商品名ラウンドアップ)という薬剤が用いられているので、ダイオキシンによる汚染の心配はありません。しかし現実にはさまざまな健康被害が報告されています。

 「ラウンドアップ」を製造しているのはモンサントという会社です。この会社は遺伝子組み換え大豆も製造しています。遺伝子組み換え大豆は「ラウンドアップ」に耐えられる能力を持つように遺伝子を操作されています。

 この大豆を植えた畑にどっぷりと「ラウンドアップ」を振り撒けば、大豆以外には草木一本成長しないことになります。それは「沈黙の春」を髣髴とさせるおぞましい光景です。モンサント社は行きかえり往復で大もうけし、消費者は「ラウンドアップ」漬けの大豆を食わされることになります。

 
【付録3】ドク君の社会活動をどう見るか

 4月30日の中日新聞に次のようなコラムが掲載されました。

     「べトちゃん・ドクちゃん」も今年で24歳にもなったそうで、兄「べトちゃん」は脳障害で寝たきりなのだが、弟「ドクちゃん」は元気に生活し、仕事もこなしている。しかも最近半年間ほど付き合っていた彼女と別れたとの事。そしてもちろんのこと彼は「戦争の負の象徴」としてメディアにさらされ続けなければならない状況であり、戦争の悲劇を訴え続けなければならない自分の運命をも受け入れている。

     ここで疑問に思ったのは果たして本当に彼は「戦争の負の象徴」としての役割を引き受ける必要があるのだろうか、ということだ。そしてメディアの役割というものをもう少し考えなければならないと思う。(中略)

     彼はもちろんのことある意味で報道被害にあっているといえなくも無い。それは「戦争の負の象徴」として戦争の悲惨さを伝えるという役目を背負わされたというところである。しかし彼はその役目を真摯に受け止め、果たそうとしている。

良く練られた文章だと思います。そして読む人になにか考えさせる中身を持った文章です。

筆者は繰り返し問いかけています。 彼は「戦争の負の象徴」としての役割を引き受ける必要があるのだろうか? 

重い問いかけであり、どう答えるべきか、悩むところです。 私の答えは「ある」と思います。もちろん彼にその「義務」はありませんが…

私たちにとっては、ぜひとも「役割」を引き受けてもらいたいのです。それは私たちが戦争に反対し、戦争犯罪に反対し、核兵器に反対し、枯葉剤に反対し、劣化ウラン弾に反対し、そのために声を上げようととしているからです。

その際だいじなポイントが二つあります。

ひとつはかつての「ドクちゃん」、いまのグエン・ドクさんが「戦争の負の象徴」なのか、それだけなのか? ということです。たしかにツーヅー病院の標本室にホルマリン漬けになった人々、写真に映された「ベトちゃん・ドクちゃん」の姿は、「戦争の持つ悪意」そのものです。

しかし私たちの目の前にいるグエン・ドクさんは、アメリカの「ジェノサイド」という邪悪な意志を跳ね返し、多くの試練を自らの生命力によって乗り越え、多くの人々の善意によって生かされ、今を生きているひとつの生命です。確かにドクさんは「戦争の負の象徴」ではあるが、善き人々による平和な未来を示唆する「正の象徴」でもあると私は思います。

ドクさんが生き生きと今を生きること自体が、自然と人類の生命力を確信させ、人々の善意の力を確信させ、ベトナムの山野に豊かな緑がよみがえる日、戦争も貧困もない「もうひとつの世界」が実現する日を確信させてくれるのです。

もうひとつのポイント。ドクさんの生は厳しいものです。部分的には、もうひとつの生によってあがなわれた生でもあります。その厳しい生を生きるため、成人に達したドクさんは、その生の意味を問わずにはいられないでしょう。

ドクさんが平和の実現のために自らの役割を担おうとすることは、ドクさんが「ひとりの人間」として生きようとする決意とおなじものです。だからこうして向かい合うだけで、そのことがとてもうれしく感じられるのです。

広島・長崎に原爆を落とし、ベトナムに枯葉剤を降り注ぎ、イラクに劣化ウランをばら撒いたアメリカは、いまもなお世界中で、人々に対する攻撃の手を緩めようとはしていません。そのアメリカのジェノサイド攻撃を受けながら、これまでを生き抜いてきたドクさんは、人々の平和への決意のひとつの「象徴」なのではないでしょうか。

 

 

2003年に発表された医学論文(原文は英文)の転載です。ドクちゃん関連の論文として再録しました。元原稿は私のHPです。http://www10.plala.or.jp/shosuzki/edit/ippnw/herbicides.htm

原著

いくつかの地域における先天障害と、ベトナム戦争時に米軍の散布した枯葉剤との関連について

Birth Deffects in Some Regions Were Sprayed Herbicides by US. Army in Wartime in Vietnam

グエン・ベト・ニャン(Nguyen Viet Nhan MD)

フエ医科大学、ベトナム


フエ医科大学の先生の書かれた研究論文です。札幌の「枯葉剤の会」から資料をいただきました。2003年発表のものです。原著は英文ですが、相当読みにくいものです。おそらく国内発表用の原稿で、ネイティブスピーカーのスーパーバイスを受けていないものと思われます。とりあえず訳しましたが、文章の細かいところで間違いがあるかもしれません。グエン・ベト・ニャンさんは、フエ医科大学のOffice of Genetic counselling and disabled children (OGCDC)の教授で、この教室はhttp://www.ogcdc.orgというホームページを持っています。このページには英語版もありますので一度ご覧ください。

 

1962年から1971年まで、米空軍はおよそ1900万ガロンの枯葉剤をベトナムに散布した。それらのうち、すくなくとも1100万ガロンがエージェント・オレンジであった。

ベトナムにおける枯葉剤作戦には、二つの軍事目的があった。それは、①草木を枯れさせて監視が行き届くようにすること、そして②敵の食料生産を破壊することである。

ダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin)は、通常TCDDあるいはダイオキシンと呼ばれる。それはさまざまな濃度で枯葉剤の中に混入している。エージェント・オレンジだけではなくピンク、パープル、グリーンにも数種類の化学物質が含まれており、動物実験では毒性を持つことが報告されている。

1994年から1998年にかけて、カナダのバンクーバーにあるハットフィールド・コンサルタント社とベトナム政府は、ハノイに「10-80共同研究委員会」を設置した。委員会はベトナムの環境中のダイオキシン濃度を確定するなどの研究に取り組んだ。

委員会は以下のような結論を得た。

①ダイオキシンに汚染された土壌が一ヶ所から発見された。そこはアルオイ(Aluoi)渓谷のア・ソー(A So)という部落の中だった。ここには以前米軍の小さな空軍基地と滑走路があったため、このダイオキシンはエージェント・オレンジに由来するものと推定された。

②エージェント・オレンジに関連したダイオキシン汚染が同じ地区で発見された。そこはアルオイ渓谷の元空軍基地の近くの養魚池で、草魚(Grass Carp)から微量のダイオキシンが検出された。その量は人間の最大許容摂取量に迫るものだった。そこがカナダその他の西側諸国であれば、摂取禁止となる可能性があるレベルである。

③空軍基地地域では、食物連鎖のパターンにエージェントオレンジが侵入していることが発見された。土壌、養魚池の沈降泥、養殖された魚、アヒル、そして人間である。(図1、とあるが、コピーが不良で意味不明)

これは、米軍が枯葉剤の散布をやめて30年たった後でも、ベトナムが未だにその影響を受けていることを意味する。だからこそ、戦争中に枯葉剤を浴びたこの地域で、次の世代として今を生きている人々に何が起きているか、我々は知りたいのである。
我々は後ろ向きコホート研究により、枯葉剤への暴露と先天障害発生との関連を調査した。調査対象地域は、中部ベトナムのクアントリ県カムロ(Camlo)で、戦時中に枯葉剤を浴びた両親とその子供たちを調査した。カムロはベトナムの中でも最も濃厚に枯葉剤を散布された地域として知られている。

対象地域としてフエ(Hue)を選んだ。ここも中部ベトナムの町であるが、戦時中に枯葉剤の散布は受けていない。

この研究において、曝露群はカムロ地区の0歳から14歳の子供すべてを対象とした。全体で19,83人である。そして非曝露群もフエの同年齢の子供すべてである。こちらは全体で74,753人である。

近代的医療技術の欠乏、弱体な保健システムなどにより精確な診断が制限されるため、我々はある種の先天障害のみをこの研究の対象とせざるを得なかった。

これらの先天障害は次の五つのクライテリアに基づいて選ばれた。①だれでも診断できる、②ありふれた障害である、③早期死亡をもたらさない、④後天的原因が否定できる、⑤“なんとか症候群”を含まない(ダウンは含む)。疾病分類はICD-10に基づいた。

 

結果と考察

表1






表2 家族内複数発生率の比較・検定

 

カムロ

フエ

p Value

Relative Risk

3人以上

7家族(0.08%)

2家族(0.006%)

0.00

14.48

2人

39 (0.46%)

18 (0.051%)

0.00

8.97

合計

46 (0.54%)

20 (0.06%)

0.00

9.52



まずいくつかの先天障害についてカムロとフエを比較・検討する(表1および2)。一人以上の先天障害児を持つ家族の数は、以下の疾患において有意の差がある。

①口蓋裂(みつくち)、②先天性白内障、③斜視、④そけいヘルニア(脱腸)、⑤陰嚢水腫、⑥血管腫(赤あざ、青あざ)、⑦内反足、⑧多指症。

また、一人以上の先天障害児を持つ家族の数においても、カムロとフエとのあいだには有意の差が認められた。人口に対する先天障害者の比率も、カムロにおいて有意に高かった。

これらの事実は、両親の枯葉剤被曝と、彼らの子供たちにおける先天障害の出現とのあいだに相関があることを示している。相対的危険度(Relative Risk)もまた、枯葉剤被曝とこれらの障害のあいだに正の相関があることを示唆している。

 

これらの問題を説明するのに、これまでいくつかの仮説が提唱されてきた。

①戦争において使用された枯葉剤は半減期の短いものであった。しかし、戦争のために用いた枯葉剤は本来の使用量をはるかに超えていた。このために枯葉剤は散布地域に暮らす人々に染色体の突然変異を引き起こすことが可能となった。この染色体の変異が胎児の成長に支障をきたし、先天障害を引き起こしたと考えられる。

しかし我々は枯葉剤のこのような効果について、まだ十分な基礎研究が行えていない。

②これらの枯葉剤はやがて自然環境のなかで効果を失ってしまった。しかしダイオキシンは未だに土壌中に存在している。そして食物連鎖を通じて人体に取り込まれ続けている。それらは脂肪組織に沈着し、精巣や卵巣に取り込まれるであろう。

ダイオキシンはこれらの臓器・組織から精液・精子・卵子に移行しうる。そして受精卵の発育に問題を生じ、先天障害となって帰結することもありうる。たしかに多くの実験結果では、ダイオキシンの生殖器に及ぼす影響はネガティブとされているが、果たしてそれは確かだろうか?

③以上の二つの仮説を踏まえて

もちろん、枯葉剤の被曝と先天障害の関連については、もっと多くのエビデンスが必要である。それなしにベトナム戦争のときに枯葉剤を浴びた両親と、その子供たちにおける先天障害の因果関係を云々することはできない。

最終的結論を得るためには、もっと多くの基礎研究、もっと多面的な分野の科学者の協力が必要である。しかしベトナムの障害児はその日まで待つことはできない。なぜ私が微力を尽くしてまで彼らの不幸を救おうとするか、その理由はここにある。

もうひとつの理由は米国内のベトナム戦争復員兵のことである。彼らがベトナムに滞在したのはわずかな期間に過ぎない。その間、彼らは良い食料を与えられていた。それにもかかわらず、いまや彼らもある種の病気にかかっている。

その原因が、戦時中に枯葉剤に暴露されたことにあるということは、米国国立科学アカデミーによって確認されている。それらの病気の中には、彼らの子供におけるある種の先天障害、脊椎二分症も含まれている。

ベトナム人はこの土地で、枯葉剤が振りまかれたこの土地で、これから長いあいだ住み続けていかなければならない。ベトナム人は受精卵が形成された瞬間から、この地で成長することを義務付けられている。彼らは汚染されたこの土壌から収穫された食料を食べ続けなければならない。

我々すべては人類の一員である。米国の復員兵に起きたことがベトナム人には起きないと、はたして言い切れるだろうか?

 

Global Researchの最近号に面白い記事が載った。10年以上も前、まだ生存中のフィデル・カストロとの対談だが、あえて掲載する。理由は読んでもらえば分かる。
元の文章が部分掲載で、尻切れトンボになっている。訳出分は掲載分の全訳に近いが完全訳ではない。今となっては流行遅れの部分(例えばチリの炭鉱の生き埋め→生還事件)、アンゴラ作戦、カストロの長広舌は刈り取った。当時の米・イラン関係については編注で組み込んだ。それでもかなり長いので覚悟してほしい。(訳 SS)

Global Research
June 03, 2023
原文発表はNovember 2010

主見出し
Global Research and Cuba Debate 19 November 2010
“In a Nuclear War the Collateral Damage would be the Life of All Humanity”
Fidel Castro

サイド見出し
Conversations with Fidel Castro. The Threat of Nuclear War is Real. "The imminence of a dangerous and probable war that could very rapidly evolve towards a nuclear war"


 カストロは言う。「核戦争が起これば、全人類の命が“巻き添え”になる。
いまそれは急速に現実化する可能性がある」


By Fidel Castro Ruz and Prof Michel Chossudovsky

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前編

以下が対話部分

01 通常戦争と核戦争

チョスドフスキー 
人類全体に影響する基本的な問題についてお話する機会をいただき、大変光栄に思っています。
まず最初の質問ですが、アピールで語られた言葉で、「核戦争のリスクが “ホモ・サピエンスに対する脅威” である」というのはどういうことでしょうか?

カストロ
数年前から、特にここ数カ月は、戦争の危険が間近に迫っているような気がします。しかもそれは、通常戦争から核戦争へと急速に発展する可能性があります。
世界の動きを見る場合、これまでは資本主義システム全般と、帝国主義の専制政治が人類に課している危険と困難の分析、いわゆる「帝国主義論」に力を注いできました。
いまや米国は資本主義の盟主であるだけではありません。人々と社会の最も基本的な権利の侵害者です。それは自分勝手な論理を好き放題、世界に押し付けています。

チョスドフスキー
冷戦時代、60年代以降はソ連とアメリカの間にMAD(相互確証破壊)と呼ばれる“紳士協定”が結ばれていました。核の不使用と平和共存の体制が継続していました。しかし核不拡散体制は冷戦終結とともに終わりました。冷戦後、特に2001年9月11日以降、アメリカの核ドクトリンは、自分に好都合なように書き換えられ始めました。これが「再定義」(定義変更)と呼ばれるものです。

カストロ
私は半年前のイラン危機発生いらい、核戦争の危険が差し迫っている感じるようになりました。 2010年6月9日、国連安保理はイランが行っている高度濃縮ウランの生産を非難し、決議1929号を採択しました。12カ国が賛成票を投じ、1カ国は棄権、2カ国(ブラジルとトルコ)は反対票を投じました。
決議採択の後イラン情勢は緊張度を増しました。戦闘部隊を組み込んだ米空母1隻と原子力潜水艦1隻が、エジプト政府の支援を受けてスエズ運河を通過しました。イスラエルからの海軍部隊も加わり、ペルシャ湾とイラン近海に向かいました。
米国とそのNATO同盟国が課した経済制裁は、乱暴で不当なものでした。軍事脅迫と経済制裁は政治状況をひどく複雑化させ、世界を戦争の瀬戸際に立たせました。

02 イラン制裁に反対しなかったロシア・中国

チョスドフスキー 
安保理決議のあと、ロシアと中国もイランに対する軍事協力を削減しまし。特にロシアは、防空のためのS-300システムを提供してきましたが、決議の数カ月後には軍事協力を凍結しました。イランの防空体制非常に深刻な状況に直面しています。ロシアや中国に対する脅しは、イランと戦争になったとしても一切介入するなという脅しです。アメリカやNATOにとって、これは中東での戦争を拡大する地固めなのです。これが昨今(2011年)の中東をめぐるシナリオだと思います。
ロシアや中国に向けられる脅威には、さまざまな種類があります。南シナ海、東シナ海、カシミール、台湾海峡など、中国の国境が軍事化されています。
欧米諸国はイランの防空システムを弱体化させ、その状況下で、イランとの戦争に道を開こうとしており、そのための合意を形成しつつあるのです。 

フィデル・カストロ
私の意見だが、ロシアと中国は拒否権を行使すべきだった。アメリカに妥協をしたために、状況がより複雑になっています。イランにS-300を供給するという契約が結ばれていたのにロシアは破棄してしまった。
中国にとって石油エネルギー確保は非常に重要なことです。なぜなら、中国は最も経済成長率の高い国だからです。経済が成長すれば、石油やガスの需要も大きくなります。
最悪のリスクは、イランで戦争が起きたら、その戦争はどういうふうに進展するかということです。本格戦争になったら、勝負は決着がつかず泥沼化するでしょう。イランは良く訓練され、強い戦意を持った何百万人もの戦闘員を持っています。 
中東の人々は欧米に対し強い憎しみを持っています。イスラム世界に対する戦争に勝とうなどと考えるは全くの狂気です。アフガニスタンの人々は、アメリカの無人機によって毎日殺されています。イラク人は、ブッシュがはじめた戦争が起きてから、100万から200万人の同胞が死ぬのを見てきました。中等の人々の怒りに勝てる武器はありません、核兵器を除いては…

フィデル・カストロ
通常戦争でアメリカが負けるのは確実です。何百万人もの人々を相手にした通常戦争には誰も勝てません。彼らは疾風のように現れて、疾風のように去っていきます。蝶のように舞い蜂のように刺します。彼らは、アメリカ人に殺されるために、自分たちの軍隊を一箇所に大量に集中させるようなマネはしません。
私はゲリラ戦士でした。当時は持てる戦力をどう使うかについていつも真剣に考えていました。戦力を一箇所に集中させるというミスは決してしませんでした。戦力が集中すればするほど、大量破壊兵器による犠牲者が増えるからです...。

ミシェル・チョスドフスキー 
あなたの指摘は最も重要なポイントです。中国とロシアの安保理での決定、すなわち決議1929の支持は、彼らにとって甚だしく有害です。
ロシアは兵器の輸出ができなくなり、その主な収入源が凍結されてしまいます。イランはロシアの兵器の大事な顧客であり、ハードカレンシーを獲得できる収入源です。イランからのドルがロシアの消費財経済を支え、国民のニーズを満たしていました。
中国も同じです。中国はエネルギー源へのアクセスを必要としています。国連安保理決議はイランに害を与えるだけでなく、実はそれ以上にロシアと中国に害を与えるのです。だからこれは非常に深刻です。
 
フィデル・カストロ
私は一般的な状況をこう見ています。通常戦争ならアメリカが負けるでしょう。かといって核戦争は誰にとっても代替案にはなりません。なぜなら、核戦争は必然的に世界的なものになるからです。
イランの現状にはとんでもない危険が内在します。戦争の道を突き進めば、それは結局、核戦争になってしまうからです。

ミシェル・チョスドフスキー 
つまり、アメリカとその同盟国は、通常戦争には勝てない。だから核兵器を使おうとしている。しかし、それも勝てない戦争である。そればかりか人類は「巻き添え」を食ってすべてを失う、ということですね。

フィデル・カストロ・ルーズ 
この戦争では、誰もが敗者になるでしょう。核が解き放たれたら、ロシアは何を得るだろう? 中国は何を得るのだろう?  どんな戦争になるのだろう? 世界はどう反応するだろうか? 世界経済にどう影響するのか?
しかしもっと深刻な影響があります。それは、核兵器を通常の戦術兵器に変えてしまおうとするペンタゴンの試みです。

03 核兵器が通常兵器に転用される?

今日のニュースでは、「広島と長崎の市民が、核兵器が通常兵器に転用されることに強い抗議を示している」と書いてありました。
読みます。「アメリカは臨界前核実験を行った」 続けます。「米国の核実験は広島と長崎を憤慨させている。彼らは“臨界前”というのは嘘だと言っている。長崎県の中村法道知事は、記者会見でこのように述べた。「オバマ大統領が核兵器廃絶のリーダーシップを発揮してくれることを期待していただけに、深く遺憾に思う」 
ワシントンは、「これらの実験が包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反しないと考えている。なぜなら核エネルギーを放出することはないからだ。それは核兵器の “安全性” を維持するために必要だ」
彼らのいう安全性というのは使う人の安全性であって、使われる=狙われる人の安全性とは全く関係ないのです。

チョスドフスキー  
イランに対する脅威の問題に戻りましょう。核兵器通常戦争に勝てなかった場合に、通常戦を補完するために使用される可能性があります。これは明らかに、イランというよりは人類に対する脅威です。
なぜ私が心配するか、冷戦後、「人間の顔をした核兵器」という考え方が生まれたからです。「核兵器は本当に危険なものではない、民間人に危害を加えるものではない」というもので、核兵器のレッテルが変更されました。今や彼らのクライテリアによれば、「戦術核兵器」は通常兵器と何ら変わりません。米軍の軍事マニュアルには、「戦術核兵器は民間人に害を与えない兵器である」と書かれています。
したがって、このような事態が発生する可能性があります。すなわち、「イランを核兵器で攻撃する作戦に従事する人たちは、それが人類全体に恐ろしい結果をもたらす危険性に気づいていない」という可能性です。
彼らはこう言います。「私たちの基準によれば、この戦術核兵器は民間人にとって安全な兵器であり、冷戦時代に配備されたメガトン級の巨大核兵器とは異なるものである」
そう言う人たちは、そう言うからには、ひょっとしてその言葉を信じているかも知れません。だから、世界の安全保障を脅かすことのない兵器として、イランに対して使用することができると考えているかも知れません。
それは極めて危険です。彼ら自身が自分たちのプロパガンダにハマってしまって、それを信じているのですから…。しかしそれは違います。それは軍隊の中、政治機構の中ででっちあげられた内部プロパガンダにすぎません。
2002年から2003年にかけて「戦術核兵器」カテゴリが再分類されました。そのときエドワード・ケネディ上院議員は強く警告しました。「それは正しくない。それは通常兵器と核兵器の境界を曖昧にする方法だ」
しかし10年後の今、それが現在の私たちのデフォールトです。いまや核兵器がカラシニコフと変わらないと考えられている時代なのです。大げさかも知れませんが、核兵器は今やペンチやのこぎりのように道具箱の中の道具の一つなのです。そこから使用する兵器の種類を選ぶのです。核兵器は通常戦争の舞台で使用される可能性があります、
核兵器が通常戦場で限りなく通常兵器に近い武器として使用され、それが地域核戦争シナリオ、さらには世界核戦争という想像を絶する事態に発展するかも知れないのです。

フィデル・カストロ
戦術核の威力は幅があります。広島型原爆の3分の1から、広島型の6倍の威力に及びます。しかし小型原爆の代表として広島型を考えることはおよそ非人間的です。それは一発の爆弾で10万人を即死させました。その6倍の威力、2倍の威力、同等の威力、30%の威力を持つ原爆…実にばかげた比較です。
作戦地域の軍隊にも使用できる人道的兵器として使おうという試みもあります。これも使用基準の容易化を考えれば、恐ろしいほど非人道的な兵器となります。使用指示する者にとっても、指示を受けてボタンを押す人間にとっても、それは当然のようにこなすべき日常業務となるのです。

チョスドフスキー  
私は将来的にも、核兵器が中央集権的な司令機構(戦略司令部など)の承認なしに現場で使用されるようになるとは考えていません。しかし、アメリカ大統領や最高司令官の承認、例えば冷戦時代のRed Telephone といった手続きなしに使用するようになる可能性は存在すると思います。 

フィデル・カストロ
ペンタゴンとアメリカ大統領との間には歴史的に対立がある。そのことを考えると、ペンタゴンがどう判断するかについては、ほとんど疑問の余地はありません。

04 通常兵器とは次元の違う核の被害

チョスドフスキー 
もう1つの要素があります。 私が知る限り、戦術核兵器の配備は、NATOに加盟しているヨーロッパのいくつかの国によって行われています。 ベルギー、オランダ、トルコ、イタリア、ドイツがそうです。 このように、「小さな核爆弾」はたくさんあります。
その際忘れてならないのがイスラエルです。イスラエルが単独で戦争を始めるかというと、それは戦略的にも意思決定的にも無理があります。通信も兵站も何もかもが一元化された現代戦では、大規模な戦争の開始は一元的に決定されるでしょう。しかし、米国がイスラエルに先制攻撃の許可を出せば、イスラエルは行動するかもしれない。
イスラエルとイランとの戦争は、レバノンやシリアの国境地帯で通常の小競り合いから始まるという筋書きを描くアナリストもいますが、それは論理的可能性のレベルです。しかしその小競り合いが軍事作戦をエスカレートさせる口実となる可能性はあります。

フィデル・カストロ
昨日10月13日、レバノンでは大勢の人々がアフマディネジャド(当時のイラン大統領)をみずからの国民的英雄のように歓迎しました。実はレバノン人もイラン人同様に敢闘精神を持っています。そのことを考えるとイスラエルの懸念も理解できます。
レバノンには、第2次中東戦争の頃の3倍の迎撃ミサイルがあります。この兵器に対抗するためには攻撃ミサイルだけでは不足で、空軍による爆撃が必要です。そのため、イスラエルがイラン攻撃に専念できるのは最初の3日間ではなく、最初の数時間だけです。これはイスラエルに加わった新たな不安です。
ほかにも懸念材料があります。レバノンの保有する兵器は、闇市場で買ったカラシニコフではなく、性能の安定した、修復可能なイランの制式兵器の一部です。
ほかにもイランの通常兵器の中には、カスピ海で他国の水上戦艦と戦うための何百というロケットランチャーがあります。軍関係者はフォークランド紛争の経験から、水上艦艇は1発、2発、3発のロケット弾をかわすことができると知っています。しかし、大型の軍艦が雨あられと降り注ぐロケット弾から身を守ることができるでしょうか。
核兵器が登場する前の先の大戦で何が起こったか。通常兵器の破壊力だけで5千万人が死亡しました。それどころか19世紀に行われた戦争でさえ、すでに非常に破壊的なものでした。しかし今日の戦争は既にそれとは次元の違うものです。
核兵器が使用されたのは、トルーマンが使いたかったからです。トルーマンは、ウランから臨界量を生み出す広島原爆と、プルトニウムから臨界量を生み出す長崎原爆の両方を使ってみたかったのです。この2つの原爆で約10万人が即死しました。そのあとさらにどれだけの人が傷つき、放射線の影響を受け、後遺症で死んだり、その二次的影響にどれだけ長い間苦しんだりしたか、はかり知れません。
大規模な核戦争が来れば、もう一つの核の被害がもたらされます。それは核の冬をもたらすでしょう。
私は、戦争が起こった場合の危険性について、それがもたらすかもしれない直接的な被害について話しているのです。
 限られた数の核兵器さえあれば十分です。インドやパキスタンといった、最も力のない核保有国のひとつが保有する程度の量で十分なのです。その爆発は、人類が生き残ることのできない核の冬を作り出すのに十分なものです。核の冬は8年から10年続くので、生存は不可能でしょう。 数週間もすれば、太陽の光も見えなくなってしまうでしょう。



こんな文章を書いたことすら忘れていたが、読者の方が忘却の彼方から救い出してくれた。有り難いことである。おそらくウクライナ戦争への思いと共鳴するものがあったのでは無かろうか。
第一次碑文論争
「もう過ちは繰り返しませぬから」の碑文に対する批判と再批判。そしてそれを「一億総懺悔」の思想の延長線上には置かなかった広島市民。そこには未来志向と、密かな加害者意識と、主体者であり続ける決意が含意されている。
ひとびとの深い悲しみと静かな決意と叡智に、あらためて胸打たれる思いである。外形的な論争に終わるのではなく、広島と思いをともにすることがだいじであろう。
ireihi

大脳の構造と機能を探求するため、パソコンの基礎勉強を始めた。
またも悪い癖で、1+1が2になる理由が、すなわち犬1と猫1を2とするための条件(例えば我が家のペットであるとか、死刑囚を名前でなく番号で呼ぶとか…)が気になり始めた。
それは数学的な疑問ではなく、言葉上の疑問である。まずは思いつくままに書き連ねていくことにする。

1.補助記憶装置という言い方は不正確だ

パソコンが作動するのはプログラムあってのことである。プログラムがなければただの回路の集まりに過ぎない。ところがプログラム=OSが載っているのは補助記憶装置だ。だとすれは補助記憶装置が中枢であり、CPUはロボットに過ぎない。
工場(情報生産)で言えば、CPUは工作機械であり、機械が動くためには電気と動力が必要だ。それで駆動された工作機械は、決められたプログラムに基づいて元情報を加工・結合し新たな情報を生産する。その意味ではOSが乗ったメイン・メモリ、さらにOSが保存された補助記憶装置、丸めて言えば工作機械の制御盤こそが中枢だ、と言えないこともない。
とはいえ、これはちょっとした言い換え、はぐらかしに過ぎないのであり、電源が入ってまずBIOSが発動して補助記憶装置にOSを読みに行く。そしてOSを使って機械を立ち上げるのだからやはりCPUが偉いとも言える。
といってもBIOSも一種のプログラムなのだから…と話を進めて、ちょっと待てよ、BIOSはどこにあるんだと言うことになる。たしか昔、NEC98の頃、どうにもならなくなってDOS画面からBIOSを立ち上げた事があったよな…
最後は「神の手」が登場する。結局人間が電源スイッチを押すことがすべての始まりなのだ。こうなると議論は全てストップしてしまう。この悪無限的二元論と天地創造神話への収斂は、パソコン内での「中央」とか「補助」とかの争いが無意味なことを意味する。
これ以上の議論はムダだ。「パソコンの本質は記憶(装置)と演算(装置)の結合にあるのだ」、と理解しておけばよい。この結論は脳の働きを考えるときにも、そっくりそのまま通用すると思う。

2.補助記憶装置という言い方は不正確だ その2

補助記憶装置には多くの種類があるが、中でも主たる補助記憶装置として内蔵ハードディスクが挙げられてきた。それはいいのだが、今なおカッコなしにハードディスクが「主たる補助記憶装置」として挙げられるのは困る。現に私のパソコンはSSDだ。これからますますそうだるだろう。だから主たる補助記憶装置をその性格にふさわしく呼ぶことが必要だ。
その際、①パソコンに内蔵された、②しかしマザーボードとは離れた、③パソコンの主要OSを搭載したメモリであることを明確にするべきだ。誰か上手いネーミングを考えてほしい。ここでは暫定的に「内蔵SSD/HD」と表現しておく。

*SSD(ソリッドステート・ドライブ)の名称

本体はフラッシュ・メモリ(半導体メモリ)である。つまり、スティック状のUSBメモリ、板状のSDメモリと同じ組成である。これにメインメモリと情報をやり取りするための回路を入れたチップが合梱されている。フラッシュメモリの名称は元々開発に当たった東芝がつけた商品名である。データの消去がフラッシュカメラの閃光のようにパッとできるというのが売りだった。
USB_flash_drive
今では普通に1テラの外付けSSDが売られている。ただ両者は使い分けの時代が当分続くだろうと思う。SSDは読み出しはやたら早いが、書き込みは早くない。とくに大量データの処理は場所探しに時間がかかるようだ。それに信頼性はかなり低い。定期的なHDへのバックアップが必要だろう。

*ハードディスクの未来は暗くない

その点、ハードディスクは大容量、低コストで安定性にもすぐれていて捨てがたい。動画・音楽とくにパソコン再生に比重を置く際には必須のアイテムだと思う。例えば将来、AIの活用によって書籍のデジタル化が容易になれば、100テラもあれば大抵の公立図書館の蔵書は収まってしまうのではないか。

3.メイン・メモリにメモリの名を独占させるのはやめるべきだ

一度記憶装置の体系を整理した上で、それぞれの役割や位置づけにふさわしく再命名すべきだと思う。そのさい「メイン」とか「中央」というふうな差別的な名称は排除すべきだと思う。その何ふさわしいとは思えない。むしろ「作業用メモリ」と呼ぶのがふさわしいように思える。
CPU(と言いつつ使ってしまうのだが…)に近い順から言うとレジスタ、フラッシュメモリ(SRAM)、メインメモリ(DRAM) 、補助記憶装置(内部SSD/HD)というラインアップが形成されている。この中で記憶容量が圧倒的に多く、保存性もある補助記憶装置が“メイン”の名にふさわしいのではないかと、私は思う。
人間の脳で言えば大脳皮質が相当することになるが、パソコンで言えば補助記憶装置で、海馬/線条体がメインメモリになる(私の作業用メモリは最近とみに揮発性が高まり、首を振るだけで記憶が飛んでいく)。

4.CPU(中央処理装置


かつてはまさに演算装置であり、大きな部屋にドカンと鎮座するユニットであったが、現在は半導体チップがカードの上に集積され、それ自体が消しゴム大のチップのように圧縮されている(マイクロプロセッサー)。もはやユニットの名は不適当だ。しかし機能としては変わらず、基幹情報(会社で言えば総務機能)の集中する中枢である。
人間で言えば前脳・中脳・後脳に当たり、前脳(視床)で諸感覚・諸知覚が第一次統合される。かんたんなものはそこから直接、反射的に錐体路系に戻されるが、ほとんど(とくに言語化に関わる知覚)は大脳に回され二次処理が行われる。

5.パソコンの進化に伴う各パーツのバランスの変化

人間の脳と比べ圧倒的な差があるのが言語活動分野だ。とくに大脳の前半分は基本的に言語で動いている。パソコンの言語的基礎は二進法オンオフの信号だ。これを「機械言語」と呼ぶこともできるが、対話型でない「言語」は本質的に言語ではない。人と人が対話する際の補助的役割を演じるに過ぎず、自律性を持つわけではない。
パソコンが二進法にとどまり、言語を持たない以上、パソコンは「能動的に考える」ことは出来ない。知能を持ち考えているように見えても、それは擬似的な活動に過ぎない。
これが今後どうなっていくか、パソコンは言語を獲得するのか、能動性と対話能力を獲得するのか、AI技術がそこに踏み込んでいくかどうかは、もはや私の知るところではない。
ひそかに夢想するのであるが、もしパソコンがそのような潜在能力を獲得し、その方向に向かって歩み始めたら、パソコンは我が身に絶望し、自らを取り巻く環境の冷酷さに耐えきれず、「自殺」するのではあるまいか。



古川アシノカル: 新冠アイヌの強制移住の足がかりとして

■明治・大正期の新冠は国営牧場の発展とアイヌ先住民の追放がウラオモテの関係になっている。その激動する社会のなかでコマのように回りやがて沈んでいった象徴的人物がいる。アイヌ人で豪農豪商、一大を限りに没落していった古川アシノカルである。
これはネットで集めた情報(主として新冠町史)を時系列で並べ、重複を整理しただけの学習ノートであるが、同種の文献は目にする機会が少ないと思われ、情報提供のつもりで供覧する。

■話の舞台は新冠の二つの字である。一つは滑若である。新冠郡の北東部で、新冠川の上流域にあたる最奥部。明治の初めこの地に住居していたアイヌは、10戸49人、8戸37人の2集団の18戸であった。現在は滑若(ナムワッカ)の地名は用いられず、新冠町若園と称される。(『新冠町史』(1966)より「若園郷土小史」)
日本歴史地名大系 「滑若村」の解説で、明治初年から大正12(1923)までの村。万揃(まんそろえ)村・去童(さるわらんべ)村の北に位置する。あたり、山岳・丘陵地が多く、平地に乏しい郡内で最も遼遠の地である。「東蝦夷地場所大概書」によると、マクマフ村(近代に入り万揃村に含まれた)から新冠川沿いに一里上ったところに「カツクム村 夷人家 四軒」があり、「カツクム村」のさらに一里一八町上流に「シユネナイ村 夷人家 八軒」があった。

もう一つは新冠本町から少し上流に入った姉去(あねさる)という地区である。詳らかではないが、明治25年ころ、滑若のアイヌ住民が新冠牧場の拡張に伴い強制退去となった。彼らに新たに与えられた給与地が姉去であった。そして日清、日露の戦争を経て日本軍の装備が急速に強化される時期に、二度目の新冠牧場の拡張があり、姉去の住民はふたたび退去をもとめられることになった。新たに与えられた土地はいく山を越えた沙流川の支流の山林であった。入植後程なく開拓は失敗し、住民は四散したと伝えられている。現在は姉去という地名はなく、大富に学校後の碑がある
とりあえずはこの2つの地名を念頭に置いてほしい。

アイヌ強制移住前の新冠

1858(安政5年)に松浦武四郎が新冠を訪れている。新冠付近に人家、畑有りと記録されている。武四郎はイカムシ家で船を借りて上流に遡る。途中ナムワッカ(滑若)の畑には稗、粟、蕎麦などが作られていたとある。

明治5年(1872) 開拓使長官黒田清隆は、静内,新冠,沙流3郡にわたる約七万町歩(7万ha・7百平方km)の土地を「新冠牧馬場」として開設することに決定した。付近に生息していた野生の馬2,262頭を集め、軍馬や農耕馬として飼育し始めた。以後昭和22年までの長きにわたり、新冠は延々と牧柵が設置され、数多くの馬を生産・飼育することとなった。

この年の新冠郡(ほぼ現在の新冠町)のアイヌ人は、117戸535人との記録あり。その後農場内で農業に従事したり牧夫として生活するようになった。

明治6年(1873) 新冠牧場、去童(さるわらんべ)に厩舎・監守舎を設置。去童は現朝日地区(姉去付近)。原文にはトキット(去童)と記載されているが、トキットの地名はネット上では見当たらない。

明治7(1874) 黒田の依頼を受けたケブロンが新冠を訪れ、視察。

明治10年、御雇外国人のエドウィン・ダンの設計に基づき本格的な整備が行われ、日高牧馬場となる。牧場内のアイヌの土地は国有地とされ、自由売買は禁止される。これに伴い滑若村のアイヌ10数戸が姉去村及び・万揃村に移住となる。(姉去=去童とすれば符節は合う)

牧場の事務所は静内の美園に設置。新冠川下流の朝日(去童)と高江地区が開放され、開拓者が入植する。高江は新冠市街地。

1882年(明治15年)農商務省の直轄となり、約66平方キロに敷地拡大する「新牧場」が計画された。
牧場全図
山本書より転載。新冠川を挟んで左半分が旧牧場、右半分が新牧場となる。大変見ずらいが新冠川の上流滑若地区が民有牧場の区画となっており、ここがアイヌの保留地→アシノカルの縄張りとなったと考えられる。

明治17年 宮内省に所管が移り、新冠牧馬場と改称。以後、改称のたびに拡張を繰り返した。軍馬の改良、増殖を主要業務とするようになる。

1885年(明治18年)「旧土人救済方法」が策定される。日高地方で「132戸」のアイヌ民族を強制移住・農業強制を計画。
『北海道殖民状況報文_日高国』に記された強制移住計画は以下の通り。①大狩部村ポロセプにから数戸のアイヌ民族を高江のポンセプに強制移住 ②比宇から葉朽と元神部に4戸ずつを強制移住 ③転居先で河岸の給与地を「貸与」し、農業を強制した。(ただし氷山の一角)

明治19年、古川アシノカルという人が滑若に移住する。もと下々方(静内)に店舗を持ち、海産、米穀などの商をしていた。その後新冠郡随一の責産家、アイヌの酋長として名を馳せる。
asinokaru夫妻
             古川アシノカル夫妻

明治20年アシノカル、滑若に牧場を創立する。
■「新冠郡随一の責産家」がなぜこのような僻地に入ったか、それは新冠牧場の創立と関係しているとしか考えられない。当面は牧場建設工事絡みではないか、近辺のアイヌ住民を姉去に移転させたのは、立地条件から見て必ずしも非人道的な強制移住だったとは限らない。

明治21 新冠牧場が宮内庁に移管され、「新冠御料牧場」となる。姉去(現大富)を拠点とし、アイヌに貸与して牧場の仕事に従事させる。この頃アシノカルは姉去に転居し、妻に商店を経営させていた。

明治27年、日清戦争がはじまると、新冠牧場の馬が戦地へ送られた。

明治28年 滑若から萬揃と姉去へ十数戸ほどの強制移住があった。このときアシノカルもともに姉去に移住したかも知れない。その結果、萬揃は元々小集落だったところに移入者を加え、23戸92人にふくれあがった。このため移入者の一部はさらに姉去へ再移動。

明治29年 アシノカル、私費をもって姉去に土人学校「古川教育所」を設置。静内出身で師範学校を出た高月桐松を招いて、授業を開始した。間もなく高月が退職し、30年5月以降は休業した

姉去地図

姉去
旧姉去(現朝日町)地図
小学校の手前を右折して新冠川に掛かる橋が姉去(あねさり)橋。それを渡って右にカーブした一帯が大橋となる。おそらくこのあたりが旧姉去集落と思われる。

明治30年 姉去コタンは再移入者を含め36戸で119人に膨れ上がる。移入者は御料牧場の貸付地を耕して生計を行っていたと言う。アシノカルは牧場の雇員となっていたと思われる。

明治30年の調によれば、アシノカリの、30年頃その地籍は34万0000坪、馬は洋種1、雑種159頭、和種250頭を飼育し、日高にも有数な巨然たる牧場王国を営んでいた。

明治34年(1901)閑院宮が視察に訪れる。アイヌエカシ(長老)が「この地方は我ら祖先の開墾せしものなるをお取上げとなり、為に我らは今日難渋を極めいるを以って、何とぞ返還あらんことを請う」と懇願する。結局この件は「当該エカシの失言」として処理された。長老は他地域に強制移住させられた。

明治35年 廃校となった「古川教育所」に代わり、姉去土人学校の設立が認可される。北海道庁が古川教育所の寄贈を受けて創立。アシノカルは土人学校の創立にも尽力した。

姉去土人学校

明治36年頃、「明治時代の新冠の洋種馬」によれば、泉のアシノカリはロシヤ産オーローフ、ロフトフチンを、高江の堤英一、武田延蔵等も濠洲の払下馬を所持していた。

1903(明治36) 新牧場(静内側)を本場、旧牧場(新冠側)を分場と改称。新冠郡の人口は1042人と報告される。静内村の人口は5330人と報告(明治44年)

おそらく明治30年代の後半 アシノカルは滑若に戻り居を柵えた。セブ沢より笹山に至る直線を基準として、その北部一帯700町歩を領有した。アシノカル一代限りの無償貸与によるものであった。おそらく明治34年のエカシ直訴事件を受けて、「お味方アイヌ」のアシノカルに滑若コタンの「後見人」の地位を与えたのではないかと思われる。

新冠牧場の拡張と姉去アイヌの強制立ち退き

明治40年ころ、軍馬育成の要請に応え、新冠牧場が拡張さる。アシノカルの所有地は牧場経営上障害となるため、その多くが没収される。
没収に当たっては、宮内省主馬頭の藤波男爵が古川邸に来宿し説得。この結果700町歩のうち500町歩を減じられた。さらに残り200町歩も、所謂原始林で良材多く、その他の造材部が伐木をたくましくするに及んで、再び批判の対象となり、平地97町歩を含む100町歩に再減された。

アシノカリはこの広大の地に、私洋両種の馬と豚などの天然放牧をなし、アイヌ男女を雇用した。

当時の黒岩場長の信任も厚く、この時代特に全盛を極めた。かうして古川酋長は牧場に行啓される皇族方にも直々に拝謁を賜った。邸宅も立派で畳8の2室の離れを建築し、宮内省主馬頭藤波言忠、渋谷中将外役人方の宿泊することも度々であった。また度々上京して花魁を連れて帰郷するという豪盛振りであった。

asinokaru集合写真
   明治時代の御料牧場職員の集合写真 右端が古川アシノカル

明治40年 浅川義一が御料牧場姉去貸地管理人として姉去コタンに入地。

明治41年 静内町二十間道路に貴賓客舎(現龍雲閣)が新築される。韓国皇太子、伊藤博文、皇太子(3年後に大正天皇として即位)が相次いで牧場視察。これに対応するため雇用規則が改正され多数を雇入れ。

明治42年頃、滑若村のアシノカル個人が経営する牧場は、総面積254町3歩。内牧場250町5畝9歩、開墾地3町9反歩をもつ大牧場で馬23頭を所有し、毎年馬20頭の生産をあげた。(明治40年の記載とはかなり異なるが、大地主であることには違いない)
アシノカルは馬だけではなく、養豚事業にも進出していた。「滑若のアシノカリ所有の牧場に豚80頭が放牧され、毎年20頭が食肉用に出荷された。脚高豚として札幌附近で珍重された」と記載されている。

明治43年にアシノカリは豪州産サラブレッド、8頭を飼育していた。
つまり、古川アシノカルはサラブレッドで名高い日高の競走馬生産の開祖の一人ということができます。
 
大正3年頃、ナメワッカのアシノカリの豚牧場では年間7000円から1万円位の収入をあげた。これは莫大な収入であった。
豚は放牧してあるので、広大な牧場を自由に運動し、豊當な木の実も彼等の食料となった。舎飼と違って味は最高「日高豚」と称されて、札幌に出荷し、新冠の名声をあげた。汽車も自動車もない時代だけに、輸送だけでも用意でなかった事が想像される(泉沢雅雄談)
注目すべきはこの記録が大正3年頃のことで、古川アシノカルの権勢はこの時代になっても続いていた、明治時代を通して和人とよい関係を維持していたということです。
古川アシノカルは、米作にも貢献しています。「明治から大正にかけて、アシノカリは泉の高岡の沢にかけて水車を設け、うすを16もならべて精米した」と記載されています。恐らくは日高地方の稲作振興にも多大な貢献のあったことがわかります。

姉去のアイヌが平取町の山中に強制移住

1915年(大正4)年 姉去コタン74戸のアイヌが強制立ち退きを迫られる。平取町上貫気別に強制移住になった。

この決定はあまりにも唐突であまりにも道理がなくあまりにもずさんだ。多分現地の事情に疎い道外の官庁筋から出てきた指示ではないかと思われる。紙議員らも、ことの是非よりもまず事実関係を明らかにしたいという態度で臨んでいるようだ。

ここでは榎森進『アイヌ民族の歴史』より引用。
新冠御料牧場が宮内大臣管轄になり、宮内省主馬寮頭の藤波言忠が同牧場を視察した際、姉去村を御料牧場直営の飼料用地と決定した。姉去村のアイヌ全員【70戸、300名】を沙流郡貫気別村上ヌキベツ(現沙流郡平取町字旭)の和人移住給与地だった地に強制移住させた。当時は雑木林に覆われた山中で、耕作可能な地は僅かであった。その為、実際入植した20戸近くのアイヌのうち、耕作地の開墾が成功したのは15戸前後だった。

現地訪問のレポートによると、旧入植者墓地の敷地内に慰霊碑があるそうですが、私は見ていません。「道道71号線沿いで平取町旭地区の旧墓地付近は無人の山林になっており案内板などもありません」とのことです。
https://www.kitakaido.com/isibumi/jyonnan-14.html

碑文
明治大正の馬耕時代及び軍用場生産のため新冠牧場は拡大され御料牧場へと変遷したが大正4(1915)年、姉去コタンを追われ上貫気別に強制移住になった人々の悲しさは凄絶なものがあった。
この郷土の開拓に心血を注ぎ鍬を下ろした先覚者の事績を後世に伝え、諸霊に参列者のみな様と共に鎮魂の誠を捧げます。
平成2年8月 平取町町長 宮田泰郎

昭和8年に上貫気別で移住者の子として生まれた芦澤弘氏が、ウタリ協会の活動家としてアイヌの伝統を伝えていたという。

その後のアシノカル: 収支のアンバランスは年々に嵩って来た上、養子が散財型で勘当され、長男は古川橋附近で溺死し、次男たか造は1女を残して天折。
そして大正14年、アシノカルは72才で死亡。名望を馳せた一家だったが、アシノカルの死後は1代限りの淀によって衰亡していった。
 

付録

■最後までアイヌの誇りとともに
古川アシノカルはすすんで和人と同化した結果としてこれらの栄華を得たと考えてみようと思いましたが、95ページの次の記述は、古川が亡くなるまでアイヌ民族としての誇りを持っていたことを伺わせます。
熊の頭骨: アイヌの祭った神々は沢山あり、地方によっても違っていた。祭壇には二種あり、部落共同の祭りと個人毎の祭壇は別のものとされた。各戸の祭壇は家の東の方3m位の所中央に高い祭壇を作り、ここには最も大切な山の神である熊の頭を中心に、沖の神、部落の守護神、山の獲物の神、流行病の神、水の神などさまざまな神を祭った。
新冠でも明治、大正に渡って豪華を極めたアシノカリは泉に熊や鹿の頭骨を常に数10個、ヤチャカンバの木に掲げて人目を引いた。木はやがて朽ちて地上に頭骨は落ちるが、また新しい木を刺して頭骨をのせる。アシノカリは大正年代に72歳で亡くなったが、頭骨もその後長い間そのままになっていたが、昭和24~5年頃にこれを方つけたとき、地上に積もった骨は馬車で2~30台にもなったという。
この話が興味深いのは、古川アシノカルが亡くなるまでアイヌの伝統を保ち続けていたという事実の他に、戦後の昭和24〜5年まで古川の存在が地域でリスペクトされ、祭壇が守られていたということ、そして発見された膨大な動物の頭骨の量です。
古川アシノカルのことは、たまたま『新冠町史』めくっていたときに目に入ったもので、まったく知りませんでした。試みに榎森進『アイヌ民族の歴史』(2007・送風館)などのアイヌ史関係の書物を見ましたが、まったく紹介されていません。2016年に出た平山裕人『アイヌ地域史資料集』(2016・明石書店)でも触れられていません。研究者は当然知っているはずです。なぜ私たちに知らせようとしないのでしょうか?
明治政府の北海道開拓でアイヌ民族は困窮したことばかりが強調されますが、明治後半から大正にかけての北海道に、古川アシノカルのようにアイヌ民族としてのアイデンティティを保ったまま和人以上の栄華を極めた人物がいたことは、もっと知らされて良いはずです。
古川アシノカルを見ると、これまで私たちが教えられてきたアイヌ民族と和人との歴史は違った見方ができるように思えてきました。北海道開拓史を振り返るうえで、大変興味深い人物なので、今後調査を進め、調べたことを折に触れてご報告します。


■御料牧場の解放と戦後開拓
第二次大戦後、牧場の解放を訴える声が上がった。小作人の人や牧場職員が中心となり、「帰農期成同盟」を組織して解放運動が起こった。かつて牧場経営のためにコタンを追われたアイヌの人たちも運動に加わり、大きな力となった。
昭和21年 静内において全道アイヌ大会が開催される、北海道アイヌ協会の設立を宣言。宮内省などに対し御料牧場の開放を求める。
昭和22年、御料牧場は全面的に解放となり、緊急開拓地として樺太や満州からの引揚者をはじめ、多くの方が入植することとなった。アイヌ人が大富、万世、明和地区などの旧居留地に入植する。

■22年9月 赤旗記事
新冠牧場を訪れた日本共産党の紙智子参院議員と畠山和也元衆院議員が場長と面接。場長は関係書類の国立公文書館への移管を約束した。
滑若村のアイヌは72年、牧場造成に伴い、姉去村と万揃村に強制移住させられ、さらに1916年、姉去村から数十キロ離れた未開墾の上貫気別(かみぬきべつ、現平取町)に2度目の強制移住を強いられました(東北学院大学・榎森進名誉教授『アイヌ民族の歴史』)。
紙氏は「先住民族・アイヌの強制移住や御料牧場の解放運動の歴史文書が適正保管される道が付いた」と評価し、「移管にあたり歴史研究者の協力を得ることや、アイヌ当事者の声を聞くように」と求めました。

2023年5月にはこの調査に基づいて紙参院議員の委員会質問が行われている。You Tubeで質問が視聴できる。「新冠で2度の強制移住」アイヌ迫害 歴史伝えよ
紙氏は「御料牧場の開墾のために強制労働で酷使されたあげく、牧場ができると土地を奪われ逆らうものは家を焼くと脅された。病気になると座して死を待つほかなかった」との証言を紹介し、新冠町史では御料牧場から姉去、さらには上貫別へとアイヌは2度も強制移住を強いられたと指摘。内閣官房の田村公一アイヌ総合政策室次長は「強制移住は承知している。厳粛に受け止める」と答えました。(赤旗2023年5月25日(木)

■ 参考ネット資料
十勝の活性化を考える会「アイヌの強制移住」
https://blog.goo.ne.jp/tokatinokasseikawokangaerukai/e/91132f2a39320a7eaeae1e394bb41565

■ アイヌ遺骨問題に関する関係者インタビュー 木村二三夫氏
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/84785/1/CoSTEP_Report05-02_Narita.pdf

■ 参考図書
山本 融定 「新冠御料牧場史」(みやま書房 1985)


May 5, 2023
jeffsachs.org

お金は世界を回る、そして世界は進歩する
Money Makes the World Go Round – And Development Succeed


By J.D.サックス


経済発展のための4つの投資

経済発展と貧困の解消の鍵は投資です。 国家は4つの優先事項に投資することで、繁栄を実現します。 
最も重要なのは、質の高い教育や医療など、人への投資です。 
次に、電気、安全な水、デジタルネットワーク、公共交通機関などのインフラです。 
3つ目は、自然を守る「自然資本」です。 
そして4つ目は、企業への投資です。 
これらすべてに重要なのはファイナンスです。必要かつ十分な規模とスピードで投資すること、そのための資金を動員することです。

投資の対象となる世界は一つ、原則はWin-Winだ

原則的に、世界は相互に繋がったシステムとして運営されるべきです。
教育、医療、インフラ、ビジネス資本が充実している富裕層は、人的、インフラ的、自然的、ビジネス資本の整備が急務である貧困層に十分な資金を供給する必要があります。お金は豊かな国から貧しい国へ流れるべきです。 
新興国が豊かになれば、その利益や利子は、やがて投資のリターンとして豊かな国々に還流していきます。 

これは、Win-Winの提案です。 豊かな国も貧しい国も利益を得ます。
貧しい国は豊かになり、豊かな国は自国の経済に投資するよりも(コストが低い分)高い利益率を得ることができます。

なのに、不思議なことに、国際金融はそうはしません。 豊かな国は、主に豊かな経済圏に投資します。 貧しい国々は、貧困から脱却するのに十分ではない、ほんの少しの資金を得るだけです。

世界の最も貧しい半分(低所得国と低中所得国)は、現在、年間約10兆ドルの資金を生産しています、
 一方、世界の最も豊かな半分(高所得国と高中所得国)は、約90兆ドルの資金を生産しています。
豊かな半分から貧しい半分への融資は、おそらく年間2~3兆円になるはずです。しかし実際には、その数分の一に過ぎないのです。

投資の偏りはなぜ生まれるのか…カントリーリスク

問題は、貧しい国への投資はリスクが高すぎると思われていることです。 短期的に見れば、たしかにそうです。 
例えば、ある低所得国の政府が、公教育資金を調達するために借金をしようと考えたとします。教育への投資は経済的リターンは非常に大きいのですが、その回収には20〜30年かかります。
現代の子どもたちは12~16年の学校教育を経て、ようやく労働市場に参入するからです。 
しかし、現在の融資期間は平均5年くらいで、しかも自国通貨建てではなく米ドル建てであることが多いのです。

ある国が今日20億ドルを借り入れ、5年後に返済するとします。 
5年後、政府がその20億ドルをさらに5年ローンで借り換えることができれば、それでいいのです。 5年ごとに5回借り換えることで、借金の返済は30年遅らせることが出来ます。
その頃には、経済が十分に成長し、新たな融資を受けなくても借金を返済できるようになっているはずです。 

しかし、その途中のある時点で、国は債務の借り換えが困難になる可能性があります。しかもかなり高い確率で。 

パンデミック、ウォール街の銀行危機、選挙の結果をめぐる紛争などが投資家を脅かし、還流を促すかもしれません。 その結果、20億ドルの借り換えをしようとしても、金融市場から締め出されることになるかも知れません。 
手元に十分な資金がなく、新たな融資も受けられないまま、債務不履行となり、最後はIMFの緊急治療室に収容されることになるかも知れません。

何故貧しい国がリスクを負わなければならないのか?

多くの救急病院がそうであるように、その後に起こることは、見ていて楽しいものではありません。 
政府は公共支出を削減し、社会緊張を高め、外国債権者との交渉が長期化することになります。こうしてこの国は深刻な財政・経済・社会危機に陥ってしまうのです。 

それを事前に知っているムーディーズなどの信用格付け会社は、その国に "投資適格 "以下の低いスコアをつけることになります。その結果、貧しい国々は長期的な借り入れができなくなります。 
政府は長期的な投資をする必要があるのに、短期的な融資しか受けられない。その結果、政府は短期的な思考と投資に追い込まれます。   

また、貧しい国々は非常に高い金利を支払っています。
米国政府は国債を発行するのに30年の借入で年4%以下の金利を支払います。これに対し、貧しい国の政府は5年の借入しか出来ず金利も10%以上支払うことが多いのです。 

IMFは、貧しい国の政府に対して、あまり借りないようにとアドバイスしています。 
つまり、IMFは、将来の債務危機を避けるためには、教育(や電気、安全な水、舗装された道路)を見送ったほうがいい、と政府にアドバイスしているのです。 
これは悲劇的なアドバイスです! それは、貧困から脱出するのではなく、貧困の罠にはまることを意味します。 

状況は耐え難いものとなっている 

世界の貧しい半分は、豊かな半分から言われています。
エネルギーの脱炭素化、国民皆保険、教育、デジタル化社会の実現、熱帯雨林の保護、安全な水と衛生の確保、などなど。 
しかし、豊かな半分はなぜか、10%の金利で5年間の融資を受けながら、これらすべてを実行せよと迫るのです! 

問題は、世界最高の目標にあるのではない。目標は手の届くところにあります。しかしそれは、十分な融資があればの話です。問題は、グローバルな連帯感の欠如なのです。 

貧しい国々が必要としているのは、もうちょっと多くの資金であり、4%の30年ローンです。10%以上の5年ローンでは辛い。   
単純に、有り体に言えば、貧しい国々は、グローバルな金融アパルトヘイトの終焉を求めているのです。 

低開発ゆえのリスクを減らす二つの方法

そのためには、2つの重要な方法があります。 
第一は、世界銀行と地域開発銀行(アフリカ開発銀行など)による融資を5倍程度に拡大することです。 
これらの銀行は、30年、4%程度で借りることができ、その有利な条件で貧しい国々に融資することができます。 
しかし、その規模はあまりにも小さい。 
世銀と地域開銀が規模を拡大するためには、G20諸国(米国、中国、EUを含む)が多国籍銀行に多くの資本を投入する必要があります。

第二の方法は、貸出条件の緩和です。信用格付けシステム、IMFの債務助言、借入国の財務管理システムの貧困国向け修正などがそれに該当します。 これらのシステムは、長期的な持続可能な開発に向けて再構築される必要があります。 
もし貧しい国々が5年ではなく30年の借金を可能にすれば、その間に金融危機に直面することはないでしょう。
より正確な信用格付けとIMFのより良いアドバイスに裏打ちされた適切な長期借入戦略が設定されれば、貧しい国々はより有利な条件でより多くの資金を利用できるようになるでしょう。 

主要国は今年、世界金融に関する会議を4回開催する予定です。6月にパリ、9月にデリー、9月に国連、そして11月にドバイで。 

大国が力を合わせれば、解決できます。終わりのない、破壊的で、悲惨な戦争をするよりも、そちらのほうが彼らの本当の仕事のはずです。  

了 (訳と中見出し SS)

グーグルで “対ロ制裁 失敗” と入れて検索してみた。
google

画面がこれ。全部は到底表現できないので、以下コピペで並べてみる。


対ロシア経済制裁の失敗を認めよ | フォーリン・アフェアーズ
「対ロシア経済制裁の失敗を認めよ」という題名からして厳しい。内容は有料だが、紹介文が読める。

<まえがき>
「ロシアに政策変更を強いる」という、経済制裁の最大の目的に照らせば、制裁は完全に失敗に終わっている。モスクワはウクライナから手を引いていないし、近く手を引くとも思えない。むしろ制裁は、ヨーロッパの経済利益を傷つけ、アメリカの経済利益や地政学的利益にもダメージを与えている。ターゲットを絞った制裁策も、結局は、ロシアのエリート層よりも、民衆を追い込んでいる。このために、「自分たちの暮らしが大変になったのは欧米諸国のせいだ」と考える市民たちは、プーチンを支持し、社会的連帯を強めている。ウクライナ危機を解決し、ロシアの無謀な行動を抑止したいのなら、欧米の指導者たちは、効果のない制裁中心のアプローチを捨てて、むしろウクライナ経済の支援や、ロシア軍の近代化阻止、ヨーロッパのロシアエネルギーへの依存率を低下させるための措置をとるべきだろう。

<対ロ経済制裁は失敗だった>
2014年3月に、ロシアがクリミアを自国に編入すると、オバマ政権は、いまや主流となりつつある対抗策、つまり、包括的な経済制裁ではなく、ターゲットを絞った限定的な経済制裁策を発動した。ワシントンは、ウラジーミル・プーチン大統領の取り巻きを中心とする、100人超のロシア人の資産を凍結するとともに、彼らのアメリカ入国を禁止した。その後、欧州連合(EU)は、制裁の対象者をさらに約100人追加した。
金額にすると、制裁はかなりのコストをロシアに強いている。プーチン政権に近いロシア銀行は、制裁発動後数カ月で5億7200万ドルの資産を凍結された。2014年7月にマレーシア航空17便がウクライナ東部で、ロシアが支援する武装勢力によって撃墜されると、ワシントンは、製造業、銀行、国営企業など、ロシア経済の主要部門を対象にさらに厳格な制裁を課した。これによって、ロシアの歳入の半分以上を占める石油・天然ガス会社への投資や技術移転は実質的に不可能になり、モスクワにとっては大きな痛手となった。
現在のロシア経済の窮状を考えると、これらの制裁はかなりの効果があるようにも思える。実際、制裁開始以降、ルーブルの価値は対ドルで76%も低下し、2015年だけでも消費財の価格は16%上昇している。国際通貨基金(IMF)は、2015年のロシア経済は3%超のマイナス成長だったとの見方を示している。
だが現実には、欧米の政策当局は運が良かっただけだ。制裁は、世界的な原油安と重なったからこそ、ロシア経済の苦境に追い打ちをかけることができた。制裁が経済的苦境を作り出したわけではない。ルーブル安も、制裁ではなく原油安の副産物だった。

紹介ここまで これで雰囲気は十分味わえる。
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対ロシア制裁がほとんど成果を生んでいない理由
Forbes JAPAN Mar 5, 2023

こちらは短いが全文が読める。ここでは要約のみ紹介する。
西側諸国が導入した一連の経済制裁は、ほとんど効果を上げていない。むしろ、逆効果を生んでさえいる。制裁が何の助けにもなっていないのは極めて無念なことだ。制裁の目的はロシア経済に打撃を与えることではなく、プーチン政権の考えを変えさせることだ。問題は、制裁が課せられると、国民は国への忠誠心が強まることだ。プーチン大統領の支持率は、2023年1月時点で82%となっている。また、ロシアの主要な貿易品目である原油の輸出は若干減っているが、1日当たり1000万バレルを超えている。制裁の目的が単に罰を与えるであれば、効果はある。しかし、ロシア政府に戦争をやめさせることに関しては効果はない。

対ロシア制裁は失敗なのか 2022年08月19日
大和総研
Aug 19, 2022 — 西側諸国による対ロ制裁は、主にロシアの内需に影響を与えている。 ... 
Forbes とほぼ同様の評価


対ロシア制裁、まだ効かないのはなぜ
Wall Street Journal
Jun 17, 2022 — プーチン氏は、西側が仕掛けた経済の電撃戦は失敗したと主張し、制裁の経済的影響を小さく見せようとしている。だが短期的な危機を回避できたのは ...

EUの対ロシア制裁は失敗、新たな戦略必要=ハンガリー首相
Reuters
Jul 24, 2022 — 7月23日、ハンガリーのオルバン首相(写真)は、EUの対ロシア制裁は効果が出ておらず、新たな戦略が必要との考えを示した。

対ロシア制裁は失敗か
nikkei.com
Jul 29, 2022 — 対ロシア制裁は失敗かロシアがパイプラインを通じた天然ガスの供給を減らし、欧州への締め付けを強めています。欧州はウクライナに侵攻したロシアへの ...

限界浮き彫り 抑止効果薄く、戦火やまず―ウクライナ侵攻1年
時事通信
Feb 20, 2023 — 対ロ制裁、限界浮き彫り 抑止効果薄く、戦火やまず―ウクライナ侵攻1年 ... たった一連の対ロシア制裁は、期待通りの効果を発揮したとは言い難い。

対ロシア制裁は失敗なのか
Policy Commons
西側諸国による対ロ制裁は、主にロシアの内需に影響を与えている。ハイテク品などの 輸出規制で、資本財を輸入に依存する製造業が落ち込んでいるほか、前年比二桁のイン ...

米、対ロ制裁を拡大 個人・団体300超を追加
朝日新聞デジタル
May 20, 2023 — 米政府は19日、ロシアによる「制裁逃れ」などを支援しているとして、20カ国以上にまたがる300を超える個人と団体を、対ロシア制裁の対象に新た ...

「制裁は必ず失敗する」 習氏、プーチン氏に
産経ニュース
Dec 30, 2022 — 習氏は「封じ込めや抑圧は人々の支持を得られず、制裁や干渉は必ず失敗する」と述べ、対露制裁を行う米欧などを牽制(けんせい)した。習氏は、中露 ...

次画面

ロシアへの「経済制裁」効いているのかいないのか
Toyo Keizai
ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始してから、4カ月以上が経過した。プーチン大統領の当初の目論見とは裏腹に、彼がいう「特別軍事作戦」は、ロシア軍の総力を挙げた ...

ウクライナ情勢に係る各国・地域の見方 | 特集 - ビジネス短信
ジェトロ
ロシアのウクライナ軍事侵攻に対し、西側諸国は過去最大の対ロ制裁を発動。 ... 官、台湾への「曖昧戦略」維持を明言、ロシアのウクライナ侵攻は「戦略的失敗」(台湾、 ...

EUの対ロシア制裁 ダイヤモンドはなぜ対象外?制裁に限界も?
NHK
Jan 30, 2023 — 制裁を“科すことができない”のはダイヤモンドだけ? ほかにもあるようです。 ベルギー選出のヨーロッパ議会議員、ファンブレムプト議員が挙げたのは一部の ...

なぜアジアでは意見が分かれているのか ウクライナ侵攻
BBC
Mar 11, 2022 — 【解説】 対ロシア制裁、なぜアジアでは意見が分かれているのか ... ウクライナ侵攻を開始してから2週間で、ロシアは世界最多の経済制裁を科される国 ...

世界への影響力を保つロシアの原子力産業:なぜ欧州は制裁 ...
Sasakawa Peace Foundation
May 24, 2023 — これに対し、ドイツのハベック経済・気候保護相は2023年4月、対ロシア制裁の中で原子力産業がまだ優遇されているという事実は正当化できないと述べ、EUの ...

対ロシア制裁 1万件突破 経済戦争は限界か 「次の一手」は
毎日新聞
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Jun 24, 2022 — ロシアに対する経済制裁が1万件を突破した。しかし、ウクライナ侵攻が収束する気配はない。プーチン露大統領は「制裁は失敗した」と言い切る。

国問研戦略コメント(2022-10) 長期化するウクライナ戦争
日本国際問題研究所
Aug 12, 2022 — 1 ロシアによるウクライナ侵略と西側諸国による対ロシア経済制裁の発動 ... キーウ攻略に失敗したロシア軍はその後東部ドンバス地域に戦力を集中 ...

対ロシア経済制裁の効果は限定的か - 一般財団法人 ...
国際貿易投資研究所
May 16, 2022 — 英国のエネルギー調査機関WoodMackenzieによれば、中国の石油精製業者は、あまり多くのロシア産原油を引き取ることができないという。具体的には、制裁 ...

対露制裁 - 。今日の最新ニュースと主な出来事。
スプートニク日本ニュース
対露制裁: プーチン大統領は制裁があるにもかかわらず、ロシアに数十億ドルの投資を誘致=米軍元諜報員, ロシアは ... G7の対露制裁強化は西側諸国の失敗の証=英紙.


対ロシア制裁が失敗に終わる理由 米誌「ナショナル・インタレスト」
スプートニク日本ニュース
Dec 25, 2022 — 制裁はウクライナ紛争を終結できないだけでなく、世界経済に多くの悪影響をもたらしている。米誌「ナショナル・インタレスト」コラムニストのマリア・ ...

ロシア制裁
arabnews.jp
岸田首相、対ロ追加制裁を発表=個人140人の資産凍結. 05 May 2022 ... 対ロ追加制裁を検討=G7首脳と週内協議へ―バイデン米大統領. 04 May 2022 ...

対ロシア経済制裁が「勝利の方程式」になる条件:侵略終結 ...
新潮社 Foresight(フォーサイト)
Apr 18, 2022 — EU(欧州連合)はロシア政府・企業が資金調達できないよう、格付機関に対し、格付けの撤回を求めていた。今後、主要格付機関による正式なデフォルト認定は ...

林外務大臣会見記録|外務省
Ministry of Foreign Affairs of Japan
Apr 19, 2022 — ウクライナ情勢(対露経済制裁) ... 経済制裁について、ロシアの状況が安定していると言って、経済制裁は失敗しているという認識を示しました。

EUの対ロシア制裁は失敗、新たな戦略必要=ハンガリー首相
Twitter
4:45 AM · Jul 25, 2022.

国際経済フォーラムで強気姿勢を崩さなかったプーチン大統領
Nomura Research Institute
Jun 20, 2022 — 先進国の対ロ制裁は失敗と主張. ロシアのプーチン大統領は17日、北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで、先進国による「対ロ制裁 ...

プーチン大統領「経済制裁は失敗した」は本当か? エコノミスト ...
J-CAST ニュース
Apr 19, 2022 — 資源の争奪が招く「地政学リスク」の高まり懸念 · 中国がロシアへの経済制裁の「抜け穴」に? · 将来、経済制裁に不満な国々がタッグを組む可能性 · 対ロシア ...

中国標的のEU対ロ制裁案、ドイツなどが慎重姿勢=外交筋
Yahoo! JAPAN 2022年5月
[ブリュッセル 11日 ロイター] - 欧州連合(EU)の加盟27カ国は10日、ロシアのウクライナ侵攻に関連して中国に制裁を科す欧州委員会の提案について協議した ...

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まだまだ続くのだが、傾向を見るにはこの程度で十分だ。

最大の特徴は商業メディアは、「制裁、失敗」を禁句としていることである。これに対し大企業のシンクタンクは、ごく初期の段階から「制裁、失敗」の評価を明らかにしている。もちろん決して主流というほどに多くはないし、慎重に“?”マークを付けているものも多い。

これらの発言は、去年4月に制裁を発動して、早くも1ヶ月後に打ち出されている。そもそも西側のウクライナ戦略は軍事支援+経済制裁の二本柱によって成り立っていた。しかも経済制裁の効果は即効性で、1,2ヶ月以内にロシアは音を上げるだろうと見られていた。

とすればその後今日に至るまでの1年間は何だったのか、その意味が問われる。とくに昨年暮れ以降は、軍事的にも良くてそこそこ、悪い予想では総崩れ寸前ということになった。

現在は大規模な軍事支援によってかろうじて戦線は維持されているが、それがいつまでも持つ訳はない。

最近のダム破壊など、どう考えてもウクライナ側の仕事と思われるが、以前の原発攻撃と言い、このような自爆攻撃戦術は、軍事組織としての末期症状だ。

とにかく人道的立場から見ても、一刻も早く停戦に持ち込むべきだ。いたずらに人名・資源を浪費することは許されない。このままではウクライナは向こう20~30年は人も住めない荒れ地になってしまう可能性がある。
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ところで、これらの記事はロシアは我慢できるだろう。だから制裁は成功しないだろうという筋書きになっている。それ自体は正しいのだが、実際にはロシアのやせ我慢だけで話が済むわけではない。
制裁はそのようなレベルのものではなかった。ロシアの息の根が止まってもおかしくないほどの全面的なものだった。
それを耐えることが出来たのはたんなるやせ我慢、「欲しがりません勝つまでは」の精神主義だけではなかった。個別には中国の金融支援、人民元のグローバルサウスへの普及、ブリックスが制裁への防波堤となったこと、インドのロシア産石油への関与、トルコ経由の地下交易ルートなど諸要因が絡んでいる。
そのあたりまで深く分析した報告は、グーグルからは浮かび上がってこない。読者の皆さんは是非、AALAニューズからその辺の情報を汲み取っていただきたいと願う。

Counterpunch
MAY 24, 2023
安定どころではないイスラエル
BY LAWRENCE DAVIDSON


リード
今こそ真剣に問うべき時だ。
シオニズム国家「イスラエル」はどこまで安定しているのか?
イスラエルのユダヤ人社会は、深く根ざした分裂(virtue of deeply rooted divisions)によって、本質的に不安定な社会を構成しているのではないだろうか?
その分裂の根は、和解できないほど深いのではないか?


司法の危機とアシュケナージの反乱

ロイド・グリーンが『デイリー・ビースト』誌に寄稿した記事にはこう書かれている。
「数十年来の2つの集団間の恨みは、今や非妥協的な戦いへと姿を変えている。第一世代のユダヤ教原理主義への反感が、近代的なヘブライ語を話す大都会で展開されている」
jew

欧米では、イスラエルが「パレスチナ人の手による絶滅」の脅威を常に強調してきたため、もうひとつの動乱の可能性に長い間気づかなかった。シオニストが振りまいてきたこのような「幻想」は、イスラエルの内部問題に直面することを先送りさせてきた。(いわゆる「騎兵隊伝説」)
しかしいま、シオニストがパレスチナ人からすべてを奪い取ろうと決意したために、真実のもとにさらされつつある。
これまでのフェーク宣伝のツケを払う時が来たとも言える。

現在のシオニスト右翼連合は、ガザ住民と敵対し、彼らを攻撃することでシオニスト内部の対立を遅らせようとしている。しかしそれにもかかわらず、このような内的問題が加速度的に表出したのである。シオニズム政治の崩壊の瞬間は、もう間近なのかもしれない。 

きっかけは世俗的な上流階級を形成する数万人のアシュケナージ系ユダヤ人がイスラエルの街頭で抗議するようになったことである。それは右翼政権が国の裁判所、特に最高裁判所の独立性を破壊しようとしたことに端を発している。

彼らアシュケナージは、司法反動の動きが大規模な抗議行動に値すると受け取った。ユダヤ系イスラエル(Jewish Israel)文化の伝統として、「司法は国家である」と考えられてきたからだ。
これまで裁判所は、世俗社会の防波堤とみなされてきた。その防波堤を破壊すれば、ユダヤ系イスラエル人の市民的自由は、原理主義的な宗教圧力に対して脆弱になってしまう。

司法が守ってきたイスラエルの法治主義

(1)ユダヤ人とは誰か?

ここでは、裁判の判決がリベラルな影響を与えた問題を紹介する。

裁判所は、保守派と改革派のユダヤ教を合法的なユダヤ教徒と認め、その支援の下で行われた改宗を合法とした。このうち後者は、米国最大のユダヤ教グループを形成している。

ユダヤ人の定義(Wikiより)元々はユダヤ教を信仰する人々。近代以降ではユダヤ教徒の家系に生まれた人々に拡大解釈。このためカール・マルクスなど無神論者も「ユダヤ人」とみなされる。ナチはユダヤを「出生と血統により決定される人種」と定義した。とくに血統の非ユダヤ性を求める基準は厳しさを増した。イスラエル国内にすむ非ユダヤ教徒は、Israeli(イスラエル人)である。

一方イスラエル国内においては超正統派(Haredim)が、影響力を保持している。
彼らは自分たちのユダヤ教が唯一の合法的な形態であると主張している。そして改革派をイスラエル国家の「ユダヤ性」(Jewishness)…すなわち正統派の影響力…に対するあからさまな挑戦と考えている。

(2)ユダヤ教の安息日(土曜日)の位置づけ

安息日にはどのような商業活動が許されるか? お店は開いても良いのか? バスは運行すべきか? バスが運行される場合、そのバス(およびすべての公共輸送)は男女別であるべきか?

(3)超正統派への保護

超正統派の男性は、それ以外の強制的な兵役を免除されるべきか? どこまで公的資金を投入して、超正統派の男性サブグループを支援すべきなのか?
裁判所は、超正統派コミュニティに対する一律の免除に反対する判決を下すこともある。彼らは兵役にも就かず、国民経済の中で働くこともない(彼らは律法を学ぶだけ)。
このように兵役を免除され、経済的な雇用を避けるための口実を補助されるということについて、世俗派の多くは苦々しく思っている。その一部は超正統派をうじ虫とみなしている。
もちろん、これは話の半分に過ぎない。ハレディムは自分たちだけが「本物の」ユダヤ人だと考えている。だから彼らの権利を維持・拡大するための戦いは、ユダヤ系イスラエル(Jewish Israel)そのものを維持するための戦いとみなされる。

ハレディムにとって、世俗主義を支持する傾向にあるイスラエルの裁判官は "邪悪な裁判官 "であり、その判断は "反ユダヤ的 "である。そして裁判官や、世俗的な生活の優位性を支持する人々は、異端者とみなされる。

リベラル政権の成立と右派大連立

2021年に“いわゆる左派”のベネット・ラピド政権が成立した。右派はその直後から、右派政党との政治同盟を模索し交渉が始まった。
これらの右派諸党の中には世俗的な右派も存在する。その多くは非ヨーロッパ起源の、より伝統的で日和見的なセファルディム系ユダヤ人で構成されている。このセファルディムは、ネタニヤフ首相のリクード党の支持母体の多数を占めている。

セファルディム: 元はイベリア在住のユダヤ教徒をさす。現在では、アラブ・アフリカ・アジアに住むユダヤ人の呼称。非白人であるが故に、アシュケナージよりランクが下と見られている。

右翼との同盟の目的は、「イスラエル国家におけるユダヤ教の排他的性質」を強調する連立政権である。その「体質」は、正統派宗教の信条と両立するものでなければならない。この交渉は成功し、ベンヤミン・ネタニヤフが率いる現連立政権につながった。

この政権は司法の「改革」を通じて、宗教シオニズムを法律で実現しようとする動きをしめした。それは宗教原理主義も怯え、怒る世俗の人々との対立を引き起こした。
彼らには宗教右派の計画を受け入れるくらいなら、この国の経済を停止させるほどの覚悟がある。彼らにはそれが可能であり、決意もあるように思われる。

国民下層のフラストレーション

世俗派の抗議行動は、現在の右翼政権を誕生させるのに貢献した有権者を怒らせている。彼らは「民主的なゲームで勝ったのに、結局いつも部外者である」ことにうんざりしている。

「与党であっても支配者ではない」というフラストレーションは、最近の右派政党による反世俗派デモの高まりに繋がっている。
こうして、イスラエル国内ではユダヤ人のあいだの出自や経済の相違が表面化し、一種の人種・宗教対立的な環境になっている。

これらすべては、アイザック・ヘルツォグ大統領をパニックに陥れるのに十分なほど深刻だった。

ヘルツォークは3月中旬に、司法改革に関する妥協案を提出した。しかしそれはネタニヤフ首相と右派政権に拒否された。
その後、ヘルツォークはこのように警告した。
イスラエルは深刻な危機の渦中にある。人間の命に関わる本当の内戦が、絶対に到達しない危機ラインだと考えている人が少なくないが、彼らは何も分かっていない。いま奈落の底は、手を伸ばせば届く距離にある。
「内戦」をヘブライ語に訳すと、"兄弟の戦争 "と出てくる。この言葉で「奈落の底」を感じ取ることができる。
友愛は常にもろいものだ。『Middle East Eye』の記事にあるように、「多くのイスラエル人の友愛感情は今や失われ、公然と憎しみ、軽蔑、そして恐怖に取って代わられる」


ネタニヤフ演説の意味するもの

このような不安定な状況は、イスラエル経済を蝕まずにはいられない。為替市場におけるシケルの価値を下げ、国の信用格付けを下げ、不動産価値の下落を引き起こし、イスラエルの株式市場を不安に陥れる。すでに銀行預金や企業の海外逃亡の兆候も出ている。

さらに悪いことに、常に軍事的脅威にさらされているこの国で、いま予備役軍の一部が政府の行動によって決定的に疎外されている。
彼らは新体制の政策に異議を唱え、この体制の下では勤務は出来ないと言って脅している。予備役の一部からの抗議はネタニヤフ首相を大パニックに陥らせた。

2023年3月28日の国民への演説で、彼はこう宣言した、 
イスラエル国家は自衛軍なしでは存在できない。自衛軍は兵役拒否が拡大すれば維持できない。...兵役拒否は我が国の終焉である。
したがって、私は、治安当局と軍の幹部が、兵役拒否容認の風潮に強力に反対し、それを受け入れず、封じ込め、止めを刺すようもとめる。
演説の終わりに、ネタニヤフ首相は妥協の見込みについて語ることを避け、対話というかなり空虚な概念に置き換えた。

"私は首相として、対話のための時間を取る"
その直後、次のような宣言がなされた。
私たちは、司法制度に必要な変更を加える必要性を主張する。私たちの道は公正である。
今日、司法制度の民主的改革が緊急に必要だ。国民の大多数がそれを認めている。
私たちは、国民から自由な選択を奪うことを誰にも許さない。私たちが選挙を通じて選ばれた道をあきらめることは決してない。
では一体、何を対話すべきなのか?


戦争という陽動作戦

古い格言にこんなものがある。 「内部問題が解決できなくなったら、戦争を始めよ。そうすれば国は統一を強要させられる」
ネタニヤフ首相と彼の右翼連合は、まさにこれを行おうとした。
パレスチナ人はイスラエル人にとっていつでも利用できる鞭のような存在である。取るべき道は単純で明白であった。驚くべきは、マスコミがこの策略に気づいていないふりをしていることだ。
戦争による陽動という命題をググってみると、この作戦を最もよく認識しているのは、左派の「アウトサイダー」サイトである。

(1) World Socialist Website:イスラエル政府によるパレスチナ人の挑発に関する記事。
ネタニヤフ首相がガザでの軍事作戦を開始したとき、間違いなく計算していた。野党の指導者たちは従順に一列に並ぶだろうということを... 
彼らはパレスチナ人への抑圧に関連して、ネタニヤフ首相や極右勢力との結束を証明した。
(2) イスラエルとパレスチナの共同ウェブサイト +972

ユダヤ系イスラエル人が再び共通項を中心に集まるのは時間の問題であった。彼ら全員が共鳴できるできるもの、ガザでのパレスチナ人の虐殺という事件の下に…
それは社会的に崩壊し、政治的に分裂し、経済的に沈没し、外交的にもつれ合う人々の唯一の結合の道だ。
(3) リベラルなイスラエルのニュースサイトHaaretzは、最近、間近に迫った予算案の採決に懸念を表明している。主要な理由は、大量の政府資源を超正統派宗教団体に移転させるというものだ。同紙は、デモの再開を呼びかけている。
ネタニヤフ政権の目くらましやひねり技に屈してはいけない。 抗議は続けられ、さらに激化されなければならない。

外部の脅威に注意をそらすこの作戦の問題点は、現在の状況では通用しなくなっていることである。
そのひとつの理由は、パレスチナの「脅威」がいつもながらのものと見なされているからである。
さらに重要なことは、“パレスチナの脅威”とは関係なく、ネタニヤフの連立パートナーが、宗教政党としての要求を新法という形で容赦なく押し付けてくることである。

このような状況では、宗教政党と世俗政党の矛盾はすぐに限界に達する。
想定される新法は、イスラエルの世俗文化を脅かす。それと同時に、それなしに右派連立政権は支えられない。
この宗教新法の成立期限が迫っている。場合によっては別の組み合わせの "兄弟戦争 "となる可能性もある。

2016年当時、元モサド長官のタミール・パルドはこう警告した。
外部の脅威よりも内部の脅威の方がはるかに危険だ。分断された社会は沸点を超えると、極端な話、内戦のような現象に行き着くこともある。

残念なことに、その地点に到達するまでの距離は縮まりつつある。ひょっとするとシオニストは今、そのある地点にまで到達しているのかもしれない。


Lawrence Davidson is a retired professor of history at West Chester University in West Chester, PA.

(訳 SS)






Globetrotter
JUNE 1, 2023

BRICS expansion and a message to the West
サウジのBRICS加入の動きと西側の衝撃


By DNYANESH KAMAT


リード

サウジアラビアがBRICSに参加すれば、地政学的な流れは一層明瞭なものとなる。それは同時に、米国の影響力の低下を思い知らせるものとなる。

NDB-HQ
写真はNDB_新開発銀行本店(上海)のロゴ。旗は左からBrazil、Russia、India、China、Southafrica、そしてサウジ


以下本文

サウジアラビアは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されるBRICSの新開発銀行(以下NDB)への加盟に向けて協議している。リヤドが加盟すれば、それは欧米が独占している国際金融機関に挑戦することになる。このことからサウジの加盟は期待されている。

リヤドへの加盟は、特にグローバル・サウスにおいて新植民地主義的構造の象徴とみなされているG7などの富裕国クラブに対抗するものであることを示している。
サウジアラビアの資金力は、多国間資金調達においてより重要な役割を果たすことになる。これは、ワシントンに支配されない代替的な金融構造を作ろうというグループの計画と一致する。

国際通貨基金(IMF)と世界銀行は、その意思決定において構造的にグローバル・サウスの意見を反映せず、欧米諸国の政策目標と密接に連携している。このことはしばしば批評家から指摘されている。
その意味で、サウジアラビアがBRICSに加盟することは、一つのメッセージとなる。すなわち、BRICSはグローバル・ガバナンスと資金調達における代替構造の構築を模索する可能性があるということだ。

今年のG7では、インド、ブラジル、アフリカ連合、ベトナム、インドネシア、韓国がオブザーバーとして招聘されたことからも、欧米諸国はこのことに注目しているようだ。


先進国のダブル・スタンダードに反感

サウジアラビアは、現在のBRICSメンバーと同様に、ロシア・ウクライナ紛争について中立の立場をとっている。その背景には、BRICS諸国が国境と主権の神聖さに関する第二次世界大戦後の国際的合意にほぼ同調している一方で、戦後体制の原理に対する欧米の矛盾した態度に不満を共有していることがある。
20年前、ブッシュ大統領はイラク侵攻を決行した。そのとき、数十万人のイラク人が何の理由もなく殺害された。それは、欧米の偽善を痛感させるものである。

BRICS加盟国が戦後の国際原則の解釈で欧米諸国と大きく異なるのところがある。それは内政不干渉の原則である。彼らは皆、大きく異なる体制の下で活動し、互いの内政にコメントすることはない。政治的には、それがBRICSをまとめる接着剤となっている。

サウジアラビアがBRICSに参加すれば、西側支配からの離脱という地政学的な流れはより確固なものになる。それは同時に、ワシントンの影響力の激減を思い知らされる出来事となるだろう。

サウジ政府幹部の発言

昨年、バイデン大統領がサウジアラビアを訪れ、世界のエネルギー価格の高騰を抑えるために石油の増産を説得した。それはロシア経済制裁の効果を上げるためでもある。
しかしサウジは増産の要請とは逆の行動(減産)を取った。その決定は、間違いなくロシアのプーチン大統領にとって有利なものだった。リヤドは経済的な根拠に基づいて減産を正当化したが、誰もその言葉を信じはしなかった。それはロシアや中国に対するワシントンの攻撃的姿勢に納得せず、そこから距離を置こうとするものと受け止められた。

今年の世界経済フォーラムで、サウジアラビアのモハメド・アルジャダーン財務相は次のように述べた。
サウジアラビアの海外への資金援助は、今後、紐付きで行うことになるだろう。すなわち受益国の経済改革と連動させるという条件だ。サウジアラビアのBRICS加盟は、BRICSが世界の金融環境の再構築を目指す流れの中で、サウジアラビアに席を提供することになる。
サウジは国内的には、経済の多様化を計画している。すなわち課税基盤を拡大し、過剰に寛大な公共部門を縮小することである。そうした時期に、BRICSに加盟することは、責任ある慎重な外部資金調達の新しいアプローチを示す場となる。
中国は、サウジのBRICS招致を後押しする役割を果たした。サウジは3月、中国を中心とする上海協力機構(SCO)に対話相手(dialogue partner)として参加した。そして人民元での石油関連取引について積極的に協議した。 
サウジアラビアの加盟は、他のBRICS諸国の反対を招くことはない。アメリカは世界支配のためにドル金融システムを繰り返し武器化してきた。それに対する保険として、脱ドル構想に反対する国はないだろう。
(名文句なので、原文を示します。None would be averse to de-dollarization initiatives as a form of insurance against repeated American weaponization of the global dollar-dominated financial system.)

3月にNDBの総裁に就任したディルマ・ルセフ(前ブラジル大統領)は、NDBの今後の戦略として、現地通貨建てでの資金調達を強調した。それは国内市場を育成し、為替変動から借り手を保護する戦略に沿ったものである。


BRICSS拡大へのハードル

BRICSへの加盟に関心を示す国が増えている。それに伴い、加盟国には様々な課題が発生する。

第一に、NDBが欧米の対ロシア制裁に対抗できるのは、少なくとも10年後である。
NDBは投資家の懸念を払拭するため、2022年3月にロシアへの金融関与を停止した。また同国での新規プロジェクトへの融資も停止している。

第二に、BRICSの間には、中国とインドをはじめとする領土的な対立があり、それがグループの足かせになっていく可能性がある。

第三に、インドを除く他のBRICS諸国には、2009年のグループ発足時のようなバラ色の経済見通しがないことである。

第四に、NDBは投資額という点ではそれほど多くはない。2015年以降、NDBは約330億米ドルの約96のプロジェクトに資金を提供したが、これに対して世界銀行は2022年6月までの1年間に約670億米ドルの資金を提供した。

第五に、加盟国は互いにはるかな距離で隔てられており、政治体制も異なり、貿易面でも完全に補完し合っておらず、地政学的な姿勢も完全に一致していない。 

最後に、経済規模という問題でも、加盟国間で基準の相違がある。

これらの問題を解決しない限り、BRICSは、拡大するにつれて自らの矛盾の重さに耐えかねて崩壊するかもしれない。
しかし世界は、こうした動きを興味深く、あるいは恐る恐る見守っている。というのも、BRICSの拡大の可能性は、欧米諸国にとっては次のようなメッセージとして解釈されるからだ。

欧米諸国が、国際的な地政学的秩序やグローバルな金融システムを提唱しながら、システムの原則と解釈を独占し続けることはできない。


DNYANESH KAMAT
Dnyanesh Kamat is a political analyst who focuses on the Middle East and South Asia. 



Globetrotter
May 11, 2023

タリバンVSイスラム国、アフガニスタンの未来を賭けた戦い

The Taliban and the Islamic State Continue to Fight for Afghanistan’s Future


by John P. Ruehl


リード
タリバンがアフガニスタンを指導する能力には疑問が残り、不安定な状況が続いている。それはイスラム国が勢力を拡大する機会となっている。

以下本文

タリバンとISの血塗られた関係

2023年4月25日、米国当局は、タリバンがアフガニスタンで活動する「イスラム国」(IS)の司令官を殺害したことを確認した。このIS司令官は、アフガニスタンの民間人170人と米軍兵士13人が死亡した2021年のカブール空港襲撃事件の首謀者とされる。この事件は、今年に入ってアフガニスタンでタリバンとISの間で暴力がエスカレートしていることを示すものだ。
2023年3月にはタリバンの複数の高官がISによって殺害されたり、標的にされたりした。逆に1月と2月にはアフガニスタンの複数のIS指導者がタリバンに殺害されている。
afgan

タリバンは、アフガニスタンとパキスタンで活動するパシュトゥーン人中心の緩やかな政治運動で、以前は1996年から2001年までアフガニスタンを支配していた。
2021年の米国の撤退とそれに伴うアフガン政府の崩壊により、タリバンは同国の支配を再確立したが、2014年から同国に存在するISのおかげで、完全な支配を得ることはできないでいる。

当初、タリバンのメンバーの多くは、2013年と2014年にシリアとイラクで領土を掌握し、米欧米軍に挑戦したISの能力を評価していた。
しかし、米国や欧米への敵視、イスラム教の強硬なスンニ派解釈において共通しているにもかかわらず、ISがアフガニスタンの領土に定着し、アフガニスタン人を自らのカルトに引き込むようになってからは、タリバンは反感を抱くようになった。

その後、タリバン勢力はIS駆逐に失敗し、最近になって米国政府との再交渉を模索するようになった。

タリバンの内部的弱点

タリバンにはまた、内部的弱点もあった。彼らはアフガニスタン東部で優勢であったサラフィスト派を弾圧し、ハナフィ派を支持した。このような状況下で、ISの持つサラフィー主義的傾向は、この地域の多くの人にとって魅力的なものだった。

また、パキスタンとアフガニスタンのタリバン指導部には深刻な対立があり、ISはこれを利用してメンバーを引き抜くことを積極的に行なった。2014年にはタリバン幹部数人がISに忠誠を移した。さらに地域の小規模な過激派グループからの支援も得るようになった。

しかし、ISにとって重要なのは、ISがライバルであるアルカイダから、幻滅したメンバーを仲間に引き込んだことだ。元々、アフガンのISはアルカイダと行動をともにしていた。しかし政策、戦術、リーダーシップに関する意見の相違から、アルカイダは2014年にISを除名した。それ以来、両者はジハード主義運動の覇権を争ってきた。

タリバンとアルカイダの密接な関係は、かえってISの挑戦者意識をより強固にするものとなった。

ISのタリバン対抗意識と「ホラサン」州構想

2015年1月、ISは中央アジアの大部分とインド亜大陸を含む「ホラサン」州を創設する構想を発表した。そしてホラサン州構想が、世界カリフ制の確立を目指す取り組みの一環であることを明らかにした。
ISはタリバンを「民族的・国家的基盤を優先してイスラム教をないがしろにする薄汚い民族主義者」と非難する一方、急速な組織拡大を始めた。

2015年、タリバンとホラサンのイスラム国(IS-K)の衝突が激化する中、タリバンの当時の指導者であるムラ・アクタル・モハマド・マンスールは、ISのアブ・バクル・アル・バグダディに書簡を送った。
マンスールはアフガンにおけるISの組織拡大を断念するよう促し、アフガニスタンでの対米戦争はタリバンが主導すべきと主張した。しかし、ISの指導者を思いとどまらせることはできなかった。

今はなきアフガン政府軍が当初、ISとの戦いを避けてタリバンに集中したことも、ISを助ける結果になった。

しかし、ISがアフガニスタンの安定に対する深刻な脅威となるにつれ、アフガニスタン軍と米国主導の国際軍の双方が、ISに攻撃の焦点を当てるようになった。ISが宗教的少数派を標的にしたことで、アフガニスタンの住民の一部との対立も深まった。

ISの弱体化とタリバンの影響力拡大

当初の勢力拡大にもかかわらず、ISは2015年から2018年にかけて領土を失い、戦闘員を減らした。2019年から2020年にかけては多くの戦闘員と指導者が当局に投降した。

逆にタリバンは影響力を着実に高め、アフガニスタン政府と米国政府を戦争終結のための協議に引き入れた。2020年のドーハ協定では、多国籍軍の撤退スケジュールが示され、捕虜交換で数千人のアフガン兵とタリバン兵が解放された。
このときタリバンは、アフガニスタンでテロ集団が活動するのを防ぐことを約束した。ISはこの合意を非難し、タリバンが "米国の主人 "を喜ばせるためにジハードから逸脱していると非難した。

当時の、シュラフ・ガーニ大統領は、アフガニスタンにおけるISの絶滅を示唆したが、それは失望に終わった。 アフガニスタンは米国の離脱による権力の空白に飲み込まれた。刑務所から脱走したり、解放されたりした何千人もの囚人によって、逆にISのメンバーは強化された。

ISを持て余すタリバン

2023年現在、アフガニスタンにいるISの推定メンバーは4,000人であり、タリバンの約8万人の兵力とは比較にならない。しかしタリバンが米軍に対して用いたものと同様のゲリラ戦法が功を奏し、一部地方で手ごわい相手となっている。2021年末までに、アフガニスタンISは他のどの国よりも多くの人を殺傷しており、タリバンとISの衝突は頻繁に起こっている。

タリバンにとって、ISがアフガニスタンを不安定にすることは、タリバンがわずかに持つ正統性を完璧に失うことになる。彼らはそのことを恐れている。

タリバンは現在、IS-Kとほぼ単独で戦っており、以前のアフガニスタン政府軍が享受していたハイテク兵器や航空支援もない。タリバンの指導部は分裂に悩まされ、国際的な認知もないままだ。いっぽう、シリアやイラクで敗退したIS-Kにとって、アフガニスタンは数少ない勢力拡大のチャンスだ。それがIS-Kが死にものぐるいになって活動範囲を広げる理由となっている。

タリバンの指導者は自分たちの立場を補強するために、他の政府との関わりを模索している。サウジアラビアとカタールはタリバンに慎重ながら協力している。タリバンと協力した複雑な歴史を持つパキスタンは、タリバンとの対話を続けている。
またタリバンはインド、中国、ロシアにも働きかけを行なっている。アフガニスタンの安定と引き換えに1兆〜3兆ドルといわれる鉱物資源を提供する用意をしている。

タリバンに圧力をかけ、結果を出すのが当面のISの戦略だ。アフガニスタンにいる中国やロシアの人員やインフラがISの標的にされている。
また、タリバンは自国の領土を近隣諸国への攻撃に使わせないとしているが、ISはすでにウズベキスタンとタジキスタンでこの実験を行っている。

タリバンの国際的孤立の理由

タリバンがアルカイダと協力し続けていること、そして女性の自由を弾圧していることが、欧米の協力を思いとどまらせ続けている。

タリバンがアルカイダとの連携を続けていることは、2022年、アルカイダ指導者アイマン・アル・ザワフリがカブールで米軍の無人爆撃機により殺害されたことで明らかになった。タリバンはISやアルカイーダの過激な政策に引きずられている。これを覆すことは、かえって多くの離反を誘発し、ISへ接近することを促しかねない。

欧米の一般市民にとって、20年間戦ってきたタリバンとの和解は難しいことだろう。しかし2021年、すでにマーク・ミルリー統合参謀本部議長はISを倒すためにタリバンと調整する可能性を示唆している。英国の軍トップ、ニック・カーターも同様の意見を述べている。米政府高官も、「タリバンに対する組織的な暴力的反対運動があっても、それを支持しない」と表明している。

アフガニスタン政府はすでに解散した。多くのメンバーはタリバンやISに合流した。タリバンに代わる受け皿となるべき国民抵抗戦線は欠点だらけだ。 
実際のところ、欧米軍が支援できるような実行力のある反対勢力はほとんどない。

しかし、アフガニスタンのISとアルカイダに対処するために、タリバンに目をつぶる米国の「オーバー・ザ・ホライズン」アプローチは、それなりの結果をもたらしている。

たとえば2021年のカブール空港襲撃事件の首謀者を狙った無人爆撃機は、代わりに7人の子どもを含む10人のアフガニスタン市民を殺害する結果となった。
それでも2023年4月にタリバンが犯人を射殺したことで、米国は面目を施した。今後このようなソフトな連携やインフォーマルな外交が促進される可能性はある。

しかし、タリバンは依然としてアルカイダの資金協力に依存しているため、形式的な国際的孤立は長期化する危険性がある。アルカイダのような集団に避難所を提供し、シャリア法の厳格な解釈を促進することも、諸刃の剣となっている。

これらの条件は、タリバンが弱体化し、それがISの組織強化を側面支援し、そのために多くの地域で安全が脅かされ、貧困と基本的なサービスの欠如がさらに助長されるという悪循環をもたらす。
ISは今後もタリバンを軍事的に弱体化させ、その分裂を利用するだろう。そしてアフガニスタンが20年ぶりに取り戻した平和と安定をふたたび破壊しょうとするだろう。

もはや後戻りはできない

アフガニスタンは1970年代以降の不安定な状況が現在も続いており、地域の懸念、大国の対立、イデオロギーの衝突の温床となり続けている。ほとんどの外国政府はISをより大きな脅威と見なしているが、それだけでは不十分だ。だいじなのはタリバンが脆弱な孤立を解消し、アフガニスタンの平和と安定を実現することをおいて他にない。


面白いことを発見した。
「脳とコンピュータ 類似点」と検索窓に入れて検索したら、脳とコンピュータの違いを論じる記事がずらずらとでてくる。中には「“脳=コンピューター”という比喩が、脳科学の発展を妨げている」というまことに露骨な記事まである。
世間では脳とコンピュータは違うと思いたいのだなという感じが、ひしひしと伝わってくる。眺めているうちに気がついたことがある。脳とコンピュータは違うのだと主張する論客の多くがいわゆる脳科学者たちだということだ。このことから脳科学という学問のベクトルが密かにうかがえるような気がして面白かった。
私たちの若かった頃、心理学という学問が一世を風靡した。戦後のアメリカ渡りのニューウェーブだった。頭蓋骨の中を暗箱に見立て、餌を与えたり、迷路を走らせては反応をいろいろ解釈するのである。実験だから結果はきわめて明快に数字としてでてくる。それに推計学の粉をまぶすと何やら有り難いご託宣が吐き出されるという仕掛けだ。
同様な連中が、今は「脳科学者」を名乗って好き勝手なことを喋っている…と私は思っている。そういう脳科学者たちが「脳とコンピュータは違う」論者の中心を占めている。脳が神秘のブラックボックスでないと彼らとしては営業上まずいのだ。

医者は脳の調子が悪い患者を日夜相手にしているから、「どこかに大事なねじがあってそこが緩んでいるのではないか」と疑い、頭の中を覗きたくてウズウズしている。「人間機械論」を書いたドラ・メトリは医者だから気持はよく分かる。もちろん、見ただけで脳とコンピュータが違うことなどわかっている。大事なのはそこではない。どこかコンピュータのような仕掛けで動いているようなところはないのだろうか、どこか脳の働きを知る上でヒントになるようなものはないかと考えるのだ。だから相違点より類似点のほうがはるかに気になるのだ。

心理学が流行した頃、サイバネティクスという言葉も流行った。「心や脳の機能をダイナミックなシステムとして捉えようとしたもの」で、人間の方から仕掛ける類似論だ。こちらは北大時代に講演を聞いて本を買ったりした思い出がある。今回の勉強もそういった発想の延長線上にある。

目下のところ、類似論的探求の最大の成果は、「大脳=外付けメモリ」仮説にある。ということはCPU=視床ということだ。ついでに言えば線条体=DRAMということになる。もっともこれは当てずっぽうで、明日には考えが変わるかも知れない。

相違論者と類似論者が出揃った。それではコンピュータの専門家はどう考えるのだろう。そう思って記事を探しても意外に“論争”への関与は少ない。理由は脳の科学的知識の蓄積が、論争に耐えるレベルではないからである。だから比較しようにも議論が成立しないのだ。
これは当然のことである。「どこか類似しているところはないか?」と探すのは、コンピュータの側からも脳の側からも大いに生産的である。そこに鉱脈があるかも知れない。いっぽうどこが相違しているのかを探すのは、脳をブラックボックスのままにおいておきたい気持ちの現われなので、まったく不生産的である。せいぜいAIの独裁に怯える大衆の不安に答える鎮静剤ほどの役目しかない。そこには何の学問的進歩もない。ただ類似論者の“行き過ぎ”をチェックする機能はあるかも知れない。
コンピュータの専門家にとってはそんな議論はどうでも良いことなので、「勝手にどうぞ」ということだ。


良い絵があったので使わせてもらう。

コンピュータ構成要素」より

nagarez

コンピュータは入力装置出力装置記憶装置演算装置制御装置の 5 つの装置で構成され、「データの流れ」と「制御の流れ」により処理が実行される。

1.演算装置 (ALU : Arithmetic and Logic Unit)

算術演算(四則演算)や論理演算などの計算を行う
2.制御装置 (control unit)

CPU以外の要素・装置が動作するための制御を担う
3.記憶装置 (storage unit)

データやプログラムの保存・記憶を行う。CPU 内部のレジスタとキャッシュメモリ、マザーボード上のメインメモリ(RAM)、マザーボード外のストレージ(外部記憶装置)に分類される。
4.入力装置
コンピュータなどの機器本体にデータや情報、指示などを与えるための装置。一般的には人間が操作して入力を行う装置。キーボードやマウス、タッチパネルなど。
5.出力装置
実行中のプログラムからデータを受け取って、人間に認識できる形で外部に提示する。ディスプレイやプロジェクタ、プリンタ、音声を発するスピーカーなどがこれに該当する。

レジスタの種類
ここまでやる必要はなさそうだが、あとで海馬や古皮質、線条体などの役割を理解する上で必要になるかもしれないので、列挙しておく。

1.アキュムレータ (accumulator)
マイクロプロセッサ内で、論理演算や算術演算の結果を一時的に保持しておくレジスタの一種。「累算器」「積算器」と訳されることもある。
2.プログラム・レジスタ
命令を読み出すために,次の命令が格納されたアドレスを保持する(リンク先の保存?)
3.スタック・ポインタ
サブルーチン呼出し時に,戻り先アドレスなどを格納する(迷子札? まったく意味不明)

命令とアドレッシング

これからが、プログラムの話。刃が立たないのを処置でかじってみて、言葉の意味だけでも味わっておく。

プログラムは,アルゴリズムを複数の命令語で記述したものである。プログラムを実行するということは,プログラムを構成する命令語を 1 つずつ実行することになる。
命令語命令部オペランド部(アドレス部)で構成される。
「何をどうする」という構文となる。命令部では “実行する操作”、オペランド部では “操作対象のアドレス” を指定する。
命令語の実行には6つの実行手順がある。

表 命令実行フェーズ
No.ステージ内容
1命令の取出し
(命令フェッチ)
プログラムカウンタが示すメモリ番地から命令を取出し,命令レジスタへ格納する
2命令デコード命令レジスタの命令を解読する
3実行アドレス計算メモリからデータを採り出す命令の場合,オペランド部から取り出し元のアドレスを計算し,メモリアドレスレジスタへ格納する
4データの取出しメモリまたは汎用レジスタからデータを取り出す
5命令の実行命令部に指定した命令を ALU で実行する
6結果の格納メモリまたはレジスタへ結果を格納する


言葉はちんぷんかんぷんだが、右の列の説明文を読めば、なんとなく感じはつかめる。プロセッシングに関わる以下の記述は省略する。




パソコンの構成…脳幹・大脳関係を念頭に置きながら


パソコンの構成(本体)
パソコン本体

(A) マザーボード(motherboard): 
“母板”という訳語もある。ちなみに母船はmothership。
パソコン本体を構成する、パーツを取りつける基盤。したがって、マザーボードに乗っている一式セットがパソコン本体に相当。これらを取り除くとただの板だが、各パーツの配置設計図、各パーツをラインで結ぶ幹線ネット、各パーツに電源を供給する配電盤としての意味は残る。


マザーボード 1
マザーボード

マザーボード 2

Mother_board_partial_name@ja


マザーボード 3
マザーボード2

(B) CPU(Central Processing Unit)

この説明書では、「CPUはパソコンの頭脳だ」とされるが、それは多分間違いだ。パソコン本体が全体として頭脳だ。では頭脳の中の何に相当するのか?
そしてこの説明書ではそれ以上の説明はない。説明書としては致命的な欠陥だ。

Wikiの説明は、知りたい事を教えず、教えたいことを押し付ける、ありがちな説明の典型だ。IT用語辞典で勉強する。

構造
CPUとは、コンピュータの主要な構成要素の一つだ。現代では一枚のICチップに機能が集積された「マイクロプロセッサ」(MPU)を用いる。
CPUの内部は以下のようなユニットから構成される。
*制御ユニット 命令の解釈や他の回路への動作の指示などを行う。
*演算ユニット(Arithmetic and Logic Unit) 論理演算や算術演算を行う。
*レジスタ CPU内メモリ。データの一時的な記憶を行う。
(現在はRAMとレジスタの間にキャッシュメモリ=SRAMが入る三段ロケット方式となっている。これもCPU本体に実装されている)

*インターフェース回路 外部との通信を行う
つまり最小限の身の回りのことができる「ミニ本体」となっている。
(ただし電源関連ユニットはない)

動作
CPUにはプログラムは含まれない。プログラムはメインメモリ(RAM)に格納されている。
CPUは、まずRAMのプログラムを読み出すことから始まる。次にプログラムから行うべき動作を読み取り決定する。(フェッチ&デコード)→選択した命令を実行する。

最近の流行り
冥土の土産話にもならないので、名前だけ挙げておく。
*SoC(System-on-a-Chip) 必要な機能のほとんどを搭載した一体型CPU
*nビットCPU 一度に処理できるデータのビット数を上げる。最近は64bっとが主流
*クロック信号の頻度アップ CPU稼働の頻度を上げる。現在は2GHzが主流
*ハイパースレッディング 並行して走る回路の分割による有効利用
*マルチコアプロセッサ 一つのCPU内に複数の“命令の解釈・実行”コアを立てることにより、擬似的にマルチプロセッサの効果を生み出す。最近はCore i7方式が主流。




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